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山陰中央新報/2020/9/16 12:07
http://www.sanin-chuo.co.jp/www/contents/1600222807491/index.html

人種差別抗議と選手/表現の自由も議論を

 大坂なおみがテニスの全米オープンで2度目の優勝を飾った。トップ選手にふさわしい精神的な強さを身に付けたことがプレーから伝わってきた。
 ミスが続くとコートのベンチで半べそをかくこともあった、かつての自分を今は「赤ちゃんだった」と笑い飛ばす。
 ハイチ出身で米国籍の父親と日本人の母親との間に大阪市で生まれ、3歳で渡米してテニスの腕を磨いた。ことし5月に黒人男性のジョージ・フロイドさんが白人警官から地面に首を膝で押さえ付けられて死亡した事件は、彼女の背中を押すことになった。
 「私は選手である前に一人の黒人女性だ」と声を上げ、全米オープンでは過去に警官らの暴力的行為や銃撃で命を落とした黒人の男女計7人の名前が書かれた7枚のマスクを用意し、全試合に登場した。
 必ず決勝まで勝ち上がろうとの強い気持ちがそこには込められていた。フロイドさん以外にも多くの黒人犠牲者がいることを世界中の人々に知ってもらいたいとの思いだったという。
 犠牲者の遺族からは感謝のメッセージが寄せられ、米国の多くのメディアは彼女のプレーぶり以上に人種差別運動の先頭に立った今回の活動に注目し、大きく報道した。
 大坂は少なくとも今後しばらくの間、選手であり、同時に人権活動家であり続けるのではないか。
 しかし、五輪では今回のような行動はとれない。五輪憲章が特定の考えに基づいた抗議行動や組織的な宣伝活動を禁止しているためだ。
 五輪はスポーツの祭典であって、政治的なメッセージを発信する場ではないとの姿勢を国際オリンピック委員会(IOC)は長く堅持している。
 こんなこともあった。1968年メキシコ五輪の陸上男子200メートルで1、3位となった米国の黒人2選手がメダル授与式で、米国の国旗掲揚に目を背け、黒い手袋をつけた拳を空に突き上げて国内での人種差別に抗議した。米国選手団はIOCの要請を受け、両選手を追放処分とした。
 今はどうか。スポーツ界、特に米国では人種差別は社会正義に反するから、抗議行動をすることは正しく、基本的人権の一部であるとの考えが広がった。
 五輪憲章を窮屈に感じる選手と関係者は確実に多くなった。憲章の改正が必要だとの声も上がる。
 IOCはこうした動きを受け昨年、憲章のガイドラインの整備に動いた。ことし初めに発表し、五輪期間中はどのような問題についても選手は意見を表明することができ、取材エリアでメディアの質問に見解を述べることができるとしている。
 しかし、見解の表明を超える抗議活動は依然として認めない姿勢だ。社会正義に反する差別への抗議まで禁止するのは納得できない、との声は米国では強まるばかりだ。IOCは来年3月までに新しいガイドラインを作るという。
 五輪はあくまで人々の融和を理想としているとするIOCは、選手の政治的な発言や行動が競技よりも大きな注目を集めるのは避けたいに違いない。
 表現の自由を尊重し、選手の声に耳を傾けながら、政治的なメッセージの発信と行動の可否について、さらに議論を深めてほしい。世界のスポーツ界が指針を求め注目している。


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