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多様な交通手段を一体的に提供する「MaaS(マース)」と呼ばれる次世代移動サービスの導入に向けた動きが全国的に広がる中、石川、富山両県では加賀市と富山県朝日町で、国土交通省のモデル事業に採択された実証実験が行われている。金沢、富山両市や能登地区などでも研究や協議を進めており、地域の足の確保に知恵を絞って、活性化につなげてもらいたい。 マースとは、鉄道やバス、タクシーなど、多様な交通手段を組み合わせて提供するサービスで、利用者はスマートフォンのアプリで、経路検索や予約、運賃の決済などを行う。都市部の交通渋滞緩和や地方の交通弱者対策、観光振興などが期待されているが、地方では公共交通機関のサービス維持が難しくなっており、事前予約に合わせた運行システムなど、地域の実情に応じた仕組みづくりが普及のカギといわれている。 加賀市では、マースの一環で今月15日から、市内の高齢者を温泉やカフェ、観光施設などに車で送迎する実証実験を開始した。翌週の外出予定を高齢者に尋ね、当日は予約時間に集合場所までタクシーが迎えにくる仕組みで、外出の機会を増やし、生きがい向上につなげる。利用は無料で、2月中旬まで実験を行って成果を検証し、新年度以降の本格導入を目指す。 現在は新型コロナウイルスで、利用の面でも影響があるだろうが、新しい交通サービスは、高齢化が進む地域の暮らしの質を高める上で欠かせないだろう。 昨年8月から自家用車を活用した実証実験を行っている朝日町では、1月から有償での運行が始まった。町が認定した住民や町職員の運転する車に、別の住民が乗る仕組みで、運転手が走れる時間帯や行き先などを登録し、住民が電話や携帯のアプリを使って予約する。8月から11月末時点の乗車人数は延べ143人で、今後、事業の持続可能性を検証していく。 マースは、利用者にクーポン配布や各種情報を提供して、観光、商業施設と連携するなど、さまざまな活性化策が考えられている。各自治体で可能性を探ってほしい。
中国海警局の武器使用を認める「海警法」が成立した。沖縄県・尖閣諸島の実効支配を目指す中国の覇権的行動がさらに強まると見なければならない。 岸信夫防衛相と米国のオースティン新国防長官の電話会談は、タイミングよく中国をけん制する意味があった。ただ、尖閣諸島が日米安保条約第5条の適用対象であるという再三の表明にもかかわらず、中国は、及び腰の日本の足元を見透かすように、じわじわと威嚇行動を拡大している。 東シナ海や南シナ海で実効支配を強める中国の行動は「サラミ戦略」と言われてきた。戦争原因となるのを巧妙に避けながら、少しずつ現状を変更し、大きな戦略目標を達成するやり方で、茂木敏充外相も昨年の参院外交防衛委員会で、サラミ戦略という言葉を公式に使って警戒を強めた。 海警法の制定も、まさにサラミ戦略の一環と言わなければならない。武器を使用できる海警局船は日本漁船の脅威となり、ますます尖閣海域へ行きにくくなる。新法に基づき、海警局船が尖閣海域の紛争防止を名目に自国漁船を拿捕すれば、どちらが尖閣の実効支配者か分からなくなろう。 海警局は共産党中央軍事委員会の管轄下にあり、軍と実質的に一体化しているが、表向きは海上法執行機関であり、尖閣海域で衝突が起きても直ちに自衛隊や米軍が出動するわけにはいかない。 米軍による日本防衛義務を定めた安保条約第5条の尖閣適用表明は、日本にとって心強い。が、中国に対する抑止効果に期待し過ぎてはなるまい。第5条が定めた日本の「施政下の領域」への防衛出動は、米議会の承認など米国憲法の規定に沿って決めることになっており、「尖閣有事」に米軍が確実に出動する保証はない。 そもそも、米政府は尖閣諸島に対する日本の施政権は認めても、主権の保有は明言せず、曖昧さを残していることを忘れてはならない。中国はそうしたことも見越して動いていよう。日本は抗議と警戒活動だけでなく、尖閣の実効支配を具体的な形で示すことを真剣に考える必要があろう。
少子高齢化などで、祭礼や伝統行事などの継承が難しくなっている中、石川、富山両県で地域の財産に新たな光を当てる自治体や地区の取り組みが広がっている。担い手不足に加えて、新型コロナウイルスの影響で存続が危ぶまれるケースも増えており、官民で知恵を出し合って、地域の宝を次代に受け継いでいきたい。 折しも射水市の「放生津(ほうじょうづ)八幡宮祭の曳山(ひきやま)・築山(つきやま)行事」が国の重要無形民俗文化財に指定される見通しになった。北陸の祭りの価値が高まるとともに、文化財をどうやって守っていくかを改めて考える契機になるだろう。 政府も祭礼や郷土料理などの無形文化財や無形民俗文化財の登録制度を設ける方針で、通常国会での文化財保護法の改正を目指す。国と地方がそれぞれの役割を果たして、地域の取り組みを後押ししてほしい。 コロナ禍によって、冬季の恒例行事である能登のユネスコ無形文化遺産にも影響が出た。農耕儀礼「あえのこと」は外部見学者の受け入れ中止やオンラインによる配信などの対応を取り、「アマメハギ」は、地区によって世帯回りを中止したり、簡略化するなどして、継承と発信に苦心している。 各地域に多くの伝統行事があり、守り続ける難しさが増した1年だっただろう。活動の機会が減っており、次代に伝える取り組みの強化が求められている。 金沢市が検討している「金沢歴史文化遺産登録制度(仮称)」は、伝統行事や自然、郷土料理などを登録する。地域に伝わる「未指定の文化財」を継承する狙いがあり、市民アンケートで420件の推薦があった。輪島市は外浦の景観や輪島塗など「地域の宝」を分類し、両市とも文化財保存活用地域計画に盛り込む方針である。市民らが身近な宝の価値を見直すきっかけにもなるだろう。 地区独自の文化財制度も設けられており、能登町岩井戸公民館や氷見市熊無自治会では、地区に伝わる建物や技術、樹木などを対象にしている。各地でふるさとの良さを伝え、活性化につながる資源を掘り起こしてもらいたい。
厚生労働相の諮問機関である労働政策審議会は、男性の育児休業取得の促進策として、子どもの誕生後8週間内で夫が柔軟に休める「男性版産休」制度を柱とした報告書を正式決定した。厚労省は今国会に育児・介護休業法などの改正案を提出する。中小企業にとってハードルが高い面はあるが、わずかずつでも取得しやすい環境整備を進めたい。 報告書では、男性の育休取得率が1割に満たず、期間も8割が1カ月未満という現状を受けて、妻の産休期間に合わせ2週間前までに申請すれば、最大4週分の休みを2回に分けて取れるようにすることを求めた。企業には、子どもが生まれる社員に対して育休取得の働き掛けを義務付ける。 厚労省によると、2019年度の育休取得率は、女性の83・0%に対して男性は7・48%。10年で5倍程度に伸びたが、北欧諸国などの70~80%と比べて際立って低く、25年に30%とする目標達成は程遠い。日本で取得率が低い理由として「取得しづらい雰囲気」を挙げる人も多いだけに、勤務先の環境改善が求められる。 厚労省が、2012年に20代だった男女の結婚や就業を追跡した調査では、夫が休日に家事や育児に全く参加しない夫婦のうち2人目以降の子どもを産んだのは50・0%だった。夫が2時間未満でも参加した夫婦では72・5%と、20ポイント以上の差があった。 夫の育児参加がない場合、子育ての負担が増える妻が出産に否定的になる傾向が見て取れ、男性の育児参加が、少子化に少なからぬ影響があることが示された。 民間調査では、育児休業を取得中の男性の3人に1人は、家事・育児に関わる時間が1日2時間以下だった。家事に不慣れだったり目的意識が低かったりするのが主な理由で、育児の充実度が課題となっている現状も見えてきた。 県では、家庭を持つ男性社員らを対象に子育て講座を開催し、子育て支援に取り組む企業を「応援企業」として認定している。自治体が企業や当事者双方の後押しをする中で、社会が男性の育休を受け入れる環境を整えていきたい。
日本酒や焼酎の世界ブランド化に向け、菅義偉首相は施政方針演説で、国連教育科学機関(ユネスコ)無形文化遺産への登録を目指すことを表明した。 世界的に日本酒の人気が高まる中、価値ある食文化の視点から国際的評価が加われば、輸出の増加にも追い風になる。良質で多彩な美食と美酒を持つ北陸としては、コロナ後の外国人旅行客の誘致に弾みをつけるためにも、海外も含めた地酒の発信に力を入れたい。 ユネスコの無形文化遺産には、昨年12月に石川の縁付(えんつけ)金箔や富山の茅(かや)採取などを含む「伝統建築工匠の技」が登録されたばかりであり、今後も豊作祈願や厄払いの踊り「風流(ふりゅう)踊」の申請が予定されている。茶道や神楽、書道なども登録を目指すなど、日本酒や焼酎のほかにも、日本からの申請がめじろ押しの感がある。 日本酒や焼酎に関しては、こうじを用いた醸造技術に文化的価値が認められるかどうかが焦点となるが、2013年に日本の和食が登録されていることから、日本の食文化に欠かせない要素として、和食と一体でアピールしたい。 文化庁は、芸能や工芸の分野で高い技術を持つ個人に与えられる「人間国宝」の対象に、和食の料理人や酒造りの職人(杜氏(とうじ))を加える方向で検討している。こうした食文化の担い手の確保への取り組みも、無形文化遺産の登録に向けた土台づくりとして、ユネスコの評価につながるだろう。 日本酒については、国内消費量が伸び悩む中、輸出に関してはコロナ禍で20年は低迷したものの、19年まで10年連続で輸出額が増加しているように、人気は定着している。最大の輸出先である米国との間で規制緩和の動きが進み、19年に発効した欧州連合(EU)との経済連携協定でも関税の段階的撤廃が盛り込まれた。 コロナの収束を見据えた誘客への環境づくりを進める意味で、北陸の酒造業界も、無形文化遺産登録の動きと相まって、輸出戦略に一段と力を入れたい。海外の評価の高まりは、日本酒の価値を見直す契機になり、国内需要の回復にも好影響を与えるはずである。
大雪被害に遭った地域で除雪中の死亡事故が多発している。共同通信の調べでは15日時点で雪による人的被害の死者は石川1人、富山2人を含め11県で少なくとも65人に上り、1月中旬としては異例のハイペースとなっている。犠牲者のうち65歳以上が8割近くを占め、屋根の雪下ろし中に転落する事故が目立つ。 気温の上昇に伴い、落雪や土砂崩れなど融雪による災害が発生しやすくなっている。除雪作業はなるべく単独行動を避け、周囲に危険箇所がないか確認するなど安全第一を心掛けてほしい。 今回の大雪で、石川県では除雪中に意識を失った白山市の70代が死亡した。志賀町では排雪しようと後退させた軽トラックが海に転落し、運転していた80代が意識不明で搬送された。富山県でも除雪のため外出して用水に落ちたり、自宅敷地内で屋根雪の下敷きになった80代の犠牲者が続いた。 高齢者ほど過去の豪雪体験が過信につながり、身体能力の衰えを意識せず作業する傾向があるという。悲劇をなくすために除雪時の危険性を十分認識したい。2017年度冬でも雪害死者116人のうち9割が除雪中の事故だった。 除雪作業は事故発生時に対応できるよう複数人で行うのが基本だ。1人の場合は近所に声を掛け、携帯電話などを所持する。事故が多い屋根の雪下ろしは命綱やヘルメットを着け、転落した時のため地面に雪を残しておくことも大事だ。寒気が緩んだこれからは屋根からの落雪に気を付けたい。水分を含んだ重い雪塊が直撃すると軽傷ですまないことがある。 専門家によると、除雪は心臓に負担がかかる激しい運動に入り、寒い日は血管が収縮し心筋梗塞を起こしやすい状況にあるため特に高血圧などの人は要注意だ。 除雪事故の多発は、高齢化と過疎化が進む地域では力仕事をカバーする共助機能が低下し、雪害リスクが高まっている一面を浮かび上がらせている。各自治体は除雪が滞った地域事情を把握し、雪下ろし作業や除雪機購入の補助など拡充が必要でないか支援策の点検にも取り組んでもらいたい。
富山県が新型コロナウイルスの警戒レベルを「ステージ2」に引き上げたのに続き、石川県も新たに運用を開始したモニタリング指標に基づいて、現状をステージ2の「感染拡大警報」段階とした。 ステージ2の「警報」は、同ステージの「注意報」より警戒レベルが高く、基本的な感染予防の徹底でしのげる、ぎりぎりのレベルになる。県民一人一人が一段と警戒を強め、予防策をきめ細かく実践していくことで、石川、富山両県の感染状況をステージ2の範囲にとどめたい。 石川県で気になるのは、指標の一つである病床使用率が22日現在で、50・8%とステージ4(50%以上)の水準に達していることだ。確保済みのコロナ用病床258に対し、ほぼ半数が埋まっている。 それでも178人の感染者のうち、無症状・軽症者の一部は宿泊療養ホテル(340床)に入所しており、全体ではまだ余裕がある。県は宿泊療養ホテルについて、入所基準の一つである年齢を60歳未満から65歳未満に引き上げた。医療スタッフの確保など難しい課題を克服し、さらに病床を上積みしていく努力を続けてほしい。 厚生労働省によると、例年、1~2月にピークを迎えるインフルエンザの報告数は、2021年2週(1月11日~17日)で、わずか65件しかなく、石川はゼロ、富山は1件にすぎない。これはマスクの着用や手洗い、うがいの実施、3密の回避といったコロナ対策が、インフルエンザ予防に絶大な効果を発揮しているからだ。 我慢してマスクをしていても、予防効果は実感できないが、インフルエンザの患者が例年の0・01%以下に抑えられているということは、今やっている予防策が間違っていない証拠ともいえる。 コロナはインフルエンザより手ごわく、やっかいな相手であったとしても、予防効果は確実にあることを理解しておきたい。 全国の状況をみると、緊急事態宣言の対象外である群馬、三重、宮崎、熊本、沖縄などもステージ4のレベルにある。東京都がやや落ち着いてきた一方、地方では悪化しているようにみえる。
バイデン米大統領が就任初日に早速、公約の「パリ協定」復帰を国連に申請した。温室効果ガス排出量が2番目に多い米国が、地球温暖化対策の国際枠組みに再び加わることで、「脱炭素社会」を目指す国際的な流れは決定的になったと言える。 菅義偉首相もこうした世界の潮流に合わせ、石炭や石油など化石燃料の依存度を抑えて、2050年までに国内の温室効果ガス排出を実質ゼロにする政府目標を打ち出した。バイデン政権と目標を共有し、地球環境分野での連携を強化することは重要である。 米国の環境政策は、日本の産業やエネルギー戦略に大きな影響を及ぼす。バイデン政権の政策が急進的にならないか留意しながら、目標実現の戦略を練りたい。 バイデン氏は、2035年までに電力部門の二酸化炭素(CO2)排出をなくす目標を掲げ、環境重視派が強く拒絶する石炭だけでなく、石油や天然ガスの国内生産を抑制する方針である。政権発足と同時にカナダ産原油を米国内に送るパイプラインの建設許可を取り消したのは象徴的である。 世界最大の液化天然ガス(LNG)輸入国の日本は、オーストラリアやマレーシア、カタールなどのほか、シェールガスの生産を拡大した米国からの輸入を増やし、調達先の多様化を図ってきた。そうした政策は、米政権の生産抑制方針で見直しを迫られる可能性がある。経済産業省は、非効率な石炭火力発電を30年度までに段階的に休廃止する方針であるが、石炭火力の依存度引き下げをさらに考える必要もあろう。 米国としては、石炭の生産、消費量が最大の中国に、「脱石炭」の圧力をかける思惑もあるようだが、アジアではまだ石炭に頼らざるを得ない国が多い。当面、アジアへのLNG輸出に力を入れる方が賢明ではないか。 バイデン氏の環境政策で見落とされがちだが、再生エネルギーに偏らず、温暖化防止に貢献するとして原子力発電を支持し、CO2回収・利用技術の開発などにも熱心である。菅政権も歩調を合わせ連携できる点であろう。
日銀が21日発表した「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)で、2020年度の実質GDP(国内総生産)成長率の見通しを前年度比マイナス5・5%から同5・6%に下方修正した。新型コロナウイルスの感染拡大で、緊急事態宣言が11都府県に再発令されるなど、厳しさを増す経済状況を反映したものだろう。 特に営業時間の短縮要請により、飲食店などの事業環境が厳しくなっている関係で、「全体として徐々に持ち直している」とされた個人消費についての判断が「飲食・宿泊等のサービス消費において下押し圧力が強まっている」に引き下げられた点が目を引く。 富山県が飲食店に時短営業を要請し、応じた店舗に協力金を支払うなど、時短要請は11都府県以外にも広がっている。時短営業や外出自粛が長引けば、地域経済への悪影響は避けられない。大人数での宴席や大声での歓談、カラオケの使用を厳に慎み、感染拡大に歯止めをかけたい。 石川県では今月、7件のクラスター(感染者集団)が発生し、感染者数の3割近くを占めている。うち2件は成人式後の会食が原因だった。これ以上クラスターを出さぬために、個々人が飛沫(ひまつ)防止を強く意識して行動してほしい。 東京商工リサーチによると、2020年の企業倒産件数は前年比7・3%減の7773件にとどまり、30年ぶりの低水準だった。コロナ禍により、飲食や宿泊業を中心に深刻な打撃を受けた一方で、政府や自治体による資金繰り支援が命綱となり、経営を支えている。 石川県信用保証協会では、コロナ禍を背景とした無利子・無担保融資の保証承諾件数が12日時点で9758件に上った。県は25日から緊急特別融資について、無利子での貸付限度額を4千万円から6千万円に拡大する。富山県の保証承諾件数は、昨年4月からの累計で前年同期比3・7倍の1万4347件、金額は6・8倍の2360億600万円に達した。 それでも緊急事態宣言が長引くようなら、土俵際で必死に踏みとどまっている事業者が、こらえきれなくなりかねない。この数週間が正念場だ。
バイデン米大統領の新政権が正式に動き出した。バイデン氏は大統領就任演説で、国民に団結を訴え、国際社会に向かって「同盟関係を修復し、世界に再び関与する」と宣言した。 トランプ前政権の自国第一主義や中国などの権威主義の台頭で、国際社会の既存秩序は失われ、対立が深まっている。バイデン政権により、「民主主義大国」の米国が自由・民主や人権尊重、法の支配といった普遍的価値を基礎とする国際秩序の再構築に主導力を発揮するよう望みたい。 バイデン政権が外交・安全保障の「最優先課題」とする対中国戦略はまだ明示されていない。が、強硬路線の継続は国務長官に指名されたブリンケン氏らの議会発言で明らかである。同盟関係に齟齬(そご)が生じないよう、菅義偉政権は米新政権と、北朝鮮や韓国を含めた対アジア戦略のすり合わせを丹念に行う必要がある。 米上院の指名承認公聴会でブリンケン氏は、戦略的競争相手の中国を「打ち負かすことができる」と強調し、中国政府によるウイグル族弾圧を国際法上の犯罪であるジェノサイド(民族大量虐殺)と認定した前政権の措置に「同意」を表明した。対北朝鮮政策では、日本や韓国との緊密な協議と検証が必要と述べている。 国防長官に指名されたオースティン氏は、急拡大する中国軍に対し「米軍の軍事的優位性を維持する」と明言した。また、初の女性財務長官となるイエレン氏は、中国の不公正な貿易慣行や違法行為を「あらゆる手段で是正させる」と強硬な姿勢を見せている。 バイデン氏は就任演説で、国民の結束を繰り返し訴えた。米社会の分断は歴史的、構造的な問題とも言え、トランプ前大統領の責任に帰すだけで解決できない困難な問題であることを、長い政治経験の中で身にしみて感じているからでもあろう。バイデン大統領の誕生は、「反トランプ」で結集した消極的支持者に負うところが少なくない。トランプ氏が政権を去ったことで、バイデン支持勢力の内部対立が表面化し、団結がより難しくなる恐れもあろう。
県内の高校を今春卒業する生徒の就職内定率が昨年11月末時点で88・6%に上り、都道府県別で5位に入った。まだ途中段階の内定率だが、新型コロナウイルス禍の影響で企業の求人数が大幅に減少する状況下、まずまずの水準だろう。学校や教委、労働局の関係機関は連携を一段と強めて就職支援に取り組み、成果を着実に上げていきたい。 高校生の就職志望者にとって今年度の就活はコロナ禍で大きく揺さぶられた。長期休校や夏休みの短縮で進路指導が遅れ、採用選考解禁が1カ月後ろ倒しとなったほか、採用に影響する各種資格の検定試験も中止が相次いだ。 企業の採用意欲も低下し、厚労省の調べでは昨年10月末時点で県内の高卒予定者に対する求人数は前年同月比26・9%減少し、全国3番目の落ち込みとなった。全国平均も同様の低調ぶりで、求人数は前年同期比約20%減となり、特に宿泊、飲食サービス業でほぼ半減した。 今回の内定率は文科省の定期的な調査で分かったデータで、早期に支援策に取り組んだ富山県は93・4%で全国首位となった。石川県は19年度まで10年連続で内定率99%超えを続け、全国トップクラスを堅持しており、これまでの高い実績で培った産学官の良好な協力関係を強みに粘り強く企業へ働き掛け、この苦境を乗り切りたい。 コロナ禍のダメージが大きい宿泊、観光業界などは厳しいとしても、巣ごもり需要で業績が好調なドラッグストア業界や慢性的な人手不足が続いてきた福祉、製造業界などは需要を掘り起こす余地はないか。景気の先行きが不透明な中で、企業が採用抑制に傾くのは仕方ないが、その分、行政と学校がどれだけ一体となって求人開拓をできるかが問われている。 ただ、厳しい雇用情勢から就職志望を進学に切り替えたり、希望する職種の求人が少ないため他の職種を選択する生徒たちがいることも留意しておきたい。関係機関は早期離職者が増えないようマッチングの丁寧な取り組みや、就職後も相談に乗るフォロー体制が例年以上に重要度を増していると認識し、目配りする必要がある。
韓国の文在寅大統領が、元徴用工と元慰安婦の訴訟問題で姿勢を変化させた。司法に介入しない従来の立場にこだわらず、日本との協議を通じて解決策を模索する考えを示した。 好ましい変化に見えるが、本来なら韓国政府が自ら解決策を出して処理すべき問題である。日本としては、過剰な期待を抱かず、韓国側の真意と問題解決の具体策を見極めなければならない。 文氏は、日本企業への賠償命令が確定した元徴用工訴訟で、差し押さえ資産の現金化は「望ましくない」と述べ、日本との協議で解決策を見いだせれば、原告側を説得する考えを示した。また、ソウル中央地裁が国際法の原則に反して日本政府に賠償を命じた元慰安婦訴訟について「少し困惑している」と胸のうちを明かした。 日韓の対立が決定的になりかねない現状に危機感を抱き、問題解決に前向きの姿勢を見せて日本側の軟化を促したいとの思惑がうかがえる。しかし、解決策はあくまで原告や被害者が「同意できる」内容であるべきという。 元慰安婦問題でいえば、日本政府は「人権侵害の国家犯罪」として認め、謝罪せよということになろう。そのような解決策に応じることは決してできない。 文氏は、元慰安婦問題に関する2015年の日韓合意を「政府間の公式合意」と認めた。それは政権発足時からの認識で、公式合意ゆえ、再協議を求めずに事実上ほごにするという挙に出た。そうした国際法や国際信義無視の対応を認めるわけにいかない。 文氏の姿勢の変化の背景には、対北朝鮮外交の手詰まりや支持率の低下があると見られている。仲介役を買って出た米朝首脳会談は成果がなく、米国の政権交代で交渉は仕切り直しとなる。新型コロナウイルス対策で一時70%台まで上昇した文政権の支持率は経済政策や検察改革をめぐる政争などで30%台に低下している。 日韓関係打開へ政治の知恵の出しどころとも言えようが、日本としては、日韓請求権協定や日韓合意で問題は解決済みという大原則を堅持する必要がある。
菅義偉首相がワクチン担当相に河野太郎行政改革担当相を任命したのは、新型コロナウイルスのワクチン接種を何としても2月下旬にスタートさせるという決意の表れだろう。現時点で、一番確実な感染拡大防止策は、速やかにワクチン接種を進めることであり、いかに短期間で接種率を高めるか、が重要な課題になっている。 石川、富山両県や金沢市、富山市など、北陸の自治体でも対策本部や担当課を新設するなどして、ワクチンの受け入れ準備を加速させている。最初に優先接種を受ける医療従事者は県が担当し、住民への接種は市町村が実施する方向である。自治体はそれぞれ地元医師会との調整や接種会場の確保、ワクチン接種券の印刷や発送など、多くの業務を効率良く、着実にこなさねばならない。 65歳以上の高齢者への優先接種は3月下旬にも始まる見通しであり、準備のために残された時間は少ない。ワクチンの安全性や有効性、副反応などについて、市民の問い合わせに対応するコールセンターの整備など、相談体制の構築も必要だろう。 新型コロナのワクチン接種は、予防接種法などにおける既存の類型に位置付けられておらず、実施に向けた具体的な方法や費用負担などが決まっていない。米ファイザー社のワクチンの場合、マイナス70度で保管する必要もあり、輸送と保管のシステムを効率的に計画・立案し、実行していくのは容易ではない。 実際に接種されるまでの行程にはさまざまな省庁が関わり、自治体や医師会、輸送業者が絡んでくる。特に自治体への連絡を密にして、複雑な流れを最適化していかねばならない。全体の調整役となる河野担当相には、持ち前のスピード感と突破力に期待したい。 ワクチンの優先接種は、対象者だけでも5千万人に及ぶ。よほど段取りよく進めないと、行き渡るまでに相当の時間がかかってしまうだろう。欧米では既に接種が始まり、イスラエルは既に国民の2割超が接種を受けた。夏の五輪開催を控えた日本でもワクチン接種を急ぎ、コロナの脅威から抜け出したい。
離婚後の子どもの養育費不払い問題を解消するため、上川陽子法相が家族法制の見直しを法制審議会に諮問する方針を明らかにした。元夫から養育費が支払われず、貧困に苦しんでいる母子家庭は非常に多い。子どもの養育費を請求する権利を法的に確立し、社会の共通認識として定着させることが望まれる。 離婚後の養育費不払い問題は深刻であり、子どもの健全育成だけでなく、女性の活躍を妨げる要因にもなっている。このため、政府の「女性が輝く社会づくり本部」は昨年7月に決定した重点方針の中で法改正の検討を明記し、法務省の検討会議は昨年末、民法上の権利として養育費請求権を明確に規定することなどを提言した。 検討会議の報告書によると、未成年の子どもがいる夫婦の離婚は年間12万組に及び、ひとり親家庭は約140万世帯に上る。離婚した父親から養育費を受けている母子世帯の割合は24%に過ぎない。さらに、ひとり親世帯の貧困率は48%の高さであり、養育費不払い問題は子どもの日々の暮らしに直結する「生存保障の問題」と報告書は指摘している。 こうした状況を踏まえ、法務省の検討会議は、養育費請求権の明確化のほか、協議離婚時に養育費の取り決めを促し、届け出る制度や裁判所の調停の迅速化、民間の調停・仲裁機関の積極活用、悪質な不払い者に対する制裁制度の検討などを提言している。 無論、養育費請求権の法制化で問題が解決するわけではない。親権をめぐる争いや母子に対する虐待など深刻な問題を抱えているケースが少なくなく、養育費の支払い能力に欠ける人もいる。 このため、養育費に関する法制度の見直しに当たっては、国などの公的機関が不払いの養育費を強制的に徴収したり、立て替えたりする制度の是非、離婚前の別居期間中に養育費を確保する方策も検討する必要がある。 加えて、現在の「単独親権」から「共同親権」へ制度を変更することの当否や、親子の面会交流の在り方など、検討すべき難しい課題が数多くある。
菅義偉政権下で初の通常国会が幕を開けた。菅首相は施政方針演説の第一に「新型コロナウイルス対策」を掲げ、一日も早い感染収束に全力を挙げる決意を表明した。 野党は菅政権の感染対策を厳しく追及する方針であり、「コロナ国会」となる気配である。それは当然としても、国難とも言える課題は内政、外交両面に山積しており、政権批判のための論戦に終始しないよう求めておきたい。 菅首相は、野党による「政治とカネ」問題の追及を念頭に、「桜を見る会」関連の国会答弁の間違いを改めて陳謝したが、政権に対する国民の理解と信頼を得る上で最も必要なのは結果を出すことであり、政策の実行力を十二分に発揮しなければなるまい。 菅首相は演説冒頭で、新型コロナ禍に対応する医療や保健、介護従事者らへの謝意を述べ、再び11都府県に緊急事態宣言を発令する事態になったことをわびた。さらに、飲食店の営業時間短縮や不要不急の外出・移動自粛など、施政方針演説では異例とも言える呼び掛けを行った。 感染拡大に歯止めがかからない現状への危機感の表われであろうが、演説の中で表明した「闘いの最前線に立つ」決意を今後、もっと国民に伝わる言動で示していく必要があるのではないか。 内政では「長年の課題」である新たな成長産業の育成やデジタル改革、脱炭素化、少子化対策、一極集中の是正などに力点を置き、さまざまな具体策を列挙した。まさに政策遂行能力が問われる分野である。 外交・安全保障ではまず「多国間主義」を唱え、その流れの中で米国をはじめ東南アジア諸国連合(ASEAN)、豪印両国、欧州などと協力しながら「自由で開かれたインド太平洋」の実現に取り組む戦略を明示したのは妥当であろう。現在の韓国は前向きに論じられる関係になく、取り上げる順番もASEANの後にした。 中国については、現状変更の試みに対する批判を茂木敏充外相の外交演説に任せ、日中関係安定の重要性を強調した。尖閣諸島が危機にさらされている現状を考えると、物足りなさも否めない。
北陸の自治体が、自然災害などで決壊すると人的被害が出る恐れのある「防災重点ため池」の対策を強化している。石川県は今年度内に農家が利用していない154カ所の撤去を完了させる。富山県は新年度、指定している全559カ所を対象に劣化状況の調査に着手する。 危険ため池については、2018年の西日本豪雨で6府県計32カ所のため池が決壊し、大きな被害が発生したことを教訓に国が管理の徹底や対策を求めていた。石川県の撤去事業はこれに沿った措置で、3年計画を1年前倒しして進めている。 県内の防災重点ため池は1286カ所ある。ため池は雨があまり降らず、大きな河川がない瀬戸内地方などに多く、全国から見れば石川は少ないほうの地域に入る。それでも七尾市で18年8月の大雨の際、能登演劇堂の裏にあるため池が決壊し、建物に大量の土砂が流れ込む被害があったように、近年、各地で頻発する豪雨災害の状況を考えれば、数にかかわらず、人家や施設の近くにある危険ため池の対策は待ったなしだ。 ため池の多くは藩政期前から造られて経年劣化が進んでいるが、地域では代々受け継ぐ水源として定着しており、老朽化に伴う危険性の認識があまりない。加えて、最近は農家の高齢化や離農などで管理が行き届かず、決壊リスクが見落とされるところが増えているとの指摘もある。 県が撤去事業を短縮し、不使用ため池を一掃するのは心強いが、残る1千カ所以上の指定ため池についても管理状況の定期的な点検が求められよう。県は昨年、6月の防災月間に合わせ、各管理者によるため池調査を実施したが、全カ所一斉はこれが初めてだった。堤の改修には費用も時間もかかる。劣化の程度をしっかり把握しておくことが重要であり、点検作業を継続していきたい。 地域住民へのリスク周知にも取り組んでほしい。19年施行の新制度に基づき作成しているハザードマップの認知度はまだ低く、地域防災を強化する上でも危険ため池の関心を高めることが必要だ。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、感染の有無を調べるPCR検査を希望者の自費で請け負う民間施設が首都圏などで増えている。帰省や出張の前に陰性を確認したいとする利用者が多いという。緊急事態宣言が11都府県に広がる中、対象区域を移動する石川、富山両県人の間でも需要が高まってくるのでないか。 新型コロナのPCR検査は通常、発熱などの症状がでて感染が疑われる人や、医師が必要と判断した人を対象に医療機関が実施している。この場合は公費による行政検査となり、個人負担はない。 これとは別に民間施設が扱う自費検査は保険適用外で、利用者が費用全額を支払って受ける。多くが唾液を容器に入れる検査法で、結果はメールなどで通知される。最近は相場の10分の1程度となる3千円前後の格安費用で行う施設も出てきた。手軽で低料金の検査は感染の不安を解消したい人には重宝だろう。無症状の陽性者発見は連鎖感染の抑止にもつながる。 ただ、自費検査については検体の扱いなどが施設によって違う場合があり、精度のばらつきを懸念する声がある。医療機関と提携がなく、医師の診断を経ずに結果を通知する施設もあり、過信は禁物だ。たとえ医師の診断を伴う判定でも検体採取時点のものに過ぎず、検査後に感染している可能性もある。陰性の判定を受けると、安心して気が緩みやすくなるが、マスク着用など基本的な予防対策が必要なことに変わりはないと心得ておきたい。 厚生労働省は昨年末、自費検査を行う施設で、医療機関との提携などを守ると誓約した全国約400カ所をウェブ上で公開した。石川18施設、富山2施設が含まれており、一覧は随時更新される。 医療機関との提携がない施設で陽性の判定が出ても保健所に届け出されず、治療の遅れや感染状況の把握に支障をきたすという問題点が指摘されている。このため厚労省は利用者本人が保健所などに連絡するよう呼び掛けているが、徹底するのは難しい。社会経済活動の継続に伴い、自費検査の需要が今後も高まるとみられる現状では、施設からの届け出義務を早期に設けるべきだろう。
自然災害が発生する前に、危険区域にある住宅がまとまって高台などに移る「防災集団移転」を推進するため、政府は関連法改正に乗り出す。近年、日本では豪雨などによる洪水や土砂崩れが多発し、南海トラフなどの巨大地震の発生も想定される。危険区域から離れることは居住者の安全確保や避難誘導に当たる人の負担軽減につながる。ただ地域ごとの移転は合意形成に困難を伴うケースが多いだけに、一体的な行動を促す公的なサポートが欠かせない。 豪雨災害では、高齢者が自宅で被災するケースが相次いでいる。一昨年秋の台風19号の際は、自宅にとどまったり、体が不自由で避難できない人が多く、犠牲者の半数が70代以上だった。災害発生時の避難は、命を奪うことになりかねない。可能な限り安全な「わが家」を確保しておきたい。 北陸でも昨年末、かねて地盤の危険性が指摘されていた砺波市の集落で地滑りが発生し、空き家1棟が倒壊、融雪の水で地滑りが拡大する恐れがあるとして現場付近の2世帯に避難指示が出された。 防災集団移転は、市町村が実施し、国が費用の4分の3を補助する。被害を避ける効果は大きいが、住み慣れた自宅への思いも強く、該当区域の住民の意見をまとめるのが難しい。移転先の土地選定などの事務負担も伴うため、ノウハウを持たない市町村が手を出しにくい。東日本大震災の被災地以外の実施例は、延べ35市町村にとどまっているという。 法改正では、市町村の委託を受け、都市再生機構(UR)が事業を代行できるようにする。URは東日本大震災に見舞われた岩手、宮城両県で計約2600戸の集団移転を実施しており、用地選定などで代行業務を担えば、市町村の負担軽減につながるだろう。 これまで代行は東日本大震災で特例として認められたが、政府は今後の災害に備え、地域を問わず恒久的に可能にする法案を通常国会に提出する。政府は被災後の新たな街づくりを加速させる効果もあるとしているが、わずかずつでも成功事例を積み上げたい。
厳寒本番を迎える中、新型コロナウイルスの感染リスクを抑えるため、室内の「密閉」を避ける換気対策が課題になっている。北陸では、いったん冬型が緩んだものの、週明けから厳しい冷え込みが予想され、外出を控え室内で過ごす時間が多くなる。寒い環境でも常に換気を心掛ける基本的な予防対策を講じたい。 新型コロナは、3密(密閉、密集、密接)の場で広がりやすい。寒いため密閉した室内で過ごすことが多い冬場は、効果的な換気がポイントとなる。厚生労働省のガイドラインでは、寒い環境でも換気扇などの機械設備で常に換気することや、1時間に2回以上、2方向の窓を全開にする換気方法を推奨しているが、真冬で全開にすると室温の急激な低下を招き、とりわけ高齢者にとっては体調管理が難しくなるとの懸念もある。 専門家の間からは、人がいない隣室の窓を開けて外気を入れ、まず建物全体の温度で外気を暖めてから生活空間に取り込む「2段階換気」などが提唱されている。 また弘前大の実験では、窓を全開にするより、暖房を付けたまま、対角線上に位置する窓やドアの2カ所を少しだけ開けておくほうが換気の効果が高く、室温の低下も防げるという結果が出た。こうした実例は、オフィスや教室など多くの人が集まる場所の環境を整える意味でも参考になる。 北陸では、先の大雪後、かなり気温が高い日が続いたが、週明けから再び冬型が強まり、金沢、富山で最低気温がマイナス5度前後という厳しい寒さが予想される。窓や扉を開けると部屋が冷え込むため、換気に二の足を踏む人も多いが、無理なく、できる範囲で換気を心掛けたい。 北陸でも、窓を閉め切った冬場の室内は乾燥しがちで、せきや会話で発生する飛沫(ひまつ)が空気中に長く漂う恐れもある。換気に加え適度な保湿も忘れてはならない。スーパーコンピューター「富岳(ふがく)」の解析によると、湿度30%でマスクなしでせきをすると、1・8メートル先の人に到達する飛沫は、湿度60~90%に比べ2倍以上になった。室温18度以上、湿度40%以上を目安に、加湿器や室内干しなどで保湿も心掛けてほしい。
北陸を襲った今回の大雪で、石川、富山両県の小中高校の多くが峠を越えた休み明け後も、臨時休校や始業時間を遅らせるなどの対応を余儀なくされた。週末から連休にかけた大雪のピークが仮に平日にずれていたら休校期間はもっと長引いただろう。災害や新型コロナウイルスの感染拡大などで休校が続いた場合でも児童生徒の学習機会を確保していく必要がある。 折しも政府は新型コロナ感染対策としてICT(情報通信技術)を活用した学習環境を整えるGIGAスクール構想を前倒しして進め、児童生徒1人にパソコン1台を配備している。これを受けて羽咋市は今月、タブレット端末を利用した授業法を探るプロジェクトチームを設け、小松市や魚津市などは端末が行き渡った学校から運用を始める。 だが、こうした動きはまだ一部で北陸全体としてスローペースな印象を受ける。対面授業が学校教育の基本とはいえ、教員が授業のオンライン化を習熟する機会を設けるなど本格導入に向けた取り組みを前進させたい。 文科省によると、公立小中高の教員のうち2019年度にICT研修を受けた割合は石川59・8%、富山58・4%で、全国平均50・1%をやや上回っている程度で少し物足りない。画面を通してやりとりする在宅授業も普段の授業をただ配信するというわけにはいかず、教員の指導には工夫がいる。教える側の一方通行では単調な授業になりやすいことや児童生徒の表情が分かりづらく理解度を把握しにくいなどの難点が指摘されており、授業の質を確保できる教員の養成が求められている。 昨春の全国一斉休校中、いち早く全小中校に在宅授業を導入し話題を集めた熊本市の動機は16年の震災で授業が長く滞った経験であり、ICT活用に対する教員の意識の高まりだったという。北陸の学校関係者にはコロナ禍に加え、この後も雪禍を気にせねばならない今冬に在宅授業の利点を感じている人もいるだろう。先導役の各教委は推進事業に本腰を入れてしかるべきでないか。
生活や経済活動を大混乱に追い込みかねない深刻な危機が目の前に迫っている。寒さが厳しくなるにつれ、電力需給が全国規模で、かつてないほどひっ迫し、いつ停電が起きるか分からない「綱渡り」が続いているからである。北陸電力の場合、供給力に占める需要の割合を示す電力使用率が8日正午、99%に達した。 寒波の到来で暖房需要が急増する一方、火力発電燃料である液化天然ガス(LNG)が世界的な需要の高まりで、在庫不足が続いている。その深刻さは、東日本大震災で福島第1原子力発電所事故が発生した直後の電力不足に匹敵するだろう。 北電だけでなく、関西電力も12日、電力使用率が99%に達し、中国電力や九州電力なども96%を超えた時間帯がある。電力各社は電力を融通し合っており、使用率が一時的に100%を超えても直ちに停電することはないが、全国規模での寒波の到来や、主力級の発電所が故障などで突如運転停止するなどしたら、不足分をどこまで埋められるのか、はっきりとは分からない。 思い出すのは、2018年9月6日に発生した北海道胆振(いぶり)東部地震である。このとき、苫東厚真(とまとうあつま)火力発電所が運転停止し、北海道全域がブラックアウト(大規模な停電)した。もし厳冬期に、45時間も停電が続いていたら、それこそ命にかかわる。巣ごもり生活やテレワークで電力消費が増えるなか、暖房温度を少し下げ、不要な照明はこまめに消すなどして、節電に協力し、この危機を乗り越えたい。 全国の電力会社は電力を融通し合う一方、企業などが保有する自家用発電機にも発電を依頼するなどして、停電が起きないよう手を尽くしている。新型コロナウイルスの脅威が叫ばれ、医療提供体制のひっ迫にばかり目を奪われているせいか、電力需給の危機があまり周知されていない。政府は危機感を前面に出し、国民に節電を呼び掛ける必要がある。 太陽光や風力などの再生可能エネルギーがどれだけ増えても安定供給の助けにはならない。火力発電や原発の重要性を再認識し、設備の更新や再稼働を急ぎたい。
トランプ米政権が、インド太平洋戦略の大枠を定めた内部文書を公開した。中国の海上防衛ラインである「第1列島線」に位置する日本や台湾の防衛を明記している。バイデン新政権も同戦略を継承、発展させるよう求めたい。 第1列島線とは、中国が設定した軍事戦略上の海上ラインで、沖縄、台湾、フィリピンを結ぶ線内の海域を支配し、米軍を排除する「接近阻止・領域拒否」戦略を掲げている。 これに対して米政府の内部文書は、中国が第1列島線内の制空・制海権を確保するのを防ぎ、列島線に位置する国・地域を守るための防衛戦略を立案、実行するとうたっている。同盟関係を結ぶ日本はもとより、中国の軍事圧力を受ける台湾の蔡英文政権にはとりわけ心強いであろう。インド太平洋の安全保障に関与していく米国の意思表明だけでなく、日本と韓国の役割拡大を求めていることにも留意しなければならない。 「海洋強国」の建設にまい進する中国は、第1列島線のほか、伊豆・小笠原諸島からグアム、パプアニューギニアをつなぐ「第2列島線」も設定し、西太平洋への進出を目指している。 中国にとって、南シナ海からインド洋、中東海域に至るシーレーン(海上交通路)の安全確保は経済維持に欠かせない。その点では日本と同じであるが、海洋覇権のため尖閣諸島海域で日本の主権を侵害したり、国際法を無視して南シナ海に軍事拠点を建設したりする横暴は断じて許されない。 内部文書は、トランプ政権が安全保障戦略を実施する際の指針として2018年2月に承認し、機密文書に指定した。異例の早期公開に踏み切ったのは、バイデン新政権が中国に譲歩し、戦略を修正することがないよう、けん制する狙いと見られている。 米国の国防戦略が政権交代で大きく変わることはなかろうが、日本としては、バイデン政権がインド太平洋戦略を後退させることがないよう、その意義を説き、豪印両国との連携も強化する役割を担わなければならない。
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府は特別措置法に基づく「緊急事態宣言」を11都府県に拡大した。各都道府県知事の発言を聞く限り、政府の対応を妥当と受け止める声がある一方、「後手に回った」「手ぬるい」などの批判も聞こえてくる。 緊急事態宣言は当初、大都市圏から全国に感染が広がる前に手を打つ狙いだったが、地方への拡大を防ぎ切れていない。富山県が警戒のレベルを「ステージ1」から「ステージ2」に移行し、午後9時以降の外出自粛を求めたのは、そんな危機感の表れだろう。 石川県は、今月7日と13日の比較で、病床使用率が54・65%から49・61%に、1週間当たりの感染者数の増加数も1・44倍から1・11倍に下がったことなどから、「ステージ3には相当しない」と判断しているが、緊張感は日増しに高まっている。 緊急事態宣言は、感染抑止の「万能薬」などではなく、「コロナ疲れ」や「コロナ慣れ」した国民に向けた「気付け薬」に近いものだろう。感染しても無症状、軽症の人が多く、特に若い世代は重症化のリスクが低いことがはっきりしたことで、個々人のコロナ対策に緩みが出ており、そこに警鐘を鳴らす意味はある。 第3波とみられる流行は、季節性の感染の性質が強いだけに、短期間での収束は難しいと思わねばならない。各自があらためて3密回避やマスク着用などの基本動作を徹底し、不要不急の外出をできるだけ控え、リスクを伴う接触の機会を減らしていくしかない。 昨春の緊急事態宣言時には、政府は人と人との接触を「最低7割、極力8割」減らす目標を掲げ、国民に外出自粛などの徹底を呼びかけた。これに対し、今回は▽飲食店などの午後8時までの時間短縮営業▽テレワーク推進による出勤者数7割減▽午後8時以降の不要不急の外出自粛▽スポーツ観戦、コンサートなどのイベントの入場制限を掲げ、「限定的で効果的な対策」を目指している。 より強い休業要請などの措置を取らずに済むよう、個々人の努力の積み重ねで感染拡大を抑え込み、流行期の冬場をしのぎたい。
8日午後から3連休にかけて富山県内を襲った大雪は、市民生活に甚大な影響をもたらし、ひとまず峠を越えた。とりわけ、市中心部でも120センチを超える積雪に見舞われた富山市では、除雪作業の遅れから、降雪がやんでなお、市内のあちこちの路線が渋滞し、都市機能をまひさせている。8日から運休していた富山地鉄の市電は14日午後にようやく南北接続せずに全線が開通した。 富山地鉄の市電は14日朝までに線路上の除雪作業を終えた。雪がやんだ12日の時点でも多くの箇所で線路の除雪は手につかず、地鉄は再三「復旧のめどは立たない」とアナウンスし続けた。市電は富山市が掲げる「コンパクトシティ」の根幹をなす公共インフラであるのに、復旧に多くの時間を要した。 市電軌道は県道や富山市道に敷設され、一部国道41号を横断する箇所もある。関係機関が情報を共有し、まずは電車通りから除雪を進めることがあってもいい。軌道上を後回しにせず、県や富山市の除雪車が軌道上の雪を除けたり、富山地鉄と連絡を取り合い、共同で作業を進めることが肝要だろう。だが、道路の除雪は完了しながら軌道上にだけ雪が手つかずで残っている箇所が多く見られた。 新田八朗知事は13日の記者会見などで、今回の大雪の除雪遅れに関して、「初動に瑕疵はなかったが、情報収集態勢は脆弱だった」と一部反省の弁を述べた。しかし、8日夕に除雪車の出動基準である積雪10センチを確認しながら、帰宅ラッシュの時間帯であったため、渋滞に拍車をかけかねないとして除雪車を出動させなかったことを明らかにしている。 8日午後6時の時点で富山市の積雪量は82センチ。同11時に1メートルを超えたことを考慮すれば、結果として80センチ以上の積雪でも除雪車を出さなかった県の姿勢に批判が集まるのも致し方あるまい。それが難しい判断であったとしても、結果を問われるのが行政の宿命である。「県民、市民生活を守る」という責任が果たせなければ批判されるのは当然で、苦情件数を公表しない富山市の姿勢からも「使命感」が伝わってこない。
赤羽一嘉国土交通相が会見で、北陸自動車道などで大雪による立ち往生が発生した原因として、高速道路の通行止めのタイミングが遅れたほか、渋滞状況の把握が不十分だったことを挙げ、「大変迷惑を掛けた。早急に課題を検証し改善を図る」などと陳謝した。 大規模な立ち往生は、昨年12月に新潟、群馬県境の関越自動車道でも起きていた。さかのぼれば、3年前に、石川・福井県境の北陸道や福井県内の国道8号で、同じような規模の立ち往生が発生している。そのときの教訓が十分生かされず、「なぜ、また起きたのか」という疑念がわいてくる。 福井県内の北陸道では約1600台が立ち往生し、並行する国道8号でも10キロ以上の渋滞が発生した。小矢部、南砺市境の東海北陸自動車道では最大約250台が走行不能となり、石川、富山県境付近の金沢市の北陸自動車道下り線でも約90台が立ち往生した。 交通障害が発生した7日から9日にかけては、事前に日本海側で大雪になるとの予報が出ていた。国土交通省は6日に、立ち往生などの交通障害に警戒し、不要不急の外出を控えるよう呼びかける異例の緊急発表を行っている。 北陸道を管理する中日本高速道路は最大レベルの警戒を強めていたはずなのに、結果として立ち往生を防げなかった。集中的な除雪を行うための「予防的通行止め」や、3年前の教訓として導入されたチェーン規制を見送った判断は妥当だったのか。状況把握や見通しに甘さがなかったかどうかを含めて、詳細かつ具体的な調査を求めたい。 難しいのは、高速道を早々に通行止めにしてしまうと、大型車両が国道に集中し、一般道でも立ち往生を引き起こす可能性が高まることである。今回も3年前も石川・福井県境で北陸道と国道8号で立ち往生事例が起きている。 高速道と国道での車両の流れをリアルタイムで把握し、的確な指示を出せるような仕組みを構築していく必要がある。自治体との連絡を密にし、道路のライブカメラを一元管理するなどして、緊密な共同作業ができるよう英知を結集してほしい。
英政府が、中国の人権問題に対して厳しい経済措置を打ち出した。新疆ウイグル自治区での強制労働に関わっている企業の製品をサプライチェーン(部品の調達・供給網)から排除するという。 米政府もウイグル族らの人権侵害に加担している企業に輸入禁止などの制裁を科し、関係企業に取引をしないよう勧告している。日本企業も間接的に中国の人権侵害に加担する恐れが強まっており、無神経な対応を許されない状況である。国際取引を行う企業は、相手国の人権問題について社会的責任や企業倫理を問われる時代であることを認識したい。 英政府は欧州連合(EU)離脱を機に、独自の制裁制度で中国や北朝鮮などの人権問題に厳しく対処している。貿易管理を強化して対中圧力を強める今回の措置について、「強制労働から利益を得る企業が英国で事業できないようにする」と説明している。 中国政府のウイグル族弾圧と世界の多国籍企業の関係について、オーストラリア戦略政策研究所は昨年3月、注目すべき報告書を公表した。2017~19年に8万人以上のウイグル族が、強制収容所などから中国各地の電子機器や繊維製品の下請け工場に送られ、80社以上の多国籍企業がその労働力の恩恵を受けたという。 その中には世界的IT企業などの名が並び、日本の有名企業も10社以上含まれている。人権問題が経営リスクになるとして、強制労働が疑われる工場との取引を停止した企業もあるとされる。 トランプ米政権は先ごろ、小型無人機ドローンの世界最大手である中国企業を禁輸の制裁対象に追加した。ドローンの技術が国内外で人権侵害や弾圧に利用されているという理由からである。 ただ、中国政府はウイグル族弾圧を否定しており、強制労働の実態把握は難しい。企業取引や自社製品が人権侵害に利用されるかどうかの判断も簡単ではない。このため、企業活動が人権問題に抵触するかどうか、取引を停止すべきかどうかの判断基準や指針の策定が政府の課題となっている。
雪国育ちでも、天を呪いたくなるような大雪は、ようやく峠を越えた。富山市中心部では、1984年の「五九豪雪」に記録した122センチを上回り、石川、富山両県では除雪中の事故も相次いだ。 気温が緩むこれから16日までは、屋根からの落雪に警戒が必要だ。白山市では12日朝、60代女性が車から荷物を下ろしていたところに屋根雪が落下し、頭に軽傷を負った。富山市では11日、屋根から落ちた雪の下敷きになった女性が腰を骨折した。 新雪が屋根から滑落してきても大した被害はないが、ある程度積もってからの滑落は大事故につながりかねない。屋根に1坪(3・3平方メートル)分の湿った雪が1メートル積もると、重さは約1トンにも達する。2階の屋根から雪塊が落ち、車のフロントガラスを直撃すると割れることもある。 石川、富山両県は13日、最高気温が9~8度前後に上昇し、雨が降る地域がある。水分を多く含んだ雪は重くなって危険であり、除雪の際は、屋根の向きなどに十分注意してほしい。わずか30センチほどの雪でも全身が埋まってしまえば、大人でも自力で体を持ち上げられなくなるといわれる。 除雪作業は危険と背中合わせであることを十分承知しておきたい。志賀町の富来漁港では11日、雪を載せた軽トラックを後退させていた際に、誤って岸壁から転落し、男性が意識不明で搬送された。 そのほかにも、積雪で見えにくくなっている側溝に落ちたり、足を滑らせて転倒したりして、けが人が続出している。疲労が重なると注意が散漫になり、思わぬ事故に遭いがちだ。 除雪をする際は、周囲の状況をしっかり把握した上で、できるだけ複数人で行動し、十分な休憩をはさみ、安全第一で作業したい。 富山県内では全ての公立小中学校が臨時休校となった。富山市や金沢市をはじめ、各地で通勤の足が乱れ、幹線道路は2車線が1車線通行となった所も多い。雪に埋まった歩道を避けて、狭い車道を歩く姿を目にする。極めて危険な行為であり、できる限り歩道を歩くようにしてほしい。
北朝鮮の金正恩政権が、核戦力を増強し、「最大の主敵」である米国と対決する方針を示した。朝鮮半島の完全非核化を目指すと約束し、トランプ米大統領との直接交渉で制裁解除を図る戦略から、核増強路線への回帰を示すものである。国際社会は北朝鮮の非核化に向け、改めて結束を強めなければならない。 20日に米大統領に就任するバイデン氏は、金氏を「悪党」と呼んで非難してきたが、対北朝鮮外交については、まだほとんど論じていない。国際協調を第一の外交方針に掲げるのなら、国際社会の再結束を促しながら、強い姿勢で北朝鮮の核・ミサイル問題に対処するよう求めたい。 金氏は5年ぶりの朝鮮労働党大会で党総書記に就任し、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の高度化や中・短距離ミサイルによる戦術核兵器、極超音速滑空ミサイル、弾道ミサイル搭載の原子力潜水艦などの開発方針を打ち上げた。北朝鮮の技術レベルには不明な点も多いが、「核強国」建設に国家の生存をかける方針に全く変わりがないことをうかがわせる。 バイデン氏は、共にオバマ政権を担った人物を新政権の閣僚らに登用している。オバマ政権の対北朝鮮政策は「戦略的忍耐」と言われた。北朝鮮が非核化へ自ら譲歩するまで対話はせず、圧力をかけるという外交戦略であるが、実質的に傍観していただけという批判もある。実際、北朝鮮の核・ミサイル開発は進行した。バイデン氏はまず、トランプ外交を批判するだけでなく、自分も一翼を担ったオバマ政権時代の外交戦略を省みる必要があろう。 北朝鮮の核・ミサイル問題に対する国際社会の関心を低下させないことも重要である。例えば、北朝鮮の制裁逃れを防ぐため、日米が中心に実施している「瀬取り」監視に英国やフランスなども参加するようになったが、欧州の関心が再燃するイラン核問題に移る恐れもある。日本は国際圧力の維持に加え、バイデン政権の外交において北朝鮮問題の優先順位が低くならないよう働きかけていかなければならない。
「能登の里山里海」が世界農業遺産に認定されて今年で10年となる。この間、里山里海の自然や文化を守り、地域振興を図る施策を官民で進めてきた。今秋には能登地区で国連食糧農業機関(FAO)などの国際会議が開かれる見通しとなっており、国内外に能登の取り組みをアピールして、さらに里山里海の保全と活用を推進したい。 能登に隣接する氷見市では、「定置網漁業」で世界・日本農業遺産に認定申請している。認定されれば、資源保護に貢献する伝統漁法の価値が再認識されて、能登と合わせて北陸の魅力が高まる。 折しも国連が掲げる「持続可能な開発目標(SDGs)」に対する関心が高まっており、里山里海の継承は、SDGsの課題解決につながると注目されている。珠洲市は内閣府の「SDGs未来都市」に選ばれており、持続可能な社会を見据えた能登、北陸の取り組みは、大きな意義があるといえる。 世界農業遺産は、世界的に重要で、伝統的な農林水産業を営む地域を、FAOが認定する制度で、「能登の里山里海」は2011年に佐渡と共に日本で初めて認定された。 宝達志水町以北の9市町で構成される能登の里山里海は、多様な生物を育み、人々はその土地に合った農林漁業などを営んで、里山里海の自然と共生して暮らしてきた。輪島の「白米千枚田」や「海女(あま)漁」、農耕儀礼「あえのこと」「能登のキリコ祭り」など、農林漁法の知恵や祭礼、伝統技術、優れた景観などが多く残っている。 能登は過疎化と高齢化が進み、各分野の後継者確保は深刻な課題となっているが、棚田米や原木シイタケ「のとてまり」など農林水産物のブランド化、農家民宿群「春蘭の里」、奥能登国際芸術祭など地域資源を生かした振興策が広がっている。成果を上げる取り組みと次代を担う人材を能登全域で増やしていく必要がある。 新型コロナウイルスの影響で、暮らしや働き方に変化が出ており、地方移住への関心も高まっている。各自治体で受け入れ態勢を整えて、里山里海のよさを広く伝えてもらいたい。
コロナ禍でインバウンド(訪日外国人客)を対象にした観光需要が深刻な打撃を受ける中、石川県は欧米やオーストラリアからの観光客誘致を目指し、来月、国内旅行会社とオンライン商談会を開く。コロナは日本の自然や文化そのものの価値を削いだわけではなく、収束を見据えて新たな観光メニューを企画し、北陸の魅力を世界に発信したい。 北陸新幹線金沢開業以降、大きく増加した外国人観光客は、コロナの感染拡大で急降下した。外国人旅行者の動向を計るバロメーターとなる北陸の観光地を見ると、金沢市の兼六園の入園者は、2019年まで7年連続で過去最多を更新したが、20年は前年比で87・1%減り6万1082人にとどまった。また立山黒部アルペンルートの入り込み数も、前年の24万人から600人に激減した。 昨年末の「Go To トラベル」の停止に合わせ、全ての国・地域を対象に外国人の新規入国が停止され、インバウンド需要は消滅状態という厳しい環境だ。 ただ日本政策投資銀行などが昨年、アジアや欧米在住者を対象に実施した旅行意向調査によると、コロナ収束後に観光旅行をしたい国・地域として46%が日本を選び1番人気だった。国内旅行会社にはコロナ後に日本旅行を希望する声が寄せられているという。 石川県が開催するオンライン商談会は、海外の旅行会社とネットワークを持つ国内大手旅行会社8社が参加する予定で、外国人客の誘致に取り組む自治体を含めた観光関係者の参加を想定する。環境省は、国立公園や国定公園内の観光需要の促進に力を入れており、たとえば自然体験を好む海外客に多彩な北陸のジオパーク巡りなどを提案してもいいだろう。 民間レベルでも地元の魅力を発信する取り組みが出てきた。観光ツアーがすべてキャンセルになった旅行会社が、ひがし茶屋街で、そぞろ歩きをする様子をライブ配信し、8か国の人が金沢観光を疑似体験したという。種をまけばやがて実りにつながる。官民がそれぞれに工夫し、次のステージを想定して誘客に取り組みたい。
皇室ゆかりの美術品を収蔵する皇居「三の丸尚蔵館(しょうぞうかん)」の特別展が2023年の国民文化祭に合わせて、金沢市の国立工芸館と石川県立美術館で開催される方向で動き出した。国宝級の名品ぞろいと評価される最高峰のコレクションであり、地方でまとまった規模の作品展が開催されれば、美の発信地としての当地の存在感は一段と高まるだろう。 三の丸尚蔵館は1993年、昭和天皇が所有していた美術品などが国に寄贈されたのを機に開設された。収蔵約9800点のうち国宝級は約2500点に上るとも言われる。これまでは、国立博物館などの展覧会に際してまとまった形で貸し出されていたが、地方の博物館などには、企画展のテーマに沿って数点規模で展示されるのみだった。なかなか東京へ足を運べない地方の愛好者にとっては、垂ぜんの的の作品群と言える。 今回は、三の丸尚蔵館の建て替えに伴い、新施設への移行期間中の地方展開という意味合いもあるが、前例踏襲主義の打破をめざす菅義偉首相の登場で、保存管理だけでなく、展示公開を重視する方向性が出てきたことが背景にあるのではないか。 伝統技術の粋を集めた京都迎賓館が5年前から通年公開され、多くの入館者が訪れているように、国民と文化が触れ合う機会をより多く提供することが、成熟社会の証しと言えよう。 三の丸尚蔵館の特別展が九州、京都両国立博物館などとともに、石川が巡回の地として挙がったのは、金沢に移転した国立工芸館と質の高い展示実績のある県立美術館が並び立つ環境があったことが大きいだろう。本物の価値が分かる当地の愛好者の審美眼の高さも見逃せない。 両館が連携して、質、量ともにレベルの高い観賞の場を提供し、国民文化祭で全国から訪れた人に、あらためて美術王国の底力を印象づけたい。 菅首相は年初の本社インタビューで、国立工芸館について、機能強化のために東京国立近代美術館から独立した組織に改めることに前向きな考えを示した。特別展の開催は、工芸館の次のステップにも好影響を与えるに違いない。
県内の昨年1年間の交通事故死者が前年より9人増えて40人となった。過去4番目に少ないが、2年連続の増加である。新型コロナウイルス禍の外出自粛で交通量が大幅に減ったことなどを背景に全国の交通死者は2839人と統計上最少を記録しただけに県内の増加ぶりが際立つ。 県内の死亡事故の傾向として気になるのは、過失の大きい第1当事者が高齢運転者の事故で犠牲者が7人増の15人に上ったことだ。死者全体の3分の1に及ぶ。全国でも死亡事故が減少する中で、高齢運転者が占める割合は増加傾向にある。2019年の75歳以上による死亡事故は401件を数え、免許人口10万人あたりの件数では75歳未満の2倍以上となった。ブレーキとアクセルの踏み間違いなど運転操作ミスが目立つ。 昨年、道交法が改正され、一定の交通違反歴がある75歳以上は免許更新時、実際に車に乗って運転能力があるかを見極める実車試験が義務づけられる。不合格なら免許は更新されない。認知機能の衰えを見つける機会となり、高齢運転者による交通禍の芽を摘む手だてとして期待したい。 公共交通が不十分な地方では通院や買い物など日常生活を送る上で車を手放せない高齢者が多い。自治体は免許更新できなかった人向けにバスやタクシーの割引券などで支援する策も講じてほしい。代替手段の利便性を高めれば免許の自主返納を促すことにもなる。 最近は事故防止機能を備えた安全運転サポート車の開発が進んでいる。今年11月以降に販売される国産の新車は自動ブレーキの搭載が義務化されるが、普及を促進させるには買い換えを後押しする助成措置も検討すべきでないか。来年にはサポカー限定の運転免許も創設される。そうした強化策を周知する機会を増やし、高齢者の安全意識を一層高めていきたい。 極寒期を迎え、積雪や路面凍結などで事故のリスクが高まっている。昨年の県内は年明けから犠牲者が相次ぎ、1月末に早くも死亡事故多発警報が発令された。各自が慎重な運転を心掛け、同じ轍を踏まない新年の始まりとしたい。
新型コロナウイルスのワクチンについて、菅義偉首相が2月下旬までに接種を始めると表明し、首相自身も率先して接種する考えを示した。予定通りなら、感染者と頻繁に接する医師や看護師らが最優先で接種を受け、その他の医療従事者、65歳以上の高齢者、基礎疾患のある人へと対象を広げていくことになる。 優先接種が終われば、感染者はもとより、死者、重症者も大きく減るのではないか。高齢者施設や医療機関などでのクラスター(感染者集団)もかなり封じ込めることができるだろう。感染拡大を止めるために、政府はスピード感を持って対応してほしい。 米ファイザー社のワクチンは現在、承認申請中であり、来月にも承認される見通しである。政府は6月末までに6千万人分の供給を受けることで基本合意しているが、気になるのは、同社のワクチンの場合、マイナス60度から80度で保管する必要があることだ。 森雅志富山市長は年頭会見で、接種のための専門組織を庁内に新設する意向を示す一方、「国は早く情報を示してほしい」と注文を付けた。特別な冷凍庫は国から支給されるのか、それとも予算措置されるだけなのか。肝心なところが分からなければ、自治体は準備したくとも動きようがなく、もっともな指摘といえるだろう。 優先接種の対象者は約5千万人に及ぶ。よほど段取りよく進めないと、全員に行き渡るまでかなりの時間がかかる。政府は自治体側の疑問にこたえ、早急に接種方法の詳細を明らかにすべきだ。 ファイザー社のワクチンは、発症予防効果が95%と高い数値を示した。治験では、2回接種の後に感染したのは、2万2千人中8人で、偽薬(プラシーボ)の投与者は2万2千人中162人が発症している。米モデルナ社のワクチンも同様の効果があるとされており、コロナとの戦いで最強の武器が手に入る期待が膨らむ。 厚生労働省によると、コロナで死亡した日本人の半数以上は80代以上で、80代以上の死亡率は14%に達するという。コロナに最も弱い高齢者層の接種をできるだけ早く終わらせたい。
大統領選をめぐる米社会の分断と米政治の混乱は深刻である。トランプ大統領の敗北を認めない過激な支持者が抗議のため、米連邦議会議事堂を一時占拠し、死傷者が出る事態となった。米国の民主政治の歴史を汚す暴挙である。 議事堂乱入は、バイデン氏の当選を正式認定する最後の議会手続きのさなかに起きた。20日の大統領就任式が危ぶまれる状況であるが、秩序ある政権移行を実現して米国の威信を守らなければならない。トランプ氏は、その責任を第一に負っていることを認識してほしい。自由・民主主義国の盟主である米国の混迷を、これ以上世界にさらしてはなるまい。 トランプ氏は大規模集会で、改めて敗北を認めないと主張し、支持者に議事堂へ向かうよう呼び掛けたという。暗に実力行使を促すような意図があったとすれば、厳しく糾弾されなければならない。トランプ氏がその後の声明で、議会の認定結果を認め、円滑で切れ目のない政権移行を表明したのは当然である。 トランプ氏側が指摘する大統領選の「不正」は、郵便投票や開票時の不正行為、投票集計機の不正操作など枚挙にいとまがない。確証が不十分なため、腹心だったバー前司法長官も「異なる選挙結果をもたらす規模の不正は見つかっていない」と否定した。 それでもトランプ氏側は、決して虚偽情報と切り捨てられない不正まで、全てが根拠なき陰謀論と片付けられ、バイデン氏支持の多くのメディアが無視していることに強い不満を抱いている。投開票作業の厳正な検証が行われず、不正疑惑が消えなければ、バイデン大統領の正統性に疑問符が付きまとうことになりかねない。そうした点でも今大統領選の傷は深く、厄介な問題を残した。 バイデン氏は「米国の民主主義が前例のない攻撃を受けている」と述べ、議事堂占拠を暴動と非難した。民主政治の根幹が揺らぐ状況に、中国などの権威主義国がひそかに手をたたいているであろうことを、米国の政治指導者は自覚してもらいたい。
強烈な冬の嵐に続き、あす10日にかけて、平野部でも警報級の大雪と寒波への備えを強める必要がある。富山県内では既に記録的な大雪となり、富山市で8日午後6時までの24時間降雪量が観測史上最大の65センチを記録し、高岡市伏木でも午後5時までの積雪量が69センチに達した。 9日も雪が断続的に降り、短時間で大雪が降る「ゲリラ豪雪」に見舞われる地域が広範囲に出てくるかもしれない。大雪に慌てることなく、深夜から朝方にかけては路面凍結に注意し、外出するときは余裕を持って行動したい。 北陸自動車道では7日深夜から8日未明にかけて、約90台が立ち往生し、上下線が約7時間にわたって通行止めとなった。大型トラックやトレーラーが自力走行できなくなり、2車線をふさいだためである。 日本海で急速に発達した低気圧が東に進み、北陸上空には今季一番の強い寒気が流入している。このため、各地でスリップ事故が多発しており、石川県では8日午前9時までの24時間で107件のスリップ事故が起きた。 気温が下がる深夜や早朝は路面が凍結し、スリップ事故の危険性が高まる。自力走行が不能になり、立ち往生が多発するのもこの時間帯である。8日早朝には、七尾市の踏切で車が脱輪し、のと鉄道の上下線に遅れが出た。踏切でのトラブルは大事故につながりかねず、注意が必要だ。 9日から3連休となる人も多いことだろう。日中は、町内で声を掛け合って除雪に励み、大雪に備えてほしい。冷え込む夜から朝にかけては不要不急の外出を控え、気象情報をこまめにチェックしておきたい。 風雪で列車や航空機のダイヤも大荒れとなり、小松空港と富山空港、能登空港を発着する空の便は8日、全便が欠航した。JR北陸線は特急60本などが運休し、七尾線や城端線、氷見線も一部の運転を見合わせた。北陸新幹線は7日、強風の影響で一部区間の運転を取りやめたが、8日は平常運転に戻った。雪に強い北陸新幹線は心強く、敦賀以西の全線整備を急ぐ必要性をあらためて証明したともいえる。
戦後補償をめぐる対日訴訟で、韓国司法がまた国際法の常軌を逸する判決を下した。国家は外国の裁判権に服さないという「主権免除」の原則に反し、ソウル中央地裁が元慰安婦への損害賠償を日本政府に命じた。 国際法の主権免除(国家免除)原則は、独立国同士が対等な立場で、互いに主権を尊重し合うという考え方に基づいている。日本との条約・協定を無視し、元徴用工訴訟で日本企業に賠償を命じた非常識な最高裁判決といい、現在の韓国は、まっとうな国家関係を築ける法治国とは言い難い。 日本政府が駐日韓国大使を呼び出し「断じて受け入れられない」と抗議したのは当然である。 日本政府は、主権免除原則によって訴えを却下すべきとの立場を堅持し、訴訟への関与を拒んできた。審理に応じると、主権免除の特権を放棄し、韓国の裁判権に服したと見なされるからである。 このため政府は、ソウル中央地裁判決に対し、控訴しない方針である。控訴しないと一審判決が確定し、日本の政府資産が差し押さえられる可能性が強まる。それでも韓国の裁判の土俵には上らない姿勢を貫くほかあるまい。日本企業や政府資産の差し押さえ、売却が現実のものになれば、日韓関係は危機的状況に陥ると文在寅政権は認識する必要がある。 主権免除の原則はかつて、国家のほぼすべての行為に適用されたが、政府の国際的経済活動が活発になった近年は、取引相手の民間企業や個人を保護するため、国家の商業活動などは主権免除原則の対象外とし、外国の裁判権が及ぶとの考え方が広がっている。 しかし、絶対的原則でなくなったとはいえ、慰安婦を管理した旧日本軍の行為を、反人道的な犯罪行為と見なし、日本政府を裁くことは、国際法の原則を大きく逸脱するものと言わざるを得ない。 政府はこれまで元慰安婦の名誉や尊厳を傷つけたことをわび、政府拠出金などで償ってきた。人権を重視する姿勢は今後も必要であるが、「性奴隷の犯罪国家」という韓国側の主張を受け入れることは決してできない。
急速に発達する「爆弾低気圧」や強い寒気の影響で、石川、富山両県でも週末にかけて、荒れ模様の日が続き、大雪となる可能性がある。国土交通省と気象庁は、車の立ち往生などの交通障害や路面・水道管の凍結、落雪や停電、倒木への注意を呼び掛けている。警戒を強め、不要不急の外出を控えたい。 石川県や富山県では7日、台風並みの暴風が吹き荒れて鉄道網が寸断され、スリップ事故も相次いだ。視界が悪く、滑りやすい雪道での運転は速度を落とし、決して無理をしないことが肝要である。 注意したいのは、車が数珠つなぎ状態で停止し、動けなくなる状況だ。1車線の道路では、自力走行できない車両が1台でも出ると、渋滞や通行止めを引き起こす。それが長時間に及び、ガソリン切れになれば、車内の暖房も使えず、凍死しかねない。 昨年12月中旬、関越道の群馬・新潟県境に近い区間で、数千台の車両が巻き込まれる大規模な立ち往生が発生し、完全解消まで50時間以上を要した。2018年2月には、石川と福井の県境近くの国道8号で約1500台の車が10キロにわたって雪で動けなくなり、大混乱に陥った。 この苦い教訓から、加賀市と金沢河川国道事務所、イオンリテール(千葉市)は、国道8号に近い店舗の駐車場を大雪時にドライバーの緊急待避所とする覚書を締結した。 大規模な交通障害は北陸のどこでも起こりうる。立ち往生が起きやすく、救出に時間がかかりそうな危険箇所を洗い出し、加賀市のような対策を講じておく必要があるのではないか。どんな警戒態勢を取り、どうやって状況把握を行うか、民間の協力も得て、万一に備えてほしい。何より、渋滞を長期化させないことが重要だ。 立ち往生は、先頭車両の雪対策不足が原因で起きる場合が多い。巻き込まれてしまうことを想定し、エンジンを切っても寒さに耐えられるよう、毛布や防寒具、食料、飲料水、スコップなどを積んでおきたい。出掛ける際は、気象情報や道路事情の把握に努め、燃料を満タンにしておくことを習慣にしてほしい。
政府は東京、埼玉、千葉、神奈川の1都3県に緊急事態宣言を発令した。期間は来月7日までとし、午後8時以降の不要不急の外出自粛を求める。飲食店や飲食を伴う商業施設については午後8時までの時短営業のほか、酒類の提供を午後7時までとするよう要請する。 政府の新型コロナ対策分科会では、1カ月程度での収束を困難視する見方が大勢を占めているという。冬本番入りの季節要因を考えれば、長期戦を強いられることになるかもしれない。 心配なのは、首都圏の医療提供体制が逼迫(ひっぱく)していることである。東京都は7日、初めて2千人を超える感染が確認され、2日連続で過去最高を更新するなど、感染が急拡大している。昨年12月1日は1650人だった入院患者は5日に初めて3千人を超え、病床使用率は86・4%に達した。 神奈川県では重病者病床の使用率が92・5%となり、特に危機的な状況である。 病床と医師、看護師不足を解消するために、緊急の予算措置が必要だ。特に民間病院に、経営の憂いなく患者を受け入れてもらえるような仕組みができないか。思い切った手を打つよう求めたい。 宣言に伴う経済への悪影響も心配だ。感染拡大の影響で、解雇・雇い止めされた人は累計8万人を超えた。最多は製造業の1万6717人で、飲食業の1万1021人がこれに続く。 時短要請に応じた飲食店には1日あたり6万円の協力金が支払われ、要請に応じない店舗に対しては、店舗名を公表できるとしているが、午後8時以降の営業をやめよというのは、飲食業界への負担があまりにも大きい。廃業や失業が続出しかねず、要請に応じたくても応じられない店舗が多数出ることも予想される。 政府は、医療提供体制の充実を図る一方で、宣言解除のタイミングを逃さぬようにしてもらいたい。医療提供体制が維持できるなら、4段階の基準で最も深刻な「ステージ4」から「ステージ3」に移行した段階で、速やかに解除を考えても良いのではないか。
新型コロナウイルスの全国的な感染再拡大により成人式を延期や中止にする動きがみられる中、県内の自治体は4月の加賀市、8月の津幡町を除く17市町が9~11日にかけて式典を行う。主催者側からすればやめてしまうのが一番の安全策だろうが、リスクを負って開催する自治体関係者の努力に敬意を表したい。 県内では年末年始にクラスター(感染者集団)が相次いで発生した。緊急事態宣言が再発令される首都圏などから帰省が増えるのを不安に思う声もあるのは当然だろう。式後に友人同士で開く懇親会で感染が広がらないかと危ぶむ向きもある。 それでも若者たちはコロナ禍で大学での対面授業の中止やアルバイトの解雇、就職活動の難航などさんざんつらい目に遭っている。行動はおのずと慎重になると信じたい。県外では出席者を絞って行う式典の模様をオンラインで配信する自治体もある。そうした式では開催の意義は半減してしまうだろう。 未曾有の危機に襲われた年に大人の仲間入りを果たす若者たちにとって式典は特別な意味がある。多くの人々に支えられて晴れの儀式が開催されることへの感謝とともに苦難に打ち勝つ誓いの日にしてほしい。 主催者は会場の感染防止対策に大きな負担と責任が生じることになる。式典の出席を新成人のみとし、家族の来場自粛を求める自治体があるのはやむを得ないだろう。ただ、新成人の里帰り出席については可能な限り受け入れてもらいたい。新成人には式を支える多くの人々と同様、日々献身的に働いている医療従事者など私たちの社会を支えている人々に思いをはせ、自らの行動を律するよう求めたい。 堅苦しい雰囲気になりがちなセレモニーだが、人生の節目を自覚する舞台装置として重要な意味を持つ。スーツや着物で身なりを整えた若者たちが生まれ育った地元で地域の代表や恩師らから祝福を受け、仲間とともに門出の喜びを分かち合う。非日常の厳粛な儀式に臨んで湧き上がる感慨は個々の生活で抱くものとひと味もふた味も違うはずだ。
中東情勢の動きが急である。イランが核合意の制限を大幅に上回る濃縮ウランを製造する一方、サウジアラビアなどアラブ4カ国が、断交していたカタールと和解した。米国とイランの関係がさらに悪化し、ペルシャ湾の緊張激化につながりかねない変化である。 日本政府は12月の閣議で、中東海域への海上自衛隊派遣を1年間延長することを決めたばかりである。これまで以上に緊張感を持って情報収集と日本関係船保護の任務を遂行してもらいたい。 イランが濃縮度20%のウラン製造に踏み切ったのは、米国の制裁解除を求め、バイデン次期政権に揺さぶりをかける狙いとみられる。イランは、トランプ政権の核合意離脱と原油禁輸などの制裁に対抗して、核合意の規定を破り、原発燃料並みのウラン(濃縮度約4・5%)を製造していた。 しかし、今回の濃縮ウラン製造は、核兵器級の高濃縮ウラン製造に手を付けるものともいえ、これまでと次元の異なる違反である。バイデン氏は核合意への復帰方針を表明しているが、イランの強硬姿勢に新政権も米議会も反発するのは必至である。 イランの姿勢変化の背景には、次期米政権の制裁解除方針に懐疑的な保守強硬派の台頭がある。保守強硬派は、革命防衛隊司令官の暗殺に続き、イランの核開発をリードしてきた科学者が昨年11月に殺害されたことに怒りを募らせており、報復に出る危険性もある。 一方、サウジなど4カ国は、イランに肩入れしたカタールと約3年半断交していたが、トランプ政権の仲介で和解し、「イラン包囲網」を強化する形になった。 日本政府は、安倍晋三前首相のイラン訪問中、日本の海運会社運航の船がホルムズ海峡付近で攻撃されたのを契機に、海自の護衛艦と哨戒機の調査派遣を一昨年決めた。この1年間は「平穏」な状況が続き、活動継続の必要性を疑問視する声が防衛省内でも聞かれたというが、イランをめぐるペルシャ湾情勢はなお気が抜けず、海自による情報収集活動の意義はむしろ高まっている。
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