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2019/12/14 10:07
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英下院総選挙/離脱へ前進も課題は山積
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英国の欧州連合(EU)離脱が最大争点だった英下院の総選挙は、12日の投開票の結果、ジョンソン首相率いる与党保守党が大勝。少数与党から脱却し、来年1月末の離脱に向けて大きく前進する結果となった。しかし、今後もEUとの自由貿易協定(FTA)交渉などを残しており課題は山積している。
英国のEU離脱は、2016年の国民投票が起点だ。ただ当時、国民の賛否は拮抗[きっこう]。EUの権限拡大や移民流入などへの反発を背景に賛成が多数を得るも、離脱を支持する割合は52%と際どい結果だった。当時残留を主張したキャメロン氏は首相を辞任。後任のメイ前首相が率いた保守党は17年の前回総選挙で事実上敗北し、過半数割れの少数与党に転落していた。
このため、メイ氏がまとめたEUとの離脱合意案を下院が繰り返し否決。当初は今年3月の予定だった離脱期限も再三延期された。国民投票時の離脱派の中核で今年7月に首相に就いたジョンソン氏も、その時点で10月末とされていた期限内の離脱は不発に。形勢逆転を狙ったのが、下院議員の任期(5年)を前倒しして実施した今回の総選挙だった。
ロンドン市長や外相を務めたジョンソン氏は、人気が高い政治家だ。世論の支持を背景に選挙戦では「離脱を成し遂げる」と繰り返した。EUとの間では、来年1月末への期限延期と離脱条件に関する新たな合意案を妥結しており、選挙戦では「混迷に終止符を打つ」とする姿勢に徹した。
一方で大敗を喫した最大野党の労働党は、国民投票の再実施を掲げたものの、選挙戦を通じて賛否の姿勢を明らかにできなかった。社会主義的な労働党の政策が敬遠されたとの見方もあるが、約3年半も続いてきたEU離脱を巡る混迷が「政権交代でさらに続くのではないか」との国民の不安を払しょくできず、離脱推進を明確にした保守党に支持を奪われた。
1月末の離脱が実現すれば、激変緩和のため来年12月末までの移行期間が設けられる。この間、英国とEUの間でFTA交渉が進められるが、幅広い分野での合意が必要な交渉は難航も予想されており、期間中にまとめられるかは不透明だ。また、EU以外の国とも交渉が必要となる。
その成否は経済や国民生活に大きな影響を与えるだけに、ジョンソン政権に課せられる責任は一層高まっている。場合によっては、英国内でのスコットランドや北アイルランドの地域分裂問題が再燃しかねない。
一方でEU側も今月、主要機関である欧州委員会と欧州理事会に新たなトップを迎えた新体制を始動させたばかりだ。英国の離脱問題を巡っては、他の加盟国との調整力も問われることになろう。
特に経済分野では日本も対応が急がれる。「合意なき離脱」による日系企業への悪影響は当面回避されたが、離脱後には日英間の新たなFTAの締結が見込まれている。今後も注視が必要だ。
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2019/12/13 10:06
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ロシア五輪除外/ドーピング決別の一歩に
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国家主導でドーピングに関わる隠蔽[いんぺい]工作を行ったロシアに厳罰である。世界反ドーピング機関(WADA)が、ロシア選手団を主要国際大会から4年間除外する制裁処分を決めた。
ロシアは来年の東京五輪・パラリンピックに選手団を派遣できなくなるほか、サッカーのワールドカップ(W杯)をはじめ、各国際競技連盟が主催するあらゆる世界規模の大会に選手団を送り出せない。自国で世界規模の競技会を開くこともできない。
プーチン大統領は「五輪憲章違反」と反発、スポーツ仲裁裁判所(CAS)に異議を申し立てる可能性に言及した。しかし、主に手続きの瑕疵[かし]を見るCASで覆すのは難しいとみられている。
ロシアの不在は大会の盛り上がりに水を差すという指摘もある。しかし、フェアプレーはスポーツの最も重要な価値だ。国威発揚にスポーツを利用した不正を見逃すわけにはいかない。「反薬物の番人」の役割を果たしたWADAの判断を評価したい。
ロシアは自国開催の2014年ソチ冬季五輪で、検体の廃棄、加工、すり替えを行い、WADAは情報機関が関与した国ぐるみの違反と認定した。ただ、ロシアの反ドーピング機関を資格停止処分にしたものの、ロシア側が検体データの提供を拒み、真相解明は暗礁に乗り上げていた。
WADAは資格回復の条件として保管している選手のデータ提出を要請。期限を過ぎ、今年になってようやく届けられたデータを関係者の証言などと照らし合わせた結果、大量の消去、改ざん、捏造[ねつぞう]などの不正が明らかになった。ロシアは過去の暴挙を反省するどころか、さらに罪を重ねていたことになる。
WADAは、ロシアの組織的不正が明るみに出て初の五輪だったリオ大会でロシア選手団の締め出しを勧告。しかし国際オリンピック委員会(IOC)は判断を各国際競技連盟に丸投げした。大国との衝突を回避したIOCの対応は批判され、WADAの存在意義も問われる結果となった。過去最大級となる今回の処分の背景にはその反省もあったようだ。
一方、潔白を証明した選手の個人参加は認め、救済を織り込んだ。平昌[ピョンチャン]冬季五輪ではクリーンとされたロシア選手から2人の違反者が出た。不正を防ぐ上で十分な措置なのか議論も残ろう。東京五輪の運営にも課題を突き付けた。
言うまでもなく、スポーツが人を魅了し、感動を呼ぶのは、公平公正なルールの下、選手が全力で限界に挑戦するからだ。
世界選手権の多くでは、ロシアに限らずドーピング違反が疑われる選手、あるいは過去に違反をした選手との握手を拒み、一緒に表彰台に上がることを拒否する選手が増えている。「灰色選手」に対して会場からブーイングが起きることもある。
ロシアは今回の厳しい処分を受け止め、ドーピングと決別する一歩にしていくべきだ。
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2019/12/12 10:06
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あおり運転厳罰化/「犯罪」規定で事故抑止へ
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社会問題化しているあおり運転の対策として、警察庁は道路交通法の条文を改正して新たに定義し、罰則を設ける方針を固めた。違反1回で15点以上として即免許取り消しとし、再取得までの欠格期間は1年以上、2、3年程度の懲役刑も想定している。
これから細部を詰め、年明けの通常国会で関連法案提出を目指す。法務省も自動車運転処罰法で、車の前に割り込み停車させる行為を危険運転に問えるよう改正を検討している。あおり運転による死傷事故が相次ぐ中、明確に犯罪と規定することによって事故抑止につなげたい。
警察庁案では車間距離保持義務、急ブレーキの禁止、進路変更の禁止など既存の違反について、「通行の妨害目的で交通の危険を生じさせる恐れ」を引き起こした場合をあおり運転と定義。高速道路で他の車を停止させるなど著しい危険を生じさせた行為も対象とし、こうした違反を意図的に執拗[しつよう]に繰り返すことを摘発の要件とする。
罰則は刑法の暴行罪の「2年以下の懲役または30万円以下の罰金」や、強要罪の「3年以下の懲役」を軸に検討を進めている。現行法では、15点を超える即免許取り消し対象は酒酔いや無免許、共同危険行為など。あおり運転に適用されることが多い高速道路などでの車間距離保持義務違反の点数は2点、罰則は「3月以下の懲役または5万円以下の罰金」なので、大幅に厳しくなる。
悪質な違反運転対策としては、1999年に東名高速道路で飲酒運転の大型トラックが乗用車に突っ込み追突、女児2人が死亡した事故をきっかけに危険運転致死傷罪(当初の最高刑は懲役15年)が2001年に創設された。それまで適用されていた最高刑懲役5年の業務上過失致死傷罪から厳罰化されたが、重大事故は後を絶たず、法定刑の引き上げや処罰範囲の拡大が繰り返されてきた。
それにもかかわらず、現行法ではあおり運転を明確に罰する規定はない。このため、危険運転致死傷罪や刑法の暴行罪の適用、車間距離不保持といった道交法違反などで摘発が重ねられてきたが、人命を奪いかねない危険性にもかかわらず罰則が軽すぎるとの批判が広がっていた。
警察庁の摘発強化もあり、18年の1年間にあおり運転をしたとして全国で免許停止処分を受けたのは過去最多の42件、車間距離保持義務違反摘発は1万3025件で前年からほぼ倍増した。同庁によるドライバー2681人へのアンケートでは、過去1年間にあおり運転の被害を受けたと答えた人は939人に上った。悪質な危険運転が依然横行している実態が浮き彫りになった。
厳罰化によって、あおり運転は犯罪であるという認識が、ドライバーに広がることを期待したい。それとともに運転中の感情コントロールなど、未然防止のための新たな安全運転教育の取り組みも求められよう。
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2019/12/11 10:06
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増えるゲーム障害/全国的な相談体制急務だ
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インターネットを利用したオンラインゲームなどのやり過ぎで日常生活が困難になる「ゲーム障害」が深刻になりつつある。
インターネット依存などの専門治療を行う国立病院機構・久里浜医療センター(神奈川県横須賀市)が今年1~3月に実施した調査によると、全国の10~29歳の33%が平日に1日当たり2時間以上オンラインゲームなどに熱中し、時間が長い人ほど学業や仕事への悪影響や心身の問題が起きやすい傾向にあることが分かった。
ゲームと生活習慣の実態を全国規模で調べたのは初めてだ。調査結果を踏まえ、さらにゲーム依存症の実態把握を進め、予防や治療法の研究を進める必要がある。
久里浜医療センターの調査に回答した5096人のうち、睡眠障害や不安といった精神的な症状が出てもゲームを続けた人が7・6%、腰痛や目の痛みなどの身体的な症状があってもやめられない人は10・9%に上った。
平日に6時間以上ゲームをする人に限定すると、29・8%が「成績や仕事のパフォーマンスが下がった」と回答。「昼夜逆転の生活になった」は50・4%に上り、「家族に暴力をふるった」も3・3%いた。ゲームをする時間が長い人ほど高い割合で問題を抱えている実態が、数字によって裏付けられたと言える。
ゲーム障害は衝動を抑えられず、日常生活よりゲームを優先してしまう依存症のことだ。2022年から使われる世界保健機関(WHO)の「国際疾病分類」最新版で、アルコールやギャンブルなどの依存症と並んで治療が必要な病気と認定されたものの、有効な治療法は確立していない。
WHOが加盟各国に対策を求める中、中国政府は18歳未満が平日にオンラインゲームをする時間を90分までに制限し、夜間と早朝の使用を禁止する規制措置を打ち出した。
ただ、親のアカウント(利用する権利)を使ってゲームをする若者が多いことから、規制は難しいとの見方もある。ゲーム障害を減らすには規制ありきではなく、まずは、過度にゲームに熱中することの身体への悪影響や怖さを本人や家族に理解してもらうことが必要だろう。
一方、ゲームをスポーツとみなし腕前を競うeスポーツも普及している。今年10月には、初めてとなる全国都道府県対抗選手権が茨城国体の文化プログラムとして開かれた。ただ、勝負を優先した過度な練習が心身の健康をむしばむようなことがあってはならない。スポーツとして健全発展できるよう、ゲーム障害を予防するガイドラインやルールをしっかり整えるべきだろう。
久里浜医療センターのように専門外来を開設している医療機関はまだ少ない。ゲーム障害になった人たちにいち早く手を差し伸べるためにも、窓口となる医療機関を増やす必要がある。政府は、家族が気軽に相談できる全国的な体制づくりを急いでもらいたい。
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2019/12/10 10:06
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臨時国会閉幕/政治モラル低下を憂える
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臨時国会は9日、閉幕した。野党は、安倍晋三首相主催の「桜を見る会」を巡り多くの疑問が残っているとして、40日間の異例の会期延長を大島理森衆院議長に申し入れたが、与党はこれに応じなかった。
政権は、実態解明に後ろ向きの姿勢が目立ち、野党は閉会中審査を求めている。首相は、行政の最高責任者として自らに向けられた疑惑に対し、国民への説明責任を果たすべきだ。
臨時国会は10月4日に召集されたが、早々に菅原一秀前経済産業相と河井克行前法相が公選法違反疑惑などで辞任する事態となった。議員辞職にも値する疑惑だが、菅原、河井両氏からいまだに公の説明はない。
首相も自らの任命責任を認めながら、両氏に説明責任と進退のけじめをつけさせるなど具体的に指示した形跡はない。相次ぐ閣僚の辞任によって国民の政治不信は高まっている。首相にはその責任の自覚が足りないのではないか。
一方、大学入学共通テストへの英語民間検定試験導入を巡り、萩生田光一文部科学相の「身の丈」発言もあった。地域や貧富の格差を容認し教育の機会均等をないがしろにするものとして世論の批判を浴び発言を撤回。結果的に導入は見送られたが、文科相としての資質には疑問符が付いたままだ。
後半国会最大の焦点となったのは、桜を見る会を巡る疑惑解明だ。会は、首相の後援会関係者や昭恵夫人の知人らが多数出席して年々肥大化し「公的行事の私物化」との批判が渦巻く。そればかりか、預託商法などが問題視された「ジャパンライフ」の元会長や、反社会的勢力への招待疑惑など新たな事実や疑問が噴き出している。
野党は、予算委の集中審議を開いて首相が説明するよう求めたが与党は拒否。また、政府は、招待者名簿のバックアップデータが残っていたのに「廃棄した」とし、そのデータも「行政文書に該当しない」と強弁した。これでは疑惑隠しの批判は免れまい。
森友学園への国有地売却を巡る決裁文書改ざんや、陸上自衛隊による南スーダン国連平和維持活動の日報隠ぺい問題などで浴びた国民の厳しい批判を顧みるどころか、政権の隠ぺい体質があからさまになった印象さえ受ける。政治モラルの低下を憂えるばかりだ。
政府、与党が臨時国会の最重要案件に位置付けた日米貿易協定についても、問題山積の中、政府の思惑通りのスケジュールであっさり承認された。説明責任が尽くされたとはとても言い難い。
共同通信社の全国電話世論調査によると、桜を見る会を巡る疑惑に関する首相の発言を「信頼できない」との回答は69・2%に上る。報道各社の世論調査でも内閣支持率が軒並み下落している。
臨時国会をしのぎ年をまたげば、国民の関心も次第に薄まるとの思惑が政権に働いているとすれば早計に過ぎよう。国民の疑問に背を向けて逃げ切りを図ることなどもう許されてはならない。
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2019/12/8 14:06
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中村医師死亡/生き続ける信念と希望
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アフガニスタンで殺害されたNGO「ペシャワール会」の現地代表の医師、中村哲さんの遺体が、遺族に伴われて帰国する。11日に同会本拠地の福岡市で告別式がある。戦火の絶えないアフガンで民衆のため30年以上にわたって人道支援に尽くした。その活動と生涯に深く敬意と哀悼を表したい。
中村さんは1984年にパキスタン北西部で医療活動を始めた。その延長で隣接のアフガンに井戸を掘り始めたのは2000年の大干ばつがきっかけだ。飲料水の不足から腸管感染症が流行し、子どもが次々に落命した。医療より先に水が必要だった。
03年からは用水路の建設を始めた。干ばつに加え、戦乱で荒れた土地に農業を復活させるためだ。65万の難民の帰農を目指し、1万6500ヘクタールの農地を回復させた。戦禍の続く中、若者が武装勢力に加わる背景には貧困があった。「国際社会は武力でアフガンに平和をもたらそうとしているが、これは解決策ではない。豊かな水がこの国に平和をもたらす」という信念。貧しい人々のそばに立った草の根の支援だった。
銃撃された4日、中村さんは車で活動現場に向かっていた。現地ナンガルハル州の当局は、襲撃計画の情報を事前に入手。本人にも注意を促し、警備員4人を派遣していたというが、殺害は防げなかった。断じて許されない蛮行で、徹底した捜査を求めたい。
冷戦下のアフガン戦争、軍事・宗教勢力タリバンによる国土統一、そして米中枢同時テロ(2001年)後の米軍による空爆と、同国では紛争状態が続いてきた。国連によると、昨年は民間人だけで3804人が戦闘に巻き込まれて死亡。反政府武装勢力となったタリバンや、過激派組織「イスラム国」(IS)が外国人を標的に犯行を繰り返している。中村さん襲撃も、そうした勢力が民衆への支援をアフガン政府への支援と同一視し、外国人活動の萎縮を狙ったとの見方もある。
08年にもペシャワール会の伊藤和也さんが殺害された。アフガン戦争時から活動する中村さんに、深刻な治安状況への用心がなかったわけではないはずだ。ただ、現地で自分たちの活動が受け入れられてきたのは、日本が「平和貢献国家」と見られているからだと考え、軍隊に守られるような活動には反対していた。
その思いも今回、一部の暴徒によって踏みにじられた形だが、中村さんは「利害を超え、忍耐を重ね、裏切られても裏切り返さない誠実さこそが、人々の心に触れる」と書き残している。かんがい事業の将来についても「農地がよみがえり、病人も減って生活の質が向上したサンプルができれば、取り組みは自然と広がります」と希望を語っていた。
ペシャワール会は今後も事業を続ける意向を示している。中村さんの築いた用水路の水脈と同じく、その信念と希望はアフガンと世界に生き続けていくに違いないし、継いでいかねばならない。
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2019/12/7 10:06
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国際学力調査 生き抜くための読解力を
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経済協力開発機構(OECD)が79カ国・地域の15歳を対象に昨年実施した学習到達度調査(PISA)で、日本の高校1年生の読解力は15位だった。調査は3年ごとに行われているが、読解力は2回続けて順位を落とした。 文部科学省は根拠を示して考えを述べる力に課題があると指摘。パソコンでの出題に不慣れだったことも一因とみている。今後は子ども1人にパソコン1台の学習環境を整える政府方針を推進することで挽回を図る構えだ。5日閣議決定した経済対策にも、約2300億円の予算案が盛り込まれた。 PISAはこれまでも、日本の教育政策に大きな影響を及ぼしてきた。2003年調査で成績を大きく下げた際は、「ゆとり教育」の方針を転換するきっかけとなった。今回大切なのは、人生を生き抜くために必要な読解力を子どもにどのように身に付けさせるかだ。調査結果を冷静に検証した上で、適切な手順を踏んで教育の改善につなげてもらいたい。 OECDは今回から、読解力調査の方法を大きく変えた。情報の質や信ぴょう性を判断する力も読解力だとして、ネットニュースや電子メールといった多様な文章を題材とした。フェイクニュースや誹謗[ひぼう]中傷をあおる書き込みがインターネット上にあふれている現状を踏まえ、これからの社会を生きるには情報の真偽を見抜く力が欠かせない、との判断からだろう。 これに対し、日本の高校生が授業でデジタル機器を使う時間は、OECD加盟国の中でも最低レベルだ。慣れない出題形式に戸惑ったことは想像に難くない。しかし、順位低下の理由をそれだけに求めては間違いだろう。「文章を多角的な視点から正確に読み取る」という本質的な力の不足を真摯[しんし]に受け止めるべきだ。 日本の国語授業は作者の意図を読み取る活動が中心で、複数の文章を読み比べ、自分なりの考えを築き上げる力の育成が足りないとの指摘もある。文章の中から正解を探すだけでなく、分析力や想像力を育む指導が必要だ。前提として、教科書の長文を的確に読めているのかを確認し、文法の誤りをただすなどの論理的な指導も欠かせまい。 一方で、家庭環境による「情報格差」の問題も軽視できない。経済的な理由でデジタル機器に触れる機会に乏しい子どもが、必要な読解力を身に付けずに社会に出るようなことがあってはならない。 デジタル機器の取り扱いに加え、情報を正しく読み取る力(メディアリテラシー)も備えた教員の育成確保も急務となろう。文科省は一層踏み込んだ対策を講じるべきだ。 今回の調査では、本や新聞をよく読む生徒ほど読解力の得点が高いが、そうした生徒は減少傾向にあることも分かった。新学習指導要領は論理的な文章の指導に力を入れるとしているが、ジャンルにとらわれず、幅広く活字に親しむことの意義にも目を向けてもらいたい。
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2019/12/6 10:07
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日米貿易協定承認/説明は尽くされていない
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日米貿易協定が国会で承認され、2020年1月1日に発効する見込みだ。
協定には、「米国第一」主義を唱えながら同盟国への要求を強めるトランプ米大統領に譲歩し、日本に不利な内容になっているのではないかとの疑念が消えない。
野党は臨時国会で詳細な説明を求めてきたが、政府からは説得力のある答弁は聞かれないまま、与党が押し切った印象だ。
安倍晋三首相は、日米両国にとって「ウィンウィン(相互利益)」の協定だと言うが、それならその根拠を明確に示すべきだろう。説明責任を果たしたとは到底言えず、今後も国民の疑問に丁寧に答え説明を尽くす責任がある。
農業県・熊本にとって特に心配なのは畜産農家への影響だ。協定が発効すれば、米国産の牛豚肉や乳製品の一部にかかっている関税は、環太平洋連携協定(TPP)と同水準まで下がり、国内市場で競争力を増すことになろう。
消費者は値下がりで恩恵を受ける半面、中小・零細経営が主流の国内畜産農家は、大規模経営による米国産と厳しい競争にさらされる。
政府は、肉用牛の増産に奨励金を支給。規模の小さい農家への支援を手厚くし生産基盤を強化する一方、地方の特産品輸出や、先端技術を使った生産効率化も後押しするなど国内対策を拡充させる方針だ。
とはいえ、狙い通りの効果が得られるかどうかは未知数だ。政府は協定発効後も影響試算など情報開示を積極的に行うとともに、国産農産物の消費、輸出拡大に向け不断の対策を講じ、生産者の不安払拭[ふっしょく]に全力を挙げてもらいたい。
自動車関連の関税の行方も気になる。協定は、米国による日本製自動車に対する追加関税発動の余地を残す。安倍首相は、追加関税回避をトランプ氏と確認したと説明するが、同氏が将来にわたって追加関税は発動しないと明言したのかは不明だ。
一方、日本が米国に輸出する自動車、自動車部品についての関税が撤廃されるかどうかもあやふやなままだ。政府は「撤廃が前提」と強調。その具体的な根拠も示さないまま「撤廃は約束されている」と繰り返してきた。しかし、協定は「撤廃に向け引き続き交渉を続ける」と記載しているだけだ。
政府は、関税撤廃による経済効果について、国内総生産(GDP)を0・8%押し上げるとの試算を公表した。野党は自動車などの関税を含まない試算を出すよう求めたが、政府は拒否している。効果を大きく見せようとしているとの疑念を抱かざるを得ない。
協定は、日本の安全保障を握る米国との2国間交渉の厳しさを改めて浮き彫りにした。米国は、サービス分野などを含む「第2弾交渉」に意欲を示しており、今後、自国に有利な形で日本市場の一段の開放を求めてくるだろう。
こうした米国の圧力とどう渡り合い、国益を守るのか。安倍政権の真価が問われよう。
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2019/12/5 10:06
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「1票の格差」/抜本的改革へ議論深めよ
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「1票の格差」が最大3・00倍だった7月の参院選を巡り、有権者や弁護士らが選挙無効を求めて全国14の高裁・高裁支部に起こした計16件の訴訟で、最後の判決となった東京高裁は合憲との判断を示し、請求を棄却した。
一連の訴訟の判決は「合憲」が14件、「違憲状態」は高松高裁と札幌高裁の2件だった。
「合憲」との判断が大勢を占めたものの、「投票価値の著しい不平等状態にあった」として「違憲状態」を認定した司法判断があったことを国会は重く受け止めるべきだろう。さらに「合憲」とした判決でも、18年の公選法改正について「抜本的な見直しとは言い難い」(広島高裁)「抜本的見直しを達成していない」(仙台高裁秋田支部)などと厳しい指摘が相次いだ。
2016年の前回参院選では、人口の少ない隣接選挙区を統合する合区が「鳥取・島根」「徳島・高知」で導入され、従来5倍前後あった格差が3・08倍に縮小。17年9月の最高裁はこれを「合憲」と判断した。
最高裁の判断は、国会が将来の抜本改革を表明している点を重視したからだった。15年施行の改正公選法の付則は「次回の選挙に向けて抜本的な見直しを検討し、必ず結論を得る」と明記した。この決意表明を合憲判断の主要な根拠としたのは、改革断行へ司法が投げ掛けたメッセージとも言えるだろう。
しかし、その約束は果たされていない。与野党協議では抜本改革案をまとめることができず、18年の公選法改正は、定数6増(埼玉選挙区2増、比例4増)という小手先の見直しにとどまった。格差はわずかに縮小したが、今後も都市部への人口移動が続けば、拡大に転じ、さらに広がり続けるのは確実だ。今回の訴訟で、高松高裁判決が「弥縫[びぼう]策にすぎない」としたのは当然の指摘だろう。抜本的改革の約束に、国会は真摯[しんし]に向き合うべきだ。
「合区」となった地域では、投票率の低下もみられ、解消を訴える声が強い。自民党は、参院を事実上、都道府県代表とすることで合区を解消する憲法改正案をまとめた。ただ改憲には時間がかかるため、合区を残す一方で、比例代表に「特定枠」を設けて選挙区で擁立できなかった候補を救済する「奇手」をひねり出したのが、18年の改正だった。抜本的見直しを求める一連の司法判断は、現行制度の行き詰まりを指摘している。あらためて各党が改革への知恵を絞ってもらいたい。
選挙制度改革の議論は、衆参の役割の在り方を再考することからだろう。現行は両院ともに、選挙区と比例代表の組み合わせという似通った選挙制度で、複雑な修正が、有権者に分かりにくさをもたらしている。参院とはどんな存在か。どういう仕組みで議員を選ぶべきか。地方の声をどうすくい上げるのか。本質的な議論を深める必要がある。抜本的改革に向け政治の怠慢は許されない。
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2019/12/4 10:07
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年金制度改正/将来への課題積み残した
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来年の通常国会で焦点の一つとなる年金制度改正の骨格が固まりつつある。
主な議論は、パートなど非正規として働く人の厚生年金への加入促進と、働く高齢者に対する年金減額の見直しだった。
だが、政府の当初案はいずれも与野党や経済界などの批判を受け、トーンダウンを余儀なくされた。目指す改革の方向性や意義を、明確に示せなかったことが一因であろう。
非正規労働者が厚生年金に加入するための企業要件は、現在の「従業員501人以上」から「51人以上」に2段階で拡大する方針だ。新たに65万人が加入できる。制度の支え手を増やすとともに、国民年金だけでは不安な老後の年金収入を増やす狙いがある。
ただ、厚生年金の保険料は労使折半のため、企業の負担は1590億円増える。中小企業には負担が大きく、移行期間を設けるなど十分な配慮が必要だ。
現状でも要件を満たしながら加入していない労働者は推計で156万人に上る。保険料負担を嫌がる企業の加入逃れが指摘されており、対象を拡大するには、企業に対する指導も強化すべきだろう。
企業要件は「撤廃」「21人以上」の案もあったが、業界団体の反発で見送られた。同じ労働者であるなら勤め先の規模にかかわらず適用されるのが筋ではないか。
就職氷河期にやむなく非正規雇用となった人もいる。将来、低年金で生活保護が必要な状況を減らすためにも、政府は非正規労働者の厚生年金加入のさらなる拡大に努めてもらいたい。
一方、働いて一定の収入がある高齢者の年金を減らす「在職老齢年金制度」は、65歳以上については現状維持の方向となった。
当初は、減額の基準となる毎月の賃金と年金の合計を、現在の「47万円超」から「62万円超」に引き上げる考えだった。この場合、年金支給額は年約2200億円増えるが、年金財政は悪化し、将来世代の年金水準が0・2ポイント目減りする。「高所得者を優遇して将来世代に痛みを与える」と野党のみならず与党内からも批判を浴び、「51万円超」に修正した。
しかし、制度が高齢者の就労意欲を損ねているとの前提に立った見直しのはずが、「(減額が)意欲を減退させることはない」(中西宏明経団連会長)と経済界からも疑義が出るなど批判は収まらず、結局、現行基準を維持することになった。一連の経過を振り返れば、将来世代に影響を及ぼす改革を明確な根拠もなく進めようとした印象が拭えない。
少子高齢化が進行する日本の公的年金は、給付抑制と負担増という痛みをどう分かち合い、支え合うかが改革の基本である。今回の制度改正案は、中途半端で将来への課題を積み残したと言わざるを得ない。
年金改革は今後も続く。現役世代はもちろん、子や孫の世代の年金も守るという視点を忘れず、しっかり議論してもらいたい。
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2019/12/3 10:06
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社会保障改革/財源確保へ具体策議論を
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政府の「全世代型社会保障」実現に向けた制度改革の議論が本格化している。医療では、75歳以上の後期高齢者の窓口負担を2022年に現在の原則1割から2割に引き上げる方針を固めた。
高齢化の進行で介護費用も初めて年間10兆円を突破。団塊の世代が75歳以上になり始め、社会保障費が急増する22年を目前に控えており、財源の確保に向けた具体策の議論は待ったなしだ。
社会保障費は、年金、医療、介護、子育てといった社会保障制度の運営にかかる経費。社会保障制度を支える20~64歳の現役世代の人口は年々減少し、高齢化の進行や医療技術の進歩で社会保障費は膨らみ続けている。19年度の政府予算では、社会保障費の国庫負担分は34兆円に上り、一般会計の歳出総額の34%を占めている。
20年度は75歳以上の増加ペースが一時的に緩むものの、22年度以降、社会保障費の自然増は年8千億~9千億円に急増するとみられる。18年度に約121兆円だった社会保障給付費は、高齢者数がピークになる40年には190兆円程度まで膨らむ見通しだ。
75歳以上の医療費が伸び続ける一方、費用の4割を現役世代が払う保険料で賄っている。窓口負担の原則2割への引き上げは世代間の公平性を確保するのが狙いだ。
年齢に関係なく外来受診した際の窓口負担に一定額を上乗せする「ワンコイン負担」導入の是非も焦点だ。国民全体の外来受診は年間約21億回に上り、仮に1回500円を徴収すれば年間1兆円規模が財政にプラスとなる。
しかし、窓口負担が増えれば本来治療が必要な人が経済的な理由から受診を控え、症状悪化を招きかねない。日本医師会なども反対しており、ハードルは高い。
介護費用も増大が続いている。介護保険給付や自己負担を含む介護費用は、介護保険制度が始まった翌年の01年度は約4兆3782億円だったが、18年度は約2・3倍の約10兆1536億円に膨らんでいる。
介護費用を賄うのは、国や自治体の公費(税金)と介護保険料、利用者の自己負担だ。費用の増大をどう抑えるか、次回(21年度)の見直しに向け社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)部会が議論しており、その行方を注視したい。
持続可能な制度を維持するには歳出抑制が急務だ。政府は20年度予算で社会保障費の伸びを1300億円程度圧縮する方針。薬の公定価格である「薬価」の大幅な引き下げなどで調整するという。
政府は9月発足させた全世代型社会保障検討会議で医療、介護、年金などについて議論し、検討会議が今月中旬に中間報告をまとめる。政府は2割負担を中間報告に明記したい考えだが、議論が尽くされているとは全く言えない。
社会保障検討会議は、消費税の再増税などの議論はしないというが、財源確保の検討は避けて通れない。国民の将来不安に向き合い、長期的な社会保障の姿を描くため議論を深めてもらいたい。
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2019/12/2 8:06
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新国立競技場/五輪後も愛される聖地に
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来年の東京五輪・パラリンピックのメインスタジアムとなる新国立競技場が、開幕まで8カ月を残して完成した。
木と緑にあふれた「杜[もり]のスタジアム」をコンセプトに、大屋根と3層のひさしにはカラマツとスギの木材を使用。縦格子には47都道府県の木材を使った。コンコースや競技場周辺にも約4万7千本の植栽を施した。
神宮外苑の緑との調和を目指し高さも約47メートルに抑制。6万人を収容するスタンドは全階に車いす席を整えており、五輪では約500席、パラリンピックでは750席近くを用意する。
スポーツの祭典にふさわしい、周囲の景観にもなじむスタジアムとなったのではないか。
マラソン走者のゴールシーンはコース移転によって見られなくなったが、開、閉会式のほか、陸上とサッカーの会場として利用される。観客はもちろん、テレビで観戦する世界中の人々の記憶にも刻まれる感動的なシーンを提供してくれることだろう。
再建には紆余[うよ]曲折もあった。世界的な建築家ザハ・ハディド氏がデザインを手掛けた当初の計画は、一時約3千億円超との試算も出た巨額の総工費に批判が噴出し白紙撤回を余儀なくされた。政府主導で新計画を練り直し、整備費は設定されていた上限を下回る1569億円にとどまった。
ただ、気になるのは五輪閉幕後の活用方法だ。民営化を目指す方針は決まっているが、計画策定は大会後に先送りされ、将来像がはっきりしない。
当初の構想では、陸上のトラック部分を取り除き、全面を芝で覆ってサッカーやラグビーの試合で使っていく案が有力だった。陸上競技の大規模な大会は国際基準を満たす練習用トラックがないと開催できないため、球技専用の施設にした方が合理的だと考えられていたからだ。
しかし、国立競技場が東京体育館と結ばれたことで、体育館隣にある1周200メートルのトラックを活用しやすくなった。これを使えば、世界選手権は無理でも一定規模の国際陸上大会を招致できるとの見方も広がっている。
旧国立競技場の歴史を引き継いで、サッカーやラグビーの名勝負を生み出す特別な舞台とする案も十分に魅力的ではある。ただ、サッカーのワールドカップ(W杯)予選やラグビーの日本代表戦は、そうそう数多く開催されるものではない。
国立競技場は今後、年間24億円の維持費が必要となり、当然経済性も重視しなければならない。スタジアムの収益を上げるには、音楽ライブコンサートなどの開催が最も効果的とされる。そうしたイベントを催す際に使い勝手のよい機能も備えておくべきだろう。
東京五輪の熱気と感動を伝える国立競技場で自分もプレーしたい、応援に行ってみたいと願う人も増えるに違いない。国民から息長く愛される、開かれた「聖地」となることを期待したい。
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2019/12/1 10:06
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世界女子ハンド開幕/足を運んで盛り上げたい
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熊本を舞台に、出場24カ国が世界一の座を競う女子ハンドボール世界選手権が開幕した。
ハンドボール世界大会の県内開催は、1997年の男子選手権以来。日本ハンドボール協会をはじめ、県や熊本市などが男子選手権の開催実績などを基に国際ハンドボール連盟に働き掛け、2013年に開催が決定した。男女の世界選手権が同一都市で開かれるのはアジアでは初めてのことだ。
熊本は、高校や実業団チームが古くから日本リーグや国体、インターハイなどで活躍。「ハンドボール王国」として全国に知られてきた。女子世界選手権は、その名声をあらためて国内外に示す格好の舞台ともなろう。成功を祈ると同時に、大会がハンドボール人口の拡大、底上げにつながることを期待したい。
15日までの期間中、熊本市のパークドーム熊本をメイン会場に県内5会場で計96試合が行われる。出場国の選手、監督、コーチをはじめ、大会役員や応援団など多くの外国人が来熊する。選手らの輸送など大会運営を円滑に進め、事故やトラブルがないよう万全を期してもらいたい。
熊本の良さを世界にアピールする好機でもある。大会では、約2200人のボランティアが観客の誘導や通訳などとして運営をサポートし、高校生らが会場設営などで活動する。
事前合宿など大会前から県内各地で選手と県民が交流する機会があったが、期間中も1人でも多くの県民がおもてなしの心で選手らを迎えたい。熊本の良さを知ってもらい、再訪者を1人でも増やせれば大会開催に伴う経済効果も一層膨らむはずだ。
大会の成功には何より多くの県民が試合会場に足を運び、選手らに声援を送ることが欠かせまい。大会組織委員会では、県内の学校や企業、地域単位で特定チームを応援する態勢を整えた。チームの分け隔てなく多くの声援が飛び交えば、選手たちの励みになり、好試合につながろう。
大会は来年の東京五輪の前哨戦としても注目される。しかし、残念ながら開幕前は観戦チケットの売れ行きが鈍かった。ただ、22年前の男子選手権も当初は盛り上がりに欠けたものの、日を重ねるうちに入場者が増え、結局、歴代最高(当時)となる20万人超が会場に詰めかけた。
先に開かれたラグビー・ワールドカップ(W杯)同様、大会の盛り上がりには開催国・日本の活躍が大きな鍵を握る。日本代表「おりひめジャパン」の活躍が期待されるが、開幕戦となった昨日のアルゼンチン戦では見事勝利をつかみ取り、好スタートを切った。この調子でまずは1次リーグ突破に向け力を出し切ってほしい。
「おりひめ」には山鹿市に拠点を置くオムロンの永田しおり選手らもメンバー入りしている。主将として守備の要として期待される県関係選手の活躍に目を凝らしながら、世界トップのプレーを堪能し、声援を送り続けたい。
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2019/11/30 8:06
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匿名出産受け入れ/行政対応の遅れ否めない
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親が育てられない子どもを匿名でも預かる「こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)」を運営する慈恵病院(熊本市)が、身元を明かしたくない妊婦が来院しても匿名のまま受け入れ出産までのサポートを始める方針を表明した。
全国初となる「匿名出産」の事実上のスタートとなる。民間病院に頼り切りの行政対応の遅れを指摘せざるを得ない。
慈恵病院ではこれまで、身元を明かさないままでの診断、出産は受け入れてこなかった。しかし、ゆりかごには、妊娠出産を知られたくない女性が自宅などで孤立出産し、長距離を移動して来院。母子の命が危険にさらされるケースが後を絶たない。
一方、匿名で預けられたことで自らの出自が分からず、精神的苦痛を負ったまま生涯を送るケースも指摘され、基本的人権である「出自を知る権利」をどう担保するかも課題となってきた。
こうした状況を受け、ゆりかごの運用状況を検証する熊本市の専門部会は2017年9月、「事故がいつ起きても不思議ではない。結果的にゆりかごの存在が危険な孤立出産を招いている」と指摘し、「孤立出産の防止」と「出自を知る権利の担保」を課題に挙げた報告書を公表した。
報告書は、妊娠出産を他人に知られたくない女性が医療機関で匿名で出産でき、子どもが一定の年齢になれば母親の情報を知ることができる「内密出産」制度の導入の検討を国に促し、慈恵病院も導入を表明した。
慈恵病院では、親の情報を熊本市児童相談所が保管。妊娠相談から妊婦健診、出産まで匿名で通すことができ、子どもが18歳になれば出自証明書の閲覧を請求できるという独自案を作成。法的課題などをクリアするために市や熊本地方法務局との間で意見を交わしてきたが、制度化への結論には達しないまま。同病院が見切り発車に踏み切った格好だ。
慈恵病院は、匿名を望む妊婦には相談などを重ね、身元を明かしてもらった上で出産してもらう努力を続ける方針だが、妊婦の同意が得られない場合でも、匿名のまま出産させることもあるという。
ただ、子どもの出自を知る権利を担保する仕組みは見出せておらず、子どもの出生届を受け入れてもらえるのか、育ての親にどうつなぐのか、出産費用を誰が担うのかといった課題も残ったままだ。
厚生労働省は、内密出産を法制化したドイツなど海外の赤ちゃんポストや内密出産制度を調査研究する事業に着手。妊娠を知られたくない、危機的状況に置かれた女性の支援方法についての議論につなげる考えだが、法制化の見通しは立っていない。
母子の安全を守り、分からない出自に苦しむ子どもを減らす取り組みは、そもそも一民間病院だけでできるものではあるまい。慈恵病院の言う「匿名でなければ救えない命」を守るために、どのような支援ができるのか、市は国とともに具体策の提示を急ぐべきだ。
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2019/11/29 10:06
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温室効果ガス/国際協調再構築し対策を
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世界の温室効果ガス排出が現在のペースで続けば、今世紀末の気温が産業革命(18~19世紀)前と比べて最大3・9度上がり、「破壊的な影響」が生じる、との報告書を国連環境計画(UNEP)が公表した。国際社会が短期的利害を乗り越えて連携し、対策に乗り出すことが今、切実に求められている。
温暖化対策の国際枠組みで、来年に本格始動するパリ協定は、産業革命前からの気温上昇を1・5度に抑えることを努力目標に掲げている。報告書はこの目標を達成するためには、「現在、年に1・5%ほど増えている排出量を、年7・6%ずつ減らす必要がある」と指摘した。
しかし、現状ではパリ協定など多国間協調の枠組み自体が既に危機にさらされている。
今年9月に米国の国連本部で開かれた気候行動サミットでは、グテレス国連事務総長が「議論はもう十分にやってきた。今回は具体的な行動が必要だ」と危機感を強調。これを受けて、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする長期目標を77カ国の首脳らが表明した。
一方でこの77カ国に中国、米国、インドなどの主要な温室効果ガス排出国は含まれていない。中でも米国は今月、トランプ政権が予告通りパリ協定からの離脱を国連に通告。温暖化対策への熱意の二極化が、あらわになってきている。
日本も気候行動サミットでの目標表明には加わっていない。パリ協定に基づき20年に提出する当面の温室効果ガス削減目標についても、政府は現在と同じ「30年度に13年度比マイナス26%」に据え置く方針で最終調整に入ったと先日、報じられた。
テロ対策施設の不備などで運転停止を迫られる原発もあり、政府が掲げた「30年度の原発の発電比率は20~22%」との目標達成はほぼ不可能な状態。このため「温室効果ガス26%削減の実現さえ難しくなっている」(政府筋)という。
UNEPの報告書は削減の具体策として、再生可能エネルギーの拡大、省エネの強化、電気自動車の普及を挙げた。日本に対しては特に、二酸化炭素(CO2)排出が多い石炭火力発電所の新設をやめ、既存の施設は段階的に廃止する計画の策定を促した。企業などのCO2排出量に応じて課金する制度の強化も必要だとしている。
日本が国際社会の要請に応えるには、原発や石炭火力に依存する現在のエネルギー基本計画を抜本的に見直すしかない。
大型台風や豪雨など相次ぐ異常気象で、国民の間でも地球温暖化への危機感が強まり、社会や経済の在り方を転換する必要性への理解も進んできている。日本政府は早急に積極的対策を打ち出し、欧州連合(EU)などと手を携えて米国などへの働き掛けも強め、温室効果ガス削減に向けての国際協調を再構築する役割を果たすべきだ。残された時間はもうない。
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2019/11/28 10:06
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ウイグル弾圧/とうてい許されぬ人権侵害
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中国の新疆ウイグル自治区で、ウイグル族の人たちを監視する大規模なシステムが運用されていることや、監視に基づいて収容した人を「教育」する施設の内実が明らかになった。国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が入手した当局の内部文書によって判明したもので、少数民族への弾圧と人権侵害の実態を浮き彫りにしている。国際社会は弾圧を止めるための働き掛けを強めるべきだ。
監視システムは「一体化統合作戦プラットフォーム(IJOP)」と名付けられ、文書には運用の具体的記載があった。2017年6月の日報には、1週間という短期間で大量の「疑わしい人物」を特定し、うち約1万5千人を収容所へ送り、約700人を刑事手続きで拘束したと記載されていた。システムは個人の使った携帯アプリも捕捉でき、国外のウイグル族も情報収集対象としていた。
また「職業教育訓練センター」と呼ぶ施設では、入所者にウイグル語ではなく中国語を使わせ、心理的な「矯正教育」を実施。食事中や入浴中も厳しく管理し、脱走や騒動を防ぐこととされていた。
文書発覚後、ICIJの英紙ガーディアンの質問に、在英中国大使館は「全くのでっち上げだ」と反発。「新疆に『強制収容所』はない。職業教育訓練センターはテロ防止のため設立された」とし、テロ対策は「宗教グループの撲滅では全くない。信教の自由は完全に尊重される」と主張した。
中国のウイグル族は約1千万人で、大多数がイスラム教徒。漢族中心の中国政府に反感が強く、09年には自治区都のウルムチで大規模暴動が起きている。
中国政府は住民の監視・教育を「テロ対策のため」としてきたが、内部文書からうかがえる実態はそうとは思えない。恣意[しい]的に大量の住民を連行し、固有の言語や宗教・文化を禁じるのは「思想教育」であり、漢族に一体化させるための「民族同化」政策だろう。自治区に数十カ所あるとされるセンターは「強制収容所」と言われても仕方ない。
それを支える監視システムIJOPは、人工知能(AI)やビッグデータを駆使した先端技術で、街頭に張り巡らされた監視カメラや顔認証機能などで得られた大量の個人情報を統合しているという。特に中国の監視カメラ最大手「杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)」がその設備に寄与し、ソニーやシャープも同社に部品を供給しているという。
日本と欧州などの22カ国は7月、弾圧に懸念を示す書簡を国連人権理事会に提出。だが即座にロシアや北朝鮮など37カ国が「人権問題の政治利用」に反対するという書簡を出し、中国の反論を支援した。中国との経済関係を重視する国々は批判に及び腰とされる。
来春、習近平国家主席の来日が予定されているが、人権侵害はとうてい許される行為ではない。日本政府としても、改めて重大な関心を抱いていることを明確に伝え、歯止めをかけるべきだ。
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2019/11/27 12:06
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子ども権利条約30年/虐待や貧困考える機会に
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子どもの基本的人権を世界全体で保障することを定めた「子どもの権利条約」が、1989年に国連総会で採択されてから今月20日で30年がたった。 しかし、日本国内では児童虐待やいじめが後を絶たず、貧困にあえぐ子どもたちも増え続けている。条約の意義をあらためて考える機会にしたい。 子どもの権利条約は、18歳未満の子どもを保護や指導の対象ではなく、一人の人間としての権利を持つ主体と捉える国際的取り組みで、「生きる」「育つ」「守られる」「参加する」の四つの権利を規定する。 具体的には、(1)命が守られる(2)能力を十分に伸ばして成長できるよう支援を受けられる(3)暴力、虐待から守られる(4)自由に意見を発表できる-など、子どもが幸せな生活を送るために必要な権利が盛り込まれている。 94年に批准した日本を含め条約批准国の政府は、条約に定められたそうした子どもの権利を実現するため国内法の整備や施策に取り組むとしている。 しかし、現実はどうか。全国の児童相談所が2018年度に児童虐待の相談・通告を受けて対応した件数は15万9850件、統計開始から28年連続で増加した。熊本県内も前年度より284件多い過去最多の1532件に上った。 17年度に虐待を受けて亡くなった子どもも全国で65人に上るなど、権利条約採択から30年がたった今も子どもの権利保障どころか命まで失われているのが実態だ。 18年3月に東京都目黒区の船戸結愛[ゆあ]ちゃん(当時5歳)、今年1月には千葉県野田市の栗原心愛[みあ]さん(当時10歳)が虐待で亡くなる事件が発生した。政府はこれを受け、児童虐待防止法と児童福祉法を改正。来年4月に施行される。親による「しつけ」名目での体罰禁止などを明記したが、法改正は遅きに失したと言えよう。 親権者の「懲戒権」を認めた民法の規定についても、「体罰を生む温床になる」として条文削除を求める声が上がるが、「しつけができなくなる」との反対意見も根強くそのままになっている。子どもの権利条約の趣旨とは相容れず早急な見直しが求められる。 子どもの貧困問題も見逃せない。17年に熊本県が行った調査では、県内の貧困率は15・0%。子どもの実に7人に1人が貧困状態にあり、そのうちの6・2%が「医療機関を受診できなかった」と答えるなど、極めて厳しい生活環境に置かれている子どもがいる実態が浮き彫りとなった。 国連子どもの権利委員会は今年2月、日本政府に対し、子どもに対するあらゆる暴力の撲滅に向けた取り組みや、子どもの権利を包括的に定めた法律の制定、子どもの貧困の是正などを勧告した。法的拘束力はないものの、政府は勧告に従い対応を急ぐ必要がある。 子どもたちが希望を持ち、安心して生きていける社会の実現に向け、いま一度子どもの権利条約の精神に立ち返りたい。
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2019/11/26 10:05
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連合結成30年/労働者の権利守る自覚を
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日本労働組合総連合会(連合)が今月、結成から30年を迎えた。
労働者の働く環境の整備や生活改善など取り組むべき課題は多い。日本最大のナショナルセンターとして全ての労働者の権利を守る責務をこの機会に改めて自覚し、存在感を示してもらいたい。
連合は1989年、官公労組が中心の旧総評と民間労組が軸の旧同盟などが大同団結し、組合員数約800万人で発足した。1千万人への拡大を目標に掲げたが、2007年には665万人に減少。「30%台回復」を目指した労組組織率も、昨年ついに17%まで低下した。組合員数は今春、17年ぶりに700万人台まで戻したものの伸び悩みは明らかだ。
要因として、パートや有期雇用、派遣といった非正規労働者の増加が挙げられよう。非正規労働者は安く労働力を得たい経営者たちに受け入れられて拡大。その一方で、簡単に雇用を打ち切られる構造も生まれた。
08年のリーマン・ショック後には「派遣切り」で非正規労働者が大量解雇され、社会問題化した。しかし、非正規支援が正社員の労働条件悪化につながることを懸念した連合は対応が後手に回り、社会の批判を浴びた。
連合が国民の信頼を得るには、この時の反省に立ち、職場で苦しんでいる人に向き合い、そうした人たちを本気で組織に取り込んでいく姿勢が一層求められよう。
春闘でも存在感を示せているとは言い難い。不況でベースアップ要求を見送ることも多く、その一方でデフレ脱却を掲げる安倍政権が産業界に賃上げを求めて介入する「官製春闘」が続いた。
残業規制や同一労働同一賃金など政権が取り組む働き方改革も、労組が労使交渉を通じて経営側から勝ち取るのが本来の姿だろう。存在感を発揮できていない現状を謙虚に受け止めるべきだ。
政治的影響力も薄らいでいる。民主党政権が倒れた後、衣替えした民進党も分裂。7月の参院選では立憲民主党と国民民主党に、連合傘下の産別組織の支持が分かれた。脱原発か再稼働容認かで一枚岩になり切れない現状も透ける。政権奪還に向け傘下労組の大同団結と野党結集をどう図るか、神津里季生会長の手腕も問われよう。
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2019/11/25 10:05
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ローマ教皇演説/共有したい核廃絶の決意
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淡々とした口調ながら、語られた内容は力強く明確だった-。キリスト教カトリックの総本山バチカン市国(ローマ教皇庁)の元首で、ローマ・カトリック教会の頂点に立つ教皇(法王)フランシスコが24日、長崎と広島の両被爆地を訪れ、核兵器廃絶を訴えた。
「核兵器のない世界は可能であり必要である」とのメッセージは、祈り、願いの枠を超え、人類が果たすべき課題に、自ら立ち向かう決意を示したものだろう。この決意が、唯一の戦争被爆国である日本の地から世界に発信されたことを、われわれは重く受け止め、共有したい。
「武器製造はテロ」
長崎市の爆心地公園で行った演説で教皇は、核兵器や大量破壊兵器の保有は「平和と安定の望みへの答えではない」と核抑止論を批判。「ここは核兵器が人道上も環境上も悲劇的な結末をもたらすものであることを証明する場所だ」と述べた。
その上で、「核兵器使用がもたらす破滅的な破壊を考えなければならない」と警鐘を鳴らし、核廃絶などの取り組みに「あらゆる国の指導者が緊急に注力すべきだ」と訴えた。
武器製造や改良についても「とてつもないテロ行為」とし、現在の世界では「兵器使用を制限する国際的枠組みが崩壊する危険がある」と述べるなど、核と軍拡への危機感を鮮明に打ち出した。
教皇は2013年の就任以来、繰り返し核廃絶の必要性を訴えてきた。世界各地で戦争が続く現状に憂慮を示し、広島と長崎の被爆の歴史から「人類は何も学んでいない」と発言したほか、17年にバチカンで被爆者と面会した際には核兵器保有を歴代教皇として初めて明確に批判した。
教皇は青年時代、広島で被爆者救護に献身した神父の影響を受け、日本への赴任を希望していたという。核廃絶への強い思いは宗教者としての原点でもあろう。
後退する世界情勢
今回の被爆地訪問の背景には、その核廃絶が進むどころか、後退し続けている世界情勢がある。
2年前に国連で核兵器禁止条約が採択され、バチカン市国はいち早く批准したが、いまだ発効に必要な50カ国・地域の批准に達していない。その一方で、核保有国は小型核を開発するなど核戦力を強化。米国とロシアの間で結ばれていた中距離核戦力(INF)廃棄条約が今年8月に失効するなど、中国なども含めた大国間の軍拡競争は新たな段階に入った。
さらに、米朝首脳会談後も北朝鮮の非核化は進まず、イランと欧米など6カ国との核合意も米国の離脱によって崩れ、核拡散の危機も広がっている。
そうした中、日本政府は唯一の被爆国としての役割を果たしているとは言い難い。
核兵器禁止条約には「核の全面禁止は現実的でない」として不参加のまま。昨年2月、トランプ米政権が小型核導入を盛り込んだ新核戦略を公表すると、当時の河野太郎外相(現防衛相)は「高く評価する」との談話を発表。今月1日には日本が毎年提出している核兵器廃絶決議案が国連で採択されたが、核使用がもたらす結末について、昨年まで記載した「深い懸念」を「認識する」と弱め、主張が後退したとの批判を浴びた。
真価問われる日本
25日には教皇と安倍晋三首相との会談も予定されている。教皇は長崎の演説で、平和実現のため核兵器禁止条約にのっとり「飽くことなく迅速に行動していく」とも述べた。これは、同条約に参加していない日本にも行動を促す発言とみられる。世界が注目する中で、安倍首相は唯一の被爆国の首脳としての立場を踏まえた対応ができるのか。核廃絶の旗を掲げ続けてきた日本の真価が問われる。
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2019/11/24 10:05
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GSOMIA維持/不信を解く好機としたい
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韓国は22日、日本に破棄を通告していた軍事情報包括保護協定(GSOMIA=ジーソミア)を当分維持することを決めた。両国は貿易管理に関する協議を再開することで合意。韓国は世界貿易機関(WTO)の紛争解決手続きの中断も決めた。協定失効が土壇場で回避されたことで、冷え切っていた日韓関係は対話局面へ転換しそうだ。 ただ、協定延長を日本の輸出規制の見直しにつなげたい韓国と、協定と輸出規制は別問題だとする日本との間には、なお考え方に開きがある。対立の根本にある元徴用工訴訟問題にも、歩み寄りの気配はうかがえない。日本としては、韓国の出方を見極めた上で関係改善の道を探るべきだ。 GSOMIAは、軍事上の機密情報を提供し合う際に第三国への漏えいを防ぐための協定で、2016年11月23日に発効した。1年ごとに自動更新されてきたが、今年8月、日本が輸出管理での優遇対象国から韓国を除外する政令改正を閣議決定したことに韓国が反発。対抗措置として、文在寅[ムンジェイン]政権は同月、協定の破棄を決めた。 だが、協定が失効すれば、北朝鮮の核・ミサイル開発に対する日米韓の軍事協力が機能不全に陥る恐れもあった。中国やロシアなど周辺国にも、誤ったメッセージを送ることになりかねなかった。米国が韓国に破棄の撤回を求め、圧力を強めたのはこのためだ。 韓国が協定維持に踏み切ったのも、米国の強い要求にあらがえなかった側面が大きい。ただ、韓国内では協定破棄の方針を支持する声も強かった。方針転換を「日米の圧力に屈した」として、国民が反発や批判を強める恐れもあろう。日本側の世論も、それを「反日」と受け止める悪循環が生じる可能性がある。双方の政府に、感情的対立をこれ以上、エスカレートさせない理性的姿勢が求められている。 両国政府は12月下旬に首脳会談を行う方向で調整に入った。局面の変化を事態打開の好機と捉え、「最悪」と言われる日韓関係の修復に向けて建設的な対話を重ねてもらいたい。まずは、これまで「原因は相手国にある」として相互不信を募らせてきた安倍晋三首相と文大統領が冷静さを取り戻し、わだかまりを解く必要がある。
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2019/11/23 8:06
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桜を見る会答弁/具体的証拠示して説明を
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安倍晋三首相主催の「桜を見る会」について、首相は参院本会議で参加者の人選過程に関与していたことを事実上認めた。これまで関与を否定していた答弁を転換。自身の議員事務所に推薦意見を述べていたことを明らかにした。
「これまでの答弁は虚偽答弁だ」とする野党の追及に対し、「最終的な取りまとめなどには一切関与していない」と突っぱねているが、詭弁[きべん]という批判は免れまい。同会を巡っては多くの疑惑が表面化し、道義面のみならず公選法違反などの疑いも指摘される中、首相の答弁は説明責任を果たしたとは言い難い。
桜を見る会の前日に東京都内の一流ホテルで開催された首相後援会の「前夜祭」の費用負担についても、首相の説明の信ぴょう性が問われている。
5千円の会費が安すぎるのではないかという指摘に対し、首相は「参加者の大多数が宿泊者という事情などを総合的に勘案してホテル側が設定した」としていた。しかしその後、2015年に首相事務所名で配られた文書の記載によって、前夜祭の会場と宿泊先のホテルが異なるケースがあったことが分かっている。
一方、菅義偉官房長官は衆院内閣委員会で、桜を見る会招待者の推薦枠が首相約千人、自民党6千人だったと説明した。自民党は、7月の参院選で改選を迎えた党所属の参院議員に、「招待枠がある」との案内状を送っていたことも判明している。国の経費によって酒食を振る舞う行事が、実質的に首相官邸や自民党による大がかりな「選挙運動」となっていたと批判されても仕方あるまい。
昭恵夫人による招待推薦があったとされていることも看過できない。森友学園の問題で夫人の関与が取り沙汰された際、政府は夫人について「公人ではなく私人」との答弁書を閣議決定している。私人であるはずの夫人が招待に関与するのは明らかな公私混同で、各界の功労者を招待するという本来の趣旨とは程遠い。
さらに気になるのが、内閣府が「会の終了後、遅滞なく速やかに廃棄している」と説明していた今年の招待者名簿について、会開催から1カ月近く後、共産党議員からの資料要求があった5月9日にシュレッダーにかけて廃棄したとしている点だ。
「シュレッダーの利用が重なり、なかなか使えなかった」という内閣府の釈明に説得力があるだろうか。政府にとって都合が悪い公文書の廃棄は森友学園と財務省の交渉記録や自衛隊南スーダン派遣の日報でも起きている。同様に隠蔽[いんぺい]が疑われる事態だ。
桜を見る会の一連の問題から浮かぶのは、森友、加計両学園問題にも通じる「お友達優遇」のルーズな感覚だろう。行政のトップに立つ者ならば、公私を明確に区別した節度ある振る舞いを常に意識しておかなければならない。具体的証拠を示して説明しない限り、国民からの納得は到底得られないことを、首相は認識すべきだ。
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2019/11/22 8:06
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「バス無料化」効果/継続的利用につなげたい
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公共交通機関の意義と必要性を改めて実感する。
熊本市中央区桜町の大型商業施設「サクラマチ クマモト」が開業した9月14日に、全国初の取り組みとして県内全域であった「県内バス・電車無料の日」の分析結果がまとまった。
利用者数は約24万8千人で1週間前の2・5倍、バスは2・9倍の約17万9千人に達した。利用者減少に伴う採算性の悪化や、運転手不足による人件費の高騰など公共交通機関を取り巻く環境が厳しさを増す中、将来を展望させる結果と言えよう。今回の取り組みを継続的な利用につなげたい。
人口の減少に伴い全国ほとんどの地方バスや鉄道は利用者が低迷し、厳しい経営状況にある。県内も同様だ。2017年度のバス利用者は、2957万人とピーク時の4分の1の水準まで減少。マイカー依存や乗り継ぎの不便さも利用低迷の原因とみられる。
「無料の日」は、公共交通機関利用のきっかけをつくろうと、九州産業交通ホールディングス(HD、熊本市)が発案し、県内5社の路線バスや熊本市電、熊本電鉄の電車を始発便から最終便まで無料化した。
九産交HDやヤフー(東京)、熊本大、熊本市などでつくる組織が、当日の利用状況について調査・分析した結果、普段公共交通機関を使わない人が全体の約36%を占めた。その約9割が「無料」を利用理由に挙げたように、ただで乗れたことが最大の動機付けとなったことは疑いあるまい。ただ利用者は久々にバスや電車の良さを実感し、事業者は利用促進につながるヒントを得たのではないか。
九産交HDの矢田素史社長は「100円均一ならどうか。テクノロジーを使ってコストをかけない方法を模索する出発点になったのではないか」とする。次につなげる取り組みとして注目したい。
一方、当日の経済効果については、サクラマチ開業日に訪れた約800人への聞き取りなどを基に、市中心部への波及額を約11億4千万円と推計した。そのうち、無料化されたバスや市電、電車を利用したと答えた人の割合(69%)などから、無料化に伴う効果分を約5億円とはじいた。
阿蘇や天草、山鹿、玉名などの温泉地に滞在した人も前の週よりそれぞれ2倍以上に増えた。こうした観光地への波及効果も含めれば、経済効果はさらに膨らむのではないか。定時性が確保された公共交通機関は観光振興の面でも有効だ。運行密度が上がれば、さらなる相乗効果も期待できよう。
無料化によって市中心部の交通渋滞も緩和されたという。熊本都市圏の課題の一つである道路渋滞の緩和に、公共交通機関の果たす役割の大きさも改めて立証できた。お年寄りら交通弱者の「生活の足」となる公共交通機関の確保はますます大きな課題となっている。バスや電車、市電の維持と利用促進に官民が連携して知恵を絞りたい。
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2019/11/21 10:05
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史上最長首相/今こそ政権運営の検証を
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安倍晋三首相の通算在職日数が憲政史上最長となった。第1次内閣は約1年の短命に終わったが、政権を奪還した2012年衆院選からは国政選挙に6連勝。圧倒的な議席数を後ろ盾に1強多弱体制を築いている。
首相は20日、これまでの道のりを「国民に強く背中を押してもらい、約束した政策を実現するために努力してきた」と総括した。しかし、長期政権が続く最大の理由は、政策が評価されたというより、むしろ首相を脅かす存在がいなかったことにあろう。
野党は旧民主党政権の失態のイメージを払拭[ふっしょく]できないまま乱立状態から抜け出せず、国政選挙で敗北を重ねている。自民党内にもライバルは見当たらず、首相をいさめるブレーキ役も不在だ。
アベノミクスの大規模な金融緩和により、株価をはじめとする経済指標は確かに好転した。だが、恩恵が中小企業や地方など広く国民に行き届いたとは言い難い。
人口減少や少子高齢化といった国民的な課題についても、どのように解決するのか道筋は見えないまま。全世代型社会保障制度の論議も緒に就いたばかりだ。
「地球儀を俯瞰[ふかん]する外交」も順風満帆とは言い難い。トランプ米大統領との関係を基に表向き強固な同盟を築いてきたが、ロシアとの北方領土交渉は停滞。日韓関係は最悪の事態となっている。対北朝鮮外交も、日本人拉致問題などに進展の気配はうかがえない。
長期政権下で失われたものも少なくない。何より気がかりなのは政治から緊張感が消えたことだ。異論に真正面から向き合おうとしない首相の政治姿勢もあり、行政監視機能を持つ国会は機能不全に陥っている。象徴的なのが、安全保障法制、特定秘密保護法、いわゆる「共謀罪」法などへの対応だろう。国論を二分するテーマなのに、政府は疑問点に真摯[しんし]に答えず、数の力で強行突破した。
さらに、官僚の人事権も首相官邸主導となった結果、霞が関にも政権の意向を必要以上にくむ忖度[そんたく]の空気がはびこってしまった。
モラルの低下も深刻だ。森友学園問題では、財務省で決裁文書の改ざん・破棄が発覚したにもかかわらず、麻生太郎副総理兼財務相は今も職にとどまっている。首相の「腹心の友」が経営する大学が獣医学部新設にこぎ着けた加計学園問題も、納得できる説明はされていない。
そして最近は、閣僚の相次ぐ辞任、大学入試改革を巡る混乱、首相が主催する「桜を見る会」への私物化批判など、政権の緩みを象徴するかのような事態も次々と露呈している。
首相は節目の時を迎えた今こそ、これまでの政権運営を自ら検証すべきだ。政策に関しては国民の要望を見極めた上で優先順位をつけ、幅広い合意の形成に努める。政府の隠蔽[いんぺい]体質も一掃し、国会論戦からも逃げずに説明責任を全うする-。長期政権こそ、そうした自省と自制が強く求められることを認識してもらいたい。
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2019/11/20 10:06
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客引き禁止条例/「安全安心」を発信したい
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熊本市の中心市街地の環境浄化が進んでいる。4月に施行された市条例や県警の取り締まりにより、客引き行為や飲食店での料金トラブル(ぼったくり)の被害が大幅に減少。これから本格的な忘年会シーズンを迎え、月末には女子ハンドボール世界選手権も開幕する。「安全安心」な熊本の街を楽しみ、世界に発信したい。
県警によると、今年1~10月の客引きの通報件数は465件で、前年同期の989件から半減、料金トラブルは19件と前年同期の199件から9割も減った。一方、条例違反容疑などによる摘発は、前年同期と同水準の17人(うち逮捕者15人)に上る。
熊本市の繁華街では1年ほど前まで、客引きがずらりと並び、アーケードを歩くのにも苦労するほどだった。刺激的な格好をしたホステスの写真や派手な電飾を掲げて風俗店を紹介する案内所も目立ち、市民や観光客からも批判や苦情が寄せられていた。
市は4月に新条例を施行。県条例と合わせて並木坂、上通、下通、銀座通りなど約65ヘクタールの範囲で、風俗店だけでなく、ガールズバーや居酒屋、カラオケ店など全業種の客引き行為と、客引き目的で路上に待機する客待ち行為を禁じた。また、計26カ所にも及んでいた風俗案内所のパネル掲示などを規制した。
居酒屋などを含む全ての業種で客引きを禁じる新条例には当初、慎重意見もあったという。「街全体が寂れてしまうのではないか」と危惧する声は地元商店街や県警内にも少なくなかった。だが、それでも規制に踏み切ったのは、こうした客引きに、熊本地震からの復興景気に目をつけた暴力団などの関与も疑われていたからだ。
県警によると、料金トラブルになった飲食店に入店したきっかけは、大半が客引きだった。法外な料金を要求する「ぼったくり店」には、暴力団や「半グレ」と呼ばれる不良集団が関与しているケースが多く、昨年3月には、料金トラブルに起因する凶悪な傷害致死事件も起きた。
県警は新条例の施行に合わせて繁華街特別対策室を設置。毎晩、警察官が巡回し、地元商店街も協力して目を光らせてきた。こうした連携の結果、女性や子どもたちも安心して歩ける安全な街づくりにつながり、かつての明るいにぎわいを取り戻しつつある。
先月から今月にかけて開催されたラグビーワールドカップ(W杯)でも大勢の市民や、外国人観光客が街に繰り出したが、客引きや料金が絡む目立ったトラブルはなかった。対策が浸透してきた証左といえよう。
ただ、客引きなどの行為はこれまでも姿を消しては、繰り返し現れてきたのが現状だ。油断せず、監視を続ける以外に浄化の「特効薬」はあるまい。県警は年末年始に向け、中心市街地の交番員を増員するなど態勢を強化する方針だ。警察と市、県、地元が連携を続け、誰もが安心して楽しめる熊本の街を実現したい。
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2019/11/19 10:06
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パワハラ指針案/労働者を守る視点が必要
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職場でのパワーハラスメント(パワハラ)防止が企業に義務付けられるのを前に、厚生労働省はパワハラに該当する行為の具体例などを盛り込んだ指針の素案を公表した。
経営者側は大筋で賛同したが、労働者側からは修正を求める声が出ている。パワハラに当たらない事例も列挙したためで、「使用者に言い訳を許し、パワハラを助長しかねない」との主張は納得がいく。弱い立場の労働者を守るという観点から再検討を求めたい。
パワハラ防止は、5月に成立した女性活躍・ハラスメント規制法に基づき、大企業が2020年6月から、中小企業は22年4月から義務化される。
指針案は、パワハラを「身体的な攻撃」「精神的な攻撃」をはじめ、隔離や無視など「人間関係からの切り離し」、不要なことや遂行不可能なことを強制する「過大な要求」、程度の低い仕事を命じる「過小な要求」、私的なことに過度に立ち入る「個の侵害」-の6類型に分類。該当する行為と該当しない行為を示した。
例えば、物を投げつけることは身体的な攻撃だが、誤って物をぶつけてけがをさせることは該当しない。労働者を別室に長期間隔離するのは人間関係からの切り離しだが、処分を受けた労働者を個室で研修させても問題ないとした。
精神的な攻撃に当たらない事例には、遅刻や服装の乱れなど社会的ルールやマナーを欠いた言動を再三注意しても改善しない労働者に強く注意することを挙げた。
こうした例示に対し、日本労働弁護団は「使用者の弁解カタログ」になっていると批判する。「社会的ルールやマナー」の範囲や「強く注意」の程度が不明確で、都合よく解釈される危険性があると指摘。裁判では、問題行動のある労働者に対する叱責[しっせき]も内容によってパワハラと認定されているが、労働者に問題があれば厳しく叱責してもいいとの誤解を与えかねないとしている。
また、同法成立時の付帯決議は、パワハラを判断する際に「労働者の主観」にも配慮するよう求めているが、指針案は「労働者の多くがパワハラと感じる言動かどうかを基準とすることが適当」とした。「これでは個々の労働者の主観排除につながる」との指摘もうなずけるものだ。
全国の労働局に寄せられたパワハラを含む「いじめ・嫌がらせ」の相談は18年度に8万件を超え、熊本労働局でも前年度の1・8倍の1258件に急増した。自身の労働環境に疑問を持つ人が増えたことの表れでもあろう。
どこまでが適切な指導で、どこからがパワハラなのか、線引きは簡単ではない。ただ、パワハラは働く人の人格や尊厳を傷つける。心身の不調を招き、休職や退職、自殺に至ることもある。
指針は、労働者を救済するものであるべきだ。厚労省は年内の策定を目指すという。パワハラの範囲を安易に狭めることのないよう、議論を尽くしてもらいたい。
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2019/11/18 8:05
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特定技能制度//待遇や人権尊重がカギに
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4月に外国人労働者受け入れのための新たな在留資格「特定技能」の制度がスタートし、7カ月余りが過ぎた。出入国在留管理庁の発表によると、今月8日時点で新資格を得た外国人は895人。国籍はベトナム、インドネシア、フィリピン、タイなど。本年度に最大4万7550人とした政府の見込みからすると、かなりのスローペースにとどまっている。
特定技能は介護、建設、外食、宿泊、ビルクリーニング、農業など14業種に限って、外国人の就労を認める在留資格だ。技能移転を建前とした「技能実習」や留学生アルバイトと異なり、初めて本格的に単純労働に門戸を開いた。
資格を得るには、日本語と技能の試験に合格し、就職先と雇用契約を結ぶ必要がある。3年間の技能実習を終えた人は、試験が免除される。通算5年まで働くことができ、技能実習とは違って同業種ならば転職も認められる。このため賃金の高い大都市へ就労者が集中していくのでは、という懸念も出されている。
大慌てのスタート
国内の経済活動の中核を担う生産年齢人口(15~64歳)は2017年10月時点で7596万人と、1995年のピークに比べ約13%も減少した。少子化が進み、日本経済は外国人労働者なしでは立ちゆかなくなっている。
導入から7カ月を過ぎても特定技能の受け入れが軌道に乗らない理由の一つに、資格取得のための試験が国内外でうまく実施できていないことがある。14業種のうち実施されたのは、介護、宿泊、外食など6業種だけ。日本と送り出し各国の2国間で、労働者保護などの細かな手続きや制度の擦り合わせが完全にできておらず、国によっては試験実施や雇用契約がまだ結べないという事情がある。昨年末の法改正から3カ月余りでの制度始動を急いだ日本に対し、各国の対応が追い付いていない。拙速にならないように、それぞれの国の事情や要望を踏まえてきちんと態勢を整えるべきだ。
将来の「試金石」に
日本だけでなく、中国、韓国などを含むアジア各国は、すでに労働力の獲得競争に入ったと言われている。特定技能制度はその中で、今後の日本が外国人労働者を引きつけていくことができるかの試金石になるはずだ。
国内にはすでに36万7700人(今年6月現在)の技能実習生がいるが、待遇や労働条件をめぐってさまざまなトラブルが指摘されてきた。実習者の多くが低賃金で働き、長時間労働や賃金不払いが問題化。中には肉親の死去時に一時帰国を望んでも雇用主に認められなかったというケースもある。外国人を単に「安価な労働力」とみなす意識があるとすれば、認識を改めなければならない。日本はもはや外国人に「来てもらっている」という局面に入っている。
特定技能制度では省令で、外国人労働者の賃金を「日本人と同等以上にする」と定めた。本人らが一時帰国を望む際にも「休暇を取らせる」とし、最終的に帰国費用がない場合は雇用主が負担することとした。外国人労働者の招致には、これら労働条件や待遇がカギになる。安全で快適な労働環境を確保し、人権を尊重していくためにも、雇用主は基準をしっかり順守してもらいたい。当局も指導を徹底してほしい。
共生社会に向けて
政府は今後5年間で最大34万5150人の特定技能受け入れを見込んでいる。海外の例から、外国人労働者の本格的な移入は、将来的に定住化につながるという指摘もある。ゆくゆくは日本人の雇用や賃金水準にも影響するだろう。諸外国を先例として、移民労働者との間であつれきが生じないよう長期的な目配りが必要だ。共生に向けた覚悟も問われる。
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2019/11/17 10:05
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政府経済対策/実効性、厳しく見極めたい
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政府は約3年ぶりとなる経済対策を来月上旬をめどに策定する。2019年度補正予算案と20年度当初予算案それぞれに関連経費を盛り込み、「15カ月予算」として機動的に執行する方針という。 安倍晋三首相は経済対策の柱に(1)災害からの復旧・復興加速(2)経済の下振れリスクへの支援(3)未来投資と経済力の維持・向上-を掲げた。海外発の経済リスクや東京五輪後の景気下支えも見据えた「予防的措置」と位置付け、積極的な財政出動に踏み切る構えだ。 台風19号など相次ぐ災害に見舞われた被災地の復旧は当然、急がなければならない。景気が大きく落ち込まないよう早めに手を打っていく必要もあろう。しかし、国の財政が危機的状況にあることを忘れるわけにはいかない。対策の策定にあたっては、いたずらに事業費を膨らませるのではなく、緊急性や実効性を十分に見極めることが不可欠となる。 経済対策の一つとして政府は、20年度までの3年間で実施中の国土強靱[きょうじん]化策を拡充する考えを示した。河川の堤防やダム機能強化などの防災・減災対策を指し、これまでに総額7兆円の事業予算が組まれている。自然災害への備えは重要だが、事業規模を拡大するだけが強化ではあるまい。 会計検査院が公表した18年度の検査報告では、国の補助で整備した河川管理施設や下水道施設の6割で、水門などを動かす電気設備の耐震調査が実施されていないと指摘された。こうした既存の施設・設備に目を配り、活用方法を含め運用を見直すことも、有効な防災・減災対策と言えよう。 消費税増税対策で始まったキャッシュレス決済へのポイント還元制度は、来年度予算で費用が上積みされる方向だ。景気下支え策として、農業を中心とする国内産業への支援や外国人観光客誘致の喚起なども浮上している。各施策の内容を精査し、予算ばらまきにならないよう留意する必要がある。 内閣府が発表した7~9月期の国内総生産(GDP)速報値は前期比0・1%増と、4四半期連続でプラスとなったが、先行きは消費税増税の影響など懸念材料が多い。米中の貿易戦争や英国の欧州連合(EU)離脱問題など世界経済の行方も不透明だ。内外の経済動向に対応した適切な施策が必要な局面にあることは否めない。 だからといって、財政規律が忘れられたかのように予算を膨張させるわけにはいかない。すでに19年度の当初予算は100兆円を超えた。20年度の概算要求総額も105兆円に迫る。国と地方の長期債務残高は19年度末に1122兆円まで積み上がる見込みで、基礎的財政収支を黒字化する財政健全化目標は20年度から25年度に先送りされた。借金頼みを強める状況にないことは言うまでもない。 安倍政権には景気に目配りしながら、経済成長と財政健全化のバランスに配慮した経済運営が求められる。歳出圧力に流されず必要な事業を絞り込むことで、財政規律を重んじる姿勢を示すべきだ。
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2019/11/16 10:05
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GAFA規制/寡占化防ぐ手だて必要だ
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「プラットフォーマー」と呼ばれる巨大IT企業の規制強化に、政府が本格的に乗りだした。 プラットフォーマーとは、検索や通販、SNS、スマホの基本ソフト(OS)など、ネットサービスの基盤を提供する企業。グーグルやアップル、フェイスブック、アマゾン・コムの4社が代表格で、その頭文字を取って「GAFA」と呼ばれる。 これらの巨大IT企業は、無料、有料を問わず、提供するサービスを通じて生活のさまざまな側面で利用者と接し、大量の顧客データを独占的に蓄積。これを力の源泉に、電子商取引や広告市場などで絶大な影響力を振るっている。 しかし、その実態は不透明だ。圧倒的な市場の占有率から、弱い立場に置かれた取引先の中小企業が、一方的な契約変更などを迫られるケースも少なくない。そうした商行為を是正し、寡占化を防ぎ、業務内容を透明化して、ITサービスの利用者を守る手だてを早急に講じなければならない。 政府は12日の未来投資会議で、規制強化の中核となる新法「デジタル・プラットフォーマー取引透明化法」の骨格を固めた。 優越的地位の乱用を防ぐため、取引条件の開示や保有するデータへのアクセス確保を求め、定期的な監視で透明性を高めることを柱に据えた。大規模な通販サイトやアプリ配信サービスを手掛ける企業に対し、サイト内の商品表示順を決める基準などの情報開示も義務付けて契約の透明性を高め、出店事業者を守るとしている。 個人情報保護法を改正し、利用者が個人データの消去や利用停止を請求できる「使わせない権利」を保障する内容を盛り込むほか、独占禁止法にも手を入れ、データの不当な取り扱いを防ぐ。 一方、政府は関係する行政機関の長を集めたデジタル市場競争会議で、GAFA4社から新法案への見解や主張を聴取した。政府が年内に一定の結論を得ることを目標に協力を要請したのに対し、GAFA側からは規制に伴う負担増などを懸念する声や異論も出たという。政府はGAFAからの意見聴取も踏まえ、二つの法案を来年の通常国会に提出。運用強化を打ち出した独占禁止法と相互補完させる考えだ。 政府が規制の枠組みづくりを急ぐのは、GAFAをはじめとする海外企業が個人情報やデータを一手に集め、日本市場のルール決定権を握ってしまう「属国化」が現実味を帯びてきたためだ。 欧州連合(EU)は先んじて取り組み、これまで慎重だった米国も市場独占の疑いでグーグルの広告事業を調査しており、日本も足並みをそろえる形になった。 課題となるのは日本政府の調査能力や強制力の弱さだろう。巨大IT企業は強力な法務部門や多数の研究者を擁し、理論武装し柔軟に事業モデルを変えることを得意とする。日本にはEUのような懲罰的な巨額の罰金制度もない。税逃れ対策も含め、国際的なルールづくりを急ぐ必要がある。
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2019/11/15 10:05
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桜を見る会/私物化の疑いは晴れない
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政府が来年の「桜を見る会」を中止すると発表した。安倍晋三首相が「政治利用している」との追及を受けてのことだ。早々に中止に踏み切ることで、野党などからの批判をかわそうとの狙いだが、公的行事を私物化しているとの疑いは晴れていない。
野党が問題としたのは、公的な会に首相の地元の後援会員らが多数招かれていたためだ。先の参院予算委員会で共産党議員は、山口県の県議のブログに「ホテルから貸し切りバスで会場に移動した」などとあるのを指摘。「下関から毎年数百人が上京する」という証言も取りあげ、首相の事務所が招待を取りまとめていると追及した。後援会員向けの安倍晋三事務所名の案内文なども報道で明らかになり、事務所が招待の人選に関与している実態が浮かんだ。
1952年に始まった桜を見る会は、各界で功績・功労のあった人を慰労するための催しとされている。首相主催の公的行事で、費用は税金から支出。芸能人らも多数出席し、招待者に無料で酒や食事が振る舞われる。人選について菅義偉官房長官は「各省庁からの意見を踏まえて、幅広く招待している」と説明している。
だが実態はそれだけではないようだ。内閣官房は首相や官房長官らのほか、与党にも推薦を依頼。自民党の石破茂元幹事長は在任中に「招待枠」の割り当てがあったと明かした。そうなると税金を使った政治家の有権者サービスの面が強くなってくる。
選挙の投票に絡んで、政治家が自前で有権者を接待すれば、公選法違反の買収に問われるだろう。投票にかかわらず、選挙区内での利益供与は寄付行為に触れる可能性もある。ところが同じような行為が公金なら思うままに許されるとなれば、時の権力者に格段に有利になる。
安倍政権下では会の参加者数が年々肥大化している。第2次政権発足後2回目の2014年には約1万3700人だったのに対し、19年は約1万8200人。費用も約3千万円から約5500万円に急増した。
野党が国会などで招待者名簿の公開を求めたのに対し、内閣府は「終了後に遅滞なく廃棄している」と説明。首相の事務所が招待に関与しているかについては「個人に関する情報なので差し控える」として答えなかった。天皇、皇后両陛下主催の園遊会の招待者が公表されていることと比べ、きわめて不透明だ。
人選の不透明さは、規模の肥大化と表裏一体のように思える。問題が指摘されて以降、菅官房長官は早々と招待基準の見直し検討を表明。来年の会を中止したのも、政権として「自制」のポーズを見せざるを得なかったからだろう。長期政権下で内閣は公金の支出にルーズになっていないか。
公的行事が閣僚や議員の選挙対策と化してしまえば、公私混同と言われても仕方がない。与野党を問わず、政治とカネの問題に襟を正す機会にしてもらいたい。
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2019/11/14 10:05
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大嘗祭/議論先送りすべきでない
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皇位継承の重要祭祀[さいし]「大嘗祭[だいじょうさい]」の中心儀式「大嘗宮[だいじょうきゅう]の儀」が今夕からあす未明にかけて、皇居で催される。
毎年秋の「新嘗祭[にいなめさい]」を、代替わりに合わせて大規模に執り行うものだ。東御苑に臨時で建てられた悠紀[ゆき]殿、主基[すき]殿と呼ばれる二つの社殿に天皇陛下が入り、今年収穫されたコメなどを神々に供えた後、自らも食べ、五穀豊穣[ほうじょう]や国の安寧を祈る。皇后さまも皇族と大嘗宮内で拝礼される。
天皇と神が一体化するとの説もある宗教色の強い儀式だが、政府は前回と同様、「公的な皇室行事」と位置付けて国庫支出を決めた。大嘗宮の敷地は前回より2割強縮小。参列者用の幄舎[あくしゃ]を小さくしたり、悠紀殿と主基殿の工法や素材を見直したりして経費節減を図ったが、それでも関連費用は27億円に及ぶ。
政教分離を定めた憲法に反するとの批判はくすぶったままで、国庫支出の是非を巡る裁判が続いている。古来の伝統を今の時代にどう調和させ受け継いでいくのか。政府は丁寧に議論を積み上げ、結論を速やかに見いだすべきだ。
新憲法下で初の代替わりとなった平成の大嘗祭は、皇室典範に具体的な規定がなく、戦前の皇室の法令「登極令[とうきょくれい]」にほぼ従って実施された。市民団体などは「天皇の神格化につながる」として、違憲確認を求め提訴。1995年の大阪高裁判決は、原告の訴えを退けたものの、大嘗祭の宗教性を認め「政教分離規定に違反するとの疑義は否定できない」とした。
だが今回、政府は儀式の在り方を検討する会合を3回開いただけで前例踏襲を決定。宗教関係者らが昨年12月、違憲性を問う訴訟を東京地裁に起こし係争中だ。
疑問の声は皇室内部にもある。皇嗣[こうし]の秋篠宮さまも昨年11月の記者会見で、大嘗祭について「宗教色が強く、国費で賄うべきではない」と指摘。皇室の公的活動費「宮廷費」ではなく、私的経費「内廷費」で費用を賄い「身の丈に合った儀式」にするべきだとの思いを明かされた。
政府にすれば、前例踏襲が最も無難だろう。何かを変えれば説明が必要になり、反発を招く恐れもあるからだ。しかし、象徴天皇制が国民の理解と支持の上に成り立つことを考えれば、提起された疑問や批判と誠実に向き合い、時代にふさわしい儀式の在り方を検討すべきだろう。
政府は今後、安定的な皇位継承を確保するための諸課題や、女性宮家の創設などの検討にも着手する見通しだ。ただ、政府内には、議論が紛糾して収拾がつかなくなる事態を避けるため、来春以降への議論先送りや有識者会議を設けない案が浮上している。
皇位継承に伴う一連の儀式によって国民の理解と関心が高まっている今こそ、皇室を巡るさまざまな課題を解消する好機ではないか。議論を先送りするべきではない。政権の思惑や政治日程に左右されることなく、粛々と検討を重ねてもらいたい。
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2019/11/13 10:05
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重度障害者の初質問/バリアー解消の第一歩に
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重い障害で車いすと介助者が必要な、れいわ新選組の木村英子、舩後靖彦両参院議員が、開会中の臨時国会で、7月の参院選初当選後初の質問に臨んだ。
車いすの国会議員の前例はあるが、2人のように車いすと介助者を要する重度障害者が国民の代表として国会に進出し、議員活動を本格化させたのは画期的だ。
障害があっても質疑ができるよう、電子機器を通じた音声での発言や代読などを認めた参院の対応は「合理的配慮」といわれ、広く社会に求められていることだ。
障害者差別解消法が国や自治体などに義務づけているが、2人は「地域で当たり前に生活するには、バリアーがたくさんある」と指摘した。その声をしっかり受け止め、社会全体でさまざまなバリアーの解消を急がねばならない。
難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)で言葉を発することが難しい舩後氏は、文教科学委員会の冒頭、パソコンの意思伝達装置による音声で「皆さまの力を借りながら精いっぱい取り組む」と述べ、その後は秘書の代読で質問。脳性まひで体がほとんど動かせない木村氏は、秘書らの介助を受けながら約30分間の質疑で、合理的配慮によって障害者差別解消法の理念を実現するよう訴えた。
電子機器による音声や代読、車いすと介助者が必要な議員による国会質疑は初めて。参院は本会議場の議席改修や、押しボタン式投票装置も設置して介助者が代理で押すのを容認し、福祉車両の導入も決めた。裏を返せば、そもそも国会は重度障害者の活動を想定していなかったということになる。
木村氏は「障害者は災害時に特に困難を強いられる。避難所へ行っても車いすトイレがない。知的障害者の親は避難所へ行くのを諦めてしまう」と訴えた。大型電動車いすを使う同氏は、車いす用トイレが「狭くて使用するのが難しい」とし、幅や奥行きを各200センチ程度とする現行の参考基準の問題点も指摘した。
質疑後、国土交通省は基準見直しに着手した。本来、最も大切にすべき当事者の声が反映された結果と言え、国会と行政にそのことを再認識させた意義は大きい。
2人は介助費を公費補助する「重度訪問介護」を利用しながら生活している。議員活動でも同様の措置を求めているが、現行制度では対象外となっており、取りあえず参院が負担することになった。
舩後氏らは、働くためには介助費用を自己負担しなければならない現状は「障害者の社会参加を阻んでいる」として、制度の見直しを求めている。弱者として保護されるだけではなく、自立した社会人として普通に働きたいという障害者の訴えに、政府はきちんと耳を傾けるべきだ。
2019年版障害者白書によれば身体障害者は436万人。知的、精神障害も含めれば障害者は計1000万人近い。2人が投げかけた課題は国会だけの問題ではない。健常者中心で回ってきた社会の在り方自体が問われている。
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2019/11/12 10:05
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ベルリン壁の崩壊30年/民主主義の後退許されぬ
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冷戦と分断の象徴だったベルリンの壁が、1989年に崩壊して9日で30年がたった。
壁崩壊は米ソ冷戦の終結を象徴するのと同時に、東西ドイツ統一につながる歴史的転機となった。ただ、冷戦期に封印されていた民族主義や宗教紛争が各地で顕在化し、新たな分断が拡大。世界はより平和で豊かになるといった当時の期待は、残念ながらしぼみつつある。われわれはまずその現実を直視しなければなるまい。
欧州では、かつての敵国同士が自由や人権尊重など共通の価値観を土台に欧州連合(EU)の下で連携し、人々が自由に国境を行き来するようになった。経済的な恩恵も少なくないが、過度の市場経済が富の偏在を生み、ドイツ国内でさえも、東の給与水準が西の8割余りにとどまるなど“東西格差”は埋まっていない。
格差解消と富の再分配を求める市民運動やナショナリズムが力を持ち始める一方、冷戦終結とグローバリズムで可能となった人の自由な移動が移民・難民の急増を招き、移民など少数派と、自国の利益を優先すべきとする保守派との対立が顕在化するようになった。
ところが国際的な政治潮流はこれを是正できていないばかりか、むしろ国家を分断し解決を難しくしているように見える。欧州を中心に大衆迎合的なポピュリズムが台頭。中道政党は軒並み議席を減らし、左派政党とともに移民排斥を掲げる過激な右派が支持基盤を拡大している。民主化を渇望していたハンガリーやポーランドなど旧東欧でそうした傾向が顕著なのは何とも皮肉である。
一方、米国では「米国第一主義」を掲げるトランプ政権が誕生。地球温暖化の影響と疑われる異常気象の被害が続発しているのに、パリ協定からの離脱を通告した。イラン核合意からの離脱や一方的な追加関税政策など自国の利益のみを追求し、国際合意から背を向けている。
そんな米国と本格的な覇権争いを演じつつある中国からも目を離してはなるまい。世界中を巻き込む新たな「米中冷戦」に突入する可能性があるからだ。
ベルリンの壁崩壊と同年に起こった天安門事件を経験した中国は、東欧などの旧社会主義国とは違い、民主化を拒否しながら市場経済を導入し急速に力を付けた。
そんな中国に魅力を感じる強権国家は多い。そうした国家が「自由の欠如」「監視社会」といった中国の持つ負の側面に目もくれず勢いをつければ、世界はまたベルリンの壁崩壊以前の状況に戻りかねない。国際社会は今こそ、国連を中心とした多国間主義に立ち返るべきだ。
ベルリンの壁崩壊から30年。米国の人権団体「フリーダムフォーラム」は、2005年を世界の民主主義の頂点とし、その後は低下を続けていると分析している。多くの犠牲を払って手にした自由と民主主義である。時計の針を逆戻りさせてはならない。私たち一人一人がその覚悟を肝に銘じたい。
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2019/11/10 12:06
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あおり運転厳罰化/分かりやすい制度設計に
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社会問題化している「あおり運転」対策として警察庁は、悪質で危険な運転には免許取り消しができるよう制度を改正する方向で検討している。行政処分で最も重い免許取り消しの適用で、悪質なドライバーを一掃し、事故を未然に防ぐ狙いがある。厳罰化を求める社会の要請に応える動きで、一定の効果が期待できよう。
あおり運転は、極端に車間距離を詰めたり、幅寄せや蛇行運転など他の車の走行を妨害する危険な行為だ。重大事故につながりかねない、こうした危険運転が近年、各地で相次いでいる。
社会問題化したきっかけは、神奈川県の東名高速道路で2017年6月、無理やり停止させられた車にトラックが追突して夫婦が死亡した事故だった。その後も今年8月に茨城県の常磐自動車道で、あおり運転殴打事件が発生。9月には愛知県の東名高速で、乗用車が後続のワゴン車にあおられエアガンを発射された事件が起きた。
現行の道交法などには、あおり運転を正面から取り締まる規定はなく、警察庁は18年1月、あおり運転対策として、危険運転致死傷罪や暴行罪などあらゆる法令を駆使した捜査や、車間距離保持義務違反など道交法違反による徹底取り締まりを全国の警察に指示している。実際に昨年1年間の車間距離保持義務違反の摘発は1万3025件(うち高速道路は1万1793件)となり、前年から倍増。悪質運転が横行する中、摘発が強化されている実態がうかがえる。
現行では、悪質で危険な運転でも、事故を起こして危険運転致死傷容疑などで摘発されない限り、違反の累積がないと免許取り消しにはならない。このため政府や与党内からも、関連法改正による罰則強化を求める声があった。
免許取り消しをめぐる制度改正の検討では、道交法施行令の危険性帯有者に関する処分基準を改正して適用する案や、道交法であおり運転に関する新たな罰則を設けるなどして点数制度により適用する案が考えられている。取り消し後に再取得できるようになるまでの「欠格期間」も検討の対象とされる。年明けの通常国会に関連法案を提出する見通しだ。
厳罰化に向けて「一歩前進」と言える。ただ、専門家には「あおり運転と言ってもさまざまな態様があり、恣意[しい]的に運用される余地がないよう適正な定義を定めることが重要」と指摘する声もある。運用で混乱を招かないためには、分かりやすい制度設計が必要だ。さらに、車間距離保持義務違反の罰則強化など、踏み込んだ対応も検討するべきだろう。
社会問題化を受け、あおり運転に対する自衛策への関心も高まっている。県内でも、万一の被害に備えてトラブル時の映像を記録するドライブレコーダーを備え付ける人が増えたという。悲惨な事故を繰り返さないためにも、厳罰化や取り締まり強化だけではなく、自衛策の周知や、危険性を伝える啓発教育の充実など、総合的な対策が求められている。
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2019/11/9 10:05
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首相の国会答弁/果たされてない説明責任
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国会は6日に衆院、8日に参院で予算委員会の集中審議を開いた。相次いだ2閣僚の辞任などについて、安倍晋三首相が説明責任を尽くすかと思われたが、そうはならなかった。首相の説明はきわめて不十分で、国会軽視と言われても仕方あるまい。
6日の集中審議は、2閣僚の辞任後、任命権者の安倍首相が初めて国会に説明する機会だった。首相は「適材適所の観点から任命したが、こうした結果になり国民におわび申し上げたい」と謝罪。しかし、具体的な責任の取り方については「行政を前に進めていくことに全力を尽くし、国民への責任を果たしていく」と述べただけだった。
菅原一秀前経済産業相の辞任理由となったのは、選挙区内の有権者に香典を渡したなどとする疑惑だった。河井克行前法相も、有権者に贈答品を贈ったとされ、7月の参院選で当選した妻の運動員に法定上限を超える日当が支払われた疑いも持たれていた。ともに厳正に捜査されるべき事案で、公選法違反ならば閣僚だけでなく議員辞職に値する事態だ。
2氏とも国会で予定されていた質疑を前に辞表を提出、疑惑について公に説明をしていない。このため野党は両氏を予算委員会で参考人招致することを要求。辞任後でも本人たちに疑惑の説明を求めるのは当然だろうが、与党側は「前例がない」と応じなかった。
それなのに首相は衆院予算委の質疑で「内閣、与党、野党にかかわらず、一人一人の政治家が、自ら襟を正し説明責任を果たすべきだ」と答弁。野党を含める一般論にすり替え、説明要求をかわそうとした。
首相は自民党の総裁でもある。2氏に進退のけじめをつけさせるのは党最高責任者としての責務ではないか。本人たちの国会招致に応じないでおきながら、代わりの説明もせずに「本人がすべきものだ」と言うのでは、責任から逃げ回っているのと同じである。
第2次安倍政権での閣僚辞任は10人に上る。そのほとんどがカネや失言が絡むものだった。首相はそのたびに「任命責任は私にある」と繰り返すが、うやむやになっている印象が拭えない。菅原氏の辞任直後の世論調査(共同通信)でも、内閣支持率は54・1%あった。支持率への自信が首相の強気を支えているのかもしれないが、それがおごりや国会審議への不誠実さにつながってはいないか。
6日の予算委でも首相は自席から質問議員にやじを飛ばし、後になって謝罪した。大学入試への英語民間試験導入をめぐる混乱の責任についても「課題を克服できるよう、しっかりと検討させたい」と答弁。政権の教育改革の目玉として旗を振ってきたにもかかわらず、ひとごとのような姿勢を見せた。
今月20日には第1次政権からの首相の通算在職日数が歴代最長となる。政権の長期化とともに緊張感をなくしては、国民の信頼を失っていくばかりだろう。
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2019/11/8 10:06
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米パリ協定離脱/温暖化防止妨げる愚行だ
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世界第2位の温室効果ガス排出国として無責任極まりない愚行と言わざるを得ない。
米トランプ政権が、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」から離脱すると国連に通告した。温暖化による異常気象が世界各地を襲っている今、被害防止の取り組みを緩めることは許されない。
温暖化の進行は地球の生態系を脅かし、「気候危機」「地球熱化」とさえ呼ばれ、対策は待ったなしだ。わが国も殺人的猛暑や記録的豪雨に毎年のように見舞われ、甚大な被害に遭っている。
人為的な温暖化がなければ千年に一度も起こらないような熱波や豪雨が世界各地で発生し、極域の氷床や海氷がかつてない速さで溶けている。大規模な山火事や強大なハリケーンに度々襲われている米国も、温暖化の脅威と決して無縁ではあるまい。
パリ協定は、2016年に発効し190近い国と地域が加入する。今世紀後半に世界の温室効果ガス排出を実質ゼロにし、18世紀の産業革命前からの気温上昇を「2度より十分低くし、1・5度に抑えるよう努力する」との目標を掲げ、参加国は独自に二酸化炭素などの排出削減目標を設定する。
トランプ氏は、そんなパリ協定を「(米国にとって)恐ろしくコストが高くつき、不公平だ」と批判する。来年11月の大統領選を控え、石炭や石油、天然ガスなど化石燃料を扱う業界や地域、そこで働く有権者を意識しての発言だろう。ただ、そうしたトランプ政権の後ろ向きの姿勢が、国際的な取り組みを揺るがしかねない。
一刻も早く温室効果ガスの排出増加に歯止めをかけなければ、温暖化によるリスクはさらに高まり、経済や社会、地球の生態系が破滅の危機に直面しよう。米国は排出大国として相応の責任を果たすべきだ。
トランプ政権の姿勢とは逆に、米国の多くの大企業やカリフォルニア州などの州政府が、協定を支持し、再生可能エネルギーの拡大や脱炭素を目指して排出削減を進めている。日本をはじめ各国は、米国内の協定積極派と一層連携を強め、温室効果ガス削減目標の上積みを目指す必要があろう。
世界5位の温室効果ガス排出国である日本は、「排出量を30年度に13年度比で26%削減、50年に80%削減」との目標を掲げている。しかし、これで十分とは到底言えまい。多くの国と同様に「50年に実質的な排出をゼロにする」という長期目標に見直すべきだ。
二酸化炭素の排出に応じて企業などに課金するカーボンプライシングの導入や強力な省エネ対策の義務付け、再生可能エネ導入拡大のための送配電網利用ルール見直しなど、脱炭素社会の実現に向け、日本も大胆な政策転換を進め先進工業国として排出量を大幅に減らすことが求められる。
米大統領選では、温暖化対策が大きな争点になることは間違いない。日本を含む国際社会はトランプ政権に、パリ協定離脱撤回を促すための説得を続けるべきだ。
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2019/11/7 10:06
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在職年金見直し/就労弱者への配慮が必要
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一定以上の収入がある高齢者の年金を減額する在職老齢年金制度について、厚生労働省は高齢者の就労を促すため対象者を半分近くに縮小することを検討している。
この制度は、65歳以上の厚生年金受給者が働いて得た賃金と年金を合わせた月収が47万円を上回ると、上回った額の半額を年金から減額する。高齢者の働く意欲を損なっているとの指摘を受け、同省は基準額を62万円に引き上げる方向だ。対象者は約41万人から約23万人に減る。
安倍晋三首相が掲げる「全世代型社会保障」の実現に向けた柱の一つ。政府は、高齢者が引き続き保険料を払う就労者となることで「社会保障の支え手拡大」との目的を掲げているが、むしろ大きいのは経済政策的側面だろう。
政府の統計では最近7年間で15~64歳の生産年齢人口が540万人減った半面、就業者は高齢者や女性が増えたことで450万人増加。60歳以上の8割以上が70歳以降まで働くことを希望しているとの調査もある。少子高齢化による人手不足を背景に、高齢者就労を後押しし、経済成長に結び付けたいとの狙いがある。
しかし、高齢者には元気で働ける人と、健康に問題がある人との個人差が大きい。減額縮小が雇用に結び付くのか疑問の声もある。政府が目指す「70歳まで働ける社会」が、「70歳まで働かなければならない社会」になりはしないか。弱者の切り捨てにならぬよう配慮を心掛けてほしい。
そもそも、年金減額の縮小が実現すれば支給総額は年間約2200億円増える。その分年金財政は悪化し、約30年後に将来世代の受け取る年金水準が0・2ポイント下がることが同省の検証で明らかになっている。
さらに、年金減額がなくなるメリットがあるのは65歳以上の働く厚生年金受給者のわずか8%にすぎない。月収が多い人の優遇策との批判もある。
制度改正によって社会保障の支え手は増えるが、年金支給額の増加分を賄う財源の確保についてはまだ十分な議論がなされていない。消費増税は財政健全化と社会保障制度の持続が目的だが、国の借金は1千兆円を超えてなお膨らみ続けている。一層の歳入歳出改革が急務だ。
このため国は年金受給開始年齢の70歳超への選択肢拡大、パートやアルバイトの厚生年金加入拡大、後期高齢者の受診時の窓口負担と介護サービス利用者負担の引き上げなども検討。高齢者の就労機会確保を企業の努力義務とする法改正も予定されている。
団塊世代が75歳以上の後期高齢者になり始める「2022年問題」が間近に迫り、政府は、関係閣僚と有識者が社会保障改革を議論する新たな会議を9月に創設した。財政健全化と、安心して老後を過ごせる社会保障制度をどう両立させるか。在職老齢年金制度見直しでも浮き彫りとなったこの課題について、国民にも見える形で具体的議論を進めてもらいたい。
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2019/11/6 10:06
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五輪マラソン/札幌開催に知恵絞りたい
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東京五輪マラソン・競歩コースの移転問題は、国際オリンピック委員会(IOC)による決定を日本側も受け入れ、東京の暑さを避けて札幌市で実施することで決着した。五輪の花形種目であるマラソンが開催都市以外で実施されるのは史上初のことになる。 開幕まで9カ月を切った段階でのコース移転はあまりに唐突で、東京都とIOCの信頼関係にも深い溝が生じた。暑さ対策の準備を進めてきた選手や関係者にも、無念さや不安の声が広がっている。 とはいえ、遺恨を引きずったままでは事態は好転しまい。移転先の札幌市には、コースの設定と整備、テロ対策をはじめとする警備態勢の構築、宿舎やボランティアの確保など課題が山積している。IOC、大会組織委員会、政府、そして東京都の4者は、一致協力して札幌を支援すべきだ。 IOCは、数カ月前まで東京都と組織委の暑さ対策を評価していたにもかかわらず、移転計画を突然、発表。コーツIOC調整委員長は「決定は既になされた。IOC理事会にはこのような決定を下す権限がある」と言い放った。あまりに強権的ではないか。 IOCは、中東カタールのドーハで開かれた世界陸上選手権で、マラソンと競歩に多くの途中棄権者が出たことに危機感を募らせた。選手に良好な環境を提供するため、より気温の低い札幌での開催が好ましいと考えるのは理解できる。とはいえ、科学的、合理的な根拠も示さず、東京でも同様の事態が予想されると直ちに結論づけたのには強引さが否めない。 IOCは、移転案を組織委には事前に連絡しておきながら、東京都にはぎりぎりまで通知しなかった。相談しても反対されるに違いないと判断したのかもしれないが、開催都市に対してあまりに非礼であり、批判されても仕方あるまい。都は既に、遮熱性舗装を含むマラソンコースの整備や、9月に実施した五輪のテスト大会などに約三百数十億円の税金を投入している。小池百合子都知事が憤るのも当然だろう。 IOCは、われこそが選手に寄り添う五輪運動の主導者であるとアピールしたかったのかもしれないが、そのために、東京のコースを走りたいと願い、準備してきた選手や、沿道から声援を送ろうと考えていた都民、チケットを確保していたファンの夢が奪われてしまったことを肝に銘じるべきだ。 土壇場でのコース移転は、金のかからない大会開催とレガシー(遺産)が開催国と開催都市に残ることが大切だとするIOCの方針にも反している。ただ、いつまでもそうしたことに拘泥していては、ただでさえ残り少なくなった時間を無駄にするだけだ。 コース変更を、日本の適応力の高さを証明する好機だと捉える柔軟さも必要だろう。選手や観客らが「札幌で良かった」と本当に思えるレースとなるよう知恵を絞りたい。札幌開催が成功すれば、スポーツによる地域振興を目指す国内の地方都市の励みにもなる。
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2019/11/5 10:06
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「働き方改革」調査/労使が認識統一し推進を
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長時間労働の是正などを目的とする働き方改革について、熊本日日新聞社が県内の企業と労組・組合員を対象に実施した調査で、「改革が進んでいる」と感じているのは企業側が約7割に上ったのに対し、労働者側は約4割と認識に差があることが、明らかとなった。 時間外労働に罰則付き上限規則を導入するなどした働き方改革関連法に従い、企業側が、残業の削減や勤務時間の管理方法の見直しを進めている一方、労働者側は、その効果を十分に感じていないことを反映した結果だろう。改革を進めていくためには、労使双方がその認識の差を埋めていく取り組みが必要だ。 調査は改革関連法が4月に施行されたことを受け、県経営者協会や連合熊本、県労連の協力を得て、10月に労使へのアンケートを実施。企業103社、労組側113団体・個人から回答を得た。 その結果、「実際に改革が進んでいるか」との問いに、企業側の74・8%が「進んでいる」と答えたが、労働者側は43・4%と約30ポイントの差があった。 労働者側が改革の効果を実感できない要因の一つをうかがわせる回答がある。進んでいる改革の内容についての問いに、労働者側は「残業の削減」が最多の26・5%だったのに対し、「業務のスクラップ&ビルド」は5・3%と少なかった。改革で就業時間が短くなる一方で、業務量自体は減っていないことを物語っている。 この状況は、一部セクションや職種に業務のしわ寄せが来ているか、正式な勤務記録に残らない「隠れ残業」を招いているかもしれないことを示唆している。 長時間労働の是正と同時に、企業にとっては収益、労働者にとっては賃金水準を、それぞれ維持し伸ばしていくことも必要だ。働き方改革推進には、それを両立させる生産性の向上や省力化という目標を、労使が共有できるかがカギとなるのではないか。 このほか、今回の調査で労使ともに最も達成しにくい項目として挙げた「同一労働同一賃金」や、今後増加するであろう外国人材への対応なども、解決すべき課題となる。 働き方改革の必要性は企業の82・5%、労組の83・2%が「必要」と回答。従業員の健康管理や人材確保のために前に進めなくてはならないことは、労使双方が認識している。 調査を分析した熊本学園大の遠藤隆久教授(労働法)が指摘しているように、働き方改革が、長時間労働によって維持されてきた日本企業のパラダイム(枠組み)転換の後押しとなることを期待したい。 人手不足を背景に全国的には、24時間営業をやめるコンビニやファミリーレストランなど、これまでの労働環境を全面的に見直す動きも始まっている。若年層を中心に労働力の流出が続く県内でも、労使が協力し早急に改革に取り組むべきだ。
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2019/11/4 10:06
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英下院総選挙へ/EU離脱巡る争点明確に
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英国の欧州連合(EU)離脱問題は結局、10月31日の離脱期限までに決着しなかった。英下院は今月6日に解散し、12月12日に総選挙が実施される。 2016年の国民投票でEU離脱派が勝利して以来3年半。下院はメイ前首相がまとめたEUとの合意案を3回否決し、ジョンソン首相の合意案も採決を先送りするなど機能不全に陥っており、解散総選挙は遅かれ早かれ不可避だったと言える。 これまでの議会審議では、国民投票で示された民意に基づいて「いかに離脱するか」が詰められてきた。しかし、今回の総選挙では離脱派も残留派も改めて平等な立場で投票することになる。機能不全に陥った議会を一新して仕切り直しを図り、離脱を巡る泥沼化から脱却できるか。英国の有権者の審判に注目したい。 高支持率を背景に ジョンソン首相は7月の就任以来、混乱必至の「合意なき離脱」も辞さない姿勢で10月末のEU離脱方針を堅持してきたが、野党などの抵抗で新たな期限延長をEUに要請せざるを得なくなった。 そんな中、離脱後に英国が名目上EUの関税区域から脱退しつつ、北アイルランドに限りEUルールを適用し、激変緩和のための「移行期間」を設けるといった新たな離脱合意案で合意。EU側は最長で来年1月末までの3カ月間、離脱を延期することを決めた。 英BBCの最近の世論調査によると、与党保守党の支持率は36%で、労働党の24%を引き離す。ジョンソン首相は現時点の高支持率を背景に、総選挙で保守党の単独過半数を確保し、自らがまとめた離脱合意案の承認を目指す構えだ。総選挙で勝利すれば、離脱合意案が下院で可決され、来年1月末までにEUを離脱する公算が大きくなる。 一方、最大野党の労働党など野党が勝利すれば、EUとの再交渉や、離脱の是非を問う国民投票の再実施などが現実味を帯びる。 中ぶらりんの議会 ただ、問題は保守党、労働党の二大政党の候補や支持者を含めて、EU離脱か残留かを巡り国論がいまだに割れている点だ。BBC世論調査では、二大政党以外の支持率は、残留支持を明確にしている自由民主党が18%、離脱を主張する離脱党が11%となっている。 このままでは残留支持の票が自由民主党などに流れ、離脱支持の票が離脱党に流れて、総選挙の結果、二大政党を含めてどの党派も過半数に届かない「ハング・パーラメント」(中ぶらりんの議会)に陥る恐れもある。 17年の前回総選挙では保守党が他党を上回る得票率約42%だったが、議席は過半数を割り込んだ。今回もそうした状況となれば、さらに膠着[こうちゃく]状態が続くことになる。それを避けるためにも各党派がEU離脱の賛否や離脱を巡る争点を明確化して連携すべきだろう。 先行きに不安感も EU離脱を巡る混乱が続く中、英国では、企業が投資を控えるなどし、今年4~6月期の国内総生産(GDP)成長率は前期比0・2%減となった。金融業の拠点を欧州大陸に移転する動きも加速しており、英経済の先行きに対する国民の不安感も募っている。 英国の有権者は、政府公表の文書によって、万一「合意なき離脱」に至った場合、経済・社会がどれほどの衝撃を受けることになるか、その最悪のケースを知っていよう。また、これまでの国会などでの議論を通じ、メリット、デメリットを含め将来的に何が起きるかの理解も深まったはずだ。 英与野党は、総選挙でEU離脱の争点を明確にして、国の将来と、EUや国際経済の行方を左右することになる重大問題に方向性を見いだしてもらいたい。
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2019/11/3 8:06
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首里城火災/沖縄県民と手携え再建を
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「沖縄の魂が焼け落ちた」-高台の頂を包む炎を見上げ涙する人々の姿に、文化財以上の存在であることを改めて思い知らされた。
那覇市の首里城で大規模火災が発生し、主要施設である正殿、北殿、南殿が全焼するなど計7棟を消失した。首里城は琉球王国の歴史と文化を伝えるだけでなく、その復元は太平洋戦争末期の沖縄戦からの復興の象徴でもあった。沖縄の人たちの喪失感の大きさは察するに余りある。
首里城は14世紀に築城が始まり、15世紀に成立した統一王国の王家・尚氏の居城として、1879年に明治政府に明け渡されるまで沖縄の政治、外交、文化の中心だった。中国と日本の文化も取り入れた独自の建築様式により、世界に開かれた交易国家の特色を示していた正殿などは戦前、国宝に指定。しかし戦時中、地下に日本軍の司令部壕[ごう]が設けられたため、米軍の攻撃にさらされ全壊した。
だからこそ1992年、沖縄の日本復帰20年を記念しての正殿完成を皮切りに進められ、今年2月に完了した首里城復元を沖縄の人々は、県民の4人に1人が犠牲となった戦禍から立ち上がった自らの姿と重ねていた。復元建物は対象外だが2000年、首里城跡は世界文化遺産の登録を果たし現在、内外から300万人近くが訪れる観光の中心ともなっていた。
10月31日の未明に発生した火災の出火元は当時、無人で電源も切られていたという正殿と見られている。現在、警察、消防による実況見分が進められているが、出火原因の究明とともに、防火体制などの検証も必要だ。
今年4月のパリのノートルダム大聖堂火災を契機に文化庁は国宝などの防火設備について緊急調査を実施。20年度予算の概算要求では、文化財の防災対策費に19年度当初の約4倍となる80億円を計上する方針を示していた。
文化庁は9月、文化財へのスプリンクラー設置を推奨する通知を出したが、首里城は対象外。消防法でも設置義務はなく、実際に設置されていなかった。一方で「ドレンチャー」という延焼防止設備などは設けられていた。今回、そうした設備は想定通りに作動していたのか。人的な警備体制なども含め詳細に調査し、今後の教訓とすべきだ。
玉城デニー知事は、22年までに再建計画を策定する考えを、菅義偉官房長官に伝え、菅氏も「財政的な措置も含め、全面的に支援する」と述べた。資材確保など課題は多いが、参考資料なども焼失しゼロからの出発だった戦後の復元に比べれば、技術面でのハードルは低いのではないか。
熊本県や熊本市もいち早く募金箱を設置し支援に動きだした。3年半前に熊本地震での熊本城崩壊を経験し、再建に全国から支援を受けている私たちこそ、首里城焼失の痛みを共有できるはずだ。沖縄県民と手を携え、早期の再建を目指したい。首里城が再びよみがえり、新たな希望の象徴となることを心から願う。
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