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新型コロナウイルス感染再拡大で、首都圏や近畿3府県などで緊急事態宣言が再発令された。経済の減速、停滞はさらに長引く様相だ。ただ、何もしないで回復するものではなく、完全に元の状況にも戻らない。県の振興策の一つの観光事業も同様。訪日客が右肩上がりの過去にばかり目を向けていては将来への展望は開けにくい。 目端が利く企業は、コロナ禍の中、事業継続を念頭に自社の特性を再点検し、関係機関も巻き込んで社会、顧客が求める新たな事業分野を立ち上げたり、転換を図ったりしている。少し先を見た動きが必要なのは観光も変わらない。 県や県内各地の組織、施設はこれまで、誇るべき文化や文化財、産業・生産品、自然、歴史などの資産を見出し、発信してきた。今後求められるのは資産の生かし方とともに、さまざまな状況に対応できる引き出しの数と、明確な意図のある商品づくりだ。移動も制限されるコロナ禍だが、その中で登場したオンラインツアーなどは、移動が困難な人にも観光を楽しんでもらおうとの従前からの発想、備えのたまものだろう。 県も手をこまぬいてきたわけではない。滞在客増のために多様な等級の宿泊施設の整備や、滞在時間を延ばす回遊型商品の開発などを実践した。現在も県民に奈良の魅力の再発見をうながしたり、利用者ニーズを探ったりするツアーや、食を柱とした観光スタイルの推進、各種催事にも取り組む。 ただし商品項目は十分か。県内各地で近隣自治体が手を組み観光振興を図ろうとの動きも見られるが、新旧多彩な個々の要素を効果的に結び付け、ストーリーを設けて商品に仕上げるまでにはなかなか至らない。メニューが乏しければおいしいものでも飽きがくる。 コロナ禍で海外留学が難しい高校生らを取り込む英語合宿や、修学旅行生らを年齢が近い大学生、留学生が案内するといった新たな動きは、誘客という点ではメニューになり得る。商品づくりは観光の専門家だけのものでもない。また「3密」回避でブームのキャンプで、県内キャンプ場の人気の理由を探ったり、各地個々の要素を関連させて形にできるコーディネーターを育成したりすることも結局はメニュー開発につながる。 ここ数年は近場を旅する「マイクロツーリズム」を含む国内旅行が観光の主流となる模様。県内や首都圏に県の観光拠点ができそうだが、拠点づくりがゴールではない。しばらく移動はままならぬと下を向いていてはもったいない。
明日香村と関西大学の共同発掘調査で、中尾山古墳(同村平田、8世紀初め)が「真の文武天皇陵」であることが確定的となった。 墳丘が3段築成の八角形であることを改めて確認。墳丘の外周に広がる3重の敷石や墳丘を覆う基壇状の石積みなどを検出し、特異な形状を持ち非常に丁寧な造りの古墳であることが分かった。 八角墳は天皇など高貴な人物の墓とされ、中尾山古墳の近くにある天武・持統陵の野口王墓や天智天皇陵に治定(ちてい)された御廟野古墳(京都市)などが挙げられる。 さらに中尾山古墳は埋葬施設に蔵骨器を納めた火葬墓。日本書紀によると、飛鳥時代に火葬された天皇は天武・持統両天皇のほかには文武天皇だけだ。今回の調査成果により、研究者の間でも同古墳が「文武天皇陵に間違いない」との声が多い。 文武天皇陵は中世には所在不明となり、極彩色壁画が見つかった高松塚古墳(同村平田)や野口王墓のほか、中尾山古墳も候補になった。しかし、明治14年、中尾山古墳の南約400メートルにある栗原塚穴古墳(同村栗原)に定められ、現在も変わっていない。 天皇陵を巡っては、宮内庁の治定と最新の学術成果との間に齟齬(そご)が生じるケースも多い。同じ八角墳の牽牛子塚(けんごしづか)古墳(同村越)も、発掘調査で斉明(皇極)天皇陵であることがほぼ確実。しかし、陵墓を管理する宮内庁は現在のところ、陵墓の変更については否定的だ。 確かに、古事記の編さん者で知られる太安万侶(おおのやすまろ)墓のように墓誌でも出土しない限り、墓の被葬者の特定は難しい。また、現在の文武天皇陵をはじめ定期的に祭祀(し)が営まれる陵墓もあり、地元住民の心情を考えると変更は簡単ではないかもしれない。 しかし、陵墓は日本国憲法が定めた国の象徴である天皇の歴史を考える上で貴重な史料だ。その所在地を定めるためには、学術的な知見を加味するべきであり、変更についても柔軟に考えるべきではないか。 昨年、仁徳天皇陵に治定された大山古墳(堺市)をはじめとする「百舌鳥・古市古墳群」が世界遺産に登録され、天皇陵に関する国民的な関心は高まっているといえるだろう。今回の中尾山古墳の発掘調査成果で関心がさらに高まり、天皇陵の変更を巡る議論が活発化するきっかけになることを願いたい。
王寺といえば、古くから「鉄道のまち」として知られている。JR大和路線・和歌山線、近鉄生駒線・田原本線が通り、東西南北、どこへ向かうにも便利だ。そのJR王寺駅が、12月27日に開業130周年を迎える。 明治23(1890)年のこの日、奈良県初となる大阪鉄道会社の王寺―奈良間が開通し、当時の王寺村久度に停車場ができた。開通前の明治10(1877)年には、わずか37戸の小さな集落だったという。広大な田んぼが広がり、集落の外れに神社がある典型的な農村風景だったそうだ(同町広報紙12月号から)。 大東建託の賃貸未来研究所が11月に発表した「街の住みここちランキング2020」では、王寺町が全国1位に輝いた。実際にその自治体に住む人たちの居住満足度を調査したもので、全国35万人余りの回答から八つの項目別に集計。「交通アクセスの良さ」「親しみやすさ」「行政サービス」「物価・家賃の手ごろさ」が高い順位となったようだ。こうした評価は地理的条件に恵まれた同駅の存在があればこそのことだろう。 あまり知られていないが、同町には「三井住友」「三菱UFJ」とメガバンクの支店が二つあり、全国的にも郡部に複数あるのは珍しいという。駅の南口・北口からは、近隣の町へバス路線がつながり、王寺駅の利用人口は県内でも指折りの多さで、道路も国道25号、168号が通る交通の要衝だ。 先の広報紙には、鉄道ファンには懐かしい昭和46(1971)年のD51三重連の写真も掲載されているが、この時の先頭895号機は引退後、駅東の大和路線の側の児童公園に設置されている。毎夜、ライトアップもされているが、観光客らに十分知られているとは言いがたい。駅の西には、線路の下をくぐるカルケットと呼ばれる生活道路があり、一部に開業時のものと思われるレンガ橋台も残る。 こうした鉄道遺産を効率的に生かすには、近隣にある複数の遺産を結び付けてルート化することが必要だ。大阪府柏原市の亀瀬隧道(亀の瀬トンネル)や、三郷町の近鉄・信貴山下駅前にある旧東信貴鋼索線の車両、斑鳩・安堵町にある天理軽便鉄道(法隆寺線)の廃線跡・築堤、レンガ造りの橋台など鉄道遺構を回るマイクロバスツアーなどいろいろ考えられる。 来年、コロナウイルスの“封じ込め”がうまくいき、再び人々が自由に往来できるようになって、こうした取り組みが動き出すことを期待している。
存在感が薄い。 新型コロナウイルスの第3波といわれる感染拡大が、日々の暮らしに覆いかぶさっているからかもしれない。旧立憲民主党と旧国民民主党などが合流して、名称を同じくする新「立憲民主党」が誕生したが、これまで新党ができた時のような話題にもならない。ようやく県連が結成され、代表には馬淵澄夫衆院議員を選任した。「新党」なのに新鮮さに欠けるのは、あの民主党政権時代のイメージが強烈だからなのか。 新県連には旧国民所属の地方議員17人のうち11人が参加、旧立民議員は2人が合流している。全員合流とならなかったのは、立ち位置が違うということなのだろう。 今度の新党は、どうしても「旧民主党が復活」したというイメージが強烈だ。11年前の政権交代は忘れもしない。当時の自民党にお灸(きゅう)を据えるはずが、「政権交代」の大合唱の中で、本当にそうなった。全国もそうだが、奈良でも比例復活を含め4人が当選した。 政権を担った3年間に鳩山、菅、野田の3氏が首相の座に就いたが、次の選挙で民主党は大敗し、自民党の安倍氏が首相になった。その安倍氏は今年退陣するまで歴代最長政権でもあった。 民主党政権を、国民が見抜いたともいえる。予算の裏付けのない理想論では何もできない。「コンクリートより人」というキャッチフレーズを覚えていると思うが、東日本大震災で、人命を守るためのコンクリートの大切も知った。「どこかに無駄がある」と公開による事業仕分けもした。「高速道路の無料化は絶対にできる」と、何度も聞かされた。 この3年間、国民も下野した自民党も、何より民主党自身が、政権担当責任を一番学んだはずだ。下野後、党名変更や分裂を繰り返し、今また「立憲民主党」という大きな野党になった。「何でも反対」といわれた昔の社会党のことを思い出してしまう。 新県連の代表に就任した馬淵氏は、大臣経験もあり、党首選にも出馬しているベテランだ。民主党を離れ、希望の党、無所属、国民民主党を渡り歩いた経緯も県民は見てきた。 当時の馬淵氏とどう変わったのか。政権奪取を狙うなら、批判だけでなく、国民が共感する対案が求められる。本当に国民目線で仕事をしてくれるのかどうか。安倍前首相の周辺も慌ただしい。菅義偉首相もコロナ禍で厳しい局面にある。一皮むけた馬淵氏を見たい。
立憲民主、国民民主両党などが合流した新「立憲民主党」の県総支部連合会(代表・馬淵澄夫衆院議員)が今月15日、党の結成から2カ月遅れて立ち上がった。自公連立政権が安倍晋三首相から菅義偉首相に引き継がれる中、野党勢力の再結集は、有権者に“分かりやすい選択肢”を示す効果も期待される。 次期総選挙の日程はまだ見通せないが、新型コロナウイルス対策など緊急で重要な課題が山積しており、県内各選挙区に現職をそろえる自民党に対し、野党陣営も確かな政策と候補者調整を早期に進めてもらいたい。 新立民の地方組織が発足したのは全国で43番目。県連幹事長に就任した藤野良次県議は組織づくりに時間を要した点について「丁寧に進めてきたため」と説明した。 ただ同県連には、旧2党が擁していた地方議員計19人のうち13人しか顔をそろえず、残り6人は参加を見送った。また先月には、旧国民の生駒市議が、玉木雄一郎衆院議員らが新たに旗揚げした「国民民主党」の県生駒市支部を設立する動きもあり、馬淵代表が目指してきた「大きな塊」づくりは県内でも課題を残している。 同党の有力な支援組織である連合奈良の西田一美会長は、今月5日に開いた第25回地方委員会で合流に一定の評価を話すとともに、組織内の地方議員らの動きを踏まえて「新しい立民が奈良の政治をいかにまとめていくのか」と注文も付けた。 一方、馬淵代表は自身が情報発信するホームページで、来年の通常国会召集日が1月上旬に早まれば衆院の同月解散の可能性が高まると指摘、選挙準備を急ぐ姿勢を示している。 立民は1区に現職の馬淵氏、2区は県議の猪奥美里氏の擁立を発表しているが、3区は未定。また昨年の参院選などで共闘、統一候補を支援した共産党との調整も残されている。猪奥氏は奈良市・山辺郡選出の県議で、大和郡山市や天理市、西和地域を範囲とする2区に転出するが、政権交代を目指す本気度を示すなら、全県的に知名度がある馬淵氏が2区にくら替え、猪奥氏はそのまま1区という判断があっても良かった。 平成29年10月の衆院選を機に事実上分裂した旧民主・民進党の勢力を改めて糾合、野党第1党となる「大きな塊」づくりが県内でも形になった。次は、それが単なる離合集散の結果でなく、責任能力がある政党の誕生であることを証明してもらわねばならない。
「大阪都構想」の賛否を問う2度目の住民投票は、反対が賛成を上回り、大阪市の存続が決まった。巨大な大阪市を再編し、二重行政を解消するのにどれだけの費用がかかるのか、住民サービスが低下することはないのか、市民の疑問や不安を解消できるだけの説明がなかったということだろう。うねりは起きなかった。 得票数は賛否合わせて136万8825票。投票率は62・35%と前回の住民投票を下回ったが、これだけの数の人々が、自分たちが暮らす市の将来を考えた意義は小さくない。5年後には大阪・関西万博も決まっている。賛否それぞれに込められた民意を府市ともに将来の糧としなければならない。 住民投票は自治体の問題や首長・議員の解職について、住民が直接意思を示すものだ。本来は議会で議論を尽くして決める事項だけに、結果がしこりを生むこともある。宇陀市では宿泊事業者誘致を巡る住民投票が平成30年に行われ、反対が僅差で賛成を上回った。事業は中止となったが、誘致に前向きだった市議会と反対を表明していた市長(当時)の溝が埋まることはなかった。大切なのは結果を受けてよりよい方向を見いだすことで、その後の議論を萎縮させることがあってはならない。 大阪市内に多数の県民が通勤する奈良県でも、都構想の行方は高い関心を持って見守られた。松井一郎市長は結果判明後の会見で、「国政政党と大阪維新は分けて考えたい」としたが、市長の任期が満了する令和5年春の政界引退も表明、国政政党である日本維新の会への影響は避けられない。橋下徹氏に続いて松井氏が政界を去った後、誰がどのように同党を率いるのか、政党としての存在感を維持するために、これからの3年間が持つ意味は大きい。 県内でも維新人気は高い。平成28年の参院選比例代表では、県内投票の2割近い12万1千票余りを獲得、自民党に次いで多かった。翌29年の衆院選比例代表でも、公明党、共産党を上回る8万2千票余りを獲得している。ただ、同党県総支部の清水勉代表代行が都構想否決を受けて語ったように「“松井個人商店”的な体制からどう広げていくか」は県内の維新関係者にとっても大きな課題だ。 年内の可能性は低くなったが、次期衆院選では、野党統一候補として参院選を闘った前川清成氏が日本維新の会から県1区に出馬する。都構想否決や3年後の松井氏引退もにらみ、県内維新の存在感が問われる選挙となりそうだ。
「秋の交通安全運動」が終わったが、運動期間にかかわらず無事故無違反はみんなの願い。そこで、日ごろ車を運転している時に感じていることを書いてみたい。 まずは車間距離の取り方。交差点で停車し信号待ちしている時、自分の車と、前の車との間の距離を、必要以上に開けている運転手がたまに見られる。車2台分ぐらい開けている時もある。前方の交差点と後方の交差点の距離が長くない場合、後続の車が本線上に入り切れず、対向車線にまたがったりしてヒヤリとさせられる。 運転手が自分の車の前後の状況をよく観察していれば、予期しない余計な渋滞も防ぐことができる。車の流れというものを常に意識しながら、運転したいものだ。 次に多く見られるのが、交差点で対向車線の右折レーンにいる車のマナーの悪さ。 交差点で信号が変わり筆者の前の車(先頭車)が左折し、筆者が直進するため発車したとしよう。左折車の陰から、対向車線の右折レーンにいるはずの車が飛び出してくる事例に何回も遭遇している。左折車が何らかの理由で徐行した場合など、右折車と筆者の車が衝突する危険性だってあり、怖い。 また、自動車教習所の講習で聞いた「奈良では“サンキュー事故”が多い」という話も時折思い出す。右折時、道をあけてくれた対向車に感謝しながら曲がる時、渋滞の車列の陰からバイクなどが突然出て来て、事故が起きやすいということだった。慌てずに、徐行しながら進めば、事故は回避できるだろう。 一方、JAF(日本自動車連盟)は「信号機のない横断歩道での歩行者横断時における車の一時停止状況全国調査」の令和2年版の結果を16日に発表した。昨年よりほんの少し改善したが、依然として約8割の車が止まらないという現実を、ドライバーは真摯(し)に受け止める必要があろう。 全国平均は21・30%(昨年は17・01%)で、奈良県は19・00%で全国で27位。1位の長野県は72・40%。2位は兵庫県の57・10%。最下位は宮城県で5・70%。 ドライバーが、横断歩道の存在を常に意識しながら運転すれば、改善はできるし、事故を減らすことにつながる。大人の歩行者も、恥ずかしがらずに手を挙げて渡る意思を示すことをお願いしたい。 事故や交通トラブルを未然に防ぐためには、ドライバーのさらなるマナー向上と気配りが必要だ。車の流れや歩行者の動きをよく見ながら、安全運転を心掛けたい。
人々に豊かな恵みをもたらす自然だが、一度牙をむくと恐ろしい災害を起こし、人々の生命や財産に多大な被害が発生する。文化財もその例外ではなく、毎年のように台風や豪雨、巨大地震などの被害が報告されている。 国立文化財機構は今月1日、文化財の減災と災害時の初動対応の迅速化を図るため、「文化財防災センター」を新たに開設。本部(事務局)を奈良市二条町2丁目の奈良文化財研究所(奈文研)内に設けた。機構内の奈文研や東京文化財研究所(東文研)の2研究所と、奈良国立博物館(奈良市)など4博物館で組織。奈文研を西日本ブロック、東文研を東日本ブロックの中核拠点とする。 災害による文化財の被害を出さないことが、同センターの「究極の目標」。被害が出ても最小限にとどめ、甚大な被害が発生した時には効果的な救援、支援を図る。事業としては、地域防災体制の構築▽災害時ガイドライン等の整備▽レスキューおよび収蔵・展示における技術開発▽普及啓発▽文化財防災に関係する情報の収集と活用ーの五つを柱として掲げる。 文化財の防災対策に注目が集まるきっかけになったのは、平成23年3月の東日本大震災だ。国指定などの文化財だけでも700件以上被害があり、激しい揺れによる建築物や美術工芸品の損壊だけでなく、津波による有形民俗文化財の流出や古文書類の水没など被害内容も多岐に及んだ。国立文化財機構は震災の「文化財レスキュー事業」を2年間実施。その活動を基盤として平成26年には文化財に関する全国的なネットワークを構築し連携強化を図ってきた。 災害時には住民の安全や生活が最優先となり、文化財が被災しても市町村の担当者は即座の対応が困難だ。さらに人員不足や担当者の知識・経験不足などで、有効な処置が取れないケースもある。こうした中、最先端の設備と技術を持ち、各研究所や博物館などとの兼任が中心ながらも50人以上のスタッフをそろえる文化財防災の常設機関が生まれたことは、わが国の文化財保護を考える上で意義深いといえる。 古い民家などでは、指定文化財以外にも古文書類などが眠っている場合がある。災害という非常時には関心の低さや知識不足から、地域にとって貴重な史料が破棄されてしまう恐れもある。今後は被災文化財支援への体制づくりや技術開発とともに市民の理解を得る啓発活動も、重要な役割の一つになるだろう。
新型コロナウイルスの収束は不透明で、経済への影響の先行きも見通せない状況が続く。国発表の景況や消費、雇用などに関する数字も、景気回復が長い道のりであることをうかがわせる。 県内の経済団体、民間信用調査会社なども今春以降、会員や企業に対するアンケート調査を何度か実施している。それらによれば、売り上げなどで新型コロナの影響が続いている、または今後影響が出る恐れがあるとする企業がまだ9割を超える。また影響が出ている企業では、現在の売り上げなどが緊急事態宣言発出の時期よりは改善しているものの、前年並みには戻っていないと回答する企業がほとんどだ。さらにコロナ以前の経済状態への回復には数年かかるとの見方もあり、今冬以降の休廃業の広がりが懸念されている。 こうした情勢から、県内経済団体の中には、今の不十分な状態の中でも利益を生み出せる企業体質への変革をうながす動きが、すでに出てきている。自社の財務状況や技術力などを分析し、雇用を守って人材を生かす方法で現状の経営を見直すといった会員向けの勉強会も重ねられている。 県内で中心となる中小企業、小規模事業者にとって、新型コロナ感染拡大以降のこれまで半年ほどは国や自治体、金融機関からの資金支援などを有効に使い、存続を図ることが第一だった。現在は長期的視点でも経済状況と社業を捉えつつ、借入金の返済も考慮し、自社の特性を再点検しながら体質、方向性の変換も含めた企業姿勢見直しの必要性が一層求められる時期に来ているとも言える。 そのための伴走者となるのが、従来から企業を側面から支えてきた金融機関や税理士などの専門家だ。今後は従来や平時とは異なるより冷静で、先を見越した助言、寄り添い方が不可欠になる。関係する企業の存亡はひとごとではなく、結局は自らに返ってくる。その間の各企業に向き合う本気度も、またしかりだろう。 もちろん企業にとって危機の乗り越え方は一時的なものでなく、後々まで影響する。自社が持つ人材、技術力などを十分に把握し、生かし切って危機を脱すれば企業の地力、周囲の評価にもつながり、将来の展望も描きやすくなる。ただ企業存続への思いが過ぎ、人材などへの対応を誤れば、多方面の信用を失う可能性もある。長く緊急時が続き、ともすれば視野も狭くなりがちだが、将来の人材を含め思いのほか周囲から見られていることも心に刻んでおきたい。
新型コロナウイルスと共存していく「ウイズ・コロナ」時代に適合した社会とは、どうあるべきだろう。県内では荒井正吾知事が掲げる「自立した地域づくり」の推進が一つの方向性を示す。 コロナの新規感染者は県内でも7月から再び増加し、8月中旬には126人とピークに達したが、その後は同下旬=56人▽9月上旬=23人▽同中旬=11人(いずれも発表日ベース)―と漸減傾向で、全国的にも流行の「第2波」は落ち着きを見せ始めている。 ただ感染の終息を見通せる状況にはなく、有効なワクチンの開発、普及がない限り、感染が再拡大する可能性は大きい。そのため今後もウイルスと共存しつつ社会・経済活動を進めていく「ウイズ・コロナ」戦略が、これからの行政や民間企業の重要課題だ。 そうした中で新たに浮上しているのが複合災害への対応。豪雨や地震の発生時に避難所で感染をどう防止するのか、また季節性インフルエンザとの同時流行への備えが、いま問われている。 一方、中長期的には「コロナ以前に戻る」ことを目標とするのではなく、IT戦略の推進など「新時代」につながる取り組みを求める視点が重要になる。感染症対策で普及したテレワークなどを追い風に、菅政権はデジタル庁の創設を計画、行政手続の迅速化やマイナンバーカード活用の促進を打ち出す。また教育現場では長期休校の経験を、パソコンと高速ネットワーク環境を整備するGIGAスクール構想の促進につなぐ。 そして県が抱える独自のテーマと結び付く施策が「県内消費の喚起」「大阪依存からの脱却」など自立した地域づくり。コロナ禍で打撃を受けた観光の回復を目指す「いまなら。キャンペーン」は発売初日にクーポンが完売し混乱も招いたが、県民限定の観光振興が狙い。市町村が発行するプレミアム商品券などに県が同額を上乗せ支援する事業も、県外消費全国1位の是正を目指す取り組みだ。 また8月の県・市町村長サミットでは、県内の新たな土地利用として住居系主体から、今後は商業系、工業系の増加を目指す方針を提言。コロナ禍では大阪に通勤・通学、買い物などで出掛けた際の感染が相次いだが、県内で働き、暮らせる「脱ベッドタウン化」の進展につながるか注目される。 まちづくりや工場誘致、施設整備などは地元の協力が不可欠。県と市町村が連携して進める「奈良モデル」事業の成熟も重要なポイントとなりそうだ。
国民の高い共感を得て菅義偉首相が誕生し、新内閣がスタートした。安倍晋三前首相の体調不良による突然の退陣で、官房長官として女房役に徹してきた菅氏の登板となった。これまでも突然の退陣劇は数多くあったが、無派閥でしかも世襲議員でない議員が首相になったケースはほとんどない。 実質的な首相選びとなった今度の自民党総裁選を見ていて、同党の層の厚さと、知恵者がいかに多いかを実感させられた。たまたまNHKの大河ドラマ「麒麟(きりん)がくる」が再開したが、戦国時代の終わりを告げる織田信長や豊臣秀吉、徳川家康などが登場し、主人公の明智光秀を軸に話が進んでいる。天下取りの物語だ。そんな武将たちの武力や駆け引きの妙は、血を流さないものの今に通じるものがある。 ともあれ菅政権はスタートした。これまでのような任期途中の交代劇ではなく、世界的なコロナ禍という異常事態の中での出発となった。7年8カ月前の第2次安倍政権誕生の時は、経済再建が声高に求められ、アベノミクスの名のもとに、株価の上昇などで効果があったとされる。しかし、大企業に恩恵があったかもしれないが、国民全体にはその実感はない。そんな中で新型コロナウイルスの世界的流行だ。 自粛、我慢が求められ、経済的にも窮地に追い込まれた大多数の国民がいることを知らねばなるまい。あの10万円の給付金は目に見える形で喜ばれた。決して抜本的なものではないが、消費活動で経済が回る。同時に地方自治体もあの手この手で地域振興券などの形で、消費拡大策を展開している。ただ、悪用したり一部の心ない人が得することのないようにしたい。給付金の時のように経済再建の恩恵が一律に国民全体に行き渡り、納得させることが肝心だ。 奈良県にとっては、観光業の振興をお願いしたい。外国旅行を控えた人たちが、自分を見つめ直す機会に古都を訪れてほしい。関係する産業振興や施設整備も必要になる。コロナ対策を十分にして、人が動く施策を取ってほしい。 当然のことながら、一国の首相は国民の生命の安全、安心を守ることが第一だ。防衛問題をはじめ自然災害対策、教育など各分野で取り組むべき課題は山積している。秋田県の農村出身の新首相だからこそ、地方の痛みを理解してもらえると思う。 奈良選出の国会議員は、ナマの県民の声にしっかり耳を傾け、国政に反映させてもらいたい。
立憲民主、国民民主両党などが合流して結成する新党は枝野幸男氏が代表に選ばれ、15日の結党を待つことになった。党名は立憲民主党と決まったが、同じ15日には玉木雄一郎氏らがこちらも旧党名と同じ国民民主党を結成するとあって、「新党」とはいえ新鮮みに欠ける。衆参合わせて約150人の大所帯となる新「立憲民主党」が、政権の有力な対抗軸であることを、国民が実感できる形で示す必要がある。 自民党の総裁選は、安倍後継を掲げる菅義偉氏の当選が確実視され、16日の臨時国会で新首相に選出される見込みだ。枝野氏は「自分勝手な都合で本格論戦から逃げ、衆院を解散するなら正面から受け止めて国民の選択肢になる」と強調したが、県内を見る限り、一致結束して戦える状況とは言い難い。分裂騒ぎに発展した大合流に、地方議員が戸惑いを隠せずにいるのが実情だろう。 県内の地方議員数は、国民民主党が立憲民主党を大きく上回る。9日に開かれた国民民主党県連の常任幹事会でも、新党でイニシアチブを取るよう求める声が上がったという。両党の解党から15日の新党結成への流れの中で、地方組織も解体、再編成を迫られる。国民県連の藤野良次代表は「合流新党に参加する方向で県連としてはまとまっている」とする一方、所属の地方議員の意向を一人一人確認する方針だ。 地方議員には中央とは異なる事情もあり、中央の動きに左右されることへの反発もある。合流新党の綱領案に「原発ゼロ」が盛り込まれたことで、連合傘下にある民間労働組合出身の議員の立ち位置も微妙だ。中央では組織内の国会議員9人が合流新党への不参加を決めた。新「立憲民主党」に県内でどれだけの地方議員が参加するのか、現段階では未知数と言え、新「国民民主党」と大きく割れる可能性もある。 解体した両党の県連組織が新たに発足するのは新党結成からしばらく先とみられ、新首相が早期の衆院解散に踏み切るなら、衆院選は地方組織が未整備のまま戦わねばならない。県1、2区は自民党現職に挑む形で激戦が予想され、3区はいまだ候補者さえ決まっていない。 安倍政権は自民1強の時代であり、旧民主党政権の崩壊に端を発する野党多弱の時代でもある。党中央が地方と分離した空中戦で政権交代は望めない。新党が新政権と互角に対峙するには、地方組織の強化が欠かせない。
コロナ禍の中で輸入品が止まり、マスクやウエットティッシュなど衛生用品の不足は誰もが実感した。食料についても外国産の野菜の輸入が一時的に滞ったりし、あらためて輸入に頼りすぎている日本の現状を浮き彫りにした。 一方、中東やインドなどで大量発生し、農作物を食い荒らすサバクトビバッタの映像は、目に見える脅威として、見る者に強烈な印象を与えた。こうした自然界における「食料供給を脅かす新たなリスク」は今後も発生する可能性が高い。こうした日本の危うい食料状況を、このまま放置しておいていいはずはない。農作物の自給自足の促進へ向けて、国の政策を大きく変えていくべきではないか。 政府は6月26日、農林水産業・地域の活力創造本部(議長・安倍晋三首相)を開き、新型コロナによる食料供給リスクの高まりを踏まえ、農林水産政策の展開方向として「食料安全保障の強化」を打ち出した(6月27日付日本農業新聞1面)。「外国産から国産品への原料の切り替えなどによる国内生産基盤の強化」などを検討、国民の理解の醸成を進めるという。 冷凍食品には、安価な外国産材料が使われがちなので、多少高くても安全な国産材料を使った商品が、流通の中心になるまでは、かなり時間がかかるだろう。しかし、農産物を「自給自足」の形にしていくことは、国の将来を考える上で極めて重要な施策と考える。 コロナやバッタだけでなく、地球温暖化による猛暑や季節はずれの台風、洪水、干ばつなどの自然災害は、世界中で年を追うごとに頻発。今年の梅雨時に熊本県など列島各地で起きた「線状降水帯」による大雨被害などは、極めて身近なリスクになっている。 農水省の5日発表による「2019年度の日本の食料自給率」は38%(カロリーベースによる試算)と、過去最低を記録した前年度から1ポイントだけ上昇したが、主要先進国の中でも最低レベルにある。 小麦など主要穀物だけでなく、果実や大豆など自給率を高める政策を進め、国は財政的にも支援してほしい。農業振興は地方に雇用の場を生み出し、都市部からの若い世代の移住を促進する可能性を秘める。後継者不足を解消し、先祖から引き継いだ農地を耕作放棄地にしないで有効に活用することが求められている。 輸入に頼りすぎている現状から脱却し、多少高くても国産品を購入するように、消費生活のあり方を、国民みんなで考えて、行動すべき時が来たように思う。
文化庁は6月19日、地域の有形・無形の文化財を組み合わせて魅力を発信し、観光振興などにつなげる日本遺産に21件を新たに認定した。県関係では「もうすべらせない!!―龍田古道の心臓部『亀の瀬』を越えてゆけ」(三郷町、大阪府柏原市)など3件が加わり、計7件となった。全体では平成27年度からの累計で104件となり、「100件程度」としていた文化庁の目標に到達。当面新規の認定は行わない予定で、日本遺産は一つの区切りを迎えた。 日本遺産は、地域の文化財や伝統芸能を“ストーリー”としてまとめ、観光振興などで地域活性化を図る制度。貴重な文化財や自然を後世に引き継ぐことを目的として「保存」を重視する世界遺産と異なり、観光振興や地域活性化など「活用」に重きを置くことが特徴だ。 第2次安倍晋三内閣発足から間もない時期に構想が打ち出され、インバウンド対策などで文化財活用を狙う政権の強い意向があったとされる。遺産認定されると地元自治体には数千万円から1億円を超える補助金が交付されるため、財源不足に悩む自治体からの関心は高かった。 しかし、その認知度は思いどおりには上がらず、実際に地域振興に貢献しているかどうか疑問だ。文化庁によると、今年1月に約4700人を対象にしたインターネット調査で「日本遺産」という言葉を聞いたことがない人は30・8%を占めたという。県内でも、県関係の日本遺産を全部言える県民はそんなに多くないだろう。 地域に点在する文化財をパッケージ化してストーリー性を持たせることで分かりやすくすることが日本遺産の狙いだが、逆に個々の文化財に対する関心や理解を妨げてはいないだろうか。また、活用に偏り過ぎることで、文化財の保護や史実を軽んじる傾向が生まれることも危惧される。 とはいえ、地域活性化には観光客をはじめ交流人口の増加は不可欠であり、文化財がその強力な武器になるのも事実だ。新型コロナウイルスの影響で落ち込んだ県内の観光客増加に向け、日本遺産のブランド価値向上が求められる。 そのためには、ます日本遺産とその構成文化財について、地域住民への周知徹底が必要だ。訪れた人にとっても、住民さえ知らない文化財になんの魅力も感じない。自分たちの町の誇るべき文化財を正しく理解し、住民目線でその活用を考えることで新たな魅力が生まれるはずだ。
新型コロナウイルス感染拡大は多方面への悪影響の一方、動きのにぶい状況を後押しもした。先進国の中で遅れ気味と指摘されていた情報通信技術(ICT)を活用した教育は、学校休業の中で学習を保障し、児童生徒の不安を和らげる目的などで一気に進んだ。 県内公立学校でも休校中に動画の配信、インターネットサービスなどによるオンライン授業が導入された。ただし各家庭の端末、ネット環境のばらつきと対処などもあり、実質的スタートは4月半ば以降。双方向通信は健康、生活状態の確認などにとどまった。 学校再開でオンライン授業は一時休止の状態だが、短期間の取り組みで課題も見え始めた。端末とネット環境の整備、児童生徒の視聴態度の確かめ方などは全国共通の課題として挙げられている。 機器に関しては国のGIGAスクール構想の前倒しで、県内自治体も早期の1人1台の端末整備へ始動した。県内でも発生した受信側の機器不統一による通信トラブル、教育効果の濃淡を避けるためにもこの機を逃すべきでない。ただシステムへの習熟度が伴わなければ、十分な効果が得られず、教育格差のもとになる可能性もある。送り手側はもとより、子供たちが一人で機器を操れる技量の獲得も並行して進める必要がある。 県内公立学校では今回、授業動画配信など単方向中心だったが、教師が児童生徒の学習態度、表情を確認するには双方向通信に行き着く。今後はそのための技術と内容、環境整備も求められる。県や市町村はオンライン授業に対する現場などへの調査も実施している。さらに細かな課題も見えてくるだろう。最初の部分での問題点解決が後の活動を円滑にする。 学校再開後も県内の現場では、オンライン授業深化の動きは止まっていない。オンライン研修などの新形式の取り組みを通して、新たな学習方法への習熟度も高まるに違いない。併せてデジタルネーティブの保護者、生徒らの協力を柔軟に受け入れたり、学校に行きづらい児童生徒のために、ルールを設けて保存した授業動画を自由に視聴可能にすることなどもオンライン授業の普遍化、有効利用への検討材料だろう。 新学習指導要領のスタート時期に、新たな教育の動きは負担かもしれない。だが緊急時に複数の手立てを持っていることが有利なのは、新型コロナ禍の下での異業種の処し方を見ても明らかだ。未来を担う子供たちのため、現場も周囲も歩みを止めるべきではない。
「戦いはこれからも続きます」 選挙後の新しい議会で、市長の不信任案が可決されて失職した宇陀市の高見省次・前市長は、翌日の自身のフェイスブックで、持論を展開し、これからの「戦い」を宣言した。 「市民の皆様にご報告」というものだが、なぜ不信任案が可決されたのか、反省の言葉はそこにない。新型コロナで大変な時期に、「市長不在という自治体の危機管理体制を揺るがす状況を、議会がわざわざ作り出すということは、まさに住民不在、言語道断と言わざるを得ません」と、議会を批判している。 コロナ問題以前の昨年9月議会で辞職勧告決議案が可決し、12月議会で出された不信任案の動議は否決されたものの、今年の3月議会で、不信任案が可決するという流れがあった。こうまで繰り返し、市民から選ばれた議会から、信任されなかったことの反省がまったくなされていない。 コロナを問題にするなら、議会を解散してまで選挙をしたことの整合性がない。「議会を変えるしか改革を進める道はない」と判断して解散した議会は、結果はどうだったか。「本来の議会に生まれ変わることを期待」に、市民は明確な審判を下した。 高見氏の考える「一貫して市民の視点の改革を推し進めて」きた「市民」感覚とは大きな隔たりがあった。 再度、決議された不信任案の採決で、反対は共産党議員1人で、他はすべてが賛成した。議場で、市長派とされていた新人議員までもが起立して賛成したのを目撃して驚いたが、聞けば選挙中に離反していたようだ。 議員が市民の代弁者であることを知らねばなるまい。「もはや議員を変えるしかない」などいう独善的な発想が、市民を忘れた自己本位のものだ。「ご報告」を読んで、なぜ不信任決議されたのか、まったく分かっていない。逆にこれを読んだ人は、なぜ高見氏が不信任決議されたかが分かる。 首長になったら「何でも思うようにできる」と、錯覚していたのではないか。市民から選ばれた議会と遂行する職員との理解がなくては前に進まない。 末尾に「戦いはこれからも続きます」とした高見氏は、21日に告示される市長選で、改めて信を問うことをしないのか。いまだに態度を明確にしていない。職員に「情熱と責任感を持って」チャレンジを呼びかけてきたのだから、正式に態度表明すべきだ。
近畿の梅雨入りは平年で6月7日ごろ。降雨量が増え、洪水や土砂災害が発生しやすくなる出水期を目前に控え、改めて避難所の確保、点検に目を向けたい。今年は新型コロナウイルスの感染拡大が「新たな災害」となって県民生活を脅かしているが、いわゆる3密を避ける観点を踏まえた避難所の見直しも喫緊の課題だ。 近年、全国各地で相次いだ風水害では避難の遅れが問題化。住民が的確に行動できるよう促す正確で分かりやすい情報発信とともに、ためらわずに利用できる良好な住環境の避難所整備が強く求められている。また地震災害も含め、避難所での生活が長引くケースでは高齢者らの災害関連死といった深刻な事態も起きており、対策が重要性を増している。 さらに前提となる避難所の適性についても課題は多い。平成29年には、災害時の2次避難所に指定されていた県立奈良高校の体育館などの耐震性能が不足していることが判明。これを契機として県有施設の耐震補強などが一定、進むことになったが、多くの経費と時間がかかるハード整備は今後も計画的、継続的に取り組まなければならない。 一方、土砂災害について県は法に基づく災害警戒区域の指定作業を昨年度末までに完了。大和高田市など6市町を除く33市町村で特別警戒区域(レッドゾーン)9832カ所を指定したが、同区域内には移転の可能性があるものも含めて153カ所の避難所があると指摘されており、ここでも避難所の適性が問われている。 そして新たに加わることになった感染症への対応。流行は県内でも小康状態を得ているが、第2波がいつ地域を襲うか懸念は消えていない。誰も望まないものの風水害や地震との同時発生も想定して密集状態を避けられる避難所のスペース確保、マスクや消毒液の確保など具体的な対応を急ぐ必要がある。県は本年度予算で、防災備蓄倉庫、簡易トイレの整備など避難所の生活環境整備に1億2200万円を組んでいるが、市町村の取り組みはもちろん、県の補正予算よる追加措置も求めたい。 国、地域の新型コロナウイルス対策は引き続き感染防止に力を入れるとともに、緊急事態宣言で大きな影響を受けた経済、社会活動の正常化に向けた取り組み、新たな生活スタイルの構築など長期戦に向けた体制に移りつつある。感染を恐れず安心して逃げ込める避難所づくりも「コロナ時代」に欠かせない社会基盤になる。
日本人の原風景といわれてきた地域が、世界遺産登録に向けて大きく動き出した。県は3月、「飛鳥・藤原の宮都とその関連資産群」の推薦書案を文化庁に提出した。早ければ令和6年7月の登録を目指すという。 文化遺産の登録は、ユネスコの諮問機関、イコモスの評価が鍵を握る。審査の基礎資料となるのが推薦書で、内容に基づき現地調査も行われる。藤原宮跡が広場として保存されているように、飛鳥・藤原は地中に埋もれた遺跡も多く、価値をどのようにアピールするか、県をはじめ、登録を目指す地元自治体は頭を悩ませてきた。 推薦書案によって国の枠を超えた飛鳥・藤原の価値や構成資産の内容が固まり、県の担当幹部が言うように、世界遺産の日本代表候補として名乗りを上げた。国の文化審議会の審議を経て正式な推薦書となるが、登録への大きな一歩と言えるだろう。政府がユネスコに推薦書を提出すれば、諮問を受けたイコモスが現地調査、評価結果を勧告する。 ただ、イコモスの勧告に涙をのんだ世界遺遺産候補は少なくない。「武家の古都・鎌倉」は平成25年に不登録と勧告され、政府は推薦を取り下げた。「平泉」は平成20年に登録延期勧告を受けて再出発、構成資産を見直すなどして3年後に登録を果たしている。 飛鳥時代は推古天皇が豊浦宮で即位した592年に始まるが、藤原京の時代を含めても、平城京に都が移るまでの100年余り。平城京は既に世界遺産で、飛鳥・藤原が単に先んじる時代と捉えられると、登録は厳しくなる。県は飛鳥・藤原を東アジアとの交流を通して日本に「国家」が生まれた大変革の時代と位置づけるが、推薦書案はほんの入り口に過ぎないのかもしれない。 忘れてならないのは、明日香村の景観が、村民の生活と一体で守られてきたことだ。開発行為が法律で厳しく規制される一方、暮らしを守る手だても講じられ、遺跡を包み込む農村風景が守られてきた。それでも産業構造の変化で経営耕地面積は昭和55年(約500ヘクタール)の半分以下、農業人口も3分の1ほどになっている。 登録が実現した後、その価値を維持するには住民の理解と協力が必要だ。暫定リストへの記載から13年が過ぎ、「飛鳥・藤原を世界遺産に」のスローガンが色あせたのは否めない。価値を共有するためにも、地元の盛り上がりを醸成しつつ、登録への動きを加速させたい。
1月の終わりごろは、新型コロナウイルスの感染について、これほどまでに深刻な影響を及ぼすとは、ほとんどの人が想像していなかっただろう。 あれから事態は深刻さに加速度を増し、多くの犠牲者を出してしまった。終息の見込みはつかず、特効薬の開発を待つしかないが、ここへきてアビガンだけでなく、レムデシビルといった治療薬の名前が出てきたのは明るい材料だ。 今回のウイルスの厄介なところは、自分が知らないうちに感染し、知らないうちに他人に感染させてしまう危険性を伴う点だ。 それにしても、一連の政府の対応は、のろのろ運転、後手後手で、優先順位が違うだろうと感じてしまう。国民の感覚とのズレがひどい。巨額の税金を使ったマスク配付は不良品が見つかり回収というお粗末さ。現金給付も、何だか国が出し渋っているような印象しか受けない。企業倒産などが急増し、資金援助などの施策は「喫緊の課題」。「緊急対策」のはずがそうなっていない。政府への信頼感は薄れるばかりではないか。 「3密(密閉・密集・密接)を避けて」と国民に要請しながら、高齢議員も多いのに密集した空間で会議をしている国会の姿も変えていくべきだ。議員の数も多過ぎる。こんな国難の中だから、国会議員のボーナス返上は当然ではないか。 この間に、マスクだけでなく、医療衛生品などの資材不足も深刻さを増した。供給を海外の工場に頼り過ぎた点を踏まえて、国内で生産する割合を増やすことも考える必要があるだろう。「自給自足」という言葉を今一度思い起こす必要があろう。ウイルスとの闘いは、今後も続いていくからだ。 そんな医療器具の不足という悪条件や、常に感染症のリスクと闘いながら懸命に業務に励む医療従事者の方々には、本当に頭が下がる。ましてや、こうした医療従事者やその家族に対する差別などあってはならない。あらゆる支援を医療関係分野につぎこみ、医療崩壊を防がねばならない。 「不要不急の外出を控える」というルールを、国民一人一人が守り抜くことが、終息への近道。GWが明けても緊急事態宣言は延長されそうだ。 外出自粛の延長は辛いが、「ステイホーム」は、「ウイルスを拾わない・運ばない」ことで自分や家族、大切な人を守り抜くための“共同作業”。世界中の人々が同じ取り組みを続けて、闘っていることを常に忘れずにいたい。
文化庁は先月、高松塚古墳(明日香村平田、7世紀末~8世紀初)の極彩色壁画の修復作業が完了したと発表した。特別史跡の古墳の石室を解体し国宝の壁画を取り出し修復するという、日本の文化財保護史上に前例のない大事業は一つの節目を迎えた。 「飛鳥美人」などで知られる壁画は昭和47年に確認され、考古学ブームを巻き起こした。が、平成16年、カビなどによる壁画の劣化が判明。文化庁は同19年に石室を解体して壁画を取り出し、紫外線や酵素など最新技術を使った修復を続けてきた。研究者や技術者たちの努力でカビなどの汚れが除去され、発見時の姿には及ばないものの、一定の美しさを取り戻した。 しかし、課題はまだ多い。これ以上、壁画の劣化が進まないよう適切な保存管理が最も重要だ。特に壁画が描かれた石材の強度低下が危惧される。これまで注目されることが少なかったが、石材に使われた凝灰岩は非常に脆く、長い年月の中で劣化が進んでいる。カビなど生物被害の防止のために湿度を抑える必要があるが、石材には乾燥は大敵であり、微妙な保存環境の管理が求められる。 また、現在は仮設の修理施設にある壁画の安住の地づくりも急務だ。考古学では遺跡の現地保存が原則であり、古墳と一体で保存すべきとの声もある。しかし、古墳に戻すことは再び生物被害が生じる可能性が強く、現時点では現実的な選択肢ではないだろう。できれば、古墳近くに恒久的な保存公開施設を建設し、現行どおり定期的な壁画の一般公開を行うことが望ましい。 壁画を傷つけることなく古墳から取り出し、修復に成功した今回の解体事業は文化財保存史上の金字塔といえる。石室解体を指揮した石工の左野勝司さんをはじめ多くの職人たち、壁画修復作業に携わった奈良文化研究所や東京文化財研究所などの研究者、技術者らのたゆまぬ努力の賜物といえるだろう。 しかし 一方で、1300年間残った壁画を人為的なミスなどで劣化させ、古墳の中に保てなかった「負の歴史」であることも忘れてはいけない。さらに、多くの研究者の間で意見が分かれた石室解体の是非についても、結果が良かったからだけで終わらせず、今後も検証すべきだろう。 見つかるかもしれない新たな古墳壁画を守るためにも、壁画発見から劣化、修理完了までのすべての出来事を後世への教訓としなければならない。
新型コロナウイルス感染拡大は世界的不況の様相で、国内はもとより県内経済も日ごとに深刻さを増している。県内の民間信用調査会社や経済団体が3月に行った調査では、すでに影響が出ているとの回答を含め、今後の業況悪化を懸念する県内企業が7~9割を占めた。各種機関への融資などの相談件数も3月以降増加傾向。感染症拡大を想定した事業継続計画(BCP)は未策定の事業者も多く、業種を問わず苦境に立たされている状況がうかがえる。 国内での感染拡大のピークがまだ先で、影響の長期化が確実視される中、中小、小規模が多数を占める県内企業はどう歩むべきか。さまざまな提言がされているが、あらゆる支援を利用し、手段を尽くして存続を図る一方で、あらためて自社を総点検し、終息後も見据えた長期のビジョンを練り直す機会とすべきとの考えもある。 会員企業らへの影響調査を実施、公表した県中小企業家同友会も、同様の意向を示す。今回の事態をリーマンショック時以上の深刻さで長期化すると受け止めつつ、会員企業らに対し、まずは雇用を守り、事業を継続するための方策を会報などを通じて立て続けに発信している。 同時に自身の企業を見つめ直し、外部にアピールできる技術や企画力、商品といった企業価値を再度探ることを提言。ビジネスパートナーや金融機関に示せる将来性、長期計画の見直しもうながす。 順調な時は、販路や原材料での取引先、受け入れ顧客の多様化といったリスク分散などを忘れがちになる。時流に沿った情報発信、企業基盤の強化が後回しになっている場合もある。そんな部分も交え、苦しいながらも体力の残る時に将来を展望して知恵を絞り、変革を実践に移す、口でいうほど簡単ではないが、転んでもただでは起きない姿勢も必要とされる。 もちろん危機から学び、今後に生かすことは事業者に限らない。県内企業の存亡は市民生活にも大きく関係する。生活の質の維持、向上のために、感染症禍の早期終息に向けた各自の心構え、最善の行動も欠かせない。 また行政や各種機関には県民、事業者の不安を和らげ、今後に希望が持てる情報の提供、スピード感のある施策が求められる。それらは結果的に安定した税収、収益にもつながる。 良しにつけ悪しきにつけ、それぞれの立場での行動、取り組みが回り回って自分に返ってくることを忘れてはならない。
新型コロナウイルスが猛威を振るい、出入国の禁止や自宅を出ることも制限されている国がある。国内でも感染者が増え続け、県内では8人(19日現在)が確認されている。日々の行動が制約されて、マスク着用などで自己防衛している。世界や国のことも気になるが、身近な「地域や家族の安心安全はどうなのか」と神経をとがらせる日々だ。 開会中の県議会をはじめとした市町村議会でも、熱心な議論が繰り広げられているが、「市民の安全第一」で、首長と議員が危機意識を持って取り組んでほしい。 それだけに、昨年末、一般ごみに医療系ごみの混入が発覚した、御所市のごみ不法投棄は、見過ごすことのできない問題だ。 月に一度ほどの展開検査で産業廃棄物の混入が見つかったもので、これまで毎日のごみはどうだったのかが問われた。さらに点滴パックという医療系ごみの混入が明らかになり、感染性の医療ごみの混入が疑われた。今の世界的なコロナ問題が起きる前のことだったが、事態を重視した議員らがいち早く動いた。しかし、行政側は病院や搬入業者に対して形式的な指導という対応しかしなかった。 このことでごみの搬入量は減ったが、それでも産廃ごみが見つかるというお粗末さだ。議員からの強い要請もあり、先月21日から、御所市の許可業者が搬入したごみの全てを毎日展開検査を実施するまでになった。これほど厳しくしても、産廃ごみの混入があり、注射器まで見つかった。あってはならない医療ごみの混入だ。「展開検査を毎日実施する」ことは、病院や搬入する許可業者に徹底しているはずなのに、いかに形式的だったかが分かる。 開会中の定例議会初日に、今議会中に東川裕市長は、対応策を提出することを約束した。 市内の許可業者の決定は厳正に行えるか。これまでの経過を見ると、搬入業者本位としか見えない。市民の安全第一なら、業者の顔色を気にすることはない。ほかに圧力とか理由でもあるのか。 他市から回収したごみを御所市のごみとして持ち込んだきた疑惑が消えない。人口の少ない御所市なのに、厳しい検査で搬入量が激減しているから、これまでがいかにおかしかったか。そんな業者を再度許可したり、不法投棄が発覚した業者を許可するのか。 御所市が全国模範のごみ行政の市になってもらいたい。感染症問題で関心が高い今だからこそ、東川市長の本気度が問われる。
感染拡大が続く新型コロナウイルスについて世界保健機関(WHO)が「パンデミック(世界的流行)とみなせる」とする見解を明らかにした。必ずしも用語の問題ではないだろうが、危機感を共有するため、あえてインパクトのある言葉を使って対策強化を全世界に呼び掛けた。 一方、県内では感染者が発生している現場から、県などに対して危機感の共有を求める声が挙がっている。先日、天理市が県に提出した要望書の中には、感染拡大の防止に向けて県と市町村との緊密な連携を求める一文があり、平時の縦割りによる業務体制では対応し切れない状況に、いら立ちもにじませた。 政府は、国会で新型インフルエンザ対策特別措置法改正案の審議を進める一方、直ちに緊急事態宣言を出す状況にはないとする姿勢を崩していない。ただ各地で感染者の確認が相次ぐ中、県や市町村は、住民に冷静な対応を呼び掛けると同時に、感染拡大の防止に向けた取り組みで非常時対応に踏み込む必要もありそうだ。 特に求められるのは感染するリスクと感染させるリスクに対するきめ細かな対処。保健所の業務は県や中核市が担うが、感染した人には何の罪もないことを本人や周囲、そして地域全体がよく理解した上で、プライバシー保護や心理的ケアを行うのは住民の暮らしに近い、市町村など基礎自治体の仕事になる。 風邪の症状や37・5度以上の発熱が4日以上続いているなど、感染が疑われる基準に達していなくても、いったん感染するリスクにさらされた人は、新たに感染させるリスクを担わされる。そうした不安を抱えた個人、地域の相談に行政はどう応えるのか。医療、検査体制の拡充や経済対策、休校に伴う児童、生徒の居場所づくりなど求められる仕事は多いが、だからこそ県と市町村、各部局が連携して取り組む「奈良モデル」の実践が望まれる。 県内8例目の感染者となった女性は、2月29日に発熱があって医療機関を受診したが、その後に熱が下がったため、3月4日には大阪市内の職場に電車で出勤するなどしており、相談センターに相談して検査、陽性が判明したのは11日になってからだった。県内ではまだ感染が流行している状況にはないとされるが、感染者が自覚するまでに時間がかかる状況があるなら、やはりパンデミック(原義は「全ての人々」)と捉え、危機感を共有したい。
新型コロナウイルス感染症の拡大防止に向け、安倍晋三首相が新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正に動き始めた。4日には野党各党に協力を要請、12日にも衆院本会議で採決され、可決の見通しだ。 改正は特措法の対象に新型コロナウイルスを加えるもので、同法に基づき首相が「緊急事態」を宣言すれば、都道府県知事は外出禁止要請などの措置を取ることができる。私権を制限することになるため、同法の成立時には、日本弁護士連合会(日弁連)が反対声明を出した経緯がある。 安倍首相は野党各党首との会談後、記者団に「国家的な危機にあっては与党も野党もない。互いに協力して乗り越えなければならない」と語った。もっともらしく聞こえるが、果たしてそうだろうか。 先月25日に発表された政府の基本方針は、重症者への対応などで、「国家の危機」は感じられなかった。イベントや行事の自粛要請は翌26日、さらに翌日には空前の休校要請と政府方針は大きく揺れた。国会でも論戦となったが、何がこれだけ急激な措置を取らせたのか、具体的な説明はついになかった。生活を直撃する施策が矢継ぎ早に示され、国民が混乱するのは当然だ。 そのような中で緊急事態宣言が出されれば、混乱に拍車が掛かるのは避けられない。宣言に沿って出される措置はもちろん、「緊急事態」という言葉によって増幅される不安感が、国民生活をさらに萎縮させるのではないか。結果は景気にも影響する。 首相の言葉は国家危急の事態に悠長に議論している暇はないとも取れる。小中高校に一斉休校を求めた際、「判断に時間をかけているいとまはなかった」と繰り返したことにも通じる姿勢だ。 「与党も野党もない」のではなく、必要であるなら、与野党が積極的に議論して国民にそれを示すべきだろう。新型コロナウイルス感染症の拡大で、国内経済は急降下の恐れが出ている。国民の理解がないまま事を進めれば、それこそ非常事態を招きかねない。より慎重なかじ取りが求められる。 改正案に対する姿勢には野党内でもばらつきがあり、立憲民主党など3党は賛否を別々に議論することを申し合わせた。「国家的な危機」が前面に出ると、議論の本質が見えにくくなる。大切なのは何が起きているのか、今後何が予想されるか冷静に判断し、国民の不安を少しでも軽くすることだ。与野党の論戦に期待したい。
奈良市が導入を目指している宿泊税が論議を呼んでいる。市は同税により税収増、観光活性化を図ろうとしている。新型コロナウイルスの流行を受け、市は来年度中の導入は先送りにしたが、導入自体は見直さない考え。しかし、市内の宿泊事業者からは「税導入について納得のいく説明がない」との反対の声が圧倒的だ。市は「延期ではなく根本的に見直すべき」ではないだろうか。 宿泊税はホテル・旅館などの宿泊に課税し、観光施策などに充てる法定外目的税。宿泊事業者が宿泊者から徴収して市に収める。近畿では既に大阪府、京都市が課税している。奈良市は、税を公共トイレの整備などの観光振興に充てる意向を示している。市は有識者らによる「検討懇話会」の意見を踏まえ、「導入の合理性が確認された」(仲川元庸市長)としている。 これに対して市内のゲストハウスや民泊などの経営者が1月16日に「市小規模宿泊業協議会」(24施設)を設立して、「小規模事業者に対してまったく説明がない」「宿泊料金が安い施設ほど税負担は大きい」などと反対を表明。さらに市旅館・ホテル組合(56施設)も2月4日、税の導入をやめるよう市長や市議会議長らに要望書を提出した。宿泊客は観光客全体の1割にすぎず課税は不公平▽市から納得のいく調査・説明がなく、施策も示されていない▽他府県との競争激化の中で経営が圧迫される▽邦人旅行者の減少傾向が顕著で導入時期ではない▽外国人などへの説明に時間がかかり、支払い拒否など負担が出る―などが反対の理由だ。 京都市が導入している宿泊税だが、同じ観光地といっても京都市と奈良市の事情が違うとの意見がある。全観光客のうち宿泊する人は京都市が約3割に対して奈良市は約1割にすぎない。夜の観光資源に富む京都市に比べ、奈良市は寺社目当ての日帰り観光客が圧倒的に多いのだ。残念ながら、一部を除いて奈良は商店の閉店時間が早く、宿泊して飲食する魅力に乏しいと言わざるをえない。 といっても、奈良市内に初の外資系高級ホテルのオープンが予定されているなど、今後の「宿泊観光の発展」が大いに期待できる状況だ。そんな中で、競争力の高い宿泊施設を有する大阪や京都と同じように宿泊税を導入するのはいかがなものか。まず、魅力ある宿泊地づくりを優先すべきではないか。奈良市には税導入について再検討を望みたい。
徳勝龍関が、奈良県出身力士で98年ぶりという歴史的な初優勝を決めた千秋楽から10日以上過ぎたが、その感動の余韻は今も残っている。1日に帰郷してからは県内各地や母校で、郷土のヒーローの凱旋を待ちわびた人々との交流の輪が広がった。 天理市内の後援会、奈良市内、初場所中に急逝した近畿大学相撲部の恩師、伊東勝人監督の墓、出生地の高取町・高取幼稚園、小学2年生から通った橿原市の新沢小学校、母校の近畿大学(東大阪市)などゆかりの場所を訪れて優勝を報告し、喜びを分かち合った。 徳勝龍関は昭和61(1986)年8月22日、高取町生まれ。出産時の体重は3860グラム。わずか半年後には10キロに増えていたというから、力士になるべくして生まれたかのようだ。 幼稚園時代の制服や体操着は特注。巨体で三輪車を壊してしまったというエピソードも。お姉さんは「体も心も大きい。正義感のある弟だった」と幼い頃を懐かしむ。当時、預かり保育を担当していた先生も「小さい子をおんぶしてお世話をするなど、すごく優しい子だった」と振り返っている。 その優しさは、厳しい勝負の世界では、なかなかプラスに作用しなかったのかもしれない。近大を卒業後の入門から11年。身長181センチ、体重188キロという恵まれた体格を十分に生かしきれず、幕内と十両を行ったり来たりの苦しい場所が続いていた。 しかし、今場所は近大の恩師の急死以降、取組での目つきが変わり白星を重ねた結果、栄光をつかんだ。一時期お世話になった大横綱・北の湖親方(故人)からの「お前は左四つ」との助言は、千秋楽結びの一番という初めての大舞台で「左四つでの寄り切り」という決まり手に結び付いた。 勝ち名乗りを受ける時の涙、優勝インタビューでの涙だけでも共感を呼んだのに、関西人らしく笑いのツボを押さえたスピーチは全国の相撲ファンらを一瞬にして、とりこにした。人々は“徳勝龍劇場”の観客となり、「記録にも記憶にも残る力士」となった。 今回の初優勝は相撲発祥の地、奈良をアピールする絶好の機会だ。三月場所(大阪)後の地方巡業で、3月30日開催の「桜井場所」も大変なにぎわいとなりそうだ。 三月場所では、番付も前頭の上位あたりが予想され、横綱・大関陣との対決も待っている。これまで休場なしの鉄人、徳勝龍関には万全な体調で、さらなる精進を重ねて、わが道を突き進んでほしい。
今年も間もなく1月26日を迎える。わが国の文化財保護を考える上で決して忘れてはならない日だ。今から71年前、昭和24年のこの日に現存する最古の木造建築物の法隆寺金堂(斑鳩町)が炎上。古代の仏教絵画の傑作とされる堂内の壁画(7世紀)が焼損し、極彩色だった彩色が失われた。この悲劇をきっかけに翌25年に文化財保護法が制定。同30年には同日が「文化財防火デー」に定められた。 しかし、火災により貴重な文化財建造物が傷つくケースは絶えない。昨年10月末には沖縄の世界遺産・首里城跡に復元された正殿などが焼失。海外でもフランス・パリのノートルダム寺院が炎の中で崩れ落ちた。 わが国の文化財建造物は燃えやすい木造が大半を占める。一昨年、300年ぶりに再建された興福寺中金堂も戦火などで計7回も焼失しており、文化財保護は火災との戦いといえるだろう。首里城火災後、世界遺産登録地にある建造物を対象に文化庁が実施した防火施設の緊急調査でも、史跡などの建造物93%、復元建造物91%で木材をはじめ可燃物を使用していた。 一方で、同じ調査では自動火災報知設備の設置率は史跡などの建造物65%、復元建造物55%にとどまり、設置後30年以上経過し老朽化したものもあった。また、消火用具・設備の未設置も史跡、復元建造物ともに3割前後あり、厳しい状況にあると言わざるを得ない。 こうした状況を受け、文化庁は文化財建造物の防火対策強化に向けた「5カ年計画」を策定。スプリンクラーや消火栓の設置、古い消火設備の交換などを進めるほか、文化財所有者らによる防災計画策定や定期訓練実施などを盛り込んだ。 ただ、初期消火に有効とされるスプリンクラーも誤作動で文化財を傷めるリスクがあるなど、保護と防火体制の充実を両立させるのは難しい。さらに行政の支援はあるものの文化財所有者らの負担は大きく、人口減少が進む中、今後、文化財保護の担い手不足の深刻化が予想される。貴重な文化財を次世代に残すためには、所有者や地域への物心両面での支援充実が必要だ。 本県は国宝指定の建造物数で日本一を誇る。荒井正吾知事は昨年、文化財の防災対策強化に向け、県独自の条例を制定する考えを示した。文化財保護には県民の理解が不可欠であり、県が持つ文化財の価値や魅力を知ってもらう施策の充実が望まれる。
平成期、心身の健康などを目的に何度目かの自転車の流行が起きた。近年は地球環境に優しい乗り物としても存在感を増し、ブームを超えた広がりを見せる。今後の自転車利用の定着、拡大には快適性、安全・安心面の促進が不可欠だが、サイクル道や輪行をサポートする周辺環境の整備など、快適さでは県内でも計画段階のものも含め充実の方向がうかがえる。 一方、自転車の利用時間増、活用目的の多様化とともに安全・安心面では課題が噴出。携帯端末などを操作しての「ながら運転」、歩道上での高速走行といったルール、マナー違反も目に付き始めた。国などの調べでは、自転車が関係する国内の事故は近年増加傾向。県内では昨年までの3年間、700件ほどで推移している。自転車が加害者の場合の責任も重くなる状況で、人身事故では1億円近い高額賠償事例も起こっている。 このため自治体などでは、事故での被害者救済と加害者の経済的負担軽減などを目的に自転車保険の加入義務化が進められている。国土交通省によれば、関連条例などの公布、施行は今年10月15日現在、自転車保険加入を「義務」とするのが11都道府県7政令市、「努力義務」が13都道府県3政令市となっている。県でも加入義務化を含む自転車関連の条例を今年10月に公布。義務化は来年4月1日から施行される。いずれの自治体も罰則規定はない。だが国などの調べでは、義務化している自治体の方が保険加入率は高く、条例などを設ける意義は小さくない。 モノを使用する際、安全と安心は欠かせない要素。加害者となる可能性もある自転車に関しては、万が一を補ってくれる保険は心強い。本人、配偶者とともに同居親族全員が対象で、賠償事故での億単位の補償が付いた保険が月額数百円からある。年齢にかかわらず賠償が求められる自転車関連事故に対する社会意識の変化や、注意をしていても事故が起こりうることを考えれば、義務や罰則の有無にかかわらず保険の加入は前向きに考えておくべきだろう。 もちろん自転車に乗る際のルール、マナーの順守は当然のこと。同時に県内でもまだ十分とは言い難い、自転車利用者が被害者にも加害者にもなりにくい道路環境の整備も一層の推進が望まれる。 自転車は多方面で利便性が高く、利用者にさまざまな恩恵を与えてくれ、環境への配慮もある。誰にとっても好もしい存在として末永く付き合うために、まずは自らできる一歩から始めたい。
第10回の節目の大会となる「奈良マラソン2019」が、あす7日と8日、奈良市法蓮佐保山のならでんフィールドを主会場に開催される。平成22年の平城遷都1300年記念事業を機に始まった「ビッグイベントの遺産」の一つ。同記念事業では催しを一過性の「お祭り騒ぎ」に終わらせない取り組みが強く求められたが、毎年2万人近いランナーが集う奈良マラソンの開催継続は、大きな成果といえるだろう。 それともう一つ、実績を挙げているのが記念事業の式典も行われた平城宮跡の国営公園化。同史跡は学術的な発掘調査が着実な成果を挙げる一方、広い敷地を生かし切れていない面もあったが、平成20年度に国営公園としての整備が事業化され、遷都1300年を機に保存と活用に向けた取り組みが本格的に動き出した。現在は朱雀門、第一次大極殿に次いで大極殿院南門の復元事業が行われており、昨春にオープンした「朱雀門ひろば」の整備も続けられている。 いわゆる「地方博」など大型の催しが地域振興の起爆剤としてもてはやされた時代とは違い、県も厳しい財政運営を強いられている中で行われた100年に1度の遷都記念事業だったが、無駄な投資を避けながら各催しとも人気を集め、事後には奈良マラソンと平城宮跡歴史公園という確かな「遺産」を残した。 いま県内では次のビッグイベント、2巡目となる国民体育大会の開催案が浮上している。昭和59年に開かれた「わかくさ国体」で使われた各施設は既に老朽化が著しく、総合開会式などを行う主会場や各競技会場の整備が大きな課題となるが、ここでも「わかくさ国体」が残した人材や競技力などソフト面の「遺産」の掘り起こし、活用が鍵を握りそうだ。 国体開催の年はまだ決まっていないが、令和11年の島根県、15年の鳥取県の間、3年間が開催地未定で残された枠となっており、ブロック別の順番から県開催は同12年が最右翼か。荒井正吾知事は主会場を担う県立施設の新設に前向きで、県立橿原公苑と橿原運動公園の交換による用地確保案を提示。来年以降、計画が具体化する可能性も出てきている。 ハード、ソフト両面の準備期間を考えれば、もう余裕はあまりない。平城遷都1300年記念事業の成功事例を良い教訓に、次代へ残していける施設、競技力、そして地域のスポーツ文化など明確な目標を立てて、次期国体開催の準備を始めたい。
県内の市長選挙で自民党推薦候補が勝利したのは、本当に久しぶりだという印象が大きい。そんな橿原市長選だった。党県連が推薦を決めたにもかかわらず、その内実たるや、いろいろな声が聞こえてきた。それだけに懸命に戦った党員、支持者の追い上げぶりは、執念さえ感じられた。こうして市民の審判が下ったのだから、市政の停滞は許されない。次に進まなければなるまい。 前県議で新人の亀田忠彦氏は、4選を目指した現職の森下豊氏を僅差で破っての初当選だ。この12日に初登庁し、亀田市政がスタートしたばかりだ。47歳という若い亀田氏は、12年前に多選批判で現職を破った森下氏の当時の年齢とほほ同じで、因縁めいたものを感じる。だから「経験不足」や「若過ぎる」などの批判は気にすることはない。 もう、うかれていることはあるまいが、選挙結果を見れば、前回と同じように僅差での当選だった。そのことをしっかり肝に銘じてほしい。これまでの森下市政が築いてきた良いところは継承し、選挙戦で主張した改めるべきは改めたらいい。ただ外から見てきたのと、実際に取り組んでみると違うことはよくある。市民との約束を実行するために、急ぎ過ぎてもいけない。 前市政の中身は、議会の承認があって進められてきた。議会を敵に回してはならない。公約を推進するためには、議会との関係が大事になる。首長の権限は大きいからこそ、議会とどう向き合うかがポイントだ。前市長支持の議員もいる。要は市長も議員も「市民の方を向いているか」にかかる。 他市の場合でも分かるが、現職を破って当選した首長が、議会対応を誤り、予算が通らず公約を守ることができない事例がいくつもある。議会とうまくいかず、行政も停滞する。議員も同じ市民から選ばれていることを忘れず、「共に市民のため」の姿勢であれば、前に進むのではないか。 12万人という県下第二の人口を抱え、鉄道も道路も交通の要所である橿原市は、中南和の拠点といえる。一橿原市のことだけでなく、常に近隣市町村との連携を考えてほしい。そして県とのパイプ役を訴えてきた亀田市長だから、その模範となっていただきたい。 たとえば5年前に発足した広域消防組合は、理念は良くても旧市町村の壁が未だに大きく、厳しい実態が浮き彫りになっている。市民の安心、安全のために、先頭になって汗を流してほしい。
「過ぎたるはなお及ばざるがごとし」ということだろう。首相主催で開かれてきた「桜を見る会」について、政府は来年の中止を発表した。招待客は政府が目安とする1万人に対し、今年は約1万8千人が出席、費用もうなぎ登りで、約5500万円が支出されている。 安倍晋三首相の地元関係者が多数含まれていると野党が攻勢を強めた矢先の中止表明で、批判をかわす狙いがあるのは明らかだ。長期政権のおごりと捉えられてもやむを得まい。安倍首相は招待客の人選に自身の関与を否定している。事務所レベルであっても、公金で行う行事の招待客をお手盛りで増やしていたとすれば、まさに「私物化」である。 「桜を見る会」の歴史は昭和27年にさかのぼる。前年の講和条約でようやく主権を回復したばかりの日本で、各界で功績のあった人や功労者を慰労しようと始まったものだった。70年近い歴史はもはや伝統行事だが、きちんとした基準や総括のないまま、慣例で運営されてきたことが招待客の増大につながった。 開催規模が膨らんだのは第二次安倍政権以降とされ、どのような経緯があったのか、政府はできる限り明らかにする必要がある。首相をはじめ政治家の選挙対策の一面が強いとすれば、国民が納得できるものではないだろう。地元・山口県の後援会関係者に首相の事務所名を記載して届いた案内文も明らかになっている。 増え続ける招待客やそれに伴う経費の増加は、関係者の間では当然認識されていたはずだ。菅義偉官房長官は記者会見で、招待基準の明確化やプロセスの透明性確保に加え、招待人数や予算を全般的に見直す考えを示した。これまでの運営が不適切と認めた形だが、問題化するまでなぜ改善できなかったのか。政権のおごりや緩みはなかっただろうか。 安倍首相は10月に開かれた共同通信加盟社の会議で講演し、ミスター・ラグビーこと故平尾誠二氏の言葉を引き合いに「現状維持は決して許されない。ましてや内向きな政局や離合集散に費やす時間などない」と力を込めた。「桜を見る会」の問題は内向きな政局に当たるのだろうが、運営の見直しにも国会答弁にも、十分な時間を費やしてほしい。 現在の安倍内閣では、経済産業相と法務相が「政治とカネ」の問題で辞任している。その矢先に「桜を見る会」の問題が浮上した。国民の不信感は強まっている。現状維持は決して許されない。
10月31日にあった那覇市の首里城の正殿を含む主要施設7棟が焼けた惨事は、日本全国に衝撃を与えた。7棟は平成4年以降に復元された建物で対象外だが、首里城跡を含む「琉球王国のグスクおよび関連遺産群」は世界文化遺産。首里城は沖縄県のシンボルであり、同県民の精神的ショックはもちろん、同県の主要産業である観光へのダメージは図りしれないだろう。国を挙げて沖縄県への支援が必要であるとともに、文化財の宝庫といわれる本県は、文化財防火の大切さを再認識しなければならない。 文化財消失と聞いて真っ先に頭に浮かぶのは、戦後間もない昭和24年1月26日に起こった法隆寺金堂の火災だ。世界の宝といわれた国宝壁画を焼き、「文化財防火デー」制定のきっかけとなったのは、あまりにも有名だ。当時(1月27日付)の大和タイムズ(現奈良新聞)は、「法隆寺金堂全焼す」「一瞬に失う超国宝」との見出しで、「この火災によって生じた損害はあらゆる物的評価の不可能なまでに巨大なものである」と悲嘆している。 令和元年版「100の指標からみた県勢」によると、県内の国宝・重要文化財のうち建造物指定件数は264と京都に続いて全国2位。それだけに首里城全焼のニュースに対する県内関係者の反応も素早かった。31日即日、県内の消防機関が奈良市の東大寺、吉野町の金峯山寺などで防火設備の緊急点検を行った。 平城宮跡と同じ国営公園内の火災に危機感を抱いた荒井正吾知事は6日、「県文化財緊急防火対策強化会議」を26日に奈良市内で開くと表明。文化財を所有する社寺や図書館、博物館をはじめ警察、消防関係者、県、市町村の担当者らが出席して情報を共有。参加者から防火対策の事例報告を聞くほか、文化庁担当者の講演や県文化財保存課による防火対策に関する緊急報告も実施するという。 那覇市消防局は6日、首里城の出火原因は正殿の電気系統が濃厚との見解を発表した。再発防止のために徹底的な原因解明が望まれる。一方、ふるさと納税をはじめ全国から寄付が相次いでいるという。沖縄県民を励ます意味と観光振興のため旅行に訪れるなど、今できる範囲で、国民は沖縄県を支援する必要があるだろう。 これからは寒くなる時期。9日からは全国火災予防運動がスタートする。自宅や周辺はもちろん、国民、県民の財産である文化財の防火に気を配ることが必要だ。
先の台風15号、19号などによる豪雨によって、東北から関東、中部地方までの広域にわたって、中小河川の氾濫や住宅への浸水などが連続して起こってしまった。特に千葉県での被害は甚大だった。濁流に浸かった家具などを運び出し、「さあ、これから」という時に、3度目は大雨。かつてない事態に言葉が出ない。 3度目の大雨・洪水被害には特徴的な事例があった。道路に濁流があふれる中、車で避難しようとして急激な浸水に遭遇。車から出られなくなって亡くなった人が死者の半分近くになり、「車中死」という言葉までできた。 高齢者らが身内にいると、車で避難しようとする比率は高まる。非常に悩ましい選択になる。家の2階以上に移動する「垂直避難」を選ぶのか、車や徒歩で避難所に向かうのか。時間帯や周囲の被災状況にもよるが、その判断は難しい。だが、これからは、個々人のそうした判断が生死を分ける事態が増えてくるだろう。 読者は「防災ハザードマップ」を見たことが、おありだろうか? 「地域住民が、素早く安全に避難できることを目的に、避難場所などの情報や被害が想定される区域と被害の程度を地図上に明示したもの」のことだ。市町村が配布してはいるが、存在を知らない人も意外と多い。 奈良県のHP(ホームページ)によると、県内では「洪水想定区域」に指定された31市町村でこうしたマップが作られている。ぜひ一度は家族でマップをもとに話をして、避難場所や避難場所への道順などについて共通認識を持っておいてほしい。自治会がある所では、避難訓練も含めて、災害が迫る中での具体的な役割や行動について、話し合っておくことも必要だろう。 また、パソコンなどがある家庭では、県内の河川の水位を避難の判断の参考にするのもいいだろう。国土交通省の「大和川河川事務所」のHPでは、大和川につながる水系の観測地点の水位が、カメラの映像や図面でリアルタイムで確認できる。携帯サイトもあるので、一度のぞいてみてはいかがか。 ようやく秋も深まり、きょうから11月。「台風の季節はもう終わった」と思いたいが、油断はならない。平成2(1990)年の台風23号は、11月30日に和歌山・白浜に上陸していた。 「想定外」の事態は過去にもあったが、現代という時の流れの早さから、それらが忘れ去られてきているだけなのかもしれない。
イギリス・ロンドンの大英博物館で、県内の寺院に伝わった国宝の仏像など約20点を展示する「奈良―日本の信仰と美のはじまり」展が始まった。来年の東京五輪・パラリンピックに向けて、世界への奈良の魅力発信を目指した県の事業。今年1~3月にフランス・パリのギメ東洋美術館で開かれ、約3万2000人の来場者を集めた興福寺の仏像3体の展示に続く企画だ。県内社寺の名宝を一堂に集めて国外で展示するのは初めてという。初公開となる「法隆寺金堂壁画」(飛鳥時代)の明治時代の複写をはじめ、大英博物館の日本コレクションの一部も併せて展示されている。 仏像が「美術品」として美術館や博物館で展示されるようになる近代以前にも、遠くの人々との結縁(けちえん)や寄付を募る勧進などを目的に秘仏を寺外で公開する「出開帳」が頻繁に行われた。今回は県内への観光客誘致を目指し、各寺社の協力で実現した海外での出開帳ともいえる。 白鳳美術の傑作、法隆寺の「夢違観音」(国宝)の美しさは海外の人たちの心も捉えるだろう。しかし、寺院にとって仏像は本来、信仰の対象であり、その深い精神性も伝えなければ意味がない。そのため、会場で東大寺や薬師寺などの僧侶たちによる法要が営まれたほか、節の付いたお経「声明(しょうみょう)」の公演や仏教に関する講演会なども行われた。 また、舞楽面をはじめとする宝物を出品した春日大社もみこの舞などを披露。花山院弘匡宮司が日本古来の神道や、日本文化の寛容性・多様性の象徴といえる神仏習合について解説した。花山院宮司によると、現地の人々の関心は高く、解説の英訳文を多くの人から求められたという。奈良の心の一端は確実に伝わったようだ。 今年4月、文化財の活用を重視した改正文化財保護法が施行された。今後、訪日外国人観光客誘致に向けて文化財が果たすべき役割は増すだろう。しかし、美術品として仏像や文化財を見せるだけでは、本当の奈良の魅力は伝わらない。今回の大英博物館と同様、歴史や精神性などを分かりやすく説明し、理解してもらえるようなソフトづくりが必要だ。 現在、奈良公園周辺の交通渋滞が問題となっているが、東大寺をはじめ一部の観光地への人気集中もその一因に挙げられる。他地域への観光客誘致が県観光の課題であり、そのためにも奈良の寺社や遺跡などの魅力を正しく発信することが大切だ。
来春高校を卒業する生徒の就職活動が重要な時期を迎えている。県内企業の多くが人手不足を実感する時代に、高卒の人材も将来にわたる貴重な戦力だ。 県や県教育委員会、奈良労働局によれば、県内企業での高卒就業者の3年以内の離職率は近年、約42~47%で推移。全国平均よりやや高く、県内公立高からの人材は1年目での離職が多いという。数字からは進路決定の難しさ、県内企業が高卒人材定着に苦慮する状況がうかがえる。離職理由はさまざまだろうが、現状改善には採用の前と後の再検討も必要だ。 県での高校生の就活はほとんどの都道府県が慣例とする、各人が一社を選んで応募する「1人1社制」。見直し論もあるが、生徒の学業への負担の面などから現状肯定派が多数を占める。全国的には、選択肢を広げてミスマッチを減らそうと、複数の企業の説明会を行う公立校も出てきた。県教委は独自の離職状況調査や、調査を踏まえた関係者による対策会議を始めている。また公立高の進路指導担当者対象に県内企業を知ってもらうバス見学会、インターンシップの拡充にも着手している。 現況で就活を充実させるなら、指導者のみならず生徒の企業理解の一層の促進は不可欠。企業選択の最終段階で助言することが少なくない保護者にも、県内企業をよく知る機会を設けるべきだろう。 もちろん企業側にも、自社認知への積極性は求められる。ただそれ以上に重視されるのは、採用後に人材をどう育て、離職を防ぐ環境を構築するかだ。従業員の労働意欲の維持、向上には多方面でのステップアップの支援は欠かせない。実際県内でも、現代の若者が受け入れ、参加しやすい指導、研修のために内容はもとより講師、時間などにも工夫し、人材定着を実現している中小企業がある。 業種によっては、企業内での技能向上が従業員が次の段階を目指す離職を招くのではとの懸念もあろう。だが一方で、人を育てられる企業風土が他の従業員を含む周囲に好影響をもたらし、県外求職者にも注目される効果を生む可能性も否定できない。日頃からの企業姿勢が問われる部分でもある。 高卒就職者への関係者の取り組みは単に離職率を下げることではなく、貴重な人材を生かし活躍する場を増やすためだ。それが県内企業の潜在力を底上げし、県の活力にもつながる。そのためにも関係するすべての人々には、将来を見据える冷静な目となお実効性の高い方策、行動が望まれている。
橿原が燃えている。 任期満了に伴う市長選挙(10月20日告示、27日投票)の投票日まで1か月となった。4年前の前回選挙とまったく同じ構図となりそうで、4選を目指す現職の森下豊氏(61)に対して、今回も自民党前県議である新人の亀田忠彦氏(46)が挑戦するという形だ。 わずか363票差という、あの激戦からもう4年も経つのかと、月日の経つのも早い。 前回は森下氏に、自民党の元県議・神田加津代氏が挑んだ。近鉄大和八木駅南側の市役所分庁舎と併設するホテルの建設問題が争点となった。ホテルが公設・民営であることから、税金の無駄遣い、民業を圧迫するなどと批判し、公明党も推薦した神田氏は猛烈に追い上げをみせたが、2万票台に乗せたもののわずかに届かなかった。それだけに春に再選したばかりの県議の職を辞して挑戦する亀田氏も雪辱に燃えて闘志をみせている。 ここ数年の首長選挙をみると、自民党推薦候補は軒並み苦杯をなめている。橿原市は県下第2の都市で中南和の核でもある。そして自民党にとっても衆院3区の最大票田だ。地元の同党3区支部(田野瀬太道支部長)としても、「今度こそは」の思いもあろう。 その前回選挙で、同党県連(奥野信亮会長)のお粗末な対応が批判を浴びた。神田氏の党推薦を決めながら、県連幹部をはじめ同党所属の市議らが現職の応援に動いたため大問題となった。 これがあって地元支部が推薦を決めても、首長選の公認・推薦は県連が決めると規約改正までしている。これも地元軽視のおかしなものだが。 今回も地元の市支部と3区支部で亀田氏の推薦を決め、県連の判断待ちになっている。来月7日の午後、奈良市内で選挙対策委員会(秋本登志嗣委員長)が開かれ、正式決定される運びだ。ところが「地元の意向をまったく無視した結論になる」との観測が流れるほど、微妙な情勢だ。 県連幹部が森下氏と県議時代に同期だったからだとか、そんな理由がまことしやかに聞こえてくる。かつて森下氏は当時の民主党候補として衆院選で戦った。市長選でも民主党の国会議員がつき、自民党が全面支援した現職を破っている。そんな因縁があるなかで、前回選挙で、おかしな動きをしたのが県連だ。 個人的に親しいかどうかよりも、地元が正式な手続きを踏んで推薦依頼してきているのを無視することはできまい。推薦を決めたとしても、あとは市民が厳正な審判を下す。
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