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地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」への米国の復帰を世界中が歓迎している。バイデン新大統領の決断を評価する。 温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)の排出量は1位が中国、2位が米国だ。合計すると世界排出量の約4割を占める。その2国が、ようやく足並みをそろえることになった。2大国は脱炭素社会の実現へ向けて国際協調の先導役となってもらいたい。 トランプ前政権のパリ協定離脱は世界を失望させた。環境対策による負担増を嫌う企業の支持を得るため、地球規模の課題に背を向けたからだ。内向きな姿勢は米国への信頼を損ねた。 バイデン氏が新政権発足初日にパリ協定への復帰を申請したことは、環境問題を重視する政権の姿勢を示しただけでなく、国際的な信頼を取り戻す効果も十分にあった。 バイデン氏は大統領選を通じて、脱炭素社会の実現に向けた200兆円を超えるインフラ整備への投資や、2050年までの温室効果ガス実質ゼロの目標を掲げている。就任100日以内に主要な排出国の首脳を招いた会議を開く方針も示している。 昨年12月に開かれたパリ協定採択5年を記念するオンライン会合では、「60年に排出ゼロ」を掲げる中国の習近平主席も、国内総生産(GDP)当たりのCO2排出量を30年までに05年比で65%以上削減するとして、従来の目標引き上げを表明した。 「温室効果ガス50年ゼロ」の国際目標に向かい、世界各国が意志を一つにしている。実現を目指す土台は整った。 バイデン氏は脱石油を進めるため、連邦政府所有地での新たな石油・天然ガス掘削を認めない方針も示している。米中の2国が今後どのように具体的な方策を打ち出していくか注目したい。 一方で米巨大IT企業のアップル、マイクロソフト、アマゾンも30~40年にCO2排出ゼロを打ち出している。官民による米国主導は世界的潮流になりつつあるのだ。 「50年ゼロ」の目標を掲げる日本も、この流れに乗り遅れてはならない。化石燃料や原子力に頼るエネルギー政策から脱し、再生可能エネルギー重視の政策にかじを切る絶好の機会である。 これほどまでに世界が危機感を抱く理由はデータで示されている。20年の世界の平均気温は16年と並ぶ過去最高を記録した。 16年はペルー沖の海水温が上がる「エルニーニョ現象」が一因だったが、20年は海水温が下がる「ラニーニャ現象」が続いた。世界気象機関(WMO)は「人間の活動が引き起こす気候変動が自然の力より大きくなった」とみている。 温暖化対策に猶予はない。自国優先主義が分断と対立の火種であることは米前政権が残した教訓だ。先進国、途上国の垣根を超え、協調の道を追求したい。
地元議員に「陣中見舞い」などと称して現金を配った行為は、選挙買収だったと認定された。2019年7月の参院選を巡り公選法違反の罪に問われた参院議員河井案里被告に、東京地裁は懲役1年4月、執行猶予5年の判決を言い渡した。 案里被告側は夫の元法相で衆院議員の克行被告が地元の県議や首長ら計100人に現金計2900万円を配ったとされる。判決では、そのうち地元議員4人に配った計160万円について案里被告が克行被告と共謀して票の取りまとめなどの報酬として提供したと認定した。 民主主義の根幹である国政選挙をゆがめたとして、元法相である夫と共に国会議員夫妻が逮捕されるという前代未聞の事件だ。 夫妻は自民党を離党したが、今も現職で月額100万円超の歳費や年2回の期末手当など多額の国費が支払われている。事件後は国会を長く欠席し、議員の職責を果たしているとは言えない。 案里被告は国会議員を辞職すべきだ。案里氏を支援してきた安倍晋三前首相や菅義偉首相の責任も問われる。丁寧な説明なくして「政治とカネ」への不信は拭えない。 同選挙は自民と野党系の2人の現職との三つどもえで争われた。自民県連が現職を支援し、情勢が厳しい中、当時の安倍首相、菅官房長官は案里氏擁立を決め、自ら複数回応援に入った。党本部は現職の10倍もの計1億5千万円の資金を案里氏側に提供した。 公判で案里被告側は現金は陣中見舞いや当選祝いだったと主張した。しかし地元議員らは「票集めを求められたと思った。表に出せない金で違法だ」などと述べ、案里氏側が領収書の受け取りを拒んだり、事後に口裏合わせを持ちかけたりしたと証言した。 案里氏は、車上運動員に違法な報酬を渡した公選法違反で公設秘書の有罪がすでに確定している。広島高検が連座制適用による当選無効の訴えを起こしている。いずれかの訴訟で検察勝訴が確定すれば案里氏は失職するが、控訴・上告している間は国会議員の地位は保たれる。 案里氏擁立の立役者だった菅首相から詳しい説明はほぼない。河合夫妻のほか鶏卵生産業者からの現金受領で吉川貴盛元農相が、IR汚職で秋元司元衆院議員が起訴され、4国会議員が起訴される事態となった。安倍首相の桜を見る会前夜の夕食会費補塡(ほてん)など「政治とカネ」の問題について首相と党が説明責任を果たす必要がある。 一方で、現金を受け取ったと認め、授受を生々しく証言した地元議員らに刑事処分が今も出ていない。処分がうやむやでは議員らが刑事処分を免れるために検察に有利な証言をしたのではないかとの疑念も生まれる。捜査への信頼が揺らぐことのないよう検察側は事件の全容解明と関係者の処分を行うべきだ。
政府は新型コロナウイルス特別措置法と感染症法の改正案を国会に提出した。早期成立を目指す。 改正案は営業時間短縮命令を拒否した事業者や、入院拒否者への罰則を盛り込んだ。 感染症対策が後手に回った政府の責任を棚に上げ、国民の私権を制限してまで従わせようというやり方は本末転倒であり認められない。 罰則を導入する前に、国民の納得と合意、事業存続や雇用維持のため十分な補償が不可欠だ。入院拒否者を罰する前に、逼迫(ひっぱく)する医療機関の下支えこそ急がれる。 新型コロナ特別措置法改正案は、緊急事態宣言の前段階として「まん延防止等重点措置」を新設する。都道府県知事は、必要に応じて事業者に休業や時短営業を要請でき、命令もできる。命令に違反した場合、30万円以下の過料を設ける。 なぜ、緊急事態宣言を出す前の段階から罰則を伴う措置が必要なのか。 そもそも、どういう要件を満たせば「まん延防止等重点措置」に指定されるのかあいまいだ。要件は政令で決めるとされているが、詳細は明らかになっていない。要件があいまいでは過剰な規制につながりかねない。 緊急事態宣言に比べ、国会に報告する義務がないため、恣意的に運用されかねない。そもそも相当数の飲食店に対して公正に罰則を適用するのは至難の業だろう。 立憲民主党の安住淳国会対策委員長は「私権制限を伴う権限をフリーハンドで(政府に)与える恐れがある」と指摘している。事業者の理解を得る努力を怠ったまま、罰則によって従わせようという姿勢では、感染抑止効果は期待できない。 一方、感染症法改正案は、自宅療養などを拒否して知事に入院を勧告された軽症患者らが拒んだり、入院先を抜け出したりすれば「1年以下の懲役か100万円以下の罰金」などを科す。 果たして入院拒否のケースは頻発しているのか。実態を示さず罰則を導入して私権を制限するやり方は、乱暴すぎる。かつてのハンセン病患者の強制隔離を想起させ、国民間の相互監視と社会の分断を招きかねない。 医療機関に対しては、感染者の受け入れに協力するよう勧告し、従わない場合は施設の名称を公表できるようにする。日本は中小の民間病院が多く、感染症患者を受け入れられる設備や人材を備えた公立・公的病院が少ない。改正案はこうした実態を踏まえているのか疑問だ。 ここまでコロナ禍が深刻化したのは、菅政権がコロナ防止と経済回復の両立にこだわり対応が遅れたからである。本来なら臨時国会を延長し年末年始を返上してでも対策を練るべきだった。国民の理解と協力がなければコロナ禍は乗り越えられない。政府はそのことを肝に銘じるべきだ。
史上初めて核兵器を全面的に禁止する核兵器禁止条約が、22日に発効する。核兵器の違法性が国際法によって規定され、「核なき世界」に向けた一歩を踏み出す。 米ロ中英仏の核保有国が参加を拒否していることなど、実効性の課題はある。しかし、条約の発効により核廃絶が実現可能な目標だという認識が世界的に広がり、不参加国への批判が内外で高まることは間違いない。唯一の被爆国である日本こそが直ちに参加を決定し、核廃絶の実現を主導する必要がある。 条約は、前文に「ヒバクシャの受け入れ難い苦しみに留意する」と明記している。広島、長崎への原爆投下から75年余り、原爆投下のむごさや非人道性を訴えてきた被爆体験者の活動が国際世論を動かし、条約の発効に至った意義を改めて確認したい。 ところが、肝心の日本政府は米国の「核の傘」に配慮し、禁止条約に背を向けている。菅義偉首相は7日の記者会見で「条約に署名する考えはない」と断言した。 日本が国連に毎年提出している核兵器廃絶決議でも禁止条約に触れないばかりか、核使用による壊滅的な人道上の結末に対する「深い懸念」の表明を、「認識する」の表現に弱めてまでいる。 世界最大の核保有国である米国は、ロシアとの中距離核戦力(INF)廃棄条約から離脱し、2月には新戦略兵器削減条約(新START)の期限切れが迫っている。米ロ間の条約に縛られず核弾頭数を増やす中国への警戒感をあらわにし、際限ない軍拡競争が現実味を帯びている。 五大国にだけ核保有を認めることを前提とした核拡散防止条約(NPT)体制にくみせず、北朝鮮やインド、パキスタン、イスラエルなどが事実上の核保有国と見なされている状況もある。 沖縄も核の脅威と無縁ではない。INF廃棄条約の失効に伴い、米国は核弾頭搭載できる中距離ミサイル開発を再開し、南西諸島が配備地になるとの見方が強まっている。 2020年1月時点の世界の核弾頭数は推定計1万3400発に上る。核兵器はひとたび使われれば互いの破滅を招くため、実際には「使えない兵器」と言われる。その兵器が地球上に大量に拡散する現状は、偶発的に核戦争を招くリスクを増大させる。 核兵器の保有によって安全保障の均衡が保たれるという「核抑止力」は幻想であり、人類の脅威でしかない。 日本は、戦争放棄と戦力不保持を憲法に掲げる国だ。核抑止の呪縛から抜け出し、禁止条約参加を世界に訴えていくことが使命だ。軍備増強で周辺国に脅威を与える中国に対しても、外交を通じて軍縮を毅然(きぜん)と迫ることが軍拡のエスカレーションを止め、日本の安全保障につながる。 核兵器禁止条約という新たな国際合意の下で、徹底した核廃絶へと踏み出す時だ。
米国のジョー・バイデン氏が20日(日本時間21日未明)、第46代大統領に就任した。 4年間のトランプ政権で拡大した社会の分断を修復し、「米国第一」主義から国際協調路線へ転換する。しかし、連邦議会議事堂襲撃に見るように政治対立の根は深い。新型コロナウイルス対策、対中政策など課題は山積する。 沖縄から見ると、新政権発足後も名護市辺野古の新基地建設問題をはじめ基地の整理・縮小は進まないという見方が有力だ。玉城デニー知事はあらゆるネットワークを駆使し対沖縄政策を変更させるよう強力に取り組むべきだ。 米軍基地の過重負担に悩まされてきた沖縄の現状は、米大統領の交代によって大きく変わらなかった。例外は、1962年のケネディ政権の沖縄新政策かもしれない。 民主党のケネディ氏は、沖縄が日本の領土であると公式に認め、住民が求める自治権を拡大した。援助について日米が協力する方向性を打ち出し、沖縄返還につながる重要な一歩を踏み出した。 最近の2人の民主党大統領のうち、クリントン氏は2000年の沖縄サミットで「沖縄におけるわれわれの足跡を減らす(reduce our footprint)ため、できるだけの努力をする」と約束した。しかし、その目玉だった米軍普天間飛行場の返還は名護市辺野古の新基地建設へとすり替わり、米軍の「足跡」は減らなかった。 オバマ大統領も、県民の強い反対にもかかわらず、辺野古の新基地建設を断念しなかった。今回、共和党から民主党政権になる。 トランプ氏が進めた対中強硬路線は、民主党政権に代わっても基本的に踏襲されるとみられる。そうなると日本に安全保障上の分担を求め、沖縄の基地負担は強化される。 実際、日本政府は米国との軍事一体化を進め、先島へ自衛隊を配備するなど南西諸島の防衛を強化している。日米による沖縄の基地機能強化は、有事の際に沖縄が標的にされることを意味する。 こうした状況下で、玉城デニー知事が求めている日米両政府と県の3者による協議機関「SACWO(サコワ)」の設置は、重要な意味を帯びてくる。基地負担を強いられる沖縄が日米の安全保障協議に当事者として加わる。当然の要求だ。 バイデン新政権で、人権をより重視する民主党プログレッシブ(進歩派)が発言力を強めている。基地問題で人権がないがしろにされている沖縄側の訴えが、プログレッシブを通じて政権中枢に伝わりやすくなるかもしれない。 玉城知事は訪米によって新政権に米軍基地問題の解決を訴える姿勢を示している。県人ネットワークなどを活用し、米国の人権団体や市民運動と連携してプログレッシブとつながってほしい。その結果、ケネディ新政策に匹敵する変化を期待したい。
新型コロナウイルスの感染拡大を抑止するため、県は3度目となる独自の緊急事態宣言を出す。20日から来月7日までの19日間、全県を対象に飲食店などへの営業時間短縮を求めるほか、不要不急の外出自粛を県民に呼び掛ける。 県民の生命を守るため、さらには医療現場の逼迫(ひっぱく)した状況を少しでも和らげるため、緊急事態宣言はやむを得ない。しかし、県民生活を制限する独自の緊急事態宣言に3度も踏み切らざるを得ない沖縄の窮状は政府の失政が招いたと言わざるを得ない。その責任は極めて重い。 18日に召集された通常国会で菅義偉首相は就任後初の施政方針演説に臨んだ。その内容はコロナ禍の中で不安を抱える国民の期待に応えるものではなかった。 菅首相は演説の冒頭、「私が一貫して追い求めてきたものは、国民の『安心』そして『希望』だ」と述べた。その上で「わが国でも深刻な状況にある新型コロナウイルス感染症を一日も早く収束させる」と決意を表明した。 「安心」「希望」を追求してきたという菅首相の言葉に説得力がないのは内閣支持率の急落を見ても明らかだ。政府が打ち出すコロナ対策が後手に回り、国民の間に不満や不信感が広がっているのだ。 政府に対する不満は地方自治体も同様である。今月に入り、熊本県や宮崎県、長崎県が独自の緊急事態宣言を出している。国の施策を待てないほど感染拡大が進んでいるのだ。国民や自治体の間で渦巻く不信や不満を政府は認識しているのか疑問だ。 今国会の焦点となるのが新型コロナ特別措置法や感染症法の改正案だ。政府は22日閣議決定し、国会審議を経て2月初めに成立させる意向だ。ところが改正案は政府は自らの失政の責任を棚に上げ、国民に科料や刑事罰を加える。本末転倒の内容であり、受け入れることはできない。 新型コロナ特別措置法では緊急事態宣言の前段階として「まん延防止等重点措置」を新設し、営業時間短縮の命令を拒否した事業者に科料を導入する。なぜ、科料が必要なのか理解できない。ここまでコロナ禍が深刻化したのは菅政権がコロナ防止と経済回復の両立にこだわり対応が遅れたからではないのか。 感染症法は入院を拒んだ感染者らに対し、1年以下の懲役か100万円以下の罰金など刑事罰を設けるというが、国民間の相互監視と分断を招きかねない。撤回すべきだ。医療機関に対しては、感染者受け入れの協力要請を勧告に強化し、従わなければ機関名を公表するというが、逼迫する医療機関の下支えが何よりも急がれる。 コロナ禍が始まって、もうすぐ1年になる。この間に政府は何をなし、何をなし得なかったのか菅内閣は自己検証すべきだ。そうすれば、罰則を国民に振りかざすような法改正などできないはずだ。
人として当然の権利や幸福を国に奪われ、認められるべき補償もない。旧優生保護法の下、不妊手術を強制された人々はどこに救いを求めればいいのか。 強制手術は憲法違反だとする79歳の男性の訴えに対し、札幌地裁は15日の判決で、旧法を違憲と認めつつ、賠償請求を棄却した。 全国で同様に起こされた9件の訴訟で違憲判決は仙台、大阪両地裁に続き3例目だ。ただ違憲性に言及しなかった東京地裁を含め、除斥期間を理由に賠償を認めなかったのは札幌で4例目となった。 これまでの判決を見る限り、旧法が違憲であることは明らかだ。政府は速やかに救済措置を検討し直すべきである。司法も除斥期間を理由とせず、権力によって奪われた尊厳をいかに回復すべきか再考しなければならない。 今回の判決は仙台、大阪両地裁が示した憲法の幸福追求権(13条)、法の下の平等(14条)に加え、家族に関する個人の尊厳に基づいた立法を求める24条にも違反すると指摘した。違憲性をより明確に打ち出した点は評価できる。 それでも民法の規定に基づき賠償請求権が20年で消滅する除斥期間を適用した。法を盾に判断を回避しているとしか見えない。 司法が絶対視する除斥期間は本当に適当なのか。 不妊手術を強制された女性が昨年12月、国を相手に静岡地裁に提訴した裁判では、原告側が(1)被害者の権利行使が不可能(2)その原因を加害者が作った場合、例外を認める―という最高裁判例を挙げ、除斥期間の除外を求めた。 旧法から障がい者差別に該当する条文が削除されたのは1996年になってからだ。その間、救済法が成立するまで10年以上経過している。日弁連が国に謝罪や救済を求めたのは2017年のことだ。 被害者が声を上げられるようになったのは最近でしかない。司法が人権の砦(とりで)なら、声を上げられなかった背景にこそ目を向けてもらいたい。 国が責任を認めることも必要だ。19年に施行した救済法は被害者に一時金を一律320万円支給する。しかし法律の前文で加害の主体は「我々」となっており、責任の所在は曖昧なままだ。 旧優生保護法に関連する裁判は沖縄にも当事者がいる一連のハンセン病訴訟と通底するものがある。 周囲の人々の偏見や無理解が差別を助長した点だ。ハンセン病訴訟を通して被害や実態の差別が明らかにされ、救済を求める世論が高まった。 札幌地裁の訴訟では原告に対して「金が欲しいのか」などの中傷があったという。残念ながら障がいに対する偏見は世の中にいまだにある。 不妊手術を強制した背景に障がい者への偏見があったことは否めない。一人一人が差別意識をぬぐい去り、被害者とともに国へ働き掛けることが救済への道を開くはずだ。
玉城デニー知事は、全国の70・3%が沖縄に集中する米軍専用施設面積を、50%以下に削減する政府要請を検討している。 負担軽減に向け意欲的な取り組みに見える。だが、海兵隊など具体的な部隊名でなくなぜ数値目標なのか。日米には「米軍専用」を自衛隊との「共同使用」に置き換えることで見かけ上、面積を減らす意向もある。しかしそれでは数字のトリックにすぎない。 県民が求めているのは、実質的な削減である。玉城知事は原点を忘れず戦略を持って、日米両政府に負担軽減を強く求めるべきだ。 今年は、在沖米軍基地11施設、約5千ヘクタールの返還などを決めた日米特別行動委員会(SACO)最終報告から25年を迎える。SACO合意は県内に代替施設建設や施設・機能移転させることが前提となっている。全ての返還が実現したとしても、全国の米軍専用施設の70・3%が沖縄に集中する現状が、69・6%に微減するだけだ。 知事が求める「50%以下」にするには、なお一層の整理縮小が必要である。 そこで懸念するのは、数合わせだ。SACO合意後の米軍再編協議で、防衛庁(当時)幹部が米軍の専用施設や区域を自衛隊と共同で使うことで地元の負担を軽減する考えを示している。沖縄の基地面積のほとんどが米軍専用施設だが、他府県は大半が自衛隊基地を米軍が間借りしている。 ラムズフェルド国防長官(当時)は再編協議で、自衛隊と米軍の協力強化として米軍施設の自衛隊との共同使用に言及している。再編協議の中間報告に「米国は日本政府と協力して嘉手納飛行場、キャンプ・ハンセンそのほかの沖縄にある米軍施設・区域の共同使用を実施する意志も強調した」と明記された。 米国の有識者で知日派のジェラルド・カーティス氏も「日本における米国の軍事プレゼンスを政治的に可能にするための最善の方法」として共同使用を提案した。 単純計算で嘉手納飛行場、キャンプ・ハンセン、キャンプ・シュワブ、北部訓練場の4施設を「共同使用」に変更すると、沖縄の「専用施設」の割合は50%を切る。 しかし、土地が返ってくるわけではない。むしろ自衛隊と共用することで基地機能の強化につながる。 かつて大田県政は「基地返還アクションプログラム」を策定し、政府に基地の段階的な返還を迫った。日米を相手にするには、玉城県政も戦略が必要だ。 そもそも沖縄に米軍基地が集中するのはなぜか。日本と切り離された米国統治に加え、日本国内の在日米軍が削減され海兵隊などが沖縄に移駐したからだ。在沖米軍基地の整理縮小が進まないのは、基地使用権を手放さない米国と、国内の反対運動など政治的なリスクを取りたくない日本政府の怠慢でしかない。
米国統治時代に行われた化学兵器(毒ガス)の第1次移送から50年を迎えた。 1969年7月、米紙報道により沖縄がアジア最大の毒ガス貯蔵基地であることが明らかになった。住民は即時撤去を求め立ち上がり毒ガスを撤去させた。米軍による基地の自由使用を住民が初めて阻んだ歴史的出来事といえる。 しかし、毒ガスは撤去されたが、米軍基地内にどのような危険物質が保有されているか現在も明らかにされていない。米軍が持ち込んだ汚染物質によって沖縄の環境が汚染される事態は後を絶たない。米軍基地の過重負担と自由使用を許す限り、危険と隣り合わせの構図は今も変わらないことを忘れてはならない。 沖縄に持ち込まれた毒ガス(マスタード、サリン、VXガス)は1万3千トン。米国はソ連との緊張が高まった1960年代、核兵器に匹敵する大量破壊兵器として開発した。局地戦が予想されるアジアの戦場での使用を想定している。米兵を実験に使い、深刻な後遺症をもたらした。 貯蔵発覚後、米軍は沖縄からの化学兵器の撤去を発表した。だが受け入れ予定の本国で強い反対に遭い、移送先が決まらない。太平洋のジョンストン島への移送が始まったのは71年。1月と7~9月の2回に分けて実施された。 1次移送で特筆されるのは住民の抵抗である。小学校など民間地域を通過する移送ルートに住民は強く反発した。予定した11日は不可能と判断し、屋良朝苗主席はランパート高等弁務官に2日間の延期を申し入れている。 ランパートは渋り、同席した高瀬侍郎沖縄大使も米側に同調した。日米が共同歩調をとり、沖縄側に譲歩を迫る。主客転倒である。米国住民の反対に遭って本国に移送できない毒ガスを、沖縄では沿道住民が反対しても強行しようとした。しかし、屋良の不退転の決意の前にランパートは折れ、2日間延期された。 7月15日から始まる第2次移送は1次移送の際に沿道住民と約束した移送コースの変更が焦点になる。新コースの建設費は20万ドル(約7200万円)。米国は支出を拒み最終的に日本政府が肩代わりした。交渉の過程で日本に拒否された場合、米国は米国民政府の一般資金から全額拠出することを検討していた(13日付本紙)。 一般資金の9割は石油、電気、水道などの事業収入で、沖縄住民の財布から出ている。日本政府が出そうが、一般資金から出そうが、米国の懐は痛まない。 毒ガス撤去後も沖縄に貯蔵された枯れ葉剤が土壌を汚染した。2016年には発がん性などのリスクが指摘される有機フッ素化合物により基地周辺の汚染が表面化した。日本政府が基地の自由使用を是認している構図を変えない限り、沖縄はリスクを背負わされ続ける。その不条理をあぶり出したのが毒ガスだった。
1月6日は「米国議会史における暗黒の日」(ペンス副大統領)として刻まれた。トランプ大統領の支持者が米連邦議会議事堂に乱入し、一時占拠したからだ。 しかも支持者の暴徒化を扇動したのがトランプ氏本人である。民主主義に対する攻撃は断じて認められない。次期大統領のバイデン氏には難しいかじ取りが待つが、民主主義を取り戻すべく最善の努力を尽くしてもらいたい。 混乱の原因はトランプ氏が大統領選の結果を受け入れなかったことにある。「選挙に不正があった」という根拠のない主張は司法の場でことごとく退けられた。それでも「選挙は盗まれた」などと繰り返し支持者に語り掛けた。 6日は新大統領の当選を正式に認定する手続きが連邦議会で行われていた。 それに合わせてトランプ氏が集会を支持者に呼び掛けた。さらにSNSで発信した「議事堂まで歩こう。私も行く」というトランプ氏の一言が騒乱の引き金になった。 国民一人一人の意思によって代表を決める選挙は民主主義の根幹である。それを否定し、暴力によって結果を覆そうというのであれば国家は成り立たない。群衆をあおるトランプ氏は「米国第一主義」から「トランプ第一主義」に変容したかのようだ。 メキシコ国境への壁建設や中国との“貿易戦争”など、トランプ氏の4年間は分断と排斥を繰り返した。自身に都合の悪い報道にはフェイクニュースとレッテルを貼った。 その積み重ねが支持者の暴徒化、5人が亡くなるという最悪の事態を招いた。議会占拠を受け、政権幹部が辞任し、共和党重鎮からも批判が上がった。議会から憲法に基づく罷免要求もあり、トランプ氏はようやく敗北宣言といえる声明を発表した。 あまりにも遅い表明だ。国民の判断に率直に従えば、無用の混乱は避けられた。大統領職を退いたとしても、民主主義を危機に陥れたトランプ氏の責任追及は免れない。 一方でトランプ氏を支持した米国民が7300万人以上いたことの背景にも目を向けなければならない。支持者の核は経済構造の変化に取り残されたと感じる中西部の白人労働者層だという。豊かな都市部との経済格差、エリート層や政治家への不満が根底にあるとされる。 これは米国に限った話だろうか。欧州でも米国発の「一部のエリートが世界を支配する」という陰謀論を信じる人々がいる。日本でも特定の国や民族への中傷を繰り返す者がいる。分断を図る人々の矛先は差別という形で沖縄にも向けられる。 米国の民主主義は危機的状況にあるが、自由と正義という良心がなくなったわけではない。コロナ禍による閉塞(へいそく)感や経済格差、既存の権威への反感など課題は山積するが、それを乗り越える力が米国民にあることを信じる。
菅義偉首相は7日、東京都と埼玉、千葉、神奈川3県を対象に、新型コロナウイルス特別措置法に基づく緊急事態宣言を発令した。期間は8日から2月7日までの1カ月間とした。 本来であれば、もっと早い段階で政府は感染拡大を食い止める効果的な手だてを講じる必要があった。7日は東京だけで2447人の感染が確認されるなど感染が爆発的に拡大しており、宣言を発令するタイミングも遅きに失したと言わざるを得ない。 現状では首都圏の爆発的感染拡大が地方にも影響を与えており、緊急事態宣言を発令して、より強い対策を講じていくことはやむを得ない。宣言の対象ではないとはいえ、沖縄も感染者数がなかなか減少しない状況にある。首都圏と危機意識を共有し、感染抑制に道筋をつけていきたい。 国内の感染者は7日に初めて7千人を超え、宣言対象の1都3県が半数近くを占める。治療が必要な感染者が、入院先が決まらず調整する事例が増加するなど、医療供給体制が逼迫(ひっぱく)している。 全国的な感染の「第3波」に対し、政府の対策はことごとく後手に回ってきた。昨年11月25日から「勝負の3週間」として重点対策を呼び掛けながら、「Go To トラベル」キャンペーンは継続にこだわり、感染抑制の効果は上がらなかった。 「Go To」停止に追い込まれた菅首相は「年末年始を静かにお過ごしいただきたい」と国民に慎重な行動を促したが、首相自身が大人数の夜の会食に出席して批判を浴びた。指導者の言行に不一致があっては、国民と危機意識を共有できるはずもない。 緊急事態を宣言した菅首相は「1カ月後には必ず事態を改善させる。ありとあらゆる施策を講じていく」と感染を減少傾向に転じさせていく決意を強調した。一方で、「1年近く学んできた経験を基にした対策」と繰り返すだけで、経済活動との両立に執着してきたこれまでの姿勢には触れなかった。 国民に行動変容を求めるならば、身をもって示すことが肝心だ。夜間の営業制限などさらなる痛みを強いられる事業者や、自粛を求められる国民が納得できるような強いメッセージは、今回も菅首相から伝わってこなかった。 専門家からは、東京の新規感染者が100人以下に減るまで約2カ月が必要という試算が示されている。飲食業の営業規制に重点を置いた限定的な対策で実効性を伴うのか、慎重な見方がある。 菅首相は、新型コロナ特措法を改正して事業者への罰則規定を導入し、対策に強制力を持たせることにも言及した。必要なのは私権の制限を強めることではなく、事業者の損失補償をしっかりと確約することだ。要請に不安なく協力できる経済対策を打ち出すことが、感染対策の実効性を高めることになる。
この国のガラスの天井は厚い。政治を志す女性にはなおさらで、沖縄でも同様に覆(おお)いかぶさる。 本紙が県議を対象にしたアンケートで、選挙活動中のセクハラや性差別、当選後の不当な扱いなどを訴える声が出た。さらに議会の望ましい男女比率については「ない」が半数以上となり、一定の数を女性に割り当てる「クオータ制」の賛同は多くなかった。 県議会は定数48のうち女性は7人(14・6%)で過去最多タイとはいえ、政府の目標とする、指導的地位に占める女性の割合「30%」には遠く及ばない。県議の中で男女比率の目標値もなく、具体策も検討しないとすれば、そもそも女性議員を増やそうという意思は薄いと言わざるを得ない。 2018年に国会と地方議会の議員選挙を対象に「政治分野における男女共同参画推進法」(候補者男女均等法)ができた。現在の県議は法施行後に選ばれた人たちだが、各政党とも候補者を男女同数にすることはなかった。 日本は、男女格差を示す19年の「ジェンダー・ギャップ指数」で153カ国中121位と低位に甘んじている。経済、健康、教育、政治の4分野のうち日本の足を引っ張っているのは政治で、閣僚数で139位、国会議員数でも135位とかなり少なく、女性の政治参加は進んでいない。社会のリーダーシップを発揮すべき分野で、ダイバーシティ(多様性)が著しく低い状態がずっと続いている。 政治の後進ぶりは女性の生き方にさまざまな影を落としている。政府が閣議決定した第5次男女共同参画基本計画には、選択的夫婦別姓の導入や女性登用の積極的な目標は盛り込まれなかった。 明治時代に始まった「夫婦同氏制」は特に女性に姓の変更を強い、生活と仕事の支障になっている。夫婦別姓導入は自民党内でも要望が強かったにもかかわらず、党反対派の攻勢で頓挫した。女性の登用目標も03年の小泉政権時に打ち出されながら、またもや先送りされた。 根底には「男は仕事、女は家庭」といった固定的な性別役割分業や旧来の単一的な家族観がある。県議アンケートでも結婚や子どもの有無で不当な扱いや違和感を抱いたという声が女性議員から出た。 菅義偉首相は男女共同参画会議で20年代の早い時期に指導的役割の女性30%を達成するよう取り組むと述べた。しかし県議会自民会派は議会の望ましい男女比率の設定には消極的で、このままでは候補者の男女均等や議会での30%目標の達成はおぼつかない。 今年は衆院選がある。女性候補を増やす各党の取り組みや実績を注視したい。女性が平等に扱われる社会であってはじめて、弱者や少数派も生きやすい多様性が尊重された社会になる。有権者も政治家も、厚いガラスを打ち破る意思が必要だ。
1945年の沖縄戦で日本軍を指揮した第32軍司令部の将兵の内訳や生死を記録した「留守名簿」の存在が明らかになった。首里城地下に残る32軍司令部壕の保存・公開を進める上でも価値ある資料だ。 「留守名簿」は陸軍省の規定に基づき、各部隊に所属する将兵らの氏名、生年月日、本籍、編入年月日などを記載している。第32軍司令部の名簿に記載されていた将兵や軍属は1029人。そのうち沖縄県出身者は278人で、都道府県別で最多だった。県出身者のうち軍属は219人で約8割を占めている。 32軍司令部に所属する将兵の内訳が明らかになるのは初めてであり、沖縄では兵士よりも民間人が32軍司令部に多く徴用されたことがうかがえる。名簿には県出身女性の名前も数多く記載されている。男女、年齢を問わず一般県民を戦場に駆り出した「根こそぎ動員」の一端を示すものだ。 戦後、日本軍の復員業務を担った復員庁が将兵らの生死を留守名簿に書き加えていた。それによると名簿に記載された1029人のうち「戦死」と記されたのは692人。そのうち600人が32軍司令部が45年5月末に首里の司令部壕から南部へ撤退した後の戦死者だった。日本軍の組織的戦闘が終了する直前の6月20日に戦死が集中している。 戦略持久戦継続のための南部撤退が県民に多大な犠牲を強いた事実は「軍隊は住民を守らない」という沖縄戦の教訓と共に広く認識されてきた。今回の留守名簿は戦場をさまよう一般住民だけでなく、32軍司令部の将兵、軍属も軍首脳の判断の犠牲となった実態を如実に表している。 朝鮮半島出身者2人の名前が名簿に記載されていることも重要である。「軍夫」「慰安婦」として連行され、地上戦に巻き込まれた朝鮮の人々の実態は今も明らかになっていない。日本軍が朝鮮人の扱いを軽視したためであろう。 今回、存在が確認された32軍司令部の留守名簿から、県民の根こそぎ動員と住民保護を度外視した戦略持久戦を遂行した32軍司令部の非人間性が浮き彫りとなった。それ自体はこれまでも指摘されてきたが、将兵や軍属の名前と出身地、生死記録など具体的なデータによって32軍司令部が引き起こした惨禍とその責任が鮮明になったのである。 首里城再建の動きと並行して司令部壕の保存・公開を求める機運が高まっている。多くの県民は沖縄戦の実相を伝える戦争遺跡としての意義を司令部壕に認めているのである。司令部壕は単なる軍陣地ではなく、南部撤退という県民の生死を左右する重大な決定がなされた地である。 県は2021年度から32軍司令部壕に関する文献などの資料収集事業を実施する。今回の留守名簿のような資料の発掘や分析を通じて、住民動員や作戦の意図、戦闘経緯に関する新たな事実が判明することを期待したい。
四半世紀を経て明確に言えるのは、沖縄の負担軽減ではなく機能強化がSACO(沖縄に関する特別行動委員会)合意の本質だということだ。 1996年のSACO合意では県内11施設、約5千ヘクタールの返還が決まった。2020年末時点で4411ヘクタールが返還されたが、大半は北部訓練場の返還(3987ヘクタール)である。 北部では返還地上空の制限空域はいまだ縮小されず、返還条件となったヘリコプター発着場(ヘリパッド)建設によって、東村での80デシベル以上の騒音測定回数は5倍を超えた。住民の生活環境は悪化している。 普天間飛行場返還に伴う新基地建設計画を含め、負担軽減とは名ばかりの機能強化が続く。沖縄の現実を日米両政府は直視し、真の負担軽減策を県民に提示すべきである。 SACOが設置された背景には95年の米兵による少女乱暴事件と、それを受け負担軽減を求める県民一丸となった行動があった。「基地のない平和な島」を求める県民の我慢が限界に達したことがある。 だが「負担軽減」を名目としたSACO合意に当初から県民の間には失望の声があった。普天間飛行場、牧港補給地区、那覇港湾施設の県内移設に代表されるように「基地のたらい回し」でしかないことが明らかだったからだ。 こうした代替施設建設以外でもSACO合意の形骸化は明らかだ。読谷補助飛行場でのパラシュート降下訓練は伊江島補助飛行場への移転が原則だったが、例外扱いの嘉手納基地でも訓練は恒常化している。自衛隊の南西諸島配備と軌を一にした日米の軍事一体化も進む。 そもそもこれほどまでに沖縄に米軍基地が集中するのはなぜか。普天間飛行場の経緯を振り返れば答えがある。朝鮮戦争後、日本国内での基地反対運動の高まりから、50年代、米統治下の沖縄に山梨県、岐阜県の海兵隊が移駐した。さらに山口県のヘリ部隊も移転し、現在の形になった。 もともとは日本国内に分散していた基地を政治的理由から沖縄に押し付けたのが実態だ。それは今も変わらない。SACO合意に米国防長官として関わったウィリアム・ペリー氏は17年の本紙インタビューで「(辺野古移設は)安全保障上の観点でも、軍事上の理由でもない。政治的な背景が原因だ」と指摘している。 結局、在沖米軍基地の整理縮小が進まないのは、日本国内での反対運動など政治的なリスクを取りたくない日米両政府の怠慢ともいえる。 玉城デニー知事は日米に沖縄を加えた協議の場「SACWO(サコワ)」を提案している。SACO合意が全て実現しても国内の米軍専用施設の約69%が沖縄に残る事実や海兵隊の部隊運用の変化もあり、25年前の合意にこだわる合理性はない。 県民が求める負担軽減の答えは何なのか、日米政府は真剣に考えるべきだ。
2021年は県内3市で市長選が実施されるほか、衆院選も行われる。いずれも県内の政局に大きな影響を与え、沖縄の将来を占う重要な選挙となる。 1月17日の宮古島市長選、2月7日の浦添市長選、4月25日のうるま市長選は自民、公明の勢力と、玉城デニー知事を支える勢力の対立構図が既に固まっている。いずれの市長選も両勢力が擁立する候補による事実上の一騎打ちになる見通しだ。これらを前哨戦に、任期満了を10月に控えた衆院選は早ければ春、遅くとも秋には実施される。 国民、県民生活を混乱に陥れたコロナ禍の中、衆院選は、難局をどう乗り越えるかが最大の争点になる。コロナ感染症対策や経済対策の実効性や成否を有権者がどう判断するかが、政局を左右することにもなりそうだ。 4月までの3市長選は、衆院選の行方を占う鍵となる。3市とも自公が推す市長が市政を担ってきた。各市長選では、自公が市政を維持するか、それとも「オール沖縄」勢力が奪取して勢力を拡大できるかどうかが焦点だ。宮古島市長選は衆院沖縄4区、浦添市長選は同2区、うるま市長選は同3区の情勢に影響する。 次期衆院選には、県内4選挙区に比例代表を含む現職6人、新人3人の計9人が出馬する見込みだ。沖縄2、3、4区は「オール沖縄」勢と自公勢が対決する構図で、1区は無所属の下地幹郎氏が自民党に復党するかどうかで構図が変わる。 前回衆院選では「オール沖縄」勢が支援する候補者が1、2、3区で勝利し、4区は自公勢が推す候補者が当選した。次期衆院選では、この勢力図がどう変わるかが焦点だ。 衆院選では、コロナ対策のほか、米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古の新基地建設の是非や、沖縄振興計画が21年度末に期限切れとなった後の沖縄振興の在り方などが争点の柱となる。 衆院選は、菅政権や玉城県政の評価も問われる。選挙結果は、22年の天王山となる県知事選の行方にも大きな影響を与える。 21年は、3市長選のほか、伊江、座間味、多良間、与那国、伊平屋、渡名喜、北谷の7町村で首長選が実施される。議員選挙は、嘉手納、浦添、本部、与那原、多良間、那覇、宮古島、糸満の8市町村で行われる。 県内では、子どもの貧困問題や地域振興、まちづくり、医療・福祉、教育など多岐にわたる分野で課題が山積している。各選挙の候補者は、コロナ禍の中でも有権者が政策を判断できる機会を確保できるよう情報発信を工夫し、論戦を深めてほしい。 今年はコロナ禍をどう脱却するか、政治家の手腕が試される年だ。各選挙における有権者の判断はコロナ禍で痛手を負った沖縄社会の再起への道筋を決める重い選択となる。
新年を迎えた。2021年の沖縄は、施政権返還(日本復帰)50年を1年後に控え、これから先の針路を決定する年になる。 50年前の1971年11月、琉球政府は日本復帰後の沖縄の在り方をまとめた「復帰措置に関する建議書」を作成している。 復帰運動の先頭に立った屋良朝苗主席は「建議書」前文にこう明記した。 「沖縄は余りにも、国家権力や基地権力の犠牲となり、手段となって利用され過ぎました。復帰という歴史の一大転換期に当たって、このような地位からも、沖縄は脱却していかなければなりません」 琉球併合、沖縄戦、米国統治など国家に利用された過去と決別し、二度と利用されないという表明だ。その上で、米軍基地は人権を侵害し生活を破壊する「悪の根源」と断じ、基地押し付けによる抑圧から解放され、人権が完全に保障されることを求めた。 残念ながら現状は逆である。米国は72年に施政権を日本に返還するが、復帰後も日本政府の合意を得て在沖基地を自由使用し続けている。 民意に反して名護市辺野古の新基地建設を強行するのは、今後も沖縄を利用し続けるとの宣言にほかならない。 では「建議書」は何を訴えたのか。「はじめに」の項で県民福祉を最優先に考え(1)自治の尊重(2)平和希求(3)平和憲法下の人権回復(4)県民主体の経済開発―を掲げている。 4本柱を実現するため、沖縄側が自己決定権を行使して新しい県づくりに取り組むことを表明した。国は沖縄側が立てた計画に責任を持って予算を付けるよう主張した。 沖縄の振興開発計画の責任は最終的に国にある、という日本政府の枠組みとはまったく異なる発想である。 しかし、国会は建議書を受け取る前に、与党自民党が数の力で沖縄返還協定を強行採決した。沖縄側の最後の訴えは届かなかった。 現行の沖縄振興特別措置法(沖振法)は21年度末で期限を迎える。復帰50年以降の新たな沖縄振興を巡る作業が本格化している。もし政府が、沖縄振興を基地問題との駆け引き材料にしようとするなら断固として跳ね返さなければならない。半世紀前、先達が大国の手段として利用されることを拒否したことを忘れてはならない。 県は今年、国に「新たな沖縄振興のための制度」を正式に提言する。国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」の推進を、沖縄振興の目標として位置付けていくことを打ち出している。 SDGsの枠組みを使うことは意義がある。SDGsの基本は人権であり、掲げている目標は既に建議書に盛り込まれている。 肝心なのは、自立へ向け県民が困難を乗り越え、問題解決のために共に一歩を踏み出すことである。希望を持って取り組む年にしたい。
このような試練の年になると誰が予想しただろうか。未曽有のコロナ禍は沖縄社会を大きな混乱に陥れた。今なお県民は苦境のただ中にある。さまざまな経験から得た教訓をコロナに打ち勝つ社会づくりに生かしたい。 県試算では新型コロナウイルスによる県経済の損失額は6482億円に上る。厚生労働省の集計で新型コロナ関連の解雇や雇い止めは1600人に迫っている。 政府の対応は後手に回った。菅内閣の支持率急落はコロナ対応への国民の不満の表れだ。菅義偉首相が掲げる政策理念「自助」「共助」「公助」の中で「公助」が乏しいのである。窮地に追い込まれた人々を支援する施策が不可欠だ。 島しょ県である沖縄は医師や病床の確保が県民の生命に直結する。逼迫(ひっぱく)する医療現場への支援と合わせ、コロナ禍で判明した課題を検証したい。経済面では観光依存型で良いのか再考が求められる。 半面、ネットを活用したリモートワークの試みが広がった。文化・芸能の分野でもネットによる情報発信が始まった。コロナ禍を生きる社会づくりの芽生えだと言えよう。 基地問題では辺野古新基地建設を強行する政府の専横が今年も目立った。防衛省は大浦湾に広がる軟弱地盤に7万本余のくいを打ち込む土地改良工事を追加する設計変更を県に申請し、次年度予算に55億円を計上した。税金の無駄遣いであり、政府は新基地建設を断念し、県内移設を伴わない普天間飛行場の全面返還にかじを切るべきだ。 米軍絡みの事故では4月、有害性が指摘される有機フッ素化合物PFOSなどを含む泡消火剤が普天間飛行場から流出し、周辺住民を不安に陥れた。地域住民の安全を脅かす事故は許されない。 今年上旬、34年ぶりに猛威を振るった豚熱も県民生活に衝撃を与えた。殺処分された豚は10農場で1万2千頭に上る。畜産農家の打撃は大きい。豚肉食は沖縄の食文化には欠かせない。再発防止に向けた防疫体制の確立が急がれる。 沖縄初の芥川賞受賞者で、戦後沖縄の文化・芸術活動の中軸であり続けた小説家の大城立裕さんが死去した。小説、エッセー、戯曲など多彩な作品を通じて沖縄問題の本質を追究してきた大城さんの文学的遺産を継承していきたい。 スポーツの分野では、プロ野球西武の平良海馬投手がパ・リーグ新人王選出という快挙を成し遂げた。自転車ロードレースの新城幸也選手が東京五輪代表に決まった。既に出場が確定している空手の喜友名諒選手と合わせて五輪での活躍が期待される。 コロナ禍の収束の道筋はまだ見えない。試練は来年も続く。県民個々に求められるのは命の支え合いであろう。それは75年前の沖縄戦の惨禍の中で得た教訓でもあった。苦境の中で、誰一人取り残さず命を守る沖縄の「共助」の精神を確認したい。
新型コロナウイルス感染症の流行によってさまざまな事柄が停滞・遅延する中で、国が強引に進めたのが米軍普天間飛行場の移設先とされる名護市辺野古の新基地建設だった。防衛省は4月、大浦湾の軟弱地盤の改良工事を盛り込んだ設計変更を県に申請した。 普天間飛行場からの泡消火剤流出、在沖米軍の新型コロナ感染症クラスター(集団感染)発生など米軍基地の存在が住民の健康や安全を脅かした。日米地位協定が高い壁となって必要な調査が実施されず、情報も提供されない。安全保障のひずみが露呈した2020年であった。 戦後75年、日米安保条約改定60年の節目となった今年、首相の座に就いた菅義偉氏の口癖を借りれば、政府は「粛々と」沖縄の基地建設を進め、「法治国家」にもとる基地被害があらわになった年でもあった。 防衛省が設計変更を申請した大浦湾には最大で水深90メートルの海底に「マヨネーズ状」と表現される緩い地盤が広がっている。当初、防衛省は軟らかい海底にケーソンと呼ばれる巨大なコンクリートの箱を並べて護岸を造ろうとしていた。そもそも無理な計画だ。そのために最初の埋め立て申請にはなかった、砂ぐいを7万1千本も海底に打ち込んで地盤を強化する工事を追加した設計変更を認めるよう県に申請した。 地盤が弱いことを示すデータの一部切り捨てや、照会した専門家会合に示した資料の誤りなど、沖縄防衛局の対応には申請前から問題が多数あった。防衛局は海底に打ち込む砂ぐいの本数や太さなど改良工事の詳しい内容を申請書に明示していない。あくまで建設を「粛々と」進めるための工事ありきの手続きだ。 基地から派生する問題が私たちの安心・安全を脅かす事故も相次いだ。 普天間飛行場から4月、有害性が指摘される有機フッ素化合物PFOSなどを含む泡消火剤約22万リットルが流出した。米軍由来の環境汚染にもかかわらず、日米地位協定が壁となって日本側の調査は限定的だった。立ち入り調査は米軍が許す限りでしかかなわず、しかも許可は発生から11日後だった。汚染物質の分析もPFOS、PFOAに限られた。 米軍のコロナ感染症クラスターでは、日米地位協定によって米軍関係者が入国の際に日本の検疫を免除される問題も浮上した。 昨年2月の名護市辺野古の埋め立ての賛否を問う県民投票で反対が72%を占めた。コロナ禍の中でも新基地建設現場に通じるキャンプ・シュワブゲート前では抗議行動が続き、県民の民意は変わらない。 来年はバイデン次期米大統領が始動する。米国の民主党は、自由や人権という価値観を重視する。県は辺野古新基地建設の非合理性と県民の民意、地位協定の不平等性を次期政権に効果的に伝えてほしい。理は沖縄にある。
2020年、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が社会や個人の生活を一変させた。 世界各地でロックダウン(都市封鎖)を繰り返し、経済活動は停滞している。命を守るため、県内の医療現場ではぎりぎりの取り組みが続いている。観光が牽引(けんいん)してきた県経済は急速に冷え込み、教育現場は休校の長期化などに翻弄(ほんろう)された。東京五輪・パラリンピックは延期となり、自粛の影響は県内各地の伝統行事にまで及ぶ。 未知のウイルスに対し、各国のリーダーは危機管理の資質が問われた。その中で日本政府の打つ手は後手に回り、備えの甘さを露呈した。 2月27日に安倍晋三首相(当時)が全国一斉に臨時休校を要請する考えを表明したが、突然の発表に共働き家庭や教員らは準備が整わず、対応に追われた。4月に新型コロナ特措法に基づく緊急事態宣言を全国に出したが、経済活動の自粛要請と営業補償がセットではないため事業者の経営難が深まり、感染対策の徹底にも課題を残した。 家計への現金給付を巡っても、減収世帯を対象とした方式が不興を買うと、一律1人10万円給付に方針転換するなど迷走した。全国約5千万世帯に布マスク2枚を配る「アベノマスク」は、税金無駄遣いの批判を免れなかった。 安倍政権後継の菅義偉首相は、「第3波」が広がる中でも肝いりの「Go To トラベル」の継続にこだわった。だが結局は、全国で医療崩壊を招く危機が高まり、年末年始のGo To停止に追い込まれた。 感染対策と経済の両立に固執する余り、矛盾をはらんだ政策や泥縄式の対応で事態の悪化を招いている。 県内では2度の緊急事態宣言によって国際通りから観光客が消えた。多くの観光客を呼び込むことで経済の成長を促してきたが、離島の限られた医療資源が逼迫(ひっぱく)する恐れがあり、玉城デニー知事らが来県・来島の自粛を呼び掛けざるを得なかった。 空港・港湾における水際防疫体制の不十分さなど、県の危機管理にも多くの課題が突きつけられた。観光に依存した経済の在り方も捉え直していく必要があるだろう。 7月には在沖米軍関係者の感染が急増し、県民に不安を広げた。日米地位協定により日本の防疫措置が及ばない「ブラックボックス」の存在が浮き彫りになった。 1年にわたる社会・経済活動の停滞がダメージとなって蓄積しており、廃業や失業による困窮、自粛・休校に伴う孤立を防がなければならない。非正規労働者、女性、学生・子どもなど、社会的に弱い立場の人がさらに追い込まれてしまう懸念がある。 未曽有のコロナ禍が続く中で、政府が優先することは公助を厚くし、格差を広げないことだ。苦境を支え合い、手を差し伸べていきたい。
沖縄関係予算が政治の駆け引き材料にされることを危惧する。基地を絡めた沖縄社会の分断策ではないかという疑念を抱かざるを得ない。 政府は総額3010億円とする2021年度沖縄関係予算を閣議決定した。18年度から4年連続同額だが、国の裁量権を一層強化する内容となった。県や市町村が増額を求めていた沖縄振興一括交付金は20年度当初予算から33億円減の981億円で、制度創設以降初めて1千億円を割り込み、過去最低を更新した。 一括交付金の減額は県内のインフラ整備の大幅な遅れなど県民生活に打撃を与えている。水道や学校などの施設整備に遅れが出ている市町村もある。住民生活の需要にそぐわない交付金減額からは、予算の主導権を握ろうという国の意図さえ透けて見える。沖縄振興特別措置法にある「沖縄の自主性を尊重する」との原点に立ち返った予算編成にすべきだ。 一括交付金は、地方自治体の裁量で使途を決められる地方交付金として12年に沖縄振興特別措置法で定められた。国が使途を決める「ひも付き」補助金に代わる交付金で、県や各市町村の実情に合った事業に予算を振り向け、沖縄の自立度を高める狙いがある。 12年度の初年度は1575億円を計上し、14年度に1759億円の最高額に達した。16年度まで1600億円台で推移したが、17年度は1358億円に大幅減額された。18年度以降、沖縄関係予算総額は維持されているが、一括交付金は減り続けている。 一方、「一括交付金の補完」と位置付け、国が直接市町村に投下する沖縄振興特定事業推進費は、前年当初予算比30億円増の85億円だった。増額幅は一括交付金の減額分とほぼ同額だ。この推進費が創設された19年度は30億円、20年度は55億円で大幅な増額が続いている。予算に対する県の裁量幅が狭まるのと同時に、県と市町村の間で分断が進む可能性をはらむ。 背景には普天間移設問題を巡る国と県の対立があるとみられる。一括交付金は、辺野古新基地建設に反対する翁長県政発足後初の予算編成となった15年度以降、同じく新基地建設に反対する玉城県政を含め7年連続で減額された。 政府は沖縄関係予算と基地問題のリンクを表向きには否定している。しかし、菅義偉首相は官房長官時代に「結果的にはリンクしている」との発言を繰り返してきた。予算を通じて県の裁量権を狭めようとする国の姿勢は、新基地にあらがう県政への締め付けのようにも見える。 現行の沖縄振興計画は21年度に期限切れを迎える。今後、基地問題を絡めて、政府が新たな沖縄振興策を駆け引き材料にすることへの懸念も拭えない。県は自主性を発揮できるよう国と粘り強く交渉する必要がある。基地問題と振興策を絡めた沖縄社会の分断を許してはならない。
プロ野球、西武ライオンズの平良海馬投手(八重山商工高出)が2020年の新人王に輝いた。県勢では初の快挙であり、出身地の石垣だけでなく、県内の野球ファンは大いに沸いた。 パ・リーグで毎年のように上位を争うチームで、主砲の山川穂高選手(中部商高出)と共に欠かせない存在へと成長した。スポーツに限らず、離島県の中の離島である八重山・宮古地域では、練習相手や実戦経験の不足などさまざまな困難があっただろう。 その中で自らを信じて努力を続け、栄光を手にした。平良投手の快挙は離島の子どもたちに勇気を与えるとともに、目標に突き進む信念の大切さを教えてくれた。 石垣では学童野球、中学硬式野球のチームで活躍し、八重山商工に進んだ。150キロの速球とパワフルな打撃で高校時代から注目株ではあったが、県大会の最高成績はベスト8にとどまる。甲子園には手が届かなかった。 しかも八重山商工は少子化や他校との競合で野球部員が集まらず、一時は部員6人しかいない時期もあった。平良投手も2017年春の県大会は宮古工高との連合チームで出場している。 当時、大会に向けて両校が合同練習をしたのは2度しかなかったという。チームワークが求められる団体競技で、人数がそろわない状態でもチームを維持するのに、苦労を重ねたことが分かる。 それでも平良投手は「将来の目標はプロ」と努力を欠かさなかった。 念願のプロ入りを果たしても休むことなく歩み続けた。一軍に定着した19年のオフシーズンは球団の優勝旅行を辞退して、大リーグのシアトル・マリナーズで活躍する菊池雄星投手の元へ渡米し、共に練習した。高校時代から続く「プロの一軍で投げて活躍すればみんなが見てくれる。頑張っている姿を見せて、プレーで周りへの感謝を伝えたい」という気持ちを変わらず持ち続けていることがうかがえる。 平良投手の快挙に接し、高校時代の指導者は「チーム力とは別に努力すれば個人の将来性に差がないことを証明してくれた」とたたえる。夢を諦めず、誰もが認める実績を積み上げた姿は、離島の子どもたちにとってこれ以上ない目標になるだろう。 終盤、僅差の場面で出てくる救援投手は一球一球が勝敗に直結する。平良投手が登板するのも、そうした緊張する舞台がほとんどだ。その中で相手チームの主軸を抑える心の強さ、技術の高さは、これまでに培った実力を示している。着実に歩みを進める平良投手には、さらなる進化を遂げてほしい。 近年、プロ野球では山川選手を筆頭に県出身選手が輝きを増している。離島から生まれた新たなヒーローが、多くの子どもたちに夢を与えてくれることを期待したい。
「コザ騒動」から50年を迎える。交通事故処理をきっかけに数千人の住民が米憲兵や外国人の車両を次々焼き払った。先導者がいたわけではない。自然発生だった。 住民の直接抵抗は米国の沖縄統治の破綻を象徴していた。米国はやがて沖縄の施政権を返還するが、日本政府合意の下で基地の自由使用は手放さなかった。 理不尽な現実は今も続く。日本政府は民意を無視して米軍のために辺野古新基地建設を強行している。騒動で示された怒りの爆発は、過去の出来事ではない。 米国統治下の沖縄は、すべてが軍事優先で住民の安全、人権はないがしろにされた。米軍人・軍属による犯罪は、ベトナム戦争がエスカレートする1960年代半ばに年間千件を超えている。 しかし、琉球警察は、米軍人・軍属を逮捕できないし、沖縄側に裁判権もなかった。立法院は、捜査権・逮捕権・裁判権の沖縄への移管を求め続けたが無視された。 そしてコザ騒動の3カ月前、主婦をひき殺した米兵が上級軍法会議で無罪になった。怒りは頂点に達した。 米軍には沖縄住民が「おとなしく従順」という固定観念があった。このため沖縄住民が我慢の限界を超えたとき、騒動という形で物理的破壊を伴う怒りを爆発させることなど予期していない。 騒動から4日後、衆院議員の瀬長亀次郎氏は国会で質問に立った。現場で拾った焼けただれた車両のバンパーを手に「アメリカに対する県民の決起、これはほんとに怒りが爆発したものである。この怒りの強さは鉄をも溶かす強さだ」と訴えている。 沖縄を統治する最高責任者ランパート高等弁務官は、駐日米国大使館に「都合のよくない時代の始まり」と報告。統治の限界を自ら認めている。その上で「日本政府による施政権行使が開始され、日米地位協定が効力を発揮するまで続く」と指摘した。 日米地位協定は、米軍が日本に駐留するための取り決めだ。日本の国内法が適用されず罪を犯した米兵の身柄すら確保できない。米軍機の墜落や不時着事故が民間地域で発生しても、日本の警察による初動捜査は阻止される。米兵犯罪で重大事件以外は裁判権を放棄する密約も明らかになっている。 日本復帰の後、沖縄に地位協定が適用された。この不平等条約が効力を発揮することによって、米国統治下と錯覚するような軍事優先の環境に置かれることになる。しかも対米従属に終始する日本政府は、地位協定を抜本的に改定する努力を怠ってきた。 復帰後、米軍による事件・事故がどれほど繰り返され、真相究明が地位協定の壁にどれだけ阻まれただろう。 「ウチナーンチュ(沖縄人)だって人間じゃないのか」。コザ騒動の現場で人々が叫んだ言葉は今も変わらない。
誰もが望む姓で生きられる社会に向けた取り組みが、大幅に後退した。 政府は近く閣議決定する第5次男女共同参画基本計画案から「選択的夫婦別姓」の文言を削除することを決めた。 働く女性が増え、家族の在り方も多様化している。日本以外に夫婦同姓を義務付ける国はないという。同姓規定の見直しは避けて通れない。 基本計画の政府原案は、民法の夫婦同姓規定により96%の女性が結婚に伴い姓を変えている現状や、意見募集で寄せられた「実家の姓が絶えることを心配して結婚に踏み切れず少子化の一因となっている」という意見を掲載した。 2015年の最高裁判決の「夫の氏を称することが妻の意思に基づくとしても、意思決定の過程に現実の不平等と力関係が作用している」との指摘も掲載。民法の差別的規定を廃止するよう求める国連女性差別撤廃委員会の勧告にも触れていた。 しかし、自民党反対派に押され最高裁判決や国連勧告の部分は削除された。これまで積み上げてきた事実を、なかったことにするような乱暴なやり方である。 基本計画は女性政策における今後5年間の指針となる。導入に前向きな表現が盛り込まれれば、法改正などの検討が進むと期待されていたが、選択的夫婦別姓の文言自体が消えた。代わりに「家族の一体感、子どもへの影響や最善の利益」の考慮など、反対派の主張が盛り込まれた。今後議論が停滞することも予想される。 選択的夫婦別姓を巡っては、法務省の審議会が1996年に民法を見直し、選択的夫婦別姓制度を導入するよう答申した。法務省は96年と2010年に導入の改正法案を準備したが、自民などの保守派が「家族の絆が壊れる」と反対し、提出されていない。強制的に同姓にしないと家族が崩壊する、との主張に説得力はない。 内閣府が18年2月に公表した世論調査で選択的夫婦別姓制度に賛成する人は過去最高の42・5%だった。姓が違っても家族の一体感に影響はないと考える人は64%に上る。 この調査から、社会の意識は変わりつつあることが分かる。しかし、「女性活躍」の看板を掲げた安倍政権下で議論は進まなかった。伝統的な家族観を重視する保守層に支持されていたため、慎重になっていたとみられる。 菅義偉首相の誕生で変化が感じられた。かつて自身が推進の立場で議員活動をしてきたことについて「そうしたことを申し上げてきたことには責任があると思います」と明言したからだ。結果は前進ではなく後退だった。 夫婦別姓について地方議会から立法化を求める意見書の採択が相次ぐ。最高裁も国会に議論を促している。個人の尊厳や多様な価値観を尊重するため、立法府でしっかり議論すべきだ。
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