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http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/editorial/index.html
観衆の存在が、スポーツを構成する大きな要素であることは、昨年来のさまざまな無観客試合を通じても明らかだろう。 第93回選抜高校野球大会(3月19日開幕)は、観客を入れる方向で開催準備が進められることになった。少しでも球児が力を発揮できる場となることを願う。 ただ、新型コロナウイルスの感染拡大が収まらず、開催地の兵庫県を含む近畿3府県にも緊急事態宣言が再発令された中での計画づくりとなる。規模縮小も念頭に置いた、冷静で柔軟な判断が求められる。 日本高校野球連盟などの発表によると、入場券は全席指定で前売り販売のみという。混雑や行列を防ぎ、万が一、感染者が出た場合に経路を追えるようにするためだ。また、消毒や備品など感染症対策に経費がかかるため、入場料を値上げする。入場者をできるだけ収容し、運営費に充てる必要はあろうが、政府の指針に従い、無理のない観客規模で臨んでもらいたい。 年末年始に開かれたサッカーの全国高校選手権では、首都圏の1都3県に緊急事態宣言が再発令される方針を受け、保護者や部員らに限って認めていた観戦を準決勝以降は許さなかった。こうした厳しい決断も時には必要になる。 昨年の高校野球は無観客で準備を進めていた選抜大会や、夏の全国選手権とその予選にあたる地方大会が中止となった。一方で、選抜に出場するはずだった32校が8月に1試合限定の交流試合を甲子園で行い、6日間の日程を無事終えた。 移動の方法や宿舎での過ごし方、会場の消毒といった感染症対策は、その後の高校スポーツのモデルとなり、冬場には、先に挙げたサッカーのほか、バスケットボール、バレーボールなどの全国大会が開かれた。 それでも、対策の難しさが浮き彫りになった。試合前に発熱が確認され、チームが欠場を余儀なくされた競技があった。本番直前に大舞台を去らねばならぬ選手の心情は察するに余りある。バレーボールでは大会後に集団感染が判明した。 選抜大会は13日間(休養日2日を含む)と期間も長く、雨天順延で日程が延びる可能性がある。冬場の大会で得られた教訓もあるはずだ。情報を共有し、選抜大会へとつなげてほしい。 開会式は、全校が入場行進する形は取られず、甲子園練習もない。例年の風景が戻らない中、21世紀枠は一つ増え4校になる。 「創意工夫を続け、高校生活や部活動に真摯(しんし)に取り組む学校に光を当てることが全国の球児らを勇気づける」との、21世紀枠を増やす理由は納得のいくものだ。ファンも、はつらつとした若者のプレーを今年こそはと、待っている。
今年はいよいよ政権選択選挙の衆院選が行われる。自民、公明両党の連立政権の継続か、野党第1党の立憲民主党を中心にした政権への交代か。来(きた)る決戦の日に備え、与野党には18日に召集される通常国会での政策論争を通じて、新型コロナウイルスに伴う国民の不安解消につながるビジョンを構築してもらいたい。 衆院議員の任期満了は10月21日。与野党内では、衆院解散・総選挙のタイミングについて▽2021年度政府予算の成立後、4月25日に投開票される衆参補欠選挙との同日選▽6月16日の通常国会閉幕後、7月22日の任期満了までに行われる東京都議選との同日選▽9月5日閉幕の東京パラリンピック後―がささやかれている。コロナの感染状況をにらみつつ、この10カ月の間に菅義偉首相がいつ決断するかが焦点となる。 最大の争点はコロナの対応、そしてアフターコロナを見据えた暮らしの立て直しだ。厚生労働省のまとめによると、コロナ感染拡大に関連した20年の解雇や雇い止めは、見込みも含めて累計で約8万人に上った。政府がこれまで重視してきた感染対策と経済活動の両立は達成できていない。 菅首相は携帯電話料金の引き下げとデジタル庁を肝いり政策に掲げる。元々、早期の衆院解散・総選挙には慎重なだけに、これらに道筋を付けた上で信を問う目算なのかもしれない。だがコロナ禍で日々の生活がやっとの国民にとって、暗いトンネルの先に希望を見いだせる政策だろうか。 福井県のベテランの自民県議は危機感を募らせる。「菅首相は今こそ、将来展望を切り開くビジョンの説明に言葉を尽くすべきなのに物足りない。場当たり的な対応に終始し、しかも後手に回っている。会食問題も信頼を損なわせた。これでは心に響かない」と。 その言葉を裏付けるように内閣支持率は下落傾向にある。しかし、対する野党側も低空飛行が続く。かつて民主党が政権交代を実現する前夜のような熱は感じられない。なぜなのか。 野党側は目下、政権交代に向けた共闘態勢の構築を急いでいる。ばらばらに候補者を擁立すれば自民を利するというのが理由だが、選挙戦略を重視するばかりに「日本をどのような国にするのか」という大事な青写真づくりが後回しになっているように見える。物事の順序が逆になっているため、「選挙互助会」と受け止められていることも支持率低迷の一因ではないか。 「政策は作れるでしょう。でも人は世界観に感動する。任せてみようと」。政治学者で東京工業大教授の中島岳志氏はこう語る。与野党の力量はもちろんのこと、国民の見極める目も問われる大事な年になる。
新型コロナウイルスの感染拡大が生活困窮者を増やし続けている。多くの人が仕事を失い、働き盛りの男性だけでなく、若年層や女性など幅広い層に「貧困」が広がっている。ごく普通の生活を支えきれなくなり、支援の現場からは「自助、共助は限界にきている」との声も上がる。生活困窮者支援の継続と拡充を急ぐ必要がある。 厚生労働省によると、今月6日の時点でコロナ関連の解雇・雇い止めは見込みも含め、8万人を超えた。派遣やパートなど非正規で働く人が半数近くを占める。首都圏や関西、東海など11都府県に緊急事態宣言が発令され、雇用情勢はさらに悪化しそうだ。 生活困窮者の相談を受けている自治体の「自立相談支援機関」には、緊急事態宣言が出された昨年4月から9月にかけて、前年同期の3倍に当たる計39万件余りの新規相談が寄せられた。 自立相談支援機関は「生活保護に至る手前の新たなセーフティーネット」の一環として、2015年度から福祉事務所のある都道府県や市町村が設置している。就労や家計、子どもの学習への影響など、さまざまな相談を聞き取り、生活困窮から脱するため利用できる公的な制度を紹介したり、支援計画を立てたりする。 毎月の相談件数は例年、1万5千~2万8千件程度だったが、昨年4月に9万5214件に急増。8月と9月はいずれも5万件を超え、その後も月5万件前後で推移しているとみられる。 一方、低所得世帯の生活再建を目的に貸し付ける「総合支援資金」のうち、コロナ禍の影響で減収になった人にも特例措置で対象を広げた生活支援費の融資決定件数は昨年3~12月に51万5千件、総額3853億円に上った。生活支援費は2人以上の世帯なら月最大20万円を原則3カ月分まで無利子で借りられる。 これまで過去最多はリーマン・ショック後の10年度。今回は対象を拡大しているとはいえ、融資件数は12倍以上に膨らんでいる。その後も申請は後を絶たない。 昨年4月の緊急事態宣言発令の当初、外出自粛の影響はまず宿泊業やバス、タクシーなどの旅客運送業を直撃。夏以降には製造業や飲食業にも及び、非正規が切り捨てられた。非正規には女性が多く、休業補償をもらえないとの相談も支援団体などに相次いでいる。低所得層ほど仕事が減り、打撃は大きい。住む場所を失い、食事もままならない危機が広がる。 政府は雇用調整助成金を活用して雇用を維持するよう企業に呼び掛け、生活支援費の融資や住居確保給付金の支給も当面延長するが、加えて、より長期的に切れ目なく生活困窮者を支える仕組みが求められよう。
菅義偉首相は新型コロナウイルス特別措置法に基づき、大阪や愛知など7府県に緊急事態宣言を発令した。先週発令した首都圏の4都県を含め計11都府県に上り、北関東から九州までの広域に対象が広がった。 大阪では昨年11月下旬から大阪市の一部飲食店に午後9時までの時短営業を要請。首相は年明け時点で、首都圏の感染者数が「深刻な水準」と指摘する一方、「大阪は効果が出ている」と宣言の対象に加えることには否定的だった。 ところが、直後から大阪の1日の新規感染者数が連日、過去最多を更新。医療提供体制が逼迫(ひっぱく)し、吉村洋文知事が発令要請に方針転換した。大村秀章愛知県知事も年明けの感染急増を受け、再発令の必要性を政府に伝えていた。 こうした事態に即応できていれば、首都圏との同時発令も可能だったはずだ。見通しが甘かったと言われても仕方ない。加えて、7府県の発令期間が首都圏と同じ2月7日までとしたのも対策の「小出し」感が否めない。他にも発令要請を検討中の県があり、全国的に広がる可能性もある。 懸念されるのは、1週間前に宣言が出された東京など1都3県で、発令直後の3連休の人出が十分に減らなかった点だ。首相は7日の記者会見で「もう一度、制約のある生活をお願いせざるを得ない」と述べ、若い世代の「行動変容」を求めたが、十分に伝わっていないのではないか。 首相は宣言発令に伴う措置を「限定的、集中的に行う」とし、特に飲食店の時短営業や、都民らの外出自粛で「午後8時以降」にこだわったため、「8時までなら大丈夫なんだ」といった誤ったメッセージになったとの指摘もある。 これでは新型コロナ感染抑止の最後の「切り札」と称される緊急事態宣言の効果に、はや疑問符が付きかねない。首相は2月7日までに成果が出なかった場合の対応を問われ「仮定のことは考えない」述べたが、期間延長があるか否かの見通しが死活問題となる国民、企業は少なくない。 飲食店中心の対策のみでは東京の感染者は2月末も現状と同水準のままとする専門家の試算もある。「仮定」を想定した上で、先手先手の構想を打ち出し、国民に説明を尽くしながら協力を求めていくのは政治のあるべき姿勢であり、義務であると強調したい。 第3波は、これまでの経験則をはるかに超えているとみるべきだろう。対策の「逐次投入」では悪循環から抜け出せないのは明らかだ。飲食店以外にも策を総動員するなど再検討が欠かせない。経済活動を一時停止してでも感染を抑え込むという政治の強力な意志を示す時ではないか。
嶺北を中心とした大雪は峠を越え、小康状態となったようだ。屋根の雪下ろしなどに汗を流す人も多いだろうが、連日の除雪作業で疲れ切っているはず。休憩を取るなど無理せず作業に当たってほしい。 懸念されるのは、今冬も2018年の豪雪の要因にもなったラニーニャ現象が続き、今後も寒気が流れ込みやすいとの指摘があることだ。数年に一度とされる強烈な寒気が居座り、日本海上に発達した雪雲の帯「日本海寒帯気団収束帯」が絶え間なく福井県付近にぶつかり雪を降らし続ける。18年の大雪は2月上旬だったのに対して、今冬は1月上旬だけに、次もあり得るとみて警戒を強める必要があるだろう。 とりわけ、車両約1500台が立ち往生した北陸自動車道の除雪態勢の再構築は急務だ。18年を教訓に、大雪時は除雪のため並行する国道8号を交互に通行止めにするなどして南北の大動脈を確保するとし、態勢を強化してきたという。だが、現状はあおりを食った形の国道8号でも渋滞が発生するなど、教訓が生かされたとは到底言い難い。連携の在り方などを急ぎ検証すべきだ。 鉄路の復旧も欠かせない。新型コロナウイルスの感染拡大で利用者は激減しているものの、人の移動にはなくてはならない。越美北線やえちぜん鉄道、福武線など地域住民の「足」の確保も急ぎたい。16、17日には大学入学共通テストが予定されている。鉄路に加え、路線バスの復旧などにも努め、受験生が支障を来すような事態は避けなければならない。 福井市内などでは依然、生活道路の除雪が進んでいないところが数多く見受けられる。車を出しても厚さ30センチほどの圧雪のためスタックし、それが除雪車などの対応を遅れさせるという悪循環につながっているともされる。街中では雪を捨てる場所がなく途方に暮れている家庭も少なくない。自治会や町内会によっては除雪車の情報が一向に入らないところもあるという。 18年時には、灯油などの燃料も品不足になり、慌てて買い出しに走る人も多かったが、今回は輸送経路が確保され、こうしたケースには至っていないようだ。ここに来て、物流網なども徐々に回復してきているという。買い占めなどは厳に慎む必要があろう。 県内では8日から11日にかけて除雪中の事故や転倒、体調不良などが続出し、生き埋めになるなどして4人が亡くなり、50人以上が重軽傷を負った。高齢世帯の孤立回避や、児童生徒の安全な通学路の確保などは地域ぐるみで取り組みたい。県や市町は住民の安心を取り戻すべく、除雪などに注力してもらいたい。
小浜市には、おいしいサバが数々ある。養殖の「小浜よっぱらいサバ」、宇宙食として若狭高生が開発したサバ缶、サバのへしこ、浜焼きサバ、サバずし…。昨年秋、それらに中華まん「サバまん」が加わった。“サバのまち”小浜の新名物になってほしい。 今富小6年生38人が市内のレストランと連携して開発した。新型コロナウイルス感染拡大による休校、活動中断を乗り越え、約1年半かけて商品化。昨年11月7日に発売した。 特製あんは、ほぐしたサバのほか、タマネギなどの地場産野菜が入り、ショウガ醤油(じょうゆ)で味付け。「サバで小浜を元気にしたい」と、販売までたどりついた児童の頑張りをたたえたい。 2019年春、同校が市の「ふるさと小浜MIRAI事業」に指定されたのがきっかけだった。毎年1~3校が地域の魅力、課題を調査研究する事業だ。当時5年生だった児童たちは「小浜を元気にするにはどうしたらいい?」と松崎晃治市長から課題を与えられていた。 児童たちは小浜の食文化を代表するサバに着目した。数々のアイデアの中から手軽に食べられるサバまん開発がスタート。県立大小浜キャンパス内のレストラン「Kitchen Boo(キッチン ブー)」の高野滋光社長のアドバイスを受け、19年10月には醤油、トマト、カレー味の3種類を試作した。記者も試食。一つに絞ることが難しいほど、どれもおいしかった。幅広い年齢層が食べやすいように、と児童たちが選んだのは醤油味だった。 パッケージも児童が工夫。愛らしいサバまんのイラストとともに「おいしサバくはつ!」「飛び跳ねる美味(おい)しさ!」と宣伝文句が面白い。PR方法は若狭高生から学んだ。 小浜市の道の駅若狭おばま、若狭フィッシャーマンズ・ワーフなど若狭町以西の4市町9カ所で販売されている。製造・販売元のコミュニティーネットワークふくい若狭事業所(若狭町)によると出荷数は約4千個に上る。 児童は昨年12月、小浜市役所で開発経緯、魅力を寸劇を織り交ぜてPR。その後の販売会では用意した60パック(3個入り)が30分で完売した。 「自分たちの作ったサバまんが全国に広がってほしい」「食べた人が小浜に興味を持ってくれるとうれしい」。児童たちの思いは純粋だ。予想以上の反響に「いろんな人が買ってくれてうれしい」とにっこり。その笑顔は、サバまんを食べた人にも広がっている。
敦賀市中心部の国道8号が2車線化した。従来の4車線から幅が縮小したことに伴い、歩道や交差点には催しなどを開くことができる空間が生まれた。今後、この空間を活用した音楽や食イベントなどを定期的に開くことができれば、新たな敦賀の街の魅力となる可能性を秘める。 2車線化したのは元町-白銀交差点の約900メートル区間で、歩道は最大7メートルほどにまで拡幅された。各交差点付近にはオープンカフェやライブに使える広場などが設けられ、昨年10月に供用を開始した。 これらの場所はにぎわい拠点化を目指す駅周辺から金ケ崎までの導線に当たる。現在この一帯は往時のにぎやかさが薄れ、シャッターを閉めたままの店も多い。街のイメージを左右する地区であり、新幹線開業を控え、にぎやかさを取り戻す意義は大きい。 市はこの空間の活用法の一例を示そうと、11月に社会実験催しを開いた。フードや雑貨のマーケット、ハンバーガーやタピオカドリンクなどのケータリングカー、カレーライスやおでんの露店などが並び、約7千人の人出でにぎわった。野外ライブ会場からは音楽が聞こえ、家族連れらの笑顔が見られた。 この催しの際に行ったアンケートでは、今後企画してほしいイベントとして飲食や音楽のイベントのほか、子ども向けイベント、フリーマーケット、体験・参加型イベントなどが上がり、定期開催を望む声も多かったという。市民らの発案によるイベントがどんどん開かれ、休日は何かイベントをやっている、あそこへ行けば楽しめる、と思える場所となれば面白い。 国8空間がにぎわえば、近くの金ケ崎で夜間に計画するプロジェクションマッピング事業などとの相乗効果も期待できる。年間約70万人が訪れる気比神宮参拝客の街への誘導や、駅西にできる交流・にぎわい拠点施設やリニューアルした資料館「人道の港敦賀ムゼウム」なども含めた滞在型観光の推進など、国8空間のイベント次第では大きな流れを生むことも不可能ではないと考える。 ただ、恒常的なイベント開催には課題も大きい。複数の主催者や出店者の発掘や育成が重要で、取り組みやすい環境づくりと機運醸成、成功体験の積み重ねなどが不可欠だろう。 社会実験後、市には具体的ではないものも含め複数の相談が寄せられている。敦賀らしい持続可能なイベントとは何か。新たな敦賀の顔創出に向け、知恵を絞りたい。
福井県ゆかりのアーティストらがまちなかや観光地で演奏を繰り広げ、県内17市町を結ぶイベント「ふくいミュージックリレー」がフィナーレを迎えた。コロナ禍の中、熱意と工夫で良質な音楽を県民に届け続け“完走”を果たした奏者や関係者に大きな拍手を送りたい。 県が初めて企画し、昨年6月にスタートした。音楽監督を務めた坂井市出身の指揮者小松長生さんが「音楽は生活の中で気軽に触れるもの」と話した通り、道の駅や公園を会場とし、観覧は無料。ホールにこだわらず、敷居を低くしようという発想は的を射ていた。 新型コロナウイルスの影響で、計画通りに公演が行われたわけではなかった。各市町で2回ずつコンサートを開く予定だったが、1周目は動画配信がメインに。9月からの2周目で本来のライブイベントに戻った。新様式の演奏活動を模索しながら、苦労も多かったのではないか。 そのような状況下、演奏の質の高さが印象に残った。福井の音楽界を引っ張っているピアノ、バイオリンなどのトッププレーヤーや、小中高生ら若い奏者が数多く出演。プログラムも小松さんが「料理のフルコースのように飽きさせないのが大切」と気配りして、クラシックの名曲のほか、童謡やアニメのテーマ曲が盛り込まれた。 聴衆は「音色がとても美しく、演奏者の努力や才能を感じた」「自然の中で聴けて心地よかった。屋外で密集も気にならなかった」と公演を堪能。出演者も「地元で演奏ができることに感謝したい。コロナで苦しい状況にある人を少しでも癒やすことができたら」などと語り、会場に一体感が生まれた。 県内でも昨年来、コンサートなどの中止、延期が相次ぎ、アーティストが発表の場を失うことも少なくなかったが、今回のイベントを通じ、それぞれの音楽への強い思いが込められた「バトン」がつながったように感じる。 ミュージックリレー最終公演の舞台となった福井市のえちぜん鉄道福井駅では、奏者が構内に置かれている「まちかど幸福(しあわせ)ピアノ」で美しい調べを披露。イベントの趣旨に沿ったようなネーミングの楽器で有終の美を飾った。 これを機に県内の音楽文化がより身近なものとなり、演奏様式も含め新たなステージへと進んでいくことを期待したい。「苦しい時代にこそ、演奏者にも聴く人にも音楽の楽しさをかみしめてほしい」。小松さんの言葉が胸に響いた。
首都圏の1都3県に新型コロナウイルス特措法に基づく緊急事態宣言が発令された。菅義偉首相は経済優先から方針転換を迫られた形だが、早期の事態収拾には感染抑止の実効性を高めることが欠かせない。 ただ、宣言を発令した7日の東京都の新規感染者数は2447人に上り、前日の1591人から800人以上増え、2日連続で過去最多を大幅に更新するなど、爆発的感染拡大の様相を呈している。都内の入院患者の病床使用率はほぼ9割で、入院や自宅・宿泊の調整中も3500人余りに上るなど、東京を含む首都圏は医療提供体制の崩壊が強く懸念されている。 こうした状況を転換すべく政府が重点を置いたのが飲食店の営業時間短縮だが、京都大の西浦博教授のシミュレーションによれば、時短営業を中心とした施策のみの場合、東京都の感染者数は2カ月後も現状とほぼ同水準にとどまるという。人と人の接触を「最低でも7割、極力8割減らす」と幅広く活動を制限した昨春の宣言時に近い施策なら2月下旬にも1日100人未満にできるとしている。 政府がどこまで、こういった試算を参考にしているかだろう。午後8時以降の不要不急の外出・移動の自粛、テレワークの徹底なども施策に掲げたが、「コロナ慣れ」「コロナ疲れ」から昨春ほどには浸透しないとの指摘もある。政府のコロナ対策分科会の尾身茂会長でさえ「(飲食店対策だけでは)感染を下火にできない」「(抑え込みは)1カ月未満では至難の業」との見方も示している。 7日の記者会見で首相が発したのは、対策の羅列であり、事務的な印象が拭えなかった。感染を広める一因となっている若い世代に向けメッセージも送ったが、「マスク会食」を自ら呼び掛けながら大人数の会食に参加していたことや、「Go To」事業の一時停止など判断の遅れ、さらには感染対策で自治体との間で責任を押しつけ合う姿勢など、政治への信頼を失わせるような場面を目の当たりにしてきた国民の共感が得られるだろうか。 一方で、1日当たりの新規感染者が全国で7千人を超える深刻な事態となっている以上、緊急事態宣言の対象が首都圏だけでいいのかという問題も早晩、突き付けられかねない。感染を比較的抑え込んでいる福井県内でも一気に急増する恐れは否めない。首相や都道府県知事らリーダーには、医療現場や時短営業で苦境に立たされる飲食業などに寄り添いつつ、危機感を共有し柔軟かつスピード感を持って政策を打ち出す姿勢こそが求められている。国民、県民も「うつらない」「うつさない」という命を守る行動を徹底したい。
鯖江市は、サケの稚魚を子どもらに育ててもらい、その後日野川に放流する事業を2011年度から行っている。本年度で10年目となり、参加者はちょうど今、1月中旬ごろまで稚魚を育てているところだ。放流した稚魚は海に出て成長し、全てではないが数年後に日野川に戻ってくる。一連の流れを通じ、子どもたちは身近な自然を守る大切さを学べる。実践的な環境教育として、長く続けていってほしい事業だ。 市環境教育支援センター「エコネットさばえ」は、サケの受精卵が入った2リットルのペットボトルを500本用意し、昨年12月に希望者に配った。中の水は日野川のものだ。福井新聞鯖江支社も1本譲り受け、一同で楽しく観察している。 受精卵はオレンジ色の小さい粒で、見た目はイクラのまま。その後ふ化し、稚魚になってペットボトル内を元気に泳ぎ回る。稚魚のおなかには最初、オレンジ色の膨らみがある。中に栄養分が入っていて、これがある間は餌を与えなくても成長する。膨らみがなくなる1月中旬ごろ、エコネットに返却し、以降は日野川漁協が体長5、6センチまで育て、3月に放流する。 稚魚を育てる間、参加者は▽受精卵をもらった日▽ふ化が始まった日▽泳ぎだした日―を記録するなどして、成長の様子を観察する。この過程で稚魚への愛着が湧くし、ふ化の瞬間を見ることができれば生命の神秘に触れて情操教育にも役立つ。放流の当日だけ参加するより、育てる段階から関わることで、理解がいっそう深まるわけだ。 放流された稚魚はベーリング海などで成長し、3~5年後に体長50~60センチになり、産卵のため日野川に戻ってくるという。生まれた川のにおいを目指して戻るとされ、ペットボトルに日野川の水を入れるのは、このためだ。エコネットは子どもたちに「川が汚れてにおいが変わると、サケが迷子になってしまうよ」と説き、自然を守る大切さを伝えている。 市や日野川漁協などは15年から日野川で遡上(そじょう)調査をしており、確認されるサケの数は年々増えているという。関係者は放流事業や川の水がきれいになったことの効果を感じている。エコネットは水中カメラで撮ったサケの映像を、お魚教室で子どもたちに見せている。泳ぐ姿の迫力に「うわー」と歓声が上がるという。 遡上を知った子どもたちは「元々は自分が放流した稚魚かも」と想像を膨らませるだろう。自然を大切にすれば実際にサケが戻ってくるんだという手応えも感じるだろう。今後も事業が継続され、幼い頃に自然への確かな愛情を心に育んだ子どもが増えるのを期待したい。
政府は2050年の脱炭素社会に向けた「グリーン成長戦略」を策定した。再生可能エネルギーや電気自動車の普及など、あらゆる政策を総動員して「経済と成長の好循環」を目指す。ただ、新技術の開発や多大な費用が必要で、脱炭素社会への道のりは容易ではない。痛みを伴うが政策の転換で、短期的な削減目標の大幅な上積みも欠かせない。 成長戦略の実行計画は洋上風力や水素、原子力、自動車・蓄電池など14の重点分野を設けて目標年限や支援策を盛り込んだ。これをたたき台に議論を深め、企業の技術革新を喚起し、産業や社会構造の抜本的な転換を促す。政府は研究開発などを支援する2兆円の基金も用意した。日本もようやく脱炭素社会へ向けて本格的に動きだしたといえよう。 とはいえ、世界の動きはさらに先を進んでいる。「パリ協定」採択5周年を記念して昨年12月、国連が世界の首脳級によるオンライン会合を開催。菅義偉首相をはじめ多くの首脳が50年までに温室効果ガス排出量を実質的にゼロにする「ネットゼロ目標」を表明したが、グテレス国連事務総長は「50年ネットゼロだけでは不十分だ。30年までに10年比で45%削減するために今、大幅な削減が必要だ」と指摘した。 欧州連合(EU)、中国、英国などが新たな削減目標を公表。カナダのトルドー首相は上積みした削減目標とともに、二酸化炭素(CO2)排出量に応じて課税する炭素税の税率を、30年までに5倍以上にすると表明した。 現在の日本の削減目標は「30年度に13年度比で26%減」だ。これは10年度比では23%程度、1990年度比では18%程度の削減でしかない。90年比55%減のEU、68%減の英国とは比べものにならない。 多くの国では排出削減のための重要な政策として炭素税が導入されている。日本でも2012年から地球温暖化対策税が実施されているが、その税率は諸外国に比べて極めて低い。 目標上積みには、CO2排出量に応じて企業や家庭に経済的負担を課す「カーボンプライシング」(炭素税、排出量取引)の導入が有効とされる。「成長戦略」でも掲げ、菅首相は経済産業省と環境省に検討を指示した。また、建築物に厳しい省エネ基準を義務づけるといった規制の強化も求められる。 50年排出ゼロはもちろん、30年の大幅な排出削減も、従来の政策の延長では実現できない。排出規制や省エネ基準の義務化といった強力な規制策と、成長戦略に基づく技術革新や本格的な炭素税導入などの経済的な手法を組み合わせ、構造転換を図る必要がある。
菅義偉首相は年頭記者会見で、首都圏の1都3県を対象にした新型コロナウイルス特措法に基づく緊急事態宣言発令に言及した。ただ、週内の発令に向けて検討に入るとしただけ。これでは野党の指摘のように、再び後手に回りかねない。 首相は昨年の暮れにかけて「年末年始は集中的に対策を講じられる時期」「ウイルスに年末年始はない」「会合を控え、静かな年末年始をお過ごしいただきたい」などと発してきたが、実際の対策に関しては手洗いやマスク着用などの徹底を呼び掛けるのみだった。 政府の感染症対策分科会の尾身茂会長が「慣れ」によって国民の協力が得られにくくなっている状況だと指摘した通り、東京都の新規感染者数は年末に1337人と過去最多を記録。年明けも800人前後と高止まりしている。他の3県も一向に収まる気配はなく、現状では首都圏で全国の半分を占めている。 首相や政府の危機感が空回りした格好だが、「Go To トラベル」など一貫して経済を重視してきた姿勢が招いた事態ともいえるのではないか。首都圏では帰省は思いとどまったものの、その分、都内などでの会食にブレーキが利かなかったとの指摘もある。年末に「緊急事態宣言を出す状況にはない」とした首相の判断が甘かったと言われても仕方がないだろう。 宣言の発令は、1都3県の知事が求めたことを踏まえたものだが、首相は感染拡大が飲食の場で起きている場合が多いとの専門家の見方を示し、「限定的に、集中的に行うことが効果的だ」と強調した。昨年4月の安倍晋三前政権での宣言では人と人との接触を「最低でも7割、極力8割減らす」と幅広く活動を制限したことを振り返れば、どこまで感染の抑制につながるかは見通せない。実効性のある要請・指示ができるかが鍵となろう。 ここに来て、相変わらず政府と自治体との溝が指摘されている。飲食店の時短営業強化を巡り東京都が見送ったのに対して、首相は自治体側の不備を指摘。宣言に先立つ政府の要請でようやく自治体が繰り上げを決めた。責任を押しつけ合う姿は国民にとって不毛この上ない。政府と自治体はタッグを組み直すべきだ。 首相は会見で「給付金と罰則をセットにして通常国会に提出する」とコロナ特措法の改正に言及した。「第1波」の時点で求める声が上がっており、遅きに失した感は否めない。一方で改正には時間がかかり、逼迫(ひっぱく)する医療体制への即応性には欠けるだろう。首相は宣言再発令とともに「強いメッセージ」を込めたつもりだろうが、感染拡大を阻止できるかどうかは不透明と言わざるを得ない。
受験シーズンが本格化する。新型コロナウイルスの感染拡大が続き、試験に臨む中高校生たちの不安は例年以上に大きいだろう。試験機関には追試を含め、日程や会場などの周到な準備が求められる。その上で、受験生へのこまめな情報発信が欠かせない。両者ともに負担は大きいが、乗り切りたい。 今月16、17日に行われる大学入学共通テストについて、萩生田光一文部科学相は緊急事態宣言下でも原則実施すると明言してきた。国公立の一般選抜はもちろん、私立大も通常の個別試験で利用する大学があるためだ。さらに今シーズンは、新型コロナの影響で個別試験を中止する事態となった場合、共通テストの結果で選考する大学がある。 会場では座席間の距離を確保し、1科目終了ごとに換気するなど感染対策を取る。受験生は濃厚接触者であっても、無症状で、検査で陰性が確認されるなど条件付きで別室での受験が認められる。運営計画に落ち度はないか、体調不良の受験生への対応は想定されているか。シミュレーションが必要だ。 福井県内で会場となる福井大、県立大、福井工大では冬季休業明けから試験日までの間、全ての授業を遠隔で行うことを決めた。学生が県外に帰省する機会が増える中、学内で感染が確認され試験が実施できなくなるリスクを回避する。 万一、学内で感染者が確認されれば、施設の消毒が必要となる。教職員が自宅待機となり試験スタッフに欠員が出ることも予想される。こうした事情を在学中の学生にも知らせ、理解を求めたい。 各大学は個別試験の日程の延期や中止の検討も重ねている。緊急事態宣言やそれ以上の強い移動制限を課された状況も想定しておく必要があるだろう。福井県立大は筆記試験を中止する可能性を選抜要項で予告している。 中止や延期という話が独り歩きして混乱を招くことは避けなければならず、情報がきちんと受験生に伝わることが重要だ。計画に変更がないことも随時知らせ、情報発信については事前に予告して注意喚起したい。県立大では試験日の1週間前と2日前の2回、予定通り実施するかどうかを判断してホームページに掲載するという。 受験生は受験先の感染状況を含め、冷静に情報を整理したい。体調の変化に備え、追試がどのように実施されるかも把握しよう。大学側も電話やメールなどで受験生とコミュニケーションを取る構えが必要だ。
新型コロナウイルス禍の封じ込めは、日本だけでなく世界各国の2021年の願いであることは論をまたない。国内でいえばコロナ禍の収束なくして東京五輪・パラリンピックの開催はおぼつかないだろう。変異種の拡大が危惧される中、世界は一層、国際協調を強め、「公助」の充実はもちろん、「共助」の精神でこの危機を乗り越えたい。 ■「重要性増す」提言■ 昨年10月末に刊行された「緊急提言 パンデミック」(柴田裕之訳、河出書房新社)は、イスラエルの歴史学者で「サピエンス全史」などで世界的なベストセラー作家となったユヴァル・ノア・ハラリ氏の著書だ。新型コロナ「第1波」の昨年3月から4月にかけて米紙などに掲載された寄稿やインタビューをまとめている。 ウイルスの変異やコロナ後の監視社会の進展を指摘、集団的リーダーシップの必要性など幅広く提言している。驚くのは昨春の提言なのに今なお古さを感じさせない点だ。7月に寄せた序文でハラリ氏自身も「主要なメッセージはなおさら重要性を増したと思っている」とつづっている。翻っていえば、世界がいまだコロナ禍の克服に至っていないとの証左でもある。 注目すべきは「数カ月のうちに、いや一年かかるかもしれないが、研究室の面々が…効果的な治療法ばかりかワクチンさえも生み出してくれると、私たちは信じて疑わない」と断言していたことだ。 ■ワクチン接種本格化■ ハラリ氏の言葉通りワクチン開発は大きく進展している。臨床試験で高い有効性が相次いで報告され、米英やカナダに加え、欧州でも接種が本格化している。審査中の日本では、早ければ3月中にも高齢者らへの接種が始まる見込みという。 ただ、ワクチンの効果を過大視してはならないだろう。重い副反応がないか。ウイルスへの抗体がどの程度持続するのか。インフルエンザワクチンのように毎年、接種する必要があるのか。さらには高齢者や持病のある人に有効なのかや、相次ぐ変異種への効果も未知数だ。 「パンデミックに対する現実的な対策は、遮断ではなく、協力と情報共有」とハラリ氏。ワクチンの確立や変異種の解明に欠かせないのが国際協調だ。著書では「米国第一」を掲げたトランプ米政権を「空白」とまで称している。今ならバイデン次期政権への期待が語られていよう。 懸念されるのは独自に開発した中国やロシアが覇権の道具としか見ていないことだろう。囲い込みとも映る動きは取り残される国を生み、人的被害の拡大や新たな変異種拡散の可能性も否めない。 ■一義的「公助」急務■ とりわけ、日本は途上国へのワクチン提供を積極的に支援しなければならない。東京五輪・パラリンピックは世界各国が参加してこその祭典である。選手、関係者へのワクチン費用の負担を表明した国際オリンピック委員会(IOC)との連携も不可欠だ。 ただ、日本国内にワクチンが行き渡るまでにはまだまだ時間がかかる。英調査会社は、日本の社会が日常に戻る時期は22年4月と予測。東大医科学研究所の石井健教授(ワクチン学)は効果が実感できるようになるまでには最短でも4、5年はかかるとみている。ならば第3波が深刻化する中、対策が緩むようなことがあってはならない。 菅義偉首相は目指す社会像に「自助・共助・公助」を掲げ、まずは自助を求める。だが、コロナ対策で一義的に重要なのは「公助」であり、政府や自治体は医療体制逼迫(ひっぱく)回避や困窮した人たちへのセーフティーネット拡充などを進める一方、ワクチン接種への態勢整備も急ぐ必要がある。 個人レベルでは「共助」を再確認したい。マスクなどの感染対策は互いのためのものでもある。福井県内で感染が抑えられているのも「うつらない」「うつさない」の徹底にある。分断や孤立を助長しかねない誹謗(ひぼう)中傷を「やめる」「やめさせる」ことも共助と捉える視点を持ちたい。
新型コロナウイルスの感染拡大に世界が翻弄(ほんろう)された1年だった。収束の見通しが立たないまま、流行後初めて迎える年末年始。ここに来て、変異種の拡散の恐れも伝えられる。県内を含め日本海側では大雪の予報もある中、我慢の年越しを実践するなど命を守るための行動に徹したい。 今年は夏の「第2波」によりお盆の帰省を諦めた人も少なくなかった。その分いつも以上に年末年始に里帰りや旅行で家族、父母兄弟、旧友らと過ごしたいと強く望んでいよう。中には感染拡大が続く都市部へやむなく帰省する人もいるだろう。「自分がもし感染していたら」「自分も感染するかもしれない」と考え、行動や対策に万全を尽くしてもらいたい。 福井新聞の調査報道「ふくい特報班」(通称・ふく特)には、帰省したいと願う都会暮らしの息子を、何とか説得し思いとどまらせたとの投稿があった。投稿した母親は福祉施設の職員で、さらには高齢の祖父も同居しているという。同じように苦悶(くもん)した家庭も多いのではないか。 「第3波」の感染が急拡大している地域では、人員が手薄になる年末年始に特に医療体制が逼迫(ひっぱく)しかねない。福井県など感染を比較的抑え込んでいる地域でも一気に医療崩壊を招くような事態が懸念される。このため政府のコロナ対策分科会は「人々の交流を通じて感染が全国に拡大」しないよう「静かに過ごす年末年始」を呼び掛けている。 東京都では1日の新規感染者数が900人を超える日があるなど歯止めがかからない。担当者が「いろんなところで広がった結果」というように今や市中感染の様相だ。分科会の尾身茂会長は「感染経路不明の6割の多くは飲食店での感染と考えられる」と指摘。市中での感染者が無自覚のまま家庭や職場にウイルスを持ち込んだとの見立てだ。 尾身氏は「忘年会や新年会は基本的に見送って」「5人以上は控えて」「帰省は延期も含めて慎重に検討を」といった呼び掛けもしている。NTTドコモがまとめた26日午後3時時点の人出は全国の主要駅や繁華街計95地点の約7割で前週末から減少。28日からの「Go To トラベル」の一時停止もあり、人の移動は一定程度抑えられているようだ。 だが、それでも感染拡大が続くとしたら、菅義偉首相や政治家らが多くの人と会食を重ねる慣行を変えようとしなかったことが影響したとみられても仕方がない。国民に「会食してもいいのか」と事態を軽視させてしまった責任は重い。 民間有志が「第1波」を検証した報告書の肝は「泥縄だったけど、結果オーライだった」だろう。28日の対策本部会議で首相は「ウイルスに年末年始はない」などと「先手」を殊更印象付けたが、再び結果オーライとなるかは見通せない。
米国のNPO団体が定める「星空保護区」という認定制度がある。一般的になじみは薄いが、美しい夜空の保護・維持への取り組みをたたえる制度で、大野市は2023年度に南六呂師で認定を受ける目標を掲げている。環境省から日本一に選ばれたことのある星空を地域の「宝」として、さらに磨き上げる取り組みだ。 星空保護区は「星空の世界遺産」とも呼ばれる。天文関係者や環境学者らでつくる「国際ダークスカイ協会」が01年から認定している。国内では西表石垣公園(沖縄県)と12月に認定されたばかりの神津島村(東京都)の2カ所がある。 現代社会にはいろんな照明器具からの光があふれている。住宅の電灯や通りの街灯、飲食店などのネオン…。挙げればきりがない。安心して快適な生活を送るためには不可欠だが「光害」と呼ばれる影響もある。 例えば必要以上に明るかったり、対象以外を照らしたりする光は、住民の睡眠やプライバシーに影響する。動物の生息域や植物、農作物の成長にも変化を与えるという。エネルギーの無駄遣いという点でも問題だ。星空保護区の認定にはこうした光害を抑えるための屋外照明の管理も条件の一つになっている。 大野市内では04年に大矢戸、05年に六呂師高原が環境省の観測で夜空の暗さを示す数値が最も高く“星空日本一”に輝いた。周囲に余計な光がなく背景が暗いため、美しい星空を見ることができるという。 地元では何げない風景が都会に住む人たちにとって魅力的に感じることは多い。市は認定されることによって、あらためて地域のブランドや誇りに対する市民意識を刺激したいという。星空を観光資源として活用して地域経済の活性化を図る狙いもある。 保護区には六つのカテゴリーがある。同市は人が住む地域の近くで美しい星空が観測できる「アーバンナイトスカイプレイス」という分野でアジア初の認定を目指す。 現在、福井工大とパナソニックとの産官学連携で認定への取り組みを進めている。同社が開発した光害対策型のモデル灯2種類を南六呂師に設置した。防犯面で問題がないか今後、住民アンケートを行う。 市の取り組みに強い味方も現れた。今月中旬、市民10人ほどが“応援団”を立ち上げた。活動内容など具体的な動きはこれからだが、星空の魅力の情報発信や認定支援のグッズ販売などを計画している。大野の環境を生かした保護区認定への挑戦に注目したい。
ご当地グルメやスイーツなど「食」と連動した観光キャンペーンが、福井県越前市内で盛んに繰り広げられている。ランチを楽しんだ後は少し足を延ばして古いお寺や美術館へ―。新型コロナウイルスの影響で遠出や旅行する機会が減る中、こんな“緩い”観光プランが、今のご時世にマッチしているのかもしれない。 旧武生市街地には50以上の寺院が残り、法事やお供え物として和菓子の需要も多いことから、老舗和菓子店もあちこちに見られる。そこに着目して市観光協会が展開したのが「テンプルスイーツ」と銘打った企画。寺院の拝観料と和菓子の引換券をセットにして販売し、年配の女性らを中心に人気を集めた。 越前市の「3大グルメ」と称されるおろしそば、ボルガライス、中華そばをセットにして市内五つの飲食店で提供する「ひ三(み)つのごちそうセット」は、ご当地メニューを一度に味わえるとあって観光客の人気を集めた。ほかにも、通常より小ぶりなおろしそばを割安な価格で提供し、複数の店を食べ歩いてもらう「越前おろしそば三昧(ざんまい)」や、越前市生まれの絵本画家いわさきちひろが愛したイチゴのババロアを再現し、市内の洋菓子店で限定販売するキャンペーンなど、さまざまな企画を打ち出してきた。 越前市といえば和紙や打刃物、箪笥(たんす)などモノづくりの町としてのイメージが強く、観光という分野ではいまひとつ特徴に欠けていた。市内には多くの寺院や歴史的建造物が残り、しっとりとした雰囲気の古い町並みもあり見どころは多いのに、発信が足りないのか認知度が低いように思う。 北陸新幹線の県内延伸が迫る中、新たな観光素材の掘り起こしに向け市観光協会が仕掛けたこれら一連のキャンペーンは、越前市の豊富な食や観光地を市内外の人たちにPRする良い機会になったのではないか。 新型コロナの影響で遠出や旅行しにくい状況が続くが、こうしたランチやデザート目的の緩い観光なら気軽に楽しめそう。地元の人たちの参加も一定数あったといい、まちなかを散策したり、あらためて観光地に足を向けたりすることで古里の魅力を再発見するきっかけになったようだ。 おおむね好評だった食と観光の企画だが、今回は初めてという物珍しさもあったのかもしれない。市観光協はこれらの取り組みを継続させる構えで、協力してくれる飲食店などをさらに増やしていきたいという。一過性に終わらせず、市の新たな観光の方向性として定着させてほしい。
福井県内で農業を主な仕事とする「基幹的農業従事者」が5年前と比較し約5400人減少し、8767人となった。高齢化も進み、担い手不足が浮き彫りになった形だ。一方で農地の集約は進み、経営体の規模が拡大したことで、先端技術を使った「スマート農業」がクローズアップされている。将来的な普及は、競争力を持った持続可能な本県農業の鍵を握るとみられ導入支援は不可欠となってくる。 農林水産省がまとめた2020年農林業センサス(速報値)によると、基幹的農業従事者は2015年調査時には1万4182人だった。今回調査では8千人台にまで減り、実に4割も減った。それ以前の調査では、大きな変化はなかったことからもこの5年間の減少率は際立っている。 高齢化率も一層進む。65歳以上の割合は82・6%と前回から3・1ポイント上昇し、平均年齢は71・4歳となった。これは全国平均の67・8歳より3・6歳も高い。担い手が減少し、高齢化が進んでいるこの数字だけ見れば本県農業が危機的状況にも映る。 だが、調査では本県農業の別の側面も見えてくる。農業経営体は34・2%減ったものの、法人経営体は16%増となり、経営体が大きく減る一方で法人化が進んだ。経営耕地面積でも10ヘクタール以上の経営体の割合は60・3%と、14・8ポイントも上昇していることからも各経営体の規模が拡大しているといえる。 福井県は農地の集約化が進んでいる先進県でもある。農水省がまとめた担い手への農地集積率では、今年3月末時点で全国平均57・1%を大きく上回る66・7%。全国4位の集積率だ。 ではこれからの福井の農業をどう持続させるのか。鍵を握りそうなのが、先端技術を活用して作業を効率化、省力化する「スマート農業」だ。県内では昨年度から坂井、鯖江、小浜の3市で3件の農水省の実証プロジェクトが採択され、検証が進められている。衛星利用測位システム(GPS)機能搭載の田植え機や、自動走行トラクターなどを実際の現場に投入した。すでに耕運作業時間の短縮など農作業の効率化や省人化に対する有効性が確認されている。 スマート農業の導入効果は、農地が集約化されているほど効果は大きい。その意味で集約化が進んでいる福井には導入メリットが大きい。機械普及には導入コストが課題となるが、県をはじめ自治体は機器の購入助成制度などを充実させ後押ししてほしい。
五層八角の白亜の外観で知られる坂井市の「みくに龍翔館」は、どのように生まれ変わるのだろうか。2023年春のリニューアルオープンを目指し、港町三国の歴史文化を伝える館から「坂井市全体の博物館」に刷新する。新たな魅力をどう創出するのか注目される。 龍翔館は旧三国町立の郷土資料館として1981年に開館した。独特の外観は、オランダ人エッセルがデザインした旧龍翔小を復元したもので、三国のシンボルとして親しまれている。 ただ、入館者は開館当初は7万人を超えたものの、18年度は約1万2千人、19年度は約1万人となっている。オープンして約40年を経て施設の老朽化、バリアフリーへの対応が求められ、大規模改修に踏み切る。 ではどのような博物館を目指すのか。特徴的な外観と現在常設している大型展示は生かす方針だ。明治期に復元された高さ10メートルを超える三国祭の武者人形山車、北前船交易の主力として活躍した「ベザイ船」模型(5分の1サイズ)などである。 司馬遼太郎は著書「街道をゆく」で、この模型(千石船)について「日本でただ一艘(そう)千石船を再現したというのは、三国町の快挙というべきものにちがいない」と記している。貴重な展示物を継承する意味は大きいといえる。 リニューアルに関して龍翔館の学芸員は「坂井平野全域が河川を通じて三国湊につながる。ここから全国に物資が運ばれたように、山・里・町・海で構成される坂井市の歴史・文化や魅力を発信する」としている。 想定する展示例は▽三国祭の山車シアター▽坂井を駆ける武士たち▽三国湊の繁栄▽織物業の歴史▽三国箪笥(たんす)など工芸文化▽坂井ゆかりの作家-など多数で、建物1~3階に分けて展開していく。4階はこれまで通り展望室となる。 難しいのは郷土愛を育む展示に重きを置くのか、約6割を占める県外の入館者をうならせる見せ方にするかだろう。限られたスペースだけに、各コーナーでつながりをもたせないと、ばらばらな展示になるとの指摘もある。 北陸新幹線の県内延伸が1年遅れと決まった。リニューアルは、開業を見据えていたものだけに目算は狂った。だが、東尋坊、丸岡城、日本遺産に認定された三国湊といった主要観光地や学校との連携を一層強化し、入館者の大幅増につなげたい。 来年3月までに実施設計を作り新年度着工する。リニューアルは市の文化遺産を全国発信する一大チャンスである。輝く素材が多いだけに、分かりやすく、楽しい展示を期待したい。
安倍晋三前首相の後援会が「桜を見る会」前日に都内のホテルで開いた夕食会の費用を補塡(ほてん)したとされる問題で、東京地検特捜部は政治資金収支報告書に記載しなかったとして政治資金規正法違反の罪で、後援会代表を務める安倍氏の公設第1秘書を略式起訴した。安倍氏本人に関しては指示や了承といった具体的な関与はなかったとして不起訴処分にした。 安倍氏は24日の記者会見で「知らなかった」などと釈明したが、巨額の支出を秘書の一存で決められるのか。たとえ知らなかったとしてもホテル側の対応を巡って、国会で野党から何度も見積書や明細書を確認するよう求められながら「ホテル側は『営業秘密』のため開示できないと述べている」などと不自然極まりない答弁に終始していた。事務所の説明を疑問視し確認や修正する機会はあったはずだ。会見で「政治責任は重い」と述べ陳謝したものの「初心に帰って」と言うのみでは国民に響かない。 衆院調査局の調べでは、事実と異なるとされる安倍氏の答弁は少なくとも118回に上る。行政府のトップが立法府である国会をだますことを許してしまえば、三権分立は瓦解(がかい)する。重大さ、深刻さを考えれば、議員辞職に値するとの声が上がってもやむを得ない。官房長官として、安倍氏の説明をうのみにしてきた菅義偉首相も、人ごとでは済まされない。 税金で賄われる行事に地元後援会の関係者を大勢招き、前夜祭では自らの政治資金で接待した揚げ句、国会でうそを繰り返す―。憲政史上最長を誇った「1強」宰相の実像がこれでは国民は負のレガシー(政治的遺産)しか記憶にとどめないのではないか。 事実とは真逆の答弁を重ねた安倍氏が記者会見に続き、国会で説明を尽くし謝罪するのは当然だが、桜を見る会を巡っては、公的行事の「私物化」以外にも疑惑が残されたままになっている。預託商法の詐欺事件で逮捕・起訴された創業者の元会長が「首相推薦枠」で招待され、その招待状により被害の拡大を招いたとの疑惑もしかり。野党議員が資料請求した2019年分の招待者名簿が直後に廃棄された経緯もうやむやのままになっている。 首相当時の答弁が信頼できないとなれば、森友、加計学園問題についての一連の説明についてもあらためて疑念が膨らんでくる。財務省の決裁文書改ざんに発展し、自殺者まで出した森友問題などは、再調査も必要だろう。 政治不信が深刻なまでに深まっている。「一人一人の政治家が自ら襟を正す」と語っていたのは自身であり、身の処し方をいま一度自らが判断すべきだろう。
禁止薬物との決別なくして、スポーツの公正性が担保されることはない。 ロシアの組織的なドーピング不正を巡り、スポーツ仲裁裁判所(CAS)が裁定を下した。同国選手団を東京五輪・パラリンピックや2022年北京冬季五輪から除外するという、昨年12月の世界反ドーピング機関(WADA)の処分を支持した。 ロシアは自国開催の14年ソチ冬季五輪に際し、検体のすり替えや廃棄など国ぐるみの不正を行ったと認定されている。16年リオデジャネイロ・パラリンピックで選手団が除外され、18年平昌冬季五輪では個人資格での参加に限るという処分を受けた。 しかし、その後も違反の疑われる検体データの改ざんが判明し、WADAは昨年12月、東京五輪や各競技の世界選手権など主要大会から4年間ロシアを除外することを決めた。 フェアであるべきスポーツの世界で、隠蔽(いんぺい)工作を重ねてきた罪は重い。今回のCASの裁定は妥当といえよう。 ただ、ロシア一国を罰すればドーピング問題がすべて解決するわけではない。 WADAが昨年末に発表した、17年のドーピング違反に関する報告書によると、違反が最も多いのがイタリアで171件。以下、フランス128件、米国103件、ブラジル84件、ロシア82件と続く。全体では114カ国・地域に及んでいる。世界でまん延しているのが実情である。 ドーピング問題の根がかくも深いのは、いまだスポーツが勝利至上主義にとらわれ、国威発揚の場に利用されていることに加え、商業的価値が過剰なまでに付与されているからだ。 かつて米国でアスリートを対象に行われた調査では「五輪で金メダルが取れるなら5年後に死ぬとわかっていても薬を使用するか」との問いに半数が「はい」と答えている。こうした点では、莫大(ばくだい)なテレビ放映権料に財政基盤を置き、五輪を肥大化させてきた国際オリンピック委員会(IOC)の姿勢も問われてしかるべきだろう。 裁定では、当初4年間とされたロシアの除外期間が2年間に短縮された。「クリーンな国際スポーツに次世代選手の参加を促す必要性」を考慮したという。ロシアへの配慮が過ぎると反発の声も上がっているが、ドーピング根絶へ若者をいざなう機ととらえたい。 勝つ喜びと同時に、スポーツの意義やフェアプレーの精神、そして薬物による健康被害といった負の側面を若年世代から学ぶ仕組みを世界が連携して作らねばならない。時間はかかるだろうが、そうした活動を地道に続ける以外に根絶の道は開けない。
北陸新幹線金沢-敦賀の開業遅れ、建設費上振れを巡る国の方針が決まった。与党の申し入れを重く受け止め、2024年春開業、地元負担の最小化、23年春の敦賀以西着工に努力すると国土交通相名の文書で約束した。敦賀以西に踏み込んだことは評価できる。 23年春の敦賀開業は「厳しい」。10月9日、与党整備新幹線建設推進プロジェクトチーム(PT)の細田博之座長の発言から、事態はめまぐるしく動いた。 11月11日に国交省が与党PTに対し、開業が1年半遅れ、建設費が2880億円膨らむと報告。再検証を求めた与党PTに対し、わずか1カ月で半年の工期短縮、222億円の建設費縮減策をまとめた。再検証結果を受けた与党PTも短期間に会合を重ね、12月15日に官邸に申し入れ、2カ月ほどで決着した。 当初から与党PT内には、専門家である鉄道建設・運輸施設整備支援機構、国交省が「間に合わない」と結論付けた以上、ある程度の開業遅れはやむを得ないとの雰囲気があった。地元負担の圧縮、そして開業遅れと引き換えに23年春の敦賀以西着工を確約させることが焦点だった。 建設費について福井県や県選出の自民党国会議員が求めたのは「地元負担ゼロ」。ただ、国交省はJRが支払う線路使用料(貸付料)を充てた上で、残りを国と地方が2対1で負担する財源スキームの変更に否定的だった。 福井県など北陸3県は3回にわたり中央要請。県選出の自民党国会議員らも財務省、官邸に働きかけるなど水面下での協議が続いたが、最終的に「最小化」という表現に着地した。地元自治体も一定の負担を容認していたとみられ、それぞれが現実的な落としどころを探った結果といえる。 地元負担の議論の一方、与党PTは敦賀以西の23年春着工に関して早い段階から動いた。口約束ではなく文書でどう担保するのか。県選出の自民党国会議員らは政府、与党の申し合わせの改定に合わせ、敦賀以西を盛り込む道を探った。 しかし、政府予算案の閣僚折衝で整備新幹線の建設費を巡り、国費計上の条件として予算の適正執行を求めたほど、財務省は国交省の執行ミスを批判していた。財務相が絡む政府、与党の申し合わせの改定は難しく、申し入れという形に落ち着いたとみられる。 敦賀開業の遅れが県内に与える影響は大きい。ただ、与党として23年春の敦賀以西着工を打ち出し、政府に認識させたことは前進だ。敦賀開業に続き、敦賀以西の着工が遅れることは許されない。財源や環境影響評価、鉄道・運輸機構の組織のあり方など課題は多いが、確実に前に進めたい。
政府は一般会計総額で9年連続で過去最大となる106兆6097億円の2021年度予算案を閣議決定した。新型コロナウイルス対策を名目に予備費5兆円を計上するなどしたためでこれを除いた歳出は前年並みに抑えられた格好だ。 ただ、20年度に計上した予備費のうち5兆円はまだ使い道が決まっていないという。政府の裁量で支出が決められる巨額費用は機動的に使ってこそ意味があるが、後手に回るような施策では有効性も心もとない。一方で、さらなる積み増しにより、あたかも「政権のポケットマネー」のように使われかねず、透明性の担保は喫緊の課題だろう。 予備費以外は前年並みとはいうものの、それは追加経済対策の支出の多くを20年度第3次補正予算案に計上したゆえのことだ。当初予算の膨張が翌年度以降も続くことを避けたいという財務省の思惑が透けてこよう。それでもコロナ禍による経済の低迷で税収が1割近く減る見通しの中にあっては、大盤振る舞いの印象は拭えない。 それを象徴するのが、9年連続で増え過去最大の5兆3422億円を計上した防衛費だろう。懸念されるのは、計画断念に追い込まれた地上配備型ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」の代替として「イージス・システム搭載艦」2隻の導入調査費などを盛り込んだことだ。 調査費そのものは17億円と小さいが、導入が決まれば総額は「5千億円以上」とされ、地上型を上回る額になる恐れも否めない。さまざまな疑問があるのにコロナ禍のどさくさ紛れで既成事実化するようなやり方も不信を招きかねない。 歳入をみれば、税収不足を補うため新規国債を43兆5970億円発行する。当初予算ベースでは11年ぶりに増加に転じ、歳入に占める国債依存度は40・9%とまさに「借金漬け予算」だ。結果、21年度末の長期債務残高は1209兆円と国内総生産(GDP)の2倍超に上る見通しで、財政健全化は一段と遠のく。 菅義偉政権で初の編成となった今回の予算について経費削減や財政立て直しといった声はほとんど聞こえてこなかった。主要国最悪の財政事情にある以上、税収確保の在り方や道筋の議論は避けて通れないはずだ。東日本大震災では復興財源の確保に向けて増税に踏み切った。コロナ対策でも国民負担を検討すべきとの指摘もある。 税収回復や格差是正への視点が示されるべき与党税制改正大綱では、結果的に税負担軽減のオンパレードに終始した。ばらまき予算と並んで、次期衆院選対策との指摘は免れない。首相は高齢者の医療費負担増を決める際、若い世代の負担抑制が「待ったなしの課題だ」と訴えた。片や、将来世代へ巨額のつけ回しには目を背けるのか。整合性が問われてしかるべきだ。
国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に、宮大工や左官職人らが継承してきた「伝統建築工匠(こうしょう)の技 木造建造物を受け継ぐための伝統技術」の登録が決まった。 古くから伝えられきた技術が高く評価されたのは喜ばしいが、職人の世界は高齢化が進み、後継者難といった課題もある。登録を機に伝統の技への関心を高め、誇りをもってこの道を歩む職人を増やしたい。 対象は木工や左官など17分野の技術。瓦屋根や茅(かや)ぶき屋根、建具や畳の製作のほか、建物の外観や内装に施す装飾や彩色(さいしき)、漆塗りも含まれる。 全て国の「選定保存技術」となっており、文化財建造物保存技術協会や日本伝統建築技術保存会、金沢金箔(きんぱく)伝統技術保存会など14団体が保存団体に認定されている。 法隆寺をはじめとする歴史的建築遺産の保存修理には高度な技術が用いられ、近現代の建築物にも生かされている。棟梁(とうりょう)を中心とする職種を越えた組織の下、伝統を受け継ぎながら工夫を重ねて発展してきた。 屋根の茅ぶきなどの作業には地域住民が関わることがあり、社会の結束を強める役割も果たしてきた。 檜皮(ひわだ)や茅、漆、い草などの育成や採取により多様な森や草原が保全されることは、持続可能な開発に寄与する。無形文化遺産への登録はこうした意義が認められたことになる。 ただ、一般の建物への需要がないため、専業としては成り立たず、重労働も求められ、後継者の育成が困難となっている分野も少なくない。熟練を要する技術者の養成には時間もかかる。伝統建築には欠かせない重要な技術をどう伝えていくのか、関係者からは悩みも聞かれる。 そこで今回の登録を機に現場見学会を催すなど、文化財に関わる仕事について知ってもらう機会を増やしてみてはどうか。 例えば、福井市では大安禅寺が国重要文化財の本堂など8棟の大規模修理を進めている。文化財建造物保存技術協会が設計監理を担い、約12年に及ぶ数百年に一度の大事業だ。本堂は屋根の解体のため瓦を一枚一枚降ろし、古い部材でも耐久性があれば補修・補強して再利用される。同寺では見学スペースを設け、修理の様子を一般の人も見ることができるようにしている。進捗(しんちょく)状況はホームページでも公開している。こうした情報発信を通して、文化財修理が後世に残る、やりがいのある仕事であるとの理解を深めたい。 また、文化財修理は、次代を担う若手に技術を伝える貴重な機会にもなる。関心を高めるとともに、若い職人に活躍の場を広げることも必要だ。
県内のNIE(教育に新聞を)新規実践指定校の担当教諭らが集った「全国大会東京大会」の視聴会で、作家真山仁さんは新聞の役割を「知らないことを知り、疑問を持つきっかけになること」と指摘した。会員制交流サイト(SNS)が普及するなか、課題を見つけ、解決する力を育むNIEの一層の浸透を期待したい。 自身も新聞記者の経験のある真山氏は、東京大や中高一貫の難関進学校で学生に教えた経験などをもとに講演した。若者が新聞記事を読まずに、SNSで自分の価値判断を追認してもらい、安心感を得ている現状を指摘した。 参加教諭からは、県内でも似たような状況にあるとの声があった。「SNSで追認してくれるものだけを読む、というのはまさにその通りだと思った」との感想は、NIE実践指定校だけでなく、教育現場全体で認識すべきだ。 SNSの弊害としてよく指摘されるのは、似たような価値観ばかりに触れることで、考えが偏ってしまう点だ。他者を受け入れられなくなり、多様な考えが持てなくなるのではとの懸念もある。 新聞は紙面を広げると次々と見出しが目にとまる「一覧性」がある。自分の好む情報だけでなく、さまざまなニュースを知ることができる。大切なニュースは、目にとまるように大きな見出しで扱い、反対意見も載せてバランスを取る。「多様な考えを知り、根拠を持って自分の考えを述べる」ことを重視する今の教育に、新聞が必要とされるゆえんだ。 真山さんは「批判にのっかるのではなく、事実をベースにしないと意見は言えない」とも強調した。批判する学生に、事実を問うと「知らない」とこたえ、事実を教え、間違いを指摘すると、簡単に非難を引っ込める―。知らないことを知ることなく、価値観を同じくするSNSの論調に安易に賛同する現状に危機感を隠さなかった。 一方で、視聴会の参加教員からは新聞、ラジオ、テレビ、ネットとメディアの特性を知る大切さも指摘された。GIGAスクール構想で児童生徒一人一人に端末が配備され、デジタル社会は加速する。「子どもたちにメディアの特性を考えさせ、情報を受け取る側のしっかりとした心構えが大切」との意見に賛同したい。長所や短所を把握して確かさを見極めるリテラシーを高めていく必要があるだろう。 真山さんの講演は2月28日まで日本新聞協会ホームページで視聴できる。教育現場で新聞の必要性が高まるなか、新聞の役割や特性を知るきっかけにしてほしい。
新型コロナウイルスの影響で、えちぜん鉄道と福井鉄道が苦境に立たされている。2020年度上期の乗客数は19年度同期に比べて3割以上減少した。感染の収束は依然として見通せず、今後も厳しい経営が予想される。一方で、人口減と高齢化が加速する中で地域鉄道の役割はさらに増していく。逆境の今、身近な生活の足をどう生かしていくか、みんなで考えたい。 20年度上期のえち鉄の乗客数は約117万人。19年度同期を約39%下回り、人数にすると約75万人減少した。新型コロナで春先に一斉休校や外出、旅行控えが重なり、通学定期と観光・イベント目的の定期外の利用が大幅に落ち込んだ。 19年度上期の乗客数は毎月30万人を上回っていた。これに対し20年度の4月と5月はいずれも約13万人にとどまった。6~9月は学校再開や国の観光支援事業「Go To トラベル」などで持ち直しの動きがみられたが、コロナ禍以前の水準には回復しなかった。 福鉄の20年度上期も厳しかった。乗客数は19年度同期より約33万人減の約71万人。約32%減少した。内訳をみると、えち鉄同様に定期外の落ち込みが大きく約22万人減、通学定期も約11万人のマイナスだった。 全国の同業他社も苦しんでいる。国土交通省中国運輸局は、中国地方で地域鉄道や路面電車を運行する事業者に資金繰りの状況を調査した。10月時点の収入が続いた場合、経営を何カ月保てるかを尋ねたところ、「6カ月以上1年未満」と答えた事業者が6割を占めていた。担当者は「新型コロナに伴う外出自粛やテレワークの普及で移動需要がしぼんでいる」と話す。 11月以降、感染の第3波が都市部から各地に広がっている。本来なら帰省シーズンの年末年始も地域鉄道の利用増は期待できそうにない。えち鉄と福鉄にしても、県や沿線自治体などの支援で運行を継続しているものの、ウィズコロナという「ニューノーマル(新常態)」においては、乗客数は元に戻らない可能性もある。どうすべきなのか。 11月に施行された改正地域公共交通活性化再生法には、地域鉄道や路線バスを組み合わせた「定額制乗り放題運賃」など利用者目線によるサービス改善の促進が盛り込まれた。従来通り感染防止策を徹底した上で、異なる交通モードを「サブスクリプション(定額制)」のようなサービスで一元的に利用できるようになれば、新たな需要の掘り起こしにつながるだろう。 えち鉄と福鉄は県や沿線自治体、住民と連携し、乗客数をV字回復させた。ウィズコロナの時代における新しい地域公共交通網のあり方を官民で探り、再び全国のモデルになりたい。
大会経費は肥大化の一途をたどるのか。 来夏に延期となった東京五輪・パラリンピックの追加経費が2940億円に上るという。東京都が1200億円、大会組織委員会が1030億円、国が710億円をそれぞれ負担することが決まった。延期前の計画では、開催経費は総額1兆3500億円とされた。今回の追加で約20%増の1兆6440億円になる。 ただし、大会運営に直接関わらない経費はここに含まれていない。例えば、大規模に受け入れる予定の外国人観光客に対する入国時の新型コロナウイルス対策費。国が負担するが、今回の追加経費には含まれていないという。全国各地で展開されるホストタウン活動における新型コロナ対策費も同様だ。 これらが「五輪経費」でないというのは無理があろう。今回960億円と見積もった新型コロナ対策費も、こうした関連費を含めれば、さらに膨れ上がる。追加経費の実相は総額2940億円で収まらないと考えるのが自然だろう。 会計検査院は昨年12月、2018年度までの6年間に国が関連事業に支出した費用の総額が1兆600億円に上ったとの調査報告書をまとめた。組織委や東京都が見込む関連経費を合わせれば、総コストは3兆円に達することが確実とみられている。 今回のように、明らかに五輪に関連する事業費まで大会経費に含まないのは、コストを少しでも低く見せるためでは、との疑念を抱かれても仕方あるまい。 政府は五輪を景気浮揚の起爆剤と考えているのだろう。当初来年1月末までとしていた観光支援事業「Go To トラベル」を同6月末ごろまで延長する方針を表明したのも、「Go To」から五輪へと間を空けずにつなげ、より大きな経済効果を生み出すのが狙いとみられる。そこまで五輪に望みを懸けるのであれば、求められるのが国民への丁寧な説明である。 組織委の負担金が協賛企業のスポンサー料など民間資本であるのに対し、国や東京都の資金が公金である以上、なおさらだ。追加経費の分担について組織委の森喜朗会長は「(東京都、国、組織委の3者で)理屈をつけて整理しているので、ご理解をいただきたい」と国民に呼びかけた。だが、どのような理屈か国民に届いているだろうか。 新型コロナの行方は、収束に向かうかどうかをはじめ不透明な要素が多い。大会運営に関しても、払い戻されたチケットのあらためての販売方法やその売れ行き、観客動員もつかめない。そんな状況下での追加費用である。コロナ下での大会像を国民に提示し、納得を得る努力が不可欠だ。
菅義偉首相は、新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからない状況を受け、観光支援事業「Go To トラベル」を28日から来年1月11日まで全国一斉に停止すると表明した。コロナ対策分科会の再三にわたる提言のほか、内閣支持率の急落に見られる世論や自治体などからの声も無視できなくなり、ようやく重い腰を上げた格好だ。 政府は今月半ばまでを「勝負の3週間」としながら、感染防止策は小出しでむしろ経済活動にこだわってきた。感染者は1日当たり3千人を超えるまでに拡大。重症者も連日のように最多を更新し600人に近づく。先週末の人出は全国主要駅や繁華街の全95地点の約7割の地点で前週より増えるなど危機感が浸透していないことは明らかだ。 GoToトラベルを主導してきた首相は「感染拡大の主因との証拠はない」と言い続け、全国一斉の一時停止を表明した後も「そこについては変わりません」と明言。確かに「最大5兆円の経済効果、46万人の就業誘発効果があった」(加藤勝信官房長官)だろうが、一方で、外出自粛に対する国民の気の緩みを招いたとの指摘は免れない。 首相は「年末年始は集中的に対策を講じられる時期だ。静かに過ごし、コロナ感染を何としても食い止めることに協力してもらいたい」と呼び掛けた。ただ、勝負の3週間と表した時点で強力な対策を講じていれば、観光関連業のかき入れ時を失するような事態にはならなかったはずであり、首相の呼び掛けは強弁のようにも映る。 さらに、28日からの一斉停止に「すぐにも止めるべきだ」といった声が上がっている。札幌、大阪の2市に加え、東京都や名古屋市に対する利用停止や自粛を求めてはいるものの、コロナ用病床の直近の使用率がステージ3(感染急増)の目安の一つである「25%以上」は22都道府県に上る。とりわけ医療体制が脆弱(ぜいじゃく)な地方では一気に逼迫(ひっぱく)、崩壊に陥りかねず、早急な対応が欠かせないはずだ。 首相が導入したGoToトラベルに自らブレーキをかければ、政治責任を問われかねないためか、「各首長と調整している」などと自治体に責任を転嫁するような言動も目立った。強力な対策が遅れた分、効果は限定的で今後に悪影響を及ぼすとの懸念も専らだ。 感染が再拡大するドイツではメルケル首相が部分的ロックダウン(都市封鎖)を「十分ではなかった」と非を認め、人々の振るまいに対して「多数の死者という代償になっているならば受け入れがたい」などと感情をあらわに危機感を訴えたという。菅首相はリーダーシップの在り方を自らに問い直すべきだろう。
トップランナーの越前がにに追いつけ、追い越せ。越前がれい、若狭ぐじの最上級ブランド「極(きわみ)」が相次いで誕生した。大きくて姿、形がよく、鮮度が長持ちするよう漁業者によって一手間加えられた福井の魚のおいしさが、さらに全国に広まるきっかけになってほしい。 越前がにに続く「極」シリーズ第2、第3弾になる。 越前がれいは県産アカガレイ、若狭ぐじは県産アカアマダイで独特の甘みが特長だ。「極」は2魚種ともに大きさ800グラム以上を認定する。さらに越前がれいは9月~翌年1月に取れた雌のみ。刺し身やすしとして生で味わえるよう、死後硬直を遅らせる血抜きと神経締めを施し、鮮度を維持。黒地に金色で「極」と書かれた円形の専用タグがつけられるのは同じだ。 希少性も高い。県産アカガレイは年間漁獲量が約800トンあり、そのうち「極」サイズは2%ほど。年間を通して取れる県産アカアマダイも70~100トンのうち3%未満。県水産課によると800グラム以上の若狭ぐじは4千円前後で取引されており、ブランド化でさらに高価格が見込まれる。 鮮度のいい状態が長くなれば、料理人の使い勝手がよくなる。既に小浜、京都市内からの引き合いがあるという。 今月10日の若狭ぐじ極のお披露目会には刺し身、うろこをつけたまま揚げた松笠(かさ)揚げが振る舞われた。外はさくさく、身はふわふわとあって好評だった。 刺し身は水揚げから4日たったもので「コリコリしてかみ応えがあり、ほんのり甘さがある」との評価の一方で「べちょっとした感じがする。(漁獲から)間をおきすぎてると思う」との指摘もあった。 県水産課は「(若狭ぐじは)刺し身で食べる文化がないので、刺し身としてプッシュしていきたい」という。お披露目会参加者には、4日たっても生で食べられることのアピールになったが、現実的には料理人の感覚で、より新鮮な状態で提供されることになるだろう。 三つそろった「極」シリーズに関係者の期待は大きい。旅館関係者は「お客さまにまとめてPRできる」と喜ぶ。 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、ニーズが高い京都や東京で2魚種を発信する場は設けられなかった。まずは県内から、じわじわ全国へ。県内を訪れた観光客だけでなく、イベントなど県民も味わえる機会をつくってほしい。県民ぐるみでこのブランドを育てていきたい。
若狭町で里山を散策できる「若狭トレイル」の整備が始まっている。大自然や眺望を楽しめ、周辺の歴史遺産にも触れることができるトレイルは全国で人気が高い。地元にとっては里山の景観を保持し、心身の健康維持に役立ち、誘客も期待できるとメリットが多い。2022年度の整備完了を目指しており、北陸新幹線開業時に多くの利用者が訪れるようになるといい。 若狭町を一周する形の若狭トレイルは、常神半島の先端から尾根を通り、標高約842メートルの三十三間山や滋賀県高島市境、上中地域の水田地域、三方五湖のほとりなどを通る全長約50キロのコースを想定する。 現在は危険箇所のチェックなどを含めルートを確定させており、22年度には道標設置などを終える予定という。初心者も安心して散策できるよう、コース整備に力を入れている。 また、若狭トレイルの一部として、熊川宿から高島市境へと続く全長11キロの熊川トレイルも整備が始まり、年度内に熊川宿を見渡せたり、河内川ダムの景観を楽しめたりできるデッキを3カ所設ける計画だ。若狭、熊川などのコースが複数あることで、体力や旅行形態などに合わせて選ぶことができ、誘客層の拡大も期待できそうだ。 誘客面で参考になるのが、若狭、熊川両トレイルと県境で接する滋賀県の高島トレイルだ。07年に整備され、ルート両端の愛発越(あらちごえ)と三国岳を結ぶ約80キロの間に、千メートルに満たない峰が連なる。初心者も歩きやすく多くの頂を踏めると人気だ。琵琶湖や若狭湾が一望できるのも魅力の一つで、近年は年間3~4万人が訪れている。 高島トレイルでは、NPO法人や観光協会などがホームページや会員制交流サイト(SNS)などで山の特徴や魅力などを多数発信。ガイドツアーの案内のほか、初心者への注意の呼び掛けなどを行っている。丁寧な情報発信が功を奏しているようで、四季を通じて愛好家が訪れ、散策を楽しんでいる。 若狭トレイルでも今後、マップ作成のほか、魅力的なモデルコースやツアーの設定などに加え、高島トレイルとの連携方法の模索なども必要だろう。 ウィズコロナ、アフターコロナではアウトドアが注目されると予想されており、トレイルは老若男女が楽しめる底辺の広さを持つ。湖や山、里、海など若狭の美しい自然のバリエーションを楽しめる若狭トレイルだけに、全国の利用者が訪れるコースとなることを期待したい。
【論説 】新型コロナウイルス「第3波」の拡大が一向に止まらない。菅義偉首相や政府が感染防止の徹底を呼び掛けた「勝負の3週間」も残り1週間となり、個々人の取り組みには限界があることが露呈。医療の逼迫(ひっぱく)の最前線に身を置く医師らからは「人の移動を制限するため、政府が強いメッセージを出すべきだ」との声が上がるのも当然だろう。 全国の新規感染者は11月下旬から急増、1日当たり2500人前後の日が続いて死者数も過去最多を相次ぎ更新している。9日には最多の2810人の感染が確認され、重症者もこれまでで最も多い555人となった。政府の分科会がステージ3(感染急増)の目安の一つとしている「病床使用率25%以上」の都道府県も相次いでいる。 医療体制が逼迫する北海道旭川市や大阪府では要請に応じて自衛隊の看護師らが派遣される事態にまでなった。旭川市は病院として国内最大のクラスター(感染者集団)が発生するなどし、市内のコロナ病床は70%弱が埋まった。大阪府も連日300~400人台の新規感染者を出し、確保してある重症者用病床の使用率が70%を超えた。 確保病床ではコロナ以外の患者が使っていたり、空いていても医療スタッフの確保がままならない病床が含まれたりするなど、実際の逼迫度はさらに深刻とみられる。現に「大阪コロナ重症センター」は開始目前で必要な看護師が確保できない状況に陥っている。 大阪府で重症患者を受け入れている大学病院の院長は、患者がさらに増えれば他の傷病者の治療に支障が生じ「助かる命も助からなくなる」と窮状を訴え「使命感でやっているが、ゴールが見えない。限界が来ている」という。北海道の医療関係者らは「現場には赤信号がともっている」と国などに医療崩壊を防ぐ早急な手だてを求めている。 相変わらずなのが、現場のこうした悲痛な声を一考だにしない政府の姿勢だ。専門家である分科会の尾身茂会長でさえ、政府の観光支援事業「Go To トラベル」を一時停止すべきだとの考えを改めて示しているのに、政府は自治体任せにするなどして動こうとしない。分科会は助言するだけで、判断するのは政治の側だと言わんばかりだ。 だが、専門家と違う判断を下したり、第1波時とは判断が変わったりしたというなら政治の側が説得力ある説明をすべきだ。首相は臨時国会閉会の記者会見で「強い危機感を持って対応している」としたが、コロナ後に力点を置いたとしか思えない会見だった。第3波をどう乗り切るのか、国民に積極的に語りかける「対話力」こそが指揮官に求められているはずだ。
政府が閣議決定した新たな経済対策は、国の予算が約30兆6千億円、民間投資を含めた事業規模は約73兆6千億円と巨額になる。 ただ、新型コロナウイルス感染拡大防止を最大の目的とした対策のはずが、菅義偉首相肝いりのグリーン(脱炭素社会の実現)やデジタルといった分野が盛り込まれるなど合理性の観点からは違和感が拭えない。急務のコロナ対策との抱き合わせで国会を通過させやすいという思惑からだろう。真に必要なら2021年度当初予算に計上し、精査を経るのが筋だ。衆院解散・総選挙を意識した規模拡大との批判は免れない。 新型コロナの急拡大で景気は再び下降傾向にあり、政府には路頭に迷いかねない人や世帯を早急に救済する責務がある。ひとり親世帯を支援する臨時特別給付金は年内にも再支給することが決まった。さらに、困窮する人の家賃を公費で補助する住居確保給付金の支給期間を3カ月延長し、休業などで減収した人に最大20万円を特例で貸し付ける緊急小口資金の申請期限も来年3月末まで延長する。まずはこれら支援策の周知徹底を図りたい。 雇用対策の面では、企業が支払う休業手当の一部を補塡(ほてん)する雇用調整助成金も延長される。ただ、来年2月までの措置で3月以降は段階的に縮小していくとの方針だ。第3波の収束が見通せない中、さらなる延長も視野に入れるべきだろう。対照的なのが観光支援事業「Go To トラベル」の来年6月末までの延長であり、感染リスクを高めるとの国民の不安をよそに首相や与党は前のめりだ。感染状況に応じた弾力的な運用が欠かせない。 政府が「コロナ後を見据えた経済構造の変換」に向けて目玉としたのが脱炭素化や、大学研究の基盤強化のための大型基金創設だ。これらの基金は支出期間が複数年にまたがるのに加えて、無駄遣いを防ぐ監視の目が行き届きにくい面が否めないという。グリーンやデジタルが新たな成長の突破口として期待されるのは理解できるが、国民の目に今、どうしても必要とは映っていないはずだ。 懸念されるのは、財源とする20年度の国債発行額が当初予算と1、2次補正の計約90兆円に加え、3次補正で100兆円を突破するのが確実なことだ。例年の当初予算に匹敵する額になる。確かに100年に一度の国難であり、出し惜しみは避けたいが、一方で政府、与党から一向に気に掛ける声が上がってこないという。それどころか、国土強靱(きょうじん)化予算が積み増しされるなど防災・減災対策が選挙対策にすり替わったかのような感もある。規模拡大ありきでは、将来へのつけ回しは膨れ上がる一方だ。
児童虐待防止法施行から20年になるが、対応件数は増加の一途で毎年最多を更新している。行政だけで解決できるものではなく、子どもの権利を守るという意識の下、社会全体で考えなければならない問題だ。 1989年に国連で採択された「児童の権利に関する条約」を日本が批准したのは94年4月。99年度には全国の児童相談所が受けた虐待の相談・通報件数が初めて1万件を超え、2000年11月に防止法がスタート。今春には親による体罰禁止を盛り込んだ改正児童虐待防止法が施行された。 厚生労働省のまとめでは、19年度に全国の児相が児童虐待として対応したのは19万3780件(速報値)。前年度比21・2%増で、統計開始以来29年連続で最多を更新した。福井も884件と前年度より246件増えた。 警察との連携強化や、国民の意識の高まりで通報が増加した可能性が指摘されているが、児相への負荷が増す一方であるなど課題は多い。「子どもたちの命を守ることを最優先に」(加藤勝信官房長官)の言葉通り、政府は児相や地域の見守り体制強化を着実に進めてほしい。 その政府の取り組みが不十分との国連委員会の指摘もあり、日本財団が設置した有識者会議は「子ども基本法」の試案を作成。子どものSOSを受け止める国レベルの組織を設けることなどを提案している。政府は「(児童福祉法など現行法で)必要な法整備はできている」と反論してきたが、国際的には遅れているとの認識を持ち、新たな施策を考えるべきだ。 もちろん、国任せでいいわけではない。福井県と県警はこのほど、家庭への立ち入り調査を想定した合同訓練を行い、父母が立ち入りを拒む際の説得や、児童保護までの流れを実践形式で確認した。児童虐待防止を呼び掛けるオレンジ色のリボンを配ったり、自治体に啓発チラシを寄贈したりする県内企業・団体もあった。民間でできることは限られているかもしれないが、地道な活動で県民の意識が高まることは大切だ。 新型コロナウイルスの流行で、家庭時間が長くなったことによる虐待見過ごしやストレスによる親の暴力が懸念されるなど新たな問題も生じた。政府も「新型コロナの影響も注視する必要がある」との認識を示している。 難しい時代ではあるが、今こそ子どもが虐待を受けず、命を守られて生きる権利を定めた国連条約の理念を地域社会の一人一人が受け止めることが肝要だ。
来春卒業予定の大学生の就職内定率(10月1日現在)が、前年同期より7・0ポイント低い69・8%にとどまった。1996年の調査開始以降、リーマン・ショック後の2009年(10年3月卒)の7・4ポイント減に次ぐ下落幅となった。新型コロナウイルスの感染拡大の影響が大きい。 一方、コロナ禍はバブル崩壊後の就職難に遭った「就職氷河期世代」を積極採用するなどの支援を難しくしている。そうした人たちの救済と、第二の就職氷河期世代をつくらない取り組みが必要だ。 大卒内定率はここ数年、学生優位の「売り手市場」が続き、70%台後半が続いた。ところが今年は、緊急事態宣言発令を機に就職説明会が中止になるなど情報収集や相談の機会が減少。オンライン面接など採用方法も変わる中、学生の出だしが遅れ、コロナ禍の深刻化で採用を手控える企業が増えてきた。最終的な就職率は例年、年度末にかけて上昇するものの、コロナ禍の収束が見通せない中、厳しい状況は続きそうだ。 ただ、就職先が決まっていない学生の多くは就活へ意欲を見せている。能力のある学生に働き口がないのは社会的な損失だ。福井労働局は7日、県内の経済団体に採用維持・促進に向けた配慮を求める要望書を提出した。企業や大学、行政機関には採用情報の提供や面接会開催など、きめ細かい支援策を講じてもらいたい。 また30代半ばから40代半ばの「就職氷河期世代」は、希望する就職ができず非正規労働に就いたり、無業や引きこもりの状態にあったりするなど、さまざまな課題に直面している。このため厚生労働省は昨年、同世代活用支援プランを策定し、官民共働による一丸的な推進体制を築く方針を打ち出した。 これに基づき福井県では6月に福井労働局、県、経済・労働団体などで構成する「ふくい就職氷河期世代活躍支援プラットホーム」を設置。本年度から3カ年計画での取り組みを始めた。 県内の不安定な就労者(35歳~44歳)は2800人、長期無業者(同)は1545人と推計されている。 国の支援プログラムでは正規雇用者を3年間で30万人増やすことを目指しており、福井県の場合だと1551人が目安となる。ハローワーク福井に専門窓口を設置し、就職相談から職場定着まで伴走型支援を実施する。就職に有効な資格習得などの支援にも取り組む。 ただ、全国的には政府の支援要請に対して企業の対応は鈍い。このままでは将来の社会保障に悪影響を及ぼしかねない。逆風下ではあるが、個人の状況に応じた手厚い支援が必要だ。
国の重要文化的景観に、越前海岸の水仙畑が選定されることになった。2005年に同景観が設けられて以来、県内では初の選定であり、さらに花の栽培地としては全国初だ。海沿いの斜面や棚田に広がる県花「水仙」の畑が、集落住民の暮らしを理解する上で欠かせない景観と評価されたことは喜ばしい。現地には生産者の高齢化や獣害といった課題があり、選定が解決につながるきっかけとなることを期待したい。 重要文化的景観は、地域の人々の営みや風土によって形成された景観地で特に重要なものを国が選定し、修繕費などを補助する。今回で全国70件となる。 越前海岸の水仙畑は福井市の「下岬」、越前町の「上岬」、南越前町の「糠」の3件が対象となった。いずれも平地が少なく冬は海が荒れる厳しい住環境の中、自生していた水仙を住民たちが栽培地を広げ、特産物に発展させてきた。まさに重要文化的景観の趣旨に沿う地域だ。 一方で、厳しい現実もある。一つは生産者の高齢化だ。選定を受けて記者が関係者に取材したところ、越前町の集落では「担い手は若くて60代、メインは70代」との実態が聞かれた。急斜面で滑り落ちるのをこらえながらの草刈りや球根の植え替えは、大変な労力がいる。寒い冬に水仙を収穫し、冷たい水で洗って選定するのも、きつい作業だという。こうした栽培活動を高齢者が担っている。 獣害も拡大している。水仙畑でイノシシが球根を掘り起こしたり、シカが花や葉を食べてしまったりする。柵を設置して対策しているものの、獣に突進されて壊されるなど毎年メンテナンスが必要という。そもそも急斜面での柵の設置や補修自体が大きな負担だ。 越前海岸は日本水仙の三大群生地の一つとして知られ、冬の日本海を望む斜面にかれんな花が咲く景観は、県内の代表的な観光資源として愛されてきた。芳香に包まれるイベント「水仙まつり」や、かすり姿でまつりをPRする「水仙娘」も広く親しまれてきた。 今回の選定を受け、県や3市町は獣害対策を強化するほか、水仙畑の景観の魅力を発信して交流人口を増やし、担い手確保につなげたい考えだとしている。地元住民からも、助成や支援を期待する声が聞かれる。 県民の誇りといえる水仙の栽培が今後も持続可能な産業となるよう、関係者一体でアイデアを凝らし、取り組みを進めてもらいたい。今回の選定が水仙の注目度を高め、畑の保全の追い風となってほしい。
関西電力大飯原発3、4号機の耐震性を巡り、福井県などの住民らが起こした訴訟の判決で大阪地裁は、新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断を「看過し難い過誤、欠落がある」とまで断じ、設置許可を取り消した。 これまでの原発を巡る司法判決では、個々の安全性を判断して運転差し止めなどを命じたケースはあったが、今回は新規制基準に基づく原発の安全審査の手法を否定した初の判決であり異なる重大な意味を持つ。同様の手法で基準地震動を算出してきた多くの原発の信頼性についても影響が及ぶことは避けられない。規制委は判決を重く受け止めなければならない。 2013年7月に施行された新規制基準は、11年の東京電力福島第1原発事故以前、炉心溶融などの重大事故への対策は電力会社の自主的な取り組みに任されていたことの反省を踏まえたものだ。同様の事故を二度と起こさないとの使命を負って策定、施行された。以降は自然災害やテロへの対策も必須とし、独立性を高めた規制委が審査を担っている。 今回の判決は、規制委が適合性を審査し、再稼働に「お墨付き」を与える手続きに疑念を突き付けた格好だ。控訴すれば判決の効力は直ちに生じないとはいうものの、住民側の勝訴が確定した場合、より厳格な耐震基準で再評価し、改めて許可を得るまで稼働できない可能性がある。電力関係者が「判決が確定すれば、全ての原発が無関係ではなくなる」と危惧するのも当然だろう。 福島事故後の県内原発に関する訴訟や仮処分では、大飯原発3、4号機を巡る14年の福井地裁が初めて運転差し止めを命じ、関電高浜原発3、4号機についても15年に福井地裁、16年に大津地裁が差し止めの仮処分を決定している。ただ、いずれもその後の上級審などで覆され、確定した例はない。 今回、規制委と司法の判断が逆転したことで、再び翻弄(ほんろう)される事態となった。規制委の判断に不備があるのならば、安全最優先の観点から、国は判決の趣旨に沿ってそれぞれの原発で本当に安全と言えるのかを再検討し、経過や結論について住民に丁寧に説明していく責務があろう。 そもそも国が原発をどう活用しようとしているのかが見えてこない。菅義偉首相は50年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロとする政策目標を掲げ、太陽光など再生可能エネルギーの導入拡大を軸とする一方、原発については「原子力を含むあらゆる選択肢」と言及するのみにとどまっている。そうした曖昧な姿勢に終始することなく、将来像を明確に示すべきだ。
菅義偉首相は新型コロナウイルスの感染急拡大を受け先月26日に「この3週間が極めて重要な時期だ」と正念場を訴え、国民に対策の徹底を呼び掛けてきた。それなのに臨時国会を延長せず、無為無策のままやり過ごすかのような姿勢はあまりに無責任ではないか。 全国の1日当たりの感染者数が2千人を超える日が続き、死者、重症者も過去最多を更新するなど、国民の不安は増幅するばかりだ。そんな中、観光支援事業「Go To トラベル」を巡って国と東京都が対立し、揚げ句に高齢者ら一部の人に対する自粛要請というインパクトに欠ける内容で合意に至った。 国と都道府県の権限の在り方はこれまでも課題に挙げられてきた。その点、野党4党が2日に国会提出した新型コロナ特別措置法の改正案は、知事の権限強化や、知事が営業の自粛要請をした際の給付金に対する国の財政支援などを柱にし、国会での検討、立法に資するものといえる。 ほかにも、家賃補助の期限延長や小口融資制度の限度額引き上げなど、この年末年始に路頭に迷いかねない人や世帯向けの支援、さらには飲食・観光業者らへの助成も臨機応変に対応する必要がある。2次補正予算で計上した予備費はまだ7兆円ある。新たな立法措置が急務となる場合もありそのためにも国会を開いておくべきではないか。 政府、与党は閉会中審査の開催要求には柔軟に対応するとしているが、法案の成立などは考えていないようだ。それどころか国会を既定路線通り閉じるのは、野党の追及から逃れたいとの思惑からだろう。 その一つが安倍晋三前首相の「桜を見る会」前夜祭の費用補塡(ほてん)問題だ。ここに来て東京地検特捜部が政治資金規正法違反の疑いで公設第1秘書を立件する方針を固め、安倍氏本人に事情聴取を要請したともされる。安倍氏は当時「補塡した事実は全くない」などと述べてきた。野党が国会で虚偽の答弁をしたとして招致を求めるのは当然だ。 加えて、自民党の吉川貴盛元農相が鶏卵大手業者から現金の提供を受けていた疑惑も発覚するなど、政治家とカネを巡る問題が相次いでいる。国会議員自らが疑惑を解明し、責任を明らかにするよう努めることは衆院の政治倫理綱領にも明記されている。安倍氏らは自ら国会の場で説明責任を果たさなければならない。 菅首相は国会閉会に合わせ、4日夕にも記者会見を開く方針だ。本格的な記者会見は国内では2回目という。日本学術会議の会員任命拒否問題などで連発した「答えを控える」に終始することなく、国民の不安や疑念に真摯(しんし)に向き合うメッセージこそ求めたい。
65歳以上の高齢者と基礎疾患がある人に利用自粛を呼び掛ける―。「Go To トラベル」事業を巡り菅義偉首相と東京都の小池百合子知事とのトップ会談で合意に達した内容に「何を今更」と思った都民、国民も少なくないはずだ。新型コロナウイルスの感染状況をみれば、東京発着を制限するのが当然とする意見が大方だっただけに拍子抜けの感が否めない。 小池知事は理由について「東京の経済規模は極めて大きく、全国への波及効果も大きいため」と経済への影響を考慮したという。確かに「トラベル」で都市部は無論、地方の観光業者らが救われた面は否定しない。一方で、地方の知事らからは、感染者の急増が飛び火する懸念があるとして、運用見直しの対象となった札幌、大阪2市と同様に東京を扱うべきだとする声も少なくなかった。 重症化する人の多くが高齢者だけに、今回の高齢者らへの自粛要請という対応は理にかなうように思えるが、専門家は「元々感染に注意していた人たち。移動制限を要請しても、医学的には合理性はない」と指摘。都内の高齢者からも「感染拡大は若い人の旅行の影響もあると思う。高齢者だけ制限しても効果は低い」と疑問視し「GoTo自体をやめるべきだ」と厳しい意見が出ている。 東京都の2日の感染者は4日ぶりに500人となった。1日時点の直近7日間で平均した1日当たりの人数は444・9人で過去最大と悪化傾向が続いている。全国でみると、1日の死者数は41人に上り過去最多。重症者数も493人となり、9日連続で最多を更新した。死者、重症者とも第1波、第2波をしのぐ勢いで増えており、歯止めがかからない。 とりわけ、医療関係者の危機感は強い。各都道府県は感染ピークを視野に病床の確保を進めているが、看護師ら医療スタッフの人員不足などから感染者増に追いついていない。大阪では看護師確保のため、全国でも珍しい若いがん患者専用の病棟を近く一時閉鎖するという。本来なら助かるはずの命が脅かされ、最悪失われてしまう事態こそが医療崩壊というべきものだ。 政府は、今月半ばまでを「勝負の3週間」と位置付け、国民に感染防止対策の徹底を呼び掛けている。東京都など7都道府県では酒類を出す飲食店などに営業時間の短縮を要請し、協力金を出す動きが出ているが、家庭や職場などでの感染が急増している中で、前回ほどの効果は見込めないとの声もある。感染抑止と経済の両立にはおのずと限界があるだろう。命と暮らし双方がダメージを受け続けかねない状況は何としても避けなければならない。
福井県民として何とも誇らしい気分だ。プロ野球ソフトバンクの栗原陵矢選手(旧春江工高出身)が日本シリーズで最高殊勲選手(MVP)に選ばれ、オリックスの吉田正尚選手(敦賀気比高出身)はパ・リーグ首位打者に輝いた。ともに福井市出身のプレーヤー。長くトップレベルで活躍し、福井の子どもたちに夢を与え続ける選手であってほしい。 今季のプロ野球は新型コロナウイルスの影響で開幕が6月19日にずれ込んだ。調整が難しい中、プロ6年目で初の開幕スタメンを果たした栗原選手は、延長十回にサヨナラ打。チーム一番乗りでお立ち台に上がった。レギュラーシーズン120試合中118試合に出場し、いずれもチーム2位の107安打、17本塁打、73打点でリーグ優勝に貢献。クライマックスシリーズは5打数無安打に終わったが、日本シリーズという最高の舞台で再び輝いた。 第1戦で巨人のエース菅野智之投手から先制2ラン、2点適時二塁打を放つなど3安打4打点。2017年の1軍初打席で打ち取られた好投手を打ち砕いた。第2戦はシリーズタイ記録の1試合4安打。全4戦で打率5割(14打数7安打)、1本塁打、4打点の成績を残した。 これは高校時代の恩師、川村忠義さん(現福井商高野球部監督)の教え「逃げない」「今できることを精いっぱいやる」を実践し積極的にバットを振った結果だろう。チームの4年連続日本一へ勢いづかせた1、2戦の活躍で、福井県勢としては12年、当時巨人の内海哲也投手(西武)以来となるMVPを獲得。栗原選手は今年最後の試合でもお立ち台に上がり、飛躍のシーズンを最高の形で締めくくった。 オリックスの吉田選手は昨季、打率3割2分2厘、29本塁打、85打点の成績を残した。プロ5年目の今季に懸ける思いは開幕前から強く、シーズン前から「タイトルを一個でも多く取りたい」と目標を掲げていた。 新型コロナの影響で調整が難しかっただろうが、丁寧に体をつくり上げ食事のバランスにも気を配ったという。イチローさんを抜く24試合連続安打を放つなど好調を持続。「全打席に集中」した結果、打率3割5分で堂々の初タイトルを手にした。来季に向け「本塁打など多くのタイトルを目指す」と意気込み、「好成績を残せば五輪につながるはず」と来夏の東京五輪代表メンバー入りへ意を強くする。 栗原選手、吉田選手とも福井に生まれ、小中高時代を福井でプレーしプロ入りした身近な選手だ。今後もさらなる高みを目指し、子どもたちの憧れの存在であり続けてほしい。
新人同士の激しい一騎打ちとなった勝山市長選は、前副市長の水上実喜夫氏(61)が、元市議の松村治門氏(52)を破り初当選した。現職の山岸正裕氏(75)から後継指名を受け、路線を継承しながら「新しい勝山をつくる」と訴えた水上氏に市民は今後4年間の市政運営を託した。山岸市政20年を踏まえつつ、今後どう独自カラーを打ち出していくのか注目していきたい。 20年ぶりの新人対決となった市長選。昨年、6選不出馬を明らかにした山岸市長の後を受け、今年8月に水上氏は立候補を表明した。38年にわたる行政経験を強く市民に訴え選挙戦を戦った。課題は知名度とされたが、政党や区長会など200を超す団体などから推薦を得て、組織を軸に手堅く票を固めた。 前回の市長選で211票差で涙をのんだ松村氏は、今回「大切なのは今」と現市政からの変革を強調した。しがらみを断ち切るため推薦団体などの組織に頼らず、草の根の活動を続けた。ビデオ会議アプリなどを使いながら新しい公共交通システム導入や教育などについて自身の考えを訴え、勝負に挑んだが届かなかった。 新しい市政のかじ取り役を決める重要な選挙に市民の関心は高かった。投票率69・94%は、前回2016年と比べ6・59ポイント増えた。期日前投票も前回より1367人増え、5911人に上った。 激戦だったため、演説会などで相手方を中傷する発言が両陣営からあったと聞く。勝山市の代表を決める選挙として、残念と感じた市民も少なくないだろう。 水上氏は商工観光部長、副市長などを歴任、勝山の現状を十分知るだけに課題解決の大変さも痛感しているのではないか。 選挙戦でも強く訴えてきた県立恐竜博物館や道の駅「恐竜渓谷かつやま」などを軸にした「観光の産業化」の実現に向けては「市内への宿泊者の増加」を鍵に上げる。 ほかにも加速する人口減少への対応や、長尾山総合公園の再整備、新型コロナウイルス感染拡大に伴う市内事業者に対する下支えなど、迅速で的確な対応が迫られるだろう。 「選挙戦では(任期の)4年で実現の見込みのないものは訴えなかった。市民からみると、面白みがなかったかも知れないが、しっかり取り組めるものを話してきた」と、当選翌日に語った水上氏。選挙戦を通じて得た数多くの市民の声をどう市政に落とし込んでいくのか、まずは今後4年間の取り組みを注視したい。
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