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奈良日日新聞/2019/2/8 12:05
http://www.naranichi.co.jp/20190208is545.html

増加する児童虐待/愛のむちは必要ない

 小学校から中学校へ上がるころ、仕事のストレスからかほぼ毎日父親の機嫌が悪かった。それに比例するように夫婦げんかの数も増え、家庭内の雰囲気は最悪。父親が帰宅する車の音を聞くと、姉と急いで2階へと逃げる日々が続いた。離婚話も何度も出たが、そのたびにお互いの親が仲介に入ったこともあり、なんとか踏みとどまった。いつしか父親も丸くなり、高校生のころには円満な家庭の雰囲気に戻っていた。
 嫌なことがあると家の食器を割り、飲酒運転で事故を起こすなど荒れていた父親。あのころの心境を母に尋ねると、「何度も本気で離婚を考えた。ただお父さんは何があっても私や子どもに暴力は振るわなかった。だから我慢できた」と話した。思い返してみると、ふざけて父親の背中にかかと落としをして激怒させた時も手を上げることはなかった。どんな悪さをしても、愛のむちは一度も受けた記憶がない。
 近年、児童虐待の件数が年々増加し、胸が締め付けられる痛ましい事件が後を絶たない。結婚して6年、いまだ子宝に恵まれない夫婦としては、加害者に対して怒り心頭だ。なぜ愛するわが子に暴力を振るうのか理解に苦しむ。ただその一方で、子育ての大変さは経験しないと分からないのだろうとも思う。
 今回県内の子育て経験者136人に、児童虐待に関するアンケートを実施した。まずは答えにくい内容にもかかわらず、ご協力いただいた関係者のかたがたに深く感謝したい。幼い命を守る母親の責任の重さ、そして経済面も含め家族を守らなければいけないという重圧がのしかかる父親の苦悩は想像以上のものだろう。
 夫婦がお互いを思い合い、助け合うことができれば、虐待の一因である「育児の孤立化」は防げる。まずは行政が先頭に立ち、父親の育児休暇の取得を推進するなどして、男性が育児に参加しやすい環境を整えるべきだ。それが定着すれば地域、そして社会全体で子どもを育てていこうという雰囲気が生まれ、親にかかる負担を軽減できるのではないだろうか。
 千葉県野田市で先月、小学4年の栗原心愛さんが自宅で死亡し、両親が傷害の容疑で逮捕された事件で、心愛さんが虐待被害を訴えていた学校のアンケートのコピーを同市の教育委員会が父親に渡していたことが明らかになった。また心愛さんが父親に「お父さんにたたかれたのはウソ」などという手紙を書かされ、児童相談所の職員がその手紙を見た後、会議などを経た上で心愛さんの保護を解除していたという事実も出てきた。
 どちらの対応もひどく、想像力が欠如していたと言わざるを得ない内容。自己保身も透けて見えた。ただその原因は、子どもに手を上げてしまう親と同じで、心に余裕がなかったからではないだろうか。彼らにも支援が必要だと感じる。
 厚労省が取り組む「愛の鞭(むち)ゼロ作戦」には賛成だ。幼いころ父親を拒否した時期もあったが、今となっては感謝しかない。そう思えるのは愛のむちを受けなかったからだ。育児に暴力は必要ない。 
 


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