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月刊「現代農業」/2017/4/3 18:10
http://www.ruralnet.or.jp/syutyo/2017/201705.htm

「1%取り戻し戦略」で地域は大丈夫だ/——『シリーズ田園回帰』完結に寄せて

 目次
◆買い取った農協店舗で居酒屋を開店
◆「だだもれバケツ」の穴をふさぐ
◆エネルギーの地産地消をすすめるむらと自治体
◆「1%だけ移住」で「関係人口」増を目指す
◆「規模の経済」を超える世界の潮流
◆フランスと日本を比べてみると
◆新しい自治は誇りをもてる「地区」づくりから

買い取った農協店舗で居酒屋を開店

 長野県飯田市郊外、集落の中央にある建物から、にぎやかな酔客の声が漏れている。ここは「七和の里」(龍江四区地域)。軒先には赤ちょうちんが下がり、「よりあい処ほたる」の看板がほのかに浮かび上がる。

 この建物は閉店した農協店舗で、10年前に龍江四区(人口465人、世帯数148戸)の住民有志が資金を出し合い「NPO法人七和の会」を設立、土地と建物を200万円で買い取った。以後、この場所で毎週日曜日に農産物直売所を開いたり、季節ごとにホタル祭りやキノコ祭りを催したりしてきたが、2015年5月のNPOの総会で「居酒屋を開店しよう」と決議した。厨房も含め、改修は住民が自力で行ない、椅子や机、グラス、皿は持ち寄り、電子レンジと冷蔵庫は家庭用を購入した。こうして同年12月、念願の居酒屋「ほたる」開店の運びとなった。

「ほたる」は毎週土曜日の17時から21時の4時間営業している。NPOの役員15人の持ち回りで当番を決め、おつまみのメニューを考え、仕入れから調理、接客まで責任をもつ。来店客数は平均20人、客単価は1500円が目安。売れ残りは持ち帰りになるから真剣勝負だ。

「ほたる」では客寄せも兼ねて、さまざまな特別企画が催される。20年前に東京からIターンした平沢さんが「参流亭べら坊」として自慢の落語を披露すれば、3人組のギターバンド「ほたるスターズ」のステージもある。むらはなかなかのタレント揃いだ。「ほたる」に集まるのは酒好きだけではない。なかには下戸の当番もいて「スイーツデー」を企画し、母ちゃんたちに好評を博している。

 このたび農文協関東甲信越支部長が龍江四区自治会主催の地域づくり講演会に講師として招かれた。仕掛け人は七和の会のメンバーで元農協職員の熊谷秀男さん。『田園回帰1%戦略』など『シリーズ田園回帰』の読者でもある熊谷さんが当会と相談して決めた講演のタイトルは「小さいからこそできること 1%取り戻しで地域は守れる大丈夫」。

 昨年「ほたる」は50日営業して、のべ約1000人が来店、売り上げは約150万円だった。外で飲む飲食代を仮に1世帯当たり年間20万円とすると、地区全体では約3000万円。150万円というおカネは1%どころか5%にあたる。飲食費として地域の外に流れていたおカネが地域内に回る。それだけではない。これまで地域の活動にあまり顔を出さなかった団塊ジュニア世代の夫婦が常連になるなど、居酒屋という「よりあい処」が、地域の人と人とのつながりを強めていく。1%で地域は守れる。5%なら地域はもっと元気になれる。

「だだもれバケツ」の穴をふさぐ

『シリーズ田園回帰』(全8巻)が3月末発行の『世界の田園回帰——11カ国の動向と日本の展望』で完結した。思えば3年前の2014年5月、いわゆる増田レポートが「消滅可能性都市896」を発表。ただでさえ平成の大合併で活力を失っていた市町村はさらに意気消沈しかねない状況にあった。その一方で、中国地方をフィールドとする研究者たちは、近年若い世代の移住が目立ち始めていること、しかも山間部や島嶼部といった「田舎の田舎」ほどその傾向が強いことに注目していた。

 地方消滅論の反証としてこの「田園回帰」の動きをとらえ、内発的な地域づくりの手がかりとしたい。そして、東京一極集中ではない都市と農村の新しい共生関係を築きたい——そんな願いをこめ、全国町村会の協力のもと『シリーズ田園回帰』はスタートした。

 その第1巻は藤山浩さんの『田園回帰1%戦略——地元に人と仕事を取り戻す』。増田レポートは市町村単位の若年女性の2040年人口データを「消滅可能性」予測の柱にしていたのに対して、この本は小学校区のデータを元に、人口のおよそ1%分の移住者を増やすことで地域は存続できる、として大きな反響を呼んだ。

 たとえば、人口574人、世帯数263戸、高齢化率46・3%の島根県の中山間部の小学校区(先述の龍江四区くらいの地区)の予測でいえば、1年間に20代前半の夫婦、30代前半で子ども一人をもつ夫婦、60代前半の夫婦の3世帯7人分のI・Uターンを増やすことができれば、地域の人口は安定し、小中学校も存続できる。

 その生活を支える1%の所得は地域外に流出しているおカネを1%取り戻すことで得られる。たとえば各世帯のパン代を年間2万5000円とすれば、この地区には売り上げにして約650万円、1軒のパン屋さん(所得に換算して250〜300万円)を支えるだけのパンの需要がある。だが地元にパン屋さんがなければ、650万円はそのまま地域外に流出してしまう。

 パン代だけではない。いま地方では年金や給料、補助金などの形で地域に入ってくるおカネが、穴のあいたバケツのように電気代、医療費、教育費、外食費、通信費などの形でどんどん流れ出ている。

 逆にいえば、なにも地域の外から新しくおカネを獲得してこなくても、地域経済の「だだもれバケツ」の穴を1個ふさげば、地域を循環するおカネはその分だけ増え、定住を支えるだけの所得を生み出すことができるわけだ。

 つまり1%の人口取り戻しを支える1%の所得取り戻し戦略とは、地域経済の「だだもれバケツ」の穴ふさぎにほかならない。そして本誌の姉妹誌『季刊地域』は、パン・ピザ、お酒から、電気・灯油・ガソリンなどの光熱費、道路や水路の普請に至るまで、毎号「だだもれバケツ」の穴をふさぎ、地域自給圏をつくる各地の実践を紹介している。

エネルギーの地産地消をすすめるむらと自治体

 地域経済の「だだもれバケツ」の穴の最たるものは飲食費(酒など購入費や外食費)と燃料費(電気代、灯油・ガソリン代など)であろう。この燃料費の穴をなんとかふさごうと自治会レベルで動きだした地域がある。

 山形県鶴岡市三瀬地区は人口約1600人、500世帯ほどのむら(大字)だが、6年前に森林エネルギーの調査に訪れた三浦秀一さん(東北芸術工科大学教授・『世界の田園回帰』の著者のひとり)に、この地区からエネルギー代として年間3億円、石油代だけで1億円ものおカネが地域外に流出していると聞いて衝撃を受けた。この地域は1000haもの山林を有し、かつてはスギの名産地だったところだ。電気や石油の普及によって薪や炭の利用はすっかり廃れてしまったが、いまでもこの地域の森林は地域の石油消費量に相当するエネルギーを生み出すだけの潜在的資源量をもっているという。

 地域の人たちの森の見方は一変した。木を切り出す人、薪ストーブを復活させる人……それぞれが森とつながる暮らしに向けて動きはじめた。「三瀬の薪研究会」が生まれ、薪の生産も始まった。薪や薪ストーブの製造・販売、直売所や食品加工場の運営、農産加工品の販売にあたる「フォワードさんぜ」という株式会社まで立ちあげた。「地域を活性化させるための会社」だが、地域の同意を取りながら事業を進めるのではいささかスピード感に欠ける。森林の活用を中心に地域課題を解決するさまざまな事業に取り組みつつ、出資金を募り、配当金も渡すことでより多くの人を巻き込んでいく。株式会社という形態をとったのにはそんな狙いがあったという(『季刊地域』24号、29号)。

 エネルギー代の穴ふさぎに自治体全体で取り組み始めたところもある。福岡県みやま市は2015年3月、全国初の自治体が出資する新電力会社「みやまスマートエネルギー株式会社」を設立した。遊休地となっていた市有地に建設した5000kWのメガソーラー施設をメインに、市内の一般家庭の余剰電力なども買い取って、市内の公共施設や民間施設、一般家庭・商店などに供給を始めた。従来、人口約3万8400人(約1万4200世帯)のみやま市は九州電力に約20億円の電気代を支払っており、その多くの部分は電気をつくるために原材料費として海外に流れていっていた。ここで仮に全世帯がみやまスマートエネルギーに切り替えることができれば、年商20億円の企業を誘致したと同じ経済効果がある(『季刊地域』29号)。さらに、みやま市は生ゴミや屎尿・汚泥をメタン発酵させ、液肥化するプラントを建設中で、このプラントからは電気や熱も生産される。

 新電力の公共施設以外への普及はまだまだこれからのようだが、みやま市は「エネルギーの地産地消都市みやま」の構想実現に向けて着実に歩み出している。

「1%だけ移住」で「関係人口」増を目指す

 定住人口の「1%取り戻し戦略」とそれを支える所得の「1%取り戻し戦略」。この1%戦略とはちょっと違う「1%(だけ)移住」戦略を、最近知った。

 全国町村会と(一社)地域活性化センターが主催するシンポジウム「移住女子が拓く都市・農村共生社会」(2017年2月25日開催)でのことだ。パネリストのひとり三成由美さんは島根県奥出雲町の役場職員。名古屋市でインテリアコーディネーターをしていたが、27歳でやめてUターン、地方公務員となった「移住女子」だ。自らの経験と重ね合わせつつ、都会からの移住者を「いつまでいるの?」「本当にここに住み続けるの?」という目で見るのは避けたいという。

 たしかに移住者にとって、最初から定住、ましてや永住を条件にされたらハードルが高い。さりとて単なる観光客のような「交流人口」ではものたりない。その間に位置する人を幅広く獲得することが大切なのではないか。

 三成さんはこれから町を出ていくかもしれない中学校・高校生を前に、あるいはU・Iターンフェアの参加者を前に「最初から移住しようなんて思わなくていいから、1%だけ奥出雲の町民になってください」と語りかけている。相手に「1%くらいなら町民になれるかも」と思わせるのがミソなのだが、考えてみれば365日の1%は約4日間である。年1%町民になるというのはじつは結構な滞在日数なのだ。定住人口でも交流人口でもない「関係人口」を増やす。交通は不便、観光資源にけっして恵まれているとはいえない奥出雲町で三成さんがめざすのはそれだ。

 そこには藤山さんとはまた違う「1%戦略」があり、都市と農山村をつなぐ「移住女子」の活躍の場もそこから生まれてくる。

「規模の経済」を超える世界の潮流

 このような「関係人口」を含めた田園回帰、地域からの人と仕事の取り戻しの動きは、じつは日本だけの動きではなく、世界的な潮流となっている。

 シリーズ最終巻となる『世界の田園回帰』にはフランス、ドイツ、イタリア、英国、オーストリア、ロシアなど11カ国の動向がレポートされている。

 たとえば日本と同じく第二次世界大戦後に農業・農村の衰退が進んだイタリアでは、1980年代後半から有機農業やアグリツーリズモ(グリーンツーリズム)、スローフードやスローシティといった、食と農をベースにし、都市と農村をつなぐイノベーションが精力的に進められている。

 オーストリアでは1970年代に早くも原発廃止に踏み切り、森林エネルギーの利用が徹底して進められている。その主役は農山村地域であり、農家林家や地域住民が行政に頼ることなくバイオマスエネルギープラントを経営し、地元の雇用を増やしている。地域の人々が出資し、収益は地域内に還元され、地域住民の懐を潤す。

『世界の田園回帰』の終章で藤山浩さんはこう述べる。

「20世紀の世界を席巻した『規模の経済』に基づく制度設計では『小さいこと』は、経済のみならず社会や政治においても、非効率で条件不利なものとして排撃され続けてきた。しかし、現在世界で進められている田園回帰においては、むしろ『小さいこと』を積極的に評価し、そこを出発点として新たな社会経済システムを構築しようとしている」

フランスと日本を比べてみると

 フランスでもドイツでもイタリアでも地域の自治を担うのは小さな基礎自治体である。3月号の本欄でも述べたが、フランスの基礎自治体であるコミューンはじつに3万6000を数える。日本の市町村が昭和と平成の大合併で大きくその数を減らしたのに対して、フランスのコミューンの数はフランス革命の時代からほとんど変わらない。フランスの人口は6600万人で日本のほぼ半分であるから、明治の町村制施行当時の村(7万1314)がもし生きながらえていたとしたら、両国の町村の人口規模はほぼ等しいことになる。暮らしの基本となるものごとは、いまも昔も龍江四区ぐらいの小さな地域単位で決められ、住民自身の手で動いていく。

 それでは田園回帰において、フランスのほうが、日本より条件に恵まれているかというと、そうとは限らない。

 たとえばフランスは農地面積が国土の50%を占め、EU諸国のなかではもっとも農地資源に恵まれた国だ。農業食品分野で世界第5位の輸出国でもある。そのフランスでは1980年代から農村人口が増加に転じているが、農業経営体数はEU農政改革にともなう規模拡大によって激減した。農村地域において農業者および農業労働者を世帯主とする世帯は1962年には34%あったが、1999年にはわずか7%。フランスはたしかに農業大国ではあるが、田園回帰しようとしても農業という仕事につくのは難しい社会になってしまったのである。

『世界の田園回帰』では、こうしたなか、林野化したテラス状のブドウ畑を復元し、新規就農のブドウ農家を含め酪農家や蔬菜園芸農家など6人が任意組合をつくり、アグリツーリズムによって地域振興を進めている事例が報告されている。この地域では小さなコミューンが集まってコミューン共同体をつくり、経済振興と農村整備、観光振興、環境保全、家庭ゴミの分別収集、教育文化施設の維持管理などに取り組んでいるが、ブドウ畑の復元を後押ししているのもこのコミューン共同体なのである(以上、フランスについては石井圭一「小さなコミューンが地域自治と田園回帰に果たす大きな役割」『世界の田園回帰』第?部第1章による)。

 ひるがえって日本の現状を考えてみよう。田園回帰を受け入れる余地という意味では、規模拡大が「遅れた」日本のほうがフランスよりむしろ恵まれているのではないか。先進国としては例外的にいまだに首都圏への人口集中が続く日本だが、その一方で農村には小規模・中規模を含む多様な農業経営体が存在し、少量多品目の農産物を受け入れる直売所や産直ルートが整備され、「半農半X」を可能にするような就労機会もある。そのうえ、耕作放棄地も、未利用の観光資源もふんだんにある。

 問題は地域住民や自治体職員が知恵を集めて、「小さいこと」を生かす「社会技術」をいかに発揮するかなのだ。

新しい自治は誇りをもてる「地区」づくりから

 そこから「小さいこと」「小さなところ」から始まる新しい自治のあり方がみえてくる。

『シリーズ田園回帰』の編集顧問は、地方自治論の泰斗で全国町村会「道州制と町村に関する研究会」座長でもある大森彌さんだ。大森さんはシリーズを締めくくる論文のなかで、合併によって線引きがかわる自治体の管轄「区域」に対して、自然と物と人の固有の結びつきである生活の場所としての「地区」のあり方とその活性化こそが「草の根」の自治が息づく土壌となるとしてこう述べる。

「地域政策の肝心の点は、地区住民の納得と参加によって、地区を住民自らが誇りをもてる『暮らし場所』にしていかれるかどうかである。(中略)地区づくりは短期間ではできない。住民の誰もが居場所と場面をもてるように、ゆったりと、しかし、たゆまぬ歩みによる熟成の時間を必要とする」(「田園回帰の意味するもの——共生の思想と地域の自治」『世界の田園回帰』第?部第1章)

 日本の恵まれた条件を生かし、世界の知恵にも学び、「小さいこと」の価値を再発見・再創造する新しい自治を展開するのはいまこれからだ。それは自然と物と人がつながる「暮らし場所」再生に向けた「1%の取り戻し」から始まる。


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