お早うございます。 ゲストさん。 をクリックすると社説の本文が展開されます。 良いと思った社説には木鐸(木鐸?)のボタンを、ミスリードするあやかしの社説と思ったら奸妖のボタンを押してください。 コメントするにはユーザ登録又はOpenIDによるログインが必要です。ぜひログインして許せない社説にツッコンでください。
OpenIDを入力
http://www.mutusinpou.co.jp/index.php?cat=2
2008年12月、青森市内のアパートで乳児の遺体が相次いで見つかり、母親=当時(39)=が逮捕される事件が起きた。母親は06年9月に市内アパートで、自身が生んだ生後5日の女児を窒息死させた。同様に自身が出産した3人を殺害した疑いもあるとみられたが、嫌疑不十分で不起訴となり、09年に青森地裁で懲役6年の実刑判決を言い渡された。 母親は警察の調べに対し、「金がなくて生活が苦しく、子どもを育てることができなかった」と供述。裁判の中では、当時交際中の男性に妊娠と出産を知られると別れることになると懸念していたほか、多額の借金で子どもを育てられないと考えていた―と検察側が指摘。一方弁護側は、母親が交際中の男性に精神的・経済的に依存しつつも、自身が出産した子どもを育てたいとする感情を持っていたとし、情状酌量を求めた。 今年3月には今別町のくみ取り式トイレから生後間もない女児の遺体が見つかり、母親が死体遺棄罪で起訴されたほか、殺人の罪で追起訴されている。母親が出産したばかりの子どもを育てられないとして遺棄したり殺害したりといった事件は全国的にしばしば発生している 厚生労働省が8月に示した「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第15次報告)」によると、2017年4月1日~18年3月31日に発生し表面化した死亡事例で、生後すぐ(0日児)に死亡・不明となった子ども虐待は14人。第1次報告(03年7月1日~同年12月31日)からの累計でみると、0日児の出産場所は自宅が8割近くを占め、医療機関での出産は確認されなかった。妊娠中から相談機関へつなげる必要性が課題に挙げられている。 親が育てられない場合に乳幼児を受け入れる「こうのとりのゆりかご」を実施している慈恵病院(熊本市)は今月、母親が匿名のまま出産でき、子どもは後に出自を知ることができる「内密出産制度」を導入したと発表した。 母親が匿名出産を希望した場合、院内の新生児相談室長にのみ身元を明かすと仮名で妊婦検診や出産が可能となり、費用は病院側が負担。また母親が身元を一切明かさない「匿名出産」も受け入れるとし、貧困や他人に知られたくないと思い悩む母親の「逃げ道」を用意した。 母親が生んだばかりの子を殺害したり遺棄したりといった事件が報道されるたび、「母親の自覚がない」「育てられないのになぜ妊娠した」といった声が上がる。それはもっともなことだが、周囲から孤立して手助けされないと感じ、小さな命を消すしかないと思い詰める社会にも何かが欠けているのではないか。 慈恵病院は現状の福祉の在り方と異なる「救いの手」を差し出したといえよう。小さな命を救うために何ができるのか、さらなる取り組みを模索したい。
労働力不足が続く農業の分野で障害者の働き口を確保する「農福連携」の取り組みが県内でも見られるようになった。弘前市は今月初め、リンゴ黒星病の感染源となる落ち葉をかき集め、土に埋めたりすき込んだりする「耕種的防除」の取り組みを実施。市内の園地で3福祉事業所の利用者12人が作業にいそしんだ。 市は2018年度に労働力不足に悩むリンゴ農家と、就労場所が不足している障害者のマッチングに向けた試行的な事業を始め、障害者に摘果や葉取りを行ってもらってきた。今回は、黒星病の菌密度低下に効果があるとされる耕種的防除が、農家の高齢化や人手不足を背景に普及していない状況に着目。作業が比較的容易であると思われることから農福連携に絡めた。 市による農福連携の取り組みは試行的な段階にあり、関係者は「障害者の特性に合ったリンゴ生産の作業を絞り込んでいくことが重要」などと認識しており、課題を詳細に分析していく方針だ。 農福連携については政府も今年度、推進会議を設置して取り組みを本格化。関係省が具体的な施策を示し始めている。例えば、農林水産省は障害者の特性などを就労先の農家などに助言する「農業版職場適応援助者(ジョブコーチ)」制度を20年度にも創設する方針。 ジョブコーチは障害者の職場の上司や同僚に、本人の得意なことや苦手なことなどを理解してもらい、円滑な就労を手助けする制度。もともとは厚生労働省の取り組みだったが、農水省はその仕組みを参考に、農業に特化した制度をつくる考えという。 就労の円滑化をめぐっては、県担当者も「農家側が障害者にどういった作業を任せられるのか分からず、戸惑っている面がある」と指摘している。農業に特化したジョブコーチがいれば、解決できるケースも少なくないと思われる。少しでも早く制度が確立され、定着していくことを願いたい。 これまで関わり合うことが少なかった「農業」と「福祉」という二つの分野が連携し、新たな取り組みを展開することは大いに歓迎したい。双方が抱える課題を見れば、連携は時代の要請と言ってもよいのではないか。取り組みを一過性のものにしたくはない。 そのためには、障害者の雇用がうわべだけのものではなく、彼らが継続的に働くことができ、その労働が正当に評価される環境を早期に整えることが不可欠だろう。そういった意味で、農水省が示す農業版ジョブコーチなども重要な施策なのではないか。 日本は人口減少や少子高齢化に悩まされており、国内の労働力不足は各分野でますます深刻化するはず。対策の一つとして始まった農福連携を何とかして定着させたい。
青森労働局がこのほど発表した2020年3月卒業予定の県内大学生の就職内定状況(10月末現在)によると、県内11大学全体の内定率は前年同月を2・4ポイント上回る68・5%で、統計が残る01年3月卒以降、10月末としては過去最高となった。短大、高専、専修も含めた内定率も61・6%で2・1ポイント上昇し、過去最高となっており、全国的な人手不足を背景に、売り手市場が続いていることがうかがえる。 20年3月卒の大学生等の就職活動は、今年3月に企業の採用活動がスタートした。6月に選考が始まり、10月1日に内定解禁となった。県内の大学生の就職希望者は2708人で前年同月比166人増。このうち内定者は1854人で、同174人増。内定者の内訳は文系が774人、理系が1080人となっている。 気になるのは、その内定先が県内537人に対し、県外はその倍以上の1317人となっていることだ。県内企業の求人状況や、学生が求める就職先が限られているといった事情があるものとみられるが、人材の県外流出に歯止めが掛からない状況は深刻と言わざるを得ない。 弘前大学教育推進機構キャリアセンターの石塚哉史センター長によると、来年の東京五輪・パラリンピックなどを背景に、業界問わず県内外いずれも求人が増えており、文系、理系で差も見られないという。都市部の企業を中心に、優秀な学生を確保するため内々定を早期に出す傾向にあり、学生は就職先を選ぶ条件として給料のみならず、福利厚生や安定性を求める傾向がみられるようだ。 一方、厚生労働省が公表した19年版「労働経済の分析」(労働経済白書)によると、深刻化する人手不足により企業の約7割で経営面に影響が出ている。特に地方では、求人を出しても応募がない企業が多く、一段と厳しい経営環境に直面している。業種別では全国的に宿泊や外食、建設、医療などで人材確保の厳しさが増しているという。 白書はこうした状況を踏まえ、人手不足の解消には離職率や定着率の改善が必要と指摘し「働きがいや働きやすさを高めるような雇用管理の改善に取り組んでいく必要がある」と強調している。 県内でも企業などが人材確保に向け、あの手この手で各職業の魅力発信に努めているが、全国的な人手不足と売り手市場が今後しばらく続くとみられる中、職場の魅力づくりが一層求められることになるだろう。 地方経済の著しい好転が見込めない現状下、働き方改革推進の必要性にも迫られ、多くの中小・零細企業は厳しい経営を強いられているが、企業の活性化を図るのはやはり「人」であろう。そのことを念頭に、働きがいや働きやすさを感じられる環境づくりに知恵を絞る必要がある。
アフガニスタンで人道支援活動を続けるNGO「ペシャワール会」の現地代表、中村哲医師が同地で銃撃を受け死亡した。中村さんは国内の病院勤務を経て、パキスタンでの医療活動に従事。1989年からはアフガン国内に活動を広げ、医療のみならず、農村復興のための井戸掘りや用水路工事にも尽力。世情不安定な中東地域で、現地の人々から信頼を獲得し、戦火や貧困に苦しむアフガニスタンの人々の支えになり続けてきた。 活動が認められ、中村さんは「アジアのノーベル賞」と呼ばれるマグサイサイ賞などを贈られている。中村さんの活動の歩みを振り返るに、その功績の大きさに心が揺さぶられるばかりだ。アフガニスタンの復興にその生涯をささげたといっていい中村さんが、かの地で非業の死を遂げたことはざんきに堪えない。海外、特に戦火の絶えない危険地帯での人道支援に道を切り開いてきた中村さんのような人物がいたことを、同じ日本人として誇りに思う。中村さんは現地でガニ大統領をはじめとする多くのアフガニスタン国民に見送られ、日本に帰ってきたガニ氏は式典で中村さんを「アフガニスタンンのヒーローだ」と敬意を表したそうだその言葉を私たちも言いたい「中村さんは日本のヒーローでもある」と中東の地に平和の種をまき続けた中村さんに対し深い哀悼の意を示したい 近現代のアフガニスタンの歴史は、戦乱の歴史だ。イギリスとの独立を懸けた戦いから、共産主義政府と、それを支援し、侵攻した旧ソ連軍との戦い。ソ連軍の撤退後は、それまでの反政府勢力が覇権を目指す泥沼の内戦に陥り、イスラム原理主義のタリバンの台頭と政権の樹立に至った。タリバンは米国などとの対立の末に有志連合の攻撃を受け、政権は崩壊したが、その後も一定の勢力を保っている。近年は、タリバンに加え、過激派組織・イスラム国(IS)もアフガニスタンで勢力を拡大しているという。文字通り戦乱が絶えない状況にある。 同国の近現代史を概括しただけで、アフガニスタンの地で生きるということがどれほどの困難を伴うのか分かるような気がする。戦乱が長引けば、苦しむのは力の弱い民衆である。治安だけでなく同国は、干ばつなどの影響も深刻と聞く。アフガニスタンの復興には国外の支援がまだまだ必要だろう。だが、中村さんほどの経験を持ち、十分な注意を払った人でさえ、同地で非業の死を遂げた。国外の危険地帯での支援活動が、どれほど難しいものか、改めて考えさせられる。 それでも中村さんが歩んだ復興の道を閉ざしてはならない。ペシャワール会は、中村さんの事業を継続させたいとの考えを示している私たち日本人全体がアフガニスタン復興をそして世界の危険地帯での人道支援をどのように行うべきなのか一人一人考えていきたい。
過去1年間で、35%が被害―。あおり運転被害について警察庁がドライバーを対象に行ったアンケートの結果だ。3人に1人以上が被害を経験している計算になる。しかし、あおり運転自体を処罰する規定はなく、同庁は来年の通常国会に道交法改正案を提出する方針だ。 調査は10月、運転免許更新のために全国の免許試験場を訪れた人に書面で実施。回答した2681人のうち、後ろからの接近や意図的割り込みなどの被害経験者は939人に上った。このうち401人は3回以上被害に遭ったという。被害内容(複数回答)は「後方からの著しい接近」が81・8%と最多で、「停車して道をふさぐ」も3・5%あった。 車間詰めや幅寄せは、ドライバーに減速できない、逃げ場を失う、などの恐怖感を与え、事故を誘発し得る極めて危険な行為である。さらに停車して道をふさぐ行為は、交通事故以外の被害に遭う可能性もある。実際、今年8月には茨城県で停車させられた上、殴られる事件があった。命にかかわる悪質行為にもかかわらず、警察は道交法の車間距離保持義務違反や刑法の暴行、傷害などを適用するしかないのが現状。昨年の摘発は車間距離保持義務違反1万3025件、刑法は計29件。今年は10月末までに同違反で1万2377件、刑法では暴行26件、傷害6件などとなっている。 ドライバーができる自衛手段には、停車させられても窓、ドアをロックして、その場で通報すること、トラブル回避や事故に絡む訴訟を有利にする記録を残すことなどがある。電機メーカーなどで構成する電子情報技術産業協会によると、ドライブレコーダー(ドラレコ)の出荷台数は2018年度が367万台と、16年度の2・5倍に拡大した。交通事故の記録が主な役割だったドラレコは、あおり運転対策としての需要が増えている。とはいえ、装着したから被害に遭わないというものではない。 17年に東名高速道路で停止させられた車にトラックが追突して2人が死亡して以降も、あおり運転は相次いでいる。厳罰化を望む声が大きくなるのも当然だ。しかし、警察が主に適用してきた車間距離保持義務違反の点数は、高速道路で2点、一般道はわずか1点。これでは法的な抑止効果は望めない。 法改正では通行を妨害するために車間距離を詰める行為などをあおり運転と位置付ける。罰則は暴行罪より重い法定刑を視野に入れており、行政処分は免許取り消しとなる15点以上となる見通し。あおり運転をなくすには、運転できなくするのが近道。免許取り消しは単純ではあるが、一定の効果は期待できるだろう。同時に運転するのは人であることを忘れてはならない。免許の取得時、更新時はもちろん、将来取得するであろう18歳未満に対する安全教育にも力を入れたい。
11月は過労死等防止啓発月間だった。本県を含め全国で厚生労働省主催のシンポジウムなど、過労死防止の重要性について国民の理解と関心を深めようというイベントが開かれ、参加者にとって自分の働き方を考えるきっかけになった。 過労死というと特殊な職種、職場のことのように思いがちだが、実際の事例を見ると、発端は前任者の退職で新たな業務を引き継いだり、本採用になって不慣れな仕事が増えたりと、どの職場にもありがちな出来事が目立つ。担い手不足が顕在化する昨今、働く人は誰しも、自分だけは無関係だとは言えないだろう。 過労死は長時間労働など過度な負担による心停止などの疾患、強いストレスからなる精神疾患を原因とする死亡などを指す。近年は業務による極度の疲労が原因の過労事故死も問題視されている。 青森市で開かれたシンポジウムでは、長時間労働で睡眠時間が減ると過労死の危険度が高まると指摘された。遺族の声として、20代の息子を22時間連続勤務から帰宅途中のバイク事故で亡くした渡辺淳子さんが「命を懸けるような働き方がなぜできるんだろう」「人の限界を試すような働き方で生産性を上げるという考えは間違っている」と訴えた。アルバイトだった息子は「若手に仕事を覚えてもらうため」とさまざまな仕事に借り出され、長時間労働が続いていたという。 会社側とすれば、若手にはいろんな仕事を経験してもらいたい、多少大変そうでも若いから大丈夫―などと考えることはよくあるだろう。だが個人の限界は人それぞれだし、不慣れなうち、未熟なうちは同じ仕事でも時間がかかる。過労死の事案では会社側が従業員の正確な勤務時間を把握していないケースも散見されているが、使用者には個々の労働時間を把握し、適切に管理する責務がある。 国の調査結果によると、年次有給休暇の取得率や、終業時刻から始業時刻までの間に一定以上の休息時間を設ける勤務間インターバル制度の導入割合などは改善傾向にあるという。ストレスチェックを活用している事業場も増えている。だが過労死等の認定件数は近年横ばい傾向にあり、まだ減少してきたとは言えない。より積極的な、踏み込んだ取り組みが企業に求められているのではないか。 もちろん、働き方改革に積極的に取り組んでいる企業は県内にもあり、労務管理の在り方、さまざまな休暇制度の導入などに感心させられることも多い。ただ難しいのは他社の成功事例をそのまま導入すれば良いとは限らないこと。自社に合ったやり方を個々に考えるしかない。 働き方改革に本腰を入れて取り組まない会社は、今後、就職先の選択肢に入ることが難しくなってくる。担い手不足は地方の中小企業の一番の課題だ。年末の繁忙期の最中だが、改めて自分と自社の働き方について見直してみたい。
県教委がまとめた、今年度卒業を予定している中学生の進路志望状況に関する第1次調査(11月12日現在)によると、深浦町にある木造高校深浦校舎の入学希望者数は募集人員40人に対し、わずか12人だった。深浦校舎は県立高校再編に関する第1期実施計画(2018~22年度)で、通学困難地域に配慮し条件付き存続としていた「地域校」の一つ。19年度の入学者数が募集定員の2分の1(20人)に達しておらず、これが2年連続となった時は21年度からの募集停止に向けて協議を進めることになる。 第2次調査は今月11日に実施、来年1月9日に結果が明らかになる。仮に募集停止となれば、深浦校舎の場合「町から高校が消える」と言うよりは、その地勢的状況から見て「地域から高校がなくなる」に等しい。協議となった時は同町で学ぶ意欲がある生徒のことをどう考えていくのか、十分に話し合ってほしい。 第1次調査の結果によると、高校への進学志望者は1万667人。全生徒に対する進学志望者の割合は99・2%と、1975年度の調査開始以来、過去最高値に並んだ。県立高校全日制課程の志望倍率は1・05倍(前年同期比0・02ポイント減)で過去最低となったが、私立は0・41倍(同0・02ポイント増)で過去最高だった。その中にあって、主に郡部にある普通高校の倍率は依然厳しいものがある。五所川原工業高校との統合のため、21年に募集停止する金木、板柳、鶴田の3校は募集人員の半数にも至らず、鯵ケ沢、浪岡各校も同様の状況だ。 深浦校舎は、前身の深浦高校から生徒数減を背景に07年度に校舎化。弘前大学が地元住民らと共に取り組んだ円覚寺の古典籍保存調査プロジェクトに参加するなど、地域に根差した活動に力を注いできたが、志望者数の減少に歯止めがかからない状態が続いていた。 深浦校舎がある深浦町にとって、高校通学をめぐる環境は厳しい。海岸線が南北約80キロに及ぶ地勢であり、南部にある岩崎地区の生徒の中には、県境を越えて秋田県北部の高校に進学するケースが少なくない。残る選択肢は地元の深浦校舎か、津軽地方の他の高校に遠距離通学するか、下宿先から通学するかだ。深浦校舎を選択肢としない場合、生徒はもとより保護者にとっても負担は大きいが、そうせざるを得ない環境にある。 高校の統廃合が始まった十数年前から言われていることだが、生徒数が少ない現状では、多くの同級生との切磋琢磨(せっさたくま)、活発な部活動といった環境が望めないだけに、募集停止や高校統廃合にはやむを得ない側面もある。 ただ市部から遠い地域で統廃合について協議する場合、生徒の通学環境整備や保護者の負担を考慮する必要がある。地域の実情に配慮し、当事者の理解を得られるよう議論を進めてほしい。
スマートフォン(スマホ)や携帯電話を使いながら自動車を運転する、いわゆる「ながら運転」に関する道交法などの罰則が大幅に強化された。 運転中にこれら(カーナビ、タブレット端末を含む)の画面に見入ったり、手に持ったまま通話したりする行為の反則金は、普通車の場合1万8000円で、改正前の3倍に。違反点数は車種を問わず1点から3点に引き上げられた。 事故を起こしたり事故を起こしかねない危険を生じさせたりした場合は、これまで反則金で済んでいたケースも刑事罰の対象に加えられた。この場合の罰則も「1年以下の懲役または30万円以下の罰金」と重くなっている。違反点数は6点で、「一発免停」となる。 ながら運転に起因する交通事故は増加傾向にあり、死亡事故や負傷者多数の事故もたびたび起きている。愛知県一宮市で2016年、下校途中だった男子児童が、スマホでゲームをしていた運転手のトラックにはねられ死亡した事故は記憶に新しい。 警察庁の資料によると、スマホなどの使用に起因する交通事故は18年に2790件あり、5年前(13年)の1・4倍に上る。2790件のうち、死亡事故は42件。死亡事故の割合1・51%は、使用していなかった場合の約2・1倍と高い。厳罰化は安全な交通環境を確保する観点から当然と言える。 運転中にかかってきた急ぎの電話につい出てしまったり、地図検索サービスで目的地までの経路を確認しながら運転した経験のあるドライバーは少なからずいるだろう。 時速60キロで走行中の自動車は、2秒間で約33メートルも進んでいる。スマホの操作に気を取られたり、画像に見入ったりして前方の確認がおろそかになったわずかな時間に、先行車両や歩行者に近づいている可能性がある。 「ちょっと見るぐらいなら大丈夫」「自分は事故を起こさない」といった過信が事故を引き起こしかねないことを、ドライバーはいま一度胸に刻んだ上でハンドルを握るべきだろう。初めは少々面倒かもしれないが、安全な場所に停車してから使用することを習慣付けたい。 今回の罰則強化の対象は大型車から原動機付き自転車までだが、自転車に乗っている時の使用も危険である。 イヤホンを着け、スマホの画面を見ながら自転車を運転する学生や若者はしばしば目にするところだ。自動車だけでなく、自転車のながら運転でも衝突した歩行者が死亡する事案があったことを忘れてはいけない。道交法では既に、自転車を運転しながらスマホを使用する行為自体が禁止され罰則も設けられている。 歩きながらのスマホ使用も含め、こうしたながら行為が、加害者にも被害者にもなり得ることを自覚したい。
政府は2日、東京電力福島第1原発の廃炉作業の工程表の改定案を示した。事故で溶け落ちた原子炉建屋内の核燃料(デブリ)取り出しを2号機から着手すると明記し、廃炉完了まで「30~40年」とする工程の大枠は変えない。一方、廃炉までにはデブリ取り出し技術の確立、処理水の処分、跡地の管理、地域の復興など課題は山積する。国や東京電力には不断の努力が求められるが、国民も関心を持ち続けたい。 工程表の改定は5回目。1~6号機の使用済み燃料プールにある核燃料の搬出は、2031年までの完了を目標とした。 2号機からのデブリ取り出しは、原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)が今年9月、作業現場の線量や原子炉内部の調査が最も進んでいることを踏まえて提言していた。 工程表によると、格納容器に通じる開口部からアーム型の装置を投入。吸引などの方法でデブリを取り出して容器に移し、構内の設備で保管する。サンプルの採取を21年に実施する。 しかし東電の調査で確認されたデブリは1~3号機で形状が異なるほか、格納容器底部の水中にあったり、上部にとどまったりと状況も違う。それぞれの状況に即した技術の確立が必要となる。 2号機はもちろん1、3号機のデブリ取り出しを工程通り進めるため、国は研究支援事業の継続と、支援対象を増やすべく予算拡充を図るべきだ。 増え続ける処理水の処分も難題だ。東電は放射性物質トリチウムを含む処理水のタンクが22年夏ごろに限界を迎えるとの見通しを示している。処理水の処分方法を検討する政府の小委員会は「海洋放出」への反対意見を踏まえ、保管を継続する検討を始めたが、東電は否定的な考えを示している。 政府は取り出したデブリを専用容器に入れ、敷地内で保管する計画を検討している。東電も1~3号機に残された使用済み核燃料を取り出し、敷地内で保管する予定だ。 東電は、処理水のタンク保管を続ければ、これら保管施設の建設に遅れなどの悪影響が出ると主張している。 原発跡地を更地にするのかどうかも未定だ。東電の責任者は地元住民も交えて合意形成に努める考えを示すが、跡地の問題は地域の復興計画と密接に絡む。 復興庁の有識者会議は、福島県浜通り地方に廃炉や第1次産業を研究テーマとした国立の研究所新設を検討している。ただ、どのような計画であれ地元理解は欠かせない。 今後30年超続くプロジェクトだけに、政府と東電は山積する課題の解決に向けた不断の努力と、地元理解を得るべく情報発信を心掛けるべきだ。国民はそれらが守られているか、注視してほしい。
本県開催を要請されている2025年の第80回国民スポーツ大会(現国民体育大会)について、県は夏季大会(本大会)に加え、冬季大会も受け入れる方針を示した。夏(秋)冬季大会を同県開催する完全国体は、1977年に本県で開かれた「あすなろ国体」が初めて。国内最大の総合スポーツ大会が再度、本県で完全大会として開かれるのは喜ばしい。 10月31日に日本スポーツ協会から要請を受けた県が、冬季大会の会場候補地である県内外5市町や競技団体などの意向を確認した上で、内諾を受けたという。県国民スポーツ大会準備室によると、候補5市町はスケート、アイスホッケーが八戸、三沢、南部の各市町、スキーはアルペンと距離が大鰐町、純飛躍と複合が秋田県鹿角市となっている。 スケートに関しては屋内スケート場「YSアリーナ八戸」が9月にオープン。10月には五輪メダリストも出場した全日本距離別選手権を開催するなど、日本を代表するリンクに数えられる。一方、スキーのアルペン、距離は国体や全国高校大会(インターハイ)などの全国大会に加え、2003年に第5回青森アジア冬季競技大会を開催した大鰐温泉スキー場がある。それぞれ大規模大会を経験しており、競技環境は問題ないだろう。 気になったのは完全大会としながら、純飛躍と複合が鹿角市となる点。大鰐温泉スキー場の滝ノ沢シャンツェはアジア大会のためにリフトを新設し、07年には全日本学生選手権大会も開かれた。10年の国際競技規則改正により、16年のインターハイ開催時にも改修している。歴史と実績を有す会場であり、完全大会とするなら全競技の県内実施としたいが、かなわないようだ。 かつての国体は開催地に「国体道路」が整備されるほどの一大イベントだった。時は流れ、近年は自治体が財政的理由などから開催地受け入れを拒否するケースもあり、第59回大会で開催地・埼玉県は、ボランティアを活用した開会式としたり、次回開催県とボートなどを共同購入したりと経費圧縮を徹底した。 純飛躍、複合を大鰐開催できないのは、付帯設備の老朽化などが理由。開催地が国体簡素化などに取り組む近年の流れを見ると、本当の意味での完全大会とは言えないかもしれない一部競技の県外開催も理解できる。 28日の県議会一般質問で三村申吾知事は「健康づくり、地域活性化、子どもたちに夢や希望を与える」と冬季大会の受け入れ理由を説明し「関係市町や競技団体などと連携して準備を進める」と述べた。本県開催は県民がさまざまな競技と身近に接することができる絶好の機会。大会成功はもちろん、鹿角市と一体となって新たな開催地モデルとして後世に語り継がれるような、創意工夫の詰まった“完全大会”としたい。
これまで輸出の実績がない中小の食品メーカーに海外から熱い視線が送られている。昨今は中小の食品メーカーの販路拡大を後押ししようと大規模な商談会も開催されている。本県の企業にも積極的に輸出に取り組むことを期待したい。 海外での日本食ブームは衰えるどころか、勢いを増すばかり。日本の食料品の輸出額は、2013年から4年連続で過去最高を更新し続け、16年は7502億円に達した。農水省は19年に1兆円にする目標を掲げている。 日本は海外の農業大国に比べて土地が狭いため、農業のコスト削減が容易ではない。その結果、生産物も割高となる。それでも、高い品質は各国の富裕層を中心に人気を集めており、日本食レストランも増加し続けている。 このような好機を生かさない手はないと、国内の関係機関や国も支援に乗り出している。17年から首都圏で開かれている「“日本の食品”輸出EXPO」はその一つ。今年も今月27日に開幕し、29日まで開かれている。会場には80カ国から1万8000人のバイヤーらが訪れる規模だ。 国内食品メーカーの支援策といえば、これまでは海外の商談会に連れていくといったケースが目立っていた。しかし、資金力などに乏しい中小メーカーにとってはハードルが高く、十分な成果を得られているとは言い難かった。そこで、海外のバイヤーらを逆に招くEXPOが開催されるようになった。 さらに、開幕前日の26日にはEXPOに参加する海外のバイヤーを全国19都市に招いて小規模の商談会を開催。弘前市の会場にもポーランド、ベトナム、中国、米国のバイヤー計5人が訪れ、県内の21社と商談を重ねた。 会場に設けられたブースでは活発な商談が行われ、地方の商品に対するバイヤーの関心の高さをうかがわせた。関係者によると、ポーランドなどEU(欧州連合)圏の国が地方の商談会に参加することは今のところ珍しいといい、参加した地元企業にとって貴重な機会だったのではないか。 ポーランドは本県と同様、リンゴ生産で知られており、国民もリンゴを好んで食べるという。来場し、津軽地方の工場で製造されたリンゴのワインを試飲した同国のバイヤーは、共通した食文化を持っていることは販路を開拓する上で有効との認識を示していた。 地方にある中小食品メーカーの商品へのニーズは確実にあるようだ。企業の規模にかかわりなく、優れた商品を生み出せば、まっとうな評価を受けることができるのだ。経済のグローバル化がますます進む今、自社の製品に自信を持ち、より積極的に売り込むべきだろう。「良いものは良い」。理解してくれる人たちは世界にたくさんいる。
「また、テレビばかり見て」。こんな言葉が死語とも思えてきそうな調査結果である。時事通信が全国18歳以上の男女2000人に行った「テレビに関する世論調査」(有効回収率62・2%)によると、10~20代の若い世代の約1割が「テレビは見ていない」と回答し、この世代を中心にテレビ離れが進んでいることが分かった。代わって、インターネットの動画投稿サイトや配信サービスを視聴する傾向が高くなっているという。 調査結果によると、1日のテレビ視聴時間の平均は平日、休日ともに「180分以上」が最多で、平日25・7%、休日34・2%。だが18~29歳は平日12・0%、休日11・1%が「テレビを見ていない」と回答した。テレビ離れが起きている理由については、「動画投稿サイト・配信サービスの方が魅力的」が60・5%で最多。続いて「スマートフォンやゲーム機の方が楽しめる」(57・4%)、「ネットが普及し、テレビを見なくても困らない」(56・5%)、「似た番組や同じタレントばかりで番組がつまらない」(27・3%)などの順だった。 その時代によって、情報収集手段や娯楽として求め、活用する媒体が変遷するのは当然だ。効率的に自分が見たい情報内容だけを集中・選択できるインターネットは、国内外の多様なジャンルの情報を楽しむことができることに魅力がある。ただ、活用方法によっては、得られる情報が偏る可能性も否定できない。 テレビは視聴者のチャンネル選択にもよるが、ニュースや娯楽、ドキュメンタリーなどをバランスよく楽しめ、技術的な面でも、この数十年で映像、機器とも格段に進歩した。災害発生時に避難を呼び掛ける即応性は他媒体に比べても群を抜く。一方で、提供情報に関しては「似た番組や同じタレントばかり」との指摘が当てはまるケースも見受けられる。実際、好んで見る番組は最多が「ニュース・報道番組」の75・8%で、「スポーツ」(52・4%)、「ドラマ」(42・6%)、「バラエティー」(35・9%)を大きく上回っているのは、視聴者がマンネリ化を無意識に感じているためだろう。 テレビをめぐる環境は視聴者の生活様式の変化に伴い、近年大きく様変わりした。一例を挙げれば、いわゆるゴールデンタイムには、かつてのような子ども向け番組やドラマは、ほぼ見られない。テレビ番組の製作現場からは、番組への規制が厳しくなり、思うような内容を製作できない悩みも聞こえ、そうした中でいかに視聴者が求める内容を提供できるかが課題となっている。 情報獲得手段が多様化した現在、各媒体をいかに効率的に活用するかが課題となる。インターネットとテレビ、ラジオ、紙媒体それぞれの有用性を認識しつつ、バランスよく活用することが望ましい。
ハンセン病隔離政策で差別を受けた元患者家族に対し、最大180万円を支給する補償法と名誉回復を図る改正ハンセン病問題基本法が施行され、22日に厚生労働省で補償金の申請の受け付けが始まった。補償金は最短で来年1月末にも支給される見通しだという。補償法には政府と国会による「悔悟と反省」「深くお詫び」という文言が明記されたが、われわれも理由のない差別や偏見を抱いていないか、今一度問い直す必要がある。 ハンセン病は手足などの神経がまひしたり、皮膚がただれたりする病気。国は患者を療養所に隔離する政策を進め、感染力が弱いことが分かり、特効薬が普及して治る病気になった後も隔離政策を続けた。かなり昔の話だと思ってしまう人も多いだろうが、隔離政策が廃止になったのは1996(平成8)年だから、平成に入ってもこの政策は続いていた。われわれが無関心であってはいけない。 国の隔離政策をめぐっては今年6月の熊本地裁判決が、患者の家族にも差別や偏見の被害が及んだと認定、国に賠償を命じた。安倍晋三首相が控訴見送りを表明して判決が確定。救済策が議論され、ようやく法の制定までたどりついた。 補償金は元患者の親子や配偶者には180万円を、きょうだいや同居のおい、めい、孫、ひ孫らには130万円を支給する。補償制度の対象者は全国に約2万4000人いると推測されるという。 ただ本紙の取材に元患者の男性が語ってくれたように、患者の家族の苦しみは相当なものがあったようだ。国が患者を強制隔離し、家中を消毒したりするのを目の当たりにしたら、恐ろしい病気だと思い込んでしまうだろう。差別や偏見は激しいものだっただろうし、今でも家族訴訟原告団のメンバーは多くが実名を公表していない。元患者の家族だと知られることを恐れ、請求をためらう人も多いだろう。こうした人らにどう対応するのか。元患者や家族への偏見をどう払拭(ふっしょく)して、名誉回復を図っていくのか。課題は山積しており、むしろここからが本格的なスタートなのだろう。改正法の制定を機に、本格的に差別や偏見のない社会の実現に取り組む姿勢が必要だ。 本県には国立療養所「松丘保養園」がある。全国に13ある療養所の一つで、日本最北端の療養所だ。身近に療養所があることに加え、毎年パネル展が開かれるなど、写真や関係者の話を通じてハンセン病の歴史や元患者の生活をうかがうこともできる。本県は正しい知識を得ようとすればチャンネルは多いといえよう。 われわれにまずできることは、この問題に関心を持ち、知ろうとすることだろう。国には元患者や家族の名誉回復のための具体的な取り組みを示し、彼らが地域社会に溶け込んで暮らせるようにする責任がある。正しい知識を持ち、厳しい視線で、今後の取り組みを注視したい。
日韓両国の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄を日本政府に通告していた韓国政府が、失効期限となる23日の前日に通告の効力停止を発表した。協定の延長に方針を転換したことになる。 GSOMIAは、軍事機密情報の漏えいや流出の防止が目的。北東アジアの安全保障に関する日米韓3カ国連携の「象徴」と目されている。現に北朝鮮は弾道ミサイルの発射を繰り返している。最悪の事態はとりあえず免れたといったところだろう。 両国政府は失効回避に向けて協議を続けていたが、韓国側の方針転換の背景には、失効をきっかけに3カ国の連携にほころびが生じることを憂慮した米国からの圧力を無視できなかったことが指摘されている。「いつでも失効が可能」という前提をわざわざ付したのは虚勢にも映るが、経過や子細はともあれ、失効回避の決定自体は評価したい。 韓国は発表で、日本による韓国向け半導体材料の輸出管理強化措置を世界貿易機関(WTO)へ提訴したことに関し、日韓の対話が続く間は提訴手続きを中断することも盛り込んだ。輸出管理措置をめぐる日韓協議の行方が、GSOMIAの今後を左右するとも言える。「輸出規制撤回に向けた土台が作られた」という韓国側のもくろみと手法には疑問もあるが、両国は関係改善に向けて対話に臨む段階に入った。 ただ、日韓関係が悪化した要因として忘れてはいけないのは、輸出管理措置の問題以前に元徴用工をめぐる問題、さらには一度合意した慰安婦問題の最終解決を一方的にほごにしたことなど、韓国側の対応にあることだ。韓国側は輸出管理措置で日本側の譲歩を引き出せば満足かもしれないが、日本側の立場は異なる。 特に元徴用工問題で韓国最高裁が日本企業に賠償を命じた判決とその後の経過は、日韓請求権協定(1965年)で解決済みとする日本の立場とは相容れない「国際法違反の状態」であり、日韓関係の根幹に関わる。その点を解決せずして関係改善は望めない。 両国は12月下旬に中国で開かれる日中韓首脳会談に合わせ、日韓首脳会談も開く方向で調整することになったが、両国が従来の主張を繰り返すだけでは溝は埋まらない。 輸出管理強化措置については、韓国高官が経済産業省の発表を「事実をねじ曲げた」と抗議した。「(韓国が)問題改善の意欲を示した」とする経産省発表と、韓国高官が主張する「韓国側に改善の実績を確認できれば、(日本が措置を)見直す」との間にどれほど本質的な違いがあるだろうか。こうした対応は外交手法の一つなのか、それとも国内世論への配慮なのか。関係改善の本気度が疑われる言動で、この点でも先行きの不透明さを感じさせる。
ローマ・カトリック教会トップのフランシスコ教皇が23日に来日する。歴代教皇の来日は、故ヨハネ・パウロ2世以来、38年ぶり2回目。来日のテーマを「すべての命を守るため」としており、唯一の被爆国から、核兵器廃絶に向けたメッセージを世界に発信する見通しだ。 日本に初めてキリスト教を伝えた宣教師フランシスコ・ザビエルらが創設したイエズス会の出身で、1987年に宣教活動の視察で、来日したことがある。気さくな人柄やジョークを交えた分かりやすい話し方などから人気があり、公式ツイッターのフォロワー数は4900万人を超える。一部からは「ロックスター」と評されているようだ。 日本でも話題になったものに、原爆投下後に撮影された写真「焼き場に立つ少年」を、カードに印刷して配布するよう指示したことがある。亡くなった幼い弟を背負い、唇をかんで悲しみに耐えながら、火葬の順番を待つ少年の姿を通じ、核兵器の悲惨さを視覚的に訴えた。今回の長崎、広島訪問は核兵器廃絶を実現させるという強い意志の表れだろう。 2017年の国際会議では「核兵器は使用するのと同様に保有することも断固として非難すべきだ」と述べ、他国の核兵器に対する抑止目的でも保有してはならないとの考えを示した。しかし、世界から核兵器はなくなっていない。北朝鮮の非核化をめぐる米朝協議は進展が見られず、日本は北朝鮮の核・ミサイルの脅威にさらされている。 23日午前0時が失効期限の日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)をめぐり、一方的に破棄するとしていた韓国政府が期限直前になって延長を発表した。もっとも北朝鮮などの情報を共有し、安全保障に役立てられるGSOMIAを、日本の輸出管理強化の対抗策に持ち出すこと自体、理解に苦しむが、身近に北朝鮮の脅威があるのは韓国も同じであり、延長は賢明な判断。ただ「いつでも失効が可能な前提で終了通告の効力を停止する」(韓国政府)ともしており、結論を先送りしたにすぎない。 もし核兵器が使用されると再び「焼き場に立つ少年」の悲劇が訪れる。「核なき世界」であるならば、GSOMIAがこれほど注目されることも、外交の切り札にされることもなかったのではないだろうか。もちろん世界平和に必要なのは非核化だけではない。キリスト教を敵対視する「イスラム国(IS)」などが世界各地でテロを企て、多くの命を奪い続けている。日本の警察当局も教皇の来日でテロ警戒を強めている。 教皇は長崎、広島両市を訪れることで、被爆地が歩んだ悲惨な歴史を肌で感じるだろう。その上で宗教を超えて命の大切さを訴える見通しだ。発信力のある教皇である。日本人だけでなく全世界が平和が考える機会になると期待する。
5年ごとの国勢調査が来年10月1日に行われ、2021年春には速報値が判明する見通しだ。人口急減、大都市一極集中という社会構造において、「1票の格差」をどう是正するのか、議論には多くの時間を要するはず。国会は早急に制度改革に着手する必要がある。 次期参院選をめぐっては、全国知事会が県をまたぐ選挙区の「合区」を早期に解消するよう国会や各政党に申し入れている。合区に反対意見の多い自民党内では、憲法改正によって「参院議員は都道府県ごとに選出する」と明示する案も浮上している。 ただ、参院を地方代表と位置づけた場合、法の下の平等という基本理念に反するとの指摘もあり、衆院との役割分担を含めた抜本改革の議論を同時に進める必要がある。 先日、県選出の大島理森衆院議長は本紙などのインタビューで、1票の格差について「根底には人口減少や一極集中という現実がある。その背景にある、これからの地方の、日本国土の全体の在り方という問題は、大きな政治課題だ」と指摘した。 その上で大島議長は「来年には国勢調査が行われ、衆院は相当な選挙区変動が予測される。参院もそうだろう。衆参とも1票の格差がどうあるべきか議論すべき時期であり、各党各会派がよく勉強して、立法府の在り方まで議論することを期待したい」と問題提起した。 司法も国会に抜本改革を迫っている。1票の格差が最大3・00倍だった今夏参院選が違憲として、弁護士らが各地の高裁・高裁支部に選挙無効を求めた訴訟の判決が相次いでおり、計14件の訴訟は「合憲」が12件、「違憲状態」が2件。無効訴訟は全国で計16件あり、判決が来月出そろった後、最高裁が統一判断を示す見通しだ。 このうち「合憲」判決は、格差縮小のための埼玉選挙区の定数増について「格差是正を実現する国会の姿勢を示した」と判断。一方、「違憲状態」とした高松高裁の判決は、定数増を急場しのぎと断じ、国会にさらなる改革を迫った。 来年の国勢調査で格差は拡大する可能性が高い。格差縮小のための議席配分を続ける限り、地方の議席は減り、大都市圏の議席は増え続ける。現在の社会構造において、場当たり的な制度改正が行き詰まるのは目に見えている。 国会は国勢調査結果を踏まえた改定作業とは別に、国のありよう、立法府のありようにまで踏み込んだ議論を始めるべきだ。二院制を維持するのか、維持する場合、参院の都道府県枠をどうするのかなど難題は多い。議論の行方によっては憲法改正が必要になるかもしれない。 衆院議員の任期は残り2年を切り、次期参院選も3年後に迫る。残された時間は少ない。
地方の少子高齢化や人口減少への対応策の一つとして移住促進が注目され、最近は定着した感がある。全国の自治体が工夫した施策を次々と打ち出す中、県内の関係者にも引き続き力を入れることを期待したい。 東京都内にある弘前市の「ひろさき移住サポートセンター東京事務所」は今年10月、開設から3年を迎えた。開設当初から職員3人が常駐し、首都圏などの移住希望者の相談に応じるなど支援に努めてきた。その結果、3年で相談件数は500件以上に上り、実際に移住した人は60人を超えた。 相談件数と移住者の人数からもうかがえる通り、移住支援のニーズは確実に存在しており、今後もますます高まるとみられる。内訳を見れば、形態もUIJターンとさまざまで、理由もそれぞれ異なっているはず。幅広いケースに対応できるよう、支援の拠点としてノウハウを一層蓄積していってほしいと思う。 移住といえば、かつては老後の生活をより有意義にするための一手段といったイメージが強く、「田舎暮らし」を楽しもうという移住希望者も少なくなかった。しかし、昨今の事情はだいぶ異なる。例えば、年老いた親の面倒を見なければならないため、やむを得ずUターンするといった場合も珍しくなくなった。 それでも、少子高齢化や人口減少の急速な進展に悩む地方にとっては、「戻ってきてくれる人がいれば、ありがたい」というのが正直なところではないか。受け入れる側としては、せっかく戻ってきてくれた人たちに、できるだけ充実した生活を送ってもらいたいとも考える。 Uターン者にとって、Uターン後の充実した生活とはどんなものなのか。当然、人によってさまざまであろうが、Uターン者にUターンを促進する場により多く参加してもらう―というのはどうだろうか。 今月29日には東京都内で、弘前圏域の温泉をテーマの一つにした移住セミナーが開かれる予定で、ゲストの一人としてUターンした青森市(旧浪岡町)出身の男性が参加するという。男性は温泉ソムリエの資格を持ち、同圏域の温泉の魅力を説明することになっている。 この男性は、一度県外に出て本県の魅力を知った一人のようだ。県内で暮らす高校生の頃は温泉に特別興味があったわけでもないようだが、Uターンして地元の温泉の豊かさを実感した。似たような思いを持つUターン者は少なくないのではないか。 温泉のほかにも県内には人を引き付けるものがたくさんあるだろう。これらの魅力をUターン者ならではの視点で伝えてもらい、新たな移住につなげる―といった好循環をつくることができないか、移住促進に取り組む県内関係者には知恵を絞ってほしい。
安倍晋三首相の在職日数は20日で通算2887日となり、戦前に3回政権を担った桂太郎を抜き、歴代最長となった。経済最優先の路線が底堅い支持を集めるとともに、「安倍1強」体制を構築したことが大きな特徴と言えるだろう。一方で、長期政権の「おごり」を指摘する声も少なくない。 首相は2006年9月に戦後最年少の52歳で第1次政権を率いた。「戦後レジームからの脱却」を掲げたものの、相次ぐ閣僚辞任や自身の健康悪化もあり、わずか1年で退陣。旧民主党から政権を奪還し返り咲きを果たした12年12月以降は国政選挙で連戦連勝の成績を収め「安倍1強」体制を築いた。1次政権の反省を生かして経済重視を前面に打ち出し、有効求人倍率や堅調な株価などの成果を掲げ、最近も40~50%台の高い支持率を維持している。 ただ、長期政権ゆえの弊害も目立つ。学校法人森友学園への国有地売却に絡んでは、財務省の決裁文書改ざんが発生。国会を欺く行為にもかかわらず、閣僚が政治責任を取ることはなかった。加計学園問題も含め、野党による徹底追及をかわし続け、結果として国民が納得する十分な説明を尽くしたとは言い難い。 9月の内閣改造後、わずか約1カ月半で2人の重要閣僚が相次いで辞任に追い込まれた事態も、政権の緩みを印象付けたといえる。 首相が安定的に政権を運営する一方、残念ながら国会論戦からは緊張感が消えた。世論調査では、安倍内閣への支持率は底堅く推移しているものの、政権に不満はあっても「他に適当な人がいない」という消極的理由が多くを占めている。 自民党総裁としての残り任期は2年。首相は憲法改正など宿願達成に意欲を示すが、先行きは見通せない状況だ。任期中の解決を目指す北朝鮮による日本人拉致問題やロシアとの北方領土交渉も解決のめどはたっておらず、手詰まり感も漂う。 ここにきて新たに浮上した首相主催「桜を見る会」の問題をめぐっては、首相の地元後援会関係者らが大勢招待され、全体の招待者数も大幅に増えていることが分かり、野党は「公的行事を私物化するものだ」と攻勢を強めている。 政府は当初、「問題ない」との姿勢を示していたが、来年の桜を見る会の中止を急きょ発表。問題の沈静化で幕引きを図ろうとしたのかもしれないが、桜を見る会の前日に地元関係者を招いた夕食会も含め、公選法違反や政治資金規正法違反に該当する疑いも指摘され、疑念や批判は強まるばかりだ。 野党側は衆参両院予算委員会の集中審議開催を求めている。どのような形にせよ、首相は説明責任を果たす必要があろう。史上最長の首相であればこそ、改めてその政治姿勢が問われている。
国の文化審議会は、弘前市の三つの庭園を名勝指定するよう萩生田光一文部科学相に答申した。津軽特有の庭園の流派として知られる大石武学流で造られた「成田氏庭園」(同市樹木)、「對馬氏庭園」(同市折笠)、「須藤氏庭園」(青松園、同市前坂)で、指定となれば大石武学流庭園の名勝は全部で7件となる。津軽地方で脈々と受け継がれてきた庭園文化を象徴する庭園の数々が、国の貴重な“宝”となるわけで、実に喜ばしい。 大石武学流は、江戸時代末から近代にかけて津軽一円に広がった本県独自の流派。座敷から眺める「座観」の形式が多く、ダイナミックに石を配し、庭の奧へと鑑賞の軸線を作るのが特徴とされる。流派の様式を踏襲する庭園は、津軽一円に400以上あるといわれる。発祥や由来には不明な点が多いが、作庭技法は代々宗家によって受け継がれてきた全国的にも珍しい流派とされる。 これまでに盛美園、清藤氏書院庭園(平川市)、瑞楽園(弘前市)、金平成園(黒石市)が名勝指定を受けている。これらの庭園は、富裕層が施主の大規模なものだが、今回は、医師やリンゴ農家の庭として作られた、比較的小規模なものが、選ばれている。 計算された岩木山の借景や効果的な石を配置しての奥行きある空間の創設、秩父宮雍仁親王の耐寒演習行軍にちなんだ記念堂や記念碑の設置など、三つの庭園にそれぞれの特徴があり、庭としての美しさはもちろん、作庭に至る時代背景などもうかがうことができる大変貴重なものと言えるだろう。先行して指定された名勝と合わせて俯瞰(ふかん)して見れば、大石武学流庭園がなぜ津軽地方で隆盛を得たのか、その変遷や歴史的な背景など、見えてくるものがあるかもしれない。 この津軽で独自に昇華した庭園文化を後世に残していくため、その保存、活用について地域全体で考え、行動に移していく必要がある。庭園の魅力周知や観光資源としての活用については、取り組みも目立つようになってきた。例えば、黒石市の金平成園では、大石武学流庭園の魅力を広く知ってもらうために、一般公開を春、夏、秋の年3回行っており、多くの人でにぎわっている。平川市の盛美園では同市観光協会が主催し、大型クルーズ船の寄港に合わせて、茶会を開いて好評を博している。弘前市では同流の庭園サミットなども開催された。 弘前市は、黒石市や平川市とともに広域の庭園巡りのモデルルートなどをまとめたガイドブックを作成している。インバウンドの目が本県に注がれる中、日本庭園は外国人観光客の興味をひく「和」の精神にあふれている。津軽の庭園を国内のみならず、海外の方にも多く見てもらいたい。庭園への関心がさらに高まれば、後世に向けた保存、活用の取り組みが一層深まるだろう。
弘前大学と県、弘前市が共同で進めている「産学官民一体型青森健康イノベーション創出プロジェクト」が、日本が目指すべき社会に向けた取り組みを表彰する「プラチナ大賞」最高賞の大賞・総理大臣賞に選ばれた。同賞を主催するのは全国の首長や企業経営者で組織するプラチナ構想ネットワークと同大賞運営委員会。元東京大学総長の吉川弘之氏が委員長となり、学識経験者、有識者が審査に当たった。本県のプロジェクトはこうした各方面の有識者に高く評価されたもので、長年の取り組みに敬意を表したい。 同賞が日本の未来のあるべき社会像として描く「プラチナ社会」は環境問題やエネルギーの心配がなく、雇用があり、あらゆる年代の人が生涯を通じて豊かに生き生きと健康で暮らせる社会と定義されている。今年はプラチナ社会の実現に向け、自治体や企業など47団体から50件の応募があった。その中での最高評価だ。全国に誇れる取り組みだと言える。 審査では、弘前大学が2005年から弘前市岩木地区の住民の協力を得て続けてきた大規模健診「岩木健康増進プロジェクト」で、15年間に延べ2万人分、2000項目に及ぶビッグデータを取得、それを基に、産学官民の連携でさまざまな疾患予防の研究や新産業の創出につながっていることが評価されたという。 本県では長年、短命県が当たり前のように受け止められ、健康寿命の延伸という目標も実現可能なものとは受け止められていなかったように思う。だが、弘前大学大学院の特任教授でCOI(センター・オブ・イノベーション)拠点長の中路重之氏が同賞審査会で述べた通り、各方面を巻き込んだ地道な活動を続けてきたことで現在は県内全40市町村が健康宣言をし、約100の小、中学校で健康授業を実施。県の入札の際にポイントが付く健康経営認定制度の認定企業として従業員の健康づくりに取り組む企業は約200社となり、地域や学校、職場で健康づくりのリーダーとなる健やか隊員や健康増進リーダーらの育成も進んでいる。 近年は全国の大学などと連携した研究や大手企業の大型投資、他の拠点間とのデータ連携も目立つなど、全国から注目されるプロジェクトに成長している。 大学だけでも、行政だけでも、成果を挙げることは難しかっただろう。産学官民が連携し、一体となって進めてきたことが功を奏した。もちろん、その底に弘前大学と岩木地区の住民による岩木健康増進プロジェクトの地道で継続した取り組みがあったことは言うまでもない。 本県では男性の平均寿命の伸び幅(2010~15年)が全国3位となり、野菜摂取量も増えるなど目に見える成果が出ている。県民の意識も着実に変化してきた。今後も産学官民の連携をさらに強力にし、県民だけでなく、全国の健康長寿に役立つ取り組みを期待したい。
先日11月13日は「うるしの日」だった。国内で特に目立った動きがあったわけではないが、SNS(インターネット交流サイト)では漆関係者が「漆の器で食事をしてみてはいかがでしょうか」と呼び掛けていたほか、「全国の飲食店で一斉に漆器が使われたら」と希望するツイートも目にした。 平安時代、文徳天皇の第一皇子惟喬これ(たか)親王が、漆の製法を虚空蔵菩薩から伝授された日―との伝説から、漆の良さを見直す日として日本漆工協会が1985年に「うるしの日」を制定している。 そもそも漆器の良さとは何か。金属やプラスチックとも異なる「触れた時のぬくもり」もあるだろう。また、職人が丹念に仕上げた作品には、漆器独特の品格や存在感を感じさせる艶がある。漆器は首都圏などでは正月など、特別な日に使われることが多いとも聞く。 一方、青森県民は日常的に漆器を使っていることが少なくない。漆器を日常生活に取り入れている豊かさを、われわれは自覚しているだろうか。その漆器とは無論、津軽塗である。かつて一大産業だった津軽塗のおかげで県民は、日常生活に漆器があることに対し、さほど違和感を抱いていない。 県民が「身近にあるもの」と感じている津軽塗は2017年、本県初の国重要無形文化財に指定された。現在、津軽塗の出荷量はピーク時の10分の1まで落ち込み、職人も減少傾向にある。今や津軽塗は「身近にあって当たり前」の存在ではなく、「守り伝えようとする人々の手で懸命に支えられている」存在になりつつあるのだ。 漆産業に欠かせない漆すら、決して「あって当たり前」と呼べない状態にある。国内で使用される漆のうち、国産はわずか3%足らずで、残りは中国産でまかなわれている。国重要無形文化財に指定された津軽塗がある本県では、県中南地域県民局が中南津軽「うるしの森づくり」推進事業に取り組み、漆資源の確保に向けた苗木の安定供給を目指している。 このような現状も踏まえて15~17日、漆を取り巻く環境や、漆による地域活性化などをテーマにした「漆サミット2019in弘前~これからの国宝・重要文化財の保存・修復」が弘前市などで開かれ、研究者らがさまざまな角度から漆の魅力を発信する。 楽観視できる状況にない漆産業を応援するため、11月13日は津軽塗を使う日にできないものだろうか。飲食店で積極的に用いればよいアピールになるだろうが、店側の負担もある。せめて、家庭で意識的に津軽塗を使う日として呼び掛けてみてもいいのではないだろうか。 特別な日に使う品格を備えながら、一定の配慮があれば日常的に使うことへの耐久性を備えているのが津軽塗だ。漆器を使う豊かさを、もっと楽しもう。
例年4月に東京都内の新宿御苑で開かれている首相主催行事「桜を見る会」が、来年度は中止されることが13日に決まった。 同会については、8日の参院予算委員会で、安倍晋三首相の後援会関係者が多数招待されていると共産党が指摘。主要野党は安倍首相が「地位を利用し、国の公的行事で接待をしていたと受け取られかねない」などとして合同チームを発足させ、「私物化」疑惑を追及し始めたばかり。政府は開催要項の見直しを検討する考えを示し、自民・公明両党も招待者の範囲や選定基準を明確にする考えで一致した矢先だった。 菅義偉官房長官は中止の理由として、招待する基準の明確化を図ることなどを挙げた。自民党内からも「正当性が問われている」と中止論が浮上したが、政府の決定は批判の早期沈静化を意図したにしても急過ぎる。政府が事態の深刻さを認識している表れとも受け取れるが、規模縮小などの対応でもしのげそうなものをなぜ中止にしたのか釈然としない。 この問題で浮かび上がったのは、招待者の選定過程における首相官邸・与党の関与の強さだ。 招待者は、開催要項に基づき内閣官房が取りまとめるが、その際、各省庁に加えて首相官邸や与党にも推薦を依頼していたことが分かった。長年慣行化していたという。自民党国会議員らが、招待者の推薦枠を持っていたことを証言している。 桜を見る会は、文化・芸能、スポーツ、政界などで功績・功労のあった人を招き、日頃の苦労をねぎらい懇談するのが目的。それ自体に疑念はなく、招待者にとっては名誉であろう。 同会は東日本大震災などで中止になった年を除き1952年から続く恒例行事。中止は政治の責任が大きい。これを機に招待基準から不透明な要素を一掃し、所期の目的に近づけるよう大いに議論し見直せばいい。 ただ、来年度の開催中止や次回以降の開催要項の見直しは、説明責任を果たしたことにも疑惑を不問とする理由にも当たらない。 桜を見る会に関する参加者と支出額がここ数年で急増しているのも気になる。野党が入手した内閣府資料によると、今年度の参加者は約1万8200人で、支出額は約5500万円。5年前の2014年度は約1万3700人、約3000万円だった。いずれも安倍首相の在任期間に当たる。会の在り方はこの点でも妥当だっただろうか。 13日の衆院厚生労働委員会では野党側から、18年度の桜を見る会について安倍首相の事務所が参加希望者を内閣府に仲介していたことをうかがわせる「案内状」が示された。事実であれば、この点でも政治のモラルが問われよう。
北朝鮮のものと思われる漂流・漂着船が近年、本県日本海側でも急増していることを受け、第2管区海上保安部と青森海上保安部は今月4日から、鯵ケ沢町を拠点に沿岸部の監視活動などを行う青森機動監視隊(MMP=ダブルエムピー)を現地に派遣、活動を開始した。漂着船に特化したMMPは国内初。これにより陸のMMP、海の巡視船、空の航空機が連携し、一層の監視強化が図られることになる。9日には早速、中泊町の折腰内海水浴場付近海岸に漂着した木造船に対応した。木造船が漂着する日本海側自治体の要望が実った結果でもあり、今後も地域住民の不安を払拭(ふっしょく)するための活躍を期待したい。 船が漂着しただけでも処分方法や費用などが問題となる。まして、北朝鮮籍の船となれば、拉致など過去の経緯から、乗り捨てられた工作船であるとか、その船に乗っていた何者かが既に上陸し、わが国にとって不利益な行為をしているのではないか―といった不安が付きまとう。実際、昭和40~50年代には多数の工作船の目撃や工作員が上陸する事案があった。それだけに、一定期間とはいえ、地元に常駐し監視活動と漂着後の対応を行ってくれるMMPの存在は自治体や地域住民にとって心強い。 漂着船事案は海岸線が長い深浦町、つがる市の方が多いわけだが、鯵ケ沢町をMMPの拠点とする意味は、日本海側中心部に位置し、南北に移動しやすい地勢もある。仮に深浦町で事案が発生した場合、青森海保がある青森市から陸路で移動した場合、3時間前後を要していたが鯵ケ沢町を拠点に移動すれば、これが1時間前後と大幅に短縮され、まさに迅速対応となる。 青森海保などはMMP派遣と併せて、地元自治体との情報共有や連携を強化するため、鯵ケ沢町役場に海上保安官連絡所を設置した。非常駐ではあるが、定期的に保安官が訪れる。海難救助を目的とした連絡所は県内漁協にも数カ所設けられているが、役場や役所への設置は県内初となる。海保と自治体との連携が密になれば、今後の漂着船対応などにも良い意味で変化が出ることも期待されよう。 こうした海保側の対応を歓迎する声が多数ある一方で、ある自治体の首長からは「もう少し大きな仕組みとして、絶えず巡視船が動ける態勢づくりにも期待したい」との意見があった。巡視船は日常的に日本海沖の監視活動を続けているとはいえ、その発着拠点が日本海側にはない。例えば、絶えず巡視船が活動できる仕組みとして、日本海側に海保の出先機関を置くといったことも検討してほしい。陸奥湾に面する青森市、太平洋に面する八戸市には拠点がある。海を隔てて海外と接する日本海側にも拠点があっておかしくはない。地域の一層の安全安心確保のため一考願いたい。
米軍三沢基地所属のF16戦闘機が6日、六ケ所村の私有地に模擬弾を落下させた。しかも、米軍が防衛省に報告したのは翌7日という。基地と地元自治体は信頼関係の上で共存しているはずだが、人的被害がなかったとはいえ、米軍のこうした対応は、信頼を著しく損なうものであり、憤りを禁じ得ない。 防衛省によると、6日午後6時35分ごろ、訓練中のF16が三沢市と六ケ所村にまたがる「三沢対地射爆撃場」の西約5キロの牧草地に模擬弾1発を落とした。模擬弾にはコンクリートが詰められ重さは約230キロ。深さ約3メートルの地中に埋まっていたという。火薬が入っていなくても、これだけの威力があるのだ。現場の5キロ圏内には学校などもある。もし当たっていたらどうなっていただろうか。 落下が明らかになった7日、三村申吾知事が「一歩間違えれば大変な惨事」、菅義偉官房長官は「あってはならないもの」と述べ、地元六ケ所村と三沢市の首長も一斉に非難した。民有地に落下させただけでも周辺住民に大きな不安を抱かせるが、米軍が防衛省に報告したのが翌日朝になってからだったため、防衛省から関係自治体への情報提供も当然、それ以降になった。こうした米軍の姿勢が、疑問と不信感を増幅させた。 三村氏は8日午前、防衛省に河野太郎防衛相を訪ね、再発防止策が講じられるまでF16の模擬弾訓練を中止させるよう要請するとともに、事故の連絡が発生翌日だったことを批判した。これに対し河野氏は「(米軍に)原因究明、再発防止策をしっかり講じるよう申し入れる」とし、報告が遅くなったことについては「申し訳ない」と謝罪した。米軍は防衛省に当面の訓練中止を伝えてきたというが、抗議をどれだけ深刻に受け止めているのか疑念が残る。 三沢基地の米軍機は今年1月、部品の一部を八甲田の山中に落下させたほか、エンジントラブルで青森空港に緊急着陸。翌2月は三沢飛行場でオーバーランし、民間機の運航に影響を及ぼした。6月には北海道で低空飛行(米側は最低安全高度に注意して飛行と回答)し、校庭の児童が待避した。実害があったものでは、昨年2月に小川原湖へ燃料タンクを投棄し、漁業に大打撃を与えた問題が記憶に新しい。 防衛省や県などはその都度、抗議し再発防止を求めてきたが、こうした問題は後を絶たない。報告遅れは他基地でもある。昨年は嘉手納基地(沖縄県)に所属するF15戦闘機の部品がなくなったが、日本側に報告があったのは6日も後で、防衛省は「迅速な情報提供を要請している」としていた。それなのに、また「迅速な情報提供」はなかったのだから、不信感を抱いて当然だ。米軍は姿勢を改めない限り、地元の理解が得られないことを肝に銘じなければならない。
東京五輪のマラソン会場が札幌市に変更されることが決まった。五輪期間中は酷暑が予想され、選手や観客、運営ボランティアの暑さ対策が十分か不安は尽きない―と、この欄で指摘し3カ月。賛否はあるようだが、関係者全員の安全が最優先であることは論をまたない。他競技についても引き続き安全確保を第一に対策を講じてもらいたい。 東京五輪のマラソンは女子が8月2日、男子が同9日、競歩は7月31日と8月7、8日。ちなみに今年8月2日の東京都の最高気温は35・1度、昨年は37・3度だった。天候にも左右されるが、むしろ雨の日は湿度が上がり70%を超す。熱中症の危険度が最高レベルとなる温度であり、湿度だ。 組織委員会は暑さを考慮して当初の計画からマラソンが午前6時、男子50キロ競歩が午前5時半のスタートに早められるなどの対策を取った。東京都も暑さを軽減する路面の塗装など工夫したが、根本的な解決にならないことは関係者誰しもが分かっていた。 国際オリンピック委員会(IOC)が急きょ会場変更を決めた背景には、9月から10月にかけてドーハで開催された世界選手権のマラソンで、気温30度超、湿度70%超の環境下で棄権者が続出したことがある。 実際、組織委の森喜朗会長は「IOCのバッハ会長は(ドーハと)同じことが東京で起きたらIOCと東京大会が批判の渦に巻き込まれると考え、会場変更を決意した」と明かす。 つまりIOCは五輪の商業価値を守るため、「アスリートファースト」を楯に強引に変更を決めたということになる。IOCの意向に沿って準備を進めてきた組織委や都、関係者の努力を無視した、あまりにも場当たり的な判断だ。 会場変更の意思決定に不透明さは残るが、選手、観客、ボランティアの安全を考えれば、札幌開催に向け全力で準備するしかない。ただ、残り10カ月という短期間での準備に課題は山積している。 コースは毎夏行われている北海道マラソンが参考となるようだが、コース決定までにはさまざまな段階を踏む必要があり、沿道の警備や輸送の計画も白紙から検討することになる。 もちろん東京を想定して準備を進めてきた選手や各国チーム関係者も、新たなコースに関する情報をゼロから収集することになる。 さらにはマラソンの発着点だった新国立競技場のチケットを購入した人たちはどうなるのか。女子マラソンは陸上競技の決勝種目とセット販売されており、単に払い戻すだけでは済まない。 繰り返し指摘するが、選手や観客、ボランティア全員が安全に大会を終えてこそ、評価に値するはずだ。さらなる安全確保への努力が求められている。
2020年度に始まる大学入学共通テストでの実施が予定されていた英語の民間資格・検定試験の導入見送りが決まった。文部科学省は、24年度をめどに、新たな制度構築に向け、抜本的な見直しを行う考えだ。 英語民間試験の導入に当たっては、さまざまな問題が指摘されてきた。当初予定された開始時期の来年4月を目前に控えながらも、問題に対する抜本策が示されないまま導入へと突き進んできた。今回の突然の方針変更は、教育現場などに大きな混乱を招く結果となったが、予定通り実施していれば、さらなる混乱は避けられなかっただろう。いったん立ち止まって、公平な試験の在り方をしっかりと検討し直してもらいたい。 当初予定された民間試験は、英語の「読む・聞く・話す・書く」の4技能を測る目的で、文科相の諮問機関「中央教育審議会」の答申を受け、文科省が17年7月に民間試験の活用を盛り込んだ共通テストの実施方針を策定、大学入試センターが実施団体を認定するなど準備を進めてきた。 ただ、民間試験ごとに試験会場や難易度などが違うほか、1回2万5000円程度かかる受験料や、離島やへき地に住む受験生は交通費や宿泊費など経済的負担が大きい点などが問題とされ、住む地域や親の収入によって格差が生じかねないといった問題が指摘されてきた。 地方の実情を無視し、受験生をないがしろにした制度と言わざるを得ず、客観的な試験結果の評価の在り方が不透明なほか、受験機会の公平性が保たれないような仕組みは、当然ながらあってはならない。 それでも文科省は、対策を打ち出せないまま断行しようとしてきたが、萩生田光一文科相が「身の丈に合わせて頑張って」と、経済状況による教育の格差を助長するかのような発言をしたことで制度の不備が露呈し、批判が噴出。現行制度での実施による混乱は不可避との判断から、導入見送りが決まったとみられる。 当初から多くの問題が指摘されていたにもかかわらず、それらを放置したまま突き進み、導入開始が迫ったこの時期になって突然見送りを決め、教育現場に大きな混乱を招いた責任は大きい。高校生の進路を左右する受験制度決定の在り方に対して不信感が高まったのも事実だ。 そもそも、「なぜ民間試験の導入が必要なのか、政府のビジョンや目的が全く伝わっていない」との指摘もある。現場からは「一番困るのは今後どうなるか決まらないこと」との声も上がり、今後の動向に注目が集まる。 導入を見送ったからには、問題をきちんと検証し、大学入試英語の新たな制度がどうあるべきなのかを真摯(しんし)に議論して、不公平感や格差を招かないような仕組みを構築してもらいたい。
安倍晋三首相が韓国の文在寅大統領と対話した。両首脳の対話は約1年ぶりとなる。安倍首相は元徴用工問題に関し、日韓請求権協定に基づき解決済みとの立場を伝え、両国間の懸案について、従来通り外交当局間の協議によって解決を図る考えを示したとされる。同行した政府高官によると、今後の日韓首脳会談などに関しても具体的なやりとりはなかったとした。一方、韓国側の発表では、文大統領が首脳会談も念頭に高位レベルの協議の検討を提案し、安倍首相は「全ての可能な方法を通じて解決法を模索するよう努力しよう」と答えたとしている。 報じられた内容を見る限りでは、両首脳とも両国の関係が重要であるという点では一致したものの、互いの立場や原則を述べるにとどまったようで、冷え込んだ日韓両国の関係改善が進む兆候は、いまだ見えないように受け止められる。 だが、今回の対話を報じる日本、韓国双方のスタンスに、温度差を感じたのも事実だ。韓国側は今回の対話について、文大統領が、両国首脳による会談も視野に入れた高位レベルでの協議を提案したとしており、これまでに比べ、関係改善に積極的な姿勢がうかがえる。 文政権は、大統領側近で法相への起用を強行した曹国氏の辞任などを背景に支持率が低下。両国の関係が冷え込む中で行われた軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄決定では、米国が懸念を表明するなど、内政、外交ともに厳しい状況にある。今回の対話で具体的な進展は見られなかったが、文政権が苦境を打開するために、外交的な成果を挙げようと、日本との関係改善を模索している。そのような韓国の思惑が透けて見える。 有効な手だてが見えない日韓関係の動きの中で、首脳会談は状況を劇的に変化させる可能性を持つ重要なカードだ。首脳会談の動きそのものは最近、関係者間でささやかれ続けているが、それだけに仮に実施となれば、協議するべき内容が伴うか、見極めが重要だ。概して日本政府の対応が慎重に映るのは「会うだけ」の会談では成果が乏しいと判断しているからに他ならないだろう。 輸出管理厳格化の応酬やGSOMIAの破棄決定などにより、両国間の関係悪化の影響は貿易、安全保障分野にまで拡大している。GSOMIAの破棄後は、北朝鮮が間隙(かんげき)を突くかのように弾道ミサイルの発射を繰り返すなど、東アジア情勢は不安定さを増している。関係悪化は両国の国民感情にまで影響し、韓国からの訪日観光客は大幅に減少している。 関係悪化が長期に及ぶ場合、東アジアの不安定化が加速し、両国経済への影響が深刻の度を増すことは容易に想像できる。首脳会談に拘泥するつもりはないが、問題のさらなる長期化を避けるためにも両国政府には事態を打開するための次の一手が必要だ。
ナラ類の広葉樹が病原菌の影響で枯死する伝染病「ナラ枯れ」が深浦町で深刻化している。県と国の調査によると、2019年シーズン(19年7月~20年6月)の被害木は10月25日現在、1万3712本。過去最悪だった18年シーズンの5・7倍にも上り、事態の異常さがはっきり分かる。 県内のナラ枯れは10年に同町大間越地区で初めて確認され、11年以降はなかったが、16年に再び同地区や十二湖周辺で見つかった。以降、被害木は急激に増加。18年シーズン(18年7月~19年6月)は2409本に上った。被害木が確認される範囲も拡大しており、北上している状況という。 県と国による19年シーズンの被害報告によると、被害木の内訳は民有林8368本、国有林5344本。全体の9割弱に当たる1万1980本が旧岩崎村に集中し、全体の9割以上がミズナラだった。被害範囲は南端が県境の大間越地区、北端は風合瀬地区と海岸線沿いに広く及んでいる。 被害が急激に拡大した理由は何か。ナラ枯れは、害虫のカシノナガキクイムシが運ぶ病原菌「ナラ菌」が幹の中でまん延して道管を詰まらせ、通水障害が起きることで発生する。県が今シーズンに行った調査では、カシノナガキクイムシは昨シーズンの4倍近い430匹が捕獲された。 被害拡大の原因について、有識者の一人は▽昨冬は暖かく、カシノナガキクイムシが死なずに越冬したとみられる▽今年は平年より夏の気温が高い上に雨が少なく、ナラが弱って被害拡大を招いた―の2点を挙げている。 害虫の繁殖については、天候や樹木の状態などさまざまな要因が影響するとされるほか、隣県からの侵入も考えられるといい、状況を予測するのは容易ではない。さらに、ナラ枯れ発生の背景には、ナラ類の大径木化があるとの指摘も以前からある。幹が太くなるほど害虫が繁殖しやすくなるため、ナラ枯れの発生を防ぐには、ナラ類を適度に活用して森林を若返らせることも必要なようだ。 いずれにしても、このままでは被害はさらに拡大してしまう。関係機関は、被害木の伐倒・くん蒸処理を行うほか、合成フェロモンを利用してカシノナガキクイムシを誘引、殺虫する「おとり丸太法」も行う方針という。まずは基本的な対策を徹底したい。 ナラ枯れの拡大は生態系や森林の防災機能に悪影響を及ぼすほか、景観を損なうため観光にも打撃を与える。さらには、ドングリの凶作などを引き起こし、クマの目撃件数増加にもつながっているとの指摘もある。とにかく影響は広範囲に及ぶ恐れがある。大切な森林を守るため、関係機関が一丸となって取り組むことを改めて求めたい。
県が新たに、岩木川水系の平川や腰巻川、旧十川など8河川について、想定される最大規模の降雨で河川が氾濫した際の「洪水浸水想定区域」を指定、公表した。県は2020年度までに洪水で相当な損害を生じる恐れがある35河川の浸水想定区域を公表するとしており、これで公表済みの河川は26河川になった。 台風19号による記録的な大雨で、東日本を中心に大きな被害が出たばかり。幸いにも本県の被害は限定的だったが、全国では多数の死傷者が出たほか、3万棟を超える建物が全壊や床上・床下浸水などの被害を受けたとされている。各地で道路の陥没や土砂崩落で孤立する集落も出た。適切なタイミングで適切な行動を取らなければ命に関わるのだと、改めて強く認識した人も多かったと思う。 洪水浸水想定区域はこれまでの想定の「50年に1度の豪雨」を「1000年に1度」に見直したものだが、今や「50年に1度」の想定では心もとない。今後、県が指定、公表した洪水浸水想定区域を基に、各市町村で洪水ハザードマップの策定が進められるが、自分の居住地の状況を一度しっかり確認しておきたい。 浸水想定区域図は県のホームページで確認できるが、想定される最大の浸水深は平川と腰巻川で7・9メートル(大鰐町長峰沢田)、後長根川で5・5メートル(弘前市三世寺)、旧十川、金木川、松野木川では5・2メートル(五所川原市金木町)、堤川と駒込川では4・5メートル(青森市筒井)となっており、一般的に家の1~2階が浸水する深さだ。万が一の際はどこに避難すればいいのか、家族全員が確認し、情報を共有しておくべきだろう。浸水面積も従来の想定より大幅に広がっている。水深が低い地域では簡易的な土のうを準備するなど、事前に被害を軽減するための対策を検討することもできるはずだ。 配慮が必要な人らの命をどう救うべきかということも今後の重要な課題だ。今回の台風19号では体の不自由な人や、障害があって集団での生活になじめなかったり、ペットを飼っていたりと、さまざまな理由で避難をちゅうちょする事例が報じられている。結果として命を落とした人もおり、痛ましい限りだ。 県の洪水浸水想定区域の公表を受け、各市町村は社会福祉施設などの要配慮者の利用施設を地域防災計画に記載し、施設の管理者は避難確保計画を作って避難訓練を行うなど、防災・減災を図るとされているが、施設利用者以外の配慮が必要な人の対応についても、考えるべき時代だろう。もちろん、当事者もいざという時の自分と家族の身の守り方について、真剣に考えてもらいたいと思う。 大きな災害に見舞われるたびに、われわれは課題を発見し、学んできた。災害はいつ来るか分からず、平時の備えが何よりも重要だ。まずは自助、自分自身の行動を考えることから始めてみたい。
那覇市の世界遺産、首里城跡で31日、首里城正殿と北殿、南殿など7棟を焼く火災があった。正殿は太平洋戦争中の沖縄戦で焼失しており、今回焼けたのは1992年に復元したもの。復元とはいえ、沖縄県のシンボルであることは変わらず、焼け落ちる姿が沖縄戦を知る同県民の目にどう映ったのだろうかと考えると、心が痛む。 午前2時40分ごろ、正殿付近で煙が上がっていると119番があった。消防によると正殿の向かって左側から火が上がり、木造の正殿を覆う激しい炎は強い風にあおられてコンクリート造の北殿、南殿、奉神門、鎖之間(さすのま)、黄金御殿(くがにうどぅん)、二階御殿(にーけーうどぅん)に次々と燃え移り、鎮火するまで11時間を要した。首里城のある首里城公園では10月27日から「首里城祭」が開かれており、31日はイベント会社が会場設営のため屋外で照明などの機材を整備し、午前1時半ごろ退去。以降に敷地内にいたのは警備員だけだったという。警察と消防は1日にも実況見分し、出火原因などを調べる。 正殿などが焼け落ちる様子を、ぼうぜんと見守るしかできなかった付近住民からは「あまりに衝撃が大きすぎて涙が止まらない」「沖縄の人にとって大事なものなので悲しい」といった声が聞かれた。中には沖縄戦を思い起こす人もいたのではないだろうか。煙の臭いが充満する現場を視察した城間幹子市長は「言葉もない」と語った。沖縄県民が抱く喪失感は想像できないほど大きいはずだ。本県でも06年に弘前城の子櫓(ねのやぐら)を、招魂祭の花火で焼失している。焼け落ちる櫓を直接、目にした当時の人は、現在の沖縄県民と同じ思いだったのではないだろうか。 文化庁は今年4月、パリの世界遺産・ノートルダム大聖堂火災を受け、世界文化遺産や国宝・重要文化財の防火管理状況を緊急調査し、建造物全体の約2割で老朽化による消火設備の機能低下の恐れが判明。首里城跡は世界遺産だが、正殿などは文化財に当たらず、この調査対象外だった。建物外側に延焼を防ぐドレンチャー設備を有すが、消防法でスプリンクラー設置義務のある建物に該当せず、内部にスプリンクラーはなかった。 未明の火災でけが人はいなかったが、沖縄を代表する観光名所、しかも祭り会期中である。出火時間によっては大惨事になっていたかもしれない。復元とはいえ多くの観光客が訪れており事実上、世界遺産の一部と言えるだろう。文化庁は首里城火災後、文化財の防火設備の点検、確認を改めて求める通知を出したが、文化財だけ保護すればいいわけでないことは今回の火災で分かったはず。文化財に準ずる性格を有する施設に対しても、適切な防火対策を義務付けるなど、消防法と併せて見直すことが必要ではないか。
総務省消防庁が、ガソリンスタンドでガソリンを携行容器に詰めて販売する際、購入者の身元や使用目的を確認するよう義務付ける方針を決めた。7月に発生した、京都府のアニメ制作会社「京都アニメーション」の放火殺人事件を受けた規制強化策として、再発防止につなげる狙い。関係省令を改正した上で来年2月1日の施行を目指すこととしている。 ガソリンは揮発性や引火性、燃焼力が強く、火を付けた場合は瞬時に燃え広がる危険性がある。それだけに取り扱いには慎重さが求められ、法令などで販売に当たっての項目が定められている。携行缶も材質や容量などの規格が消防法で定められている。このため、ガソリンを買い求める顧客が自ら容器に給油したり、詰め替えしたりすることができない。携行缶を使ってガソリンを購入するのは、主に農業機械用の燃料とする農家の人たちだ。 携行缶を使って購入したガソリンが結果的に大量殺人を招いた事件に使われたことを鑑みれば、使用目的などの確認を義務化することは当然であろう。改正案によると、ガソリン購入者の身元は運転免許証などの身分証で確認することを基本とする一方、身元が明らかな常連客については、確認作業を省略化できるようにするという。事件とは無関係であり、仕事として日常的にガソリン購入のため携行缶を使用する人にとっては手間が増えることになる。しかし、誤った使用目的を持つ何者かによる、ガソリンを利用した犯罪を未然に防ぐためには、やむを得ない側面もあると思われる。 ガソリンを凶器とし、結果多くの人が犠牲になった事件は、これまでも数多く引き起こされてきた。2000年6月に宇都宮市で発生した「宇都宮宝石店放火殺人事件」では6人が犠牲になった。翌01年5月に弘前市で発生、5人もの命を奪った「武富士弘前支店強盗殺人・放火事件」はガソリンを含む混合油を犯行に使用したものだった。同年9月には、名古屋市で3人が犠牲となった「名古屋立てこもり爆発事件」も起きている。 こうした事件を受けて、これまでもガソリンの取り扱いに関する法改正が行われてきた。例えば、名古屋の事件後にはポリ容器などへのガソリン販売が規制された。今回の法改正も「京アニ事件」を受けての対応である。 しかし、これまでの「何かあったから」の法・省令改正は行政対応が後手に回ったと見られても仕方あるまい。平成以降最悪の、36人もの焼死者を出した京アニ事件のことを考えれば、過去の対応に抑止力があったのか疑問も残る。消防庁など関係機関には、携行缶を含む現行のガソリン販売の在り方にどのような問題点、課題があるのかを調べ上げた上でさらなる対策を検討し、二度と悲惨な事件が発生しないよう努めてもらいたい。
弘前大学が、AI(人工知能)を活用して津軽弁を標準語や多言語に翻訳するシステムの開発に当たり、基となる津軽弁の例文募集を開始した。12月まで、ウェブページ上で受け付け、3万例文の収集を目指している。 同大は2017年にシステムの研究を開始し、これまで医療関連を中心とした約3000例文を収集している。もっとも、一言語の翻訳・変換の学習には最低20万程度の例文が必要といい、開発はまだ道半ばのようだ。 津軽弁はその衰退が指摘されて久しいが、その一方で、県外出身者らとの意思疎通の障壁にもなり続けている。両者の気持ちの行き違いが「おかしみ」あるいは「笑い」のレベルにとどまっていればいいが、企業の商談・クレーム処理や、生命や健康が絡む医療・福祉の現場ではそれでは済まされない。特に災害時の避難誘導では素早く正確に相手に伝わることが求められる。外国人観光客への対応にはホスピタリティーの観点からも津軽弁の翻訳機能は有用であり、将来的には外国人労働者への対応も想定しなければならない。 このシステムがいつから一般向けに供用されるかは未定だが、スマートフォンやタブレットといった携帯端末で使えるアプリになればその恩恵は大きく、かつ多方面に及ぶ。文章だけでなく音声認識機能にも対応すればなおさらだ。早期の供用を望みたいし、楽しみでもある。 同じ津軽に生まれ育った人間でも、世代間や地域間で通じる言葉・通じない津軽弁がある。翻訳システムは、そうしたギャップを埋める存在としても一役買うだろう。 今回の例文募集は、一般市民を対象に「生きた」津軽弁を募った点がポイントだろう。われわれが普段使っている言葉をウェブページに書き込めば、翻訳システムの変換精度がより向上することにつながるのだ。複雑な思考も専門知識も求められない。 その意味では、公募で寄せられた例文は一般市民が協力して作り上げる一つの津軽弁データベースである。成果としての翻訳システムのみならず、その作業の過程は、津軽に暮らすわれわれが言葉を守り、風土を大切にすることにもつながるのではなかろうか。 変換システムの位置付けは、一義的には社会生活を想定した実用的な道具だろう。高木恭造や一戸謙三らの津軽方言詩が表現する津軽の風土やそれぞれの詩情をどこまで再現できるかにも注目したいが、そもそもそれを求めること自体が酷なのかもしれない。 ただ、翻訳システムの存在は、県外出身者が津軽弁に関心を抱いたり、津軽出身者が郷里を見詰め直したりするきっかけになり得る。そうした副次的効果にも期待したい。
東京青森県人会(佐藤英明会長)主催の「2019青森人(あおもりびと)の祭典」が16、17日の2日間、東京・上野公園で開かれた。17年に県人会創立70周年を迎えたのを節目に、18年から“東京の玄関口”であり、集団就職で上京した会員にとって思い出深い地でもある上野を会場に、装い新たに船出した祭典。延べ約13万人の来場客に本県のグルメや観光地、伝統芸能の魅力を発信した。 佐藤会長は祭典開催の意義について、「来場客に青森を知ってもらい、首都圏との距離を近づけること」と説く。 祭りや伝統芸能、特産品などを通じて本県の魅力に触れ、「もっと青森を知りたい」「青森に行ってみたい」と思ってもらえれば、交流人口の増加につながるほか、UIJターンといった移住の後押しになる可能性もある。古里の最重要課題である人口減少に対し、わずかであっても寄与することは、県人会の理念そのものだと訴える。 祭典は昨年に引き続き「観(み)て」「ふれて」「食べて」「歌って」をコンセプトに、メインステージでは黒石よされやねぶた囃子(ばやし)、津軽三味線や手踊り、民謡といった祭りや伝統芸能が次々と披露された。 また物産販売会場では「嶽きみ天ぷら」や「黒石やきそば」、リンゴ、ニンニク、「青天の霹靂(へきれき)」の新米といった、本県が誇る特産品や加工品を扱う計40ブースが来場客を出迎えた。 一方、来場客に目を向ければ、都内随一の観光スポットである上野公園が会場とあって、修学旅行生や海外観光客が数多く訪れた。 台東区のホームページによると上野公園の年間観光客入り込み数は1千万人を超える。昨年もそうだったが、会場にはアジアから欧州までさまざまな国の観光客が訪れ、次々と披露される伝統芸能を撮影したり、よされの踊りの輪に飛び入り参加したりする姿もあった。 物販ブースでは海外客に対応しようと、英語や中国語表記の手製の案内文を張るブースも。本県のグルメに舌鼓を打つ海外客の姿は、県が推進するインバウンド対策を体現したものといえよう。 もう一つ、佐藤会長は「祭典の開催を通じて会員の絆が深まる意義もある」とする。 会員で組織する実行委員会が中心となり、ステージ進行や出店の運営、ごみの仕分け収集まで、すべてボランティアで取り組む姿を指し、佐藤会長は「ラグビー日本代表ではないが、まさにワンチームだ」と褒めたたえる。 手弁当ゆえに、来場客が増える土日開催は現実的に困難だ。一方、平日開催とあって参加できる会員は限られる。まだ2年目であり手探りの部分もあるが、古里の発展・振興のため、息の長い取り組みになってほしい。
県産食材の品質の高さは各市場関係者がすでに認めるところ。ただ、言うまでもなく品質の高さだけでは地元の1次産業振興にはつながらず、きちんとした消費拡大策があって、それは初めて実現される。 産品そのもののPR活動については県内の官民関係者たちが長年、努力を積み重ねてきた。国内市場はもちろんのこと、近年は輸出にも力を入れている。台湾市場で県産リンゴが高く評価され続けている状況は代表的な事例と言えるし、欧州連合(EU)向けの県産ホタテ輸出が多いことなども県産食材が世界的に評価を受けている証拠だろう。 ただ、将来的に国内外の消費を拡大し続けていくためには、次の一手が必要だ。県内の関係者たちも、その点については認識しているはずだ。 実際、県産の1次産品輸出に力を注いできた県は、新たな手法を展開し始めている。つい先日、青森市内で全国トップクラスのシェフによる県産食材を使った料理講習会を開催した。 料理講習会といえば至る所で開かれ、それ自体に目新しさはない。ただ、産品のおいしい食べ方までを紹介したり、アピールしたりしなければ、消費拡大には効果的につながっていかない―と改めて考えれば、開催もうなずける。つまり、1次産品は食材として消費者の口に運ばれてこそ消費されるのである。 県産農産物の代表格であるリンゴについてさえ、若年層の「果物離れ」などを踏まえれば、品質や食味の良さとともに食べ方も併せて発信しなければならない―との認識に関係者は立っている。県りんご対策協議会は毎年、リンゴの収穫期が近づくと消費拡大に向けたPR活動を東京都など大消費地で展開する。近年はその場で健康維持に役立つリンゴの機能性を詳しく説明したり、リンゴを食べる際の切り方まで紹介したりしている。 こうして考えると、市場で産品の評価を得ようとするのであれば、品質や食味の高さ、食材としての活用法、ふさわしい食べ方といったことはセットで紹介されて当たり前の時代になっているのかもしれない。 今後、1次産品の持続的な消費拡大を目指すのであれば、消費者に「最も近い」料理店、料理人とのコラボレーションなどが必要になってくるのではないか。確かに、各食材については地元で長い間親しまれてきた料理法や食べ方があるはずだが、消費者を増やすにはそれぞれの土地に合った料理が新たに生み出されていってよいのではないか。 12月には台湾人シェフが運営するレストランで「青森県フェア」が開催される。会場では県産食材を使った料理が振る舞われるという。同様の取り組みが世界各地で開かれ、県産食材の消費がますます拡大することを期待したい。
県教委は23日の臨時会で、県立高校再編に関する第1期実施計画(2018~22年度)で通学困難地域に配慮し条件付き存続としていた「地域校」の中里(中泊町)、青森北今別校舎(今別町)、田子(田子町)の3校を、20年度から募集停止、21年度末で閉校とすることを決めた。 同計画では1学級規模の地域校について、募集人員に対する入学者の割合が2年連続で2分の1未満となった場合、募集停止に向けて協議することとしていた。3校はこれに該当し、4月から所在する町などと協議してきた。 県教委によると、20年3月の中学校卒業予定者数は1万756人で前年度比494人減。これらを踏まえた20年度の県立高校全日制課程の募集人員は10年連続の減少となった。21年度はさらに減る見込みで、計画に基づき、中南地区では弘前実業農業経営科(弘前市)を募集停止し、柏木農業(平川市)に集約。西北地区では金木、板柳、鶴田、五所川原工業の4校を募集停止とし、普通科、工業科を有する統合校の募集を開始する。 地元からは落胆や憤りの声が相次いでいる。中里高の閉校決定に、中泊町の濱舘豊光町長は「若者定着や地域の疲弊を考えたとき、津軽半島北部から高校がなくなることが、県の地域政策としては納得しかねる」と悔しさをにじませ、「経済的理由で通学できない子どもが出る可能性がある」との懸念も示した。 当然であろう。閉校が予定される地域では今後、通学費用の負担増など現実的な課題に直面する。遠距離通学などで子どもたちの負担感が増す可能性もある。高校は義務教育ではないにしろ、住む地域によって教育の機会に差が生じかねない状況は決して好ましいとは言えない。 高校は、教育施設という側面だけでなく、地方の衰退、農林漁村の過疎化といった現実を抱える中で、地域の存続、自立にとってなくてはならない施設として重みを増している。閉校が町村部の人口減少に拍車を掛け、地域に活力をもたらす若者の流出につながるのではないかと懸念される。 また、弘前実業農業経営科の募集停止は、リンゴ生産量日本一を誇る弘前市内から農業系学科がなくなることを意味する。関係者からは「1次産業の担い手が地域からますます減っていくのでは」といった懸念の声が相次いでいる。 計画に基づく高校再編とはいえ、地域づくり、人づくりという観点を置き去りにした人口減少ありきの統廃合ではないかとの疑問は拭い切れない。 少子化が続く中、高校再編は今後も避けて通れない課題となるだろう。それだけに、統廃合が地域や生徒の学力などにどのような影響をもたらしているのかをしっかりと検証し、今後に生かしてもらいたい。
10月は「臓器移植普及推進月間」。移植医療の一層の推進を図るため、全国で普及啓発活動が行われている。本県でも県観光物産館アスパムが移植のシンボルであるグリーンリボンの色、緑色にライトアップされ、19日には第21回臓器移植推進国民大会が県内で初開催された。参加者が移植医療や臓器提供について考えるきっかけとなったことだろう。だが移植医療についての理解はまだまだ十分とは言えず、今後もさまざまな情報に触れる機会を増やしていくことが重要だ。 近年は家族の承諾による脳死下での臓器提供が可能になったことや、運転免許証や健康保険証にも臓器提供に対する意思表示を記入する欄ができたことなどもあって、臓器提供者(ドナー)や臓器提供件数は増えているが、ドナー数は先進国が人口100万人当たり20~30人、多い国は40人、同じアジアの韓国でも10人なのに対し、日本はわずか0・8人というから、圧倒的に少ないのが現状だ。 移植を希望し、日本臓器移植ネットワークに登録して待機している人は全国に約1万4000人いるが、死後の臓器提供によって移植を受ける人は年間約400人、わずか2%と少ない。本県だけでも約100人が待機しているという。 一方、医療については日本は諸外国と比較しても成績良好だとか。移植手術を受けた人の多くが経過良好で退院し、学業や仕事などの社会復帰を果たすことができているという。国民大会では本県の腎移植の現状について報告があり、医師不足などの課題を抱える中、診療科や施設の枠を超えたユニット、医療チームが連携し、活躍していると報告された。 ただどれだけ優れた技術があっても、移植医療はドナーの意思と家族の理解がなければ成り立たない医療だ。移植についての考えは人それぞれだし、前向きな人もいれば、抵抗がある人、簡単には決められないという人もいるのが当然だ。大切なのは無関心にならず、意思表示しようと考えてみることなのだろう。意思表示は臓器提供をする、しないだけでなく、移植を受けるか否かという選択もあり、われわれはどの立場にもなり得る。 国民大会のトークセッションでは、余命数カ月と宣告され、その後に臓器提供を受けた患者が「こんなに長く生きるとは思っていなかった。元気な自分を見て移植の素晴らしさを知ってほしい」と訴え、学生らは「最初は何も分からなかった」としながらも、自分で調べた上で、意思表示の重要性や家族と話し合うことの大切さに気付いたと口々に語った。 世論調査では臓器提供に関する意思表示をしている人は12・7%。家族で臓器提供や移植について話したことがないという人は64・2%に上るという。どう切り出すのか悩むという人は、今回のような大会やキャンペーン展開時が一つの好機。まず話すことから始めてみたい。
天皇陛下の即位の礼の中心的儀式である「即位礼正殿の儀」が22日、皇居・宮殿「松の間」で国の儀式として行われた。正殿の儀には安倍晋三首相ら三権の長や英国のチャールズ皇太子ら180余りの国と国際機関からの賓客約400人を含めた、国内外の約2000人が参列。陛下は「憲法にのっとり、象徴としてのつとめを果たすことを誓います」と、お言葉を述べられ、国内外に即位を宣言した。 平成から令和へと元号が変わり、日本も新たな時代の幕開けに、さまざまな変化を迎えている。その中で日本国と日本国民統合の象徴である天皇陛下が、即位を宣言したことは大変、意義深いものがある。さらに今回の即位は、上皇さまの退位によって、なされたものであり、近代以降、その例がなかった生前退位が行われたことは、皇室の長い歴史に新たな1ページを加えることになった。 日本は今、さまざまな困難に直面している。その一つが近年、数を増している大規模な自然災害の発生だろう。今秋にも台風19号が日本列島を直撃し各地に甚大な被害をもたらした。22日も当初は、即位礼正殿の儀の後に、祝賀パレードを予定していたが、政府の判断により、11月に延期となった。被災地の復旧状況を鑑みれば、やむを得ないことだろう。 上皇ご夫妻は、このような災害に遭った国民への思いがことのほか強く、公務中に繰り返し、被災地見舞いに赴かれた。陛下は正殿の儀のお言葉で「上皇陛下が30年以上にわたる御在位の間、常に国民の幸せと世界の平和を願われ、いかなる時も国民と苦楽を共にされながら、その御(み)心を御自身のお姿でお示しになってきたことに、改めて深く思いを致し」と述べられている。上皇ご夫妻の思いを引き継いだ陛下もまた、皇太子時代から、このような公務を数多く行われている。 復旧、復興の道半ばである被災地と、そこに暮らす被災者にとって、天皇陛下の即位が、前を向くための精神的な支えとなればと願う。 上皇ご夫妻は戦没者慰霊にも積極的に赴かれるなど、平和への思いは大変強いものがある。陛下もお言葉で「国民の幸せと世界の平和を常に願い」などと平和への思いを述べられた。日本を取り巻く国際情勢は混迷の度を深めている感があるが、戦後、わが国を繁栄なさしめたものの一つが「平和国家日本」の精神であることを思えば、陛下のお言葉に国民一人一人が、平和を願う気持ちを一層高めることができたのではなかろうか。 被災者を癒やし、戦没者の霊を慰めるなど国民に寄り添う姿が、皇室を国民にとって、より身近な存在にした。「平成流」から「令和流」へ。天皇、皇后両陛下が国民と共に歩む道のりが、幸多きものになるよう願いたい。
ラグビーのワールドカップ(W杯)に出場した日本は20日の準々決勝で強豪の南アフリカに敗れて今大会を終えた。ただ、1次リーグで大金星を次々と挙げ、史上初のベスト8入りを果たした。日本ラグビーの歴史を変えた「桜の戦士」たちを多くの国民がたたえた。 W杯が初めて国内で開催されたとあって、世間のラグビー熱は大きな高まりを見せた。それに応えるように、日本は開幕戦から堂々とした戦いを見せた。1次リーグは4戦全勝。強豪のアイルランド、スコットランドにも勝利し、実力が本物であることを強く印象づけた。 前回大会の1次リーグで南アフリカを破る大金星を挙げるなどして各国から注目を浴びるようになった日本は、今大会でさらに進化を遂げた。ジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチ(HC)によると、進化できた大きな要因は選手たちの自主性だった。 百戦錬磨の強豪との試合ではピンチが次々と襲い掛かる。日本の選手たちはその都度、修正点などを話し合って乗り越えてきた。前回大会以降の4年間、選手たちが口々に言うようにハードワークを重ね、真の意味で「ワンチーム」となったことを証明した。 もちろん、選手たちに送られた国民の声援も大きく影響した。準々決勝から一夜明けた21日開かれた総括記者会見で、ジョセフHCは今大会の成績について「皆さん(国民)の熱い応援がなければ達成できなかった。感謝したい」と語った。 声援は日本中から送られた。日本の試合が行われるたび、会場には多くの観衆が訪れた。さらに、全国の各都市ではパブリックビューイングが催され、9月28日のアイルランド戦では弘前市民らも中継される熱戦を見守り、会場に届けとばかりに高らかな「日本コール」を繰り返した。 言うまでもなく、今大会で高まった「ラグビー熱」は日本の選手、彼らを応援する国民が一緒になってつくったものだ。海外のメディアも日本の戦いぶりを相次いで称賛し、国内のラグビーファンの盛り上がりを伝えた。 しかし、日本ラグビーのスタイルは今大会で完成したわけではない。進歩はこれからも続いていくはずだ。大きく躍進した日本だったが、世界のラグビー界では今のところ、2番手グループの「ティア2」に属しているとされる。トップレベルの「ティア1」の仲間入りを目指し、すぐに新たな一歩を踏み出さなければならない。 せっかく高まった「ラグビー熱」を未来につなげるため、選手には一層の奮起を期待したい。そして戦い続ける彼らを応援し続けよう。今大会で歴史を変えた「桜の戦士」がまた、新たな歴史をつくる日を楽しみにしながら。
英国の欧州連合(EU)離脱問題が、離脱期限の31日を目前にして動きだした。最大の懸案である英領北アイルランドの国境管理問題で妥協点を見いだしたことで、英国とEUが合意。これを受け、EUは17日の首脳会議で修正した新離脱案を承認した。「合意なき離脱」の回避へ前進した格好だが、英下院の承認が得られるかは不透明。混迷状態に逆戻りする可能性もある。 ジョンソン英首相は「何があっても10月末にEUから出る」と、EU側が譲歩しなければ「合意なき離脱」も辞さない強硬姿勢を続けてきた。これに対し野党議員側は「合意なき離脱」になれば英国内の社会・経済に大きな混乱を招くことになると反発し、「EUと合意できなければ、首相はEUに離脱延期を要請する」とする議員立法を成立させた。ジョンソン氏が一転して歩み寄ったのは、少数与党の現状を踏まえ、離脱実現で早期に混迷を脱することが、次期総選挙で有利に働くと計算したようだ。 EU首脳会議で承認された新離脱案は、英国全体がEUの「関税同盟」に残留する従来の解決策を撤廃し、北アイルランドだけが英国の関税体系下ながら、実質的にはEUのルールに従うというもの。北アイルランドを〝経済特区〟とし、税関、国境検査復活によるアイルランドとの紛争再発を回避することに着地点を見いだしたとみられる。 新離脱案がEU首脳会議で承認されたことで、英議会下院と欧州議会を経て、英国、EU双方が批准すれば、予定通り31日にEU離脱となる。これで離脱までの道筋が明確になったように見えるが、先行き不透明というのが現実だ。 英与党・保守党の現有議席は、実質過半数の320を大きく下回る288。承認を得るには上積みが必要だが、閣外協力政党の民主統一党(10議席)は既に反対を表明しており、国民投票で離脱派を率いた一人、離脱党のファラージ党首は北アイルランドがEUのルール下に残ることに「『新しい合意』はEU離脱ではない」と反発、野党第1党・労働党のコービン党首も対決姿勢を鮮明にした。一方のジョンソン氏は労働党の一部強硬派を取り込むなど動いており、英メディアの票読みによると賛否は拮抗(きっこう)している。 仮に否決された場合、ジョンソン氏は来年1月末までの離脱延期をEUに要請しなければならない。そうなればEU加盟国の全会一致が必要となり、条件などをめぐり紛糾するとの観測もある。また、英野党内には国民投票で残留を目指す戦略も浮上している。 英国政府は19日、下院に新離脱案の是非を諮る。「合意なき離脱」という最悪の事態を回避できる一方で、北アイルランドの〝経済特区化〟は既に波紋を呼んでおり、全ての英国民を納得させられないであろう難しい判断を強いられる。
世界自然遺産白神山地の主峰・白神岳山頂(標高1235メートル)に、深浦町が改修工事を進めていた避難小屋が15日から、装い新たに一般供用開始となった。町が昨年9月、「白神岳避難小屋修復プロジェクト」と題して、ふるさと納税制度を活用し、広く全国から寄付を募り集まった金額と町予算を合わせた3410万円を充て、今年9月から工事を進めていた。全国の登山愛好者や有志の厚意のたまものであり、山を愛する人、楽しむ人、これから山に興味を持つ人たちにとって、長く親しまれる施設となることを願ってやまない。 避難小屋は旧岩崎村が1985年、地元有志や全国の登山愛好家による寄付と村の補助金計250万円で建設した。2005年に一度、修復を施したが、築後30年以上となり、長期にわたる風雪などの影響も加わって老朽化と内部腐食が進み、倒壊の危機にあった。 生まれ変わった避難小屋は、旧小屋と基本的な構造は同じで、青森ヒバ材を使用した木造2階建て、高さ5メートル。新たに2階に上がるはしごは使いやすいよう傾斜を付けたほか、げた箱を設置した。 登山は長時間にわたる体力消耗はもちろんだが、時に急激な気象の悪化や突然の体調悪化、不慮の事故も考えた上で行動する必要がある。突発的な事態が発生した時、著しく疲れた時などに、周囲の環境に左右されず身を寄せる場所があることは、多くの登山者の安心につながる。 そうした目的で使用するため、改修し生まれ変わった白神岳山頂避難小屋だが、深浦町によると、10年ほど前から一部旅行業者らによる「目的外使用」が顕著になっているという。つまり、白神山地や周辺を巡る営利目的の商業ツアーなどで、この避難小屋を宿泊場所として利用しているということだ。 ホテルや旅館に泊まった場合、当然経営者に宿泊料金を支払うことになる。しかし、この避難小屋は町が管理しているとはいえ、管理人はおらず、監視カメラもない。小屋に泊まった場合、宿泊料金の扱いは一体どうなっているのか。避難小屋を宿泊場所に設定した業者がツアー料金の中に、存在しないはずの宿泊料金を盛り込んでいるのかどうかは知るよしもない。 「(商業ツアーで)宿泊に使ってはいけない場所とは知らなかった」「ツアー参加者を泊めたが宿泊料金は徴収していない」「町はもっとPRしてほしい」など、業者らにも言い分はあろう。ただ、こうしたツアーの参加者で小屋が独占され、本来の目的で使用しようとした登山者が入れなかった事態があったとすれば、大きな問題だ。利用者は多くの人の願いがこもった小屋であることを認識した上で、長く愛される場所とするよう心掛けてほしい。
社説に関するツイート
ツイート
©太陽と風と水, 2011/ info@3coco.org 本サイトについて