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新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、7月23日の東京五輪開会式まで半年を切った。 国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長は、共同通信のインタビューに「7月に開幕しないと信じる理由は現段階で何もない」と、中止や再延期の可能性を否定する発言をした。日本政府も開催の姿勢である。 昨年7月からの1年延期を挟んで、関係機関はこれまで長期にわたって準備作業を積み重ねてきた。その努力と苦労は評価しなければならない。 しかし、世界では依然として感染が広がっている。予断を許さない状況が続く。新型コロナに対する国内外の不安は膨らんでいるのが現実といっていい。 4年に1度の「平和の祭典」を楽しみに待っている人は多かろう。一方で、感染を心配する人、コロナ禍で生活に影響が及んでいる人、不断の対応が続く医療従事者らの心境は果たしてどうだろう。 開催するの一点張りでいいのか、懸念せざるを得ない。開催に当たっては、各国国民の理解が欠かせないのではないか。 1月初旬の共同通信による世論調査では、今夏の東京五輪・パラリンピックについて「中止するべきだ」が35・3%、「再延期するべきだ」が44・8%で、計80・1%が見直すよう求めた。五輪よりコロナ対策を重視する考え方の裏返しとみていいだろう。 現実に基づいて議論を進めるべきではないか。再延期や中止を含め、あらゆる選択肢を排除せずに、早急に検討するよう求める。 先日は英紙の報道によって波紋が広がった。タイムズが東京発の記事で「日本政府が中止せざるを得ないと内々に結論付けた」と報じたからだ。政府は否定し、報道の打ち消しに追われた。 海外にも開催への疑問が少なくないことの一端ではないか。参加選手は約1万1千人の予定だ。関係者や観客の入国と国内移動、ボランティアも合わせたスタッフら大勢のPCR検査、感染予防策など開催に向け不安要素は数多い。 政府内には無観客で開催する案が出てきた。競い合う選手をはじめ、本来五輪は交流の場であるはずなのだが、選手村は感染防止のため、入村は競技開始5日前から、退去は競技終了後2日までと滞在期間を制限する方針も示されている。 選手の間には不安や疑問など、さまざまな考えがあるはずだ。陸上女子1万メートル代表の新谷仁美選手は、テレビ取材に対し「アスリートとしては賛成、一国民としては反対」と率直に心境を語っていた。 年齢や体力から東京五輪を競技人生の締めくくりと位置付ける選手は複雑な心境だろう。 「人類がコロナウイルスに打ち勝った証しとして」。安倍政権から続いてきた前のめりの決意ではなく、誰もが納得できる方向を示すべき時である。
「核兵器のない世界」を目指す上で歴史的な節目と言える。 核兵器禁止条約が発効した。核兵器を非人道兵器とし、開発や保有、使用などを全面的に禁止する初の国際法規である。 しかし、日本政府は「わが国のアプローチと異なる」として同条約に参加していない。 日本は唯一の戦争被爆国であり、本来なら核廃絶の先頭に立つべき国だ。政府は同条約に背を向ける姿勢を改め、参加を検討するべきだ。 同条約は、国連で2017年に122の国・地域の賛成で採択された。昨年10月、批准を終えた国・地域が発効に必要な50に達していた。 現在批准しているのは52の国・地域で、いずれも核兵器の非保有国だ。中南米やアフリカ、オセアニアの小国が多い。 核拡散防止条約(NPT)で核兵器の保有が認められている米英仏ロ中の五大国は参加を拒否している。 NPT非加盟で核兵器を保有しているインドやパキスタン、イスラエル、北朝鮮も参加していない。 これらの国に法的な順守義務はない。米国の「核の傘」に依存する日本や韓国、ドイツ、オーストラリアなども参加しておらず、同条約の実効性を疑う見方もある。 しかし、国際規範として、核兵器は悪であり、違法であると明確に示した意義は大きい。核は不要という認識が国際社会全体に広まり、核保有国に核軍縮を促す包囲網になることを期待する。 NPTが核保有国に義務付けている核軍縮は停滞している。それどころか、米中ロは核軍備を増強している。核の非保有国は業を煮やし、その大きな不満が核兵器禁止条約の制定につながった。 国際世論を高め、条約が実現する推進力となったのは、広島、長崎の被爆者らの訴えだ。彼らが壮絶な被爆体験を伝えたことで、核の非人道性が多くの国に認識された。 こうした経過で生まれた国際的な枠組みに日本が参加していない。そのことに疑問と矛盾を感じる国民は多いだろう。 米国ではバイデン大統領が就任した。ロシアとの新戦略兵器削減条約(新START)の延長や、イラン核合意に復帰を目指す考えを示すなど、方針転換の姿勢も見せている。 今年8月には、NPT再検討会議が開かれる予定だ。日本政府は核保有国と非保有国の「橋渡し役」を担うと主張している。 しかし、日本が国連総会に提出してきた核兵器廃絶決議は昨年、棄権国が過去最多となった。核兵器禁止条約への不参加などが各国の失望を招いているとされる。 菅義偉首相は同条約に「署名する考えはない」と断言し、第1回締約国会議へのオブザーバー参加も「慎重に見極める」としている。 日本には「核兵器のない世界」への流れをリードする姿勢が求められている。主体的に行動し、被爆国にしかできない役割を果たさねばならない。
通常国会で、菅義偉首相の施政方針演説などに対する各党の代表質問が行われた。 新型コロナウイルスの感染拡大は11都府県が緊急事態宣言下にある危機的な状況だ。沈静化に向けては国民的な協力が必要だが、首相答弁は説得力を欠き、危機感が伝わってきたとは言いがたい。 野党側は「第3波」の拡大を「政治に引き起こされた人災だ」と指摘。観光支援事業「Go To トラベル」の全国停止や、緊急事態宣言の再発令を挙げて「判断の遅れを認め、反省から始めるべきだ」と追及した。 これに対し、首相は「根拠なき楽観論で対応が遅れたとは考えていない」と反論。宣言再発令も「専門家の意見を聞きながら判断した」と述べ、判断の遅れも自らの責任も認めなかった。 果たしてそうだったか。GoTo事業については、昨年11月下旬には政府の感染症対策分科会が運用見直しの提言を始め、日本医師会は感染予防に対する国民の「緩みにつながった」との認識を示していた。 緊急事態宣言のタイミングも、共同通信の今月の世論調査で8割近くが「遅過ぎた」と回答している。経済を重視する首相の方針が裏目に出たという見方は強い。 首相は施政方針演説で「この闘いの最前線に立つ」と述べ、国民に協力を呼び掛けた。ならば、これまでの政策を検証し、多くの国民が疑問視している問題点は率直に反省して、今後の対策に生かす姿勢を見せなければなるまい。 当面の焦点には、国民に行動変容を促すために政府が切ったカードといえる罰則導入の是非がある。 政府は営業時間短縮の命令を拒んだ事業者に過料を科す新型コロナ特別措置法、入院を拒んだ感染者らへの懲役、罰金刑を明記した感染症法の改正案などを国会に提出した。 首相はこれも議論の開始や検討の遅れは認めず、「罰則の周知期間に配慮しながら、できる限り速やかに施行したい」と述べた。 野党側には、飲食店などへの十分な補償を優先すべきだという指摘もある。病床数の不足で自宅療養している感染者が死亡するケースが相次ぐ中、専門家には全ての患者を病院や宿泊施設に収容できる体制を整える方が先だという反発もある。 今後の国会審議で議論を深め、政府は反対意見にも耳を傾ける必要がある。対策の不備や遅れのつけを、私権の制限という形で国民に回すような拙速な結論は許されない。 コロナ対応の後手批判を背景に内閣支持率が続落する中、首相は失点回避へ「守り」を優先しているとされる。参院では、首相答弁が淡泊で「短過ぎる」と野党が改善を申し入れた。首相には、国会は国民を説得する場でもあるという自覚をあらためて求めたい。 論戦の場は25日から予算委員会に移る。与野党とも国民が危機感を共有し、納得して行動できるような議論を深める責任がある。
2019年7月の参院選広島選挙区を巡る買収事件で、公選法違反の罪に問われた参院議員、河井案里被告に対して、東京地裁は懲役1年4月、執行猶予5年の判決を言い渡した。 判決は「民主主義の根幹である選挙の公正を害する犯行だ。刑事責任は重い」と厳しく指摘した。案里議員は判決を重大に受け止め、辞職するべきだ。責任を明確にしなければならない。 案里議員は、衆院議員で元法相の夫、克行被告と共謀し地元議員ら計100人に計2900万円余りを配ったとされる。公判で案里議員は配った現金の趣旨は「県議選の当選祝いや陣中見舞いだった」と、買収目的を否定した。だが判決は退けた。 市議1人への現金10万円は、案里議員の積極的な関与などが認められないとして無罪としたが、県議4人に30万~50万円渡した計160万円に関しては選挙買収と認めた。 現金を渡したのは参院選公示日が迫る時期であり、選挙で期待された役割や立場などから案里議員への投票や票の取りまとめの報酬として相応だったとしている。 一審であるとはいえ、票を金で買ったと認定された。案里議員は逃げることなく自らの行為を説明する必要がある。 事件発覚は、選挙カーでアナウンスをする車上運動員に法定上限を超える日当を渡した問題が糸口となった。これが表面化して以来、河井夫妻はそろって国会出席の職務を果たさず議員を続け、「捜査中」を理由に説明することもなかった。議員の職をおとしめたに等しい。 現職の国会議員夫妻が逮捕された前代未聞の事件は、特異な展開をたどったといえる。 自民党本部が改選2議席の広島選挙区の独占を狙い、党広島県連が反対する中、現職の溝手顕正氏と新人の案里議員の2人を擁立した。党本部は案里議員側に溝手氏側の10倍に当たる1億5千万円を投じた上、当時の安倍晋三首相らが演説に駆け付け応援に力を注いだ。 巨額の資金が買収に充てられたのか明確ではないとしても、政治不信を増幅させたのは確かだ。地元政界も混乱が続いた。それにしては、中央政界が深刻に捉えているようには受け取れない。 官房長官当時に案里議員の応援演説をした菅義偉首相、巨額の資金を投入した自民党の二階俊博幹事長は判決を受け、共に「襟を正す」とコメントした。この言葉に国民がどれほど真剣味を感じただろう。 案里議員は、連座制で当選無効を求める行政訴訟も起こされている。100日以内に判決を出すようにする「百日裁判」で審理し、春ごろ結論が出る見通しだという。また、今回の判決を不服として控訴すれば、刑事裁判と行政訴訟が同時に進み、いずれかが確定するまで議員資格を維持できるという。 買収事件であるのに誰一人責任を取らないようでは、国民の不信がさらに膨らむのは間違いない。
米民主党のジョー・バイデン氏が大統領に就任した。就任演説で「民主主義は勝利した」と宣言した。 本来なら、就任式会場は高揚感に包まれていたはずだ。しかし、直前の議事堂襲撃を受けて市民の立ち入りは制限され、銃を抱えた州兵らが警戒する厳戒態勢の中で式典は執り行われた。異例の光景が米国社会の分断の根深さを表している。 バイデン氏は、リンカーンの奴隷解放を巡る発言を引用して、「全霊を注いで米国を結束させ、人々や国家を団結させる」と訴えた。敵対心をあおるトランプ政権下で深まった分断の修復に取り組んでいく。また国際的な孤立から協調路線への復帰を掲げた。 喫緊の課題は新型コロナウイルス対策となる。米国の死者は累計40万人を超えた。トランプ政権下で停滞したワクチン接種を加速するという。政治的対立にまで発展したマスク着用も進め、抑え込みの姿勢を鮮明にしている。 国際協調への回帰にも踏み出す。就任早々、地球温暖化対策の枠組み「パリ協定」への復帰手続きを進めることを指示する文書に署名し、大胆な政策転換へ動き始めた。 対立する対中外交は重要課題である。中国が影響力を強めるインド太平洋地域に関し、同盟関係を再構築すれば日本への要請も変わってくる。中国は日本の最大貿易相手国であり、安全保障を想定した独自の立ち位置を探ることが必要となる。 トランプ政権は米国第一の姿勢で、同盟国との関係や多国間の枠組みを軽視した。経済面ではグローバル化から取り残された人々の支持が背景にあり、保護主義的な通商政策で各国との摩擦が強まった。 2度の弾劾訴追をされた初の大統領であるトランプ氏からバイデン氏にバトンが渡り、政治の安定へ向かう安心感が漂う。 しかし、共和党支持層の多数は、バイデン氏が正当に当選したと考えていないという。トランプ氏は前回選挙を上回る得票で、離任声明は新政権を激励したものの、自らの実績を誇示した。就任式を欠席したトランプ氏の4年後の動向はさておき、その支持層とこれから向き合っていくことになる。 バイデン氏はオバマ政権で副大統領を務めた。オバマ政権の前には単独行動主義をとったブッシュ政権があり、後はトランプ政権につながった。揺り戻しは民主政治の力ではあるが、揺れ具合が大きいと分断はやはり深まる。オバマ政権での経験はこれからの施策に生きるはずだ。 女性初のハリス副大統領のほか、閣僚人事は人種や性別に縛られない布陣となる。政権が打ち出す多様性であり、バイデン氏の78歳もその一つととらえることができる。また即戦力の実務型とも評される。 国内外の難題に直面している。意見の相違を分裂へと向かわせないためには、「ほんの少しの寛容さと謙虚さ」が必要だとバイデン氏は述べた。「民主主義の勝利」をさらに進める政権運営を期待したい。
新型コロナウイルスの感染拡大で雇用情勢が悪化し、県内でも「コロナ困窮」が深刻になっている。 国が昨年始めた無利子の特例貸し付けで、限度額まで借り切った県内の世帯が12月末までに2700件超に上ることが分かった。 飲食、タクシー・代行、建築など幅広い業種の人々が申請している。コロナ禍が長引いて収入が元に戻らず、全て借り切った後も困窮が続いているケースが少なくない。 多くの生活破綻が起きる恐れがある。国は困窮者の家計を下支えする追加支援を急がねばならない。 国の特例貸し付けは、最大20万円を1回借りられる「緊急小口資金」と、2人以上世帯で月最大20万円を3カ月(1回延長して最長半年まで)借りられる「総合支援資金」の2種類がある。 県内で貸し付けを受けた世帯は12月末時点で約1万4千件(総額約50億円)に上る。 全国でもリーマン・ショック後をはるかに上回る規模で利用され、全て借り切るケースが増えている。 早い人は今春から返済が始まる予定だったが、政府は2022年3月末まで猶予することを決めた。 家賃が払えず、住まいを失いかねない人への住居確保給付金も、最長9カ月としていた支給期間を3カ月延長する。 こうした実態に即した対応を続けるべきだ。雇用改善が見込めない中、今は急場をしのぐ対策を打ち、収束後の生活の立て直しにつなげる必要がある。 全国でコロナ関連の解雇や雇い止めは8万人を突破した。政府による緊急事態宣言の再発令で、首都圏などでさらに増えると見込まれる。 昨春の宣言期間中には、営業短縮を求められた飲食店などで働く非正規労働者が休業手当を得られず困窮するケースが相次いだ。 シフト制で働く人に対して不支給が目立った。企業が「シフトを減らすことは休業指示ではない」などと主張して拒むことが後を絶たない。 休業手当は雇用と生活を守る命綱だ。不払いは許されない。 政府は、企業が従業員に支払った休業手当を国が補塡(ほてん)する雇用調整助成金を使いやすくし、最大で賃金の全額を補助する特例を設けた。 田村憲久厚生労働相は、同助成金は「シフト制の非正規も対象」と明言した。今後は支払いを促すだけでなく、不払いを続ける企業に対して厳しく対応を迫るべきだ。 コロナ困窮が進めば、最後のセーフティーネットと言われる生活保護の利用も考える必要がある。 抵抗感を持つ人も多いだろうが、人間らしい最低限の生活を送ることは、憲法が保障した国民の権利である。利用を検討し、自治体に相談することをためらわないでほしい。 県内で生活が破綻して路頭に迷う人が続出し、社会不安が高まることを防がねばならない。県や市町村は困窮に苦しむ人の相談窓口を強化し、継続的に支援する態勢を整えるべきだ。
悪化している日韓関係を改善させる道のりが、さらに遠くなった。 旧日本軍の元従軍慰安婦の女性が日本政府に損害賠償を求めた訴訟で、韓国のソウル中央地裁は日本に支払いを命じた。韓国では元徴用工を巡る訴訟でも同様の判決が出ている。歴史問題での日韓対立に拍車を掛けるような司法判断を憂慮する。 焦点は国際法上の「主権免除」を慰安婦問題に適用するかどうか。 主権免除は、国家は他国の裁判権に服さないとする原則。慣行として定着した「国際慣習法」に位置付けられる。 これに基づき、日本政府は「訴訟は却下されるべきだ」と主張してきた。しかし地裁は、慰安婦動員は「反人道的犯罪行為」で主権免除は適用できないと判断した。 確かに主権免除が適用されないケースはある。イタリア最高裁は、第2次大戦中にドイツで強制労働させられたイタリア人の訴えを主権免除の適用外と認め、ドイツ政府に賠償を命じた。ただしドイツは後に国際司法裁判所に提訴し勝訴している。 国際司法の場でも、主権免除が原則的に定着している一例と言えるのではないか。 地裁判決は1965年の日韓請求権協定と2015年の日韓合意を踏まえても、元慰安婦の損害賠償請求権は消滅していないとも判断した。特に15年合意は「国と国の政治的合意があったことを宣言したにすぎない」とする。政府間の公式合意をあまりに軽んじていないか。 15年合意で日本は政府として慰安婦問題の責任を認め、当時の安倍晋三首相による「おわびと反省」を表明。元慰安婦らを支援する韓国の財団に10億円を拠出した。ところが現在の文在寅(ムンジェイン)大統領は合意では問題解決にならないと主張。財団を解散するなど事実上白紙化した。 国と国との約束が一方的にないがしろにされるようでは、国際協調は実現できない。司法がそれを「後押し」するようではなおさらだろう。 今回訴訟への関与を拒んできた日本政府は控訴せず、裁判そのものを無視する方針だ。その場合、23日に判決が確定する。 日本が賠償に応じなければ原告側が強制執行手続きに入り、韓国内にある日本政府の資産差し押さえなどに乗り出す可能性がある。両国関係は修復できないほど険悪になろう。 2国間の困難な問題はやはり、当事国の話し合いで解決するべきだ。そのためには「最終的かつ不可逆的解決」とした、15年合意の精神に立ち返る必要がある。 文大統領は年頭記者会見で元徴用工訴訟に関し、強制執行による日本企業の資産売却は「望ましくない」と発言。慰安婦問題でも15年合意を両国政府間の公式合意と認め、その土台の上で解決策を見いだせるよう協議したいと述べた。 「司法判断を尊重する」としてきた従来方針を変更した形だ。解決へ向けて一歩踏み込んだ発言なら歓迎できる。日本側も冷静に、粘り強く合意の履行を働き掛けたい。
通常国会がきのう召集され、菅義偉首相は就任後初めての施政方針演説を行った。 新型コロナウイルスの感染拡大が止まらず、医療は逼迫(ひっぱく)している。11都府県には緊急事態宣言が再発令された。深刻な状況であり、早期収拾を最優先課題とするのは当然だ。 コロナで国民生活が制約を受けていることに首相は、「大変申し訳ない」と述べた。だが、対策が後手に回ってきたことに厳しい批判があることをまず厳粛に受け止めなければならない。共同通信社の世論調査では、政府のコロナ対応を「評価しない」が自民支持層でも6割近い。 感染「第3波」の流行が本格化する中で、観光支援事業「Go To トラベル」の一時停止は遅れた。飲食自粛を求めながら首相が宴会に参加して、要請の必要性に自らが疑問符を付けてしまった。こんなことでは、首相が闘いの最前線に立つと訴えても説得力は乏しい。 一方で飲食店の時短営業の実効性を高めるため、コロナ特別措置法に補償と罰則を盛る改正案の早期提出を目指す。東京都で6割を占める感染経路不明の多くが飲食とみられるという。そこを抑え込みたいというのは分かるが、私権制限につながるだけに慎重な対応が求められる。 菅内閣は行政の縦割り、既得権益、あしき前例主義を打ち破り、未来を切り開くと打ち上げた。本気度が試される。 成長の原動力に「グリーン」と「デジタル」を位置付ける。コロナ後の成長戦略としても必要だが、それだけに緊急性や有効性を判断する姿勢が欠かせない。 防災・減災の国土強靱(きょうじん)化は、5年で事業規模15兆円をめどに実施する。次期衆院選をにらみ規模ありきとする見方がある。有効な防災対策に異論はないが、コロナ対策はまだ着地点が見えないだけに、財政の健全性と事業効果を検証していく必要がある。 安定した政権運営の基本となるのは信頼だ。施政方針でも、政治家には国民の信頼が不可欠であると言及している。 首相が衆院議員に初当選した時、「師」と仰ぐ当時の梶山静六官房長官から、「国民に説明し、理解してもらわなければならない」と指導を受けたエピソードも取り上げた。 低成長や少子高齢化の環境の中で、国民に負担をお願いする政策も必要となることがある。その際には、という文脈での紹介だが、説明と理解が必要となるのは、その場面にとどまりはしない。 「桜を見る会」前日の夕食会に関して、事実と異なる答弁を謝罪した。しかし、政治不信を高める「政治とカネ」問題の解明へ動くつもりはないようだ。日本学術会議会員候補の任命拒否問題も触れなかった。 コロナ対応の遅れや説明回避の姿勢が内閣支持率の低下につながっている。国民の「安心」と「希望」を追い求めるなら、それに見合う対応が必要だ。国会での活発な論戦を期待したい。
通常国会がきょう召集される。 昨年12月、新型コロナウイルス対策や日本学術会議問題、「政治とカネ」を巡る諸問題を抱えながら、政府と与党が野党の会期延長要求に応じず、臨時国会を閉会して約6週間が過ぎた。 この間に感染「第3波」が拡大し、11都府県に緊急事態宣言が出た。国民生活や医療崩壊の危機が深刻化している。予算対応や法改正など打つべき手が刻々と変化する中、国会審議に「空白」を生じさせた政府、与党は猛省すべきである。 早急に審議が求められるのは2020年度第3次補正予算案だろう。 緊急事態宣言の対象になった11都府県は、経済規模が国内全体の約6割を占める。昨春の宣言時に続く景気の「二番底」が迫り、失業や倒産・廃業の抑え込みが再び急務になっている。 3次補正には19兆円超の経済対策が盛り込まれている。時短営業に応じた飲食店への協力金に活用できる交付金のほか、中小事業者への資金繰り支援などが計上された。 ただ、政府は編成時に宣言を想定していなかった。飲食業を中心とした支援だけではなく幅広い業種や家庭への政策の拡充が欠かせまい。 国土強靱(きょうじん)化も柱の一つにしている補正予算案の組み替えを訴える専門家も出始めている。国民の命と生活を見据え、優先順位を厳しく精査する議論が必要だ。 新型コロナ特別措置法改正案は、営業時間短縮などの要請に従わない事業者への罰則導入が議論の焦点になっている。 政府が示した概要では、行政罰である過料を科すとしている。ただ、私権制限につながる法改正を急ごしらえで整える背景には、感染拡大を止められない菅政権の焦りがあるとされる。 非常事態とはいえ、憲法も絡む私権制限の前例を性急な議論でつくっていいのか。入院を拒否した感染者らに懲役や罰金を想定している感染症法改正案も含め、幅広い国民の理解と合意を置き去りにした結論は許されない。 通常国会は昨年来、持ち越してきた疑惑の究明も数多く抱える。 「桜を見る会」前日の夕食会費問題で、検察は安倍晋三前首相側の補塡(ほてん)があったと認定。安倍氏は国会で100回以上重ねた「虚偽答弁」を訂正、謝罪した。しかし、共同通信の世論調査では8割近くが安倍氏の説明や対応を不十分だとしている。 学術会議会員候補6人の任命拒否問題では、菅義偉首相が「答えを差し控える」といった国会答弁を連発。問題の核心である理由の説明は置き去りのままだ。 急落している内閣支持率は、国民の命と生活を左右する「防疫」の後手、泥縄批判や、疑惑も含めた説明軽視への不信の表れでもあろう。 募る政治不信は、国民的協力が必要なコロナ対応にも影を落としていないか。与野党を問わず国民の不安と不信を自覚し、国会の存在意義を示す真摯(しんし)な論戦を求める。
JA高知県は、ブランド米「仁井田米」の品種や産地を偽装して販売した問題で、外部調査委員会による報告書、再発防止策を公表した。 併せて、県内の12JAと中央会、県園芸連など系統5団体を統合した一昨年1月からトップを務めた武政盛博組合長が今月末での引責辞任を表明した。関わった職員の処分も明らかにした。 生産者、消費者を裏切った責任は極めて重い。猛省し、根本から態勢を立て直す必要がある。 調査委の報告書から浮かび上がるのは、組織のずさんさである。現場任せがまかり通り、多くの法律に違反して、上司への報告や相談もされていなかった。現場の独自の考え方による運用が放置された結果、この問題につながったといえる。 調査に対し「JAの利益よりも、生産者が作ったものを一生懸命に売るということが使命であると思っていた。『頑張って売ってくれ』という声にも応えたかった」と答えた職員がいる。生産者の栽培の苦労を思いながら仕事をしていたのだろう。ただし、法に背くことがあってはならない。 報告書で目を引くのが、法令順守の意識が欠けている点だ。食品表示法、景品表示法、農産物検査法など違反、抵触した法律を幾つも挙げている。社会の規範であり、守らなければならない法律への理解、認識が甘いというしかない。 報告・連絡・相談、作業のマニュアル、決裁、内部を取りまとめる統制といった組織のシステムが整っていない、とも報告書は指摘する。甘い認識がこの問題を起こした源と考えられる。 産地の偽装について、ある職員は「2009年には行われていた。先輩から教わった」と説明している。だとすると、JA高知県に統合する前のJA四万十の時から続いてきたことになる。 疑問なのは、武政氏が統合前のJA四万十組合長だった点と辞任表明との関連を記者から質問され、「想像に任せる」と答えたことだ。不祥事について問われているさなかである。説明責任が求められるトップの発言とはいえまい。 県内の大半のJAなどを統合してJA高知県は発足した。組織の効率化、経営基盤の強化を生産者・組合員のメリットに結び付けようとしてきたはずだ。団結し、組織力を生かして農家の経済的、社会的地位の向上を図る―目指した方向は、この原点だろう。 統合する過程で目が届かなかった点はないだろうか。改めるべき組織の悪弊は残っていないか。再発防止に取り組む中で「本当に生産者のためになるものは何か」を、真剣に考え直す必要がある。 JA高知県は数多くの農産物などを取り扱う。幅広く事業も展開している。米の他にも消費者の厳しい目が向けられるかもしれない。生産者、消費者に誠実に向き合い努力を続けるしかない。当然だが、信頼回復への道は険しい。
東京地検特捜部などは、収賄罪で吉川貴盛元農相を在宅起訴した。鶏卵生産大手「アキタフーズ」グループ元代表から大臣在任中に現金を受け取ったとされる。元代表も贈賄罪などで在宅起訴した。 鶏卵業界は家畜を快適な環境で飼育する「アニマルウェルフェア(AW)」の国際基準の緩和や、卵価が下がった際に生産者を支援する事業の拡大を求めていた。 業界に有利な政策を実現するため、元代表は現金を提供したとみられる。政界とのパイプはどのように築かれ、どういう見返りがあったのか。政官業の癒着が農政をゆがめる。実態解明を望みたい。 起訴状では、元農相は農相在任中に、大臣室などで計500万円を受け取ったとされる。 元農相が農相に就任した直後の2018年11月、衆院農林水産委員会でAWについて「生産者の理解を得ながら推進したい」と答弁し、その日に現金の一部を受領したとみられる。数日前には、元代表らからAWの国際基準の緩和を求める要望書を大臣室で受け取ったとされる。 在任中以外にも計1300万円の授受があったとみられる。この額に関しては、大臣ではない期間であり職務権限が伴わないとして、特捜部は立件を見送った。 これまでの聴取に、元農相は受領は認めているとされ、「大臣の就任祝いだと思った」と賄賂性は否定しているという。元代表も現金の提供を認めているが見返りを期待していないと供述しているようだ。 元農相は昨年末、衆院議員を辞職した。心臓病に伴う手術を受けて入院中という。説明責任を果たすことが求められる。 今回の癒着の構造が浮かび上がったのは、河井克行元法相夫妻が立件された参院選広島選挙区を巡る買収事件がきっかけだった。検察が押収した資料には、農林族議員や農林水産省の官僚らの名前が記載されていたという。豪華クルーザーでの接待も明らかになっている。 ほぼ同時期に、西川公也元農相も現金数百万円を受け取った疑いが持たれた。内閣官房参与として農業政策全般について首相の諮問に答えることが職務だったころだ。アキタ社の顧問としての報酬の可能性があり、賄賂と認定するのは困難との判断から立件は見送るようだが、癒着の根深さをうかがわせる。 「政治とカネ」の問題は国民に拒否感が強い。説明責任に背を向けてはさらに信頼を失ってしまう。 安倍晋三前首相の後援会が「桜を見る会」前日に主催した夕食会の費用補塡(ほてん)問題を巡っては、特捜部は安倍氏を不起訴としている。だが、安倍氏の政治責任は免れない。 国会答弁の訂正は申し出たが、詳細な根拠は示さないままだ。これでは説明責任を果たしたとは言いがたい。こうした姿勢が政治の劣化につながっていく。 吉川元農相の在宅起訴に菅義偉首相がどう向き合うか。首相の姿勢と指導力が問われる。
米下院本会議は、トランプ大統領の罷免を求める弾劾訴追決議案を賛成多数で可決した。支持者をあおり、バイデン次期大統領の当選認定手続きが行われていた連邦議会議事堂を襲撃させたとして「反乱扇動」の責任が問われている。 民主的なルールを暴力で否定した責任は重い。トランプ氏は、初めて2度の弾劾訴追を受けた大統領という不名誉をまず重く受け止めなければならない。 これに先立ち、ペンス副大統領に対し、トランプ氏解任に動くよう求める異例の決議を可決している。ペンス氏は応じなかったため、弾劾の手続きに進んだ。 決議案には共和党からも下院ナンバー3のチェイニー議員ら10人が賛成に回った。造反は20人ほどに上るとの見方もあった。暴挙を目の当たりにしてもなおトランプ氏に見切りを付けられない党内状況がある。 ただ、2019年にウクライナ疑惑を巡り弾劾訴追決議案が可決された際には、共和党は出席議員全員が反対に回っている。政治的影響力の維持を狙うトランプ氏の思惑が揺らいでいることは間違いない。 決議は無法行為を意図的に助長したと指摘し、「米政府への反乱を扇動し、重罪と不品行を働いた」と非難する。 トランプ氏は、選挙に不正があったと根拠のない主張を繰り返し、結果を覆そうと試みてきた。議事堂の占拠につながった6日も、敗北を認めないと支持者に訴え、議事堂へ向かうように呼び掛けている。 乱入の際はテレビ中継を見続けていたとされ、占拠を批判しなかった。最近は暴力に反対する姿勢を示しているが、自身の責任は認めていない。 決議は上院に送付され、本会議で弾劾裁判が開かれる。開始はバイデン政権が発足する20日以降の見通しという。残り任期中に権力を乱用する危険性を排除するために早急に開くことが模索されたようだが、弾劾成立には時間が足りないと判断したとみられる。 24年大統領選へのトランプ氏再出馬阻止へ向けた政治的な思惑も指摘される。有罪評決となれば、将来公職に就くことを禁じる措置も想定しているとも伝えられる。 有罪・罷免には出席議員の3分の2の賛成が必要となる。共和党内にはトランプ氏に対する不満や不信があるとも言われる一方、岩盤支持層は健在との見方もあり、議員がどの程度同調するかが注目される。 もっとも、バイデン新政権も弾劾にばかり力を注いではいられない。上院で閣僚人事の承認を取り付け、新型コロナウイルス対策をはじめ課題への対応は急務だ。 就任式に向け、武装したトランプ派が抗議活動を行うとの情報があり、首都ワシントンは厳戒態勢が敷かれているという。平和的な政権移行が当面の課題というのでは、民主主義の盟主として、あまりにも情けなく、分断解消の厳しさが浮き彫りになる。
新型コロナウイルスの感染拡大は特に都市部で歯止めがかからない。政府はコロナ特別措置法に基づく緊急事態宣言を新たに7府県に再発令した。対象地域は首都圏4都県と合わせ計11都府県になる。 首都圏や関西圏では、陽性と判明しても入院先や療養先が決まらずに自宅で待機せざるを得ない人が急増している。医療機関や宿泊療養施設が受け入れられないためだ。待機中の症状悪化が懸念される。 医療提供体制の強化は急務だ。医療崩壊を招かないために、感染者数を減らす対策の実効性を上げることが求められる。 菅義偉首相は7日に首都圏の再発令に踏み切った。首都圏4知事の検討要請を受けてからだ。経済を重視して状況認識が甘くなり、対応の遅れが指摘された。 今回の再発令も、関西3府県の知事から宣言対象に加えるように求められてからの動きとなった。判断を先延ばしして対応が後手に回ると感染をさらに拡大させてしまう。 菅政権には厳しい視線が向けられている。共同通信社の世論調査で内閣支持率は41・3%に下落した。政府のコロナ対応を「評価しない」は7割に迫る。1都3県への宣言再発令は「遅過ぎた」が8割近い。 政府が感染防止策に、飲食店の時短営業や外出自粛、テレワークの促進などを求めていることへの評価も低い。感染拡大の抑え込みを「期待できない」が7割を超える。 確かに、こうした取り組みだけでは不十分とする見方もあるだろう。ならばなおさら、データに基づいた説明と感染抑制へ向けた政府の強い意志を示すことが必要となる。 しかし、情報が伝わっていない。そのいらだちが、こうした冷ややかな反応に表れているのではないか。国民の信頼と協力がなければ感染防止は期待できない。世論としっかりと向き合い、説明を続けて理解を求めることが欠かせない。 通常国会ではコロナ特措法改正案が審議される。現行法は、知事による時短営業などの要請、指示に強制力はなく、補償規定もない。首相は給付金と罰則をセットにして実効性を高める意向を示す。 改正案概要には、緊急事態宣言発令の前段階として「予防的措置」の新設を盛った。宣言前でも予防的措置下なら、知事が時短営業の要請に応じない事業者に「命令」でき、拒めば行政罰の過料を科すとする。 対応が後手に回るのを回避したい、何としても実効性を高めたいという思いがあるのだろう。しかし、私権制限を罰則を付けて行う内容であり、慎重な検討が求められる。 厳しい経営状況を改善したいという経営者側の思いと罰則とは相いれない。やはり前提はしっかりとした補償の義務化だろう。 特措法は、対策のための国民の権利制限は必要最小限でなければならないと書く。世論調査では罰則導入に反対が48%、賛成は42%と、判断の迷いがうかがえる。拙速を避け、議論を重ねることが基本だ。
イランが今月、核関連施設でのウラン濃縮度を20%に引き上げた。「イラン核合意」の制限を大幅に破り、核兵器級のウラン製造が容易になるレベルだ。 米バイデン次期政権が20日に発足するのを前に強硬策に及んだ。制裁解除への道を自ら険しくするような愚かな行為と言えよう。 イランは核を挑発の道具に使うことを直ちにやめねばならない。 イラン核合意は2015年、イランと米英仏独中ロとの間で結ばれた。イランが核開発を大幅に制限する見返りに、米欧などが制裁を解除するとの内容だ。しかし、米トランプ政権は18年、一方的に合意から離脱し、制裁を強化した。 イランは対抗措置として19年5月に合意履行を停止すると表明。20年1月にはウランの濃縮活動を無制限に進めると宣言していた。 これまでも合意で認められた濃縮度の上限3・67%を破っていたが、今回は核開発の疑念を再燃させる違反だ。濃縮度を20%にまで高めると、核兵器級となる90%の高濃縮ウラン製造が技術的に容易になる。 米政府は「核による恐喝だ」と批判している。バイデン次期政権は合意への復帰方針を示しているが、イランの制限順守が前提である。 米議会の反発は必至で、合意復帰への道はさらに険しくなった。 イランは米国との交渉で優位に立ち、制裁解除を迫ろうとウラン濃縮というカードを切ったのだろう。とはいえ、激しく対立してきた米トランプ政権は間もなく終わる。 本来なら米国の政策転換を見据えて挑発を見合わせるべきタイミングだった。イラン指導部が期待していた早期の制裁解除は、より困難になったと言わざるを得ない。 イラン国内で核合意に否定的な保守強硬派の力が増している。 国会では昨年12月、穏健派ロウハニ政権の反対を押し切り、核開発拡大を政府に義務付ける新法が成立した。濃縮度引き上げはその一環だ。 米国の制裁でイラン経済は苦境にあり、国民の不満が保守強硬派への支持につながっている。今後も彼らが国際協調を無視し、力を見せつけようとする行為が懸念される。 イランでは昨年11月、敵対するイスラエルの関与が疑われる核科学者暗殺事件が起きた。イスラエルとの対立が先鋭化していることも、保守強硬派の発言力を高めている。 アラブ首長国連邦(UAE)やバーレーンなどアラブ諸国とイスラエルは長年、パレスチナ問題を巡り対立してきた。ただ、イランへの脅威で利害が一致し、米国の仲介で国交正常化が進んでいる。「イラン包囲網」は強まっている。 中東の緊張が高まる恐れがある。イランを孤立させるのではなく、対話再開によって国際社会に復帰させる道を探るべきだ。 米国は核合意への復帰を諦めず、関係国と連携して粘り強く交渉し、イランを対話のテーブルに着かせる必要がある。核兵器の保有に突き進むことを防がねばならない。
政府は昨年12月、「グリーン成長戦略」を発表した。菅義偉首相が宣言した「2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにする」との目標の実行計画といえる。 産業別などで14の重点分野に分けて、現状や課題、海外の情勢、今後の予算、税制の方針などを盛り込んだ。「成長戦略」は内容を「経済と環境の好循環をつくっていく産業政策」とうたう。それぞれの産業で次第に取り組みが始まろう。 地球温暖化が原因とみられる災害は世界で相次いでいる。温室効果ガスの削減は喫緊の課題だ。経済的な成長を図る上で、今や環境面に配慮する姿勢は欠かせない。 「成長戦略」の中で注目されたのが、自動車業界である。「2030年代半ばまでに乗用車の新車販売を全て電動車にする」と年代を示して方向性を打ち出した。 海外では、欧米や中国が電気自動車(EV)にシフトし、「脱ガソリン車」を鮮明にしている。 英国はガソリン車とディーゼル車の新規販売を30年までに禁止し、電気モーターとガソリンエンジンのハイブリッド車(HV)の新規販売も35年までに禁止する方針だ。米カリフォルニア州は35年までにガソリン車の新規販売を禁止する。中国も急速にEVを普及させている。 この流れに追随できなければ、日本の自動車産業は海外の市場を失うことになりかねない。自動車の関連産業の裾野は広い。対応を誤れば、多くの業界が打撃を受けることも考えられる。 気掛かりなのは、「成長戦略」が電動車をEV、HV、水素で走る燃料電池車などとしている点だ。HVはガソリンを使うため二酸化炭素(CO2)を排出する。海外の流れとは、やや異なる。 電動車にHVを含めたのは、トヨタ自動車への配慮とみるのが自然だろう。世界市場をにらんで各社が電動化を進める中、いち早くHVを開発して業界をリードしてきた。日本国内の新車販売のうち、HVが3割以上を占めている。 「成長戦略」の発表前、日本自動車工業会会長でもある豊田章男トヨタ社長は「EVを急速に普及させても生産過程でCO2が排出される」と述べ、日本の実情を踏まえて電動化の議論を進めるよう求めた。 豊田氏が指摘したように生産過程の問題は残るし、化石燃料による電力でEVを走らせても問題の解決にはならない。改革を迫られているのは、自動車産業ばかりではないということもできる。 EVの普及には課題も多い。価格は普通車だとガソリン車がEV、HVより安い。新車販売の約4割を占める軽自動車も電動化となれば、価格上昇は避けられない。メーカーは当然、技術開発のコスト負担を迫られる。充電設備や水素ステーションの増設も必要となる。 自動車産業には難しい選択となろうが、温暖化問題への対応は避けて通れない。官民で海外に対抗していく意識が欠かせない。
新型コロナウイルス特別措置法の改正に向け、政府が与野党との調整を急いでいる。近く召集される通常国会で早期成立を図る方針だ。 ただ、既に感染「第3波」の拡大に歯止めがかからず、首都圏1都3県を対象にした再度の緊急事態宣言が先行した。これまで時間があったにもかかわらず、論点の整理や本格的な検討を怠ってきた政府はここでも泥縄対応の批判を免れまい。 現在の特措法は、都道府県知事による休業や営業時間短縮の要請、指示に強制力がなく、私権制限への補償規定もないことが早くから論点として浮上していた。 全国に緊急事態宣言が出されていた昨春は、パチンコ店が休業に応じない例が多発。効果に限界を感じた全国知事会は、実効性を担保するための罰則規定や補償の明記などの提言を重ねてきた。 これに対し、安倍前政権と菅政権は法改正のタイミングは「事態収束後」という認識で議論を先送り。先の臨時国会でも野党4党が改正案を共同提出したが、会期延長に応じず閉会している。 唐突に方針を転換したのは第3波の感染拡大が止まらず、高まった後手批判への焦りだろう。だが、本来ならこうした事態も想定して法整備をしておくのが政府の責務だ。認識の甘さを猛省すべきである。 感染拡大を抑止するためには、知事による要請の実効性を高める法改正は必要だ。ただ、焦点となっている休業や時短の要請に従わない事業者への罰則導入は、慎重な吟味が求められる。 菅義偉首相は記者会見で「罰則で強制力を付与し、より実効的な対策を可能にしたい」としている。政府は行政罰である過料を科すことなどを想定しているようだ。 与党側は、休業や時短に応じた事業者との公平性を保つ観点から罰則に理解を示している。かたや野党側は財産権など国民の権利侵害を懸念して慎重姿勢を崩しておらず、溝が埋まるかどうかは見通せない。 特措法は、個人の自由や権利の制限を「必要最小限のものでなければならない」と定めている。 私権制限は憲法とも絡む重いテーマである。政府のコロナ対策分科会のメンバーにも「本来は国民に幅広く意見を聞くべき課題だ」と懸念する声があるのは当然だろう。 一方、要請に応じた事業者への財政支援に関しては、既に自治体が国の交付金を充てる枠組みがある。政府が検討している新設規定の内容はまだ不明だが、野党には補償水準を重視する意見も出ている。 政府は今回の感染拡大抑止策の「急所」を飲食店とするが、長引くコロナ禍に苦しい経営を強いられている事業者は多い。 罰則よりも補償の義務化を優先させたい野党には「合意できるところから改正を」との指摘もある。検討に値する考え方ではないか。罰則に関しては、議論できる時間を浪費してきた政権側が、強引かつ性急に結論を出すことがあってはならない。
あすは「成人の日」。2000年生まれの20歳の新成人は全国で約124万人。県によると、県内では約5300人が大人の仲間入りをした。 本来なら全国各地で成人式が華やかに行われただろう。しかし新型コロナウイルスの感染拡大で、式典の中止や延期が相次いでいる。 県内でも例年のように集うことがかなわず、悔しくて残念な思いをしている新成人は少なくないだろう。 コロナ禍で、20歳の君たちの生活も大きな影響を受けているはずだ。 学生ならば、リモート学習ばかりで人との交流がなかったり、アルバイトを失って生活費に困ったり。 仕事に就いていれば、収入が減ってしまったり、雇い止めを心配している人もいるだろう。 コロナ後も、先が見通せない不確実性の時代が予想される。 将来の不安は大きいだろうが、君たちがこれからの時代の主人公だ。 若さの持つ可能性は限りなく、社会を変革していける。自分らしく人生を切り開いていってほしい。 世界で人工知能(AI)やビッグデータを活用する「第4次産業革命」が進んでいる。 君たちは物心つく頃からインターネット環境やスマートフォンが当たり前にあった。「デジタルネイティブ」と呼ばれる世代だ。 テクノロジーを使いこなし課題を解決しながら、社会を変える仕組みに応用する先頭に立てるだろう。 地球温暖化による「気候の危機」が深刻になっている。若い世代は将来、これまでのつけを払うように気候変動の悪影響をまともに受けかねない。 日本も50年に温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを宣言した。環境に大きな負荷を掛けてでも便利な生活を追求する。そうした価値観を変えることが急がれる。 同年代の環境活動家、グレタ・トゥンベリさん(18)が始めたように、上の世代に責任を問い、対応を求める行動は当然と言えよう。 若者の生活の一部ともいえる会員制交流サイト(SNS)は、今や世の中を動かすような意見表明の手段になった。 性被害を告発し連帯する「#MeToo」運動は世界的な広がりを見せた。若者たちがSNSを通じて声を上げ、社会の不平等や格差を是正していく取り組みが期待される。 中国から香港の自治を守るため、香港民主派の若者たちもSNSを使って海外に支持を呼び掛けてきた。 しかし「民主の女神」といわれた周庭さんらが収監され、民主派を壊滅させるための大量逮捕など弾圧がすさまじい。今も同世代が闘っているこの問題もよく知ってほしい。 今年は衆院選が実施される。19年7月の参院選では県内の18、19歳の投票率は20%台前半にとどまった。 自分たちの生活と政治がいかにつながっているか。コロナ禍のような非常時こそ肌身で感じられる。 その疑問や思いを出発点にして政治に参加しよう。選挙に行き、自分の大切な一票を投じよう。
米大統領選を巡り、トランプ大統領の支持者らが連邦議会議事堂を占拠し、死傷者が出る事態となった。議事堂では、バイデン次期大統領の当選を正式に認定する手続きが行われていた。 民主主義の象徴であるはずの議事堂に選挙結果を受け入れようとしないデモ隊が乱入し、暴力によって議事を妨害する。意見や立場の相違を認めないトランプ政権下で形成された憎悪と分断が、このような形で噴き出してしまった。 政権移行の手続きを平和的に行えないことは、国内対立の溝の深さを見せつける。修正は簡単ではないだろう。トランプ氏の政治手法は米国の威信を大きく傷つけた。 大統領選の不正は司法の場でも否定されている。しかしトランプ氏は、乱入の前に開いた大規模集会でも敗北を認めない意思を示している。その上で、参加者に議会へ向かうよう呼び掛けた。一部が窓ガラスを割って議事堂内に侵入することになり、選挙結果を覆すように扇動したと批判されている。 これまでにも、選挙自体を否定するトランプ氏側と、それに抗議するバイデン氏支持者との衝突が起きている。事実をねじ曲げるトランプ氏の発言が混乱を招いてきた。 トランプ氏の支持者には、事実関係にかかわらず氏の発言をうのみにしたり、根拠のない陰謀論を信じたりする勢力があると指摘される。トランプ氏は民主主義の弱体化につながる動きに、さして警戒感を示してこなかった。 今回も事態の収拾を図るメッセージは発したが、占拠は批判しなかった。翌日に「暴力や無法に憤っている」と批判しても自身の責任には言及しない。あまりにも無責任だ。 高まる大統領解任への圧力を受けて、ようやくバイデン氏勝利を認めたが、米政治史に大きな傷痕を残してしまった。 トランプ氏は共和党支持者から高い支持があった。議員も対立を避けていたが、事態を受けて閣僚の辞任など離反の動きが出ている。孤立化が進むとみられる一方、前回選挙より得票を伸ばしており、一定の影響力は残ると想定される。 共和党はこの4年をどう総括し、民主主義の発展に寄与するのか。今後の在り方を示す必要がある。 連邦議会はバイデン氏の当選を正式に認定した。 注目された南部ジョージア州の連邦上院2議席の決選投票は、民主党候補がいずれも勝利を確実にした。 これで下院に加えて上院でも多数派を占めた。新政権の閣僚人事の上院承認も順調に進むことになる。ねじれ解消により新政権は優先課題に大胆に取り組むことができる。 経済構造の変化から取り残された労働者や、政治家やエリート層に不信感を抱く市民たちがトランプ氏の支持層と言われた。そうした人々と関係を築くことは不可欠だ。一方、党内左派が主張を強めている。対話を通したきめ細かな施策で融和の道を探るしかない。
東京都と埼玉、千葉、神奈川3県を対象に、新型コロナウイルス特別措置法に基づく緊急事態宣言が再発令された。期間は8日から2月7日とした。 全国の感染者数が連日最多を更新し、医療現場の負担は限界に達しつつある。再発令は遅きに失した感が否めない。それでもここで踏みとどまるために国、自治体、住民が心を一つにして危機意識を高め、対策に取り組む必要がある。 昨年4月の1回目の発令と異なるのは、感染リスクが高いとされる飲食の場に重点を置くことだ。 飲食店に午後8時までの営業時間短縮を要請。応じない場合は施設名を公表する。時短に応じた店に支払う1日当たりの協力金の上限を現行4万円から6万円に引き上げる。 一方で小中高校の一斉休校や、イベントの全面的な自粛は求めない。保育所や学童保育も原則として開所する。これまでの経験で、学校教育などは感染リスクが低いとされているからだ。 新型コロナに関して積み重ねてきた知見に基づき、対策を講じていくことは必要だろう。ただし、菅義偉首相が言う「限定的、集中的」な対策で、十分な効果を上げられるかどうかについては疑問符もつけられている。 京都大の西浦博教授(感染症疫学)の試算によると、昨春の宣言時に近い厳しい対策を講じても東京の1日当たりの新規感染者が100人以下に減るまでに約2カ月かかる。飲食店の時短を中心にした対策のみの場合、感染者は2カ月後も現状とほぼ同水準にとどまるという。 政府は新たな基本的対処方針に、感染拡大防止を最優先にすると明記した。従来の経済活動との両立からの転換と言える。半面、飲食の場などに絞り込む対策には、経済への打撃を和らげたい意向もにじむ。中途半端にも映るやり方で、本当に「第3波」を沈静化できるのか。政府の説明が十分だとは言えない。 感染防止には人と人との接触を減らすことが最も効果的だ。これまでに多くの国民が実感していよう。政府も飲食店への重点対策以外に、午後8時以降の不要不急の外出自粛や出勤者数の7割削減、テレワークの推進などを求めている。 感染リスクを減らすために国民一人一人がいま一度、制約のある生活を我慢し、できる限り行動を変えていくことが大切だ。 政府も今後の感染状況に応じて、緊急事態宣言の対象地域の拡大や期間の延長、感染対策の一層の強化などに臨機応変に取り組むことが欠かせない。 むろん地方も無縁ではない。 専門家は大都市圏の感染拡大が地方にも影響している、と指摘する。本県も重症者や中等症者が減っておらず、医療への負担が懸念される。県の対応レベルも「特別警戒」を維持したままだ。 緊急事態宣言を決してひとごととせず、緊張感を持って「3密」回避などの対策を続けたい。
本紙に「コロナなかりせば…」が随時掲載されている。 新型コロナウイルスの感染拡大で、昨年は県内各地のイベントが軒並み中止に追い込まれた。人々の歯がみするような思いを伝えている。 どの地域も活性化への思いが熱い。しかし、先は見通せず、「コロナなかりせば…」の状況は続く。 一方で、コロナ禍が生んでいる「地方志向」を注視したい。都会に住む人が感染リスクを考えたり、生き方や価値観を見直したりして、地方移住への関心が高まっている。 本紙記事によれば、既に県内でも動きがある。「地域おこし協力隊」を募集している27市町村のうち10市町村で隊員の応募が増えている。 大都市の企業で在宅勤務が広がったことでも、地方移住が現実味を帯びてきた。 政府は先月、地方でのテレワークを推進する地方創生施策の改定案をまとめた。地方に企業のサテライトオフィスを整備する自治体を交付金で支援するなどの内容だ。 全国の自治体が「テレワーク移住」の呼び込みに乗り出している。本県も独自色を打ち出して、後れを取らずに取り組む必要がある。 県人口は昨年10月、69万人を割った。死亡数が出生数を上回る自然減が拡大しており、転出が転入を上回る社会減も続いている。 人口流出に歯止めをかけ、Uターンなどを促す施策も待ったなしだ。 そのためには、国が主導して地域間で差のない通信インフラを整備することが大前提になる。 定住が具体化できるような住宅や土地の整備も分かれ目となろう。 若者や子育て世代のニーズに応える施策を展開するには、女性の政治参画を進めることも欠かせない。 しかし、本県の県議会と市町村議会の総定数に占める女性議員の割合は12・6%にとどまる。 なぜ政治に関われないのか。課題を洗い出し、女性の力を取り入れる努力が急がれる。 コロナ禍によって本県の雇用や経済は極めて大きな打撃を受けた。 生活の困窮が進んでいる。高知市では、市民が特例で借り入れた国の生活福祉資金の総額が31億円を超えている。償還が始まる時期に生活破綻が頻発することも懸念される。 乗客の減少で、公共交通機関を取り巻く環境は一層悪化した。 土佐くろしお鉄道は2020年度の経常赤字が過去最大の7億1千万円余りに膨らむ見込みだ。 とさでん交通の路面電車は今月、費用圧縮のため大幅な減便に踏み切る。高知市は実質1億円を投入し、事業継続を支援する。 インフラをどう維持し、県民生活をいかに守り抜くか。浜田省司知事は正念場を迎える。 コロナ禍で家族や友人、職場や近所の人ら、身近なつながりの大切さを痛感している人も多いだろう。 そうした支え合う人の関係が高知の財産だ。それらを生かしながら、将来も持続可能な地域像をどう描くか。皆で知恵を絞らねばならない。
新型コロナウイルスの感染拡大が続く首都圏1都3県を対象に、政府は新型コロナ特別措置法に基づく緊急事態宣言発令を7日に決定することになった。 再発令に慎重だった菅義偉首相が方針を転換した。まん延を止めなければ経済活動の本格的な再開は難しい。判断の遅れを真剣に受け止め、国と自治体が連携して実効性を高めることが求められる。 緊急事態宣言の発令は昨年4月に続き2回目となる。これまでの間、外出自粛やテレワークなど国民の行動変容は感染拡大防止へ一定の成果を上げ、医療現場では献身的な対応がとられてきた。 しかし、11月前半には「第3波」の流行が本格化する。政府が重点的対策を呼び掛けた11月下旬からの「勝負の3週間」でも東京都などでは人の動きが減らず、感染拡大は止まらなかった。 昨年の大みそかには新規感染者が都で初の4桁となったほか、3県とも過去最多を記録した。感染拡大の勢いで医療体制の崩壊が現実味を帯びるようになり、4都県の知事は1月2日、宣言再発令の速やかな検討を要請した。 感染が拡大する中で政府の対策が後手に回ることには批判が強く、内閣支持率の低迷につながっている。観光支援事業「Go To トラベル」でも全国一時停止は意思決定の遅れが指摘された。 今回も4知事の要請を受けての発令の検討表明となったことで、菅政権への打撃は避けられそうにない。それだけになおさら、再発令を感染抑え込みの有効な対策につなげるよう着実に取り組むことを求めたい。 全国の新規感染者のほぼ半数を4都県で占める。首相は、感染拡大が飲食の場で起きている場合が多いとし、「限定的、集中的に行うことが効果的だ」との認識を示した。期間は1カ月ほどとみられ、前回のようには幅広い分野での活動自粛を求めることはない方向とみられる。 4都県は、午後8時以降の外出自粛や飲食店に午後8時までの時短営業を要請する方針という。都が先に要請した閉店時間の前倒し要請は人の流れの減少につながっておらず、首相は取り組みの不十分さに不満感をにじませた。意思疎通が不十分では宣言の効果を最大化できない。 給付金と罰則をセットにしたコロナ特措法改正案を通常国会に提出すると首相は明言した。飲食店にしっかりした補償があれば安心感は高まる。一方、営業時間の短縮要請に応じない店への罰則規定の導入には慎重な対応が求められる。 トラベル事業の全国一時停止は間もなく期限を迎える。首相は再開は難しいとの認識を示した。地域経済へのさらなる打撃が想定される。2020年のコロナ関連の解雇や雇い止めは8万人近くに上った。きめ細かな対応が必要となる。 コロナ対策にとどまらず、首相が自らの言葉でメッセージを伝えることが国民の理解につながる。説明を軽視してはならない。
「経済を回す」。新型コロナウイルスの感染が広がった昨年、何度この言葉を聞いただろう。 世界が未曽有の不況に陥り、日本でもほとんどの業界が苦しんだ。他人との接触や移動の自粛と生活様式を変えることが呼び掛けられ、経済活動に深刻な影響が及んだ。 対策として政府は、個人に一律で現金10万円を給付したものの、実際に消費に回ったのは1人当たり1万円程度だったとの証券会社の試算がある。日銀がまとめた昨年7~9月期の資金循環統計では、家計の金融資産残高は9月末時点で過去最高の1901兆円まで積み上がった。 自粛呼び掛けに協力し、消費を手控えた結果が如実に表れている。不調となった経済を以前のように回すのは、容易なことではない。 2月にも始まるというワクチン接種に期待が寄せられている。むろん新型コロナの収束は見通せない。社会を覆い尽くす不安に向き合い、どう克服していくか。各国の政府や企業はもちろん、私たち一人一人にとっても、ことしの大きな課題になるのではないか。 国際通貨基金(IMF)はことしの世界経済見通しで、5・2%の成長率を見込んでいる。前年に大きく落ち込みマイナスとなった反動でプラスになるとみている。 先行きが見えにくい時には、楽観は排する必要がある。とはいえ、専門家の間には、ワクチン開発など医療体制の整備が急速に進めば、景気回復は加速するとの見方もある。必要な手だてを講じながら、経済を回復させる対策を慎重に進めることが求められる。 昨年は協調を目指す新たな貿易ルールづくりが相次いだ。 日本、中国、韓国や東南アジア諸国連合(ASEAN)、オーストラリアなど15カ国が「地域的な包括的経済連携(RCEP)」協定に署名した。英国と欧州連合(EU)は新たな自由貿易協定(FTA)など将来関係を決める交渉で合意した。 RCEPの交渉では、インドが対中関係の懸念から離脱した。中国とオーストラリアは貿易などで応酬している。国同士の対立は残り、バイデン氏が大統領に就任する米国と中国の関係も気になるが、利益を重視して摩擦より協調を模索する動きは続いている。 「GAFA」と呼ばれる巨大IT企業に、規制を強めた欧米や日本など各国政府はことし、どう対応するか。米国のグーグルやアップルなどインターネットの検索エンジンや会員制交流サイトといったサービスの基盤(プラットフォーム)を提供する4社は、巨額の収益を上げて市場で影響力を強めている。競合企業を買収するなどして公正な競争を阻害した、とみられている。 利潤を追求する姿勢は企業に不可欠だとしても、提供するサービスが今や世界の人々の暮らしに欠かせなくなっている点での自覚はどうだろう。国家ばかりでなく大企業にも、広く社会に安心感をもたらそうとする姿勢が欲しい。
米国は20日、第46代大統領にバイデン氏が就任する。米国第一で独善的な行動に突き進んだトランプ政権に終止符が打たれる。民主主義に基づく新たな国際秩序の構築へ、その手腕が試される。 世界最多の感染者を出す新型コロナウイルスの抑え込みが最優先課題となる。しばらくは内向きの対応とならざるを得ないだろう。 しかし、コロナ対策だけがその理由ではない。米国が強大な国であることは変わりないが、その足元は分断と対立が深まっていることを選挙戦は見せつけた。 選挙不正を言い募るトランプ大統領の動向は不透明ながら、何より選挙で前回を上回る7400万票を集めたことは見逃せない。グローバル化で広がった格差の是正を求める人々の支持を受けた。一方には左派勢力が急伸する。分断解消の国内調整は簡単ではない。 さらに、新大統領の就任に先立つ5日にはジョージア州の上院議員選挙がある。結果によっては政権運営が難しくなることが想定される。 バイデン氏は地球温暖化対策のパリ協定や世界保健機関(WHO)など国際的な枠組みに復帰する意向を示す。国際社会はトランプ政権下での混乱との決別に期待感が先行するが、動きは緩慢かもしれない。 米国の優位性の後退に合わせて、対立する中国の台頭が進む。覇権を握る動きは、香港の自治への容赦ない攻撃にも表れた。 海洋進出を図る動きにも警戒が必要だ。ことしは沖縄県・尖閣諸島の実効支配を狙い、行動をエスカレートさせる可能性も指摘される。 バイデン氏は菅義偉首相との電話会談で、尖閣への日米安全保障条約の適用を表明している。 中国公船は2008年に尖閣領海内に初侵入し、10年には中国漁船が海上保安庁の巡視船と衝突した。条約適用を公言しないとする米政権の姿勢が背景にあったとされる。適用表明は中国の動きをけん制すると同時に、日米同盟に対する日本側への期待とも受け取れ、軍事一体化への要請が強まることも想定される。 一方、中国は存在感を増す経済力を背景にして、相手国をけん制する動きをさらに強めている。 尖閣での衝突で中国人船長を逮捕した際には、レアアース(希土類)の輸出制限で対抗した。昨年は、オーストラリアが新型コロナウイルスの発生源を巡り、独自調査を求めたことに貿易上の制裁を科した。 トランプ政権は中国への制裁措置を相次いで発表した。米国内で対中強硬論が強まる中、バイデン氏も対中政策を軟化させにくい。同盟・友好国との連携を強化して中国に対抗する狙いのようだが、それだけに日本の外交努力が重要となる。 日米同盟は日本外交の基軸である。一方で、対中貿易の占める割合は大きい。米中対立に巻き込まれない知恵が何より求められる。日本を取り巻く国際環境の一側面を見るだけでも日本の立場は微妙だ。独自の立ち位置をしっかりと考えたい。
ことしは10月に衆院議員の任期満了を迎える。解散・総選挙が確実に行われ、菅政権が初めて国民の信を問う年になる。 憲政史上最長になった安倍政権の継承を掲げ、菅義偉首相が就任して3カ月余りが過ぎた。 「国民のために働く内閣」を打ち出し、66%を超える高い内閣支持率で滑り出した菅政権だが、報道各社による昨年12月の世論調査では支持率が軒並み急降下している。 最大の理由は、諸課題に対して首相の説明姿勢が乏しく、自らの言葉で国民にメッセージを十分発信していない現状にありはしないか。 直面する新型コロナウイルス対策でもそれは際立っている。 観光支援事業「Go To トラベル」は先月28日から全国一律に一時停止した。ただ、それまでは一部の都市を対象にした小出しの対策に終始。感染拡大防止策を強化するよう専門家に強く提言され、仕方なく受け入れた印象が否めない。 感染拡大防止と経済再生をどう両立するかは難しい判断にせよ、それぞれにどういう現状認識、危機感を持っているのか。記者会見を開くことも少ない首相からのメッセージが国民に届いているとはいえまい。 国民が納得して政策に従うには、リーダーの責任ある言動と、それに対する信頼感が必要だ。国民的な協力が効果を生むコロナ対策ではなおさらだろう。 説明を軽視する姿勢は、先月閉幕した臨時国会で議論になった日本学術会議会員の任命拒否問題にも表れた。候補6人の任命をなぜ拒否したのか。問題の核心はいまだに説明されないままだ。 異論を封殺し、国民の代表が集う国会ですら説明責任を果たさない姿勢が続くようなら、安倍前政権と変わりはない。菅首相の早急な軌道修正を求めたい。 政権に緊張感を与え、批判の受け皿となるべき野党勢にも強い自覚が必要な年になる。 昨年9月、立憲民主党と国民民主党などが合流して新しい立憲民主党が結成された。ところが、原発政策などをめぐり次期衆院選公約の作成作業は遅れているようだ。 繰り返し指摘してきたことだが、有権者に「選択肢」として信頼を得たいのであれば、政権を任せるに足ると思えるだけの社会の在り方を提示し、浸透を急ぐべきである。 有権者の側も近年、政治を諦めていないかが気になる。 安倍前政権が発足した2012年以降、3回の衆院選はいずれも50%台の低投票率で推移。3回の参院選も5割前後で、19年は48%台と半数以上が投票に行かなかった。 英国の歴史家、トマス・カーライルは「この国民にして、この政府」という警句を残している。政治に緊張感を与えるのは国民だと肝に銘じたい。 コロナ危機は、政治の判断が国民の命や生活に直結することを浮き彫りにしている。国民と政治の「距離感」を埋める年にしたい。
2021年が始まった。 心機一転、新たな一年に立ち向かう気持ちを高めたいところだが、どうにも軸足が定まらない。そんな思いを抱いている読者も少なくないのではないか。 新型コロナウイルス感染拡大で1年延期された東京五輪・パラリンピックは今夏、開催される予定だ。ところが昨年末の世論調査では、「中止」や「再延期」を求める声が計6割にも上った。 開催したいのはやまやまだが、感染収束の見通しが立たない中ではもろ手を挙げて賛成はできない。揺れる思いが見て取れる。 感染をコントロールする役割が期待されるのがワクチンだ。政府は早ければ2月下旬にも接種を始めるスケジュールを検討しているが、これも安全性や有効性が長期的に保たれるのか。分からない部分もあるだけに、過度な期待はしづらいのが実情ではないか。 先が見通せない不安がずっとついて回る。いつ何が起きてもおかしくない。まさに「不確実性の時代」。1970年代に米国の経済学者ジョン・ケネス・ガルブレイスさんが提唱した言葉が思い出される。 前世紀なら資本家は資本主義の繁栄に、社会主義者や帝国主義者もそれぞれの主義の成功を確信していた。しかし、現在はそうした確実性は残っていない―。そう指摘したガルブレイスさんも「真の民主主義があれば、よい社会は間違いなく存続する」との信念は変わらなかった。 今やその民主主義が揺らぎ始めている。 昨年の米大統領選。現職のトランプ氏は前副大統領のバイデン氏に敗れたが、「投票に不正があった」と言い募り敗北を受け入れていない。選挙無効を訴えた法廷闘争に敗れたにもかかわらずである。 選挙結果や司法の判断を受け入れないのは、民主主義の土台を壊すことだ。民主国家のリーダーとしてあり得ない振る舞いである。 香港で起きていることもそうだろう。中国の意向を受けて民主派らの逮捕、弾圧が続いている。香港に高度の自治や司法の独立を認めた「一国二制度」が、侵食され続けることに懸念を禁じ得ない。 国内に目を転じても同じだ。 森友、加計学園問題や「桜を見る会」の疑惑。権力を持つ者やそれに近い者が恣意(しい)的に政策を動かしたり、便宜を受けたりしていないか。日本学術会議の会員任命拒否問題では、学問の自由を脅かす横暴がまかり通っていないか。国民の疑念や不信はくすぶり続けていよう。 米国ではバイデン新政権が間もなく発足する。地球温暖化防止のパリ協定やイラン核合意への復帰など国際協調に立ち戻り、民主主義の機能を再び強化する道を歩む。日本は米国と歩調を合わせて、その流れを強めたい。 民主主義の土台が壊れそうならもう一度築き直して、その確実性を高める。そのスタートとなる一年にしなければならない。
全国の公立小学校で現在、1学級40人の児童数の上限が35人に引き下げられることになった。2021年度から5年かけて、25年度に全学年を35人学級とする。 21年度予算案を巡る閣僚折衝で、萩生田光一文部科学相と麻生太郎財務相が合意した。文科省は来年の通常国会に教員の上限人数を定める義務教育標準法の改正案を提出する。 公立小中学校の1学級の上限は、35人の小1を除いて、小2から中3まで40人となっている。教育現場は小中の少人数学級化を強く求め、文科省は年次計画を立て、教職員定数の改善を図ろうとしてきた。 公立小中への教職員の配置は義務教育標準法で決められる。独自で少人数学級を実現している地域もあり、高知県教委は04年度から少人数学級を広げている。民主党政権下、段階的に小中を一律35人学級とする計画があったが、実現は小1のみ。教員の人件費増を主張する財務省が長年、壁となっていた。 中学校は当面40人が続くものの、公立小の学級児童数の上限が一律に引き下げられるのは、1980年度に小中を45人から40人に引き下げて以来である。教育界にとっては前進といえる。 5人とはいえ人数を少なくすることで教員の目が一人一人に届きやすくなり、児童の変化に気付いたり、問題があれば早期対応できたりすることも期待できる。教育の質の向上につなげたい。 英語が小学生から教科となり、小中1人ずつ情報端末が用意される。時代の流れに応じて、きめ細かい指導が欠かせない。教員の負担が軽くなれば、指導力向上のほかにも波及効果が考えられる。 とりわけ「世界で最長」の仕事時間である。経済協力開発機構(OECD)による5年置きの調査で昨年、日本は小中とも教員の仕事時間が参加48カ国・地域で最も長いとの結果が出た。部活動、関係機関からの膨大な文書の処理に伴う長時間勤務が指摘されて久しい。 保護者への対応などもあり「過酷な職場」のイメージが教員志願者の減少を招く結果ともなった。35人学級を仕事の見直しに結び付ける取り組みが広がれば、志願状況の好転も考えられるのではないか。 いじめ、不登校への対応などに加えて新型コロナウイルスの感染防止も求められる昨今だ。人材を確保するには仕事の負担を軽くすることが欠かせない。 今回の決定の大きな要因となったのは、新型コロナである。「密」を避けるには少人数が有効と判断されたという。少子化により、35人学級としても教員の大幅増の必要はないとみられることもあった。 文科省が本来、目標としているのは国際水準に近い小中の30人学級である。財政面の重みは見過ごせないが、将来を担う子どもの教育では学校の在り方も重視したい。さらなる少人数化には、教育界が35人学級の効果を証明する必要がある。
児童虐待防止法の施行から20年。依然として、子どもへの虐待は深刻な状況が続いている。 児童相談所が対応する件数は一貫して増えており、昨年度は全国で19万3千件を超えた。県内も458件(前年度比38件増)と過去最多だった。 新型コロナウイルスの感染拡大で家庭環境に変化が起き、児童虐待が増える危険性も指摘されている。 子どもの変化に周りの大人が敏感になり、関係機関が連携して早めに虐待の芽を摘む必要がある。長期化と潜在化を防がねばならない。 児童虐待は身体、ネグレクト(育児放棄)、性的、心理的の4類型に分けられる。 心理的虐待が最も多く、件数の5割以上を占める。子どもの前で家族に暴力を振るう「面前DV(ドメスティックバイオレンス)」もこれに当たり、警察から児相への通告が年々増えている。 児童虐待は、配偶者間のDVと絡み合っているケースが多い。 過去の虐待死事件では、夫のDVで精神的な支配下に置かれた妻が子どもへの虐待に加担していた。 個別に対応するのではなく、家庭内の暴力として一体的に解決していく必要がある。児相と関係機関が情報を密に共有し、それぞれの専門性を生かすことが鍵になろう。 中でも配偶者暴力相談支援センターやDV被害者を支援している民間団体との連携を強めねばならない。 また児相などが介入しても、加害者が虐待の事実を認めない場合もある。体の傷やあざを科学的に分析する法医学者との連携も欠かせない。 幅広い分野の知見を活用する態勢を整え、加害者が隠そうとする虐待行為を見逃さず、子どもの心身を守る安全網をつくりたい。 特に被害が潜在化しやすい性的虐待への対応も強化する時だ。 昨年度は全国で2077件(1・1%)だが、専門家は「氷山の一角」と指摘する。厚労省は今年、実態把握に向けた調査に乗り出した。 性的虐待を受けた子どもは加害者から口止めされたり、自分のせいで家族がばらばらになりたくないと被害を訴えなかったりする。 そうした心理状態を理解し、被害を適切に聞き取ることが肝心という。児相や警察などの職員が専門性を高めるのはもちろん、学校や保育所でも性被害を受けた疑いのある子どもへの対応を知る必要がある。 低年齢で被害を受け、長期間繰り返されているケースも少なくない。被害の端緒をつかみ、早期の介入と支援につなげなければならない。 児童虐待防止法は虐待の通報を国民の義務としている。この20年で社会に意識は一定広まった。その大前提は「通報者の秘匿」だ。 しかし今月、高知署員が児童虐待の疑いで保護者宅を訪れた際、虐待情報の通報者を保護者に漏らしていたことが分かった。 こうした失態は通報控えを招こう。関係機関は改めて、通報者保護を徹底しなければならない。
英国と欧州連合(EU)は、新たな自由貿易協定(FTA)など将来関係を決める交渉で合意した。 無関税貿易は維持される。歩み寄らずに英国がEUを離脱すれば、欧州経済が混乱する恐れがあった。 今年1月末に離脱した英国には、年末までの激変緩和期間が設定されていた。それが切れる前にぎりぎりの妥結となった。ひとまず、互いが重要なパートナーだという現実を直視した格好だ。 対立した英周辺海域での漁業権を巡っては、EU側が現状の漁獲割り当ての25%を、5年半の移行期間を設けて英側に引き渡すことになった。EUは好漁場での操業を現状に近い状態で続けたいと訴え、英政府は海域支配を離脱の成果と誇りたい思惑が指摘された。 また、焦点の一つだった国家補助や環境基準など企業の競争条件を平等にする問題では、独自規定を決定できるものの、不平等が生じた場合は対抗措置の発動を可能とすることで歩み寄った。 EUにとって英国は主要貿易国であり、英国は全貿易の半分近くを対EUが占める。 新型コロナウイルスが猛威を振るい、欧州経済も大きな打撃を受けている。両者の分断を深めるような対応は得策ではない。 年明け後も英EUは無関税、数量無制限の自由貿易を維持する。両者間の航空路などはほぼ現状が維持されるが、ヒト、モノ、サービスの自由な移動は終了する。 検疫や原産地証明など国境手続きが必要となる。物流が円滑に行われるか不安が募る。 新型コロナ変異種が広がる英国からの入国をフランスが禁止したことで、英仏海峡の物流の要衝で多くのトラックが滞留する様子が先頃報じられた。合意なき離脱となれば、年明け早々から同じような光景が繰り返されていたかもしれない。 そうした事態は回避できそうだが、物流停滞への警戒感がぬぐい去られたわけではない。欧州に進出している日本企業にもEU内で部品を調達し、英国内の工場で組み立てている事例がある。サプライチェーン(部品の調達・供給網)に影響が出て操業停止などにつながらないよう万全の対応が必要だ。 日英間の経済連携協定(EPA)が来年1月1日に発効する。日EU間のEPAをほぼ踏襲した。英国のEU離脱による貿易面の混乱を回避するのが主な目的だったため生活への影響は限定的とみられる。 米国ではバイデン次期大統領が国際協調路線への復帰に意欲を示している。多国間の連携に欧州も無関係ではいられない。 今回のFTAは、これまでの単一市場での経済活動を弱める異例のものではある。しかし、主権を主張する英国と、新たな離脱国を出さずに結束を強めたいEUが対立の末、合意に達した。違いを乗り越えて、新たな協調関係を模索する再スタートとしたい。
新型コロナウイルス一色の2020年だった。「第3波」のただ中にある年末になっている。 振り返れば、東京五輪・パラリンピックの延期、全国に出された緊急事態宣言、小中高校の一斉休校…。 雇用や経済が受けた打撃も計り知れない。今後も予断を許さない状況が続くことを心するしかない。 無症状でも感染していれば、うつす可能性があるウイルス。「人との接触を減らす」が命題となった。 当初はマスク不足で混乱も起きた。政府からの「アベノマスク」は「税金の無駄遣い」と批判された。 「3密」「クラスター」「ソーシャルディスタンス」といった用語も瞬く間に定着。「テレワーク」や「オンライン授業」が広く行われるようになり、遅れていた日本のデジタル化が進んだ側面もある。 「自粛警察」に代表されるような社会の殺伐とした雰囲気も生んだ。感染者や医療従事者らへの心ない言葉は今も問題になっている。 災禍はコロナだけではなかった。 7月には熊本県の球磨川が氾濫するなど、九州で死者計77人を出した豪雨災害が起きた。 夏は今年も「災害レベル」の猛暑となり、熱中症の死者が相次いだ。 人々は気候変動からも「命を守る」対策を迫られている。 そんな中、高校生棋士の藤井聡太さんが最年少で二冠を獲得。快進撃に多くの人が元気づけられた。 漫画「鬼滅(きめつ)の刃(やいば)」は映画化もされて空前のブームに。鬼から人間の命を守る戦いが描かれ、テーマは家族愛。コロナ禍の不安と響き合った。 一方、理不尽に多くの命が奪われた殺人事件で死刑判決が相次いだ。 神奈川県の障害者施設で45人が殺傷された相模原事件。会員制交流サイト(SNS)を通じて若者の悩みにつけ込み、9人が殺害された同県の座間事件。 弱い立場にある人が狙われた。こうした事件がなぜ起きたのか。再び起こさないためにどうすればいいのか。社会全体で考える必要がある。 2020年は、差別や偏見は許さないという意思表明も目立った。 女子テニスの大坂なおみ選手は全米オープンで、白人警官らからの暴力や銃撃で亡くなった黒人の名前入りマスクを着用。人種差別問題に抗議し、2度目の優勝も果たした。 花を持ち、性暴力撲滅を訴える「フラワーデモ」は全国に広がり、性被害の勇気ある告発も相次いだ。 自治体で性的少数者のカップルを認知する制度の導入が進んだ。 これらの人権を尊重し、新しい時代を感じさせる動きを注視したい。 2021年もコロナと向き合わねばならない日々が続く。 作家の村上春樹さんは、対コロナを戦争に例えることは「正しくない」と指摘する。「生かし合うための知恵の闘い。敵意や憎しみはそこでは不要」と言っている。 県内でも命を守る努力を続けよう。今こそ互いに思いやり、励まし合って、この災禍を乗り越えたい。
新型コロナウイルスの感染拡大に社会が混迷を深める中、突然のトップ交代となった。安倍晋三首相が9月、第1次政権に続く体調不良で辞任し、7年8カ月に及んだ長期政権が幕を下ろした。 国政選挙での連勝を力の源泉とする1強政治は、旧民主党政権時代の「決められない政治」を一変させた。数の力による強行突破を繰り返し、特定秘密保護法、集団的自衛権の行使を容認する安全保障関連法などを成立させた。 強弁やはぐらかしを重ね、言論の府である国会を軽視する強引な政治手法は一方で、人事で官僚を抑え込み、官邸の顔色をうかがう忖度(そんたく)をはびこらせる。官僚による公文書の廃棄や改ざんが常態化した。 経済政策「アベノミクス」は大規模な金融緩和で大企業や富裕層に恩恵をもたらした。しかし、景気回復の実感は乏しかった。東京一極集中の是正へ地方創生を掲げたが、目立った成果は上がっていない。自身が悲願とする憲法改正や北方領土の返還、北朝鮮による拉致問題の進展はなかった。 新たに内閣を率いた菅義偉首相は、安倍政権の「継承と前進」を打ち出した。原動力とするべきは説明と理解という国民との対話だろうが、積極的とは言い難い。 喫緊の課題であるコロナ対策を巡って、政権に国民の不安を和らげようとする意思が薄いように思える。国と地方自治体との風通しの悪さも浮き彫りとなった。 観光支援事業「Go To トラベル」の一時停止を巡る判断の遅れにも疑問符がついた。専門家は感染拡大に厳しい見方をしている。経済との両立を目指すのならなおさら慎重な対応が求められる。 また、給付金の申請混乱や、押印がテレワークの支障になるなどデジタル対応の遅れが鮮明となった。首相はデジタル庁の新設を掲げ、官民のデジタル改革を促進する。効率を高めることは大切だが、根幹と位置付けるマイナンバー制度には個人情報を把握されることに不安も伴う。予算や組織論を先走りさせるのではなく、丁寧な説明で理解を求めるのが基本だ。 日本学術会議の会員候補の任命拒否も、首相の説明は紋切り型の言葉が並び、理由は分からないままだ。組織改編論で論点をずらしたいようだが、理由を語るのが先だろう。 内閣支持率の急落には、こうした姿勢が関わっていることをしっかり受け止めることだ。 国民の拒否感が強い「政治とカネ」問題が相変わらず浮上した。政治不信の解消は遠のいてしまう。 「桜を見る会」前日の夕食会を巡っては、安倍氏は国会で事実と異なる答弁を行ってきた。政治責任は、当時の官房長官だった首相も無関係ではない。 「ほかに適当な人がいない」という根強い世論が安倍長期政権の背景にあった。自民党内はもとより、野党はふがいなさを自覚することだ。
結局は「知らなかった」で済ませるつもりのようだが、どれだけの国民が納得するだろう。 安倍晋三前首相の後援会が「桜を見る会」前日に主催した夕食会の費用補塡(ほてん)問題で、政治資金規正法違反(不記載)容疑などで告発された安倍氏は嫌疑不十分で不起訴処分となった。これを受け安倍氏はきのう、衆参両院の議院運営委員会で説明を行った。しかし、数々の疑惑はまるで晴れなかった。 安倍氏は政治資金収支報告書に補塡分が記載されなかった会計処理について、後援会代表の公設第1秘書から知らされていなかった▽「補塡はない」としてきた自らの国会答弁が事実に反していた―ことを認め謝罪した。 概して前日の記者会見での発言内容の域を出ていない。政治責任の重さをどこまで感じているのか、疑問に思わざるを得ない。 政治資金収支報告書への不記載が始まったのは2014年分から。2013年分には補塡が記載されている。なぜ2014年以降、不正な処理が繰り返されたのか。 2014年10月には小渕優子経済産業相(当時)の関連政治団体が、支持者向け観劇会の一部費用を負担した政治資金規正法違反の疑いが浮上している。小渕氏は閣僚辞任に追い込まれた。 桜を見る会の構図と似ていることから、補塡を隠すために報告書への記載をしなくなったのではないか。これについて安倍氏は、当時の担当者側から「『答えられない』と回答された」と述べるにとどまった。不記載の動機という核心部分の謎さえ明らかになっていない。 安倍氏の国会での「虚偽答弁」は少なくとも118回に上る。「補塡はない」とした秘書の話が真実かどうかは、会場のホテル側から明細書を取り寄せればすぐに分かったはずだ。自らの政治生命に関わる問題にもかかわらず、それを怠った理由もいまだに分からない。 野党議員から改めて明細書の国会提出を求められても、安倍氏は「明細書の公表は営業上の秘密に当たる」とするホテル側の説明を理由に拒否した。 国民からの信頼を回復するため、安倍氏は「一点の疑問も生じることのないよう、私自身が責任を持って徹底していく」と述べている。その言葉に行動が伴っていない。もっと説明責任を尽くさなければ、国民の理解など到底得られない。 不起訴により刑事責任は「不問」とされたとしても、政治責任は安倍氏が考えている以上に重い。 補塡問題は行政府の長たる首相が、国権の最高機関である国会をだます形になっている。三権分立を基盤とする民主政治を揺るがす、重大な背信行為である。議員辞職に値すると言わざるを得ない。 安倍氏の責任はその進退も含めて、今後とも追及し続けていかなければならない。国会の存在意義が問われている。
自民党の吉川貴盛元農相が議員辞職した。鶏卵生産大手「アキタフーズ」グループ元代表からの現金受領が疑われている。辞職の理由は体調不良としているが、責任を事実上取った形となる。 この疑惑を巡っては、吉川氏が農相在任中の2018年10月~19年9月に3回、計500万円を受け取っていた疑いを持たれている。大臣室での受け渡しも取り沙汰されている。周囲には現金受領を認める一方、賄賂性は否定したとされる。 東京地検特捜部は任意で事情を聴いた。体調を見極めながら捜査を進める見通しだ。 議員辞職で疑惑をうやむやにすることは許されない。まず吉川氏本人の説明が求められる。 捜査中を理由に口をつぐんで説明責任を回避することが常態化しているが、国民に拒否感が強い「政治とカネ」の問題を曖昧にしていては政治不信を高めてしまう。 鶏卵業界は、家畜を快適な環境で飼育する「アニマルウェルフェア」の国際基準を日本の実情に応じて緩和することや、鶏卵価格が下がった際に生産者を支援する「鶏卵生産者経営安定対策事業」の拡充を求めていた。 元代表は、吉川氏や西川公也元農相ら農林族議員や農水省に対し、業界に有利な政策実現を働き掛けていたようだ。元代表は、そうした政策の実現のため、吉川氏に現金を提供したと認めている。 吉川氏は衆院初当選同期の菅義偉首相とも近く、9月の自民党総裁選では菅氏陣営の選対幹部を務めている。政権への打撃が想定される。説明責任とどう向き合うか、菅首相の指導力が試される場面だ。 数百万円を受け取った疑惑がある西川氏も、東京地検特捜部が任意で事情聴取した。吉川氏とともに、厳正な捜査を望みたい。 西川氏は安倍晋三内閣の農相に就任したが、政治献金問題を巡り辞任している。その後の衆院選で落選後、首相のアドバイザー役で、非常勤の国家公務員である内閣官房参与に安倍政権で就任し、菅内閣でも再任されていた。今月辞任したが、続投させた首相の判断も問われる。 「政治とカネ」を巡り、安倍政権では閣僚の辞任が相次いだ。そのこと自体が問題だが、さらに説明責任を果たさないままやり過ごそうとする姿勢にも批判が強かった。 安倍氏の後援会が主催した「桜を見る会」前日の夕食会の費用補塡(ほてん)問題で、安倍氏は国会で事実と異なる答弁を繰り返した。調べれば分かることの調査を怠り、国会を混乱させてきた。 この問題で、東京地検特捜部は政治資金規正法違反罪で公設第1秘書を略式起訴した。安倍氏は嫌疑不十分で不起訴処分とした。刑事責任は不問でも政治責任は免れない。 当時の官房長官だった首相も関わっている。さまざまな疑惑に真正面から向き合わないと政権への信頼は大きく揺らいでしまう。
選択的夫婦別姓を巡り、時代錯誤と言うほかない「骨抜き」である。 自民党内で議論されていた第5次男女共同参画基本計画案が了承された。政府はこれを近く閣議決定する。 当初、党の推進派は制度導入に前向きな表現を計画案に盛り込もうとしていた。しかし、反対派の主張で大幅に後退。ついには「選択的夫婦別姓」との文言も削除された。 世論調査では、制度導入に「賛成」という声が「反対」を上回っている。それを裏切る行為である。 同計画は今後5年間の女性政策の指針となるものだ。第4次計画での「検討を進める」よりも踏み込んだ記述が盛り込まれれば、法改正などの検討が進むと期待されていた。 当初案では「婚姻前の氏を引き続き使えないことが生活の支障になっているとの声がある」と指摘。 支障を例示し、「国会において速やかに議論が進められることを強く期待しつつ、政府においても必要な対応を進める」と明記していた。 これに反対派が「導入ありきで恣意(しい)的だ」と猛反発。大幅に書き換えられ、「さらなる検討を進める」という表現に後退した。 制度の名称まで消されたことで、国会などでの議論が停滞することも予想される。 「政府から『国会の議論を求める』と言われる筋合いはない」。反対派の高市早苗前総務相は当初案に対し、露骨に不快感を示したが、的外れではないか。 最高裁は選択的夫婦別姓を巡る判決で「制度の在り方は国会で論ぜられ、判断されるべきだ」と促している。にもかかわらず、議論を進めてこなかった政府や国会の怠慢があることを忘れてはならない。 一方で、了承された計画案には「家族の一体感、子どもへの影響や最善の利益を考える視点も十分に考慮」との文言が盛り込まれた。 保守層の「夫婦別姓を認めたら家族の絆が壊れる」という主張への配慮が込められている。 しかし社会の実態として、事実婚だったり、再婚をしたりして親子が違う姓であっても、強い絆で結ばれている家庭は数多い。 婚姻や家族の在り方は多様化している。政治が社会の変化に向き合わないことに違和感が募る。 夫婦別姓を容認している公明党の議員からも、自民党の反対派は「昭和どころか明治時代の価値観に染まっている」と皮肉る声が出ている。 「旧姓の通称使用の拡大で対応すべきだ」との意見もある。 ただ、資格取得などは戸籍上の姓を使用する必要があったり、海外で出入国管理当局などから通称の説明を求められたり、姓を使い分ける負担が解消されることはない。 また一人っ子が多くなり、改姓せず実家の姓を残したい人も増えている。夫婦同姓の法的義務は、結婚や出産を妨げる弊害にもなっている。 国民の選択肢を広げるため、法改正が必要である。政府や自民党は制度導入へ議論をやめてはならない。
安倍晋三前首相の後援会が「桜を見る会」前日に主催した夕食会の費用補塡(ほてん)問題で、東京地検特捜部は安倍氏本人に任意で事情聴取した。 「政治とカネ」を巡り、首相経験者が捜査当局の聴取を受けたことを重く受け止めなければならない。議員辞職に値する問題だ。政治不信の解消へ真剣に取り組むべきなのに、これでは助長してしまう。 これまでの国会答弁にも疑念が向けられている。国会とどう向き合ってきたのか、国会の場で堂々と説明するべきだ。 この問題は、夕食会のホテル側への支払いと参加費との差額を、安倍氏が代表の資金管理団体が穴埋めしたとされる。しかし管理団体と後援会の政治資金収支報告書に記載はなかった。 昨年秋に問題が発覚すると、安倍氏は国会などで「事務所からの補塡はなかった」と重ねて答弁してきた。報告書への記載の必要はないという認識になる。 ところが、安倍氏周辺が支払いの一部を補塡したことを特捜部聴取に認めたことが分かると、事務所から事実と異なる説明を受けていたと釈明する。一連の事実を知らされていなかったというわけだ。 特捜部は安倍氏に費用負担の認識を確認し、安倍氏は不記載への関与を否定したとみられる。特捜部は政治資金規正法違反(不記載)の罪で後援会代表の公設第1秘書を略式起訴する方針を固めている。 安倍氏は不起訴処分となる公算が大きい。 しかし、法律上の責任だけでは済まない。規正法を守らないのは、政治活動に対する国民の監視と批判の機会をないがしろにすることだと、かつての判決は指摘した。監督責任は無視できない。 また、政治責任や道義的責任をあいまいにはできない。この問題を巡る国会質疑を衆院調査局が調べると、事実と異なるとみられる安倍氏の答弁は118回あったという。 なぜこうなったのか、国民への説明が欠かせない。安倍氏は特捜部の捜査終結後、国会招致に応じる意向を示し、その形式を巡り与野党の綱引きが続いている。 共同通信社の世論調査は、安倍氏の国会答弁に「納得できない」が77%に上る。自民党、公明党支持層でも7割前後が納得していない状況だ。国会軽視が問われている場面でもあり、一方的な発言で経緯を説明するだけにとどめてはだめだ。 安倍内閣では「政治とカネ」問題で閣僚の辞任が相次いだ。辞任した議員は自身の疑惑についての説明責任を果たさない。安倍氏も任命責任を言いながら責任につながる行動はみられず、真実の解明にも関与しなかった。1強と言われ、緊張感を失った長期政権のひずみがこうした場面に表れた。 菅義偉首相は当時の官房長官であり、関連する答弁も行っている。どういう姿勢で対応するかは政権の評価に直結する。
菅政権で初めての予算編成となった2021年度予算案は、一般会計の総額は106兆円超と9年連続で過去最大になった。 新型コロナウイルス対策の予備費5兆円が押し上げた。それを除けば20年度並みの水準ではある。 収束が見通せないコロナ対策は引き続き積極的に取り組まなければならない。しかし、そもそも予備費は使い道に縛りがなく、無駄遣いにつながりやすいと指摘される。 機動的な支出は一概には否定されないが、だからといって全てを政府にゆだねるような無秩序な対応が許されるわけではない。菅政権が自制的な取り組みができるのか、国会での十分な審議が求められる。 同じく年明けの通常国会に提出される20年度の第3次補正予算案も、コロナ対応の追加経済対策の多くが計上されている。落ち込む景気や厳しさを増す生活、疲弊する医療現場を支える有効な方策かチェックが欠かせない。 9年連続で最大となった防衛費は、イージス艦2隻を導入するための調査研究費を盛り込んだ。断念した地上配備型迎撃システムの代替策とする。 イージス艦は導入コストだけで地上配備より2割増になるとの民間試算がある。政府も当初は、イージス艦は地上計画より割高になると説明していた。ところが変更後は総額提示を先送りして、全体像が見えない。イージス地上配備の目的には海上自衛隊の負担軽減もあったが、それができなくなったから新艦建造というのでは説得力は乏しい。当然、コスト論議は避けられない。 恒常的な財政支出に当たる当初予算は膨張が続いている。さらに、20年度一般会計総額は第3次補正後に175兆円超となるように、補正での積み増しも極めて多くなっている。当初予算は前年度並みと見栄えを整え、補正で膨らませるようなやり方と言える。これでは財政運営の緊張感を失いかねない。 財政の悪化は一段と進んでいる。企業業績の低迷で税収は20年度当初比で1割近くの減少を見込む。財源不足を補う新規国債発行額は当初ベースで11年ぶりに増加する。国と地方の長期債務残高は国内総生産(GDP)の2倍以上となる。 一定の財政支出はやむを得ない状況ではあるが、一方で歳出削減や財政再建を迫られていることを忘れてはならない。 政府は赤字国債発行を可能にする特例法を5年間延長する方針だ。新型コロナの影響が長期にわたるとみられ、今後も大型の財政支出が避けられそうにない。地方交付税の配分など財政を円滑に運営するための環境整備ではあるが、健全財政を目指す姿勢まで見失うことがないよう注意が必要だ。 コロナ対応や社会保障費の増大など、避けられない課題が財政にのしかかる。国会は監視を緩めず、適正な予算措置であるか、効果や緊急性をただす必要がある。
地方創生について政府は、2020年度から24年度までの第2期・5年間の方向性と施策を示す「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の改定版をまとめた。 この5カ年の戦略は昨年末に一度まとめている。今年、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い地方への関心が高まったことから、東京一極集中の是正などに結び付けようと、新たな内容を盛り込んだ。 全国の17~19歳に、都市と地方のどちらで暮らしたいか聞いた民間のアンケートがある。最近の結果では昨年に比べ都市は少し減り、地方がやや増えている。人口が多く、移動手段が公共交通中心となる都市の暮らしでは、「密」を避けられない。アンケート結果からは感染リスクを恐れる心理が読み取れる。 新型コロナが暮らしに及ぼす影響がいつまで続くか見通せないが、地方への関心を施策に反映させようとする点は一定理解できる。 改定版の柱といえるのは、テレワークの推進だ。情報通信技術を活用して、自宅など職場以外でも働くテレワークは急速に広がった。この動きを取り込むために新たに交付金を設け、地方創生にテレワーク推進を結び付ける地方公共団体を支援するという。 もう一つの柱は、地方の国立大学の定員増である。現在は認めていないが、特例で早ければ22年度から認めると明記した。大学の定員について政府は、地方創生の関連施策として法律で、東京23区にある大学の定員増を18年度から10年間、原則認めないとしている。地方大学の門戸は広げようとしている。 地方創生の取り組みが始まったのは安倍政権時の14年、以来6年がたった。この間、地方から取り組みをみてきたが残念ながら、成果が上がったとは到底いえない。 第1期(15~19年度)は、政府機関や企業の地方移転などを重点にした。省庁では消費者庁が徳島県庁に地方拠点として「新未来創造戦略本部」を設けた。このほか文化庁が21年度中に京都府に全面移転する予定だが、企業の地方移転は目立った動きはないに等しい。 ここにきて、消費者行政担当相当時、徳島への消費者庁全面移転を主導した河野太郎・国家公務員制度担当相が「徳島全面移転は不要になった」との認識を示した。 「徳島への移転は平成の出来事で、令和の時代は(テレワークによって転勤地は)もっと多様性に富んでいい」と述べている。省庁移転を主導した当事者からの言葉だ。熱心に誘致してきた側がこの結果に納得できるかどうか。 地方創生について政権の位置付けは後退したわけではなかろう。当然ながら東京一極集中の是正、地方の活性化への即効薬はない。コロナ禍が続く中でも方向を探っていく必要はある。 ただし看板の掛け替えばかりでなく、なぜ成果を出せないのかをきちんと検証する必要がある。
日本学術会議の在り方を検討する自民党プロジェクトチーム(PT)が政府に提言を提出した。 2023年をめどに、政府から独立した法人格を持つ新組織への移行などを求めている。しかし議論の発端となった、菅義偉首相による会員候補6人の任命拒否問題には触れていない。 拒否の理由が明らかにならなければ、組織改編の必要性があるのかどうかさえ分からない。自民PTの提言に説得力はない。 提言は「期待される機能が十分に発揮されているとは言い難い」と指摘。独立行政法人や公益法人などへの移行が望ましいとした。会員選出では、第三者機関による推薦など会員推薦以外の方法を求めた。 学術会議の組織形態を巡っては、これまでも政府の有識者委員会で議論されている。その際、独立行政法人にするとトップが大臣に任命されたり、国からの交付金で運営されたりすることから「政府の関与が強まる」と反対の声が上がっている。 自民PTの提言は、こうした議論の積み重ねを踏まえているのだろうか。 提言は約2カ月でまとめられた。これを受けて政府は、年内に一定の改編の方向性を示すという。拒否の理由を棚上げしたまま、急ごしらえで提言を実行しても国民の理解は得られない。 そもそも学術会議の組織改編には、「任命拒否問題からの論点ずらし」との批判が根強い。 任命拒否の理由について、菅首相は「総合的、俯瞰(ふかん)的な活動を求める観点」「多様性の確保」などと述べているが、要領を得ない。 任命を拒否された6人は、安全保障関連法や沖縄県の米軍普天間飛行場移設を巡る政府対応などを批判してきた。政府方針に異を唱える学者は排除するのか。そうした懸念を裏付けるように複数の政府関係者は、6人が反対運動を先導する事態を懸念したと明かしている。 事実なら学問の自由への不当な政治介入である。到底許されるものではない。 学術会議側も政府からの要請に応じる形で、組織の在り方に関する中間報告をまとめた。 報告は、政府からの独立性を認められた現行の組織形態が、国を代表する学術団体「ナショナルアカデミー」に必要な条件を全て満たしているとしている。組織改編は必要ないということだろう。 ナショナルアカデミーと政府が互いに不信感を募らせる状態は、国にとって決して有益ではない。問題を解決するためには、まず政府が任命拒否の理由を説明し、拒否を撤回するしかない。 この問題は各国を代表するアカデミーなどでつくる国際学術会議も注視しており、「政府に適切な助言をするためにも、科学者の自律性が担保されなければならない」と訴えている。 政府は真摯(しんし)に耳を傾けるべきだ。
政府が決定したミサイル防衛に関する文書は、「敵基地攻撃能力」の保有は明記を見送った。抑止力の強化を引き続き検討するとした。 その一方で、敵の射程圏外から攻撃できる「スタンド・オフ・ミサイル」開発を先行させる方針を盛り込んだ。将来的な政策転換の可能性も見据えているようだ。 これでは、憲法に基づく「専守防衛」の理念を逸脱する懸念がぬぐえない。国民の理解を抜きにしたままで突き進むことがあってはならない。十分な説明と慎重な議論が求められる。 敵基地攻撃能力の保有は、山口、秋田両県に配備を計画した地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」断念を受けて、その代替策として急浮上した。 わが国周辺の安全保障環境は厳しくなっている。北朝鮮の核・弾道ミサイルや、海洋進出を図る中国に対する防衛にほころびが生じることへの危機感がある。 しかし、地上イージスを断念したからといって、脅威を封じ込めるための敵基地攻撃能力の保有へと飛躍するのはあまりにも乱暴だ。 自衛隊は専守防衛の「盾」に徹してきた。能力保有に踏み切れば、日本を標的とした弾道ミサイルを相手国領域内で阻止する「矛」を獲得することになる。国是の専守防衛はなし崩しとなり、安全保障政策が大転換する懸念が強まる。 政府、与党は敵基地攻撃の是非を協議してきた。今回の保有明記の見送りには、慎重姿勢を崩さなかった公明党への配慮が指摘される。次期衆院選での選挙協力への思惑だ。 だが、そうした姿勢の一方で、攻撃能力に転用可能な防衛装備の保持は先行させていくようだ。 陸上自衛隊の12式地対艦誘導弾の飛距離を延ばし、スタンド・オフ・ミサイルとする方針を盛り込んだ。今後5年かけて開発する。 射程は現行から大きく延び、相手の攻撃が届かない場所から発射できる長距離巡航ミサイルとなる。地上だけでなく、戦闘機や護衛艦から発射できるようにする。 これでは批判的な世論をにらんで議論を先送りしながら、装備の保有は進めて既成事実化を図っていると受け止められても仕方ない。加藤勝信官房長官は、ミサイルの能力強化について、敵基地攻撃を目的としたものではないとの見解を示すが、転用可能では説得力に乏しい。 地上イージスの代替策として、イージス艦2隻の新造方針も決めた。増隻で機動的な展開ができる利点はあるが、導入コストだけで地上配備より高額となり、経費は膨らんでいく可能性が高い。総額見通しを示した上での議論が必要だ。不可欠な装備ならなおさらのことだ。防衛費を聖域化してはならない。 弾道ミサイル防衛の日本の対処方針が固まった。憲法との整合は常に問い続けなければならない。東アジア周辺の緊張を高めないよう外交努力を怠ってはならない。
会員制交流サイト(SNS)はより身近な社会基盤になり、コロナ禍で社会の不安も増している。被告の死刑という結論だけで終わらせてはならない事件である。 神奈川県座間市のアパートで2017年、男女9人の切断遺体が見つかった事件の裁判員裁判判決で東京地裁立川支部は、強盗強制性交殺人などの罪に問われた白石隆浩被告に求刑通り死刑を言い渡した。 ツイッターに「死にたい」と書き込むなどした当時15~26歳の若者が次々に狙われ、約2カ月の間に相次いで命を奪われた。 最大の争点は、明示的か黙示的かを問わず、被害者が本心から殺害を承諾していたかどうかだった。判決は、同意は「9人全員になかった」と認定。承諾殺人罪が成立するとの弁護側の主張を退けた。 裁判で被告は、動機を「金と性欲」として「悩みがある方が口説きやすく、思った通りに操作しやすい」と供述している。被害者の信頼を得るため、自身も自殺願望があるように装ったとも述べた。 卑劣な凶行である。遺族らが厳しい処罰感情を持つのは当然だ。 被告は控訴しない意向を示しているが、判決ではまだ全てが明らかになったとはいえない。 動機は被告の供述通り金銭や性欲目的と認定した。ただ、被告は少年時代に目立った反社会的行動は確認されていない。9人を殺害して解体するという行為との隔たりは最後まで埋まらなかった。 承諾を巡る証拠もツイッターのやりとりや被告の供述のみで、裁判員らは限られた証拠で被害者の内心について判断を迫られたという。 「人生のプランを考えていた」「子どもを産んで育てたい」。遺族らの証言では、被害者らは自殺願望を書き込む一方、夢を抱いて生きようとしていた。惨劇は不可避だったのか。そんな事件の真相まで迫れたのかどうかは疑問が残る。 事件では、生きづらさを抱え、身近なSNSにわらをもすがる思いを書き込んだ若者らが悪意を持つ人間とつながった。SNSの負の側面を社会に突きつけたといえる。 事件後、ツイッター社は「自殺」などの言葉を検索すると相談機関の連絡先が表示される仕組みを導入。自殺を助長する投稿を禁じ、違反すればアカウントを凍結している。 厚生労働省はNPOと連携してSNSでの相談を受け、文部科学省もSNS相談窓口のリーフレットを学校で配布。数々の対策を打ち出しているが、自殺願望を吐露する書き込みは今も後を絶たない。 警察庁によると昨年、SNSをきっかけに犯罪被害に遭った18歳未満の子どもは過去最多の2千人以上に上った。コロナ禍が影を落とす全国の自殺者数も7月以降、前年を上回る。心配な要素が並んでいる。 死刑判決で幕引きにはならない。生きづらさから発信されるSOSをすくい取り、命を守る仕組みを広げなければならない。
香川県の養鶏場で11月に感染が確認された鳥インフルエンザが西日本に広がりを見せる中、宿毛市での発生が確認された。 養鶏場から採卵用の鶏が死んでいると県に通報があり、遺伝子検査で高病原性の疑いがある「H5亜型」ウイルスが検出された。県内の養鶏場では初めてだ。 飼育されている全ての鶏は殺処分する。経営者によると、新型コロナウイルスの影響で出荷も減っていたそうで、さらなる追い打ちは痛恨の極みだろう。 気の毒ではあるが、感染の拡大防止を優先せざるを得ない状況だ。防疫措置後の対応や補償などに万全を期したい。 防疫には県職員のほか、県建設業協会宿毛支部などがあたり、死骸を埋めたり、施設を消毒したりする作業に協力しているという。精神的な負担も大きいに違いない。各団体の危機対応を評価したい。 感染ルートは分かっていない。経営者は、香川県での発生を受けて、場内に消石灰をまいたり、作業人数を絞ったりして感染防止に努めてきたという。 また県は、県内約190の家禽(かきん)類の飼育場を調査し、全てで異常がないことを確認していた。 こうした取り組みを重ねていても防ぎきれないところに、対策の難しさがある。他県では、鶏舎に野鳥が侵入できないように対応策をとっていたにもかかわらず、発生した事例があるようだ。ウイルスを運ぶ渡り鳥の死骸やふんに触れたネズミが鶏舎の隙間から入ることも考えられるという。 状況を見れば、どこで起きてもおかしくないように思える。 県内でもこれまでに野鳥から確認されたことがあった。だからといって手をこまねいてはいられない。政府は、例年以上に警戒を強めるように求めている。 基本は徹底した予防対策と早期発見だろう。 人や物、車両によるウイルスの持ち込みを防ぐ。そのために、衛生管理区域や鶏舎への立ち入り時の消毒の徹底が欠かせない。また、野生動物の侵入を防ぐネットの設置や、隙間があれば修繕を怠らないのは当然のことだ。施設周辺の樹木の枝切りも役に立つという。 万全の防疫で再発を防ぐと同時に、風評被害が起こらないように情報提供も怠れない。 かつて鳥インフルエンザが発生した際には、西日本を中心に鶏肉や鶏卵の売り上げが落ち込んだ。農水省などは、わが国の現状では、鶏肉や鶏卵は十分に加熱して食べれば感染の心配はないとしている。 食の安心安全は関心が高い。間違った情報が独り歩きしないように、積極的な発信が必要となる。消費者も冷静な対応が求められる。 残念ながら県内でも発生した以上、警戒意識をさらに高めたい。予防対策を強め、万一の場合は早期通報が被害を小さくする。
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