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平成期、心身の健康などを目的に何度目かの自転車の流行が起きた。近年は地球環境に優しい乗り物としても存在感を増し、ブームを超えた広がりを見せる。今後の自転車利用の定着、拡大には快適性、安全・安心面の促進が不可欠だが、サイクル道や輪行をサポートする周辺環境の整備など、快適さでは県内でも計画段階のものも含め充実の方向がうかがえる。 一方、自転車の利用時間増、活用目的の多様化とともに安全・安心面では課題が噴出。携帯端末などを操作しての「ながら運転」、歩道上での高速走行といったルール、マナー違反も目に付き始めた。国などの調べでは、自転車が関係する国内の事故は近年増加傾向。県内では昨年までの3年間、700件ほどで推移している。自転車が加害者の場合の責任も重くなる状況で、人身事故では1億円近い高額賠償事例も起こっている。 このため自治体などでは、事故での被害者救済と加害者の経済的負担軽減などを目的に自転車保険の加入義務化が進められている。国土交通省によれば、関連条例などの公布、施行は今年10月15日現在、自転車保険加入を「義務」とするのが11都道府県7政令市、「努力義務」が13都道府県3政令市となっている。県でも加入義務化を含む自転車関連の条例を今年10月に公布。義務化は来年4月1日から施行される。いずれの自治体も罰則規定はない。だが国などの調べでは、義務化している自治体の方が保険加入率は高く、条例などを設ける意義は小さくない。 モノを使用する際、安全と安心は欠かせない要素。加害者となる可能性もある自転車に関しては、万が一を補ってくれる保険は心強い。本人、配偶者とともに同居親族全員が対象で、賠償事故での億単位の補償が付いた保険が月額数百円からある。年齢にかかわらず賠償が求められる自転車関連事故に対する社会意識の変化や、注意をしていても事故が起こりうることを考えれば、義務や罰則の有無にかかわらず保険の加入は前向きに考えておくべきだろう。 もちろん自転車に乗る際のルール、マナーの順守は当然のこと。同時に県内でもまだ十分とは言い難い、自転車利用者が被害者にも加害者にもなりにくい道路環境の整備も一層の推進が望まれる。 自転車は多方面で利便性が高く、利用者にさまざまな恩恵を与えてくれ、環境への配慮もある。誰にとっても好もしい存在として末永く付き合うために、まずは自らできる一歩から始めたい。
第10回の節目の大会となる「奈良マラソン2019」が、あす7日と8日、奈良市法蓮佐保山のならでんフィールドを主会場に開催される。平成22年の平城遷都1300年記念事業を機に始まった「ビッグイベントの遺産」の一つ。同記念事業では催しを一過性の「お祭り騒ぎ」に終わらせない取り組みが強く求められたが、毎年2万人近いランナーが集う奈良マラソンの開催継続は、大きな成果といえるだろう。 それともう一つ、実績を挙げているのが記念事業の式典も行われた平城宮跡の国営公園化。同史跡は学術的な発掘調査が着実な成果を挙げる一方、広い敷地を生かし切れていない面もあったが、平成20年度に国営公園としての整備が事業化され、遷都1300年を機に保存と活用に向けた取り組みが本格的に動き出した。現在は朱雀門、第一次大極殿に次いで大極殿院南門の復元事業が行われており、昨春にオープンした「朱雀門ひろば」の整備も続けられている。 いわゆる「地方博」など大型の催しが地域振興の起爆剤としてもてはやされた時代とは違い、県も厳しい財政運営を強いられている中で行われた100年に1度の遷都記念事業だったが、無駄な投資を避けながら各催しとも人気を集め、事後には奈良マラソンと平城宮跡歴史公園という確かな「遺産」を残した。 いま県内では次のビッグイベント、2巡目となる国民体育大会の開催案が浮上している。昭和59年に開かれた「わかくさ国体」で使われた各施設は既に老朽化が著しく、総合開会式などを行う主会場や各競技会場の整備が大きな課題となるが、ここでも「わかくさ国体」が残した人材や競技力などソフト面の「遺産」の掘り起こし、活用が鍵を握りそうだ。 国体開催の年はまだ決まっていないが、令和11年の島根県、15年の鳥取県の間、3年間が開催地未定で残された枠となっており、ブロック別の順番から県開催は同12年が最右翼か。荒井正吾知事は主会場を担う県立施設の新設に前向きで、県立橿原公苑と橿原運動公園の交換による用地確保案を提示。来年以降、計画が具体化する可能性も出てきている。 ハード、ソフト両面の準備期間を考えれば、もう余裕はあまりない。平城遷都1300年記念事業の成功事例を良い教訓に、次代へ残していける施設、競技力、そして地域のスポーツ文化など明確な目標を立てて、次期国体開催の準備を始めたい。
県内の市長選挙で自民党推薦候補が勝利したのは、本当に久しぶりだという印象が大きい。そんな橿原市長選だった。党県連が推薦を決めたにもかかわらず、その内実たるや、いろいろな声が聞こえてきた。それだけに懸命に戦った党員、支持者の追い上げぶりは、執念さえ感じられた。こうして市民の審判が下ったのだから、市政の停滞は許されない。次に進まなければなるまい。 前県議で新人の亀田忠彦氏は、4選を目指した現職の森下豊氏を僅差で破っての初当選だ。この12日に初登庁し、亀田市政がスタートしたばかりだ。47歳という若い亀田氏は、12年前に多選批判で現職を破った森下氏の当時の年齢とほほ同じで、因縁めいたものを感じる。だから「経験不足」や「若過ぎる」などの批判は気にすることはない。 もう、うかれていることはあるまいが、選挙結果を見れば、前回と同じように僅差での当選だった。そのことをしっかり肝に銘じてほしい。これまでの森下市政が築いてきた良いところは継承し、選挙戦で主張した改めるべきは改めたらいい。ただ外から見てきたのと、実際に取り組んでみると違うことはよくある。市民との約束を実行するために、急ぎ過ぎてもいけない。 前市政の中身は、議会の承認があって進められてきた。議会を敵に回してはならない。公約を推進するためには、議会との関係が大事になる。首長の権限は大きいからこそ、議会とどう向き合うかがポイントだ。前市長支持の議員もいる。要は市長も議員も「市民の方を向いているか」にかかる。 他市の場合でも分かるが、現職を破って当選した首長が、議会対応を誤り、予算が通らず公約を守ることができない事例がいくつもある。議会とうまくいかず、行政も停滞する。議員も同じ市民から選ばれていることを忘れず、「共に市民のため」の姿勢であれば、前に進むのではないか。 12万人という県下第二の人口を抱え、鉄道も道路も交通の要所である橿原市は、中南和の拠点といえる。一橿原市のことだけでなく、常に近隣市町村との連携を考えてほしい。そして県とのパイプ役を訴えてきた亀田市長だから、その模範となっていただきたい。 たとえば5年前に発足した広域消防組合は、理念は良くても旧市町村の壁が未だに大きく、厳しい実態が浮き彫りになっている。市民の安心、安全のために、先頭になって汗を流してほしい。
「過ぎたるはなお及ばざるがごとし」ということだろう。首相主催で開かれてきた「桜を見る会」について、政府は来年の中止を発表した。招待客は政府が目安とする1万人に対し、今年は約1万8千人が出席、費用もうなぎ登りで、約5500万円が支出されている。 安倍晋三首相の地元関係者が多数含まれていると野党が攻勢を強めた矢先の中止表明で、批判をかわす狙いがあるのは明らかだ。長期政権のおごりと捉えられてもやむを得まい。安倍首相は招待客の人選に自身の関与を否定している。事務所レベルであっても、公金で行う行事の招待客をお手盛りで増やしていたとすれば、まさに「私物化」である。 「桜を見る会」の歴史は昭和27年にさかのぼる。前年の講和条約でようやく主権を回復したばかりの日本で、各界で功績のあった人や功労者を慰労しようと始まったものだった。70年近い歴史はもはや伝統行事だが、きちんとした基準や総括のないまま、慣例で運営されてきたことが招待客の増大につながった。 開催規模が膨らんだのは第二次安倍政権以降とされ、どのような経緯があったのか、政府はできる限り明らかにする必要がある。首相をはじめ政治家の選挙対策の一面が強いとすれば、国民が納得できるものではないだろう。地元・山口県の後援会関係者に首相の事務所名を記載して届いた案内文も明らかになっている。 増え続ける招待客やそれに伴う経費の増加は、関係者の間では当然認識されていたはずだ。菅義偉官房長官は記者会見で、招待基準の明確化やプロセスの透明性確保に加え、招待人数や予算を全般的に見直す考えを示した。これまでの運営が不適切と認めた形だが、問題化するまでなぜ改善できなかったのか。政権のおごりや緩みはなかっただろうか。 安倍首相は10月に開かれた共同通信加盟社の会議で講演し、ミスター・ラグビーこと故平尾誠二氏の言葉を引き合いに「現状維持は決して許されない。ましてや内向きな政局や離合集散に費やす時間などない」と力を込めた。「桜を見る会」の問題は内向きな政局に当たるのだろうが、運営の見直しにも国会答弁にも、十分な時間を費やしてほしい。 現在の安倍内閣では、経済産業相と法務相が「政治とカネ」の問題で辞任している。その矢先に「桜を見る会」の問題が浮上した。国民の不信感は強まっている。現状維持は決して許されない。
10月31日にあった那覇市の首里城の正殿を含む主要施設7棟が焼けた惨事は、日本全国に衝撃を与えた。7棟は平成4年以降に復元された建物で対象外だが、首里城跡を含む「琉球王国のグスクおよび関連遺産群」は世界文化遺産。首里城は沖縄県のシンボルであり、同県民の精神的ショックはもちろん、同県の主要産業である観光へのダメージは図りしれないだろう。国を挙げて沖縄県への支援が必要であるとともに、文化財の宝庫といわれる本県は、文化財防火の大切さを再認識しなければならない。 文化財消失と聞いて真っ先に頭に浮かぶのは、戦後間もない昭和24年1月26日に起こった法隆寺金堂の火災だ。世界の宝といわれた国宝壁画を焼き、「文化財防火デー」制定のきっかけとなったのは、あまりにも有名だ。当時(1月27日付)の大和タイムズ(現奈良新聞)は、「法隆寺金堂全焼す」「一瞬に失う超国宝」との見出しで、「この火災によって生じた損害はあらゆる物的評価の不可能なまでに巨大なものである」と悲嘆している。 令和元年版「100の指標からみた県勢」によると、県内の国宝・重要文化財のうち建造物指定件数は264と京都に続いて全国2位。それだけに首里城全焼のニュースに対する県内関係者の反応も素早かった。31日即日、県内の消防機関が奈良市の東大寺、吉野町の金峯山寺などで防火設備の緊急点検を行った。 平城宮跡と同じ国営公園内の火災に危機感を抱いた荒井正吾知事は6日、「県文化財緊急防火対策強化会議」を26日に奈良市内で開くと表明。文化財を所有する社寺や図書館、博物館をはじめ警察、消防関係者、県、市町村の担当者らが出席して情報を共有。参加者から防火対策の事例報告を聞くほか、文化庁担当者の講演や県文化財保存課による防火対策に関する緊急報告も実施するという。 那覇市消防局は6日、首里城の出火原因は正殿の電気系統が濃厚との見解を発表した。再発防止のために徹底的な原因解明が望まれる。一方、ふるさと納税をはじめ全国から寄付が相次いでいるという。沖縄県民を励ます意味と観光振興のため旅行に訪れるなど、今できる範囲で、国民は沖縄県を支援する必要があるだろう。 これからは寒くなる時期。9日からは全国火災予防運動がスタートする。自宅や周辺はもちろん、国民、県民の財産である文化財の防火に気を配ることが必要だ。
先の台風15号、19号などによる豪雨によって、東北から関東、中部地方までの広域にわたって、中小河川の氾濫や住宅への浸水などが連続して起こってしまった。特に千葉県での被害は甚大だった。濁流に浸かった家具などを運び出し、「さあ、これから」という時に、3度目は大雨。かつてない事態に言葉が出ない。 3度目の大雨・洪水被害には特徴的な事例があった。道路に濁流があふれる中、車で避難しようとして急激な浸水に遭遇。車から出られなくなって亡くなった人が死者の半分近くになり、「車中死」という言葉までできた。 高齢者らが身内にいると、車で避難しようとする比率は高まる。非常に悩ましい選択になる。家の2階以上に移動する「垂直避難」を選ぶのか、車や徒歩で避難所に向かうのか。時間帯や周囲の被災状況にもよるが、その判断は難しい。だが、これからは、個々人のそうした判断が生死を分ける事態が増えてくるだろう。 読者は「防災ハザードマップ」を見たことが、おありだろうか? 「地域住民が、素早く安全に避難できることを目的に、避難場所などの情報や被害が想定される区域と被害の程度を地図上に明示したもの」のことだ。市町村が配布してはいるが、存在を知らない人も意外と多い。 奈良県のHP(ホームページ)によると、県内では「洪水想定区域」に指定された31市町村でこうしたマップが作られている。ぜひ一度は家族でマップをもとに話をして、避難場所や避難場所への道順などについて共通認識を持っておいてほしい。自治会がある所では、避難訓練も含めて、災害が迫る中での具体的な役割や行動について、話し合っておくことも必要だろう。 また、パソコンなどがある家庭では、県内の河川の水位を避難の判断の参考にするのもいいだろう。国土交通省の「大和川河川事務所」のHPでは、大和川につながる水系の観測地点の水位が、カメラの映像や図面でリアルタイムで確認できる。携帯サイトもあるので、一度のぞいてみてはいかがか。 ようやく秋も深まり、きょうから11月。「台風の季節はもう終わった」と思いたいが、油断はならない。平成2(1990)年の台風23号は、11月30日に和歌山・白浜に上陸していた。 「想定外」の事態は過去にもあったが、現代という時の流れの早さから、それらが忘れ去られてきているだけなのかもしれない。
イギリス・ロンドンの大英博物館で、県内の寺院に伝わった国宝の仏像など約20点を展示する「奈良―日本の信仰と美のはじまり」展が始まった。来年の東京五輪・パラリンピックに向けて、世界への奈良の魅力発信を目指した県の事業。今年1~3月にフランス・パリのギメ東洋美術館で開かれ、約3万2000人の来場者を集めた興福寺の仏像3体の展示に続く企画だ。県内社寺の名宝を一堂に集めて国外で展示するのは初めてという。初公開となる「法隆寺金堂壁画」(飛鳥時代)の明治時代の複写をはじめ、大英博物館の日本コレクションの一部も併せて展示されている。 仏像が「美術品」として美術館や博物館で展示されるようになる近代以前にも、遠くの人々との結縁(けちえん)や寄付を募る勧進などを目的に秘仏を寺外で公開する「出開帳」が頻繁に行われた。今回は県内への観光客誘致を目指し、各寺社の協力で実現した海外での出開帳ともいえる。 白鳳美術の傑作、法隆寺の「夢違観音」(国宝)の美しさは海外の人たちの心も捉えるだろう。しかし、寺院にとって仏像は本来、信仰の対象であり、その深い精神性も伝えなければ意味がない。そのため、会場で東大寺や薬師寺などの僧侶たちによる法要が営まれたほか、節の付いたお経「声明(しょうみょう)」の公演や仏教に関する講演会なども行われた。 また、舞楽面をはじめとする宝物を出品した春日大社もみこの舞などを披露。花山院弘匡宮司が日本古来の神道や、日本文化の寛容性・多様性の象徴といえる神仏習合について解説した。花山院宮司によると、現地の人々の関心は高く、解説の英訳文を多くの人から求められたという。奈良の心の一端は確実に伝わったようだ。 今年4月、文化財の活用を重視した改正文化財保護法が施行された。今後、訪日外国人観光客誘致に向けて文化財が果たすべき役割は増すだろう。しかし、美術品として仏像や文化財を見せるだけでは、本当の奈良の魅力は伝わらない。今回の大英博物館と同様、歴史や精神性などを分かりやすく説明し、理解してもらえるようなソフトづくりが必要だ。 現在、奈良公園周辺の交通渋滞が問題となっているが、東大寺をはじめ一部の観光地への人気集中もその一因に挙げられる。他地域への観光客誘致が県観光の課題であり、そのためにも奈良の寺社や遺跡などの魅力を正しく発信することが大切だ。
来春高校を卒業する生徒の就職活動が重要な時期を迎えている。県内企業の多くが人手不足を実感する時代に、高卒の人材も将来にわたる貴重な戦力だ。 県や県教育委員会、奈良労働局によれば、県内企業での高卒就業者の3年以内の離職率は近年、約42~47%で推移。全国平均よりやや高く、県内公立高からの人材は1年目での離職が多いという。数字からは進路決定の難しさ、県内企業が高卒人材定着に苦慮する状況がうかがえる。離職理由はさまざまだろうが、現状改善には採用の前と後の再検討も必要だ。 県での高校生の就活はほとんどの都道府県が慣例とする、各人が一社を選んで応募する「1人1社制」。見直し論もあるが、生徒の学業への負担の面などから現状肯定派が多数を占める。全国的には、選択肢を広げてミスマッチを減らそうと、複数の企業の説明会を行う公立校も出てきた。県教委は独自の離職状況調査や、調査を踏まえた関係者による対策会議を始めている。また公立高の進路指導担当者対象に県内企業を知ってもらうバス見学会、インターンシップの拡充にも着手している。 現況で就活を充実させるなら、指導者のみならず生徒の企業理解の一層の促進は不可欠。企業選択の最終段階で助言することが少なくない保護者にも、県内企業をよく知る機会を設けるべきだろう。 もちろん企業側にも、自社認知への積極性は求められる。ただそれ以上に重視されるのは、採用後に人材をどう育て、離職を防ぐ環境を構築するかだ。従業員の労働意欲の維持、向上には多方面でのステップアップの支援は欠かせない。実際県内でも、現代の若者が受け入れ、参加しやすい指導、研修のために内容はもとより講師、時間などにも工夫し、人材定着を実現している中小企業がある。 業種によっては、企業内での技能向上が従業員が次の段階を目指す離職を招くのではとの懸念もあろう。だが一方で、人を育てられる企業風土が他の従業員を含む周囲に好影響をもたらし、県外求職者にも注目される効果を生む可能性も否定できない。日頃からの企業姿勢が問われる部分でもある。 高卒就職者への関係者の取り組みは単に離職率を下げることではなく、貴重な人材を生かし活躍する場を増やすためだ。それが県内企業の潜在力を底上げし、県の活力にもつながる。そのためにも関係するすべての人々には、将来を見据える冷静な目となお実効性の高い方策、行動が望まれている。
橿原が燃えている。 任期満了に伴う市長選挙(10月20日告示、27日投票)の投票日まで1か月となった。4年前の前回選挙とまったく同じ構図となりそうで、4選を目指す現職の森下豊氏(61)に対して、今回も自民党前県議である新人の亀田忠彦氏(46)が挑戦するという形だ。 わずか363票差という、あの激戦からもう4年も経つのかと、月日の経つのも早い。 前回は森下氏に、自民党の元県議・神田加津代氏が挑んだ。近鉄大和八木駅南側の市役所分庁舎と併設するホテルの建設問題が争点となった。ホテルが公設・民営であることから、税金の無駄遣い、民業を圧迫するなどと批判し、公明党も推薦した神田氏は猛烈に追い上げをみせたが、2万票台に乗せたもののわずかに届かなかった。それだけに春に再選したばかりの県議の職を辞して挑戦する亀田氏も雪辱に燃えて闘志をみせている。 ここ数年の首長選挙をみると、自民党推薦候補は軒並み苦杯をなめている。橿原市は県下第2の都市で中南和の核でもある。そして自民党にとっても衆院3区の最大票田だ。地元の同党3区支部(田野瀬太道支部長)としても、「今度こそは」の思いもあろう。 その前回選挙で、同党県連(奥野信亮会長)のお粗末な対応が批判を浴びた。神田氏の党推薦を決めながら、県連幹部をはじめ同党所属の市議らが現職の応援に動いたため大問題となった。 これがあって地元支部が推薦を決めても、首長選の公認・推薦は県連が決めると規約改正までしている。これも地元軽視のおかしなものだが。 今回も地元の市支部と3区支部で亀田氏の推薦を決め、県連の判断待ちになっている。来月7日の午後、奈良市内で選挙対策委員会(秋本登志嗣委員長)が開かれ、正式決定される運びだ。ところが「地元の意向をまったく無視した結論になる」との観測が流れるほど、微妙な情勢だ。 県連幹部が森下氏と県議時代に同期だったからだとか、そんな理由がまことしやかに聞こえてくる。かつて森下氏は当時の民主党候補として衆院選で戦った。市長選でも民主党の国会議員がつき、自民党が全面支援した現職を破っている。そんな因縁があるなかで、前回選挙で、おかしな動きをしたのが県連だ。 個人的に親しいかどうかよりも、地元が正式な手続きを踏んで推薦依頼してきているのを無視することはできまい。推薦を決めたとしても、あとは市民が厳正な審判を下す。
近年は豪雨や突風による災害が国内各地で常態化。近く発生が想定される大規模地震への備えも含めて防災、減災を目指す取り組みが官民挙げて進められている。ただ実際の被害を見れば、なお想定外の事態が起き、対応が後手に回るケースも後を絶たない。 今月9日には首都圏を台風15号が直撃。強風などにより関東地方の広い範囲で停電が発生し、千葉県では全面復旧がきょう13日以降にずれ込むなど、住民生活に深刻な影響が広がっている。電柱など送電施設の被害が予想された以上に大きく、復旧時期に関する情報が錯そうするなど、電力事業者の判断の甘さが露呈した。 一方、昨年の7月豪雨では河川氾濫による洪水が「想定」されていたにもかかわらず、住民の避難が遅れ、被害を広げた。これらを教訓に県は本年度内の改定を目指す地域防災計画で「正しい避難行動の周知、安全な避難の実現」を第一に取り上げ、住民らへの伝わりやすさを重視した情報発信にも取り組むとしている。 もちろん、既知の危険を回避するための施策が重要なのはハード整備でも同じ。大阪府北部地震では問題視されていた通学路のブロック塀が倒壊、児童が犠牲になる結果になったが、県内ではブロック塀の撤去とともに、県立高校の校舎や県有施設など公共性の高い建物の耐震補強問題に注目が集まっている。 また県が、全県で進めている土砂災害警戒区域などの指定作業では、より危険性の高い特別警戒区域内に多くの「代替性のない避難所」や「24時間利用の要配慮者利用施設」があることが判明、対応が喫緊の課題だ。 ハード整備には相応の期間と予算が必要となるが、人命に係わる問題で「見て見ぬふり」は許されない。特別警戒区域内の避難所などについて県は、土砂災害対策施設整備計画の策定を予定。その中で対策の必要性を精査、施設や範囲を絞ることで対応のスピードを上げる姿勢を示している。対象施設に漏れ落ちはないのか、また市町村や民間の施設設置者らの責任ある対応も求められることになりそうだ。 大規模災害が起きたとき、想定外の事態で慌てないよう、事前に十分な調査、検討を行っておくとともに、今後は「分かっていたのに対応できていなかった」をどうなくすかが課題になる。行政だけでなく、民間企業や一般住民も意識を高く持ち、安全で安心できる地域づくりを進めなければ。
小学館は2日発売の「週刊ポスト」に掲載した「韓国なんて要らない」と題した特集を巡り、配慮に欠けていたとして謝罪を表明した。特集では「断韓」を呼び掛け、「怒りを抑えられない『韓国人という病理』」などの見出しが踊る。元徴用工訴訟やあいちトリエンナーレの「平和の少女像」を巡る問題など、日韓関係は冷え込む一方に見える。 国民感情のガス抜きが政治的に利用され、結果として国民をさらに苦しめることになるのは過去の歴史が物語っている。政府は「ホワイト国」(優遇対象国)から韓国を除外した措置を輸出管理の運用見直しと説明するが果たしてそうだろうか。週刊誌の過激な記事で留飲を下げたところで問題は何も解決しない。 本紙8月15日付の連載「74年目の戦争遺跡」で、天理大学国際学部の熊木勉教授(朝鮮近現代文学)が「政治と切り離して私たちが取るべき姿勢は冷静であること、相手の考えを侮蔑(ぶべつ)しないこと、これまで育んできた成熟した交流を大切にして粛々と進めること」と語っている。日韓両国に対して言えることだ。 最近も県内では韓国を含めた交流事業が行われた。奈良市の東アジア文化交流プログラムに参加した韓国の大学生は「政治とは別の関係が築けてうれしい」と語った。8月31日には駐日韓国大使館主催の「韓日文化キャラバンin奈良」が同市で開かれ、ナム・グァンピョ駐日韓国大使は「両国民が互いに対する信頼と愛情をもって真の友情を築き上げれば、どのような難しさでも乗り越えていける」と呼び掛けた。 ツイッターでは「♯好きです韓国」「♯好きです日本」のハッシュタグをつけた投稿が増えているという。そこに見えるのは政府と国民は別との思いである。両国の関係にとって大切なのは、国民一人一人が真の国益を考え、自分をしっかり持つことだ。互いの隣には、北朝鮮という脅威が控えることも忘れてはならない。 天理市が予定していた姉妹都市・韓国瑞山への中学生派遣事業が韓国側の意向で中止されるなど、民間交流にも影響が出ているのは残念だ。県内には、ほかにも韓国の都市と姉妹都市などの形で交流している自治体がある。韓国側の現在の姿勢が将来にまで影を落とすことがあってはならない。 「嫌」や「断」の文字で語れば悪感情はさらに高まる。視野を広げ、友好の手を差し出し続ける先にこそ、関係改善の希望がある。
令和の時代になっても、主に高齢者を狙った特殊詐欺事件が後を絶たない。電話での「オレオレ詐欺」に加え、最近は手口も巧妙化、キャッシュカードをだましとられたり、電子マネー絡みの事件が増えてきている。本人はもとより、家族や周囲の人たちの注意が必要だ。 所帯主が60歳以上の世帯は、他の年齢階級に比べ大きな純貯蓄を有している。令和元年版高齢社会白書によると、60歳以上世帯の貯蓄額中央値は1639万円で、全所帯の中央値1074万円の約1・5倍。病気など「万一の備えのため」に貯蓄している人が多い。そういう「虎の子」の金をだましとる特殊詐欺は悪らつな犯罪といえる。 県警によると、今年7月中の特殊詐欺の被害件数は20件と、前年同月に比べ11件も増加している。今年1月から7月末までの件数は85件で、被害総額は約1億510万円。特に急増しているのがキャッシュカード手交型53件(前年比11件増)と電子マネー型18件(同13件増)だ。 キャッシュカード手交型とは、警官や公務員、銀行員などを装い、「あなたのカードが偽造されているので回収する」などといって、カードをだましとる手口。電子マネー型は、携帯電話などに「有料サイトの未納料金があるので支払いを。支払わないと裁判になる」などの連絡が入り、被害者は電子マネーを購入し、カードの番号を相手に伝えてしまう。 対策としては、まず「自分だけは大丈夫」という思い込みを捨てるのが必要だろう。キャッシュカード手交型や電子マネー型など特殊詐欺の口実を理解しておくのも大事だ。振り込む前に誰かに相談するよう心がけたい。これはやや高度だが、だまされたふりをして、すぐに警察に連絡するという方法がある。実際に8月22日、奈良市の男性(77)が警察に連絡し、金融庁職員を装った男子大学生が詐欺未遂容疑で現行犯逮捕される事件があった。 銀行の窓口では、大きな金額を振り込む高齢者に声をかけるのが定着してきた。10万円以上の電子マネーの購入を申し出た高齢の客を見て、詐欺の可能性が高いと警察を連絡し、被害を未然に防止したコンビニの店長や従業員が、所轄署で感謝状を贈られるのが最近は相次いでいる。 高齢者が孤立してしまうと特殊詐欺被害に遭う可能性が高い。人と人とのつながりで特殊詐欺を撲滅してゆきたいものだ。
昭和59年の「わかくさ国体」以来となる国民体育大会(国体)の県内開催に向け、県が動き始めた。荒井正吾知事は6月、2巡目の国体開催年を令和12~14年の3年間のいずれかを候補とし、県営の橿原公苑と橿原市営の橿原運動公園の施設、敷地を交換して必要な施設整備を行う案を明らかにした。 橿原公苑は陸上競技場や野球場、体育館などの施設を備えるが、日本陸連の第1種公認取得に必要な400メートルトラックを持つ陸上の補助競技場がなった。そのため、わかくさ国体も平成21年のインターハイ(近畿まほろば総体)も開会式は基準を満たした奈良市鴻ノ池陸上競技場に頼らざるを得なかった。国体開催に必要な各種施設整備に向け、手狭な橿原公苑では新たな用地確保が難しいが、約3倍の敷地面積(29・37ヘクタール)を持つ橿原運動公園なら可能だ。 しかし、知事の案が示されると、地元の橿原市議会からは反発の声も上がった。同市は体育施設とともに防災拠点として多額の費用をかけて同公園を整備してきた。市民の憩いの場として定着し、簡単には応じられないだろう。今後の県と市の協議が注目される。 国体については全国的に開催の意義自体の議論が起こっている。各都道府県の持ち回り開催のため、開催地に重い財政負担がかかる。さらに、開催地の至上命題となっている都道府県対抗の天皇杯獲得のための選手強化にも多額の費用が必要だ。にもかかわらず、トップクラスの選手の出場が少なく、国民の関心は以前より低くなっている。 その一方で、開催地のスポーツ振興に役立つとの意見もある。本県でもわかくさ国体で多くの体育施設が整備され、その時の選手たちが指導者となり県のスポーツを支えてきた。2巡目の国体開催も、他に比べて見劣る県のスポーツ施設の整備推進や競技力の向上につながることが期待される。 それでも財政面から考えると今まで通りの方式では限界があり、無駄を削ってスリム化しなければならない。大切なのは誰のため、何のための大会かを忘れないことだ。国体の最も重要な目的は県勢誇示でも経済効果でもなく、国民、県民のスポーツ振興と健康増進への貢献だろう。一過性に終わらず、国体の「レガシー」を生かした長期的な取り組みが必要だ。 そのためには一般県民が国体に無関心であっては意味がない。開催まで約10年間、一部の競技団体や行政関係者だけでなく、広く県民を交えた議論が求められる。
令和になって初めてのお盆を迎えた。30余年の平成の時代を経て、戦争体験者が次第に消えていき、ますます昭和の時代が遠くなっていく。終戦記念日を過ぎたこともあり、今回は個人的な話を書くことをお許しいただきたい。 亡父の兄は、陸軍兵士としてビルマ(ミャンマー)に渡り、戻って来なかった。母の話によると亡父が母と結婚した当時、毎晩決まった時間に、胸が苦しくなり目が覚めたという。夢枕に立ったお兄さんが「おまえが、うらやましい」と話したらしい。気の優しい父だったから、「自分だけ幸せになって申し訳ない」という思いが、そうさせたのかもしれない。その時間は、お兄さんが亡くなった時間帯であることが後に分かった。 そんな話をした母からは、疎開先の桑畑で、背中に親せきの赤子を負ぶって歩いていた時に、急に爆音がして、山の頂上からいきなり米軍機グラマン3機が現れ、機銃掃射を受けたことをよく聞かされた。海軍鎮守府があった佐世保に近かったせいだろう。 奈良県内でも、榛原や県内各地で機銃掃射や爆撃を受け、非戦闘員が犠牲になった。そうした事実を風化させまいと、戦争遺跡を保存し、語り継ぐ活動を地道に続けている人たちがいる。だが、その証言者も高齢化が進み、運動の継続には世代交代や引き継ぎを円滑に運ぶことが課題となっている。 昭和世代が「常識」と思っている、太平洋戦争のことや広島・長崎への原子爆弾の投下など、実体験を聞く機会を得られない世代が、今後増えていく。教育現場や家庭で、史実をきちんと教え、核軍拡などがもたらす未来の恐怖について、語り伝えていく取り組みが、ますます重要になってくる。 そんな折、ロシアの海軍実験場で起きた爆発事故が「原子力を用いた新型ミサイル」だった可能性が浮上。米ロが原子力利用の兵器開発を急ぐ実態が浮き彫りになった。愚かな核軍拡競争を止めるため、唯一の被爆国日本だからこそ、今やれることがあるはずだ。 太平洋戦争で亡くなったのは、軍人・軍属230万人、民間人80万人、合計310万人という。アジアや世界各地での犠牲者を含むと、膨大な数字となる。 今日の世界平和や日本の繁栄が、こうしたあまたの犠牲者の存在の上に成り立っていることを改めて感じておきたい。多くの人々が、無念の思いを抱いたまま亡くなったことを忘れてはならない。戦争体験を聞いた私たちには、無念の思いを伝える使命がある。
2018年の日本人の平均寿命は女性が87・32歳、男性が81・25歳となり、ともに過去最高を更新したことが厚生労働省が発表した簡易生命表で分かった。 平均寿命は、今後、死亡状況が変化しないと仮定し、その年に生まれた0歳児が平均で何歳まで生きられるのかを予測する数値。女性は脳血管疾患と肺炎による死亡率、男性はがんによる死亡率がそれぞれ改善したため寿命が延びたとされる。 その一方、総務省が発表した住民基本台帳に基づく人口動態調査によると、今年1月1日時点の国内の日本人は1億2477万6364人で、前年から過去最大の43万3239人減少。平成21年をピークに10年連続で減少している。 人口割合でみると、年少人口(0~14歳)が12・45%なのに対し、老年人口(65歳以上)が28・06%、年少人口は平成6年以降毎年減少し、老年人口は毎年増加。生産年齢人口(15~64歳)も毎年減少傾向にあり、今後さらに少子高齢化が進むことが予想される。 国立社会保障・人口問題研究所は、2030年には人口が1億2千万人を下回り、40年には1億1千万人、2100年には5900万人まで激減すると試算。このまま人口減少が加速すれば、医療や商業などの生活サービス施設が人口の少ない地域から撤退する可能性もあり、いくら平均寿命や健康寿命が延びたとしても、住み慣れた場所で暮らすことが困難になる可能性もある。 かといって、人口増加への特効薬はない。「少子化対策白書」をみても、結婚については晩婚化と未婚化が進んでおり、特に年収の低下、非正規雇用の拡大など若者の労働環境が悪く、出産についても子育て費用の面から躊躇(ちゅうちょ)が見られる。 参院選に勝利し、非改選と合わせ過半数を獲得した自公政権だが、両党の公約に人口増加案はみられない。自民党は、人生100年時代の社会づくりに向け、(1)「人生100年型の年金」を実現し、豊かな老後を守る(2)「100人100色の働き方改革」を進め、多様な生き方を支える(3)「保育受け入れ100%」に向け、子育て支援をさらに強化するーの「3つの100」の実現を掲げ、「誰もが安心、活躍できる人生100年社会をつくる」とするが、もっと若者たちの現状を鑑みた施策を推進すべきだ。 高齢者を支える側の若者たちが将来に希望が持てる日本の実現を願いたい。
今年4月の働き方改革関連法の施行開始と前後して、各界で改善への動きが活発化している。以前から特別な職域の一つの教職の世界にも変革の波は訪れている。 経済協力開発機構(OECD)の平成30年調査では、日本の小中学校の教員が、参加した加盟48カ国・地域(小学校は15カ国・地域)の中で最も労働時間が長いことが、25年の前回調査に続いて分かった。併せて、課外活動や事務業務に要する時間が最長の一方、「主体的・対話的で深い学びの視点からの授業改善」の取り組みや知識、専門性を高める職能開発の時間の不足も明らかになった。 県内の教員も同様なのが、県教育委員会が今年1、2月、小中学校、高校の教員らに行った調査で判明。学校滞在時間の長さとともに、事務業務や部活動、保護者対応といった部分の仕事量が多く、休養不足はもちろん、教材研究や学習指導などが思うように進まない実態が浮かび上がった。 現状の改善が他の職種にも増して急務で、重視されるのは、教員らの心身の健康維持や自己学習、指導の充実が児童、生徒の成長、学習能力向上にも深くかかわってくるからだ。大げさに言えば子供、国の将来にも関係してくる。 あまたの先人が有用な発想は時間、心にゆとりのある時に生まれるとの助言を残している。子供への十分な目配りを確保した上で何をどう削るかは慎重でなければならないが、時間に追われた中での無理の蓄積は周囲に影響を及ぼし、破たんを招く危険性をはらむ。 県では6月、国のガイドラインに沿った改善を念頭に、県教委や教育現場、市町村教育関係者らによる「学校における働き方改革推進会議」がスタートした。アンケート結果を踏まえ、超過勤務の上限などの方針案を来年1月をめどにまとめることにしている。 また奈良市内の小学校の中には、毎週決まった曜日を残業をしない日に設定したり、日常業務、課外活動の省力化を図るなど、働き方の抜本的見直しをいち早く実践しているところもある。 今後の改革の推移が注目されるが、教員の立ち位置や業務が社会状況とともに変化し、学校規模の問題や新学習指導要領の開始なども控え、仕事量削減は頭で考えるほど容易ではないだろう。ただ改革の実現が社会を支え、未来を担う子供たちのためでもあるとの広範で長期的視点は忘れずにいたい。同時にその改革には保護者や周囲の理解、協力が不可欠であることも認識しておきたい。
論戦は深まったか。 令和初の国政選挙となった参院選も最終盤を迎え、県選挙区の3人の立候補者は、吉野郡の山間部をはじめ県内をくまなく回り、政策を丁寧に訴えてきた。しかしながら、有権者の反応は今一つのようだ。候補者に向かって手を振り握手を求める人もいるが、素通りする人の方が多い。期日前投票は堅調なようだが、必ず投票に行く人が、早めに済ましているとみられ、最終の投票率が気になるところだ。 参院議員は、解散のある衆院議員と違い、任期は6年という長期の身分が保障されている。それだけに、いつ選挙があるか分からないといった心配もなく、国の将来に向けた仕事にじっくり取り組むことができる。 今度の選挙で争点の一つになっている年金や社会保障制度などは最もふさわしい仕事といえる。本格的な少子高齢化時代に突入し、誰もが自身の問題と捉えているからだ。金融庁の「公的年金だけでは2000万円足りない」という報告書が出て、衝撃を受けた。庶民感覚からすれば「2000万円」という金額がいかに巨額であるかが、官僚の皆さんには分からないのだろう。2000万円近くの年収がある国会議員でも分からないかもしれない。 今の年金受給者でさえ満足していないのに、若者にとっては将来への不安は増すばかりだ。数年後には、あの団塊の世代も後期高齢者となることから、高齢者も不安で仕方がない。そんな不安にどう向き合い、答えてきたかだ。 県選挙区は、現職の自民党公認候補に対し、女性の無所属新人が野党統一候補となったことで、実質的に与野党対決選挙となった。1人区の勝敗は政権基盤を揺るがす。最終盤に入り激しさを増してきた。 かつて「政権交代」によって、民主党政権が誕生し、その後の経過を有権者は見てきた。それだけに、与党の政策批判に賛同しても対案はどうかという目を養いもした。いわゆる55年体制といわれた、反対のための反対とみられるような当時の社会党のことも覚えている。反対するなら、実行可能な対案を示すことを、有権者は求めている。時に風によって勝敗が決まることもあった。 現職であれ新人であれ、候補者の訴えに、ごまかしがないか。比例代表では、言葉のみでなく政党の実行力を見ていきたい。令和の時代の行く手を占う選挙であることを忘れてはなるまい。
春の知事選を経て4期目の荒井県政が本格的に動き出した。その手始めとなる令和元年度一般会計補正予算案は256億1700万円で、荒井正吾知事による6月補正としては過去最大。県議会での審議はこれからだが、過去の実績を土台として「もっと良くなる奈良」を目指すとする知事の姿勢が数字に表れた格好だ。 同補正は、選挙前に組んだ骨格予算に政策的な事業費を肉付けするもので、補正後の総額も5273億1500万円と、前年度当初比4・1%増に膨らんだ。知事は「京奈和自動車道の整備などが進み出し、工事費が増える時期になってきている」と説明。インフラ整備など「他府県に比べて遅れていた分野を見つけ、追いつく努力を重ねる」と力を込める。 また今回の補正予算編成で注目されるのは、個々の事業内容における工夫に加え、各施策を「奈良新『都』づくり戦略」の形で示した点。荒井知事が初就任時に掲げた「奈良『新・都』構想」になぞらえ、今後の取り組みを9テーマに分けて整理、予算案を議会に提出した後、同戦略の全体像を「案」として改めて公表した。 既に予算化された事業も含まれており、その意味では本年度予算や同補正予算案の意義、狙いを説明する側面もあるが、併せて中・長期の展望に立った事業の実現可能性を探る調査研究、これまでの事業成果を生かす今後の活用策検討なども多く盛り込み、県政発展に向けた議論を深めるための「叩き台」にするという。 内容は県政全般にわたり、経済振興から行財政改革まで9テーマに分けて計28分野、計148の戦略を紹介。奈良市の平城宮跡を軸にした周辺整備と近鉄奈良線の移設、早期の位置確定を目指すリニア中央新幹線の奈良市付近駅と関西国際空港を直結するリニア新幹線構想など大型プロジェクト、また全国のモデルとなる地域医療構想の実現、なら歴史芸術文化村の活用策など、ハード整備を踏まえたソフト面の検討課題も。 ボリュームがあるが、各項目を実績と現状を示す「これまでは」と、今後の取り組みを示す「もっと良くすために」の欄で構成、比較的見やすい形で県のホームページにも掲載している。 この間、県が何をしてきたのか、そして、これから何をしようとしているのか。4期目の荒井県政が掲げる「奈良新『都』づくり戦略(案)」が県民、そして県議会、また県職員の理解、共感を得られるか注目される。
通学中の児童を狙った川崎市の殺傷事件は、発生から2週間が過ぎた。栗林華子さん(11)は好奇心旺盛で明るく、チェロが得意な人気者だった。小山智史さん(39)は外務省職員として日本とミャンマーの架け橋となっていた。2人の命が身勝手な犯行で奪われたことに、改めて強い怒りを覚える。悲しい事件が二度と繰り返されることがあってはならない。 今回の事件は、両手に包丁を手にした男がスクールバスを待つ子どもの列を後方から襲撃した。大人であってもこの事態に対応するのは難しい。最初に襲われた小山さんは、背中の傷が心臓まで達していたという。各地で続けられる見守り活動がむなしくなるような事件だった。 学校保健安全法は各校に安全計画や危機管理マニュアルの策定を義務づけ、平成27年度には99・3%の小学校が通学路の安全点検を実施した。通学路の「安全マップ」作りも進んでいる。これらの取り組みで死角になる箇所は把握できるが、今回のようにいきなり刃物で襲われるケースを含め、被害を完全に防ぐのは難しい。 求められるのは、加害者を出さない取り組みである。川崎市の事件は襲撃した男が犯行直後に死亡し、動機が明らかになることはなかったが、家の中でも孤立を深めていたという。家庭や学校、職場など、生活の中で生じる孤立が加害の芽となるのなら、それを摘む手はあるはずだ。 行政による相談窓口の設置や介入だけでなく、子どもの見守り活動を支えてきた「地域の力」を、孤立の解消につなげることはできないだろうか。お節介のように思われる声掛けが、その一歩になるかもしれない。地域コミュニテイーの在り方も問われている。 9日に開かれた大阪教育大学付属池田小学校の「祈りと誓いの集い」で、佐々木靖校長は川崎市の事件を踏まえ、「加害者を出さないことを諦めたら学校は学校でなくなり、社会は社会でなくなってしまう」「命を大切にする取り組みに区切りはない」と呼び掛けた。8人の児童が犠牲になった校内児童殺傷事件から18年。社会に向けられた重い言葉としてその意味をかみしめたい。 県内でも平成9年に女子中学生、同16年には小学生女児が凶行の犠牲となった。加害者を出さない取り組みに終わりはなく、悲惨な事件が二度と起きない保証はない。それでも事件のたびに進まねばならないことを、佐々木校長の言葉が教えてくれる。
県内市町村の“借金”に当たる、地方債残高や債務保証額などの負債の規模を表す「将来負担比率」の県平均が全国平均を上回る状況が続いている。平成29年度の決算によると全国平均33・7%に対して県内37市町村の平均は77・8%。中でも河合町(219・1%)は、全国最下位で財政再生団体である北海道夕張市(516・2%)に続く全国ワースト2。同町は財政の立て直しが喫緊の課題となっている。 将来負担比率は、家庭でいうローン残高や債務保証の状態を見る指標。数字が大きくなると返済が長引き、家計が苦しい。 「第2の(財政が破たんした)夕張市にならないように」。4月にあった3候補による河合町長選は、財政立て直しが争点の一つとなった。ただ、多くの町民にとって「家計の窮状」は寝耳に水であったようだ。一時期、早期健全化団体に陥っていた御所市、上牧町に比べ危機感が乏しかったといえよう。 県西部に位置し大阪圏への通勤が便利なことから、河合町は高度成長期以降に大阪のベッドタウンとして発展。人口は急増。サラリーマンの急増により税収は自然に増えた。ただ、少子高齢化時代を迎え人口は年々微減。支えてきたサラリーマン層もリタイアした現在は、主たる産業にも乏しい中、歳入は苦しい状況が続く。これは同町だけでなく、県内の多くの自治体が抱える課題である。 財政健全化の方策として第1に考えられるのが経費の削減。早期健全化団体時に、御所市が補助金カット、上牧町がペガサスホールの休止などを行い、一定の成果を上げた。河合町も公共施設の存廃が検討されているが、住民サービスの低下は町民が納得できるプランでなければならない。 4月の町長選で初当選した清原和人町長は「住民には辛抱をしてもらわないといけない面もあるだろう。しかし、暗い話だけにしたくはない」と話している。ブレーキ(経費削減)は必要だが、時にはアクセルも踏まなければならないだろう。 同町は平成28年度から町街再生総合戦略に取り組んでいる。馬見丘陵公園を活用した活性化策などが盛り込まれている。同町は、近鉄の駅が3駅、西和地区唯一のシネコン、全国的に有名な私学の西大和学園があり、潜在的な町のポテンシャルは高い。ワースト2位から脱却し、将来を明るくするためには、行政、住民が一体となった真剣な取り組みが不可欠だ。
今秋10月に予定されている「消費税率の10%への引き上げ」。安倍政権の安定した政権運営のためか、実施を前提にこれまで準備が進んできたが、ここへきて慎重論が広がってきている。政府は「2008(平成20)年のリーマン・ショック級の出来事がない限り実施」としてきたが、米中の貿易戦争激化の影響が、日本をはじめ世界中に広がり始めてきたからだ。 米中による「自国ファースト思想」に基づく世界の覇権争いが、世界各国を巻き込んでいる。例えば、米トランプ政権が打ち出した中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)製品への禁輸措置を受け、KDDI(au)やソフトバンクなどが、5月下旬からの新型スマートフォンの販売を延期、予約停止を先ごろ発表した。日本の企業、消費者にとって、他の分野でもさまざまな影響が出てくるのは必至だろう。 また、安倍首相の経済政策のブレーンが相次いで、「引き上げは凍結すべき」と発言していることも注目を浴びている。内閣官房参与を務めた本田悦朗・前スイス大使や藤井聡・京都大学大学院教授が、「アベノミクスを失敗させないためにも凍結を」などと話しているのだ。 24日に発表された5月の月例経済報告では、政府は国内景気の全体像を示す総括判断を引き下げた。3月に続く2カ月ぶりの下方修正で、中国経済減速の余波などで、「輸出や生産の弱さが続いているものの、緩やかに回復している」とした。「回復」という言葉をぜひとも残しておきたい政府の思いとは裏腹に、庶民の実感とは相当かけ離れているように感じる。 軽減税率の取り組みも、コンビニ店での店内飲食と持ち帰りでの金額の差など、非常にややこしくて分かりにくい。各方面での混乱は必至で、「そんなややこしいんやったら最初からやめといたらよろしい」といった声もよく聞く。 一方、令和初の国賓として来日した米トランプ大統領からは、今後も自動車や農産物などの貿易摩擦に対する要求や圧力が強まることが予想されよう。大相撲千秋楽での過剰にも見える安倍首相の「おもてなし」も、今後の最大目標が次の大統領選挙での「再選ファースト」であるトランプ氏に、その思いが届いたかどうか。 中小企業や観光産業が多い奈良県にとって、中国経済の減速は、ストレートに影響が出てきそうで不安が募る。大阪での「G20サミット」(6月28、29日)の成り行きが大いに注目される。
日本政府観光局が21日、発表した訪日外客数の4月推計値は前年比0・9%増の292万7千人。昨年4月の290万1千人を上回り、月間の過去最多記録を更新した。4月までの累計も1098万1千人と早くも1千万人を突破。昨年に続き年間3千万人を上回る可能性が高く、政府が掲げる令和2年の年間訪日客4千万人の目標達成も見えてきた。県によると、県内でも平成29年、訪日外国人客数が200万人を突破。奈良公園周辺では連日、中国や韓国などの外国人観光客でにぎわう。 観光産業は製造業に代わる日本経済を支える基幹産業として期待される。しかし、外国観光客に限ったことではないが、急激な観光客増加を原因とした「観光公害」というべき状況が各地で起こっている。特に顕著なのが、本県と隣接した観光都市・京都で、混み過ぎて路線バスに乗車できなかったり、観光客が捨てるごみが問題となったり、市民生活にも大きな影響を与えている。 京都と同様、観光地と市民の生活空間が隣接した奈良も決してひとごとではない。行楽シーズンには奈良公園周辺の交通渋滞が常態化する。県はその対策として、今春、県営大仏殿前駐車場を廃止し、県庁横に「登大路バスターミナル」を開業。県庁以東の観光バスの乗り入れ抑制を図った。しかし、改元前後の10連休中にも時間帯によっては大渋滞が発生。本社編集部には「市内循環バスが動かず、途中で降ろされた」との苦情があった。同ターミナル開業による渋滞防止への効果や影響は、詳しい調査を待たないと分からないが、観光公害防止には引き続き対策が必要だ。 東洋文化研究者のアレックス・カー氏は共著「観光亡国論」(中公新書ラクレ)の中で、その対策として適切な「マネージメント」と「コントロール」の必要性を強調。思い切った車両規制による「歩く観光」への転換のほか、世界的に見ても安価だという寺社の拝観料や博物館入場料の見直しなどの対策を示す。「不便だ」「高い」などの声もあるだろうが、カー氏は「その場所をきちんと評価し、大事にする客が増えて、どうでもいい客は減る。それによって、観光地はレベルアップできる」。 世界に誇る多くの歴史遺産を持つ本県だからこそ、観光地としてレベルアップしなければ。著名な寺院や名所旧跡だけに頼った観光だけでは、いずれ飽きられてしまうだろう。観光の「量」から「質」への変換が必要だ。
改元の祝賀騒ぎも落ち着きを見せてきた。新たな時代に寄せる期待は大きかったかもしれない。だが、ただ思うだけでは前の時代と何も変わらないことを、だれもが実感し始めていることだろう。 県内の中小企業、小規模事業者を取り巻く環境もまたしかり。思うように労働力を確保できず、離職者を止められない状況が続いていることは企業、経済団体の関係者らの話や、各種機関の調査などからも知れる。労働力人口が減少していく中、じっとしていては働き手から選ばれる企業にはなれないことも、多くの経営トップが感じているに違いない。 4月の働き方改革関連法の本格施行に合わせ、大企業は人材確保も視野に、労働時間の見直しなどの労働環境改善への方策を打ち出している。しわ寄せを受けやすい中小も、動きの素早い企業は仕事の効率化をはじめとする対応策を講じていたりする。 県内でも先進例がある、残業減はもとより弾力的労働時間制度の導入、産休、育休後の復職や休暇取得のしやすさなど、職場環境の整備を図っている企業がある。 また従業員や家族、取引先、顧客といった人々を「幸せにする経営」を実践しつつ業績も高め、社内での働きやすさのみならず周囲にも大きな信頼感を持たれる存在となる方向を目指す企業もある。 さらには経済産業省が促進する健康経営を前提に、経営者と労働者が意識を一致させながら生産性を向上させるといった方策を採るところもある。 こうした企業、同様の取り組みを行う企業は、労働者に自社への誇り、帰属意識を育む経営改善で、人材の確保、流失阻止で実績を上げたり、実現を可能にしている。 前述のような方法が困難だとする企業には、仕事の進め方の見直し、効率化による省力(人)化、外国人や高齢者の労働力を求めるといった方法もあるだろう。いずれにせよ、人手不足に直面しながら動かずにいたり、現状を甘受していては、今後の社会状況を展望してみても厳しい状態の打破は難しいと言わざるを得ない。 東京商工リサーチの調べでは、平成30年度の人手不足関連の全国の倒産件数は前年度比28・6%増の400件で、25年度の調査開始以来最多を記録。求人難の深刻さがうかがえる。企業を活性化、存続させるための人手確保にどのような姿勢で臨み、手立てを講じるか。すでに何らかの形で行動し、しようとしている企業も含め、トップの覚悟が問われている。
第19回統一地方選は21日に市町村の選挙が投開票され、1カ月におよんだ全日程を終えた。今回は有権者の関心につながる期待も込め、啓発活動などで「平成最後」のフレーズが繰り返し使われたが、選挙で問われたのは次代の展望。その意味では「令和最初」を託す選挙だったと言える。 新しい時代の県政に目を向けるとき、焦点となるのがリニア中央新幹線だ。遠い未来に描く夢の高速交通と感じる人もいるだろうが、早ければ令和19年にも全線開業―と聞けば一気に現実味が増す。それどころか奈良市付近とされる通過ルート、県内中間駅の位置決定はもはや喫緊の課題になりつつあり、令和の幕開けを担う荒井県政4期目に、その答えを求めたい。 誘致活動は決して「イベント」ではないが、住民の関心度を高め、機運の盛り上げを図ることが計画推進の力強い後押しになることは、東京五輪や大阪・関西万博の例を見ても明らか。冷静な分析、判断をおざなりにした熱狂がもたらす弊害も先例から学びつつ、早期の「奈良市付近駅」の具体化を目指してほしい。 同新幹線は3大都市圏を一体化、国際的な競争力を持った新たな広域大都市圏を形成すると期待され、国土交通省は東京一極集中の反省から、同大都市圏が生み出す経済、文化などさまざまな効果を全国に波及させるため、学識経験者らで構成する「スーパー・メガリージョン構想検討会」を設置。今月開かれた第20回会合で最終とりまとめ案が大筋了承された。 荒井知事は今年1月、この検討委員会に出席して、奈良市付近駅を核とした地域振興策について取り組み姿勢を発表。提出した資料には同駅周辺の整備について、先端産業などが大規模に集積したまちづくりを示すとともに、早期の位置確定が必要と明記した。また同駅と関西国際空港を直結するリニア新支線、高速道路や在来鉄道との結節性向上の重要性も強調。同知事は、北陸新幹線を京都から延伸させてリニアの奈良市付近駅に接続、さらに関西国際空港まで結ぶ大構想も温める。 これまでの検討委員会の議論では中間駅周辺について「爆発的で破壊的なイノベーションが起きる」「中間駅におけるインパクトの大きさは考えている以上に巨大」などの指摘も相次いだ。新しい時代を切り開くエネルギーに満ちた計画。それだけに県民こぞって注視するとともに、当該地域は一刻も早く身構えなければ。
県民の審判が下った。 知事選は現職の荒井正吾氏が4選を果たし、令和時代のかじ取り役を託された。そして新顔と元職の7人を含む43人の新しい県議が誕生した。次の時代の県政を担っていくことになる。 そこでまず荒井知事への注文だ。 選挙での圧勝は、これまでの実績が支持され、評価されたことは間違いない。しかしながら過去3回の選挙と比較すれば得票率は初めて50%を切った。その批判票の重みを、しっかり受け止めてほしい。低かったとはいえ、投票をした半数以上の県民が対立候補の前参院議員の前川清成氏、そして医師の川島実氏に投じた。両氏がそれぞれ何を訴えたか、批判票にも謙虚に耳を傾けねばなるまい。なるほどと思ったらこれからの県政にどう生かしていくかだ。 かつて全国知事会長も務めた故・奥田良三氏は8選という全国最多選知事として君臨した。多選については何度も指摘されてきたが、県民は大きな変化を望まなかったし、4選した荒井氏に、さらなる改革を推し進めてもらいたいと支持した。荒井氏は選挙戦で多くの夢を語り数々の約束した。それが単なる選挙向けでないことを示すためにも、必ず公約を履行してほしいし、監視していきたい。 一方の県議選も現職組が圧倒的な強さを見せた。政党でみると、自民、国民民主、日本維新の会、公明の各党が公認(一部推薦)候補を全員当選させた。半面で初陣の立憲民主党は全敗し、議席増を狙った共産党も現職を落とすなど後退した。 終わってみれば保守の堅調さが際立ったといえる。新人にしても引退した現職の後継候補として勝ち上がっている。隣大阪では今度も維新旋風が巻き起こり、その勢いは奈良でも示された格好だ。 そこで自民党だ。初当選した保守系無所属組議員を加えれば過半数の22議席が見込まれる。この4年間、3分裂していた自民党が、今度こそ会派の一本化が求められよう。そのために誰が汗を流すか。7月には参院選を控えている。党内論議はいくらでも進めたらいい。分裂状態のままでは党を支持した県民に説明がつかない。 今は、統一地方選の前半戦を終えたところだ。14日には生駒市や大和高田市などの市長選をはじめとした市議選がスタートし、町村の首長、議員選も続く。身近な選挙だけに、有権者の関心も高い。そして各党の勢力図にも注目していきたい。
間もなく幕を閉じる「平成」の時代で最後の統一地方選挙は、県内では既に選挙戦に突入している知事選に続き、きょう29日に県議選(16選挙区、定数43)が告示される。二つの選挙はともに4月7日に投開票。この後に続く後半戦は、市長・市議選が4月14日告示、町村長・町村議選は同16日告示で、ともに同21日に投開票となる。 展望と内実を問われて久しい「地方の時代」にあって、今回の統一地方選も地方の自立・自律について考え、取り組みの実績を積み上げていくための大切な選挙だ。ところが、どうにも盛り上がりに欠けるように見えて仕方がない。政治や選挙に対する関心が低くなっているとは、よく指摘されるところ。だが、たとえそうであるにしても、なぜそうなっているかの説得力のある理由説明は必要だ。その点について、新聞発行の一端に携わっている一人として、責任とふがいなさを感じ続けている。 国民・県民は政治や選挙より、政府が4月1日に公表する予定の新元号への関心の方が高そうだ。また、新たな時代へと向かうことになる皇室・皇族について、さまざまに思い浮かべているかもしれない。 残念ながら県勢は出場しないが、甲子園球場で繰り広げられている選抜高校野球大会の連日の熱戦にくぎ付けになっているのかもしれない。進学や就職などによる引っ越しで追われているのかもしれない。これまでもいろいろなところで引用していて恐縮だが、埴谷雄高さんの「政治の幅はつねに生活の幅より狭い」(「幻視のなかの政治」)という言葉が思い起こされる。 加えて、開会中の今国会における論戦も気にかかる。新年度予算が成立し、各党ともあとは統一地方選と夏の参院選(衆参ダブル選挙も視野)へと走り出すという指摘さえあるのだ。もしそうなら、政治家がますます政治の幅を狭くしていくことになりはしないか。これまでの論戦が国民・県民の政治意識に何らかの波紋を広げていると信じたいが、なかなかしっかりした確信が持てないままで来ている感じなのだ。 国の政治の言葉が求心力を持てないでいる根っこの責任は与野党の国会議員にあるのかもしれない。一方で国民・県民は新しい政治の言葉を求めている。「これは違う」「こんなものじゃない」「何も響いてこない」などといら立ちながら待望している。これに応えて、「地方から政治を変える」ことを実現可能にする本物の政治の言葉が必ず生まれてくると信じているのだが。
県東部最大の宿泊施設として約40年の歴史を持つ宇陀市の保養センター「美榛苑」が、4月から一時休館する。市の指定を受けて施設を管理・運営する「指定管理者」の公募に手を挙げる業者がなかったためだ。休館は県東部地域の観光振興にも影響する。市は半年後の営業再開を目指しているが、公募条件の見直しなど、対応の早期具体化が求められる。 美榛苑は昭和55年にオープンした温泉付きの宿泊施設で、43室に190人を収容できる。大小の宴会場やレストランもあり、宿泊のほか、各種宴会での利用も多い。宇陀市(合併前は榛原町)の直営施設だったが、宿泊客の減少などで経営状況が悪化、一時借入金は14億5千万円に膨らみ、平成22年に指定管理者制度を導入した。指定管理者は市に年間2千万円を収め、管理・運営を担う。 これまで休暇村協会の関連会社が指定管理者だったが、指定期間の終了に伴う公募に応募しなかった。背景に休暇村協会が市と協定を締結して進めていた同市榛原萩原への宿泊施設誘致事業の中止があるのは明らかだろう。昨年4月に初当選した高見省次市長が中止を表明し、是非を問う住民投票でも僅差ながら事業への反対が「賛成」を上回った。新しい宿泊施設は老朽化が進む美榛苑の代替施設とするはずだった。 その後、美榛苑の指定管理者公募は2度にわたって応募者ゼロとなり、一時休館に至った。忘れてならないのは住民投票が美榛苑の存続を前提としていたことだ。「美榛苑があるなら新しい施設はいらない」と考えて反対票を投じた住民もいるだろう。高見市長は記者会見で、応募がないことを「想定まではしていなかった」としたが、どのような見通しを持っていたのか。これまでの経緯から休暇村協会が手を引くことは予想できたはずで、その見通しの上にどのような手を打ってきたかが問われる。 一時的にせよ、施設の休館や閉鎖は利用者と雇用を失うことを意味する。平成20年に3万5千人を超えていた宇陀市の人口は、10年間で5千人近く減った。年齢別人口は65~69歳が最も多く高齢化が進んでいる。雇用の創出は行政に突きつけられた重い課題だ。 高見市長は美榛苑を観光戦略の中核施設と位置づけている。休館が長引くような事態になれば、利用者離れも進むだろう。市議会との関係構築も含めた市長の手腕が問われている。
21日の告示が目前に迫ってきた県知事選。これまでに出馬表明しているのは、4選を目指す現職の荒井正吾氏(74)▽医師で新人の川島実氏(44)▽前参議院議員で新人の前川清成氏(56)―の3氏。ただ新人候補の一本化が、いまだ流動的であり対決構図に波乱もありそうだ。 知事選は3期12年の荒井県政を有権者がどう評価するのかが焦点となるのではないか。堅実な行政手腕とともに、アイデアマンとの評価がある荒井氏。全国的な知名度を得るようになった奈良マラソンを創設。ホテル誘致、国際会議場整備など観光施策に積極的な姿勢を見せる。大都市圏集中が進む中、県は人口減少が続き、経済基盤もぜい弱。根底には県活性化を図らねば未来に展望は開けないとの危機感があるのではないか。 一方、「奈良公園のホテル建設は奈良の環境を破壊する」「知事は県民を見ないで東京を向いている」などと現県政を強く批判する勢力がある。これに推されるかたちで川島氏は昨年12月18日、ホテル建設反対とともに高校再編白紙化などを掲げ立候補を表明。続いて、前川氏が今年1月15日に出馬表明した。 川島、前川両氏の主張に大きな違いはなく、このままでは選挙戦に突入すれば現職批判票が割れ、選挙戦略的に新人不利になるのは明らか。そのため、本紙の報道のように、川島、前川両氏の陣営が一本化の話し合いの場を持っているが、まとまっていない。実は川島氏、前川氏など反荒井県政の関係者間で事前に一本化についての“約束”があったといわれており、前川氏は「約束をほごにしたのは川島さん」と態度を硬化。振り上げたこぶしを降ろせないのだろうか、川島氏は「降りない」と断言している。悪くいえば内輪もめ、意地の張り合いともとれる。 これに戸惑いを見せているのが共産党県委員会だ。当初は政策を同じくする川島氏を支援する意向を示してきたが、状況の変化によって支援を取り下げ、「一本化が成立すれば、残った候補者を応援したい」とする。前川氏出馬表明が県委員会にとって“サプライズ”であったのではないかと推測する向きもある。 有権者とすれば、川島、前川両氏の政策上の違いが分かりにくく、なぜ一本化ならないのかが極めて不可解。一本化ならないのなら、その明確な理由を有権者に明らかにする必要があると考える。
きょうから3月だが、今月16日のJR西日本のダイヤ改正は、奈良にとって大きな変化をもたらす2つの要素がある。 まず、JRおおさか東線の放出―新大阪間が開業し、奈良と新大阪が直結する。JRの奈良駅から、一日4往復(朝夕のみ)する関西線(大和路線)の「直通快速」に乗った場合、久宝寺からおおさか東線に入り、放出経由で新大阪まで「乗り換えなし」で、約1時間で行けるようになる。 従来は新大阪から新幹線に乗車の場合、JRの奈良からだと、大阪でJR東海道線(京都線)に乗り換えるルート、天王寺で大阪メトロ(地下鉄)の御堂筋線に乗り換えて新大阪へ―といったルートが考えられた。今回の直結は、特に子ども連れや高齢者にとってはありがたい。朝の早いビジネスマンにとっても朗報だ。 しかも、おおさか東線は生駒からだと大阪メトロ中央線に乗れば高井田で、近鉄奈良線なら河内永和で、また近鉄大阪線なら俊徳道でJRに接続しており、普段JRを利用しない県民にとっても便利になる。 新大阪―奈良間では、平成22年の「平城遷都1300年祭」の折に「特急まほろば」という臨時列車が走ったことがあるが、3か月で終了。今回は常時、直通ということで、観光客の奈良への入り方が大きく変わってくることが予想される。 特に、九州や中国・四国地方といった西日本から訪れる観光客のメリットは大きく、新大阪で新幹線から乗り換えるだけで奈良に入れることになる。周遊のルートも、従来とは様変わりしそうだ。 一方、桜井線(万葉まほろば線)・和歌山線には、新型車両「227系」がデビューする。現在走っている青色の車両は、秋ごろまでに随時入れ替わるという。 新型車両は、乗客がドア横のボタンを押してドアの開閉をすることが可能だ。トイレもバリアフリー対応に。現在は五条―和歌山間では使用できないICカード乗車券(イコカ)が、来年春には「車載型IC改札機」の使用で、利用可能になる。 227系は近畿では初の投入で、安全性や快適性が飛躍的に改良されている。通勤・通学客、観光客にも歓迎されるだろう。 新しい元号とともに、奈良観光の新時代が始まる。交通アクセスの向上や新型車両の登場という、またとない奈良にとってのプラス面を大いに活用し、国内外からの観光客増加につながる方策を官民挙げて考えていくべきだろう。
昭和24年1月26日、解体修理中だった法隆寺金堂(国宝)から出火。中国・敦煌莫高窟壁画などと並ぶ古代仏教絵画の世界的な傑作とされる金堂壁画(7世紀、国重要文化財)も被害を受けた。山中羅漢図18面が完全に焼失し、釈迦、阿弥陀、薬師、弥勒の四つの浄土などを描いた極彩色壁画12面も色彩を永遠に失った。原因は壁画の模写作業に使っていた電気器具の漏電とされる。この悲劇をきっかけに翌25年には文化財保護法が施行し、同日を文化財防火デーに定められた。 火災から今年で70年。法隆寺では平成27年から、非公開だった焼損壁画の一般公開に向けた検討を行っている。先月27日には有識者らで構成する保存活用委員会の中間報告があり、壁画が眠る収蔵庫の耐震性に問題がないことが分かった。 収蔵庫は壁画焼損から3年後の昭和27年に完成。当時、日本建築史や建築構造学などの専門家が示した収蔵庫の設計方針の一つが「謙虚な建物であるべきこと」。収蔵する壁画が痛ましい焼け残りであるからだ。壁画や資料類の防災を重視し、通常より鉄骨や鉄筋を多めに設計したという。県内の多くの公共施設で耐震不足が問題になる中、70年前の建物が現代の耐震強度もクリアした背景には当時の人々の文化財に対する真摯(し)な思いがあったといえる。 さらに設計方針で注目すべきは「出来得れば資料や古材の一部を展観し得るようにする」とあること。つまり、当初から壁画などの公開が意図されていた。その後、さまざまな理由で原則非公開となってしまったが、今、一般公開が実現すれば先人たちの思いにも応えることになる。法隆寺の大野玄妙管長は「痛ましい壁画の姿を見れば、ほとんどの人が文化財を大切しなければと思うはず」と壁画公開を目指す理由を語る。おそらく、70年前の人々も同じような思いから焼けた壁画を大切に残し、公開しようと思ったのではないか。 とはいえ、壁画の公開に向けては、焼損部材の強度や公開による温湿度環境変化のシュミレーションなど課題も山積みだ。保存活用委員会は収蔵庫での公開を前提に調査検討を続け、聖徳太子1400年忌の平成33年をめどに公開の方向性を提言する方針。くしくも今年4月には文化財の活用に重きを置いた文化財保護法の改正が行われる。改めて70年前の悲劇を教訓として、今後の文化財保護活用のあり方を考えないといけない。
自社の技術や製品をどこに、どういった方法で提供するかは事業者にとって尽きない課題だ。県内事業者も地域にとどまらず展示会や商談会を通じて事業、販路の拡大を図るなど知恵を絞っていることだろう。 新たな国際経済協定も発効される中、海外に道を求める方法もある。大阪税関の近畿2府4県の昨年の貿易概況(速報値)では、貿易収支は4年連続の黒字。輸出額は過去最高だった。海外展開に実績を残す県内事業者もいるが、まだ途上の様相。だが、海外進出への県内環境も整いつつある。 昨年11月、ようやく日本貿易振興機構(ジェトロ)の県内拠点として貿易情報センターが奈良市に開設された。スタート以来動きは活発で、相談業務をはじめ各種セミナーも次々に行われている。国内外に広いネットワークを持ち、中小企業の海外展開支援でも老舗といえる存在だけに、相談相手が近くにいることは心強い。 よく知られた機関の取り組みでは、国際協力機構(JICA)の民間連携事業もある。発展途上国の経済、社会課題の解決を民間企業の技術、製品などで図ろうとするもので、近年本格化。途上国の生活基盤向上、発展に貢献する一方、企業側には拡大する途上国市場での事業展開の足掛かりともなる。単に途上国を支援、援助する内容ではなく、双方に利点のある「ウィンウィン」の関係が特徴となっている。 農業や保健医療の分野で、すでにこの事業を活用している県内事業者も見られるが、近畿の他の府県と比べても少数にとどまっている。ただ海外展開を視野に入れる事業者には検討すべき魅力がある。 こうした事業を実現する上で不可欠なのが、手持ちの技術、製品などを通して自社の強みをあらためて知ることだ。唯一無二のものを持つなら何よりだが、全体の中の一部が他社より抜きん出るだけで内容次第で海外ニーズにかなう場合もなくはない。 それらを客観的に分析する力が不足しているなら、海外事情に通ずる前述の機関などの専門家の助言を求める方法もある。海外の状況が刻々と変化していく中で、自社の技術、製品が時代に適合していることに気付かぬことも考えられるからだ。 新たな事業展開には常に一定のリスクが伴う。だが半面、とりわけ県内に多い中小、小規模事業者にとっては、正しい見極めの上での取引経路拡大が事業継続で優位に働く可能性も否定できない。海外へ視野を広げることは、選択肢の一つになり得る。
存続の意味が問われている。平成13年9月に、明日香村飛鳥に開館した県立万葉文化館のことだ。 当初、年間25~30万人と見込んでいた入館者数は、半数以下の10万人前後という。しかも140億円もの巨額資金を投入して建設し、運営費も人件費を含め年間3億5000万円、累計で50億円以上も負担してきた。柿本善也元知事の執念さえ思わされた肝いり事業だっただけに、実態はどうなっており、本当に必要なものだったのか、”負の遺産”とも指摘されている同館を平成時代が終わろうとしている今、しっかり見直すべきだろう。 同館は、万葉集をテーマに、古代文化の魅力を視覚的に紹介する「展示」(美術館・博物館)や「図書・情報サービス」(図書情報室)、そして調査・研究(万葉古代学研究所)の三つの機能からなっている、とされる。そのような建造物であることを、どれほどの県民が知っているか。県民の何人が足を運んだことがあるか。建設に賛成した県議の何人が訪れたか。観光客がたまたま寄ったり、企画展の素晴らしさで来館する人もいよう。 オープンの日を含め、何度も企画展に足を運んだが、立地の悪さを痛感する。近鉄橿原神宮前駅から、路線バスを利用すると相当時間がかかる。タクシー利用なら入館料の数倍の料金だ。近くに飛鳥資料館やキトラ古墳壁画体験館「四神の館」、県立橿原考古学研究所付属博物館もある。いずれも日本のふるさとの地にあって、古代に触れることができ、「これぞ明日香だ」と実感できる。それだけに万葉文化館に対するイメージが明確でない。 造成時に、わが国最初の貨幣である富本銭が発見され、地元住民らを中心に建設反対運動も起きた。「無謀な開発」と批判されながらも建設は進められ、当時を知る建設業者は「何が何でもあの地に建てるという、柿本元知事の執念を感じた」というほどだ。 滑り出しは入館者数も好調だったが、それでも最高で年間14万人。そして昨年9月には館内の飲食店が閉鎖された。また愛好者で組織された「万葉文化館友の会」(里中満智子会長=漫画家、会員6000人)もこの3月末で解散する。 荒井知事が有識者会議を設置して検討するとしているが、そもそも建設する必要があったのか、という根本的な問いかけをすべきだ。交通不便なあの地になぜ建設しなければならなかったのか。 そして当時、建設に賛成した県議会の責任も問いたい。 巨額資金を投入し、経費が膨らんでいる現状を考え、時代の変わり目の今、廃館など思い切ったことをせねばなるまい。
県内の学校や医療機関、行政施設の耐震補強について遅れが問題化している。総務省消防庁がまとめた昨年3月31日時点の調査によると、防災拠点となる公共施設などの耐震化状況は、対策済みが全国平均で93・1%だったのに対し、県内は86・5%にとどまった。これは全国で43位、近畿2府4県で最下位。県が掲げる「日本一安全で安心して暮らせる奈良の実現」にはどうすれば良いのか、一層の奮起と新たな工夫も求められそうだ。 昨年来、注目を集めている課題に県立高校の耐震化がある。県教委は整備を順次進めているものの、同11月現在で未対応の県立高校が9校21棟あり、全校の耐震化が完了するのは平成34年度になると県に報告した。その多くは、耐震診断で早期の対策が求められていたにもかかわらず、費用面などから対応が先延ばしされていた施設とみられ、生徒や教職員の安全をなおざりにしていたと批判を浴びた。 また問題化の発端となった奈良高校については、構造耐震指標(Is値)が文部科学省の基準より著しく低い同校体育館を奈良市が第2次避難所に指定していたことが分かり、慌てて解除する事態に発展。 こうした「判明した危険性」が、結果として軽視されていたケースは、県教委だけにとどまらない。県や市町村など他の公共施設についても似た状況にある。災害時に「想定外」をなくす努力が求められているのに、それどころか「想定していたが未対策」が相次ぐようでは話にならない。各自治体とも来年度予算案の編成時期を迎え、事業の優先順位見直しが急務だ。 一方、県立高校の耐震問題では県や市、県教委の間で、責任の所在が問われる場面もあったが、防災は県民の生命にかかわる重要事項であり、当然、すべての公的機関に責任がある。そして権限についても“縄張り”に固執せず、幅広く衆知を結集して臨む姿勢が必要だろう。その意味で、きのう知事が奈良市議会で講演、市庁舎の耐震化問題について考えを参考案として示した取り組みは、異例と言えばその通りだが、新しい「奈良モデル」になり得るか。 施設の耐震化には時間がかかるが、これまで本当に可能な限りの努力が払われてきたのか。阪神大震災の発生から24年。既に四半世紀近い時間が経過した中で、課題を厳しく問い直し、さらに問い続けることで改善を図るとともに、行政も県民も、防災意識の高まりに結びつけたい。
知事選挙が本格的に動き出した。来春の統一地方選で行われる同選挙は4月7日を投票日とする特例法が成立。これを受けて告示は3月21日になる見通しで、既に残り100日を切った。 そうした中、3期目の現職、荒井正吾氏が4選を目指して出馬する意思を表明。対立候補の名前はまだ挙がっていないものの水面下では調整が進んでいるとみられ、現職の態度表明を受けて動きが加速することになりそうだ。同日投票で行われる県議選とも連動、建設的な政策論議が高まることを期待したい。 国と市町村の中間に位置する行政組織でもある県には、住民に対する直接的な行政サービスはもちろん、国との連携や市町村支援の充実が強く求められる。また近年は府県間の協力関係も重視され、前々回の知事選挙では関西広域連合への関わりが大きな争点の一つになった。ただ広域連携における利益と負担を考える場合は、軸足を置く県内の南北格差など、市町村間のバランスに配慮することも欠かせない。同問題では、大阪市で開催が決まった2025年国際博覧会への対応が一つの試金石になるかもしれない。 県の知事選日程は、予算編成との兼ね合で4月改選を嫌った奥田良三知事が任期途中に辞任、再出馬して、昭和30年選挙から1、2月の投票に変わって以降、統一地方選から外れていたが、平成19年からは柿本善也知事が意図的に辞任時期を調整して再び統一選に合流。その手法の是非はともかく、県議と同日選挙になったことで投票率は安定。まだ決して高くないが、以前のように5割を切ることはなくなった。今回は初めて統一地方選挙に臨む18、19歳有権者の動向も注目される。 戦後の昭和22年、全国一斉に公選知事が誕生して以来、県ではこれが20回目の節目の選挙。その内訳を見れば、引退などで現職が不在の選挙となったのは初回を含めて計4回。無投票はなく、残る15回は事実上、いずれも新人勢が現職に挑む構図で行われ、2回目の同26年選挙以外、すべて現職が当選を勝ち取っている。 荒井氏は出馬表明に際し、無所属の立場を示した上で自民、公明、国民民主の3党と連合奈良に推薦を依頼する意向としており、夏の参院選を控えて、政党の枠組みも焦点だ。 平成から次代へ。県政の舵(かじ)取りを委ねる重要な選択が始まる。
来春の統一地方選挙の日程は、県が4月7日投票、市町村は4月21日投票で固まった。それぞれの選挙をめぐって、既に水面下で静かとも言えない戦いが繰り広げられており、いろいろ風説も飛び交っている。 来年は夏の参院選も控えている。同じ年に統一地方選と参院選が行われるのは12年に一度。そのたびに選挙への関心が高まるものだが、加えて今回は衆参ダブル選挙を予測する声も沈静化していない。 来年10月に予定される消費税増税、自民党が強くこだわり続ける憲法改正(特に9条関連)論議の推進などだけでなく、東アジア地域(特に中国、韓国、北朝鮮)における外交問題など、内にも外にも対応の難しい大きな課題がいくつもある。さらに来年には天皇陛下の退位と皇太子さまの即位があり、ラグビーのワールドカップもある。再来年は東京五輪が開催される。 国民の関心事が続く中で、政治の将来はどう切り開かれていくのか。まずは身近なところでの状況がどうなっているのかをよく見回し、来る選挙に向けて自らの賢明な判断(一票の行使)を下したい。 身近なところでといえば、わが国の自動車産業興隆の一翼を担ってきた名門・日産自動車の“皇帝”逮捕には驚いた。優れた経営者イコール優れた人格者にあらずの一例か。企業の中にも権力問題はあり、それは企業の体質を浮き彫りにする。 この事件に関連して見逃せないことの一つは、同じく自動車メーカーのホンダの販売店従業員が、日産が宣伝で使っている表現をまねてインターネットに不適切な投稿をしたと報じられたこと。大きなニュースではないかもしれないが、今の社会・時代の底流にあるものを感じさせる行為であり、よくよく考えるべきことだと思う。 身近なことではもう一つ、県立高校の再編や施設耐震化をめぐる論議にも注目。今月30日に開会予定の定例県議会で引き続き論議となりそうで、なかなかすっきりとはいかない。そもそも何が問題の発端で、どこに本質的な問題があるのか。論点を整理し、県民に広く経緯を公表してほしい。 突然浮上して来る現在的な問題にも経緯があり、歴史がある。少し前に「決めること」「決断すること」を重視する傾向があったが、改めて「論議すること」「論議の過程を振り返ること」の大切さを思う。 来年の選挙に向け、自分の意識をもう一段上げよう。そのために、身近な問題を政治に関連させて考えることもしてみよう。
昭和61年に発足し、演奏を通じて防火啓発を行ってきた奈良市消防音楽隊に、市議会で廃止や休止を求める声が出ている。市消防局の正規職員数が条例定数を大きく下回る中、音楽隊のメンバーには消防や救急の隊員も含まれる。休止などの手だてにより、現場の人員確保を求めたものだ。 消防力の低下は市民の命と暮らしに直結する。事が起きてからでは取り返しがつかない。現場の人員確保は当然だが、音楽隊の存廃に直結させるのは性急の感がある。職員数は消防局全体の問題であり、音楽隊の廃止・休止で解決するものではない。仮に好転が見込めるとしても、一時しのぎになる。 消防局幹部は人員不足を認めていないようだが、現場では対応を求める声が出ている。7、8月の救急出動中、18件に救急救命士が搭乗していなかった。音楽隊見直し論の背景にも、ただでさえ少ない職員を不急の演奏活動に割かれては、業務に支障が出るとの事情がある。 音楽隊の隊員は現在25人で、小学校や市の行事、年始の消防出初め式などで演奏している。演奏を通じて防火を呼び掛け、市民との交流という面でも活動の意義は見いだせる。音楽隊の演奏で初めて生演奏に触れる小学生も多いだろう。活動には情操教育の側面もあるのではないか。 懸念されるのは、これらの活動が公務であるにもかかわらず、快く思わない声があることだ。音楽隊は合奏訓練も月4回ほど行っているが、他の職員には活動が趣味の延長として映ることもあるのではないか。現場に不満がくすぶっているなら、チームワークに影響が出ないか心配である。 職員数の問題と音楽隊の存廃は、一度分けて考えることが必要だ。音楽隊を巡る今回の議論には、消防局に音楽隊が必要かという根本的なテーマが隠れているように思われる。そこに職員数の問題かぶせると、専属の音楽隊を持たない限り、不要のレッテルを貼ることになりかねない。 消防局内には、音楽隊の活動について「年次計画が一方的に各消防署に押しつけられるから対応が大変」「日勤日に練習するため本来の業務に影響が出ている」などの声がある。これらの声に目をつぶったままでは何も変わらない。音楽隊員の多くを専任の嘱託職員で運営する京都市消防局など、他府県の事例も参考になる。県内で唯一の消防音楽隊を職員が誇りに思えるよう、運営の在り方を考えてほしい。
今年は明治150年。安堵町出身で明治時代に政治家、実業家として活躍した今村勤三を主人公とした伝記的小説「大和維新」(植松三十里著、新潮社)が発刊された。11月4日には同町で作者を招いた文化講演会が開かれる。明治維新後に一時「独立」を失った奈良の再置に尽力し、奈良のプライドを取り戻した今村の業績は大きい。 旧大和国は維新後に奈良県となったが、明治9年に堺県に編入、さらには同14年に堺県ごと大阪府に編入された。行政は大阪優先となり、奈良の人々はたびたび不利益をこうむっていたという。堺県や大阪府の議員を務めていた今村は、同志らとともに奈良再置運動に乗り出す。 庄屋だった今村の生家は現在、安堵町歴史民俗資料館として公開されている。常設展示には「置県を働きかける陳情は困難を極め、東京での長期滞在など、仕事に忙殺される日々が続きます」「運動に要する莫大(ばくだい)な費用を負担するために、家産も傾きかねない程」などと記されている。運動から6年の歳月を経て今村らの活動が実り、明治20年に奈良県設置が裁可され、翌年に今村は初代の県会議長になる。 勤三の伯父・今村文吾は幕末の医師であり、尊皇攘夷(じょうい)を掲げ大和で挙兵し、維新の先駆けともいわれる天誅組の後援者としても知られた。志士の一人、伴林光平は今村家に出入りしており、勤三も大きな影響を受けたとされる。維新と奈良は縁遠いと思われがちだが、そうではない。 学校教科書に奈良が登場するのは古代から奈良時代まで。中世、近世、近代の奈良についてはわれわれの盲点だ。浅学な筆者はこれまで今村らの功績についての知識はほとんどないが、おそらく県民の多くが同様であろう。もっと郷土史を学ぶ必要がある。奈良県の関西広域連合加入問題がとりざたされた時、奈良の不利益を危ぐして反対した中には、郷土の歴史に精通した人がいたのではないか。 最近、指摘する人が増えたが、日本歴史の教育は、近代、現代が軽視されているといえよう。資料が多く残っている近代、現代が正確であるし、現代人の思考、生活にも近いはずだ。明治150年、歴史から学ばなければならないことは多い。
ふるさと納税の返礼品を巡り、政府は法改正を伴う規制を検討している。これまでは自治体の自主性を尊重してきたが、寄付を集めるために高額な返礼品を用意する市町村が増えるなど競争が激化したためだ。 ふるさと納税は平成20年、大都市の税収を財源の乏しい地方に移し、地域を活性化させる目的で創設。都道府県や市区町村に寄付すると、寄付額の2000円を超える分が地方税の住民税、国税の所得税から軽減される仕組みだ。 同様の目的を持つ地方交付税制度と違う点は、納税者自身が納税(寄付)する自治体や使用目的を選べることだ。生まれ育った自治体への恩返しで納めたり、特定の事業を直接応援できる。さらに自治体によっては返礼品もあり、納税者にとっては魅力的な制度といえる。 財政難に悩む自治体にとっても魅力的であり、少しでも多くの寄付を得ようと返礼品を競い始めた。その結果、ふるさと納税のポータルサイトは「お得な買い物情報」のような状態となっている。「肉、カニ、米」が返礼品の「三種の神器」らしい。 政府は「過当競争」を沈静化するため、返礼品は地場産品に限り、調達費を寄付額の30%以下にするように規制。違反した自治体は制度から除外し、寄付しても税の優遇措置を受けられなくなる仕組みを導入する。県内も5市町村で同基準に抵触する返礼品があると指摘を受けている。 しかし、規制による「税収減」が危惧される一部の自治体からは「『30%以下』の基準の理由が不明確」や「特産品の定義があいまい」などの不満が噴出。さらに、人気のある特産品の有無で自治体間に不公平が生じる恐れもあり、政府が考える規制方法にも疑問が残る。 ふるさと納税は寄付制度だ。本来、寄付とは見返りを求めないものであり、税控除の上に返礼品を設けるのは趣旨に反する。さらに少子高齢化や人口減で税収が減少する中、少ないパイを自治体同士で奪い合うのも不毛だ。 魅力ある返礼品が無ければ十分な寄付は集まらないのが現状。一方で、北海道の地震や西日本豪雨などの災害支援にも多額の寄付が集まっているという。本当に資金を必要としている地域を応援し、自治体が独創的な事業を競い合うことこそが、本来の趣旨である地域活性化につながる。返礼品重視から寄付の使い道重視へ変える仕組みづくりが必要だ。
テニスの大坂なおみ選手の全米オープン女子シングルス優勝や、前回のラグビーワールドカップで日本代表が強豪を倒し、好成績を収めた背景にはメンタルケアの充実があったことが知られている。個人の能力を最大限に引き出すために、心の充実はより重要視されるようになっている。 労働者の心理的負担の程度を把握し、メンタル面の不調を未然に防止することなどを目的に、従業員50人以上の事業所に毎年1回のストレスチェックが義務付けされたのは平成27年のこと。奈良労働局によれば、現在、県内当該事業所の約8割が実施報告を行っているという。 こうした状況の中、同局などは今年7月、従業員50人以上の事業所を対象に、メンタルヘルス対策などのアンケート調査を初めて行った。結果によれば、実施しているメンタルヘルス対策として、73%の事業所が相談窓口を設置していると回答した。 ただ、窓口がどの程度のものかは不透明。一定の専門知識を持つ人を配置しているのか、単に名目だけの担当者を決めているだけなのか。それだけでも相談者への対応、後々の効果はずいぶん違ってくる。 懸念を抱く理由は、複数回答可能な同じ設問で「職場環境等の把握と改善」「教育研修」「情報提供」といった対策の実施がいずれも5割程度か、それ以下にとどまっているからだ。「心の健康づくり計画の策定」は2割でしかない。さらに今後実施したい対策では、ほとんどの項目が2割台。同局でも対策支援を目的に、事業所担当者らに専門的知識を学んでもらう各種セミナーを企画しているが、事業所側の反応は積極的とは言い難いようだ。これでは前提のストレス検査の実態にも疑問が湧く。 県内で中心の中小、小規模企業の人手不足が深刻化する状況で、現有人員の能力を引き出し、高めたり、心の病に陥らせないことは各事業所の喫緊の課題。従業員を定着させ、求職者からも注目される働きやすい職場づくりの一つとしても、メンタルヘルス対策の充実は検討されるべき要素だ。 事業所規模にかかわらぬ働き方改革は多様な側面を持つが、人を大切にするとの考え方は根幹を成す部分といえる。従業員を大事にする事業所が離職を防ぎ、前向きな姿勢を生んで業績向上につながっている例は県内各地で見聞きする。一方でメンタル面への対策、充実を怠ることは手の内にある貴重な財産を失う可能性があることを、事業者は忘れてはならない。
盛り上がりに欠けたが、自民党の総裁選で安倍晋三首相が石破茂元幹事長を破り、連続3選を果たした。これにより安倍氏の首相在職日数は、歴代最長となりそうだ。 政権党のトップが、首相になるのはその通りにしても、国民全体がそれほど支持しているのかどうかは別問題だ。自民党の党内事情と総裁選の仕組みが、安倍氏を押し上げている。世論調査でも分かるように、国民の圧倒的支持とは別物ではないか。 総裁選は党所属の国会議員票と党員・党友による地方票で実施される。代議員制度であるから、多数党から首相が選ばれる。自民党の総裁を選ぶことは一国のトップを選ぶものだ。党員以外は投票資格もないのに、地方で街頭演説などを行い、あたかも国民全体が参加しているような形を作ったが、それほど関心は高くなかった。 奈良はどうだったか。 衆参両院の国会議員6人全員が安倍氏に投票した。党県連によると投票権を持つ党員・党友は7768人で、投票率は64・62%の5020票だけだ。このうち安倍氏3332票、石破氏1674票で、安倍氏の支持は66・37%の結果だった。奈良県には100万人以上の有権者がいるが、県民のわずか3000人強の支持で、国のトップが選ばれたことに、文句を言いたい人もいるだろうが、総選挙という政権選択選挙で意思を示すしかない。 とりあえず総裁選を乗り切ったとはいえ、安倍首相を取り巻く内外の情勢は厳しいものがある。景気や雇用、人口減少問題、外交など山積しており、特に憲法改正には意欲をみせている。平成から新しい時代へと変わるが、国の行く手を担うその責任の大きさは本人が一番よく知っているだろう。 それだけに、政権党の自民党を、身近な党県連(奥野信亮会長)のなでしっかり見ていきたい。国会議員全員が安倍氏を支持したことで一枚岩のように見えるが、分裂状態の県連組織はいつまでたっても解消されない。県議会で会派が3分裂していることで、支部組織も機能していない。黒い交際が指摘されている天理支部のように総会も開かれないし、会計報告もされないというお粗末さだ。これを放置したままで、政権党であることはおかしくないか。 石破氏が「正直、公正」のキャッチフレーズを使ったのは、それができていないからではないか。来年の統一地方選、そして参院選に向けて、「正直、公正」さをみせてもらいたい。
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