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これは民意の改ざん・捏造(ねつぞう)だ。民主主義を冒涜(ぼうとく)し、破壊させる言語道断の行為である。なぜ起きたのか。警察が徹底捜査するのはもちろん、運動を主導した者も、洗いざらい調査し、真相を解明して責任の所在を明確にしなければならない。 愛知県の大村秀章知事のリコール(解職請求)運動を巡って、提出署名の8割超が無効と判断された問題は、県選挙管理委員会の刑事告発を受け、県警が地方自治法違反の疑いで署名簿の押収など本格的な捜査に乗り出す事態に発展した。 リコール運動は、大村知事が実行委員会会長を務めた国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」がきっかけだ。展示された昭和天皇に関する映像作品などに猛反発した美容外科「高須クリニック」の高須克弥院長らが大村氏の責任を問うため、昨年8月に始めた。 名古屋市の河村たかし市長が支援したほか、運動の事務局長は次期衆院選に立候補を予定していた日本維新の会の支部長(支部長を25日に辞退)。大阪府の吉村洋文知事も「取り組みには賛成だ。応援する」とエールを送っていた。 2カ月の運動期間を経て県内64選管に提出された署名は、リコールの賛否を問う住民投票実施に必要な約86万6千人の半数程度の約43万5千人にとどまった。県選管は2月1日、この署名の83・2%に、同一人物によるものや選挙人名簿に登録されていない人など、不正が疑われるとの調査結果を発表した。さらに、署名が始まった時点で既に亡くなっていた約8千人分の名前も含まれていたというのだから、極めて悪質だ。これほどの大がかりな不正だけに、何らかの組織的な関与があったと見るのは当然だろう。 関係者によると、名古屋市の広告関連会社が、事務局から請け負い、人材紹介会社を通じてアルバイトを雇ったとされる。アルバイトは佐賀市内の貸会議室に集まり、事前に用意された愛知県民の名簿を基に、住所や氏名を書き写した疑いが持たれている。従事した人は、現場の担当者が大村知事を「悪い人」と説明し、業務の内容を口外しないとの誓約書にもサインさせたと証言している。 自治体の首長のリコール請求は、地方自治が民意に基づき行われているか、任期途中であっても住民が監視する権利を保障した制度といえ、地方自治法で規定されている。つまり民主主義の根幹をなす仕組みだ。 不正の発覚を受け、高須氏は「明確に何の関係もない。そう信じている」と関与を否定する。事務局長も「発注も依頼もしていない」と話しているが、広告関連会社は運動事務局幹部の名前が記されたアルバイト募集に関する発注書を県警に提出している。捜査・調査の焦点は、誰が署名偽造を指示したのか、どこから金が支出されたのか、となろう。 アルバイトを雇い、偽の署名を「大量生産」する行為は、地方自治、民主主義を守るための制度を台無しにしてしまう住民への背信行為だ。高須氏はじめ、署名集めの街頭に立った河村市長らは、事態の重大性をもっと深刻に受け止め、自らも積極的に調査し、説明責任を果たすことが求められている。警察任せの頬かむりは決して許されない。
収賄罪で在宅起訴された吉川貴盛元農相と贈賄側の鶏卵生産大手「アキタフーズ」グループの元代表との会食に同席して費用を払わず、国家公務員倫理規程に違反したとして、農林水産省は枝元真徹事務次官ら3人を減給、3人を戒告や訓告の処分にした。会食は2回あり、既に退職した1人分も含め計20万円余りを元代表側が負担した。 規程は許認可などが絡む職務上の利害関係者から物品の贈与や接待を受けてはならないと規定。総務省でも、菅義偉首相の長男が勤める放送事業会社から接待を受けたとして、総務審議官ら計11人が処分され、内閣広報官も厳重注意を受けたばかりだ。行政への信頼が大きく揺らいでいる。 ただ処分は発表したが、農水省は会食の趣旨は幹部らの記憶が定かでなく特定できなかったとし、更迭など人事異動はしない。長年にわたり吉川元農相のほか、元農相で元内閣官房参与の西川公也氏や農水族議員、農水省歴代幹部に食い込んだとされる元代表による接待や働き掛けの実態を解明する上で、肝心の点が抜け落ちた形になった。 贈収賄事件を巡り第三者委員会が調査を進めているとはいえ、吉川元農相の在宅起訴から1カ月以上たっているにもかかわらず、農水省の説明は、お粗末と言うほかない。癒着を解明する気があるのか、首をかしげざるを得ない。 元代表と政官との癒着は底が知れない。元代表は日本養鶏協会の副会長や特別顧問を歴任。安倍政権で農相を務め「農水族の重鎮」とされる西川氏が2017年10月の衆院選で落選すると、アキタ社顧問に迎えた。その時、西川氏は非常勤の国家公務員で農業政策について首相の諮問に答える内閣官房参与だった。 元代表は18年10月〜19年9月に、大臣室などで3回にわたり当時の吉川農相に現金計500万円を渡したとして贈賄罪に問われているが、それ以前にも計1300万円に上る授受があり、西川氏にも18年以降に数百万円を提供したとされる。 この間、農水省にも頻繁に出入りし、幹部らと少なくとも30回面会。家畜を快適な環境で飼育する「アニマルウェルフェア」(AW)の国際基準を巡って、採卵場に「巣箱」や「止まり木」を義務付ける国際機関の案が日本の実情に合わないとして、反対するよう働き掛けを重ねたという。 18年11月に他の業者と大臣室で要望書提出の際には西川氏も同席。その後、農水省は反論を出し、巣箱の義務化などは見送られた。鶏卵価格下落時に生産者の損失を補填(ほてん)する制度も拡充され、業界では元代表の功績といわれている。 今回、処分の対象となった会食は18年10月と19年9月。費用は1人当たり1回につき約2万2千〜2万3千円。19年の会食には西川氏や参院選を巡る大掛かりな買収事件で公選法違反の罪に問われている元法相で衆院議員の河井克行被告も同席した。そうした場でどのようなやりとりがあったのか、徹底的に調べなければならない。 農水省の幹部人事に口を挟んだこともあったという元代表がいかに影響力を強めたか。農政はゆがめられなかったか。第三者委の報告書を待つのではなく、処分された農水省幹部や、元代表と親密な関係にあった西川氏を国会に呼び、詳しい証言を求めるべきだ。
政府は新型コロナウイルス緊急事態宣言を巡り岐阜、愛知、京都、大阪、兵庫、福岡の6府県を今月末で解除すると決めた。残る首都圏4都県は3月7日解除を目指す。 宣言解除は「出口」ではない。ワクチン接種の効果が出るまでの間、感染拡大再燃は何としても阻止しなければならない。むしろこれからが正念場であり、菅義偉首相は先頭に立って国民に理解、協力を求めるべきだ。にもかかわらず官邸玄関で取材対応はしたものの正式な記者会見は開かなかった。首相は説明責任から逃げてはいけない。 6府県は、ほぼ全ての指標で感染状況が最も深刻な「ステージ4(爆発的感染拡大)」を脱している。ただ福岡は病床逼迫の改善が鈍くぎりぎりまで検討が続いた。それでも県側が解除を求め、政府は感染者減少に伴い医療体制も改善していくとして解除対象に加えた。「見切り発車」の感が否めず、再燃しないか警戒が特に求められる。 首都圏4都県は新規感染者が減少傾向だが、他地域より減少スピードが鈍化し医療体制への負荷が高い。中でも千葉は増加に転じる動きも見られた。政府は期限通り3月7日で解除したい意向だが、冷静さが必要だ。あと1週間状況を見極め、必要なら解除先送りの選択も排除すべきでない。 なぜ再燃が怖いのか。それは、感染力が強い変異ウイルスが出現しており、感染大流行の「第4波」の引き金になりかねないからだ。3、4月は卒業、入学、就職、花見など人が多く集まり、交流するイベントが多い。火が付けば一挙に広がりやすい季節を迎えたことをきちんと認識したい。 今また感染者が増加に転じれば医師らが患者治療に取られ、ただでさえ人手が足りないワクチン接種作業にしわ寄せがいく。そうなれば感染収束が遠のく悪循環に陥る。日本医師会の「新規感染者数を徹底的に抑え込み、その状態でワクチン接種を推進し一気に収束までの道筋を付けることが重要」(中川俊男会長)との指摘は的確だ。 政府は、宣言解除後も飲食店に時短営業を引き続き要請し、イベント制限も段階的に緩和していく方針だ。さらには、解除地域での再燃を防ぐため、1日1万件を目標に繁華街などで無症状者対象に無料のPCR検査を実施する。「ようやく」の感もあるが、従来にない「攻め」の検査態勢は前向きに評価したい。 宣言が発令されていた10都府県の繁華街への人出は、特に夜間で既に増加傾向にある。私たちも改めて不要不急の外出は自制したい。卒業旅行、謝恩会、歓送迎会なども控え、宴会を我慢し純粋に花をめでる「コロナ下の花見」に徹しよう。 1年延期された東京五輪は3月25日に聖火リレーが福島県からスタートし、重要なステージを迎える。観客の上限や海外からの観客受け入れ可否の判断もそのころに想定される。感染再燃を抑止することで、五輪・パラリンピック開催に明るい展望をもたらしたい。 首相は首都圏で宣言が続くとして会見を見送った。司会役の山田真貴子内閣広報官が首相の長男らから高額接待を受けた問題の渦中にあり、自身も含め質問攻めに遭うのを避けたと思われても仕方あるまい。首相は昨年末、コロナ対応で「国民に丁寧にコミュニケーションを取る」と明言した。約束を忘れては困る。
新型コロナウイルスの感染拡大で仕事を失うなどした生活困窮者への支援が焦点になる中、菅義偉首相が「最終的には生活保護もある」と発言し、波紋を広げた。 生活保護に陥らないよう支援するのが政府の務めであることは当然だが、そもそも生活保護は首相が前提とする「セーフティーネット(安全網)」の役割を真に果たしているのか。ハードルが高く必要な世帯の一部しか受給できない生活保護の実態を、首相は直視し改善に取り組むべきだ。 生活保護申請は、緊急事態宣言が発令された昨年4月、前年同月に比べ24・8%と急増した。生活費貸し付けなどの支援策でその後は落ち着いたが、宣言再発令でまた急増が懸念されている。 生活保護法は憲法25条の生存権に基づき「国が生活に困窮するすべての国民に対し、最低限度の生活を保障する」と定める。生活保護は国の義務であり、請求する権利が全ての国民にある。 ただ税金で賄われる生活保護を受ける人には、生活再建の努力も求められる。自分の資産、能力を活用した上、「扶養義務者」である親族の援助を受ける手を尽くし、それでも足りない分を受けるのが生活保護制度だ。この「扶養の優先」原則が申請に行きづらくなる要因だと指摘される。 同原則に従い自治体の福祉事務所は、生活保護申請者の配偶者、親子、兄弟姉妹らに援助できないか確認する「扶養照会」を行う。家庭内暴力や、親族が高齢者施設に入居中だったり20年以上音信不通だったりの場合は照会不要とされるが、家族に知られて縁を切られたり迷惑をかけたりしたくないと、申請をためらう人が多いのが実態だ。 困窮者支援団体が東京都内で年末年始に開いた生活相談会や食料配布に来た人たちを調査したところ、生活保護を利用していない人が8割近くを占めた。利用していない人の3人に1人は扶養照会を嫌って未申請だった。また2割以上が申請窓口で暗に追い返されるような経験をしていた。多くの福祉事務所担当者らは、不正受給などで税金が無駄遣いされないよう厳正中立に職務を果たしているに違いない。だが、それが硬直的な制度運用につながり、結果的に、本当に困っている人に生活保護が届かない状況を招いている。 日弁連は、生活保護基準以下の所得で暮らす人のうち生活保護を現に受けている人の割合「捕捉率」が、欧州諸国では5割を超すのに日本は2割程度しかないとして、かねて運用改善を求めてきた。首相や田村憲久厚生労働相は、より弾力的な運用ができるよう扶養照会を不要とするケースを広げる方針を表明したが、コロナによる生活困窮はまさに進行中であり具体化を急ぐべきだ。 コロナ禍での困窮者支援を巡っては、生活に最低限必要なお金を政府が国民に一律に配る「ベーシックインカム」も国内外で議論される。実現性は別にしても、受給することを恥ずかしいとみがちな社会的風潮ゆえに敬遠される生活保護の欠点に光を当てる問題提起としては重要ではないか。 「最終的にある」はずの生活保護がハードルの高さゆえに、現実には頼りにならないとすれば、首相の持論である「自助、共助、公助」の最後のパーツが失われ、目指す社会像の完成が遠のくと指摘しておきたい。
放送行政をゆがめる便宜供与はなかったのか。なぜ接待攻勢をかけたのか。 菅義偉首相の長男、菅正剛氏が勤める放送事業会社「東北新社」側による総務省官僚の接待問題で、国家公務員倫理規程に違反したとして、同省は事務方ナンバー2である総務審議官ら9人を減給などの懲戒処分にした。閣僚給与を自主返納する武田良太総務相は検証委員会を設置し、行政に関わる不正の有無については引き続き調べる方針を示した。だが、国会での「虚偽答弁」批判を受けた身内による不祥事の実態をどこまで明らかにできるか疑念は消えない。 行政監視も担う国会の権威を保つためにも、うその証言が罰せられる証人喚問などを視野に、国会主導で真相を徹底解明すべきだ。 総務省の調査によると、総務審議官だった山田真貴子内閣広報官を含め、計13人が2016年7月から20年12月にかけて、延べ39件の接待を受けた。同省は、倫理規程に違反して利害関係者から接待されたとして懲戒処分にした9人のほか、2人を訓告処分などとする。正剛氏は同省から衛星放送の認可を受けた子会社の役員を兼ねている。 会社側の負担は総額約60万8千円。山田氏は総務省を退職しているため処分対象にならなかったが、19年11月に受けた1回の接待で、支払ってもらった飲食費は約7万4千円に上っていた。山田氏は安倍政権下で首相秘書官を務めた後、総務省に戻り、放送行政を所管する情報流通行政局長に就任。総務審議官を経て、菅政権で特別職の内閣広報官に抜てきされた。正剛氏は菅首相が総務相時代に秘書官を務めており、2人の癒着が疑われてもやむを得ない。 山田氏だけでなく、懲戒処分になった谷脇康彦、吉田真人両総務審議官や秋本芳徳前情報流通行政局長らも菅首相への忖度(そんたく)から接待に応じた疑いが濃厚だ。その忖度の延長線上で、衛星放送認可を巡り東北新社側を「特別扱い」することはなかったか。弁護士を交えているというが、内部調査には限界があろう。 週刊誌が接待会食時のやりとりとする音声を公開するまで「(衛星放送の話題は)記憶にない」と虚偽と受け止められる答弁を続けたのも、調査のずさんさを浮き彫りにしたといえる。「会食時点で利害関係者がいるという認識はなかった」とも弁明しているが、国民の納得は到底得られまい。 正剛氏を「別人格」と言い張っていた菅首相はようやく「長男が関係し、結果として公務員が倫理規程に違反する行為をしたことについては心からおわび申し上げる」と陳謝した。一方で「総務相の下で徹底調査し、事実関係を明らかにしてほしい」との立場は変えていない。 だが、総務省が正剛氏らに加え、首相が重用してきた山田氏や同省幹部への聴取を続けても、通り一遍の結論に終わる可能性がある。与党は野党の要求を受け、山田氏を衆院予算委員会に参考人として出席させる方針で、首相から厳重注意を受けた山田氏は給与の一部を自主返納する。 総務省の人事に影響力を行使してきたとされる菅首相が、こうした対応で収拾を図るなら容認できない。行政の公正さへの疑念が残る以上、証人喚問要求があれば応じるとともに、第三者機関の再調査も検討すべきだ。
政府は少年法改正案を閣議決定し、国会に提出した。20歳未満による全ての事件を家庭裁判所に送致する現在の仕組みは変えず、来年4月から民法上、成人の仲間入りをする18、19歳を「特定少年」と規定。20歳以上と同様に刑事裁判で裁くため家裁から検察官に原則として逆送する対象事件を広げ、18歳未満よりも重い責任を負わせる。 原則逆送の対象は現在、殺人や傷害致死といった「故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪」に限られるが、これに強盗や強制性交、現住建造物等放火など「法定刑の下限が1年以上の懲役・禁錮に当たる罪」を追加。さらに更生を考慮して禁止している実名や顔写真などの報道も起訴された段階で解禁する。 民法で一人前の大人と認められる以上、相応の責任を負わせるべきだという考え方や被害者らの強い処罰感情が背景にある。とはいえ、18、19歳といえば学生も多い。なお成長発達途上にあり、やり直せる存在との見方に異論は少ないだろう。厳罰化を優先し、現行少年法による保護から切り離してしまうことには数多くの疑問がある。 政府は今国会で改正案を成立させ、改正民法との同時施行を目指すとしているが、国会の法案審議では更生・保護と再犯防止という少年法の理念に重きを置き、それに少しでも近づけるため徹底議論する必要がある。 少年法改正を巡る議論は、少年法の適用年齢を20歳未満から18歳未満に引き下げるかどうかなど法相の諮問を受け、2017年3月から法制審議会の部会で始まった。だが引き下げ賛成派と反対派の委員が鋭く対立。3年半たっても結論が出ず、与党プロジェクトチームが昨年7月に引き下げ問題を棚上げし、逆送拡大などで18、19歳の厳罰化を図る案を示した。 早期決着に向けた折衷案の色合いが強いこの案に沿って法制審答申があり、改正案がまとめられた。ただ、このまま成立すれば、多くの若者が少年法のセーフティーネットから締め出される。 例えば、原則逆送の対象に追加される強盗罪はよく「犯情が広い」といわれ、主犯か従犯か、既遂か未遂か、酌むべき事情があるかなどで判決内容に幅がある。15〜18年の20歳と21歳による強盗事件で執行猶予の割合は52.1%。これを18、19歳に当てはめると、多くが家裁の保護処分や、きめ細かい教育的働き掛けの対象にならず、立ち直りのきっかけを失う。 加えて実名がいったん報道されると、インターネット上で拡散され、半永久的に残る。裁判所は起訴された事件でも、保護処分が相当と判断したときは家裁に移送することになるが、起訴段階で実名が出ていれば取り返しがつかない。社会復帰は困難になるだろう。 また改正案は18、19歳を「虞犯(ぐはん)」で家裁送致する対象から外した。交友関係に問題があるといった犯罪ではないものの犯罪につながる恐れもあるのが虞犯で、家裁は調査・保護を行う。除外で犯罪の芽を摘む機会を逃すことにならないかと懸念の声が上がっている。 罪を犯した少年の家庭環境や交友関係を綿密に調査し、少年院送致などの保護処分を決める現行制度が十分機能していることは誰もが認める。それに手を加えるときには立ち直りを妨げないか、慎重の上にも慎重に検討しなければならない。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い発令されていた県独自の緊急事態宣言がきょう、解除された。県内の病床稼働数などが解除基準を下回ったことを踏まえ、県は今週末の28日に迫っていた期限を待たずに、6日間前倒しで解除に踏み切った。発令開始から1カ月余りに及んだ不要不急の外出自粛や飲食店の営業時間短縮など、全ての要請が解除され、県の対策指針も22日、2番目に低い「ステージ2」に引き下げられた。 宣言が一定の効果を示し、県内の感染状況や医療体制の指標が改善を見せたのは、要請に協力してきた「県民の努力のおかげ」(大井川和彦知事)だ。ただ解除に伴い、これまでの反動で「緩み」が生じることも懸念される。感染「第3波」はいまだ収束に至らず、頼みのワクチン接種が県民に行き渡るのはまだ先になりそう。県民には引き続き、3密回避やマスク着用の徹底、テレワーク推進など従来通りの感染対策が求められる。 県独自の緊急事態宣言の発令期間が始まったのは1月18日。当初は2月7日までの予定だったが、医療体制の逼迫(ひっぱく)度合いを見て、同28日まで3週間の延長を決定。それに伴い、解除基準を公表し、全て満たした場合、前倒しで解除する方針を示していた。 解除基準は、1日当たりの新規陽性者数が60人以下▽直近1週間の陽性者が前週より減少▽病床稼働数が185床以下-の各項目。県内の新規陽性者数は2月以降、減少傾向にあり、それに伴い、病床稼働数も徐々に低下し、15日以降、解除基準を下回っていた。県は19日にも宣言解除を発表する予定だったが、同日朝に病床稼働数の増加が見込まれたため、一度は解除を見送ったという。 宣言の前倒し解除については、歓迎する向きも多いだろうが、一方で、慎重な対応を求める声も上がっていた。県医師会の鈴木邦彦会長は19日の定例会見で、「(解除は)国の緊急事態宣言と合わせるのが良いのではないか」と慎重な考えを示していた。 自粛要請解除に伴い今後、飲食店の通常営業再開や、延期されていたイベントなどの開催に向けた動きが本格化する。ただ、経済活動の全面再開は時期尚早で、これまで通りの感染対策の徹底が前提となる。大井川知事も22日の会見で、経済活動の再開に期待を示す一方、「まだアクセルを踏むには早い」として、独自の観光支援策などには慎重な姿勢を示した。 同宣言で影響を受けた事業者への経済支援も不可欠だ。県は新たに、飲食店と取引のある県内業者や、イベント、宿泊など外出自粛要請で影響を受けた事業者に対し、県独自の一時金支給を発表。一日も早い支給を望みたい。 県内の新規感染者数は1月中と比べ減少しているものの、医療機関や高齢者施設、職場などでクラスター(感染者集団)発生が相次ぎ、下げ止まっている状況。高齢者の感染増加に伴い、死者数も増え続け、依然として予断を許さない状況が続いている。 3月以降は卒業式などの行事が多く、例年なら4月にかけて会食の機会が増える時期。春休みや大型連休も控える。ここで感染対策に緩みが生じれば、新たな感染の「波」につながりかねない。あらためて、マスクを外す機会を極力減らし、引き続き不要不急の外出を控えるなど、一人一人が感染対策の徹底を心掛けたい。
行政の公正さへの不信感を再び招き、国会審議をないがしろにする姿勢も改めて浮き彫りにした。放送行政を所管する総務省幹部4人が、放送事業会社「東北新社」に勤める菅義偉首相の長男らの接待を受けていた問題は、国会での「虚偽答弁」疑惑に発展した。 幹部のうち2人が事実上更迭されたが、責めを負うのは官僚だけなのか。会食接待に応じた背景に菅首相への「忖度(そんたく)」があったことは否定できない。その結果、放送行政がゆがめられていたとすれば、首相の進退にも関わる重大な事態だ。厳格な調査で責任の真の所在を明確にしなければならない。 総務省によると、幹部4人が長男側と会食したのは、2016年から延べ12回に上り、タクシーチケットや手土産を受け取っていたこともあった。 週刊誌の報道を受け、内部調査に着手したが、長男らの接待目的や総務省幹部が誘いに乗った理由、会食費用の負担割合などは曖昧なままだ。 国家公務員倫理規程は、省庁の許認可を受ける事業者を「利害関係者」と定め、接待を受けたり、金品を受け取ったりする行為を禁止している。長男は、総務省から衛星放送の認可を受けている東北新社の子会社役員も兼ねる。会食が集中した昨年12月は衛星放送認可の更新時期であり、便宜供与の疑念を呼んでも仕方あるまい。 総務省は、国会審議がストップしてからようやく長男が利害関係者にあたる可能性を認めた。幹部だけでなく菅首相への追及を回避したいとの思惑を感じてしまう。 首相も長男は「別人格」と強調した上で、「誰であっても、国民から疑念を抱かれる行動は控えるべきだ」と一般論での答弁に終始した。 だが、総務相時代には長男を秘書官に起用している。総務省側に「特別扱い」する意識が働きかねないことを自覚し、忖度がはびこらないよう言動で示す必要がある。人事権をちらつかせて官僚を従わせていては同様の問題が起きかねない。 接待を受けた総務省の秋本芳徳情報流通行政局長は、許認可権を持つ衛星放送の話題が出たかどうかについて「記憶にない」とかわし続けた。接待の目的という問題の核心につながるためではないか。 秋本氏は週刊誌が会食時のやりとりとする音声を公開しても認めなかったが、早期の幕引きを図るためか「今となっては発言があったのだろうと受け止めている」と答弁を変えた。 「記憶にない」発言は、うそが発覚した場合に言い逃れるための常套句(じょうとうく)であると国民は見抜いている。今回も「虚偽答弁」との批判は避けられない。国会軽視と指弾されよう。安倍晋三前首相と親しい者を優遇したと指摘された森友、加計両学園や桜を見る会を巡る問題への反省もうかがえない。 武田良太総務相は秋本氏と、同じく接待を受けた湯本博信官房審議官を官房付に異動させるものの、両氏の国会招致に応じるとしている。当然の対応である。他の2人を含め懲戒処分が検討されているが、まずは国会での真相解明が先決だ。 菅首相は総務省の調査にこそ忖度がないよう指示するとともに、自らの責任も率直に認めるべきではないか。そうでなければ行政への信頼を取り戻すのは難しい。
東京五輪・パラリンピック組織委員会の新会長に橋本聖子氏が就任した。五輪相を辞めて移った形だ。 森喜朗前会長が女性蔑視発言で国内外の批判を受けて辞任を表明し、近しい関係の川淵三郎日本サッカー協会元会長に後任への就任を独断で要請して、いったんは受諾を取り付けながら白紙撤回となった一連の動きは、市民に憤りと失望を広げた。 荒波の中、出航する橋本氏が担う責任は重い。 まず組織委に対する不信をぬぐい去らなければならない。それには、新型コロナウイルス感染対策で調整が必要な広範囲にわたる開催準備について、適切なタイミングで的確な判断を下すことはもちろん、市民に歓迎されるメッセージをさまざまな活動を通じて出し続けることが大切だ。 ワクチン接種が各国で始まり、コロナ禍の暗雲を抜け出せる希望がほのかに見え始めた今だからこそ、明るい話題を提供してほしい。 組織委は森氏の後任候補を絞り込むに当たり、元五輪選手の理事ら男女同数の計8人で構成する候補者検討委員会を設けた。森氏が川淵氏を一本釣りしようとした密室人事に対する批判を受け「透明性の確保」を誓ったにもかかわらず、その構成メンバーなどについては非公開とした。 公益財団法人のガバナンスの観点からも、市民の期待に応える姿勢を示す上でも、少なくともその氏名は明らかにすべきだった。 新会長の候補としては「五輪とパラリンピック、スポーツに深い造詣がある」「国際的な活動の経験がある」「組織運営能力が備わっている」など5項目の基準を設け、検討を進めると決めた。 それ自体は良かったが、果たしてどこまで自由で活発な議論が行われたかは分からない。 政権幹部はかなり早い時点で、森氏から世代交代を印象づけられる女性である点は大きなメリットとして、橋本氏への期待を表明していた。 政府が五輪はまさに国家行事だとして、歩調を合わせやすい身内から、新会長を出したがっていたのは明らかだ。検討委の審議に、政府の意向が反映されたということはないのか。 森氏の女性蔑視発言から密室人事まで、市民の反発があそこまで大きく広がったのは、男女平等の精神に対する認識不足への批判だけでなく、その政治的な手法について不適切だと判断したからだ。 自民党でかつての森派に所属する橋本氏に対し、厳しい視線を向ける市民もいるだろう。 橋本氏は冬季五輪の日本選手団の団長を務めたときに酒に酔い、フィギュアスケートの男子選手にキスをしたことがある。野党は早くも「ハラスメントだ」と問題視する構えを見せる。 森氏の発言に対しては組織委のスポンサー企業も相次いで批判の声を上げた。7千億円を超える組織委予算の約半分は国内協賛企業が支えている。協賛各社の信頼を取り戻すことも重要だ。 五輪開催の見通しはやや明るくなってきたとはいえ、観客をどの程度の規模で受け入れられるかは、今後の国内と海外のコロナ感染状況を見ながら決定することになる。 無観客となれば、組織委は赤字となるだろう。健全な財政の確立も重要課題として待ち受ける。
政府は、不法滞在などで国外退去を命じられたのに理由なく退去を拒んだり、入管施設での収容を一時的に解く仮放免中に逃亡したりした外国人に懲役刑や罰金刑を科すことなどを柱とする入管難民法の改正案を閣議決定した。これまで難民認定申請中は停止していた強制送還手続きも、送還逃れのための申請と判断した場合には進める。一方で、自発的に出国した人については上陸拒否期間を短縮。逃亡の恐れがなければ支援団体などを「監理人」として入管施設外での生活を認める「監護措置」を新設するなど、硬軟織り交ぜた内容だ。国際社会で長年、批判の的になっている外国人長期収容の解消を図りたいとしている。 2年前、長崎県の入管施設で長期収容に抗議してハンガーストライキをした男性が死亡。これをきっかけに出入国在留管理庁は有識者専門部会を設け、検討を重ねてきた。ただ罰則を巡っては専門部会で「刑務所と入管施設を行き来する人が増えるだけで、実効性がない」「難民認定などを求める裁判が制約される可能性がある」などと否定的な意見が相次いだ。 これに加え、国会の法案審議では収容期間の上限を設けるか、収容手続きに司法審査を導入するか-なども論点となろう。人権を重視した制度改正とすべく、厳格すぎるとされる難民認定制度見直しも含め、丁寧に議論を進める必要がある。 入管庁によると、2019年12月末時点で国外退去を命じられ、入管施設に収容されていた942人のうち649人は送還を拒否。収容期間を見ると、6カ月以上が462人に上り、3年以上が63人いた。また仮放免中は2217人で、その多くも送還を拒んだ。 日本は不法就労や犯罪で摘発されるなどし在留資格のない外国人を原則全て収容する「全件収容主義」をとり、収容期間については法律に「送還可能のときまで」とあるだけで上限はない。難民認定申請や、強制送還の取り消しを求める訴訟をしている間、送還の手続きはいったん止まる。 送還を逃れようと申請を乱用するケースが増え、収容長期化の要因になっているとされる。改正案は3回目以降の申請について、それまでと内容が変わらないなら送還手続きを停止しないとしている。さらに期限を定めて退去を命じ、応じない場合には罰則を科す。 併せて監護措置のほか、難民に準じる「補完的保護対象者」として在留を認める制度などもつくる。とはいえ、国際社会の視線は厳しい。国連の恣意(しい)的拘束に関する作業部会は昨年8月、入管施設に通算で5年前後収容され、難民認定申請中の男性2人について、司法審査の機会を与えられず、恣意的拘禁に当たるとする意見を採択した。 収容長期化や司法審査の欠如はたびたび指摘され、勧告が繰り返されてきた。収容は逮捕・起訴に伴う勾留と異なり、裁判所による審査は介在しない。だが自由を奪う以上、裁判所が収容の可否を判断する仕組みは必要だろう。欧州諸国のように収容期間に上限を設けることも検討したい。 もともと他の先進国と比べ難民認定率は桁違いに低く、難民と認められずに在留資格のない人が増えれば、それだけ収容される人は増える。「準難民」を認めることに加え、認定制度の在り方見直しも求められよう。
県の2021年度当初予算案が発表された。一般会計の総額は1兆2951億7800万円。新型コロナウイルス関連予算などの計上により、前年度当初比11.4%増で過去最大規模となった。コロナ禍の影響などで実質的県税収入が457億円減少する一方、臨時財政対策債を含む実質的地方交付税が468億円増え、一般財源総額は20年度と同水準を確保した。 今回の予算案について、県は「感染症対策と社会経済活動の両立に注力」するとともに、「未来への投資につながる施策へ積極果敢に挑戦」するとしている。新型コロナ対策が当面の課題となるが、コロナ後を見据えた未来への投資にも力を入れてもらいたい。 未来への投資につながる施策では、産業関係の新規事業や拡充が目立つ。目玉の一つが、事業費約200億円で、つくばみらい市福岡地区に約70ヘクタールの新しい工業団地を造成する事業。これまで産業用地開発を巡っては市町村の開発計画に対する支援が県の基本姿勢だったが、圏央道周辺は「供給が著しく逼迫(ひっぱく)し、近い将来、供給が間に合わない状況が見込まれる」として、約20年ぶりとなる県直接施行(企業局所管)に乗り出す。同工業団地以外の対象地区選定のための調査費も計上された。ベンチャー支援や農業、水産業、畜産業の新規施策も打ち出した。 注目施策はほかに、「マイ・タイムラインの普及・啓発等」により災害発生時の住民の逃げ遅れゼロを目指す事業や、新たな産業廃棄物最終処分場の整備関連、県立学校で1人1台端末等を活用できるICT環境の整備、観光拠点となる集客施設誘致、サイクルツーリズムの全県での推進など。 公共事業にも、防災・減災対策や道路の長寿命化などで約1518億円(最終補正予算を含む)が計上された。県政の各分野に新規事業、拡充事業を配した積極的な予算と言える。 一方、急速な人口減少に対する地方移住促進策や、近年増加が顕在化している低所得者向け施策、県民の森・県植物園の整備、宇宙産業など、発表段階では具体的に見えないものもある。新規や拡充が注目されがちだが、これまで力を入れていくとされた施策がどうなっているか、点検も必要だ。 今回、計上が見送られた事業もある。20年度当初予算案の目玉とされながら、県議会定例会で大幅な減額修正を余儀なくされた県大洗水族館のジンベエザメ展示施設計画もその一つ。大井川和彦知事は18日の会見で、「(ひたちなか大洗リゾート構想の)全体の計画の中で、ジンベエザメにとらわれず、地域の魅力向上に努めていく」と述べるにとどめた。 大井川知事が選挙公約に掲げた「県北芸術村推進事業」についても今回、他の県北振興施策への「方向転換」(知事)により計上されず、廃止される方針。 大井川知事の「失敗を恐れてチャレンジしないより、まずはチャレンジしてみる」「問題が見つかればすぐに改める」との姿勢は一定の評価を得ている。ただ、県の施策が県民の税金などを用いて行われる以上、チャレンジの結果は問題が見つかった際の対応を含め、丁寧な説明が求められる。 21年度当初予算案は、26日開会の県議会に上程される。困難な時期にあってこれからの茨城づくりを左右する予算であり、充実した議論に期待したい。
新型コロナウイルス対応の改正特別措置法が施行され、緊急事態宣言の前段の状況でも飲食店などに罰則付きの命令を出せる「まん延防止等重点措置」が新設された。都道府県知事は、一定の要件や手続きが必要な宣言の発令中でなくても、機動的に強い措置を取れるようになった。 これを巡り、宣言回避のための予防措置という当初想定に対し、政府、知事らが宣言解除をスムーズにする「受け皿」に活用しようとする動きが顕在化した。解除のハードルが下がり、早すぎる解除がリバウンドを呼んでかえって収束が遠のく結果を招かないか心配だ。慎重な運用を求めたい。 改正特措法は、緊急事態宣言下で休業や営業時間短縮の要請に応じない事業者に命令を可能とし、違反の場合は30万円以下の過料を科す。宣言発令がなくても、政府が対象の区域、期間を定めるまん延防止措置の下で、時短違反に過料20万円以下を科せるようにした。 ただ、措置の適用要件や国会の関与は法律に明記されず、政府は新規感染者数や医療提供体制の逼迫度などを踏まえて判断すると政令で決めたものの、基準はなお不明確で恣意(しい)的運用の懸念が残ると言わざるを得ない。 緊急事態宣言は、感染状況が最も深刻な「ステージ4」(爆発的感染拡大)での発令、まん延防止措置は「ステージ3」(感染急増)での実施が想定される。政府、知事らはこれを目安とした上で総合的に判断するが、宣言発令中の10都府県の一部では感染者減少を受け解除を急ぐ「前のめり」な姿勢が目についた。 経済再生を重視する吉村洋文大阪府知事は、宣言解除要請へ向け設定した独自基準2項目のうち、重症用病床使用率が未達にもかかわらず、直近1週間の新規感染者数がクリアしたと解除要請へ動きだした。意見を聞いた専門家6人中5人が反対して判断は先送りされているが、この間に吉村氏が宣言解除の後に移行するよう求めていたのが、まん延防止措置だ。 この措置は初期の特措法改正案に「まん延防止策を講じないと緊急事態宣言発令を回避できないと判断した場合」に政府が決める「予防的措置」として登場。しかし法案審議の途中から、吉村氏らに呼応するように政府も「状況によっては使える」(西村康稔経済再生担当相)と解除後の適用に急に軸足を移した。宣言解除後のまん延防止措置への移行は、強い対策が継続されると説明でき、住民の不安感を和らげる効果が期待できる。このため宣言解除に前のめりだった知事らは解除を容易にする「クッション」に使おうとしたと見られても仕方あるまい。 政府の新型コロナ対策分科会の尾身茂会長は宣言解除に関して「医療の負荷が軽くなることが、陽性者数(の減少)よりも大事だ」と指摘している。感染力の強い変異ウイルスも出現した。今、解除を急ぐことで「緩み」が生じて感染再拡大を招けば、収束を目指す努力が水泡に帰しかねない。医療に加え、感染経路調査に当たる保健所の負担が重いままでの解除は踏みとどまるべきだ。 専門家が分科会に示しシミュレーションでも、東京都で2月初めに宣言解除し急速に経済活動を促進した場合、1日当たりの感染者500人程度の状況が、5月初めに1500人超に戻ってしまうという。焦りは禁物だ。
10年前の東日本大震災を思い出し、その余震ということに不安を覚えた人も多いだろう。福島県と宮城県南部で震度6強を観測した地震が13日に起きた。幸い津波は来なかったが、10県で150人以上が負傷し、一部区間でストップした東北新幹線の全線運転再開まで10日前後かかるという。 大震災以降、何度も指摘されてきたが、この国は災害大国である。地震に加え台風や豪雨による水害、噴火などあらゆる自然災害がいつ起きても不思議はない。この地震への対応状況を検証し、これまでの対策を総点検して次に備えるべきだ。 まず、揺れでどれだけの人が津波を想定し避難を準備したかだ。政府の地震調査委員会の記者会見では、震源がもう少し浅く地震規模が大きければ大きな津波が発生した可能性があったと指摘されている。大きな揺れがあれば、津波を恐れすぐに避難を始める、避難する人が多ければそれだけ被害を減らせることを東日本大震災で学んだはずである。 南海トラフ巨大地震など地震による津波で浸水する可能性がある地域に住む全ての人は、津波は来ないと安易には判断せず、まずは逃げることを考えて行動することを確認しておきたい。 JR東日本は東日本大震災後、東北・上越の両新幹線で電柱や高架橋などの耐震補強工事を進めてきた。今回の地震で損傷した電柱は未施工だったという。 2004年の新潟県中越地震では走行中の新幹線が脱線、16年の熊本地震でも新幹線の回送列車が脱線している。経営上の判断もあるだろうが、高速運転する新幹線の安全確保は最優先すべきである。耐震補強を急ぐことを強く要請したい。 高速道路でも大規模な土砂崩れがあった。地域を結ぶ動脈が災害に遭って人や物の動きが止まると社会や経済に与える影響は甚大だ。新幹線が止まっている間はバスや航空機が代替の役割を担う。長期の影響を避けるため、これら交通ネットワークを整備し多重性を確保することが重要だ。 この地震では大型火力発電所が相次いで停止し、首都圏も含む広域で大規模な停電が起きた。停止の原因と今後の対応を検討すべきだ。18年の北海道地震でも大型火力のトラブルで全域停電を招いている。集中的に発電し送電線を使って供給する現在の電力システムは、災害が起きたときに停電しやすく影響も大きいという脆弱(ぜいじゃく)性が指摘されている。 バイオマスや風力など地元資源を使い地域ごとに小規模な電力供給システムをつくれば災害への備えにもなる。国が掲げる脱炭素社会にも役立つだけに、導入に向けた本格的な検討が待たれる。 避難所は新型コロナウイルス禍での運営となった。3密を避けるため自治体は、世帯ごとにテントを用意し、避難者には消毒、検温をお願いするなどを国の指導に沿った方法で、コロナとの複合災害を避けた。避難者が少なかったこともあり、うまく対応できた面もあるだろう。もっと被災者が多いケースも想定し、同様の運営ができるか検証し改善点を探るよう求めたい。 揺れで屋根が損傷し、地震後の雨で雨漏りをする住宅も多かった。屋根を覆うブルーシートについて、自治体がどれぐらい備蓄すべきなのかも検討が必要だ。
国内初となる新型コロナウイルス感染症のワクチンが承認された。日本は海外に比べて大きく出遅れたが、最前線に立つ医療従事者に続いて高齢者や持病がある人への優先接種がようやく始まる。1年以上も続く流行を早く収束に向かわせるための重要なステップだ。 ただ多くの人に行き渡るまでには時間がかかるし、思わぬ混乱もありうる。福島県沖で起きた地震は不測の事態を想定した備えの必要性をあらためて思い起こさせた。不正確な情報に踊らされることなく、マスク着用や3密(密閉、密集、密接)回避といった従来の感染防止策を続けながら、焦らず冷静に接種を進める必要がある。 ウイルスが見つかってからこれだけ短期間で何種類ものワクチンが実用化されたのは驚くべきことだ。臨床試験のデータには幅があるが、国内で接種が始まるファイザー製のワクチンは発症を防ぐ有効性が95%と非常に高いとされる。接種で先行するイスラエルでは、すでに高齢者の感染や入院が減ったとの報告がある。接種率が高まって免疫を持つ人が増えると、集団の中でウイルスが広まりにくい「集団免疫」ができると期待される。 大切なのは社会の中で最も弱い人たちを守ることだ。新型コロナは高齢者ほど重症化しやすく、国内では60歳以上の人が感染すると18人に1人が死亡する。昨年からの「第3波」の流行で入院患者が大きく増え、1日に100人以上の死者が報告される日もある。 ワクチンは感染を完全に防げなくても、高齢者や持病がある人の重症化を回避して救命につながる期待がある。こうした人が接種を受けるメリットは比較的大きい。 ワクチンは体にとって異物なので人によって接種部位の腫れや痛みといった副反応が起きる。米国の最新データでは、ファイザー製のワクチンでアナフィラキシーと呼ばれる全身性の激しいアレルギー反応が起きたのは約20万人に1人。アレルギー体質の人は接種後に医師らがすぐに治療できる状態で様子を見ることで対処できる。一人一人が自分の健康状態を理解し、個人や社会の利益とリスクとのバランスを考えた上で接種を受けてほしい。 心配なのがウイルスの変異株に対する有効性だ。英国やブラジル、南アフリカなどで広がった変異株は、人の細胞に取り付く表面突起の形が変化して感染しやすくなっているとみられる。 現在のワクチンは従来株を想定するため変異株に効きにくく、特に南アフリカの変異株の発症を防ぐ度合いが低いとの報告がある。製薬会社はすでに変異株に効くワクチンの開発に乗り出している。最新手法のRNAワクチンなら数週間で開発可能という。変異株と従来株の両方に効くワクチンも検討されている。 ただワクチンは万能ではない。接種しても一定の割合で発症する可能性があり、時間がたつと効果が落ちる。無症状を含む感染そのものをどの程度防げるかも未知数だ。 だから自分が接種を受けても、当面はマスク着用などの対策を続けよう。以前のような自由な暮らしに戻るのはもう少し先だ。国内で変異株が流行するのを防ぐのにも役立つ。出口が見えてくるまでの間、自分だけでなく他者に配慮した責任ある行動を心掛けたい。
女性の自殺者が増えている。1月に警察庁が公表した自殺統計(速報値)によると、2020年の自殺者は全国で2万919人となり、19年の確定値から750人増加。前年を上回ったのは09年以来で、男女別では、男性は11年連続減少だが、女性は増加に転じ過去5年で最多となった。茨城県の自殺者も前年から21人増加して479人となった。原因・動機は、うつ病などの「健康問題」(同394人増)や親子・夫婦関係の不和など「家庭問題」(同57人増)が増えた。厚生労働省自殺対策推進室は「コロナ禍がさまざまに影響している」と分析する。 「茨城いのちの電話」の20年の総受信件数1万5095件のうち自殺傾向は10・5%で、前年の8・6%を上回った。通常は24時間態勢で水戸市とつくば市の2カ所で、心の悩みを抱える人から相談を受けてきたが、コロナの感染拡大に伴い午前8時から午後10時までに短縮した。事務局は「夜に電話をかけたい人は増えていると思う。コロナの影響で相談が受けられないのは心苦しい」と話す。 非正規職の女性が仕事を失い経済的に追い詰められて電話をかけてくるほか、外出自粛で孤立し苦しさを訴えてきた人もいる。 働く女性はパートやアルバイト、派遣社員など非正規が少なくない。コロナ禍による景気悪化で休業を理由に収入を減らされたり、解雇・雇い止めにあったりするケースが多い。主婦では感染を恐れて家族がこもりがちになり、家事や子育て、介護の負担が増し、DVのリスクにもさらされる。特にシングルマザーは困窮状態から抜け出すのが難しい。感染収束の兆しはいまだに見えず、行政や民間団体の相談窓口には「眠れない」「死にたい」など悲痛な声が後を絶たない。 茨城県独自の緊急事態宣言は2月末まで延期された。重症者数が高止まりするなど医療提供体制の逼迫(ひっぱく)が解消できなかったためだ。引き続き不要不急の外出自粛や飲食店の午後8時までの営業時間短縮などが要請されている。特に非正規で働く女性が多い宿泊・飲食、生活・娯楽、卸売・小売各業種は大きな打撃を受けている。県は影響が大きい分野への経済支援を充実させるとともに、協力金や取引先支援の一時金について、国の宣言対象地域と同様の支援を継続して国に求めていく必要がある。 経済支援と同時に心のケアも重要だ。行動自粛によって対面でコミュニケーションを取る機会が減り、悩みを抱える人たちの孤立感は深まっている。問題解決に至らなくても話すことで落ち着きを取り戻すことはできる。相談窓口の充実が重要だ。若者を中心に会員制交流サイト(SNS)利用者が増え、相談内容も多様化していることから、茨城いのちの電話は4月から無料通信アプリ「LINE(ライン)」を導入する予定だ。 原宿カウンセリングセンターの信田さよ子所長は、本紙「現論」で「なんとなくメンタルの不調を感じたら、だらしないと自分を責めたりせずに当然のことだとして受け入れよう。アルコールを飲んで忘れようとせず、そんな自分を言葉にして聴いてくれる人や場所を確保しよう」と呼び掛ける。 メンタルの不調は「自助」では解決できない。家庭や職場など身近なところで心身の不調を訴える人がいたらとにかく話を聴こう。それだけで救われる人たちがいる。
百花のさきがけと言われる梅。本来なら水戸市の偕楽園・弘道館とつくば市の筑波山梅林で恒例の梅まつりが13日から始まるはずだった。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、県独自の緊急事態宣言が延長されたことから、やむなく延期となった。 国の緊急事態宣言も延期されたことで首都圏からの来園も見込めない状況にある。今後、県の同宣言解除の動向をにらみながら開催の可否を判断することになる。 人気のチームラボによる「偕楽園 光の祭」も会期が変更され、3月1日から31日までとなった。各種イベントを含む梅まつりの延期は残念ではあるが、梅を見ることはできる。今年は「3密」を避けるなど感染防止策を講じながら静かに花をめでたい。 県内の梅まつりの中でも水戸の梅まつりは伝統と歴史を誇る。日本三名園の一つである偕楽園は水戸藩主徳川斉昭が創設し、藩主だけでなく「衆と偕(とも)に楽しむ」公園として造られた。今年順調に開催されれば125回を数え、弘道館開館180年を記念する節目のまつりとなるはずだった。 偕楽園が有料化されて初の梅まつりとなった昨年もコロナ禍で事実上の中断を余儀なくされた。昨年は2月15日から3月29日までの日程が組まれていたが、2月27日から水戸の梅大使や水戸黄門さまによるJR常磐線の臨時駅などでの来園者の出迎えが中止され、同29日からは全ての行事が中止された。 このため会期中の入園者数は前年の約52万人を大きく下回る約19万人と約63%も減少。料金収入も当初想定の約45%にとどまった。年間約100万人を誇る偕楽園入園者のうちの5割は梅まつり会期中に集中する。それが今年は開幕時からの延期となり、来園者数だけでなく、料金収入の面でも「厳しい」(県)状況となることは避けられない。 梅まつりが、コロナ禍の影響で2年続けて事実上の中断や延期を余儀なくされたことは県民にとっても残念である。観光だけでなく宿泊や土産物、交通など幅広い業界への影響も懸念される。しかし、嘆いてばかりもいられない。ここは「コロナ後」も見据え、偕楽園の新たな魅力を生み出して来園者を迎えるための検討期間と捉えてはどうだろうか。 県は偕楽園の魅力向上を図る計画を進めている。偕楽園魅力向上アクションプランは、偕楽園の文化的資源としての価値と景観的資源としての価値に着目し、梅の季節だけに頼らず、年間を通して多くの観光客に訪れてもらえる「通年型」の観光地を目指している。創設者斉昭の思いを軸にしながら園内の歴史的建物の復元や休憩所の設置、飲食の提供、利便性の向上などが課題として挙げられ、偕楽園の魅力をアップさせたい考えだ。 コロナ禍の影響で、梅まつりに続く日立市のさくらまつりも中止となり、この春は寂しい季節となりそうだ。だが、花をめでることはできる。静かに梅の花をめで、「コロナ後」には魅力を増した偕楽園を来園者に提供し、水戸の魅力を広く伝えていきたい。 コロナ禍の収束はいまだ見通せないが、禍(わざわい)転じて福となす。その言葉を胸に、梅まつりが全て復活した折には、生まれ変わった偕楽園を多くの人に見てもらえるようにしたい。
東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が辞意を固めた。女性蔑視発言が国内外から強い反発を受け、退任せざるを得なくなった。 森氏は発言を撤回、謝罪し、一時は続投の意向を示していた。だが、日本の多様性や男女平等の精神に対し、国際社会の疑念を招いた責任は重大で辞任は当然だ。 五輪は世界で最も親しまれている社会的なイベントであり、その組織委は、進化する社会の価値観に敏感でなければならない。後任会長には日本サッカー協会元会長の川淵三郎氏が就任する見通しだ。新体制は新型コロナウイルス感染症への不安も抱える市民とアスリートの声に耳を澄ませ、信頼回復に全力を尽くしてほしい。 「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」などの森氏発言は怒りと失望を呼び起こし、謝罪会見からは真摯(しんし)に反省する姿勢が全く感じられなかった。組織委と東京都には抗議が殺到。大会ボランティアは次々に活動の辞退を伝え、インターネット上では退任を求める署名運動も広がった。 ドイツをはじめ欧州各国の在日大使館などからはツイッターで「黙っていないで」「男女平等」を意味する英語のハッシュタグ(検索目印)付きで意見表明が相次いだ。 こうした反応を森氏や組織委側が深刻に受け止めていれば、退任時期は早まっていたのではないか。組織委の活動を資金面で支える協賛企業が不買運動に発展することなどを恐れ、批判の声を上げ始めたことで辞任に傾いた印象は否めず、釈然としない思いが残る。 国際オリンピック委員会(IOC)は当初、森氏の発言撤回と謝罪で「決着した」と不問に付す構えだったが、「完全に不適切だ」との声明を出し直した。組織委トップの交代を望む意向をにじませたものの、拡大する批判に押された感はある。 菅義偉首相も森氏の進退について「組織委が判断する問題だ」と明言を避け続けた。首相に組織委会長に関する人事権はないが、国益にとって好ましくないというなら退任を明確に促すべきではなかったか。元首相である森氏への遠慮があったとすれば、世界的行事を担う一国の指導者の態度として疑問がある。 森氏は、女性の社会進出を加速させる歴然たる流れがある中で、耳を疑う発言を行った。しかし、五輪精神を体現しなければならない組織委の理事会メンバーからは、退任要求は出てこなかった。個人の資質の問題だとしても、組織の健全性を問われかねない。 理事会が民主的で活発な議論を進める組織ではなく、話が長くならないよう、森氏が言う「わきまえて」審議する体質だとすれば猛省すべきだ。 組織委のイメージは地に落ちたが、国際的なスポーツの祭典、五輪の本質的な価値は重い。 多くの批判が巻き起こったのは、裏を返せば、五輪の意義が一人の見識が疑われるリーダーの発言によって、傷つけられるようなことがあってはならない、との思いが広く共有されたからだろう。 東京五輪開幕まで半年足らず。森氏に代わる組織委会長に求められるのは、万全なコロナ対策とともに、性差別と闘う姿勢を早期に打ち出し男女共同参画を推進すると約束することだ。そして多様性の尊重を改めて誓う必要がある。
陸上自衛隊と米海兵隊が、沖縄県名護市辺野古の米軍キャンプ・シュワブに陸自部隊を常駐させる計画で合意していたことが明らかになった。キャンプ・シュワブ沿岸部では新たな滑走路などを建設するため政府が埋め立て工事を進めている。陸自と米軍の共同使用は、基地機能を強化し、固定化につながるものだ。 しかし、この合意は地元には全く説明がされていない。辺野古の埋め立て工事は、沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場を返還する「負担軽減」に伴う移設先とされてきた。だが、陸自の共同使用で辺野古の機能を強化するのであれば、負担軽減という説明はまやかしだと言わざるを得ない。玉城デニー知事が「県民感情からしても認められない」と批判したのは当然だろう。 安全保障政策は国の専管事項だとしても、基地や部隊の運用には地域の理解が不可欠だ。政府は合意内容や配備計画の詳細を明らかにするとともに、沖縄の負担軽減に取り組む方策を改めて明確に示すべきだ。 常駐が計画されたのは、陸自の離島防衛部隊「水陸機動団」。共同使用は双方に部隊運用面などの利点があり、2015年に合意したという。政府は現時点では陸自の配備計画はないとしているが、岸信夫防衛相は参院予算委員会でキャンプ・シュワブ内に陸自施設を設ける図面があったことを認めた。検討が行われた証しだろう。 辺野古の新基地は以前から自衛隊が使用するのではないかと指摘されてきた。中谷元・元防衛相は昨年の玉城知事との会談で共同使用を提案している。 今回明らかになった合意を陸自が単独で行ったとすれば文民統制(シビリアンコントロール)上からも重大な問題だ。ただ、中谷氏の発言から考えても、陸自の独走なのかは疑問がある。計画は消えていないのではないか。防衛省内での検討状況を明らかにすべきだ。 沖縄には在日米軍専用施設の約7割が集中する。さらに、沖縄県民には第2次大戦末期の沖縄戦の記憶が残る。日本軍が住民を守らなかったという現実だ。自衛隊の配備計画でも県民感情への配慮を忘れてはならない。 過去にも米軍輸送機オスプレイの配備が検討されながら政府が公表しなかった経緯がある。こうした対応が不信と反発を招いてきたことも改めて省みるべきだ。 防衛態勢の整備計画は、全てを明らかにはできないとしても、一定の透明性を確保するため、その狙いを国民に対し丁寧に説明し、国会でも議論を尽くす必要がある。今回の合意は、その点からも問題がある。 政府は島しょ部防衛強化のため沖縄県与那国島から鹿児島県奄美大島まで、自衛隊の南西諸島への配備を進めている。 沖縄県・尖閣諸島周辺での中国公船の活動は活発化しており、警戒態勢の強化は必要だ。ただ、南西配備の狙いは島しょ防衛にとどまるのか。台湾有事や南シナ海での米中衝突を想定した自衛隊と米軍の共同運用が狙いではないのか。だが、それは島々が戦場となる恐れのある事態だ。 丁寧な説明は周辺国の理解を促し、過剰な反発を防ぐ。日本が取り組むべきなのは、地域の平和と安定に資する外交と両輪となった安保政策だという基本を忘れてはならない。
衆院予算委員会は来年度予算審議の序盤を終えた。菅義偉首相は、放送事業会社勤務の長男が放送行政を所管する総務省幹部らを接待した問題で「民間人、別人格」と突っぱねるなど、中身の議論から逃げる姿勢を繰り返した。 首相就任前の8年近い官房長官時代は「詳細は承知しない」「問題ない」で押し通し、ぶれない姿勢をアピールした。だが首相にこのスタイルは許されない。野党と四つに組む議論抜きでは、国民への説明責任を果たすことはできない。 接待された総務省幹部4人のうちの1人は費用を払わずに会食してタクシー代も提供され、後に返金したと述べたが、金額は答えなかった。首相は放送事業会社社長が同郷の支援者だと認めたものの、それと長男の接待を「結び付けるのはおかしい」と反発。「長男や家族にも名誉やプライバシーがある」と総務省が調査中であることを盾に事実の確認を拒んだ。国権の最高機関より行政の内部調査が優先される道理などないはずだ。 首相は総務副大臣、総務相を歴任し総務省に強い影響力を持つ。長男は総務相当時の政務秘書官だ。国民が疑念を抱くのは、首相自身を含む「政官業の癒着」ではないかという点だ。首相にはその自覚はあるのか。 首相は「改革実行には更迭も辞さない」と人事権を振りかざし官僚を従わせてきた。この「恐怖支配」ゆえに官僚は、言われなくても首相の歓心を買うよう忖度(そんたく)を働かせる。首相は否定しても、官僚は長男と首相の威光を「結び付け」て接待に応じたに違いない。そうさせた原因は首相の政治手法にあるではないか。 森友・加計学園問題の悪しき前例を繰り返さないためにも、自らの責任を重く受け止め、事実解明に積極協力すべきだ。 首相は官房長官時代を合わせ8年以上官邸に君臨する。本人がいかに身を律しても、権力者周辺が「役得」のおこぼれに預かる魅力にあらがえない例は古今東西枚挙にいとまがない。「腐敗防止」のため権力者は、親族の行動まで律する義務があると考えるべきだ。 政治責任を回避する首相の姿勢が目立った場面は他にもある。新型コロナウイルス対策のスマートフォン向け接触確認アプリ「COCOA(ココア)」が情報通知できない障害を国が4カ月放置した問題もそうだった。 昨年9月の基本ソフト(OS)更新で3割の利用者に「濃厚接触」の通知が届かなくなり、障害確認は年明けになった。政府は国民に利用を再三呼び掛けながら責任を持った管理を怠り、開発、メンテナンスを業者任せにしていたのが原因だ。 首相は「大変申し訳ない」と陳謝したが、自身に責任が及ぶ閣僚処分などは否定。通知停止により救える命も救えなかった例があるかもしれない。首相や閣僚は重大性の認識が欠けていないか。官僚を指揮し政府の管理体制を固めるのは当然政治の責任のはずだ。 議論の入り口で防御を固める姿勢は、東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長による女性蔑視発言を巡っても際立った。首相は当初「詳細は承知しない」で通したが、世論の反発が高まり「あってはならない」「(国益に)芳しくない」と徐々に森氏をかばえなくなった。国会の先には国民がいる。首相はその認識で答弁すべきだ。
新型コロナウイルス禍に悩まされている今、なぜ狙い撃ちのように医療費負担増を迫るのかと、やるせない思いを募らせる高齢者も多いだろう。 政府は、75歳以上の後期高齢者で一定以上の所得がある人を対象に、医療機関の窓口で支払う自己負担割合を1割から2割に引き上げる医療制度改革関連法案を国会に提出した。2022年度の後半に実施する予定だ。 少子高齢化が進む中、社会保障制度の持続可能性を高めるには、年齢を問わず全ての世代で支え合う仕組みづくりが不可欠だが、政府には今回の負担増について納得できるよう丁寧に説明を尽くしてほしい。 現在、75歳以上の窓口負担は原則1割、現役並みの所得がある人は3割だ。新たに2割負担となる年収の目安は単身世帯で200万円以上、夫婦世帯で320万円以上。約370万人が該当する。08年度に後期高齢者医療制度がスタートして以来の大きな改正となる。 政府は窓口負担見直しを「全世代型社会保障改革」の柱と位置付け、19年秋から議論してきた。「単身で年収200万円」などの所得基準の線引きは昨年12月、菅義偉首相と山口那津男公明党代表が会談して決めた。 人口の多い団塊の世代が22年から後期高齢者の仲間入りを始め、医療費の膨張が加速する。75歳以上の医療費は約4割を現役世代の保険料を原資とした「支援金」で賄っており、これが21年度の6兆8千億円から25年度には8兆1千億円に膨らむと見込まれている。現役世代1人当たりでは年約8万円に上る。 このため政府は「若い世代の保険料負担の上昇を少しでも減らしていくため、高齢でも負担能力のある人に可能な範囲で負担していただきたい」と「全世代型改革」の意義を強調してきた。 しかし、今回の見直しでも現役世代の支援金負担を抑制できるのは25年度時点で年830億円、1人当たりでみればわずか800円にすぎない。半分は事業主負担だから、本人の軽減効果は月に30円程度。これでは「若い世代の負担を和らげた」とはとても言えまい。「全世代型改革」を掲げながら、結果的に世代間の対立をあおっただけのようにも映る。所得基準の線引きの妥当性が問われよう。 厚生労働省の試算では75歳以上の平均負担増は年2万6千円という。心配なのは、ただでさえ新型コロナ感染を恐れて患者が医療機関を受診するのを避けがちなのに、受診控えに拍車が掛かって適切な医療を受けそびれてしまう恐れがある点だ。コロナ禍で収入減にあえぐ医療機関の経営にも打撃となりかねない。厚労省は注意深く影響を検証するべきだ。 もっとも、高額な医療費支払いに上限額を設ける「高額療養費制度」という仕組みがあるから、窓口負担が1割から2割になっても、長期入院や手術などの場合に支払いが単純に倍になるわけではない。また今回の法案では、実施から3年間は外来受診の負担増を月3千円に収める措置が盛り込まれ、受診控えなどに歯止めをかける工夫もみられる。医療を受ける側も頭に入れておきたい。 高齢者医療の安定的な給付には、一層の消費税率引き上げを含む負担増に正面から向き合う必要がある。与野党には長期的視野に立った国会論戦を期待する。
これからの小中高校教育の在り方について、中教審が答申をまとめた。小学校は学級担任がほぼ全教科を教えてきたが、中学のように各教科を専門の教員が教える「教科担任制」を5、6年生に本格導入することが柱だ。ほかにも、高校普通科の再編や、情報通信技術(ICT)への対応、いじめ対策、特別支援教育の充実などさまざまな課題の処方箋を並べた。 忙しくなるばかりの学校に、あれもこれもと丸投げしてはならない。問題解決の鍵は、学校が多忙な「ブラック職場」とされて志望者が減る中で、子どもの能力を引き出せる優秀な教員をより多く集められるかどうかだ。日本の将来を支えるため、国は人材確保に全力を尽くすべきだ。 答申は、2022年度をめどに教科担任制の本格導入を求め、英語と理科、算数を例示した。きめ細かな指導による授業の質の向上が狙いだが、実は、より本質的な面でも効果が期待できる。 担任が一日中、一緒の小学校は「学級王国」とも呼ばれる。担任が指導力を発揮できる半面、学級外からの干渉を認めずに絶対的な存在になる恐れがあるからだ。複数の目で評価すれば公平性が保たれ、児童の小さな変化にも気づける。担任の負担が軽くなり、一人で問題を抱え込んで学級崩壊を起こす危険も減る。先進的に教科担任制に取り組む地域では「児童がいろいろな先生に相談できる」「教員が空きコマに準備できる」といった効果が出ている。 ただ、小学校には英語、理科、算数に精通する教員は少ない。小規模で教員が少ない学校での実現も容易ではない。地域内の他の小中学校と専門の教員を融通し合うような工夫が求められる。 さらに21年度からは小学校の1クラスの上限を5年かけて35人とすることが決まった。既に35人の1年生を除けば、現在、2〜6年生は40人で、上限の一律引き下げは約40年ぶりだ。少人数化は教育現場の悲願で、財政難を理由に財務省が拒んできた。だが、新型コロナウイルス禍で教室の「密」を避けて感染防止を求める声が自治体や与野党から上がり、実現した。 小中で30人学級を求める文部科学省が財務省と折衝して今回の形に落ち着いた。よりきめ細かな指導を考えれば、効果を検証しつつ、さらなる少人数化を進めたい。 学級数が増える分、新たに5年で約1万4千人の教員が必要だ。公立小の教員採用試験の競争率は年々下がっている。受験者が減り、大量採用世代の退職で採用増が続いたためだ。約20年前は全国平均で12倍もあったが、19年度実施の試験は過去最低の2.7倍に。2倍を切る自治体も増えた。 答申は対策として、小中両方で教えられるように教員免許取得の要件を弾力化し、養成課程を共通にするよう提案した。 しかし、より根本的な解決策は、学校をいかにやりがいのある職場にできるかにかかっている。 精神的に病み、休職する教員は19年度に過去最多を更新した。多くの教員が疲弊する原因として、会議や報告書が増え、保護者のクレーム対応など本来業務以外に時間を割かれることが考えられる。労働環境を改善し、子どもに向き合う時間を増やせれば、人を育てる仕事の魅力が増し、志望者も増えるのではないか。そのために国は最大限の支援をする必要がある。
あまりにも不用意で不適切な発言だった。翌日の記者会見で謝罪し撤回したが、菅義偉首相は衆院予算委員会で「あってはならない発言」と断じた。 東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が、日本オリンピック委員会(JOC)名誉委員として出席したJOC評議員会で「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」と話した。 国内のメディアばかりか国際通信社、米国の有力紙、英国の公共放送など影響力の大きな海外メディアも女性を蔑視する発言だと批判的に取り上げた。 五輪は世界が注目する祭典だ。最高峰のスポーツ大会にとどまらず、平和や希望を感じ取れる貴重な機会と捉え、開催を心待ちにする人は多い。 その明るいイメージを何より大切にする国際オリンピック委員会(IOC)と、日本の政府、東京都、そして大会組織委は新型コロナウイルスの感染拡大がやまない中、1年間の延期を経て開催準備のラストスパートに入ろうとしている。 開会式まで半年を切ったこのタイミングで、このような発言が組織委の会長から出たことは大きな驚きだ。 森会長はJOCの枠組みの発言であって、組織委会長の職務と結びついたものではないと強調したが、もちろん、その言い訳は通用しない。 森氏は組織委にも女性の理事らは7人ほどいて、国際的な舞台での経験があり、的を射た発言をしている、とも話したが「女性というのは競争意識が強い。誰か一人が手を挙げて言うと、自分も言わないといけないと思うのでしょう。みんな発言される」などと語った。 JOCは女性の社会進出を加速しようとの世界的な動きに沿って、女性理事を増やし、その割合を全体の40%まで拡大する目標を掲げ、動き始めたばかりだ。目標値を定め、その達成を目指すやり方は世界基準となった。その取り組みに逆行する発言だったことで、JOC内部からも批判が上がる。 東京五輪の準備は無観客、もしくは無観客に近い規模であっても開催する方針が固まり、IOCの主導で政府、東京都、組織委は連携を強めている。しかし、さまざまな世論調査で浮かび上がってきた国内の市民の全般的な反応は、コロナ対策に全力を傾けるべきで、この夏の開催には賛成できないというものだ。 森会長の発言によって、東京五輪のイメージは傷ついた。それでなくても開催に懐疑的になっている市民は、組織委のトップに失望しているに違いない。 IOCは、森会長の謝罪と発言撤回を受け「決着した」との声明を出して火消しに回った。しかし、IOCと組織委それぞれの協賛企業は、社会の価値観に同調できない組織委のリーダーと五輪のイメージ低下を、そうやすやすと容認するだろうか。 発言内容には女性委員に限らず、会議で時間をかけて民主的な論議を深めることへの理解が感じられない。逆にそれを否定する考えがのぞく。 森氏は辞任する考えはないと言い切った。しかし、会長にとどまることでさまざまな悪影響が今後表れれば、身の処し方を再考する機会があるのではないか。会長として不適格で、発言は辞任に値する。
大井川和彦知事は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う県独自の緊急事態宣言を今月末まで3週間延長すると発表した。県内の新規感染者数が宣言前と比べて緩やかな減少傾向を示すなど一定の効果が見えていたが、期間中もコロナ患者の死亡が相次ぎ、重症者数も高止まりするなど医療提供体制の逼迫(ひっぱく)状況を解消できなかったためだ。 年末年始を挟んだ感染急拡大を受け、コロナ患者を受け入れる県内医療機関は依然として、病床や人員の厳しいやりくりが続く。政府の緊急事態宣言が10都府県で1カ月間延長されたことからも、県の宣言延長は妥当な判断と言える。一日も早い解除に向け、県内医療体制の逼迫解消を急ぎたい。そのためにも、新規感染者の減少と医療体制の強化、効率化に引き続き全力を挙げる必要がある。 県独自の緊急事態宣言の当初の期間は1月18日〜2月7日。今回の延長で期限は同28日までとなったが、感染状況などが改善されれば、期限を待たず解除される。期間中は引き続き、不要不急の外出自粛や飲食店の午後8時までの営業時間短縮などが要請される。 県内で感染「第3波」が本格化したのを受け、県は昨年11月末から国の指標を基に「感染拡大市町村」を指定し、外出自粛や酒類を提供する飲食店への時短営業を要請してきた。対象市町村は12月中に一時ゼロとなったが、年末以降再び増加。年明けには外出自粛を全県に拡大するなどしたが、感染拡大に歯止めをかけられず、県独自の宣言発令に追い込まれた。 県内の1日当たりの新規感染者は1月15日に最多の159人となるなど、1月中に100人を超えた日が6日あり、月間の感染者数は2372人に上った。累計の感染者は5日、5千人に達した。ただ、感染のペースは少しずつ緩やかになり、直近1週間(1月30日〜2月5日)の感染者数は2週間前と比べ4割減った。 一方で、入院患者数は宣言後もおおむね250〜280人の高い水準で推移。高齢者施設での相次ぐクラスター(感染者集団)発生などにより、重症者数はじわじわと増え、年明け以降の死者は36人に上る。県は感染患者の受け入れ病床を順次拡大し、5日以降、当初の目標を超える600床とするなど、各医師会と連携して懸命の対策を続ける。ただ現場には重い負担がのしかかり、コロナ以外の通常医療へも影響が出ている。 県の宣言延長に伴い、飲食店や観光など県内経済への深刻な影響も懸念される。時短営業継続により飲食店は経営悪化が避けられず、「水戸の梅まつり」など多くのイベントが延期・中止となる見通しだ。県は影響が大きい分野への経済支援を充実させるとともに、時短営業の協力金や取引先支援のための一時金について、国の宣言対象地域と同等の支援を国に継続して求めていく必要がある。 県民には引き続き「我慢の3週間」となる。コロナ慣れや自粛疲れもあろうが、宣言の効果は少しずつ出始めている。一人一人が危機感を持ち、3密回避やマスク着用などの対策を徹底することで感染拡大を少しでも抑えたい。 今回の延長に伴い、県はコロナ対策の判断指標を現状に合わせて修正した上で、宣言を全面解除する基準を示した。県民一丸となって感染抑止に努め、間もなく始まるワクチン接種を迎えたい。
2019年7月の参院選を巡り公選法違反の買収などの罪に問われ、一審東京地裁で有罪判決を受けた参院議員、河井案里被告が議員辞職した。全面無罪を主張したが、判決では夫で元法相の衆院議員克行被告が買収を主導して地元議員ら100人に計2900万円余りを配り、うち4人に対する160万円について共謀したと認定された。 河井前議員はコメントを発表。「これ以上争いを長引かせ、混乱を生じさせるのは本意ではない」とし、控訴しない考えを示した。自身の有罪確定などで失職する前に自ら進退を決した形になったが、検察側主張を覆せる見込みはほぼないとみられ、日に日に批判も厳しさを増す中、ほかに選択肢はなかったろう。辞職は当然だが、最後まで公の場で説明責任を果たさなかったのは、国民を代表する国会議員として許されない。さらに買収事件の背景に当時の安倍晋三首相や菅義偉官房長官による強力なてこ入れがあり、その中で夫妻側に自民党本部から提供された1億5千万円もの選挙資金の使途すら明らかになっていないことを忘れてはならない。 その大部分は国民の税金から支出された政党交付金だった。これが金権選挙の引き金になったという疑念が拭えない。自民党は安倍氏や菅首相の関わりも含め資金提供の経緯や使途を明らかにするなど、党としての責任を果たす必要がある。 克行被告は首相補佐官などを務め、安倍氏とは近い関係にあった。改選2議席の広島選挙区で自民党本部が19年3月、地元県連の反対を押し切り、現職に続いて2人目の候補として河井前議員を公認した後、安倍氏の秘書らが広島入り。河井前議員の陣営スタッフと行動を共にし、地元議員や有力者、企業などを回って支援を呼び掛けた。また克行被告は安倍氏秘書らのスケジュールや、広報誌の費用、陣営スタッフの人件費などを記した資料を作り、安倍氏に持参したとされる。 その年4月から6月にかけて、河井前議員が支部長の政党支部や克行被告の政党支部に合わせて1億5千万円が党本部から振り込まれた。現職側への入金と10倍もの開きがあった。選挙戦では安倍氏や菅氏が河井前議員の応援演説に駆け付け、支援を訴えた。克行被告は菅氏にも近かった。結果、現職は落選し、河井前議員は初当選したが、党本部からの1億5千万円のうち、1億2千万円に上る政党交付金の使途が今もって分からない。税金が原資の交付金は使途の報告が義務付けられているが、夫妻の両政党支部は検察当局に資料を押収されたことを理由に使途を記載せず、報告書を広島県選挙管理委員会などに提出した。 自民党も、二階俊博幹事長が「党としては細かく追究しておらず、承知していない」とした。しかし離党したとはいえ、党に所属していた時期に買収に使われた疑いが指摘されている以上、きちんと調査し解明、公表する責任が党にはある。「政治とカネ」の問題で、菅氏は説明を政治家任せにしてきた。放送事業会社に勤める長男が所管官庁の総務省幹部に法に抵触する可能性のある接待をしたとされる問題でも「長男には確認していない」などと人ごとのような答弁に終始した。このままでは政治への国民の信頼回復が一層遠のくことになりそうだ。
日本が主導した環太平洋連携協定(TPP)に対し英国が加入を申請した。実現すれば12カ国目の加盟国となり、アジア太平洋を基盤とした貿易協定は規模を拡大し、欧州にも足場を持つことになる。韓国など参加に関心を示している国々に対し、前向きな対応を促す効果も期待していいだろう。英国の申請を歓迎したい。 日本は今年、TPPの意思決定機関であるTPP委員会の議長国で、英国の加盟交渉でリーダーシップを発揮できる立場にある。自由貿易圏拡大の好機ととらえ、新加盟を成功裏に導き、さらなる拡大、進化につなげたい。 TPPは元々、「対中国包囲網」の狙いも含めて米オバマ政権が主導していたが、「米国第一主義」を掲げ2国間交渉を優先したトランプ政権が離脱。その後、日本が中心となって交渉をまとめ2018年に発効した。シンガポール、カナダ、ニュージーランドなど計11カ国が加盟し、世界の国内総生産(GDP)に占める比率は13%に上る。 バイデン政権は当面、新型コロナウイルス感染拡大による景気低迷への対応など内政へのてこ入れに忙殺されるが、落ち着いてくれば、通商政策の再構築に着手するだろう。その際、成長が有望視されるアジア太平洋の経済圏を高い自由化水準でカバーするTPPへの復帰は、優先度の高い政策課題になるはずだ。 米国が加われば、TPPは規模拡大のみならず、抜群の安定性も得ることになる。関係閣僚間などでの情報交換を積極的に進め、TPP復帰を求める働きかけを強化していきたい。 貿易で米国と対立関係にある中国もTPPへの参加意欲を表明している。しかし国有企業や知的財産の扱いなど基本的な経済、産業政策で、中国はTPPの高い自由化水準からはほど遠く、どこまで現実的な政策として検討するつもりなのか判然としない。国際政治上の戦略的な駆け引きの可能性もある。 いずれにしても、米国の国際協調路線への復帰や欧州連合(EU)から離脱した英国の通商政策の強化を背景に、各国間の通商交渉は活性化していくだろう。コロナ禍の収束傾向がはっきりしてくれば、さらに加速するはずだ。 日本は米国抜きのTPPをまとめ、EU、英国との間でも、それぞれに経済連携協定(EPA)を締結し、この分野では一日の長がある。自由貿易圏拡大に向けた国際的な責任を自覚するべきだろう。米中間で繰り広げられた報復関税による貿易摩擦が世界経済に及ぼしたダメージはまだ、記憶に新しいところだ。 国際通商のルールは本来、世界貿易機関(WTO)が制定し統一的に運用するはずだが、現在は米中貿易摩擦の余波などから機能不全の状態が続く。各国は個別に2国間協定や多国間協定を締結し、その中で定めたそれぞれのルールで貿易を行っている。 こうした中、農産物、工業製品などの関税削減・撤廃のほか、電子商取引、知財保護などでも先端的なルールを盛り込んだTPPは事実上、多国間貿易協定の世界標準として機能する可能性もある。将来、正常化したWTOが実効性のある新たな通商ルールの策定に乗り出す際、そのひな型となるように、さらに磨きをかけていきたい。
政府は新型コロナウイルスの緊急事態宣言を栃木を除く10都府県で1カ月間延長した。高齢患者、重症者数が高止まりし医療提供体制の逼迫(ひっぱく)が改善していないためだ。感染力が強い変異ウイルスの拡大も懸念されており、政府は「最後のとりで」である医療体制の強化、効率化を早急に進めなければならない。 宣言が出ていた11都府県の1日までの1週間の新規感染者数は、その前の1週間を「1」とすると、栃木「0・61」、東京「0・73」、岐阜「0・77」、兵庫「0・7」となるなど、全ての地域で前週より減少した。厚生労働省の専門家組織は、今冬の第3波の要因とされた20〜50代の若年世代の飲食を通じた感染が減少していると状況分析する。飲食店の営業時間短縮など「急所を押さえた対策」が一定程度成果を上げたことは積極評価したいが、なお道半ばだ。収束に向け外出自粛、時短営業、テレワークなどの要請が緩むことがあってはならない。 一方、重症者や死亡のリスクが高い80、90代など高齢者への感染拡大は止まっていない。若者から感染するとみられる高齢患者らは遅れたタイミングで増えるからだ。この影響で、1日公表データでも栃木、京都を除く9都府県は判断指標の一つ「確保想定病床の使用率」が50%超と「ステージ4」(爆発的感染拡大)のままだ。特に東京など3都県は70%以上で深刻と言わざるを得ない。 菅義偉首相は1月7日、4都県にまず宣言発令した際に「1カ月後には必ず事態を改善させる」と述べた。成果が出なかった場合について「仮定のことは考えない」とまで言った。その首相が今回「もうひと踏ん張りしてもらい、感染減少を確かにする」として延長した。1カ月で解除できなかった政治的責任は当然ある。対策の不備を早急に検証し、次に生かすことで責任を果たすべきだ。 政府のコロナ対策分科会が提言した宣言延長後の対策強化も医療関連が多くを占めた。「医療界との連携で病床・医療従事者を確保」「自宅・宿泊療養、待機中の患者への支援」が2本柱だ。特に病床確保についてはコロナ専門病院、回復期の患者の転院を受け入れる後方支援病院、さらには臨時医療施設の整備を国と都道府県に求めた。いずれも従来難航してきた課題だが、宣言解除に向け今こそ進展させたい。 東京では1日、入院患者2899人に対し、入院・療養先を調整中が3472人だった。病床逼迫を防ぐには、医療体制強化の一方、「入院予備軍」である新規感染者を減らす基本的な感染症対策の徹底に結局は立ち返らざるを得ない。 その点で首都圏4知事は先に「宣言を延長する場合は、休業要請などより強い措置を検討せざるを得ない」と表明した。「限定的、集中的」(菅首相)として1カ月に絞った飲食店への時短営業要請がさらに強化されて1カ月続くとなれば事業者には死活問題だ。政府は事業者への支援も同時に強化する必要がある。 政府は、感染状況が「ステージ3」相当まで下がれば宣言を解除するとしている。しかしステージ3とは「感染急増」の状態を指し、収束とは程遠い。分科会が提言の中で指摘するように、宣言が解除できたとしても「ステージ2(感染漸増)」まで対策を続行すべきなのは言うまでもない。
新型コロナウイルス特別措置法、感染症法の改正案は修正され、当初の政府案にあった入院拒否への懲役刑など刑事罰は行政罰の過料となり3日にも成立する。営業時間短縮命令に従わない事業者への過料は減額した。 犯罪的行為への制裁が本来の罰則だが、過料であれ科されるのは生活や雇用のため営業を続ける事業者や家庭の事情で入院できないコロナ患者らだ。罰則があることで検査を避けたり陽性判明を隠したりし感染を拡大させてしまう逆効果も心配される。政府は効果を検証し必要なら軌道修正をためらうべきではない。 感染症法は、ハンセン病患者らを隔離し差別や偏見を生んだ歴史を「教訓として生かす」と前文に明記する。これに逆行するように、政府は改正案へ「入院措置を拒んだり入院先から逃亡したりした者は1年以下の懲役か100万円以下の罰金」「保健所の行動歴調査を正当な理由なく拒んだり虚偽回答したりした者は50万円以下の罰金」と刑事罰を盛り込んだ。 また現行特措法は、私権制限を「必要最小限」と規定し、休業や時短の要請・指示に応じない事業者への罰則を設けていない。これに対し政府は「罰則で強制力を付与し実効的にする」(菅義偉首相)として改正案に緊急事態宣言下と、その前段の「まん延防止等重点措置」下で時短営業命令を拒んだ事業者へそれぞれ50万円以下、30万円以下の過料を設けた。 「保護すべき感染者や事業者を罰則で威嚇する」(日弁連)と反発が広がり、与党議員の銀座のクラブ深夜訪問、厚生労働省の専門部会で罰則に慎重・反対意見が多数を占めたことが判明し法案は野党要求で大幅修正された。時短営業に応じた事業者らとの公平のため過料はやむを得ない面もあるが、過料も罰則であり本来はない方がいい。コロナ禍の日本は感染者や医療従事者への差別、「自粛警察」など同調圧力が顕在化している。入院拒否に罰則を設けることでこの風潮が強まりはしないか。社会防衛第一の感染者排除から人権尊重に転換した感染症法の精神を再確認し、今回の改正により人権侵害が広がらないよう政府は注意を怠るべきではない。 疑問、懸念はまだある。法律違反の有無や保健所調査を拒む「正当な理由」は誰が確認するのか。刑事罰削除で警察の直接関与は想定されなくなった。既にパンク状態の知事や保健所に、さらに行政罰の調査、執行まで担わせるのは感染対策上、本末転倒ではないか。 経済的理由で時短営業に応じられない人、家族の介護や育児のため入院できない感染者に協力を求めるには、財政支援、医療体制強化、介護・育児支援で協力しやすい環境を整える方が強制力より有効ではないか。特措法改正案は事業者支援を国や自治体に義務付けたがなお不十分だ。私権制限を強める以上、現状では実施していない損失額に応じた補償が必要との声も根強い。政府は実現可能性を追求すべきだ。 新設のまん延防止措置には知事の命令権や罰則が規定されたが、実施は行政裁量に委ねられ国会監視も曖昧だ。一定の要件、手続きが必要な緊急事態宣言を発令せずに強制措置が取れ、権力行使に歯止めが効かない恐れもある。危機の中で急いだ法改正はあらが目立つ。施行後も慎重な運用を強く求めたい。
バイデン米大統領は就任早々、トランプ前大統領が離脱した地球温暖化対策のためのパリ協定に復帰。気候変動対策を米国の外交と国家安全保障政策の柱に据えるとの大統領令などに署名した。 11月に英国で開かれる国連気候変動枠組み条約の第26回締約国会議(COP26)に向け、米国の新たな温室効果ガス削減目標の検討にも着手。欧州連合(EU)も中国も協定下での2030年の削減目標上積みを表明しており、温暖化対策強化が世界の大きな流れとなるのは確実だ。 日本は、菅義偉首相が50年に温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「ネットゼロ目標」を掲げはしたものの、そこに至る道筋として重要な30年の削減目標上積みに関する国内の議論には遅れが目立ち、このままでは世界の流れから取り残されることになりかねない。温暖化対策の根本的な改革が急務だ。 パリ協定は、温室効果ガスの排出を減らし、産業革命以来の平均気温の上昇を2度より十分低くし、1・5度に抑えるよう努力するとの目標を掲げている。 日本など多くの国が50年の排出ゼロを掲げるのは、それが1・5度目標の実現に不可欠だからだ。だが、目標達成にはそれだけでは不十分で、30年の排出量を10年比で45%程度減らすことが求められる。 一方で現在、パリ協定の下で各国が表明している削減目標では2度目標の達成さえおぼつかない。COP26までに各国が削減目標の強化を求められているのはこのためだ。既にEU諸国は、30年に1990年比で40%減という目標を55%にすることで合意。英国は68%とさらに野心的だ。 これに対して「30年度に13年度比で26%減」という現行の日本の目標は1990年比では18%、2010年比では23%程度と大きく見劣りする。 50年の排出ゼロを実現するためには、現在の経済や社会の姿を根本から変えるための取り組みを今すぐ始めることが必要で、そのためには30年の目標深掘りが欠かせない。だが、経済産業省を中心に始まった目標達成の道筋に関する議論は、それにはほど遠い。 その典型例が「参考値」として示された、50年に再生可能エネルギーで電力の50〜60%を賄うという目標だ。残りは水素利用や二酸化炭素の回収・隔離など、現在は実現の見通しが立っていない新技術や原子力などでカバーするという。 高額の炭素税のように二酸化炭素の排出に価格をつけることで排出を減らす「カーボンプライシング」の議論も、環境省と経産省が別々に進めることになり、早期に導入される見通しはない。 今の経済や社会の根本的な変革に取り組むのだという覚悟はまったく感じられない。 多くの科学者は、今後10年間の取り組みが将来の温暖化の動向を大きく左右し、地球の環境と人類社会の姿を決めると指摘している。 日本の政策決定者にはそのような認識も危機感も希薄だ。 既得権益に固執して変化を阻もうとする勢力からの抵抗を排し、社会と経済の大転換を促すための野心的な削減目標と、それを実現するための思い切った政策を導入すること。それこそが今、世界第5位の大排出国である日本のリーダーに求められている。
新型コロナウイルス感染症の大流行を受け地方行政に関連する幾つかの潮流が生まれた。一つは、国と市町村との間にあって存在感が乏しかった都道府県の役割が再評価されたことだ。特に知事の主導力が注目された。知事らは昨年から感染拡大防止の最前線に立っている。営業自粛を求められた事業者らと向き合い、休業補償などの支援にもいち早く動いた。コロナ特別措置法の改正も含め対策の現場を抱える知事側の提案が国に採用される例も目立った。 ある自治体が住民目線で新しい対策を始め、うまくいけば他の自治体も展開。自ら政策を考え実践できる多様な自治体があるからこそ可能になることだ。コロナ対策を通じ地方自治の重要性が再認識されたとも言える。 地元の新聞やテレビを通じ対策を訴える知事らは、住民には首相より頼もしい存在に映った。コロナ対策を陣頭指揮した各知事を比較しランキングするメディアもあった。北海道、東京都、大阪府の知事らの評価が高く、競争意識をあおった面もあっただろう。 知事らが進める政策を住民が真剣に受け止め、比較しながら監視、評価するようになった。これをコロナ以外の政策にも広めることができれば、住民と行政の良い緊張関係が生まれる。それを通じて地方自治が活性化することを期待したい。 一方、緊急事態宣言の再発令の経緯を見ていると、首都圏の知事らが病床の確保や飲食店の時短営業などの対策をどこまで主体的に進めてきたかは疑問だ。ワクチン接種では国の指示を待つのではなく、自治体独自の工夫を重ねてほしい。コロナ禍では、一律10万円の給付金支給に時間がかかるなど国と同じくデジタル化の遅れが自治体の課題として浮かび上がった。自治体ごとに少しずつ異なる情報システムの標準化は、相互の連携を容易にしてコストを下げるために不可欠だ。 政府は通常国会に関連法を提出する。インターネットを通じて、受けられる住民サービスの案内を一人一人に提供する「プッシュ型行政」も次の課題である。行政コストの低減と住民サービスの向上策としてデジタル化を急いでほしい。 リモートワーク普及に伴い「3密」になりやすい大都市から人口流出が始まっている。人口移動報告によれば、東京都は6カ月連続で転出超過となった。地方では経済界と共同してサテライトオフィスの整備など受け皿をつくる動きもある。 菅義偉首相は「地方を大切にしたい、日本の全ての地方を元気にしたい」などと就任後初の記者会見で述べたがコロナ対策に追われ地方創生どころではないだろう。自治体は移住してくるIT専門家らさまざまな人材を生かし、経済振興につなげることも考えたい。 コロナ禍は観光や飲食など感染症の影響を受けやすい産業を直撃した。今後は感染症だけでなく、巨大地震や大型台風などの発生も予想される。こういった災厄の後、どのように地域の経済を早期に立ち直らせるのか、新しい産業をどう育てるのかなど、地域の持続可能性を高める計画を事前に練っておくべきだ。 自治体が主導して「新次元の分散型国土」(全国知事会)を形づくるチャンスである。知事にはコロナ対策と合わせて、もっと戦略的に取り組むよう提案する。
菅義偉首相は、正式に就任したバイデン米大統領と初めて電話会談し、日米同盟を強化し、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて緊密に連携する方針を確認した。新型コロナウイルス対策や脱炭素社会の実現など地球規模の課題についても協力して取り組むことで一致した。 極めて当たり前の合意内容だが、それでも新鮮味があるのは「米国第一主義」を前面に国際社会の分断を招いたトランプ前大統領から、「同盟関係の修復」を掲げるバイデン氏に米国の基本姿勢が変わったからだろう。 地球温暖化対策の「パリ協定」に復帰する大統領令への署名などバイデン氏の政策転換の動きは早い。ただ、バイデン政権が国内外の分断を修復していくには一定の時間が必要だろう。日本政府こそがこの好機を捉え、国際協調の再構築を主導していくよう求めたい。日本の安全保障を担保するには、同時に北東アジア地域の平和と安定に取り組んでいく必要がある。米中対立が深刻な事態に発展しないよう双方に働き掛けていく戦略的な取り組みも求められる。 日米両国は「自由、民主主義、人権、法の支配などの基本的価値」を共有する。気になったのは、今回の会談に関する日本側の説明で、この言葉への言及がなかったことだ。当然のことと考えているのかもしれないが、ここ数年の日米関係は本当に基本的価値を尊重していただろうか。トランプ氏は民主主義のプロセスや法の支配を公然と軽視し、日本政府もその政権の要求に従ってきたのが現実ではなかったか。菅、バイデン関係では、日米同盟の前提として、基本的価値の共有を改めて確認し、連携の基礎とすべきだ。 バイデン氏は電話会談で、沖縄県・尖閣諸島が米国による防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条の適用対象であることを改めて明言。両首脳は米国のインド太平洋地域でのプレゼンス(存在感)強化が重要だとの認識でも一致した。尖閣諸島周辺での航行に加え、西太平洋、インド洋へと軍事力を拡張する中国への対抗を念頭に置いたものだろう。 ただ、日本の外交は「対中包囲網」一辺倒では成り立たない。日米会談がどういうメッセージとして中国に伝わるのかにも留意したい。 両首脳は北朝鮮の非核化に向けた連携でも一致し、菅首相は日本人拉致問題の早期解決への協力を求め、バイデン氏も支持した。対北朝鮮では日米韓3国の連携が不可欠だ。問題は日韓の関係だろう。韓国の文在寅大統領は年頭の記者会見で日韓関係の改善に意欲を示した。日本側もこれに応える知恵を絞りたい。 日米同盟の在り方も常に点検が必要だ。トランプ氏は安保条約が不公平だと主張し、巨額の米国製防衛装備品の購入を迫るなどの圧力をかけた。日本側はそれに従って防衛費を増額してきたのが現実だ。米側が増額を求めていた2021年度以降の在日米軍駐留経費負担(思いやり予算)の交渉は仕切り直しし、冷静に進めたい。 新型コロナ対策や気候変動などの地球規模の課題は、主要国が協調し、途上国を支援しながら取り組まなければならない。コロナ禍で外交は制約を受けている。だが、その中でも果たせる役割はある。日本外交の積極的展開を求めたい。
新型コロナウイルス感染症を食い止める切り札とされるワクチンの供給が、日本でも間近に迫っている。医療従事者や高齢者、持病などでリスクの高い人たちにどれだけ早く届けられるか。世界と軌を一にし、国を挙げた総力戦となる。医療機関や自治体の負担は既に過大であり、接種事業では国が主導的な役割を果たすべきだ。 早期接種に最も重要なのは、ワクチン自体の確保と配分だ。供給遅れが各国で発生しており、契約通り遅滞なく供給されるよう、各社に繰り返し働きかける必要がある。 日本が確保したワクチンのうち、米モデルナと英アストラゼネカの2社分は国内治験が始まったばかりで、承認は春以降の見通し。20日に契約を結んだ米ファイザーが頼りだ。ただ、同社製品は超低温管理が必要な上、いったん温度を上げると5日で使い切らなければいけない。新設するシステム「V-SYS」を充実させ、適時適切な配分と流通を図りたい。 厚生労働省の自治体説明会の資料では、膨大な仕事が列挙された。 例えば都道府県なら卸売業者の選定と契約、医療関係団体との調整など。市町村では接種会場の設定や医療者の確保、接種のための住民台帳の整備、接種券・接種済み証の印刷と発送などだ。 人口10万人、うち65歳以上の人が2万7千人いる都市で週に6千回の接種が必要だと試算されている。毎日千人近い接種をこなす慌ただしさは容易に想像できる。厚労省が都道府県と市町村それぞれに、2月末までに必要な人員募集を進めるよう呼び掛けたのも、不足が見込まれるからだ。 一方で、自治体の規模や事務処理量には大差がある。離島や中山間地など地理的に集団接種が難しい地域を抱える自治体ではなおさらだ。国から具体的な方策を助言し、必要な経費、資機材の支援にも万全を期したい。 流行の初期、マスクや医療現場の防護具が不足した。ワクチンを保管する冷凍庫のほか、ドライアイスや注射器などの資機材のどれも、不足すれば直ちに接種に支障がある。安定供給体制に不安はないか、事前に精査し、必要に応じて増強しておくべきだ。 それでも事業遂行の過程では、供給や流通、接種事務のさまざまな場面で問題が浮上すると考えておきたい。あらかじめ懸念材料を洗い出し、市町村間の連携や国によるてこ入れ策を整えておく。万が一にも地域間で不公平感が生じることがあってはならない。 日本は先進国の中でも対応が遅れたが、裏を返せば、接種開始の段階で少なくとも数千万人に接種した結果と効果を見極められる立場にある。それらの先行例によりワクチンの感染抑制効果が示され、接種への理解が進むことが期待される。 気掛かりは、依然として多くの人が接種をためらっていることと、そのことへの国の危機感があまりにも薄いことだ。 接種は義務ではなく、ワクチンによる感染抑え込みの成否は、ひとえに市民の協力による接種率の向上にかかっている。 確保したワクチンには高い効果が見込まれ、副反応は極めてまれなこと、副反応には備えと対処が可能なことなど、科学的に正しい情報を繰り返し発信し、接種事業への信頼を得る。それが現政権に課せられた責務であろう。
新型コロナウイルスの感染が世界で広がり続ける中、国際オリンピック委員会(IOC)はたとえ無観客でも、1年延期した東京五輪をこの夏に開催したいと強い意欲を示した。 バッハ会長は開催まで半年となったタイミングで、約100人のIOC委員、選手を派遣する206の国内オリンピック委員会、競技運営に責任を持つ33の国際競技連盟に、その意向を説明し了解を取り付けた。 再延期は技術的に極めて難しい。中止はIOCの深刻な財務状況悪化に直結するから論外。五輪ファミリー全体で基本方針を確認する必要を感じたのだろう。 IOCは政府、東京都、大会組織委員会の日本側3者にも観客の規模について「無観客」「50%」「上限なし」の3案を検討するよう要請した。 これまでの流れから、IOCは世界保健機関(WHO)の、日本側は感染症専門家の意見を聞きながら、連携して観客規模を決めるとみられる。 開催に懐疑的な見方は国内外で多い。共同通信の全国電話世論調査では、五輪・パラリンピック開催について「中止すべきだ」と「再延期すべきだ」は合わせて80.1%だった。 しかし、IOCはこうした意見を自身の政策決定に反映することはないようだ。ここは釈然としない。 IOCが耳を傾けるのは、自分たちの最大の財産でもある五輪選手の声だ。その発言には、延期が決まった昨年とは明らかに違う姿勢がみられるようになってきた。 体操の内村航平選手は市民と五輪関係者の両方を念頭に置いたのだろう。「できないとは思わないで、どうすればできるかという方向に考えを変えてほしい」と昨年秋の国際大会で訴えた。 選手の健康保護の観点から開催中止を昨年春に唱え、IOCを突き動かすきっかけを作ったギリシャの陸上金メダリスト、ステファニディ選手は今は「無観客でも開催の方が中止よりはいい」と話す。 日本側はコロナ対策費を含め総額1兆6千億円を超える予算を組み、開催準備をほぼ整えている。中止となれば、投資の大半は無駄になり、波及効果を含めた経済的な損失は極めて大きなものになるだろう。日本側もなんとか開催の実現にこぎつけたいに違いない。 五輪の準備は巨大な歯車を回すようにして進む。組織委は数千人の人員が活動している。都と国、民間企業から募った人員をこれ以上、出向元に戻さずに留め置くわけにはいかないのだろう。 コーチらを含め約1万8千人を収容する選手村は、本来ならば既にマンションとして市民の生活基盤となっているはずだった。都内の臨海部で同様の規模の土地を新たに確保するのは至難の業だ。 都の医療体制は感染対応で極めて厳しい状況となっている。約1万1千人の五輪参加選手の感染対応は何とか進められても、数百万人の五輪観戦客の感染対策と医療ケアは難しくなった。 この夏に五輪を開催できるとすれば、感染が収束に向かい、医療体制を脅かす恐れがない無観客、もしくは無観客に近い規模が条件ではないか。 こうした状況の中、自分はどう考えるのか。人生を左右するかもしれない今こそ、もっと多くの選手が声を上げるべきだ。
経済対策の財源となる2020年度第3次補正予算案の国会審議が始まった。政府、与党は月内の成立を目指している。しかしこの予算案は、新型コロナウイルスの感染急増で11都府県へ緊急事態宣言が出された現下の厳しい状況を織り込んでいない。感染防止策の一方で、経済活動を促す施策が多数盛り込まれており現状にそぐわない。感染対策へ軸足を置き、柔軟に組み替えるべきだ。 経済対策と補正予算案は昨年12月、(1)新型コロナの感染拡大防止(2)コロナ後の経済構造転換(3)防災・減災・国土強靱(きょうじん)化-を3本柱に策定。対策のために19兆1761億円の歳出を手当てした。 問題はその中身である。医療機関の支援やワクチンの接種体制整備など感染防止へ4兆3千億円余りが確保されたのは結構だ。しかし、それ以上の経済刺激策が含まれている点は看過できない。 観光支援事業「Go To トラベル」に約1兆300億円、飲食業支援の同イートに約500億円、訪日観光客の復活へ向けた事業に650億円といった具合である。 だが感染急増を受けてGoTo事業は事実上、一時的に停止。緊急事態宣言でさらに停止期間が延長されている状況だ。 菅義偉首相は景気重視のあまり昨年末にGoTo停止の判断が遅れ、結果的に感染拡大を防げなかった。その点を省みれば轍(てつ)を踏まない施策の見直しが求められよう。 補正は本来、「特に緊要となった経費」(財政法)のため編成するものだが、そう思えない中身も目につく。例えば経済対策で創設が決まった「大学ファンド」だ。 世界レベルの研究を支援するため官学民の拠出で10兆円規模の基金をつくり、その運用益を大学へ助成する仕組み。手始めに3次補正から5千億円を拠出するが、これだけでは足らず21年度に4兆円を融資する計画になっている。 つまり、来年度予算が成立するまで事実上動きだせないのが実態なのである。このような予算は補正でなく、最初から本予算で手当てするのが筋ではないだろうか。 一方で、重要ながら3次補正案に含まれていない予算がある。 梶山弘志経済産業相は今回の緊急事態再発令に合わせて、時短営業を求める飲食店の取引先などに最大40万円の一時金を支給する方針を表明した。だが、この財源は3次補正案にないため、昨年の2次補正で確保した家賃支援給付金の残りを流用して充てる考えだ。 休業や時短要請の実効性を高めるには補償が欠かせない。その重要性と予算執行の透明性を考えれば、きちんと3次補正案に盛り込み国会審議で説明すべきだろう。 日本で初感染が確認されたのは約1年前。昨年の通常国会で安倍晋三首相(当時)は、野党が求めた感染対策のための20年度予算案の組み替えを拒否したが、事態悪化でその後補正を編成。一律10万円給付を巡り、組み替えを余儀なくされた。 過去には、湾岸戦争に伴う多国籍軍への追加資金協力のため、1990年度第2次補正予算案と91年度予算案が修正されたことがある。 菅首相は野党の補正組み替え要求に応じない姿勢だ。しかしコロナが近代史に刻まれる災禍であることを考えれば、予算案見直しに応じないかたくなな姿勢は国民の理解を得られまい。
世界で最初に新型コロナウイルス感染症の発生が確認された中国武漢市の都市封鎖から1年。今なお各国で感染拡大の勢いは強く、世界の感染者数は約1億人に迫り、死者数は200万人を超えた。 強権発動でコロナを基本的に抑え込んだ中国の習近平国家主席は新年のあいさつで「コロナの影響を克服し、防疫と経済発展で重大な成果を得た」と自賛。国産ワクチンを発展途上国などに提供して国際社会で影響力の拡大を図る。 世界保健機関(WHO)の独立委員会はコロナ対策を検証した中間報告で、中国の初期対応の遅れを指摘した。中国は報告を謙虚に受け止め、感染対策を再点検して情報を公開、世界の感染対策にも積極的に協力し、国際責任を果たすべきだ。 武漢市当局は一昨年末にウイルス性肺炎の発生を初公表したが、習氏がコロナ制圧へ大号令をかけたのは昨年1月20日で、武漢封鎖はその3日後。対応の遅れは市当局が政府への詳細な報告を遅らせたり、隠したりしたためとみられる。 昨年1月の春節(旧正月)、中国政府は国民の海外への団体旅行を禁止したが、個人旅行は容認した。このため中国から世界へコロナが広がった可能性も大きい。 独立委の中間報告は「中国の保健当局は昨年1月、より強力な公衆衛生上の措置を取ることができたはずだ」と指摘した。中国外務省は「早期の発見、隔離、治療により、世界の対策のために時間を稼いだ」と反論したが、国際社会の理解は得られまい。 WHOは昨年1月22日に初の緊急委員会を開催したが、緊急事態宣言を出したのは30日。中間報告は宣言が遅れた「理由が不明」とも指摘。WHOのテドロス事務局長は宣言前に訪中した際、習氏から慎重な対応を求められており、武漢封鎖など必要な措置を取るまで中国に時間的な猶予を与えた疑念は拭えない。 さらにWHOによるパンデミック(世界的大流行)の表明は3月11日までずれこんだ。中国寄りとされるWHOは中立性を欠いた不合理な対応がなかったか、真摯(しんし)に自省する必要があろう。 中間報告は「コロナを巡る米中対立」「多数の国が警告を無視」「WHOの権限不足」などの問題点も列挙した。5月の最終報告までにさらに深く検証すべきだ。 今も河北省石家荘市などで都市封鎖が続くが、中国は外出や移動など国民の行動を徹底的に制限し、感染拡大を封じ込めた。感染者数は約9万8千人、死者は約4800人と日本より少ない。 ただ、強引な手法には市民の不満も根強い。地元作家の方方さんはインターネットで公開した「武漢日記」で当局の情報隠蔽(いんぺい)や強権的手法を批判。元弁護士で記者の張展さんは「市民の行動や自由を制限するのは違法」と考えネットで主張し、公共秩序騒乱罪で懲役4年の実刑判決を受けた。 「中国ウイルス」と呼んで対応を批判する米国に対し、中国は「発生源は武漢とは限らない」と反発してきたが、説得力に乏しく、強弁にしか聞こえない。今月中旬、WHOの国際調査団が武漢入りした。今後、中国側の専門家と合同でウイルスの起源や感染拡大の経緯を検証する。中国は調査に全面的に協力して、包み隠さず真相を明らかにするべきだ。
「焼き芋」が海外でも東南アジアを中心に人気を集めているという。健康や美容の効果が注目されて味のいい焼き芋への人気が高まるとともに茨城県産サツマイモの輸出が加速。県は「これまで取り組んできた東南アジアと北米での販路を拡大するとともに、放射能の規制が緩和されて輸出ができるようになった香港でも一層売り込みを強めたい。加えて欧州にも挑戦していきたい」と意気込んでいる。 県営業戦略部農産物輸出促進チームによれば、サツマイモを含む本県産青果物の輸出量は、2015年度は40.7トンだったのが、19年度には502.0トンに増加した。このうち多くの割合を占めるサツマイモの輸出量は約20倍に急増しているといい、輸出青果物全体の拡大をけん引している。本県からのサツマイモ輸出は15年度ごろから本格的に行われ、主な輸出先はタイやカナダ、マレーシアなどとなっている。 輸出急増の背景には、貯蔵技術の向上に加え、焼き方や食べ方の提案や高品質の芋の特徴などの情報提供を含めた販売戦略がある。サツマイモを戦略商品と位置付ける県も「(県内生産者は)簡単にはまねできない生産と貯蔵、熟成のノウハウを持っている」と説明する。 東南アジアなどでの焼き芋人気は、県が輸出業者などに委託して地元スーパーに焼き芋機を持ち込んで実演販売するなど、食べ方を提案していく中で人気に火が付いた。さらに「品種改良が進み、甘くてホクホクしたものやねっとりしたものができ、芋のバリエーションができた」ことも人気上昇に一役買った。 東南アジアでは焼き芋という食べ方はこれまでないといい、日本の焼き芋を食べたら「おいしくてびっくりした」との反応が寄せられたという。スーパーの店頭に置いた焼き芋機で食べ方を知ってもらい、家庭ではオーブンで焼いて食べる方法を提案。甘くてねっとりした「紅はるか」や「シルクスイート」が人気だ。 一方でサツマイモが不足している現実も県内関連業者の聞き取り調査で浮き彫りとなっている。このため県は旺盛な輸出や国内需要を受け、生産拡大を促している。耕作放棄地を活用した生産を支援するなど、20年度の作付面積は前年度比111ヘクタール増の6971ヘクタールに広げた。規模拡大で農地を貸し出す農家への協力金も交付している。 輸出に取り組む企業は県内に数社あり、かすみがうら市のサツマイモ卸売問屋「ポテトかいつか」もその一つ。17年ごろから本格的に輸出に取り組み、年間約100トンのサツマイモをタイや米国、オーストラリア、シンガポールに輸出している。人口減少に伴う将来的な国内需要の伸び悩みを念頭に「先行投資的に行った」と説明。高齢化する生産農家を支援しながらサツマイモの増産に取り組み、輸出先を拡大する計画だ。 江戸時代には飢きんの際に多くの命を救い、戦前戦中の食糧難でも国民を救ったサツマイモはいま品種改良も進み、健康や自然志向の消費者に支えられて需要が伸びている。こうした状況を追い風に県は「国内需要が高まっているのに伴い、東南アジアを中心に焼き芋ブームが起きている。さらに生産を伸ばしたい」としている。焼き芋という日本の食文化を広め、サツマイモ生産を通して本県農業を支えていきたい。
核兵器の開発や製造、保有、使用、使用の威嚇などを包括的に禁じる核兵器禁止条約が発効した。核兵器を「絶対悪」とみなす人間道徳の高みから、抑止力を含む核の存在意義自体を全面否定する国際法は初めてだ。 その原点は、人類で唯一、原爆攻撃を受けた広島、長崎の被爆体験だ。表面温度数千度の火球が突如目の前に現れ、爆心地周辺にいた者は巨大な爆風に飛ばされ、焼き尽くされる。わが身に何が起きているか分からないまま、無数の人が瞬時に人生を奪われた。きのこ雲が立ち上る中、市内の随所で火災が発生し、倒壊した建物の下敷きになり焼死した人も多い。目の前で苦しむ肉親や友人を残したまま、その場を立ち去らなくてはならなかった被爆者も少なくなかった。 「どうして自分だけが…」。何とか生き延びた無実の人が今もトラウマに苦しんでいる。条約発効を機に改めて、個々の被爆者を襲った75年前の非人道的な惨劇を胸に刻みたい。そしてこの条約に記された「被爆者の受け入れ難い苦しみ」に思いをはせたい。 「私の兄は爆心地から900メートルの木造家屋の中で胎内被爆した原爆小頭児です。まもなく75歳になりますが、今も簡単な計算すらできません」 母親のおなかの中で放射線を浴び、生まれながら障害を負った原爆小頭症被爆者を支援する「きのこ会」の会長、長岡義夫さんは条約発効に合わせて声明文を発表した。「知的障害のある小頭症被爆者たちは、自らの口で『核兵器の廃絶』とは言いません。しかし、その存在そのもので、核兵器の非人道性を訴えています」。長岡さんの心の叫びに、この条約の意義を認めない核保有国、日本を含む「核の傘」の下にいる同盟国の指導者は耳を澄ましてほしい。 核兵器禁止条約は、非核三原則を国是とし、被爆者がつむぎ続けた「反原爆」の思想に共感する日本の民意を体現した国際規範でもある。米エール大の研究者らが2019年夏に日本の市民を対象に行った世論調査が興味深い。単に同条約への賛否を問うのではなく、この条約が核抑止力を否定しており、核廃絶の検証手段にも不備がある点などを説明した上で意見を尋ねても、7割以上の人が条約を支持したという。 米国の核抑止力を重視して条約交渉に参加せず背を向ける日本政府の姿勢とは裏腹に、被爆国市民の大多数が「人類は核と共存することはできない」(被爆者で倫理学者の故森滝市郎氏)との理念を共有している実情をうかがわせる。 条約発効の原動力となったのは被爆者であり、支援者であり「核使用による壊滅的な人道上の結末」を早くから警告してきた医師らでもあった。 核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)創設に加わったオーストラリアの医師で、35年前にノーベル平和賞を受賞した核戦争防止国際医師会議(IPPNW)の共同代表ティルマン・ラフ氏は語る。「核兵器が使われたら(被害者救済の)実効性ある人道的対応は不可能だ。核を廃絶するか、核がわれわれを消滅させるか、いずれかだ」 米ロ関係の険悪化、北朝鮮核問題の深刻化、イラン核合意崩壊で核リスクは近年急速に高まった。被爆国を率いる菅義偉首相には明確な態度変更を求めたい。
憎悪と対立のトランプ時代が終わったというのに、バイデン米大統領の就任式は沈痛な雰囲気に包まれた。米国が直面する国難の大きさが楽観的なムードを消してしまったのだ。米国を復活させ、再び理想の灯をともせるのか。史上最高齢78歳で就任したバイデン氏にその使命が託された。 「国民の団結のために私は全霊を注ぐ」という就任演説の言葉は、そのためにこそ大統領になったという信念を感じさせた。その認識は正しい。後は長い政治経験で培った信頼感、他者への共感を強みに、敵対勢力との和解を実現するだけだ。 就任式の沈痛な雰囲気は、新型コロナウイルスの感染症で40万人超が犠牲になるという歴史的な試練を意識させたためだ。大統領としての最初の仕事は就任演説の場で犠牲者への黙とうを呼びかけるという行動だった。超大国でこれだけの被害が出たのは、国民が所得によって受ける医療に大きな差があることに起因する。格差社会が生んだ悲劇である。 格差は1980年代から始まった富裕層減税、グローバル化、IT化で進んだ。米国の上位1%が占める総所得は下位50%の総額を90年代半ばに追い越し、現在ははるかに多い。党派にかかわらず政府は富の偏在を政策で助長してきた。そしてコロナのまん延が格差に輪をかけた。これでは国民の一体感は失われる。政策の大転換が求められる。 就任式は6日に起きた議会乱入事件の再発を懸念し厳戒態勢がとられ、参加者も大幅に制限された。世論調査では共和党支持者の7割がバイデン氏の当選は正当ではないと答え、分断は深い。 トランプ氏は新旧大統領が就任式に出席する慣例を破って欠席し、退任スピーチで政治運動の継続を強調し「必ず戻ってくる」と宣言した。過激派はトランプ氏をあがめ続けるだろう。 バイデン政権の成否の鍵は、トランプ支持者の中の穏健派といかに対話を進め、その不満をくみ取るかにある。就任演説で強調した「(党派を超えた)全ての米国民の大統領」を言葉に終わらせず、実現してほしい。国際社会での威信回復は喫緊の課題だ。バイデン氏は早速、気候温暖化対策のパリ協定への復帰を決定し、国際協調への回帰を鮮明にした。トランプ氏が背を向けた世界保健機関(WHO)とも協力を復活する。 世界が振り回されている対中国政策は「競争と協調」の原則で臨む。バイデン氏はトランプ時代の全面的な敵対政策を修正し、対話を続けながら中国に行動の変化を強く促す姿勢が求められる。 難題が並ぶ新政権だが、民主主義再生の兆しが見えてきた。コロナ禍の異例の大統領選は慎重な集票作業の末に当選者を確定させた。議会乱入事件の衝撃は共和党内で対立激化への反省を生み、トランプ氏の弾劾裁判では一定数の共和党上院議員の賛成が想定されている。 米国の弱体化は日本にとって避けたいことだ。アジアの平和と安定のためには強力な米国の関与が不可欠だ。安全保障や経済などの日米関係だけでなく、中国や朝鮮半島などの地域情勢、感染症対策や貿易、環境などの国際的なルールづくりなど日米が協力すべき分野は多い。同盟重視を掲げる新政権に日本との連携を働き掛けていきたい。
菅義偉首相の施政方針演説に対する各党の代表質問が始まった。新型コロナウイルス感染拡大を巡り首相は、経済再生にこだわり結果的に深刻な第3波を招いたことも、緊急事態宣言の再発令が後手に回ったことも「失敗」とは認めず、反省の姿勢を示さなかった。 今、多くの国民が懸念を強めているのは、大都市圏中心の1カ月程度の宣言発令や、飲食店の営業時間短縮を中心とする対策で本当に収束するのかということ。知りたいのは、欧米に比べ人口当たりの病床数が多い日本でなぜこれほどコロナ病床確保が難航するのか、どうして入院拒否者に懲役刑まで科さなければならないのか-などだ。 国内でコロナ感染者が初確認されてから1年が過ぎた。首相は「最前線に立つ」と強調し、危機打開に国民の協力を求めるなら、まずこれまでの政策の不備、問題点を率直に認め、反省するところから始めるべきだ。そうでなければ、現下の対策の趣旨、私権制限強化の必要性が伝わらず、感染拡大抑止へ向けた国民の一体感は生まれない。 立憲民主党の枝野幸男代表は、首相が観光支援事業「Go To トラベル」続行に執着した末、爆発的な感染拡大を招き、緊急事態宣言の再発令も判断が遅かったと追及。新型コロナ特別措置法についても野党が昨年末、改正案を提出したにもかかわらず国会を閉じてしまったと批判した。これに対し首相は「根拠なき楽観論で対応が遅れたとは考えない」「宣言発令は専門家の意見を聞きながら判断した」「特措法改正は私権の制約にかかわり慎重意見もあった」などと述べ、判断の遅れも、それへの自らの責任も認めなかった。 何ら問題点がないなら、なぜ過去にない規模の第3波到来を防げず、GoToトラベル停止や宣言再発令に追い込まれたのか。「失敗の本質」を特定して、それゆえに今の対策が必要なのだと国民を説得すべきではないか。飲食店の時短営業に力点を置くことに「これまでの経験に基づき効果がある」だけでは、負担が集中する飲食業界も納得しにくいままだろう。 緊急事態宣言が再発令された11都府県などで逼迫(ひっぱく)するコロナ病床の確保難航について、首相は「政府として強力な財政支援を行い都道府県と一体となって病床確保を進めている」と強調した。新たに病床確保に応じた病院には1床当たり最大1950万円を支援することなどがその具体策だ。 だがコロナ患者を受け入れ可能な医療機関は、公立・公的病院では7、8割なのに対し、全医療機関の7割を占める民間は2割程度だ。コロナに対応できるだけの人材、規模、施設がない民間病院が多い日本特有の事情を踏まえずに財政支援を強めても、病床は急には増やせないだろう。 感染拡大防止を図るため感染症法を改正して入院措置の拒否に罰則を科せるようにする方針は、第3波を防げなかった政府の失策のツケが、国民に私権制限という形になって押し付けられる印象も否めない。首相は施政方針演説で「国民に負担をお願いする政策の必要性を説明し、理解してもらわなければならない」という政治の師、梶山静六元官房長官の言葉を胸に全力を尽くすと述べた。それには、まず首相が自らの政策の結果に責任を取る姿勢を示すことが欠かせない。
経団連が春闘の交渉方針を示す「経営労働政策特別委員会(経労委)報告」を公表し、2021年春闘が事実上始まった。新型コロナウイルスの感染拡大で日本経済は低迷しているが、企業業績はばらつきが大きい。余裕のある企業を中心に、経営側には最大限の賃上げ努力を望みたい。 経労委報告も、企業業績に応じた賃上げを求めている。業績が悪化した企業は「事業継続と雇用維持が最優先」として、基本給を底上げするベースアップ(ベア)は「困難」とする一方、高収益の企業は「ベアも選択肢」と明記した。厳しい経営環境下でも、ベアを一律に排除しなかったことは評価したい。 連合は、ベア要求の水準を6年連続で月給の2%程度とし、定期昇給分の2%を加えた計4%程度の賃上げを目指す。コロナ禍の中でも、これまでの要求水準を維持したが、産業ごとに「最大限の『底上げ』に取り組む」との表現で、業績の厳しい業種に配慮した。 確かに企業がコロナから受けた打撃は一様ではなく、業績の二極化が鮮明になっている。SMBC日興証券の集計によると、東京証券取引所1部上場企業の20年9月中間決算の純利益は合計で前年同期比37・1%減と落ち込み、航空や鉄道、観光、飲食などが大幅減益となった半面、巣ごもり需要でソニーなど一部企業が大幅増益となった。 業績が大きく悪化した業界では、人員削減やボーナス抑制に動く企業が相次いでおり、これらの企業が賃上げに消極的なのは理解できる。しかし、好業績を上げた企業は、利益を可能な限り社員に還元するよう努めるべきだ。業績の厳しい企業は、せめて雇用の維持に力を尽くしてほしい。 政府は今春闘でも、「経済の好循環を進めるため」賃上げの流れを継続するよう経団連に要請した。デフレ回避のため経営側に賃上げを促した安倍前政権の路線を菅政権も引き継ぎ、14年から続いてきた賃上げの勢いが鈍化することに危機感を表した形だ。 心配なのは、景気の先行きが急速に不透明さを増していることだ。コロナの感染拡大で政府は2回目の緊急事態宣言を発令したため、足元の1〜3月期は、実質国内総生産(GDP)が再びマイナス成長に陥る懸念が指摘されている。経営者の心理が弱気に傾けば、賃上げには逆風となる。 しかし、コロナ前から好業績を上げてきた企業には、財務上の余力があるはずだ。19年度の法人企業統計では、企業の内部留保に当たる利益剰余金が475兆円と、8年連続で過去最高を更新した。現在も相当の剰余金を蓄えている企業が多い。こうした企業は、この局面でも、十分な賃上げで従業員に報いることができるのではないか。日本経済は、19年10月の消費税増税の打撃にコロナが追い打ちとなって個人消費が冷え込み、デフレ再来の恐れが強まっている。消費回復の鍵を握るのは、賃上げだ。賃金の上昇は景気回復に寄与し、企業の収益拡大につながる。経営側は賃金交渉を大きな視野で考える必要がある。 政府に求められるのは、企業が安心して賃上げができる環境の整備である。コロナの感染防止に全力を傾注し、早期の感染収束を目指すとともに、事業者や家計を手厚く支援し、景気の本格回復の展望を開いてほしい。
菅義偉首相は通常国会冒頭の施政方針演説で、政権の目標は国民に「安心」と「希望」を与えることだと強調、新型コロナウイルス感染症対策について「私自身も闘いの先頭に立つ」と表明した。 しかし、緊急事態宣言の再発令後も感染拡大は収まらず、「安心」には程遠いのが現状だ。首相は昨年10月の所信表明演説で「爆発的な感染は絶対に防ぐ」と明言する一方で経済支援策「Go To キャンペーン」の事業などを続け、今の事態を招いている。 政治は「結果責任」である。その反省の言葉もないまま「先頭に立つ」と言っても、国民に切迫した危機感は伝わるまい。難局に臨むリーダーとしての責任の取り方を明確に示すべきだ。 演説から浮かび上がるのは、現状認識の甘さと責任回避の姿勢だ。緊急事態宣言の対策は飲食店の時短営業が柱で、首相は「1年近くの経験に基づき、効果的な対策を行う」と述べた。だが、専門家は時短営業だけでは不十分だと指摘する。宣言解除の見通しについても「一日も早く収束させる」「ステージ4(爆発的感染拡大)を早急に脱却する」と述べただけだ。政府はステージ3を宣言解除の目安とするが、3は「感染急増」状態でしかない。それで国民が安心できるのか。政府は責任の持てる解除基準を明示すべきだ。 早期成立を図る新型コロナ特別措置法の改正案について、首相は「罰則や支援」を規定すると述べた。支援よりも罰則に重点があるようだ。演説では触れなかった感染症法の改正案でも罰則導入が検討されている。 専門家は罰則による効果を疑問視している。私権を制限する罰則は慎重な検討が必要だ。国会論戦では有効な感染症対策とともに、生活支援策、罰則の在り方について、議論を尽くすべきだ。 東京五輪・パラリンピックの開催もコロナ次第だ。首相は「世界中に希望と勇気を届ける大会を実現する決意」を強調したが、世界の感染状況を冷静に見極める段階に入ったと考えるべきだ。 首相は政権4カ月の成果なども強調した。しかし、重要なのは演説で語らなかった課題だろう。東日本大震災、東京電力福島第1原発事故は3月11日で発生から10年となる。首相は「東北復興の総仕上げに全力を尽くす」と述べた。いまだに4万人以上が避難生活を強いられている現状を、「総仕上げ」とひとくくりにしていいのか。 事故原発の廃炉への取り組みや喫緊の課題である処理水の処分方針については一言も触れなかった。見解を示すべきだ。 「政治とカネ」の問題も同様だ。安倍晋三前首相を巡る「桜を見る会」問題では、官房長官当時の自らの答弁が事実と異なっていたと謝罪した。 だが、在宅起訴された吉川貴盛元農相の贈収賄事件など一連の事件には触れなかった。「国政を預かる政治家にとって何よりも国民の信頼が不可欠だ」と述べるならば、政治不信の解消に指導力を発揮すべきだ。 2021年度予算案は一般会計総額が106兆6097億円と過去最大になる。コロナ対策で財政出動が必要な面もあるが財政再建への具体的言及はなかった。経済成長の原動力として挙げた脱炭素社会の実現、デジタル化推進とともに、どう具体化するのか。国会で深掘りの議論を求めたい。
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