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東奥日報/2019/5/15 10:05
http://www.toonippo.co.jp/articles/-/191256

政策の優先順位が違う/幼児教育・保育の無償化

 後回しになりがちだった子育て支援への思い切った投資は評価したい。一方で、政策の優先順位を間違えてはいけない。10日に成立した改正子ども・子育て支援法のことである。
 安倍晋三首相が掲げる「全世代型社会保障」の目玉として、改正法には幼児教育・保育の無償化が盛り込まれた。10月予定の消費税増税に合わせて実施される。
 無償化されるのは認可保育所や認定こども園・幼稚園にかかる費用。対象は3~5歳児が原則的に全世帯、0~2歳児は住民税が非課税の低所得世帯だ。認可外施設に通う場合も一定の上限を設けて利用料を補助する。
 これまで社会保障の給付は高齢者に偏っていた。このため今回のような子育て世代向け施策の拡充を評価する人も少なくないだろう。だが、子育て現場からは法案提出前から異論が噴出した。「無償化より待機児童の解消が先ではないか」という疑問である。
 待機児童は昨年4月時点で約2万人。無償化した場合には潜在的な保育需要の掘り起こしが予想される。待機児童が減るどころか保育所不足が加速し、子どもを預けて働きたいと希望してもかなわない事態が頻発する恐れがある。
 認可外施設を選ばざるを得ない人が続出すれば、費用負担の面で不公平感が増すことになるだろう。かといって、受け皿の整備をやみくもに急げば、保育の質を確保できるかどうか心配だ。
 改正法では、保育士数などが国の指導監督基準を下回る認可外施設でも、5年間は無償化の対象に含まれるが、死亡事故や突然の閉鎖などのトラブルが指摘されている。
 さらに心配なのは、無償化が高所得者優遇につながる点だ。改正法での保育料は所得に応じて決まるが、低所得世帯ほど負担が軽くなる仕組み。このため、所得制限を設けずに全世帯を無償化すると、所得が高い世帯ほど恩恵は大きくなる。新たな格差を生むことにならないか。
 次世代育成を図る施策だから、所得を問わず中高所得層にも受益者を広げるのは理想かもしれない。しかし、それは国の懐具合に余裕がある場合に限られる。今回の無償化に充てる財源は消費税増税に伴って生じる増収の中から、国の借金減らしに使うはずだった分を削って捻出する。「子育て世代のために」と言いながら、将来世代に負担をつけ回す構図になっている。
 学ぶべきは、先に無償化に踏み切ったお隣の韓国の教訓だ。ニッセイ基礎研究所の金明中・准主任研究員によると、2013年の本格実施後、高所得層が無償化で浮いた費用を英語のレッスンに回すなど、格差拡大が進んだ。待機児童は減らず、劣悪な施設が野放しになったという。今、日本で懸念されていることが現実に起きている。
 また、韓国では少子化が止まらず、出生率は0.98と日本以上に深刻化するばかり。金研究員は「朴槿恵政権による人気取り政策の一つだったが課題は多い」と手厳しい。
 振り返れば、日本の無償化も17年秋の衆院選を前に首相が唐突に打ち出したのが始まりだ。与党が改正法成立を急いだのには夏の参院選で成果を誇りたい意図が透ける。
 隣国の轍(てつ)を踏まぬよう、保育士増員に一層の工夫を凝らした上で、質の高い認可施設の整備を急ぐ必要がある。


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