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2020/11/30 10:05
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「桜」夕食会問題/国会で真実明らかにして
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安倍晋三前首相の後援会が「桜を見る会」の前日に毎年開いていた夕食会を巡り、安倍氏側が費用の一部を補塡[ほてん]していたことが分かった。補塡額は昨年までの5年間で計900万円を超えるという。政治資金収支報告書には記載がなく、東京地検特捜部は政治資金規正法などに違反している疑いがあるとみて調べている。
安倍氏は首相在任中、夕食会は参加者の会費で賄われており「補塡した事実は全くない」と一貫して主張してきた。野党が「前首相は虚偽答弁を繰り返してきた」と非難するのは当然だろう。 安倍氏側がホテル発行の領収書を廃棄していた疑いも浮上している。違法性の認識を裏付ける証拠とも言えるが、安倍氏は領収書の存在自体を否定していた。どちらが真実なのか、安倍氏自身が証人喚問など国会招致に応じて明らかにしてほしい。 政治的、道義的責任 安倍氏の公設第1秘書と資金管理団体の会計責任者が主導して費用の負担割合を決めていたとの指摘もあるが、一連の問題が浮上したのは1年も前のことだ。公設秘書らが事実を隠していたとしても、事務所内の調査が十分だったとは言い難く、安倍氏の政治的、道義的責任は明白だ。 従来の主張を翻した安倍氏側に対しては、身内である与党からも批判が出始めている。補塡した費用はどこから捻出したのか。安倍氏はどの程度関与したのか。自ら進んで説明するべきだ。 菅義偉首相の人ごとのような国会対応にも落胆を禁じ得ない。首相は衆参両院の予算委員会集中審議で、安倍内閣の官房長官として安倍氏の説明を追認する答弁をしていたことについて「事実と違った場合は当然、私にも責任がある」と述べた。だが、安倍氏側には事実関係の確認すらせず、野党が要求する証人喚問や参考人招致に関しても「国会が決めること」などと消極姿勢に終始した。 飛び火恐れる首相 「桜を見る会」には安倍氏の後援会関係者が多く招かれ、「税金の私物化」との批判があった。野党は、内閣府が招待者名簿を廃棄した問題についても再調査を求めたが、首相は「既に必要な調査をしており、国会でも説明してきた」と拒んだ。 現政権への飛び火を恐れているのだろう。しかしこれでは、閣僚が不祥事で辞任するたびに「任命責任は首相の自分にある」と言いながら何ら責任を取らなかった安倍氏と少しも変わらない。捜査の進展次第では、これまでの説明に対する首相自身の責任も問われることになろう。 来月5日が会期末の臨時国会は最終盤を迎える。首相も出席してきょう開かれる参院本会議が攻防のヤマ場となるとみられる。さらに野党は、閉会中審査の開催を要求し、年明けの通常国会でも追及を続ける構えだ。 新型コロナ対策をはじめとする重要課題に腰を据えて向き合うためにも、首相は安倍氏に対し、国会招致や関係文書の提出に応じるよう促す必要がある。 隠蔽し、言い繕う
安倍前政権では、「森友学園」への国有地売却を巡る国会質疑で、事実と異なる政府答弁が計139回あったことも明らかになった。それでも政府は、自殺した元近畿財務局職員が公文書改ざんの過程を記したとされるファイルの存否さえ明らかにせず、再調査も拒み続けている。 世論から批判を浴びそうな事案は隠蔽[いんぺい]し、発覚してもどうにかして言い繕う。国会を軽視して説明責任を尽くそうとしない悪弊が、前政権からそのまま引き継がれていることが残念でならない。「国民から信頼される政府」を目指すのであれば、そうした姿勢をまず改めるべきではないか。
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2020/11/29 10:05
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大蘇ダム漏水/農水省の説明責任は重い
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産山村山鹿に建設された国営大蘇ダムで、2008年に続いて再び大規模な漏水が発覚した。「一度ならず二度までも-」。熊本・大分両県の受益農家は今、そんなやり切れない思いに違いない。
漏水は8月に日量最大3万トン、11月下旬も1万5千トンあり、想定の2千トンを大幅に上回る。1979年度の事業着手から40年を過ぎてもなお、想定された機能が期待できない農業用ダムの現状は、受益農家のみならず地元負担に応じた地域にとっても、深刻な事態である。
加えて、事業主体の農林水産省は現時点で、漏水やダムの現状について十分な説明責任を果たしているとはとても言えない。まずは一刻も早く、受益農家および地元自治体の両県と阿蘇市、産山村、竹田市に対する詳細な説明を求めたい。さらに原因究明と、抜本的な漏水対策を急ぐべきだ。
大蘇ダムは、国営大野川上流土地改良事業の中核施設で、堤高約70メートル、堤長約262メートル、ダム貯水池の有効貯水量は389万トン。阿蘇、産山、竹田の計3市村に農業用水を供給するとされている。
79年度にスタートした計画は途中、2度の変更による事業費増額を経て、2005年2月にいったんダムが完成。試験湛水[たんすい]に入った。ところが3年後の08年2月、九州農政局は貯水池からの水漏れが1日5千~4万トンにも達し、計画通りの水の供給ができないことを明らかにした。
その後、国に加えて受益農家が多い大分県側の負担で、貯水池の約3分の2をコンクリートなどで覆う浸透抑制対策工事に100億円以上を支出。今年4月からようやく供用開始にこぎ着けたところだった。
今月に入り発覚した再びの水漏れをめぐっては、1度目にも増して、情報公開に後ろ向きな農水省の姿勢が浮き彫りになった。九州農政局が熊本県と阿蘇市に説明したのは24日。産山村への説明は、大蘇ダム完工式当日の25日午前までずれ込み、竹田市の式典に出席するはずだった阿蘇市、産山村の首長ら約30人は欠席した。地元の憤りはよく理解できる。農水省の説明責任の欠如は重大だ。
国営事業の地元負担金は、地域に利益があって初めて意味を持つものだ。大野川上流土地改良事業の費用は、当初計画では130億円だった。それが水漏れ対策を含む3度の計画変更により、現時点で720億6千万円まで膨れ上がった。このうち熊本県と阿蘇市の負担金は26億円を超える。
一方で、人口減少や農家の高齢化もあり、受益面積は当初の2481ヘクタールから1865ヘクタールまで縮小した。もっと早く、安価な方法はなかったのか、過去40年余りの節目節目で、違う選択肢はなかったのか、との思いが残る。
ここまで当初計画から逸脱し、今も事業完了が見込めない以上、事業自体の検証も不可欠だ。大蘇ダムの現状は、いったん動きだせば後戻りしない国営大型事業の問題点も照らし出している。
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2020/11/28 10:05
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学級の少人数化/適切な教育環境整えたい
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公立小中学校の学級編成を巡り、国の動向に関心が集まっている。「40人学級」の見直しは、きめ細かな教育の推進などを求める教育界の悲願だ。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、児童生徒が入る教室の「密」の解消を求める機運も高まり、少人数化を求める動きを勢いづけている。
しかし、「30人学級」を目指す文部科学省に対し、財政支出を抑制したい財務省は慎重だ。少人数化による教育効果の善しあしも評価を分け、両省は対立を深めている。
1学級の上限が40人学級となって40年。教育を取り巻く状況は大きく変化しており、今日では子どもたち一人一人への関わりが一層必要となっている。時代に合った教育環境を整えるためにも、少人数化に向けた議論を深めてもらいたい。
1学級の上限を定める義務教育標準法は1958年に成立。当初の上限は1学級50人だった。64年度から45人になり、現行の40人としたのは80年度からだ。
民主党政権の2010年には、文科省が11~18年度に公立小中全学年で上限を30~35人に段階的に引き下げる計画を公表した。だが、これは財務省との折衝で頓挫し、11年度から小1のみ35人に引き下げている。小2については学校の課題に応じて増員配置される「加配定数」という枠組みで教員を充て、事実上35人学級を実現している。
14年には小1と小2で、35人学級の教育上の明確な効果がみられないとして、財政制度等審議会が40人学級に戻すよう提言。この時は35人学級が継続されたが、その後も両省によるせめぎ合いは続いている。来年度予算の概算要求では、文科省が必要額を示さない「事項要求」で少人数学級化を盛り込んだが、財務省との交渉は難航が予想されている。
少人数化は、きめ細かな教育を実現し教員の負担も軽減する方策として長年求められてきた。コロナ禍で「分散登校」などを余儀なくされた結果、少人数となった学級で学習効果が高まったとの報告もある。
しかし、財務省は少人数学級による学習効果には裏付けがないとして導入に依然否定的だ。教員採用試験の競争倍率は下がっており、無理に人数を増やそうとすれば教員の質が低下するとの見方も示している。
教育現場が直面する課題の解決は一筋縄ではいくまい。ただ、それでも解決の糸口として少人数学級化があるとすれば、実現の可能性を広げるべきではないか。
自民党の教育再生実行本部は9月、30人学級実現を求めて決議した。文科省も、今後10年かけて段階的に1学級の上限数を引き下げていけば、必要となる8万~9万人の教員の増員は財政的にも無理なく実現できると試算。萩生田光一文科相も「30人学級を目指すべきだと考えている」と明言している。財務省との調整がつかない場合は政治決断も必要となろう。
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2020/11/27 10:05
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香港民主派排除/世論受け入れ暴挙撤回を
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香港政府が、香港立法会(議会、定数70)の民主派議員4人の議員資格を剥奪した。中国の全国人民代表大会(全人代)常務委員会会議が、立法会の議員に中国と香港政府への忠誠を求める決定をしたためだ。 残る民主派議員15人も香港政府に抗議し辞表を提出したため、立法会の勢力は親中派(41人)が圧倒的多数を占めることになった。中国が1997年に英国から香港を返還された際に国際社会へ約束した「一国二制度」の形骸化が一段と進む懸念がある。 全人代常務委の決定は、(1)香港独立の主張(2)中国の香港への主権行使を認めない(3)外国勢力に香港への干渉を要求(4)国家の安全を損なう-などの行為をした議員の資格を即時剥奪する、との内容だ。しかし、有権者の投票で選ばれた議員の恣意[しい]的な解任は、民主主義を根底から覆す暴挙である。 米英オーストラリアなど5カ国の外相は、香港の「高度の自治」を損なうと指摘する共同声明を発表。日本も一国二制度の維持を求めた。多くの香港住民も「自由と民主主義」を望んでいる。中国は香港の世論と国際社会の声を受け入れ資格剥奪を撤回するべきだ。 香港では昨年、中国への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案に反対する大規模デモが頻発。危機感を募らせた中国は今年6月、国家の分裂や政権の転覆、テロ活動、外国勢力と結託して国家の安全に危害を加える行為を禁じた香港国家安全維持法(国安法)を施行し、統制を強化した。 香港政府もこれに歩調を合わせた。国安法に反発する民主派の勢力拡大を防ぐため、9月に予定されていた立法会選挙を、新型コロナウイルスの感染拡大を理由に1年延期。10月からの立法会が民主派の抵抗で再三審議が中断するなどしたため、香港の林鄭月娥行政長官が全人代に議員資格についての審議を要請した。今回の民主派4人の議員資格剥奪は、中国当局が民主派の押さえ込みに本腰を入れ始めたことの表れだ。 著名な民主派への弾圧も激しさを増している。香港警察は8月、「民主の女神」と呼ばれた周庭氏や、中国に批判的な香港紙の創始者李智英氏らを国安法違反の容疑で逮捕。今月23日には、「逃亡犯条例」改正案に反対するデモを煽動[せんどう]した罪などに問われた周庭氏ら3人に有罪判決が下り、3人は保釈の継続が認められず即日収監された。 中国共産党は10月の重要会議である第19期中央委員会第5回総会のコミュニケに「香港の長期にわたる繁栄と安定を維持する」と盛り込んだはずだ。強権で民意を封じ込めるやり方では、長期的な「繁栄と安定」は望めまい。 民主主義の価値観を共有する日米欧は連携し、中国当局の民主化封じ込めや人権弾圧をやめるよう働き掛けを続けるべきだ。隣国で起きている暴挙を見過ごすことは、日本や世界の民主主義を揺るがすことにもつながりかねない。
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2020/11/26 8:05
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県南復興プラン/地域の声に沿う具体策を
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県は、7月豪雨で被災した球磨川流域12市町村と津奈木町の「復旧・復興プラン」を公表した。生命・財産を守る安全の確保と環境保全を基本理念とし、蒲島郁夫知事が国に建設を求めた流水型(穴あき)ダムにさまざまな治水対策を組み合わせた「緑の流域治水」に取り組むという。道路や鉄道などの社会インフラも強靱[きょうじん]化し、産業の再生・創出や地域の魅力づくりも進めるとしている。
ただ、県のプランは今後の取り組みの方向性を示しただけで、地域ごとの復旧・復興の具体策や実現の時期などはまだ見えない。軸となる球磨川の治水対策の協議が、国、県、流域市町村などの間で続いているためだ。
治水対策の詳細は来年3月末までに公表される方針で、県はこれを待って復旧・復興プランを改訂することにしている。実現可能な事業に落とし込んでいく作業は簡単ではなかろう。財源や必要な人材、技術の確保といった多くのハードルが予想される。地域の実情や要望に沿う具体策が示されることを求めたい。
プランで「5年以内の事業完了・着手」とした河道掘削、堤防整備などの河川改修については曲折もありそうだ。日の目を見ずに頓挫した「ダムによらない治水」を検討する場でも、一部地域から慎重論が出るなど市町村間で意見の相違がみられたからだ。治水効果を高めるためには大規模な掘削が必要だが、環境への影響など詰めるべき課題もある。どのように調整を図るのか、県のリーダーシップが試される。
高台などの安全な場所への移転促進も、住民の合意形成は容易ではない。熊本地震の際も、集落の大半の家屋が全壊したため集団移転を検討した地域はあったが、移転派と残留派の間に亀裂も生じ、その後立ち消えになった。住み慣れた地域からの移転を進めるのならば、地域のつながりを重視した、きめ細やかな行政のサポートが欠かせまい。
一方、地域支え合いセンターによる見守りや、グループ補助金を拡充した「なりわい再建支援補助金」による事業再建、高齢者世帯の利用を想定した住宅ローンへの利子助成など、熊本地震での経験を生かした支援メニューがふんだんに盛り込まれたことは評価したい。地震の際に見えた各施策の課題を改善した上で、より利用しやすい施策にすることが重要だ。
プランには、将来ビジョンとして、球磨川流域大学構想や国家戦略特区の活用なども視野に入れた多岐にわたる取り組みが盛り込まれた。蒲島知事は「夢を描いた」と語ったが、地域の要望と合致させるためにも住民の声を反映させる仕組みづくりが必要だ。
熊本地震では被災を機に、「自分が住んでいる地域を見直すきっかけになった」という声を多く聞いた。復旧復興で「持続可能な地域の実現」を目指すという県の目標に異論はない。復興を、人口減に苦しむ地域の再生につなげなくてはならない。
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2020/11/25 10:05
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G20首脳宣言/国際協調を取り戻す時だ
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20カ国・地域首脳会議(G20サミット)が首脳宣言を採択して終わった。新型コロナウイルス対策や世界経済の回復へ向けて「結束」が強調されたが、現実の各国の足並みはそろっていない。米国の政権交代をにらみ、今こそ国際協調を取り戻す時だ。 宣言は「多国間協力がこれまでになく必要とされているとの信念の下に結束する」と表明。新型コロナのワクチン供給や製造について協調することで一致した。世界貿易機関(WTO)を中心とする多角的貿易体制、気候変動への対応などの重要性も認めた。 ワクチンを巡っては、世界保健機関(WHO)が途上国にも低価格で普及させる枠組み「COVAX(コバックス)」を立ち上げている。だが、国内優先の米国やロシアは参加していない。日本や欧州の先進国も他国に先駆けてワクチンを確保しようと、製薬会社を相手に争奪戦を展開してきた。中国とロシアは他国提供に意欲を示すが、外交的な影響力拡大の思惑があってのことと警戒されている。途上国がコロナ封じ込めに失敗すれば、世界的な経済活動再生などの足かせになりかねない。協調できるかどうかが、試金石になると言っても過言ではない。 米国のトランプ大統領は自由貿易体制を批判。経済の保護主義が台頭し、G20も振り回されてきた。WTOも機能不全に陥った。 米国は地球温暖化対策のパリ協定から4日、正式に離脱。温室効果ガス排出削減に積極的な欧州と対立してきた。一方、石油や石炭の資源国のロシア、オーストラリアなども削減姿勢を明確にしていない。新興・途上国は安価な石炭火力発電などに頼っており、再生可能エネルギーの導入が進まない。これらの国々への支援も、今後の温暖化対策のカギとなる。 米大統領選で勝利を確実にしたバイデン氏は、パリ協定への復帰を表明している。米国を国際協調路線へ回帰させ、多国間主義を立て直す好機とすべきだ。 日本の菅義偉首相は、2050年までの温室効果ガス排出実質ゼロを表明し、国際公約とした。しかし、国内の排出削減の取り組みは、欧州連合(EU)などに比べて大きく遅れている。政府には政策の具体化が求められる。
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2020/11/24 8:05
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参院「1票の格差」/司法判断に甘えず改革を
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選挙区の違いによる「1票の格差」が最大3・00倍だった昨年7月の参院選について、最高裁は「合憲」との判断を示した。
2015年の公選法改正で導入された「合区」により最大格差が3倍余りに縮小した16年選挙に続く合憲判断だ。最高裁は、合区解消を望む意見もある中で国会が合区を維持し、わずかでも格差を是正したことを前向きに評価した。
ただ、最高裁は国会に「今のままでよい」と合格点を与えたわけではない。裁判官15人のうち3人は「違憲」、1人が「違憲状態」とする個別意見を付け、合区導入後は動きの鈍い国会を批判した。判決には、次の参院選までに格差是正が進まなければ違憲の判断を下す、という警告の意味も込められていると考えるべきだ。
憲法は法の下の平等を定めている。有権者が投じる票は等価値でなければならない。国会は今回の司法判断に甘えず、一刻も早く抜本改革を実現してもらいたい。
参院選を巡り、最高裁は07年選挙までは5倍前後の格差を合憲としていた。だが5・00倍だった10年選挙、4・77倍の13年選挙に対しては、立て続けに「違憲状態」と判断した。
このため国会は15年に改正公選法を成立させ、「鳥取・島根」、「徳島・高知」をそれぞれ一つの選挙区にする合区で格差を3・08倍にまで縮めた。さらに改正法の付則に「19年の選挙に向け格差是正などを考慮し、抜本見直しに必ず結論を得る」と明記した。
その結果、最高裁は16年選挙を合憲とした。格差の縮小だけでなく、付則で示された決意を評価したものだったといえる。ところが、昨年の選挙に向けた18年の改正は埼玉選挙区に限った定数調整だけにとどまった。
合区を巡っても、対象となった県では、国政に意見が届きにくいという不満が出たり、投票率が著しく低下したりする弊害が指摘されている。合区により立候補できない議員を救済するため、比例代表に政党の意向で優先的に当選させる「特定枠」も新設された。有権者の意思を反映せずに当選者を決めるような仕組みを設けるのは本末転倒で、民主主義の根幹をも揺るがしかねない。
新型コロナ禍に伴う変化の兆しもあるとはいえ、地方から都市部への人口集中に急ブレーキがかかるとは考えにくい。都道府県を選挙区の単位とする限り、1票の格差は拡大し続けるだろう。
合区を増やすか、選挙区を取り払いブロック制とするか、など格差を解消するには幾つかの選択肢がある。自民党は憲法改正の4項目の一つとして参院議員を都道府県の代表と位置付けることを提案している。
党利党略や議員同士の利害にこだわって小手先の修正を繰り返すだけでは、抜本的な改革は逆に遠のく。第三者に検討を委ねることを基本とし、衆参両院の役割分担や、参院の役割にふさわしい議席数などにまで踏み込む議論が求められている。
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2020/11/23 10:06
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GoTo見直し/早急に「公助」態勢構築を
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第3波とみられる新型コロナウイルスの感染拡大を受け、菅義偉首相が21日、「Go To キャンペーン」の「トラベル」「イート」運用見直しを表明した。 各地でキャンペーンによるにぎわいが伝えられている3連休初日の方針転換は、いかにもちぐはぐな印象である。具体的な見直し時期や対象地域も今後の検討課題としており、「遅きに失した」との批判は免れまい。政府は、これまでの経済優先の政策にブレーキをかける対応に明確な方針を示した上で、生活支援などの「公助」の態勢を早急に構築すべきだ。 危機感に大きな溝 全国のコロナの新規感染者は10月から増加傾向に入った。今月12日には1660人が報告され、過去最多を更新。その後も拡大が続いている。 こうした状況を受け、日本医師会の中川俊男会長は11日の会見で「第3波と考えてもよい」と表明。政府のコロナ対策分科会の尾身茂会長も12日に「感染拡大がこのまま続けば一人一人の努力だけでは対策が追いつかなくなる」と警告していた。 共同通信社が14、15日に実施した全国世論調査でも、感染者が急増している現状に、「不安を感じている」は「ある程度」を含め計84・0%に。「Go To トラベル」の実施期間を延長する政府方針についても、反対が50・0%で賛成の43・4%を上回った。 にもかかわらず、菅首相は「Go To」見直しについて慎重姿勢を示し続け、19日の段階でも「静かなマスク会食」の実践という国民の自助努力を提言。国民や専門家らが抱いていた危機感とは大きな溝があった。 安全網確立が必要 結局、20日のコロナ対策分科会の見直し提言を受けて方針転換を迫られた形だが、泥縄であることは否めない。 対象地域は、感染状況を表す4段階の国基準で「急増」のステージ3相当の地域が想定され、現時点で北海道や東京都、愛知県、大阪府が該当すると見込まれる。 西村康稔経済再生担当相は「知事の意向を尊重して調整したい」としているが、キャンセル料の支払い方法や予約システムの変更をどうするかなどは不透明なまま。まずはこうした具体的課題の解決策を示すのが先決だろう。関係業界の混乱を最小限とする対応が必要である。熊本も先行事例を見据えながら、対象となった場合に備えておくべきだ。 また、政府には、医療支援とともに、経済活動の縮小に伴う国民生活への追加の支援策も早期に示してほしい。 現在、特に気になるのが自殺者の急増である。警察庁によると、10月の自殺者数(速報値)は2153人で、前年同月の1・4倍。4カ月連続で前年同月を上回り、女性の増加傾向が著しい。非正規労働者を中心に解雇が急増するなどコロナによる生活不安が影響しているのは間違いあるまい。首相は、「公助」による安全網確立が今こそ必要であることを強く認識すべきだ。 問われる補正内容 政府は現在、第3次補正予算の編成作業に着手しているが、「Go To」見直しを受け、改めてその内容が問われる。 検討中の項目では、雇用調整助成金の拡充措置の期限延長やワクチン確保の一方で、「Go To トラベル」の延長や地方自治体のデジタル化支援など、コロナ後を見据えたような経済優先の踏襲が目立っていた。今はまだそのような状況にないことが明確になった以上、前述した安全網確立を最優先するべきだ。このところ正式な記者会見を開かないままでいる首相には、今後のコロナ対応の方針について、明確で丁寧な説明を求めたい。
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2020/11/22 10:05
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内定率大幅下落/氷河期再来避ける努力を
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新型コロナウイルスの影響が大学生の就職活動にも大きな影を落としている。第二の「就職氷河期」をつくらぬよう、官民挙げた努力が必要だ。 文部科学、厚生労働両省が調査した来春卒業予定で就職を希望する大学生の内定率(10月1日時点)は前年同期比7・0ポイント減の69・8%にとどまった。リーマン・ショック後の2009年の7・4ポイント減に次ぐ下落。この時期として5年ぶりに70%を割り込み、「売り手市場」は激変した。 コロナ禍で、学生は例年とは異なる就職活動を強いられた。大学は閉鎖され、就職説明会の中止も相次いだ。情報収集や相談の機会が減り、企業との面接はオンラインに。対面の空気感が分からない状況で、いかに自分の個性や仕事への情熱を伝えられるか、そんな悩みや戸惑いを抱える学生も多い。一方、大学側も帰省した学生と連絡が取れず、十分に支援できない事情もあるようだ。 専門技能を学ぶ専修学校の内定率は14・9ポイント減の45・5%と、さらに深刻だ。航空や観光関連企業への就職が多いという県内の外国語系専門学校の担当者は「例年と比べて求人自体が半分ほどしかない」と厳しさを語っている。 コロナ禍で企業の業績は観光、運輸、飲食などを中心に落ち込みが激しい。ここへ来てようやく、自動車や「巣ごもり需要」に応じた電機や食料品の一部で持ち直しつつあるが、設備投資は低水準のまま推移しており、先行きの不透明感はぬぐえない。 厚労省によると、大学生の採用内定取り消しは判明しているだけで159人。新型コロナウイルス感染拡大に関連した解雇や雇い止めは、見込みを含めて7万1千人を超える。 90年代半ばから約10年間続いた「就職氷河期」に社会に出た世代は、就職できなかったり非正規雇用を続けたりして不安定な収入に今なお苦しむ人が多い。経済的な理由で若い世代の結婚や子育てといった将来設計が難しくなれば、社会にとってゆゆしき事態である。氷河期の再来は絶対に避けなければならない。 業績悪化が長引く中、新卒採用に慎重になる企業側の心理は理解できる。だが、長期的な企業展望を考えれば、採用抑制は得策とは言えまい。むしろ、将来の飛躍のために優秀な人材を獲得する好機と捉える発想の転換が求められるのではないか。20日、熊本市で開かれた熊本地方労働審議会でも、採用に積極的な地場企業があることが紹介された。 政府はコロナ対応で、卒業から3年以内を新卒扱いとするように経済団体に求めている。企業側には要請を受け止め、採用活動の継続や柔軟な対応を取り入れてもらいたい。 厚労省は全国56カ所の「新卒応援ハローワーク」に特別相談窓口を設けた。国が中心となって産学と連携し、雇用の掘り起こしや、学生と企業とのマッチング支援を主導してほしい。
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2020/11/21 10:05
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「災害弱者」避難/個別計画の作成急ぎたい
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高齢者や障害者らの災害時の逃げ遅れを防ぐため、政府は来年の通常国会で災害対策基本法を改正する方針を固めた。一人一人の避難方法などを事前に決めておく「個別計画」の作成を法定計画に格上げし、自治体の努力義務とする方向だ。 大規模な災害は毎年各地で頻発しており、自力での避難が困難な「災害弱者」が死亡するケースも後を絶たない。しかし、対象者全員の個別計画を作成した自治体は全体の12%(昨年6月現在)にすぎず、作成率向上が喫緊の課題だ。専門家の中には義務化を求める意見もあるだけに、自治体は法改正を待つのではなく作成を急ぐべきだ。 政府は東日本大震災で65歳以上の死者が6割を占めたことを踏まえ、2013年に災害対策基本法を改正。翌年から要支援者を登録する「避難行動要支援者名簿」の作成を自治体に義務付け、ほぼ全自治体がつくり終えた。現行法はさらに、名簿を民生委員や町内会などに提供し、要支援者一人一人に応じた避難経路や避難場所、支援者を決めておく「個別計画」の作成も求めている。 ただ、個別計画に関しては内閣府指針に「作成が望まれる」と記載されているだけだ。法的根拠が弱いため、自治体ごとの取り組みに濃淡が生じている。計画は民生委員や自治会会員らが高齢者らと面会して心身の状況を聞き取りながらつくるが、プライバシーを理由に拒まれることもあるという。これではせっかくの名簿が生かされない。 県内では全45市町村が名簿をつくったが、個別計画を作成しているのは19市町村。県南部を中心とした7月豪雨では死者65人のうち8割超が65歳以上だった。全国同様、計画づくりが急務である。 法改正による計画促進にあたって、国は福祉関係者の協力も求める方針。高齢者らの日常的なケアを担うケアマネジャーらが関与すれば効果的と判断したようだ。しかし、高齢化の加速で介護現場は人手が不足しており、ケアマネのなり手は減少傾向が続く。要支援者の避難に福祉の視点は欠かせないが、福祉関係者に過度の負担を強いることにならないよう、慎重な対応が求められる。国は自治体への財政支援も検討しているが、それだけで福祉関係者の関与を十分引き出すことは難しかろう。 そもそも自治体は行財政改革に伴う職員削減によってマンパワーが不足しており、計画づくりは地域に委ねられてきたのが実情だ。しかし、高齢化による民生委員や支援者のなり手不足は熊本をはじめ各地で恒常化している。自治体と地域が連携をさらに強めて、要支援者が直面している状況をいま一度把握し、個々のケースに応じた避難方法を探るべきだ。 「千年に一度」級の大雨を想定した洪水ハザードマップ(避難地図)や、福祉避難所の公表も求められる。災害で一人の被害者も出さないよう、あらゆる手段を動員しなければならない。
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2020/11/20 10:05
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球磨川治水新方針/今やるべき対策に全力を
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蒲島郁夫知事が19日、球磨川の新たな治水方針を表明した。2008年に「白紙撤回」して中止させた川辺川ダムの建設計画を、形を変えて復活させるよう求めた。悩み抜いた末の方針転換だろう。その決断の是非は今後問われることになるが、ダムの存否にかかわらず大切なのは、今すぐ実施可能な対策に全力を傾け、流域住民の不安を和らげることではないか。 7月豪雨の甚大な被害を踏まえ、知事は新たな治水の方向性として「緑の流域治水」を掲げた。河川整備だけでなく、遊水地の活用や森林整備、避難態勢の強化などに流域全体で取り組み、自然環境との共生を図りながら人命を守るという考えだ。 治水手段の一つのダムについては、球磨川支流の川辺川に予定されていた貯留型多目的ダムの計画をいったん完全に廃止。代わって新たな流水型のダムを造るよう国に求める。 ダム反対から容認に転じた理由として、流域住民の民意をよりどころに挙げ、現在の民意は「命と環境の両立を求めている」と判断したという。流水型ダムは「穴あきダム」とも呼ばれ、平常時には水が流れる。知事はこれによって「清流が守られる」と説明する。 依然多いダム反対 12年前に蒲島知事がダム計画を白紙撤回した際、熊日と熊本放送の電話世論調査で流域住民の82・5%が知事の決断を支持した。不支持は13・9%だった。 ところが7月豪雨を経た先月、共同通信が実施した流域7市町村の住民アンケート(300人面接)では、29%が川辺川ダムを必要と答えた。単純比較はできないものの、12年前よりダム賛成の意見が増えたとみてよいだろう。 ただし、不要と答えた人の方が34%と多く、「どちらとも言えない」も37%に上った。賛否を巡って依然として意見が大きく割れている中で、知事はダム建設推進にかじを切った。 川辺川ダムの建設は現在ストップしているが、事業計画そのものは生き残っている。これを廃止して流水型ダムを造るには、手順を踏んで新しい計画を策定しなければならないはずだ。先例の乏しい大規模な流水型ダムで、本当に清流を維持できるのか。かつて難航した漁業補償の問題も再燃しかねない。法に基づく環境影響評価(アセスメント)を実施するにも、それなりの時間が必要だ。それらの見通しについて、現時点では十分な説明がなされていない。事業費や工期も不透明で、仮に建設するにしても完成までに10年前後の年月がかかるはずだ。 そう考えればむしろ、早急に実施できる治水対策の方が重要になる。何よりも来年、再来年といった目前の出水期に備えなければならないからだ。 進まないかさ上げ 知事も「直ちに取り組む対策」として具体例を挙げたように、宅地や堤防のかさ上げ、河床の掘削、砂防や治山事業を急ぐべきだ。相良村などは前々から堤防かさ上げなどを求めてきたが、進んでいない。調整池の整備でも流域の合意形成に本腰を入れたい。 ハード面だけでなくソフト対策も後回しにできない。豪雨を教訓に、災害弱者の把握、防災マップの更新、避難情報の出し方や避難手順の見直しなどを、各地域や施設で確実に進めるべきだ。被災の恐れのある住宅の移転促進や開発規制なども必要になるだろう。 県や地元市町村は、治水を主眼とした国交省の守備範囲だけでなく、広く減災・防災の視点に立った地域づくりを目指してほしい。 知事や首長の責任 ダムの白紙撤回後、蒲島知事・流域首長・国交省は、長期間ダムによらない治水策を協議しながらついに結論を出せなかった。結果的に、死者50人を出す惨事を迎えてしまった責任は極めて重い。 知事は今回「治水の方向性が決まらなければ住まいや生業の再建ができない」として、豪雨から4カ月余りで一定の判断を示した。 ただ、とりわけダム建設については賛否の反応を見極めざるを得ないだろう。ダムが治水の万能薬ではないことも明らかだ。知事が示唆するように、今回の治水方針が100年後の地域にとって最良の選択と言えるのか。地球規模の気候変動や大規模災害の頻発に十分対処していけるのかも見通せない。ダムを含む治水対策全般については、なお検討の余地もあるはずだ。 ダム計画が再び動きだすとすれば、ダムサイト建設や水没が予定されていた相良村や五木村が最も直接的な影響を受けるはずだ。これまでダム計画にほんろうされてきた住民への配慮も、決して忘れてはならない。
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2020/11/19 10:05
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コロナ禍と五輪/観客前提は楽観的すぎる
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国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長が来日し、来夏に延期した東京五輪・パラリンピックについて菅義偉首相らと会談した。菅首相は「観客の参加を想定し、さまざまな検討を進めている」と述べ、バッハ会長は「観客は妥当な数となり、五輪精神を感じる大会になる」と強調した。
しかし、新型コロナウイルスの新規感染者は国内外で急増している。開催機運を高めたい気持ちは理解できるが、先行きが見通せない中で観客を入れての開催にまで踏み込むのは、あまりに楽観的でかえって逆効果ではないか。
IOCが観客に固執するのは、五輪入場券を優先的に購入する権利が与えられているスポンサー企業との約束を果たさなければ、五輪ビジネスが揺らいでしまうとの危機感があるからに違いない。900億円のチケット販売収入を見込んでいる大会組織委員会も、赤字に陥るのを防ぎたいだろう。
集客を容易にするため、海外からの観客には入国後14日間の待機措置を免除することも検討されている。だが、優先されるべきは、ビジネスより安全だ。
バッハ会長は来日する選手らへのワクチン接種費用をIOCが負担することも表明した。ワクチン開発を巡っては、米国の企業から早期の実用化を期待させる発表も相次いでいるが、まだ安心できる状況ではあるまい。
延期決定後、五輪競技で初めて海外から選手を招いて8日に東京で開かれた体操の国際大会では、観客を入れるかどうか以前の問題である選手対応で課題が浮かび上がった。
「本番に向けた試金石」と目されていた大会で関係者に衝撃を与えたのが、事前のPCR検査で内村航平選手が陽性となったことだ。三つの病院での再検査で全て陰性と確認され、「偽陽性」ということで決着したが、このような事態は本番でも十分起こり得る。再検査と判定の方法などを、あらかじめ決めておく必要があろう。
度重なるPCR検査の負担や、厳しい隔離生活を強いられることでコンディションの維持に苦労した選手もいた。安全を確保しながら、実力が発揮できる環境づくりにも配慮しなければならない。
五輪まで8カ月余りとなる中、各競技の予選が実施できるかどうかも心配だ。IOCによると、約1万1千の出場枠のうち確定しているのは57%にすぎない。各国・地域間の渡航制限は続いており、予選ができない場合は、過去の大会の成績やランキングを活用するなど別の対応も考えざるを得ないだろう。
菅首相はバッハ会長との会談で、東京大会を「人類がウイルスに打ち勝った証し」とするとアピールした。だが現状を見る限り、大会までに新型コロナを完全に封じ込めることは困難ではないのか。耳に優しい言葉で機運を高める前に、感染リスクを見極めた入念な対策で「ウィズコロナ」時代の五輪・パラリンピックの姿を世界に示すべきだ。
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2020/11/18 10:05
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RCEP合意/暮らしへの影響も説明を
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日本と中国、韓国、東南アジア諸国連合(ASEAN)、オーストラリアなど15カ国が「地域的な包括的経済連携(RCEP)」協定の締結で合意し、署名した。関税削減や統一的なルールによる自由貿易を推進していく。
日本にとって貿易額が1位の中国、3位の韓国が含まれる初の経済連携協定(EPA)だ。15カ国の人口と国内総生産(GDP)を合わせると、それぞれ世界全体の3割を占め、最大級の経済圏が誕生することになる。
協定は日本が進めてきた一連の自由貿易交渉の集大成とも位置付けられる。TPP(環太平洋連携協定)、欧州連合(EU)とのEPA、日米貿易協定などとともに、自由貿易圏をほぼ世界全域に築くことになる。貿易額に占める自由貿易協定のカバー率は5割強から8割に上昇する。
新型コロナウイルスの流行で世界経済は低迷している。「コロナ後」の経済を構築する上でも重要な役割を果たそう。ただし、アジア太平洋地域で存在感を増す民主主義国家のインドが参加していない。経済・軍事両面で覇権主義的な動きを強める中国の影響力が増す懸念も残されている。
発効にはASEAN10カ国とそれ以外5カ国の、それぞれ過半数の批准が必要。日本も来年通常国会に承認案を提出する予定だ。
協定では、関税は参加国全体で91%の品目について段階的に撤廃する。日本の工業製品の最終的な撤廃率は91・5%で、輸出企業にとっては大きな追い風となる。
一方、日本が輸入する農林水産品の関税撤廃率は49~61%。コメ、麦、牛豚肉、乳製品、砂糖の重要5項目は対象外とし、国内生産に配慮した。
政府は輸入について、過去のEPAの範囲内に抑制され「国内農林水産業への影響はない」としている。しかし自由貿易が8割に達しようとする中、暮らしにはどんな影響があるのか、しっかりした検証と説明が必要だろう。
政府は農産物の輸出に向けた取り組みも後押しするとするが、高齢化、過疎化に直面する中山間地農業の今後についてもきめ細かな対応が求められる。
投資ルールでは中国が加入する協定としては初めて、政府が進出企業に技術移転を要求することを禁じた。電子商取引(EC)や知的財産保護について一定の国際ルールが適用されることになる。ただ、中国の不公正な経済慣行は多く残されており、国営企業への行き過ぎた補助金などの問題は手付かずのままだ。
RCEPには対中外交と安全保障上の戦略的な狙いも含まれる。日本にとって当面の課題はインドの加入に向けたリーダーシップだろう。インドが離脱した背景には国内産業を保護する政策の他、対中貿易赤字拡大への懸念などがあるとされるが、協定はインドが早期復帰できる特別措置も設けている。「自由で開かれたアジア太平洋」の実現のためにも、日本は粘り強く説得を続けたい。
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2020/11/17 8:05
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女川原発再稼動へ/将来見据えた議論が先だ
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宮城県の村井嘉浩知事が、東北電力女川原発2号機の再稼動に同意すると表明した。東日本大震災で被災した原発に再稼動の道が開くのは初めてのことだ。重大事故を起こした福島第1原発と同じ沸騰水型軽水炉が対象となるのも初となる。
村井知事は同意した理由について「原発には優れた電力の安定供給性があり、地域経済の発展にも寄与する」と説明した。だが、原発は放射能汚染のリスクを常に背負っており、微細なトラブルでも大量の電力供給が瞬時に止まる恐れがある。地元には避難計画の実効性への不安の声も根強い。地域経済発展への寄与についても、明確な根拠は示されていない。
「2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする」との目標を掲げた菅義偉首相は、達成に向け「原子力を含めたあらゆる選択肢を追求していく」とした。政府内には、女川原発の再稼動を「原子力ありき」の温暖化政策の弾みとする思惑もあるようだ。
しかし、再稼動の手続きをなぜ急がなければならないのか、との議論は不十分だ。他の原発も順調に再稼動しているとは言い難く、新増設も見通せない中、優先すべきなのは原発の将来も見据えた包括的なエネルギー政策の議論ではないか。
女川原発は東日本大震災の震源に最も近い原発で、津波によって原子炉建屋地下が浸水するなど重大事故寸前の事態に陥った。安全対策を進めた結果、今年2月に検査に合格。東北電力は、安全対策工事が完了する見込みの22年度以降の再稼動を目指している。
とはいえ、大震災から10年近くがたった今、世界と日本のエネルギーを巡る状況は激変している。重大事故の教訓を踏まえて原発の安全対策費は増大。コストの上昇傾向が続き、原子力政策は多くの先進国で停滞している。
国内でも、震災後に再稼動した9基ではテロ対策施設の設置遅れや司法判断、機器トラブルなどで計画外の停止が続発。今後は法律上の運転期限を迎える原発が徐々に増えるため、50年に何基残っているかも見通せない。
一方、再生可能エネルギーは大量導入とコスト低下の好循環が進み、各国で開発が進んでいる。事故や災害時のリスクも低く、大規模集中型の原発と違い分散立地もできる。
原発の再稼動を判断する際、周辺自治体や隣県の住民の意見を聞かず、「立地自治体」の議会や首長の合意で決めることも時代の変化に沿っていない。福島の事故が示した教訓の一つは、原発に関する意思決定権を一部の関係者が握り、リスクは住民に押しつける手法の罪深さではなかったか。
より多くの民意に耳を傾ける前に、既成事実を積み上げるような政権や電力会社の手法は、エネルギー政策全般に関する国民の信頼を失墜させかねない。福島の教訓を踏まえて、どれだけオープンな論議ができるか。そのプロセスが改めて問われている。
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2020/11/15 10:05
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ハンセン病家族法1年/差別解消へ不断の努力を
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ハンセン病元患者の家族の差別被害に対し国が補償金を支払う法律の成立から、今日15日で1年を迎える。厚生労働省が補償対象と認定したのは、10月までに延べ5184人で、対象として推計した約2万4千人の約2割にとどまっている。
認定の少なさは、申請自体が伸び悩んでいるためで、名乗り出ることによって差別を受けるとの不安を抱いている家族が多いことが要因とみられている。差別解消に向けて、社会の側の不断の努力が必要な現状が、改めて浮き彫りとなったと言えよう。
ハンセン病元患者の家族への差別被害を巡っては、熊本地裁が昨年6月に国の責任を認め賠償金の支払いを命じる判決を下した。同7月には当時の安倍晋三首相が控訴見送りを表明して、判決は確定。これを受けて、議員立法による家族への補償と名誉回復を図る法律が同11月に成立した。
補償の申請者は10月14日現在で延べ6285人。月ごとの申請は3月までは800~千人台で推移していたが、その後は大きく減少した。「家族訴訟原告らの請求が続いた後、その他の家族の支援に手が届いていない」と、識者は指摘している。
熊本県は4月にハンセン病問題相談・支援センター「りんどう」を熊本市に開設。社会復帰した元患者だけでなく家族の相談にも対応し、補償申請などもサポートしているが、ここまできめ細かい相談体制を取っている自治体は全国でもほとんどない。
同様の窓口を各都道府県に広げて、制度周知と相談に当たることが必要だ。とともに、偏見差別を解消する国や自治体の啓発活動の充実が、元患者家族が安心して暮らせる社会をつくるという救済の本来の目的に不可欠であることを改めて強調しておきたい。
偏見差別の解消に向けては昨年、家族訴訟の原告・弁護団らと政府との協議が始まったが、新型コロナウイルスの影響で第2回会合を最後に中断している。状況が整い次第、申請伸び悩みの現状も分析し、実効性のある支援の在り方を話し合ってもらいたい。
また、ハンセン病患者とされた男性が1952年に起きた殺人事件の被告となり、無実を訴えながら死刑執行された「菊池事件」の弁護団が13日、国民から賛同を募った再審請求書を熊本地裁に提出し、再審開始の決定を求めた。これも家族も含めたハンセン病差別が関わる問題である。
菊池事件を巡っては、事実上非公開だった特別法廷での男性の審理を違憲と認めた熊本地裁判決が今年3月に確定。しかし、刑事訴訟法で定められた再審請求人のうち検察は請求の動きを見せず、遺族も差別が残る中で請求に踏み切れないでいるという。
弁護団は、今回の手続きを憲法が規定する国民の請願権に基づくものとしており、追加提出も予定している。ハンセン病差別に対する救済の扉が再び熊本の地で開かれるよう、世論が後押ししたい。
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2020/11/14 10:05
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コロナ「第3波」/機動的な感染拡大抑止を
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新型コロナウイルスの新規感染者数が全国で急増し、13日は12日に続き過去最多を更新した。10月から増加が続き、日本医師会は「第3波と考えてもよい」と表明。政府のコロナ対策分科会も「急速な感染拡大の可能性がある」と警告し対策強化を緊急提言した。
冬本番を控え、爆発的な患者急増とインフルエンザとの同時流行による医療崩壊が懸念されている。国民一人一人が警戒を緩めず、政府は機動的な感染拡大抑止に努めるべきだ。
現在の全国的な特徴は、クラスター(感染者集団)の多様化だ。歓楽街に加え、職場、外国人コミュニティーなどで広がっており、分科会は「今までよりも踏み込んだクラスター対応」を提言した。
言葉の壁があり受診を避けがちな外国人コミュニティーへの分かりやすい情報発信、空港などの検疫所と自治体の情報連携強化、屋内で過ごす冬の感染防止策をまとめた指針作成-などを国に求めている。
ただ提言は、社会経済活動は止めず両立させることを前提としている。このため政府は、プロスポーツなど大規模イベントの入場制限を来年2月末まで継続する方針を示す一方で、10月末までに宿泊者が延べ3976万人に上った「Go To トラベル」事業の見直しや緊急事態宣言の発出には慎重な姿勢を見せている。
しかし、冬場は寒さで換気不足となるほか、乾燥によって飛沫[ひまつ]が長く空気中を漂い感染しやすくなる恐れがある。「Go To」事業に加え、年末年始の帰省などで感染が急拡大する可能性もある。
政府は感染拡大状況を十分に見極め、悪化すれば速やかに経済活動の制限に踏み切ることも必要だろう。感染抑止策とともに、制限に伴う補償などの支援策も後手に回らぬよう備えておくべきだ。
県内では、感染リスクレベル(6段階)は上から3番目のレベル3(警報)で、県は「感染状況は拡大傾向にある」と判断している。特に熊本市中心部の歓楽街の接待を伴う店でのクラスター発生が相次ぎ、感染者数を押し上げている。従業員がPCR検査を受けるよう働き掛けるなど、未然にクラスター発生を防ぐ対策を急いでもらいたい。
インフルとの同時流行に備え、今月から県内でも発熱などの症状がある患者に対する受診体制が変更されたことにも留意しておきたい。発熱患者はまず電話で近くの病院やかかりつけ医に直接相談。相談先が県が新たに指定した「診療・検査医療機関」であれば、そのまま受診できる。指定医療機関ではない場合は診療可能な医療機関を紹介してもらう流れとなっている。
国内でワクチン接種が始まるのは早くても来春以降とされる。それまで一人一人がマスク着用、手指の消毒、換気、3密回避など感染防止に努めるとともに、各事業所でも、テレワークなどの感染抑止策を積極的に進めていく必要がある。
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2020/11/13 8:05
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川辺川ダム容認/民意は見極められたのか
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7月豪雨で氾濫した球磨川の治水対策の方向性について、蒲島郁夫知事が川辺川ダムの建設容認を含めた「流域治水」を最有力候補として調整していることが明らかになった。環境への負荷を低減できるとの判断から、ダムの構造は穴あきダムを含む流水型を想定しているという。
川辺川ダムを巡っては、知事が2008年、計画の白紙撤回を表明。翌年、国土交通省が建設中止を決めた。知事が容認へかじを切れば、ダムに対する考え方の抜本的な転換となる。
知事は白紙撤回時、「現在の民意はダムによらない治水を追求し、球磨川を守っていくことを選択している」と述べた。判断の根拠として強調したのは「民意」だった。
7月豪雨後も、知事は「民意を測る」として流域住民や関係団体への意見聴取を重ねてきた。しかし、ダム建設に対する住民の賛否は分かれている。環境面だけでなく、治水効果への疑問や安全性への不安も根強い。
川辺川ダム容認は、民意をどのように見極めた末の判断なのか。結論を表明する際は、知事自身がよりどころとした民意の捉え方について、住民が納得できるよう説明を尽くすべきだ。
7月豪雨では、球磨川で戦後最大と言われてきた1965年の洪水を上回る大規模氾濫が発生。流域の50人が死亡、2人が行方不明になった。
県は国交省、流域12市町村と共に検証委員会を設置。国交省は、川辺川ダムが現行計画の貯水型で存在していれば「人吉市で浸水面積を6割減少できた」とした。これを受け、流域市町村でつくる建設促進協議会は、ダム建設を含む治水策を県に要望した。
知事も、ダムも治水の「選択肢の一つ」と表明。その上で、流域住民らを対象にした意見聴取会を各地で開き、自らも足を運んだ。
住民らからはダムの賛否だけでなく、堤防強化や川底掘削などダムによらない治水を求める声も多く挙がった。ただ、知事は意見聴取を終える前から「民意は大きく動いていると感じている」と述べた。住民らが「ダム容認の材料を集めているのでは」といぶかしがるのも無理はない。
知事は11日の河川工学者の意見聴取後、「生命財産を守り、球磨川の恵みも維持できる、受け入れ可能な方針を示すのが知事の責任」と述べた。命と環境の両立のため、ダムを容認しつつも、貯水型ではなく流水型を推す意向なのだろう。だが、流水型に川辺川ダムのような大規模ダムの先例はない。さらに丁寧な検討が不可欠なはずだ。
知事の判断が示された後は、国交省、県、市町村による球磨川流域治水協議会が本年度中に具体的な対策をまとめることになっている。ただ、協議会は住民参加を想定していない。知事が重視すると言い続けてきた民意を反映させるためにも、住民を交えて議論する場を置くべきだ。
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2020/11/12 8:05
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第3次補正予算/真に必要な対策見極めて
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菅義偉首相は10日、追加経済対策の策定を関係閣僚に指示した。その裏付けとなる2020年度第3次補正予算案は、21年度当初予算案と一体的な「15カ月予算」として12月に編成される。
国内における新型コロナウイルスの新規感染者は、11月に入って増加に転じており、日本経済は再び縮小しかねない状況だ。疲弊した経済を早期に成長軌道に乗せ、国民一人一人の暮らしを再び安定させるためには、実効性のある対策を間断なく講じる必要がある。
とはいえ、2度の補正で新規国債の発行は90兆円を上回った。財源となる税収は落ち込みが避けられず、今度も国債の追加発行は必至だ。厳しい財政状況を念頭に置き、真に必要な対策を見極めてもらいたい。
追加対策は、(1)新型コロナ感染の拡大防止(2)ポストコロナへ経済構造の転換(3)防災、減災、国土強靱化[きょうじんか]に向けた安全、安心の確保-の3本柱となる方向だ。
言うまでもなく、肝心なのは対策の中身だ。現行のコロナ対策を十分検証し、支援が行き届かず取り残される人が出ないような対策をまとめる必要がある。
しかし、与党内では「最低でも10兆~15兆円」「30兆円ぐらいあってもいい」といった声が先行。国土強靱化についても「5カ年で15兆円」などといった規模ありきの議論が進んでいるようだ。来年秋までに実施される衆院選を意識した振る舞いとみられても仕方あるまい。
一方で、企業の雇用維持を支える雇用調整助成金は、特例措置を21年1月以降も継続するが、段階的に縮小するという。コロナ関連の解雇や雇い止めは7万人を超え、落ち着く気配はない。厳しい状況下でも、雇用対策の縮小には慎重であるべきだ。
コロナ後の成長に向けた戦略も打ち出す必要があろう。菅首相は地球環境に配慮した「グリーン成長」を起爆剤とする考えを示している。温室効果ガス排出量の「50年実質ゼロ」を10月に宣言しており、その達成と企業活動の相乗効果を狙うとみられる。
環境分野の需要は、国内だけにとどまらない。世界各国が脱炭素化を表明しており、米大統領選で勝利宣言したバイデン氏も日本と同様の目標を掲げている。環境投資は今後、米欧を中心に拡大するとみられる。日本企業がその受け皿となるよう、技術開発やコスト改善を後押しすべきだ。
コロナ禍で遅れが浮き彫りになったデジタル改革も加速させる。内閣府がまとめた20年度の経済財政白書は、デジタル化への投資を通じて「新たな日常」を定着させながら内需を喚起することを提言した。働き方改革と生産性向上を両立させる上でも欠かせない視点と言える。
白書は、デジタル化に必要なIT人材の7割超がIT産業に集中する現状も指摘した。特に地方の中小企業がデジタル化の波に乗り遅れないよう、人材のさらなる確保・育成にも注力してほしい。
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2020/11/11 8:05
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中国の中長期政策/国際社会と協調欠かせぬ
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中国が経済運営などの新しい計画で、輸出主導から内需拡大への転換を打ち出した。米国の対中強硬政策は新政権になっても変わらないとみられ、長引く米中対立をにらんだものと言える。しかし、内需を重視していくにしても、国際社会との協調をおろそかにはできないはずだ。
このほど開いた中国共産党の重要会議で、来年からの5カ年計画と2035年までの長期目標を採択した。5カ年計画によると、国内経済を活性化して内需拡大を図りつつ、これまで通りの対外経済との2本建てで、「双循環」を推進するという。
貿易摩擦をはじめとする中国と米国の対立は長期化している。新型コロナで世界経済が打撃を受けるなどの要因もあり、外需に頼りすぎるのは危険との判断があるようだ。
長期目標では、1人当たりの国内総生産(GDP)を「中レベルの先進国」並みに引き上げるとした。サプライチェーン(部品の調達・供給網)の強化や技術革新を最重要課題とした。
軍事面では「国家主権を防衛する戦略能力を高める」と強調。新たな党幹部人事は発表されず、習近平政権の「長期化への布石」と取り沙汰されている。
中国は1978年に改革・開放政策に転換し、輸出型の加工貿易で経済を発展させた。2001年には世界貿易機関(WTO)に加盟し、グローバル化の恩恵を最大限に受けて急成長してきた。
その一方、国内的なナショナリズムの高まりなどを受け、外に向かっての強権的な振る舞いが目立つようになった。南シナ海の実効支配などだ。香港への統制強化や、国内のウイグル族弾圧なども問題視されている。
米国のトランプ共和党政権は、貿易やハイテク分野などで中国と厳しく対立。次期大統領選で勝利を確実にした民主党のバイデン氏も、経済・安全保障の両面で中国に「国際的なルールを守らせる」としている。共和党から民主党へ政権交代しても、米国の対中政策に大きな変化はないとみられる。伝統的に人権問題に厳しい民主党はむしろ、香港やウイグル族問題をめぐって圧力を強める可能性すらある。日本も米中関係のはざまで難しい対応を迫られるが、基本的に米国とは認識を共有しておく必要がある。
中国がこの先、経済を内需重視型に修正するとしても、多くを対外貿易に依存することに変わりはないはずだ。経済的な恩恵を受けながら、他国とのあつれきを顧みない外交を強行していては、国際社会の信頼は得られない。自国中心主義に陥らず、多国間主義と国際協調を重んじるべきだ。
長期目標には、低炭素社会の実現も掲げられている。習近平国家主席は先に2060年までの二酸化炭素(CO2)排出量「実質ゼロ」を国際公約している。中国と米国は世界第一と第二のCO2排出国だ。ともに率先して地球温暖化対策をリードしてもらいたい。
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2020/11/10 8:05
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バイデン氏勝利/求められる「分断」の修復
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大接戦となった米大統領選は、民主党のジョー・バイデン前副大統領(77)が勝利を確実にした。しかし、共和党のドナルド・トランプ大統領(74)は、複数の州で「不正がある」として集計の停止を求めて訴えており、混乱は続きそうだ。
選挙は、米国の従来の価値観を揺さぶり続けたトランプ氏に対する審判であり、「トランプか否か」が問われた。「米国の正常化」を訴え続けたバイデン氏への支持が、トランプ氏を上回った事実は重い。バイデン氏は「融和を目指す」と勝利宣言。トランプ政治が深めた「分断」の修復が求められる。
新型コロナウイルスの世界的大流行は、4年に1度の大統領選を一変させた。最大の争点は、コロナにどう向き合うか。両陣営は従来のような選挙運動を展開できず、多くの有権者が人の密集や接触を減らそうと郵便投票を選択した。その結果、郵便投票を含む期日前投票は1億人を突破した。
一方で危険性を軽視した大統領自らが感染し、一時入院する一幕も。コロナが「陰の主役」だったと言っても過言ではない。
選挙戦では事前の調査で劣勢が伝えられたトランプ氏が、岩盤支持層の底堅さを最後まで見せつける形になった。特に「ラストベルト(さびた工業地帯)」、南部や西部の温暖な「サンベルト」の一部州が勝敗の鍵を握ったが、トランプ氏はこれらの州を集中的に訪問。中道路線のバイデン氏を「社会主義」と吹聴するなど最後まで攻撃の手を緩めなかった。
これまでの米政権がさまざまな価値を巡る「亀裂」を克服しようとしたのに対し、トランプ氏は逆に利用。亀裂に潜む怒りや不信感をあおり、支持者を固めていった。また、トランプ氏が強引に進めてきた「米国第一主義」は、多様化する米社会に息苦しさを感じる白人労働者らの不満の受け皿になった。
今回の選挙に伴う混乱はそれらの帰結であり、トランプ氏が米社会を映す鏡であることを改めて示した。
バイデン氏は、選挙戦で極端に進んだ社会の分断解消と米国の再建を目指すことを掲げた。トランプ氏に批判的な共和党穏健派層も代弁し、支持拡大を狙った。だが、格差拡大や人種対立など分断の種は国内に山積。貿易問題や地球温暖化対策など国際社会にも及ぶ。深まった溝を、バイデン氏は一つずつ埋めていくことになるが容易ではない。
今後、共和党がトランプ路線をどう位置付けるかも注目される。その試金石になるのが郵便投票を巡る法廷闘争だ。いったん集計結果が発表された後では法廷闘争で覆すのは難しく、その前に停止させる狙いだ。
だが、トランプ氏は主張を裏付ける証拠を挙げていない。共和党の対応次第で法廷闘争の行方は変わってこよう。分断か団結か、米国の民主主義の真価が問われる場面だ。
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2020/11/8 10:05
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バブル後最高値/株価以外の対策が重要だ
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6日の東京株式市場で日経平均株価の終値が29年ぶりにバブル崩壊後の最高値を更新した。新型コロナウイルスの感染拡大で経済が深刻な打撃を受け、雇用不安も高まる中、日米欧の中央銀行の金融緩和によって供給された大量の資金が株式市場に流れ込んだ結果だ。ただ、今の相場は実体経済から懸け離れている。国民が景気回復を実感できるようにするには、株価以外の対策が重要だ。
日経平均株価は3月、コロナ禍による世界同時株安で1万6千円台まで落ち込んだ。だが、各国の矢継ぎ早の金融緩和策によって持ち直し、緊急事態宣言解除後は2万3千円前後で推移していた。
さらに今月、米大統領選と同時実施の議会選の開票が進むと、米国市場でハイテク企業への規制強化不安が後退したとの見方が広がり株価が上昇。東京市場もその流れを引き継ぎ、一気に2万4千円台に乗った。
しかし、上場企業の9月中間決算に目を移すと5分の1が赤字で、大幅減益になったところも多い。外出自粛などに伴う航空やJR各社の落ち込みが顕著で、中小企業の倒産、失業や賃金ダウンも増えた。
こうした中、日銀は大規模緩和策の維持を決定した。米連邦準備制度理事会(FRB)もゼロ金利を保つため、株式市場は当面、過熱傾向が続きそうだ。とはいえ、上がり続ける保証はない。コロナ禍は各国で再拡大の様相を見せており、米大統領選も混乱が長期化すればリスク要因となり得るからだ。
東京市場は近年、相場の主導権を握る外国人投資家の売り越しが目立ち、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)や日銀の介入で相場を支えている面がある。
日銀は株を組み合わせた上場投資信託(ETF)を購入し大半を持ち続けている。保有額は今年3月末で30兆円余り。コロナ対策で年間購入枠を12兆円まで拡大したため、本年度内には40兆円を超える見通しだ。株価が暴落すれば含み損が大幅に増え、日銀の財務そのものにも悪影響を与えかねない。
中央銀行による株購入は「官製相場」などによる市場機能の低下につながりかねず、本来なら禁じ手のはずだ。コロナ後の景気回復を見据え、戦略の見直しを考えるべきだろう。
菅義偉首相は、経済政策でも安倍晋三前首相の路線を継承する方針を打ち出している。確かに大規模な金融緩和を実施すれば株価は上がるが、アベノミクスでは企業の内部留保が増えるだけで、賃上げにはつながらなかった。先行き不透明感から人件費などの拡大をためらう企業が多かったためだ。
日本経済を取り巻く環境は不透明さを増している。コロナ収束は見通せず、7月豪雨など相次ぐ自然災害による国民への打撃も深刻だ。菅首相には株価対策だけでなく、国民に安心感をもたらす経済政策を示してもらいたい。
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2020/11/7 10:05
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子への性的虐待/迅速な把握が欠かせない
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厚生労働省が全国220の児童相談所(児相)を対象に、性的虐待への対応に絞った初の実態調査を始めた。
児童虐待の中でも性的虐待は特に潜在化しやすく、「最も介入が難しい事案」とされる。1人でも多くの子どもを救うためには、被害の事実を迅速に把握し、的確な対応につなげることが欠かせない。調査がそうした取り組みの助けとなることを期待したい。
国が調査に乗り出したのは昨年1月、千葉県の小学4年の女児が死亡した虐待事件がきっかけだ。児相に一時保護された女児は、父親から性的虐待を受けていたことも明かしていた。だが特別な対応は取られず、保護が解除されたことが最悪の事態につながった。ほかにも、子への性暴力が繰り返された事件は各地で明らかになっている。対策は待ったなしの状況だ。
2018年度に全国の児相が相談・通告を受けた児童虐待件数は15万9838件。内訳をみると、最も多いのは心理的虐待の55・3%で、身体的虐待25・2%、育児放棄(ネグレクト)18・4%がこれに続く。
性的虐待は1・1%だが、専門家からは「実態を表しておらず氷山の一角」と疑問の声も上がっている。家庭内の被害は特に打ち明けづらいからだ。子どもが保護者から口止めされたり、「自分のせいで家族がばらばらになった」などと自責の念に駆られたりして被害を隠すことも少なくない。さらに、母親の交際相手やきょうだいからの加害は保護者の育児放棄として数えられ、性的虐待には計上されていない。
福井大「子どものこころの発達研究センター」の友田明美教授は、虐待が子どもの脳の発達に深刻な傷を与えることを研究で明らかにしている。性的虐待も期間が長引くほど脳へのダメージは大きくなるだろう。一刻も早い事実確認が何より重要で、そのためには児相をはじめ学校や警察、医療、福祉など関係機関の連携や情報交換が不可欠だ。
同省の実態調査では、児相が虐待の通告や相談を受けた時点では子どもが性的虐待を受けていたことを確認できなかった事例について報告を求める。今後の支援の在り方を改善するため、性的虐待を把握した後の対応を報告事項に含めることも検討している。こうした報告内容を関係機関は広く共有し、同じ過ちを繰り返さないよう有効な手だてを講じてもらいたい。
性的虐待を把握した後の心のケアも重要だ。被害を受けた子どもが不眠やうつ病、トラウマなどを抱え、長期の治療が必要になるケースもある。中長期的な支援も視野に入れながら取り組みを進めてもらいたい。
子どもが性被害を打ち明けやすい環境や、声を上げても不利益を受けない仕組みの構築も急ぐべきだ。児相をはじめ対応に携わるすべての関係者に、被害の状況を丁寧に見極め、最も適切な対策へと導くスキルが求められる。
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2020/11/6 16:05
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税収の下方修正/きしむ財政に危機意識を
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先進国で最悪レベルにあるとされる日本の財政状況が2020年度に入り、一段ときしんでいる。相次ぐ財政出動で借金への依存度は高まる一方で、政府内で将来世代へのつけ回しの財政構造になっていることへの危機意識が薄れていないか心配だ。
20年度の税収について、政府が当初予算で見積もっていた過去最高額の63兆5130億円から、数兆円規模で下方修正する方向で検討に入ったことが新たに分かった。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で企業業績が悪化して、法人税収が大きく落ち込むのが主因だ。
その一方で政府はコロナ禍に対応した追加の経済対策のため、10兆円規模の20年度第3次補正予算を年末に編成する方針。コロナ対策名目の予備費がまだ残ってはいるが、税収の下振れ見通しもあって赤字国債の追加発行を余儀なくされそうである。
過去にはリーマン・ショックの影響を受けた08年度の第2次補正予算で税収見通しを大幅に下方修正したケースがあった。当時も景気対策が急務で、財政投融資特別会計の積立金取り崩しに加え、国債を7兆円超増発した。
今回、コロナ対策が喫緊の課題であるのは理解できるものの、政府が実行すると約束してきた財政健全化は一段と遠のきそうだ。長期的に持続可能な財政への目配りが一層欠かせなくなっている。
政府はコロナ禍で経済が失速する中、20年度になってこれまで2度の補正予算で計57兆円超を支出。その財源は全て借金で賄っており、当初予算から合わせた20年度の新規の国債発行額は過去最大の90兆円超に上っている。
この結果、政策経費を税収などでどれだけ賄えるかを示す「基礎的財政収支(プライマリーバランス)」の赤字は当初予算段階の9兆円余から66兆円を超えた。コロナ禍という不測の事態に見舞われたとはいえ、政府がこれまで繰り返し言ってきた「経済成長と財政健全化の両立」は困難で、「25年度にプライマリーバランスを黒字化する」とする目標の達成も絶望的な状況である。
新たな借金のため発行される国債は民間で購入しきれない分は日銀が市場から買っている。このため買い手が不足して、すぐに金利がはね上がるような事態を招くことはなかろう。ただ借金体質にどっぷりと漬かり、財政規律が緩んだままだと、今後の経済に危うい事態を招きかねない。
膨らんだ借金を減らすのはなかなか難しい。補正予算は雇用や生活を守るための対応だとしても、使い道に公益性や緊急性があるのか、国民自身もつぶさに監視する必要がある。
次の衆院選を見据えて、与党からの歳出圧力が今後高まる可能性を指摘する声もある。財政支出に当たって、政府には国民が納得できるよう使途や財源、負担の在り方について説明する責任が一層大きくなっていることを改めて指摘しておきたい。
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2020/11/5 8:05
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米大統領選/公正かつ平和的な決着を
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米大統領選はかつてない大接戦となった。「米国第一主義」の継続を掲げた共和党のドナルド・トランプ大統領(74)と、国際協調による米国の地位回復を訴えた民主党のジョー・バイデン前副大統領(77)。両候補は対極的な国家観を示して激しくぶつかり合い、民意も真っ二つに割れた。
勝敗を巡る対立がしばらく続くことも懸念される。米社会の分断を、これ以上深刻化させてはならない。民主主義のルールに基づき、公正かつ平和的に決着させるべきだ。
選挙戦では、米国第一主義に基づき経済や移民、外交安全保障などの政策を推し進めたトランプ政治の是非が問われた。バイデン氏は国民の結束を訴え、同盟重視や気候変動問題への取り組み、富の再分配による格差解消などをアピールした。
有権者の関心は高く、投票者数は約1億6千万人に上る見通しだ。投票率は約67%と、この100年で最高になるとみられる。
さらに、新型コロナウイルスの感染拡大が有権者の投票行動を一変させた。米国の感染者数は累計900万人超と世界最悪で、23万人を超す犠牲者が出ている。そうした中、投票総数の6割を超える1億人余りの有権者が、投票所での感染を懸念して郵便を含む期日前投票を選んだ。
6500万人近くに上った郵便投票は、結果判明の遅れという副作用も生んだ。開封や署名確認などに時間と手間がかかるからだ。州によっては開票日以降の到着分も有効票とみなすため、接戦州では結果の確定が数日後になるとみられる。
両候補とも、郵便投票などを巡る本格的な法廷闘争を準備しているという。不正はあってはならないが、有権者の投じた正当な票は漏れなく選挙結果に反映させるべきだ。裁判が泥沼化して政治的な空白が長引けば、世界の政治経済への悪影響は必至だ。
選挙期間中、米国民は人種問題で激しく対立し、暴力事件が多発した。選挙後の暴動を警戒し、窓ガラスを板で覆う店舗もある。自由民主主義のリーダーである米国の選挙が暴力で混乱すれば、その権威は失墜する。中国など強権的な国々と今後向き合う際も説得力を失うことになる。
両候補のコロナ対応も対照的だった。トランプ氏は経済回復を重視し、マスクも着けずに大規模集会を展開した。自ら感染するという想定外の事態も引き起こした。これに対し、バイデン氏はマスク着用など感染防止を優先し、オンラインや小規模な集会で支持を訴えた。
トランプ氏は、バイデン氏や民主党支持者を「過激な社会主義」と非難し続けたのに対し、バイデン氏は「当選すれば、すべての国民の大統領になる」と訴えた。激しい選挙戦でいっそう深まった分断を癒やすことは容易ではあるまい。しかし、その実現は米国民のみならず、世界中で暮らす多くの人々の願いでもあるはずだ。
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2020/11/4 10:05
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冤罪の防止/さらなる刑事司法改革を
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1985年に宇城市松橋町で男性が刺殺された「松橋事件」で、殺人などの罪で服役し、昨年3月に再審無罪が確定した宮田浩喜さん=熊本市=が亡くなった。
宮田さんは、違法な捜査で殺人犯の汚名を着せられたなどとして国と県に損害賠償を求めて提訴していた。訴訟は遺族を原告として継続される予定だが、弁護団が冤罪[えんざい]の原因究明と名誉回復の手段と位置付けていた審理の結果を、本人は聞くことができぬままとなってしまった。
今年は、大阪地検特捜部の証拠改ざん事件発覚から10年。これを教訓として、一部事件への取り調べの録音・録画(可視化)などが進められてきたが、取り返しのつかぬ結果を招く冤罪の防止に向けては、まだ多くの課題がある。さらなる刑事司法改革が必要だ。
取り調べの録音・録画は、昨年6月に施行された改正刑事訴訟法で義務付けられた。「冤罪の温床」と批判されてきた密室の取り調べからの脱却へ、大きな一歩ではある。
ただ可視化義務の対象は、裁判員裁判で審理される殺人などの重大事件と、検察が独自捜査する事件だけで、取り調べの適正化を積極的に進めるためには、対象事件の拡大が求められる。
また重大事件でも、逮捕される前の任意段階での聴取は、可視化の対象となっていない。
今年4月には、滋賀県の病院で患者の人工呼吸器を外し殺害したとして殺人罪で服役した元看護助手の西山美香さんの再審無罪が確定した。無罪判決を下した大津地裁は、軽い知的障害があって相手に迎合しやすい西山さんの特性を利用して「供述をコントロールした」と捜査を批判した。
西山さんのような、いわゆる「供述弱者」を冤罪から守るためには、任意段階からの可視化に加え、弁護人の立ち会いなども検討すべきだろう。松橋事件と同様に捜査側による不都合な証拠隠しも指摘された。証拠の全面開示を担保する制度改革も必要だ。
冤罪の再発防止のためには、捜査過程の検証が求められるが、検察、警察が自ら検証し、結果を公表した例はほとんどない。再審無罪が確定した事案については、検証を義務付け、過ちの教訓を社会と共有すべきではないか。独立した検証機関の設置も視野に入れて検討してもらいたい。
再審のハードルの高さも課題である。ハンセン病患者とされた男性が殺人罪に問われ、無実を訴えながら死刑執行された「菊池事件」は、熊本地裁が、事実上非公開の特別法廷であった男性の審理を違憲と判決し今年3月に確定した。しかし、差別を背景に遺族は再審請求に踏み切れず、遺族以外で唯一請求権を持つ検察官も、国立ハンセン病療養所・菊池恵楓園入所者自治会など3団体の請求要請に応じていない。3団体は国民の請願権に基づく再審請求人の拡大運動をスタートさせたが、冤罪被害救済の新たな門戸を開く動きとして期待したい。
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2020/11/3 10:05
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「大阪都」再び否決/針路決めた「直接の民意」
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政令指定都市の大阪市を廃止して4特別区に再編する「大阪都構想」への賛否を問う住民投票が1日実施され、僅差で否決された。
2015年5月の住民投票に続く2度目の否決である。投票率は前回を4・48ポイント下回る62・35%にとどまった。多くの予算と手間を必要とする住民投票を繰り返したことに批判もあろう。とはいえ、市の歩むべき針路を住民自らが再度考え、投票によって直接意思表示した意味は、やはり重い。
都構想を推進してきた日本維新の会代表の松井一郎大阪市長は、任期を全うした上で政界を引退する意向を示した。吉村洋文大阪府知事も「僕自身が都構想に挑戦することはもうない」と述べた。2人の決断も、民意の重さを受け止めたからにほかなるまい。
民意をどうくみ取るかは、全ての首長が思い悩む課題である。住民投票という直接的な手法を選択した大阪市の取り組みは、さまざまな難題を抱える自治体の行政運営に一石を投じたのではないか。
京都市や横浜市など、政令市の権限をさらに強化した「特別自治市」の創設を訴える都市もある。大阪都構想は、そうした動きと逆行するものだった。今回の投票結果は、大都市の統治機構改革を巡る今後の議論にも影響することになるだろう。
大阪都構想には、府と市の二重行政の弊害を解消して運営を効率化する狙いがあった。市の財源を府全体の成長戦略に回すことで、停滞した大阪の経済を活性化させるという効果も見込んでいた。
しかし、府と市が目指した「ばら色の未来」は新型コロナ禍によって先行き不透明になっている。25年に開催される関西・大阪万博や、万博会場の隣接地に誘致を目指すカジノを含む統合型リゾート施設(IR)も、コロナ禍が収まれば、という条件付きの青写真となってしまった。
都構想は、大阪市が担っている業務のうち広域行政を府に一元化し、特別区は教育・福祉といった住民サービスに専念する、との内容でもあった。だが、住民サービスの維持に必要な経費がどう変化するのか、説明は不明確だった。
地方自治の観点から言えば、政令市よりも住民に近い特別区ごとに首長や議会を置く、との考え方は理にかなっている面もあった。東京一極集中の是正を図るという意味においても、西日本に「副首都」を設けることには一定の意義があったはずだ。しかし、そうした点についても市民に十分に伝わったとは言い難く、「大阪市を廃止するだけの価値があるのか」との疑問を振り払えなかった。
大阪市は政令市として存続することになった。現在は府と市の首長を維新の2人が務め、運営方針も一致しているが、長い目で見れば二重行政の弊害がいつ表面化してもおかしくない。連携を一層緊密にし、役割のすみ分けを進めることは都構想に拘泥しなくても可能なはずだ。住民投票では反対派に回った各党とも協調し、活性化を実現してもらいたい。
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2020/11/2 10:05
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学術会議問題/論点ずらさず丁寧に説明を
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菅義偉首相の所信表明演説に対する衆参両院の各党代表質問で、最大の焦点となったのは日本学術会議が推薦した会員候補6人の任命拒否問題である。日本学術会議法に違反するとの野党の指摘に対し、首相は「必ず推薦通りに任命しなければならないわけではない」と答弁。しかし、拒否の理由については「人事に関する」として説明を拒み、議論は平行線のまま終わった。 一方、政府は学術会議の組織を見直す検討に入った。予算の無駄削減と業務効率化が必要との考えからだが、論点をずらそうとの意図が透けて見える。
「学問の自由」侵害
首相答弁にはつじつまが合わない点が少なくなかった。まず任命権。首相は「推薦通りに任命しなければならないわけではないという点は、政府の一貫した考えだ」と強調した。しかし、1983年の政府国会答弁は「政府が行うのは形式的任命にすぎない」としており、明らかに矛盾している。 首相の主張の裏付けとして政府が挙げたのは、2018年11月に内閣府がまとめた文書だ。学術会議事務局と内閣法制局が協議し、「首相が推薦を拒め、任命権の裁量がある」との解釈を明確化したとする。83年答弁との整合性については、2004年の日本学術会議法改正で会員の推薦方式が変わったためと説明した。 ふに落ちないのは、この文書が今回の問題発覚まで非公表だった点。政府が国会答弁の解釈をひそかに変更していた疑いがある。さらに法改正された04年、やはり政府が「首相が任命を拒否することは想定されていない」との内部資料をまとめていたことも新たに判明した。この文書によれば、推薦方式が変わってもなお83年答弁を踏襲していたことになる。 突然登場した18年文書だが、作成の経緯や、83年答弁などとの整合性をきちんと説明すべきだ。 任命拒否は野党も指摘した通り、憲法23条「学問の自由」への侵害ではないか。これに対し首相は「会員が個人として有する学問の自由や、学術会議の独立性を侵害するものとは考えていない」と述べただけだった。 首相は任命拒否の詳細な理由の説明を避ける一方、会員は東大など七つの旧帝国大学所属が45%を占め、民間企業の所属や若手が3%しかおらず偏りがあり、多様性を重視したと強調した。 「多様性」の根拠は 当初は推薦段階の名簿を見ていないと発言。他方で総合的、俯瞰[ふかん]的な判断の結果としたが、ここに来て新たに多様性を持ち出したのは苦し紛れにも見える。 学術会議は、この20年間で女性の比率は1%から38%に、関東に偏っていた会員比率も68%から51%に改善したとして、「多様性や男女比率は長い間、試行錯誤してきた結果だ」と反論している。今回、任命拒否された会員には女性や50代前半の若手、その大学からただ1人の研究者が含まれている。首相の言う多様性の根拠があいまいだ。理由を言わず、多様性重視として切り捨てるのはあまりに強権的ではないか。 任命を拒まれた6人には、安全保障関連法や米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設といった政府方針に批判的だった研究者が含まれており、政府方針に異を唱える人を排除したのではとの疑念も出ている。学術会議が政府との距離感を意識するのは、かつて研究者が太平洋戦争に協力、動員された反省からで、当然のことである。 不可解な行革論議 国会での論戦を横目に、河野太郎行政改革担当相と井上信治科学技術担当相は会談し、学術会議への年間約10億円の国費負担が妥当かどうか検証作業を加速する方針で一致。「行政改革」として年内に結論を出し、来年度予算案への反映を目指すという。自民党プロジェクトチーム(PT)の塩谷立座長は、10日をめどに論点を整理する考えだ。 学術会議の職員は約50人全員が官僚で事務局人件費が約4億円。政府への提言などのための活動費が約2億5千万円で続く。 一方、会員210人に固定給はなく、支払われるのは会議参加の手当1万9600円(税込み)。手当は会長など役職に応じ加算されるが、合計で約7千万円にとどまる。年金制度はない。最先端の知見を社会に還元することを考慮すれば、高額とは言えまい。 任命拒否問題は国民の7割以上が説明不十分と受け止めている。説明を省き組織改編に乗り出すことには違和感がある。首相が疑問を正面から受け止め対応しなければ何も解決しない。国会はきょう予算委員会が始まる。首相には丁寧な説明を求めたい。
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2020/11/1 10:05
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いじめ増加/意識改革をさらに進めて
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全国の小中高校と特別支援学校が2019年度に認知したいじめは、前年度より約7万件多い61万2496件となり、5年連続で過去最多を更新した。心身に深刻な被害が生じるなどの「重大事態」も2割増の723件。いじめを1件でも確認した学校は82・6%に上った。
調査した文部科学省は「教員が積極的にいじめを発見し、早期に介入する方針が定着した」と肯定的に評価した。重大事態が急増していることについても「潜在的な被害が表れた」と説明し、相談体制を強化するなどの対策を進める考えだ。
これまで見逃されていた被害を学校が直視した結果だと結論づけたいのだろう。だが、専門家からは、被害の訴えがあっても「なかったことにしたい」と考える学校はいまだに多く、調査結果は「氷山の一角」にすぎないとの声が上がっている。現実から目を背けているのは文科省かもしれない。
学校の不十分な対応は被害者に精神的な追い打ちをかける。初期段階の小さなサインも見逃さないよう、意識改革をさらに進めてもらいたい。十分な人員を確保し、教職員が児童生徒に寄り添える時間を増やすことも必要だ。
児童生徒千人当たりの認知件数は全国平均で46・5件。都道府県別にみると、最多の宮崎県(122・4件)と最少の佐賀県(13・8件)では9倍近い開きがある。熊本県の認知件数は、前年度に比べ969件多い6539件で、児童生徒千人当たり33・3件。熊本市は3917件で、児童生徒千人当たり63・6件だった。
同じ九州、同じ県内でも、いじめの判断基準には地域差があると受け止めなくてはなるまい。認知件数が極端に少ない自治体の教育委員会や学校は、いじめの見逃しが多いと考えるべきだ。
重大事態の内訳は、生命や心身、財産に深刻な被害を受けたケースが301件、年間30日以上の不登校となったのが517件。両方に該当する事例もあった。いじめの初期段階で学校が適切な対応をしなかったためエスカレートし、重大事態となるケースは枚挙にいとまがない。
本年度は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴ういじめが増えそうだ。他県では、長期間休んだ子どもを「コロナに感染した」と決めつけたり、親が医療関係者であることをからかったりする事例が既に報告されている。熊本県教委の調査では、コロナに感染した児童生徒らを中傷するインターネット上の書き込みが複数確認されている。
学校が、閉鎖的な価値観を生み出し異質性を排除する場所になってはいないか。コロナ禍の影響が続く今だからこそ一層の注意を払いたい。ストレスを抱えた子どもにも丁寧な対処が必要だ。ただ、教職員は忙しく、いじめ対策になかなか注力できない。保護者や地域住民も、これまで以上に学校との対話を重ね、子どもたちの変化を敏感に察知したい。
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2020/10/31 10:05
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首相答弁/論議深める姿勢見えない
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衆参両院で30日までの3日間、菅義偉首相に対する各党の代表質問が行われた。首相就任から1カ月、6月の通常国会閉幕から4カ月という異例の長期空白を経ての菅政権初の国会論戦である。
現下の課題や目指す社会像について、首相の答弁で明確な説明がなされることが期待されたが、従来の発言の繰り返しや抽象的な言い回しが目立った。これまでのところでは、「建設的な論議」を国会に求めた首相自身に、論議を深める姿勢が見えないと言わざるを得ない。
具体的説明を回避する姿勢が特に際立ったのが、日本学術会議が推薦した会員候補6人の任命拒否問題に関する答弁だった。
野党側は、任命拒否について「推薦に基づいて首相が任命する」と明記している日本学術会議法に反しているなどと指摘した上で、拒否の理由をただした。
これに対し、首相は「必ず推薦通りに任命しなければならないわけではない。これは政府の一貫した考えだ」と説明。6人の拒否の個別理由については「人事に関する」と説明を拒んだが、「総合的、俯瞰[ふかん]的観点」との国会前からの発言を繰り返した上で、「出身や大学などに大きな偏りがある」として「多様性を念頭に判断した」と述べた。
だが、首相が「政府の一貫した考え」とした学術会議法の解釈は、従来の政府の答弁や公文書の記載と明らかに異なっている。さらに「多様性を念頭に判断」したのならなぜ、6人の中に会員のいない大学からの候補や女性が含まれているのか。これも矛盾する説明で納得し難い。
目指す社会像についても首相は、「自助、共助、公助、そして絆」との自民党総裁選からのスローガンを掲げた上で、「まずは自分でやってみる。そして家族や地域で助け合う。その上で政府のセーフティーネットでお守りする」との持論を改めて主張した。
当事者の努力による自助を第一に挙げる考えは、「たたき上げの政治家」を自任する首相の個人的信念でもあるのだろう。しかし今一番の課題は、首相自身が「国難」と表現する新型コロナウイルスの感染拡大に対して、野党側も指摘したように、国民の命と生活を政府がどう守っていくかではないのか。
多くの国民が自力では乗り越えようもない苦境に置かれている中で、国民の自助、共助を重ねて説く首相の感覚には違和感を覚える。まずは、誰も置き去りにしない公助の姿勢とセーフティーネットの具体策を示して、国民の不安の解消に努めるべきだ。
週明けには、一問一答形式の予算委員会が始まる。首相の答弁の姿勢や力量がさらに厳しく問われることになろう。医療の確保や持続化給付金、「Go To キャンペーン」など、既存のコロナ対策の効果も検証した上で、第3次補正予算の編成などに向け、国民の理解も深まるような論戦を改めて求めたい。
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2020/10/30 10:05
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不妊治療への支援/産みやすい社会の構築を
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新政権が、不妊治療への保険適用拡大や助成金制度の拡充に乗り出した。
不妊治療における公的医療保険の適用対象は、現状では一部の初期治療に限られている。体外受精や顕微授精などの高度医療は適用外で多額の費用がかかるため、経済的な理由から治療を諦めるケースも多い。菅義偉首相は男性の不妊も支援の対象とする考えで、切実に子どもを望むカップルにとっては心強い後押しとなりそうだ。
ただ、旗振り役の不明確な発言で、現場には誤解や混乱も生じている。菅首相は26日の所信表明演説で、「所得制限を撤廃し、不妊治療への保険適用を早急に実現する」と表明。だが、28日の衆院本会議の代表質問では、既存の治療費助成制度の所得制限を撤廃するとの趣旨ではなく、あくまで保険適用の拡大を表明しただけと説明した。政権の改革イメージを高めるために、具体策を詰めないまま目玉施策としている印象がぬぐえない。
また、不妊治療は不定期に頻繁に通院する必要があり、離職や治療断念を余儀なくされる人も少なくない。身体的、精神的な負担も大きく、経済的支援に加え、治療中でも安心して働き続けられる環境整備が欠かせない。スピード感も大事だが、最適な治療を受けられる制度になるよう、当事者の声も採り入れた制度設計としたい。
日本の少子化は、「国難」と表現されるほど待ったなしの状況にある。初婚同士の夫婦から生まれた子どもの数は2015年に1・94人まで減り、19年の出生数は統計開始以来最少の86万5千人に落ち込んだ。さらに今年は新型コロナウイルス感染拡大の影響も加わり、84万人台となる見通しだ。
そこで、菅首相が着目したのが不妊治療への支援拡大だ。しかし、少子化対策の抜本的解決につながるかは疑問も残る。
不妊治療のニーズが高まった背景には晩婚化と晩産化がある。18年の平均初婚年齢は夫31・1歳、妻29・4歳で、1985年に比べてそれぞれ2・9歳、3・9歳上昇。第1子出生時の母親の平均年齢も75年に25・7歳だったのが、2018年には30・7歳まで高齢化している。若い世代が仕事と結婚の両立の難しさや経済的不安定さに悩み、結婚や出産をためらう傾向が依然続いている。
その一方で、不妊治療は高齢ほど治療成績は下がり、流産率が上がる。生殖適齢期を大きく過ぎての治療継続には危険も伴う。若いうちに安心して出産や子育てができる環境を整えることこそ少子化問題解決の近道であることを忘れてはなるまい。
共働き世帯が増える中、多くのカップルが非正規雇用や低賃金、長時間労働など余裕のない労働環境に置かれている。仕事の経験を積み上げる時期と重なり、結婚や出産を後回しにせざるを得ない人も少なくない。不妊治療の支援拡大と並行して、子育て世代の雇用や賃金の底上げ、キャリア形成支援なども急ぐべきだ。
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2020/10/29 8:05
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温室ガスゼロ宣言/大胆な戦略で目標達成を
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菅義偉首相は国内の温室効果ガス排出量を2050年までに実質ゼロにすると宣言した。自然災害が頻発し気候危機が叫ばれる中、ようやく日本も脱炭素社会を目指す国際的な潮流に船を乗り入れた形だ。
ただ、世界第5位の大排出国である日本が今後30年で目標を達成するのは容易ではない。社会構造や産業構造を根本からつくり直すという気概が必要となろう。掛け声倒れに終わらぬよう、菅政権には大胆で実効性のある戦略を示してもらいたい。
温暖化対策の国際ルール「パリ協定」は、産業革命以降の気温上昇を1・5度に抑えることを目指す。その実現には、世界全体の温室ガス排出量と森林などの吸収量を等しくする「実質ゼロ」を、50年までに達成する必要がある。
欧州連合(EU)を中心に既に多くの国が50年の実質ゼロを表明している。排出量が最多の中国も9月に「60年実質ゼロ」を発表し、世界を驚かせた。11月の米大統領選では、政権奪還を目指す民主党のバイデン候補が50年の実質ゼロを公約に掲げている。
「50年に80%削減」を据え置いてきた日本は、国際社会で孤立する恐れがあった。厳しい目を向けられながら実質ゼロを打ち出せずにいたのは、石炭への依存度が高い鉄鋼、電力業界など一部に根強い慎重論があるからだ。
だがこの間、世界では既に多くの企業が脱炭素にかじを切り、投資家も温暖化対策を重視する傾向にある。このままでは国内産業の構造が、世界の潮流に乗り遅れ競争力も失いかねないことを、産業界全体で認識すべきだ。
通過点となる30年の削減目標は「13年度比26%減」にとどまる。保守的な設定で、最終目標の達成は到底おぼつかない。国民に政府の本気度を示す上でも、まずは30年目標を大幅に引き上げたい。
かぎを握るのは、主な排出源である発電などのエネルギー産業だ。中でも石炭火力は他の燃料と比べて排出量が多く、天然ガス火力の2倍にもなる。政府は、非効率な旧式の石炭火力を段階的に休廃止する一方、高効率設備は温存させる方針を示している。目標の高さを考えれば不十分だろう。
石炭火力は欧州を中心に全廃の動きが強まっており、日本もその覚悟が必要ではないか。代替電源は、太陽光や風力といった再生可能エネルギーの拡充で確保したい。菅首相は「原子力を含めたあらゆる選択肢を追求していく」とするが、事故リスクや「核のごみ」を巡る問題を踏まえれば、原発に頼らぬ施策を模索すべきだ。
脱炭素に向けた技術革新も加速させる必要がある。二酸化炭素(CO2)の排出に課税する炭素税の検討も待ったなしだろう。多くの国が既に導入しており、新技術の開発を促す効果が期待できる。
限られた時間で成果を上げるには国や自治体、企業だけでなく、個人の取り組みも重要になる。一人一人が暮らしを見つめなおし、総がかりで臨みたい。
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2020/10/28 8:05
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米大統領選/分断癒やす契機となるか
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11月3日投票の米大統領選が大詰めを迎えている。これまでの論戦で浮かび上がってきたのは「二つのアメリカ」とでも呼ぶべき正反対の主張だ。トランプ大統領(共和党)とバイデン前副大統領(民主党)は、分断が進む超大国の姿を象徴しているようにも見える。米国民は2人の政策や人格などを注視して冷静な判断を下し、分断を癒やすきっかけとしてほしい。
2人は22日のテレビ討論会で、新型コロナウイルス対策や人種対立、医療保険改革など米国が抱える課題について論戦を繰り広げた。「史上最悪」と評された1回目の討論会と比べて発言妨害などは少なかったが、主張は真っ向からぶつかり合った。
トランプ氏は、自らも感染して世界を驚かせた新型コロナへの対策について、経済活動が国民にとっていかに重要であるかを説き、拙速な経済再開との批判に反論した。一方、バイデン氏は多くの米国民が亡くなった事実を挙げて、マスクの着用を軽んじる発言を繰り返したトランプ氏には大統領の資質がないと断じた。
全米でデモが起きた人種対立に関しても、バイデン氏は警察官がいかに黒人を差別しているかを説明。白人側に立つトランプ氏との違いを鮮明にした。
医療保険改革は、政府がどこまで役割を果たすべきかという根本問題を巡る議論となった。環境政策も再生可能エネルギーへの移行を宣言したバイデン氏に対し、トランプ氏は米国の化石燃料生産の拡大を誇示し、正反対の立場を示した。
最終盤になって懸念が高まっているのは、投開票を巡る混乱だ。米報道ではコロナ感染回避の目的もあり、期日前投票を済ませた数は既に前回2016年の選挙に匹敵するという。ところが、投票所の数が削減されたことで期日前投票に長蛇の列ができて投票をあきらめたという有権者や、投票所を監視するとの目的で投票を威圧する組織の活動が伝えられている。黒人や中南米系など、少数派に投票させないトランプ氏陣営の狙いがあるとみられる。
利用条件が緩和された郵便投票も混乱の要素となりそうだ。民主党支持層が多く利用するとみられることから、トランプ氏は郵便投票を「不正の温床」と繰り返し攻撃しており、正当性を巡って早くも訴訟が起きている。
また、郵便投票は開封や本人確認の作業が煩雑で時間がかかるため、接戦になれば結果判明がずれ込む要因ともなり得る。そうなると、当日の開票結果で優位に立った陣営が、郵便投票分の結果を待たずに勝利宣言する可能性がある。法廷闘争が続いて、どちらが勝ったのかはっきりしないまま、現職がホワイトハウスにとどまるという泥沼の事態も起こりかねない。
混乱が長引けば、国際社会にとっても大きなマイナスとなる。健全な民主主義に基づく速やかな決着を望みたい。
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2020/10/27 8:05
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菅首相所信表明/負の側面も含めて説明を
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菅義偉首相にとって初の論戦の場となる臨時国会が26日、召集された。所信表明演説に臨んだ首相は「国民のために働く内閣」として規制改革を断行する考えを表明。携帯電話料金引き下げなどの具体例を挙げ「成果を実感していただきたい」と国民に約束した。
残念だったのは、日本学術会議の会員任命拒否問題に関し一切言及しなかったことだ。「国民から信頼される政府」を目指すのであれば、異論に耳を傾けず国民への説明を軽視した安倍晋三前政権の姿勢を引き継ぐべきではない。
また、演説は個別の政策が中心で、自助・共助・公助と絆を基本とする政権運営が社会をどう変えるのか、どれほどの財源が新たに必要となるかなど、負の側面を含め丁寧に説明したとまでは言い難い。各党の代表質問や予算委員会審議が、国の将来を見据えた活発な論戦となることを期待したい。
喫緊の課題である新型コロナ対策に関しては「爆発的な感染を絶対に防ぐ」と述べた上で、社会経済活動を再開して経済回復を目指す考えを強調。来年夏に延期された東京五輪・パラリンピックに関しても開催する決意を示した。
インフルエンザが流行する時期を迎え、急いで取り組むべきなのは国民の不安解消だ。政府が進める「Go To」事業では恩恵を受ける人が限られているほか、制度の問題点も次々と明らかになっている。最善の方策は何なのか、政官や与野党の壁を取り払って知恵を絞るべきだ。
来年の創設を目指すデジタル庁については、省益を排し民間の力を取り入れると説明。行政への申請で押印を原則廃止するとした。地球温暖化対策では、2050年に国内の温室効果ガス排出を実質ゼロにする方針を打ち出した。再生可能エネルギーを最大限導入するなどしてエネルギーの安定供給を図るという。ただ、安全最優先で原子力政策を進めるとした点は丁寧に議論する必要があろう。
外交では、日米同盟を基軸とする考えを改めて表明。だが、北朝鮮の拉致問題やロシアとの北方領土返還交渉に関しては、進展を図れなかった前政権の方針を踏襲するにとどまった。
新型コロナ禍は社会構造の変革を迫っている。将来の社会保障政策や、財源のための税体系についても、具体的なビジョンを聞きたい。国民に増税などの痛みを求める話も、包み隠さずに説明するのが首相の務めではないか。
一方、日本学術会議の問題に関して、首相はこの組織に約10億円の国家予算が投じられているとして「国民に理解される存在であるべきだ」と見直しを図る意向を示している。しかし、今問われているのは任命手続きの違法性である。選考に関与したとされる杉田和博官房副長官の国会招致を与党も検討するべきだ。
野党も次の衆院選に向け、それぞれの構想を示してもらいたい。衆院議員の残り任期は1年を切った。有権者の判断材料となり得る骨太の論戦が求められている。
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2020/10/26 10:05
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核兵器禁止条約発効へ/世界の現実を変える力に
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核兵器の開発から使用まで一切を禁止する核兵器禁止条約が来年1月に国際法として発効することになった。原爆投下から75年を経て、核廃絶を求める訴えがようやく、核兵器を明確に「悪」と規定する条約として結実した。世界の大国は依然として大量の核兵器を保有し、核軍縮の動きは足踏みしている。条約発効を機に、世界の現実を変える力を広げていかなければならない。 条約の前文には「ヒバクシャの受け入れ難い苦しみに留意する」と明記されている。日本の原爆被爆者や核実験の被害者らを念頭に置いたものだ。全ての核兵器の開発、実験、保有、使用を禁止。使用の威嚇も禁じることで「核抑止力」を否定した。2年に1回の締約国会議や発効5年後の再検討会議に、非締約国がオブザーバーで参加できる規定を設けた。 明確な国際法違反 条約は2017年、122カ国・地域の賛成で国連採択され、各国の署名・批准手続きを開始。24日のホンジュラスの批准で発効条件の50に達した。署名・批准国には中南米、アフリカ、オセアニアの小国が多い。 一方、米英仏ロ中の五大保有国は条約への参加を拒否。その他の保有国のイスラエル、インド、パキスタン、北朝鮮も同様だ。米国の「核の傘」に頼る日本も安全保障上の理由から参加していない。不参加国には条約の順守義務がない。 このため条約は実効性に乏しく、核兵器の廃絶などできないという批判もある。だが、発効すれば核保有は「国際法違反」のそしりを免れなくなり、廃絶への圧力となる。人々の意識を変化させ、世論によって各国政府に働きかけることもやりやすくなるはずだ。 締約国の連携網を 核兵器が人類に害悪をもたらすのは明らかだ。国際司法裁判所は1996年、核兵器使用が国際人道法に「一般的に反する」という勧告的意見を出した。2009年、当時のオバマ米大統領はプラハ演説で「核兵器なき世界」を目指すと宣言した。 しかしストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、今年1月時点の世界の核兵器保有数は推定1万3400に上り、その9割を米国とロシアが占める。 五大保有国は核拡散防止条約(NPT)で核軍縮交渉を義務付けられてきた。にもかかわらず米国とロシアとの間で結ばれていた中距離核戦力(INF)廃棄条約は昨年、失効。中国も含め新型ミサイル開発などが進み、削減どころか軍拡の動きが強まっている。 米国とロシアの間に唯一残る核軍縮条約である新戦略兵器削減条約(新START)も、来年2月5日までの期限が迫っているが、両国の交渉は難航している。核兵器禁止条約の締約国によって、新START延長とNPTの核軍縮交渉推進を求める連携網が形成されることを期待したい。 国連事務総長は、禁止条約発効から1年以内に締約国会議を招集する。今後、条約をどう発展させていくかを議論するプロセスが始まる。実際に廃絶を進めるには、廃棄の経費や環境への影響、透明性や安全性も考えなければならない。締約国はさらに批准国を増やす努力をすべきだ。国民レベルでも、条約の理解を広げる活動に取り組みたい。 オブザーバー参加 日本政府は米国の核の傘に依存する一方で、保有国と非保有国の「橋渡し役」をするとしてきた。そうであれば条約に背を向け続けることはできないはずだ。オブザーバーとして締約国会議に加わることから始めることもできる。今こそ分断された保有国と非保有国をつなぐ時ではないか。唯一の戦争被爆国として、核廃絶への新たな一歩を踏み出してもらいたい。
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2020/10/25 16:05
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ベラルーシ混乱/選挙をやり直すしかない
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ロシアの隣国で同盟国のベラルーシで、大統領選を巡る混乱が続いている。6選を果たしたとされるアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は「欧州最後の独裁者」と呼ばれ、圧政で知られる。選挙を前に有力候補らを拘束、選管当局も影響下に置いた。多くの国民が反発するのも当然だろう。
選挙は不正だとして抗議デモを繰り返す反政権派に対し、大統領は治安部隊を投入し排除、拘束。多くが当局から暴力を受け、死者も出ている。ここに来て反政権派は大統領に対し、25日までの退陣を要求。応じなければ全国規模のストライキに突入すると「最後通告」を突きつけた。全面対決も危ぶまれる緊迫した事態だ。
大統領選の投票が行われたのは8月9日。当初、有力対抗馬と目されたのは元銀行頭取と元外交官の男性2人だった。しかし、中央選管は2人の立候補を却下。このため、反政府活動家で拘束下にある夫に代わり、妻スベトラーナ・チハノフスカヤ氏が出馬。却下された2人の陣営が支援に回った。
独裁者に政治経験のない主婦が挑む異例の選挙戦。しかし、「半年以内に公正な再選挙実施」を掲げたチハノフスカヤ氏の支持は急拡大し、反政府運動の象徴的存在になった。支援集会には数万人が集まる盛況ぶり。国民の不満が一気に噴き出したのは間違いない。
ところが、選挙結果について中央選管は、ルカシェンコ氏の得票率が80・10%だったと発表。反政権派の受け皿となったチハノフスカヤ氏は2位で10・12%だったとした。同氏は異議を申し立て、投票日夜から抗議デモが起きた。
国内外で選挙結果は捏造[ねつぞう]だとする批判が止まらない中、地元メディアが不正の一端を暴露した。北東部の学校の投票所で、地元当局者が選管職員に対し、ルカシェンコ氏とチハノフスカヤ氏の票数を入れ替えて最終結果とするよう指示する場面の録音が流出。選管責任者を務めた校長も「指示された」と不正を認めた。独裁ぶりがうかがえる行為である。
毎週繰り返される抗議デモでは多くの参加者が拘束された。女性中心のデモでは当初、治安当局が拘束を抑制していたが、最近はちゅうちょしない傾向に。拘束者への拷問や虐待も横行。決して許されない行為だ。
欧州連合(EU)はルカシェンコ氏を正当な大統領として認めておらず再選挙実施を要求。今月に入り当局関係者に制裁を科した。これに対し、ロシアのプーチン大統領はルカシェンコ氏を支持。EUとロシアの対立が懸念材料だ。
選挙後、隣国リトアニアに強制出国させられたチハノフスカヤ氏は、大統領が退陣しなければゼネストに突入すると警告したが、辞任の可能性は低い。一方、大統領側が反政権派の弾圧を続けたとしても、変革を求める国民を完全に抑え込むのは不可能だろう。
ルカシェンコ大統領は国民の声に耳を傾け、選挙をやり直すしか道はない。日本をはじめ国際社会は対話を促す行動を取るべきだ。
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2020/10/24 10:05
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社会保障への不安/負担と給付、本質的議論を
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医療や年金などの社会保障制度について、「安心できない」「あまり安心できない」と感じている人が83%に上ることが、日本世論調査会の全国調査で明らかになった。急速な少子高齢化による支え手の減少や、社会保障費の増加が理由の上位に挙がっている。 国の社会保障制度改革が遅々として進まず、国民の不安がこれまで以上に高まったと言える。安倍晋三前政権は「最大のチャレンジ」として全世代型社会保障制度を打ち上げ、財源確保のため消費税の増税まで実施したが、国民の痛みを伴う「負担と給付」の見直しについては避けたままだった。菅義偉政権は改革の本丸に踏みこみ、安心して暮らせる制度の将来像を国民に示すべきだ。 2019年に生まれた子どもの数は約86万人で、統計を開始した1899年以降最少となった。一方で、65歳以上は前年比30万人増の3617万人で過去最多を更新、総人口に占める割合も28・7%で過去最高となった。20年版厚生労働白書によれば、出生数は40年には74万人となり、65歳以上の割合も35・3%に達する見通しという。国民が不安に感じるのも当然のことだ。 19年度の医療費の概算は前年度から約1兆円増え、過去最高の43兆6千億円に達した。熊本県は7034億円。訪問医療なども含む県民1人当たりの医療費は年間約39万円と全国で7番目に高く、増加傾向が続いている。 社会保障制度改革の最大の焦点は、75歳以上の医療費負担の1割から2割への引き上げだ。政府は22年度までに引き上げる方針を決めており、年収240万円以上で383万円未満の人を対象とする案が浮上している。約190万人の負担が増えることになる。 先日、菅政権では初めてとなる政府の全世代型社会保障検討会議が開かれたが、不妊治療支援や男性育休の取得促進、待機児童解消といった現役世代向けの少子化対策が主なテーマだった。いずれも世論の支持を得やすく、改革姿勢を訴えるのにうってつけ、との思惑も働いているのだろう。 医療費負担引き上げの線引きは与党や医療団体にも異論があり、政府は水面下で調整を図っている。とはいえ、年末を見込む制度改革の最終報告まで2カ月しかない。26日召集の臨時国会で本質的な議論を急ぐべきだ。 少子化対策では、雇用労働者の4割近くにまで増えた非正規労働者が経済的理由で結婚や出産をためらわないよう処遇改善を図ることも早急に進めるべきだ。昨年10月に始まった幼児教育・保育の無償化は、消費税増税の増収分の一部を使途変更して財源としたが予算不足となり、年度途中に発行した赤字国債で穴埋めしたことも記憶に新しい。結果的に子どもたちの世代につけが回るような政策では本末転倒だ。 衆院選まで1年を切ったが、痛みを伴う問題の議論を後回しにすべきではない。政府は逃げずに正面から向き合ってもらいたい。
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2020/10/23 10:05
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里親月間/制度周知し委託率向上を
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国内には、さまざまな事情があって実の親と暮らせない子どもが約4万5千人いる。親に代わって育てる児童養護施設や里親制度など「社会的養護」の充実を急ぐ必要がある。 子どもたちが抱える事情の中でも、深刻さを増しているのが親からの虐待だ。2018年度に全国の児童相談所(児相)へ寄せられた虐待に関する相談は過去最高の約15万9800件。心身に深刻なダメージを負った子どもの健全な成長を図るには、なるべく家庭的な環境で育てることが重要だ。 しかし、現在の社会的養護は施設への預け入れがほとんど。里親への委託率は全国平均で20・5%にすぎない。10月は里親月間だが、そのことを知っている人はどれほどいるだろう。まずは制度自体を広く周知し、委託率の向上につなげる必要がある。 里親制度は1948年に法制化された。親の死亡や虐待などで親元での養育が難しい子どもを、児相の委託を受けた家庭が預かる。虐待や障害などで特別な援助が必要な子どもを預かる「専門」、養子縁組が前提の「養子縁組」、祖父母など親族が育てる「親族」と、一般的な「養育」の4種類の制度があり、現在は全体の8割近くを養育里親が占めている。 国は2016年の児童福祉法改正で、子どもを信頼できる大人の元で継続的に育てる「家庭養育優先」の原則を打ち出した。社会的養護の中でも里親の重要性が増し、家庭生活の中で、子どもに家族の在り方や人間関係の築き方、社会性などを身に着けさせる役割が期待されている。 国は17年にまとめた「新しい社会的養育ビジョン」で、子どもの年齢に応じた里親委託率の目標値を示した。人との信頼関係を結ぶ「愛着形成」に最も重要な時期とされる3歳未満は5年以内、それ以外の未就学児は7年以内に75%以上の委託率を達成するよう要請。学童期以降の子どもについては、おおむね10年以内に委託率が50%以上となるよう求めている。 しかし現実は厳しい。県内にも現在、親元での養育が難しい子どもが約740人いるが、その多くは児童養護施設などに入所している。熊本市の里親委託率は、全国69の児相設置自治体の中で最低の10・8%。同市を除く熊本県の委託率も、下から4番目の12・4%という状況だ。 委託率に関しては、この10年でさいたま市が6・2%から40%、佐賀県が5・6%から31・2%へと大幅に伸ばした。専任の里親担当職員の児相への配置や、市町村やNPOと連携した広報活動などの取り組みが奏功したようだ。 県は今年3月に「県社会的養育推進計画」を策定。里親支援策として、民間団体を活用した里親のリクルートや研修、委託後の支援強化、制度のPRなどを進める方針を示した。先進事例も参考にしながら、地域の実情に応じた対策を講じてほしい。里親を支援するNPOなどの活動もしっかり後押しする必要がある。
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2020/10/22 10:05
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米軍駐留経費/さらなる負担増は妥当か
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2021年度から5年間の在日米軍駐留経費負担(思いやり予算)を決める日米両政府の実務者交渉が始まった。
トランプ米政権は日本側に巨額な負担増を求める構えを見せている。しかし、日本の経費負担割合は同盟国の中でも突出して高く、経費負担以外にも多くの特権を米軍に与えている。加えて米国製兵器の購入増加や自衛隊による米軍への協力拡大なども進む中、さらなる日本の負担増は妥当なのか。一方的な要求には、毅然[きぜん]とした姿勢を示してもらいたい。
そもそも日米地位協定では、駐留経費は米側が負担するのが原則だ。しかし米国の財政赤字などを背景に、1978年から一部負担を開始。これについては「法的に容認されない」と認識しながら日本が負担に応じていたことが今年8月、機密解除された米公文書で判明している。87年からは特別協定を結び負担範囲も拡大した。
2015年12月に結んだ現協定(16~20年度)での対象は、基地従業員の労務費や光熱水費、訓練移転費など。20年度予算では1993億円を充てている。
これに対し、トランプ氏は就任当初から、米軍が駐留している各同盟国の負担増を主張。既に韓国に対しては昨年、現行額の5倍を要求して交渉を開始したが、ボルトン元大統領補佐官の著作によれば、日本に対しても昨年7月に同4倍の負担を求めたという。
米国防総省によると、02年時点での駐留経費に占める負担割合は韓国40%、ドイツ32・6%に対し日本は74・5%。現在は8割を超えているとされる。この数字だけを見ても、米側の負担増要求は法外なもので納得しがたい。
さらに日本側の負担は駐留経費だけではない。日米地位協定により在日米軍の活動に国内法は適用されず、基地周辺の空域は米軍が管制圏を握っている。これも他国が与えている以上の特権だ。
加えて第2次安倍晋三政権下では、集団的自衛権の行使を一部容認する安全保障関連法を成立させて、自衛隊と米軍の一体運用を進めてきた。また、トランプ氏の要求に従って最新鋭戦闘機F35などの米国製兵器を大量に購入。米軍普天間基地の辺野古移設に伴う巨額経費も日本の支出である。
現在の日本の負担が、トランプ氏の言う「安保ただ乗り」のような状況でないことは明確だろう。
交渉は11月の米大統領選の後に本格化される。民主党候補のバイデン前副大統領が当選すれば米側の交渉方針も変わる可能性はあるが、財政状況が厳しい米国にとって、応分の負担増を求める方針自体に変わりはないとの見方も強い。
日本が21年度予算案を編成する12月まで時間がなく、現行協定を暫定的に1年延長する案が浮上しているが、それが現実的な選択だろう。その上で、その1年の猶予の間に地位協定も含め適正な負担の在り方を、改めて国内でも論議するべきだ。国民の納得がなければ日米同盟の安定性も揺らぐ。
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2020/10/21 10:05
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合同葬の弔意要請/自律性への配慮に欠ける
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内閣と自民党による故中曽根康弘元首相の合同葬が17日に営まれたのに先立ち、文部科学省は全国の国立大などに弔意を表明するよう求める通知を出した。都道府県の教育委員会にも「参考」として文書を送り、市区町村教委への周知を求めた。
元首相とはいえ、一政治家の葬儀に弔意を示すかどうかは、憲法が保障する内心の自由に関わるものである。加えて教育基本法は、学校で特定の政党を支持するような政治的中立を曲げる教育を禁じている。今回の文科省の通知は、教育現場の自律性への配慮に欠けた、過度な介入と言わざるを得ない。
政府は、合同葬当日の弔旗掲揚や黙とうを閣議了解。文科省は、趣旨に沿って取り計らうよう国立大などに通知した。黙とうは午後2時10分を指定。弔旗は、1912(大正元)年の閣令で定めた掲揚方法を図解入りで示した。
大学院大を除く国立大82校のうち、事前の調査で弔旗や半旗を掲揚するとしたのは56校。熊本大は過去の対応例が確認できず、掲揚しないことを決めていた。
熊本県教委は、各市町村教委に文科省の通知内容を送付。熊本市経由で総務省から同様の通知を受け取った同市教委は17日が授業のない土曜日であることを考慮。「現場に混乱を来す可能性がある」として、各学校への通知は見送ったという。
萩生田光一文科相は、弔意の表明は「強制を伴うものではない」とし、各大学などの対応を調査することはないと弁明した。
しかし、文科省は国立大学への運営費交付金など予算配分に大きな権限を有している。また、これまで拒否された例はないが、国立大学長の任命は形式上、大学側の申し出に基づき文科相が行うことと規定されている。
同様に形式的とされていた日本学術会議会員の任命が菅義偉首相によって拒否され、同会議への予算も、自民党がやり玉に挙げる中での今回の通知である。受け取った側が、無言の圧力を感じたであろうことは想像に難くない。
合同葬は、費用面でも注目を集めた。政府が2020年度予算の予備費から投じたのは約9600万円。過去に営まれた元首相らの合同葬でも公費は投入されたが、5千万~7千万円台に収まっていた。加藤勝信官房長官は「新型コロナ対策に万全を期す観点から積み上げた」と説明する。
しかし、そのコロナ対策によって国の財政が窮迫する状況下である。加えて、一般の国民が冠婚葬祭も含めて多数の参加を伴うイベントを自粛してきた中、合同葬の開催自体に厳しい目が注がれていることを、政府も自民党も自覚するべきだろう。
弔意要請の通知も、公費投入と同様に「前例があった」ことを実施の根拠の一つとしているが、「前例踏襲の打破」が菅政権の看板ではないのか。合同葬の在り方全般を、国民の理解を得られるような形で見直すべきだ。
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2020/10/20 10:05
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コロナ禍と自殺/あらゆる手段で安全網を
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警察庁によると、9月の全国の自殺者数(月別速報値)は前年同月より143人多い1805人となり、7月から3カ月連続で前年を上回った。特筆したいのは、男性の増加が5人だったのに対し、女性は実に138人だった点だ。 7、8月を見ても、女性の自殺の増加傾向が著しい。背景にはむろん、新型コロナウイルスの感染拡大で雇用や暮らしが受けた深刻なダメージがある。その痛みが社会のより弱い部分を突いていることも、容易に想像がつく。 政府は9月、内閣府に「コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会」を設置。来月から自殺や解雇・雇い止め、ドメスティックバイオレンス(DV)被害などの実態調査に乗り出すという。 ただ、現状では困窮者に具体的に届く支援メニューの策定こそ急ぐべき局面ではないか。財政支出を含むあらゆる手段を講じて、社会の安全網の確立を求めたい。 ことしの自殺者数は6月まで前年同月を下回ったが、7月に1818人(前年同月比25人増)、8月1854人(251人増)と増え始めた。男女別では女性が6月から増加に転じ、7、8月は両月とも651人で、直近の5年間で最多。9月も639人と、看過できない水準に達している。 研究会資料によると、政府が緊急事態を宣言した4月、全国の就業者数は大幅に減少したが、うち男性は37万人減、女性が70万人減だった。4~7月の失業者数は、男性が6月から減少に転じたのに対し、女性は4月以降の増加傾向に歯止めがかかっていない。 総務省の8月労働力調査では、パートやアルバイト、派遣社員などの非正規雇用労働者は全国で2070万人。前年同月比で120万人減少し、うち女性が84万人を占めた。いずれのデータも非正規が多い女性の働き手が、コロナ禍による解雇や雇い止めの痛みをより強く受けた実態を示す。 雇用現場だけではない。家庭内では家族の在宅時間が延びたことで、女性の家事や子育て、介護などの負担、さらにDVリスクが増したとみられる。DV相談件数は4~7月、前年の1・4~1・6倍で推移。7月は1万6748件が寄せられた。 自殺者増を受け、田村憲久厚生労働相は先週の記者会見で「相談体制をしっかり整えていかねばならない」とした。男女を問わず生活面、精神面で悩み苦しむ人に対し、多様な相談窓口を通じてサポートしたい。 そのためにも、相談から支援へスムーズにつながる施策が不可欠と言える。当面は雇用調整助成金の拡充や、新たな現金給付が課題だろう。本当に困っている人に、スピード感をもって支援の手が届く仕組みを構築するべきだ。 自殺者数の推移は、そのまま社会のひずみの反映である。中長期的にも、正社員と非正規間、また男女間の格差など、多くのひずみを是正し、あらゆる人が生きやすい社会の実現へ、粘り強く取り組んでいきたい。
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